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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B |
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管理番号 | 1189296 |
審判番号 | 不服2005-10854 |
総通号数 | 110 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-06-09 |
確定日 | 2008-12-18 |
事件の表示 | 平成11年特許願第240010号「指向性制御無線通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 69054〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年8月26日の出願であって、平成16年7月26日付けで拒絶理由通知がなされ、同年10月4日付けで手続補正がなされたが、平成17年4月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月11日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成17年7月11日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年7月11日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の請求項1に係る発明 本件手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「複数のアンテナ素子を設け、受信系においては、前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅と位相にウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値を乗じて合成した後に復調器で復調を行い、送信系においては、変調器からの送信信号を複数に分配した後にこの分配した各送信信号の振幅と位相に前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値を乗じてそれぞれ前記各アンテナ素子から放射させ、設置位置がほとんど変化しない端末局と無線通信を行う指向性制御無線通信装置において、 前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅及び位相を前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値に基づいてそれぞれ調整する受信用の振幅、位相調整手段とこの振幅、位相調整手段にて振幅及び位相の調整を行った各受信出力を合成して前記復調器に出力する合成手段を有する受信系並びに前記変調器からの送信信号を前記各アンテナ素子に対応して同相分配する同相分配手段とこの同相分配手段からの各送信信号の振幅及び位相を前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値に基づいてそれぞれ調整して前記各アンテナ素子に出力する送信用の振幅、位相調整手段を有する送信系の各振幅位相値を測定する振幅位相測定手段と、 この振幅位相測定手段が測定した各振幅位相値を記憶する振幅位相値記憶手段と、 通信相手局からの所望波や不要波の方向や電力など通信相手局の情報を測定する端末情報測定手段と、 この端末情報測定手段が測定した通信相手局の情報を記憶する端末情報記憶手段と、 前記各アンテナ素子の位置を測定する素子位置測定手段と、 この素子位置測定手段が測定した各アンテナ素子の位置を記憶する素子位置記憶手段と、 測定タイミングを決める測定タイミング制御手段を備え、 前記測定タイミング制御手段が決めた個別の測定タイミングにより前記各測定手段がそれぞれ測定を行い、前記各記憶手段が測定結果を記憶し、この各記憶手段に記憶した記憶値を使用して新たなウエイト値の算出を行ってウエイト値記憶手段に記憶することを特徴とする指向性制御無線通信装置。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1における「指向性制御無線通信装置」を「設置位置がほとんど変化しない端末局と無線通信を行う指向性制御無線通信装置」に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件手続補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (2)引用例等 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-219615号公報(以下、「引用例1」という。)、特開昭57-57005号公報(以下、「引用例2」という。)、及び原査定の備考欄において周知例として引用された特開平11-46180号公報(以下、「周知例」という。)には、ぞれぞれ、図面とともに次の事項が記載されている。 (引用例1) A.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はアダプティブアレイ送受信装置を用いて無線通信を行う無線通信システムに係り、特にアダプティブアレイ送受信装置の指向性制御に関する。」 B.「【0030】 【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。 (第1の実施形態)図2は、本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示す図である。この無線通信システムは、基地局21と端末22との間で通信を行うシステムであり、基地局21にはアダプティブアレイアンテナ23が設置されている。基地局21には、アダプティブアレイアンテナ23を用いて端末22との間で送受信を行うアダプティブアレイ送受信装置が設けられている。アダプティブアレイアンテナ30は、通信時にはB1で示す指向性ビームが形成され、隣接基地局の方向を向く指向性ビームB2は形成されないように、言い換えれば基地局21と通信を行うべき端末22の位置する方向には大きなゲインを持ち、隣接基地局の方向には小さなアンテナゲインしか持たないように指向性が制御される。このようにアダプティブアレイアンテナ23の指向性を制御すれば、隣接する基地局21間の干渉および隣接基地局の通信サービスエリアの端末2からの干渉による通信障害を抑圧することができる。 【0031】そして、本実施形態ではアダプティブアレイ送受信装置を有する基地局21の設置時にアダプティブアレイアンテナ23の指向性パターンを設定したり、さらには非通信時に比較的長い時間間隔で指向性パターンを変更したりするために、所望方向および非所望方向の少なくとも一方に存在する端末22から基地局21に向けて既知の参照信号を送信する。そして、基地局21内のアダプティブアレイ送受信装置においては、この参照信号の受信信号に基づきアダプティブアレイアンテナ30の重み係数を計算して重み付け器に設定する。このように所望方向や非所望方向から送信される既知の参照信号の受信信号に基づいて、基地局21の設置時などに重み係数を求めると、従来のアダプティブアレイアンテナにおいてデータ送受信の途中で重み係数を逐次的に求める方法に比較して、その計算が非常に簡単となるため、通信システム全体のコストを低減することができ、また容易に所望の指向性パターンを得ることができる。 【0032】図3は、本実施形態における基地局21内のアダプティブアレイ送受信装置と重み付け制御に係る外部装置の構成を示すブロック図である。同図に示されるように、アダプティブアレイ送受信装置は複数のアンテナ素子31を所定形状、例えば一直線上あるいは円周上に配列して構成されるアンテナアレイ30と、各アンテナ素子31の送受信信号に対して、設定された重み係数(複素重み係数)を乗じることにより振幅および位相の重み付けを行う複数の重み付け器32と、これらの重み付け器32を介して各アンテナ素子31への送信信号の分配とアンテナ素子31からの受信信号の合成を行う分配/合成部33および送受信部34を基本要素として構成されている。 【0033】さらに、重み付け器32の重み係数設定入力端および送受信信号入出力端はインタフェース35の一方のポートに接続され、重み係数設定時にはインタフェース35の他方のポートにアダプティブアレイ送受信装置の外部に設けられた外部演算装置36が接続される。重み付け器32は、例えば振幅の重み付けのための可変利得増幅器または可変減衰器と、位相の重み付けのための可変移相器により構成される。 【0034】通常の通信に際しては、送信時には送受信部34から出力される送信信号(変調信号)が分配/合成部33により重み付け器32に分配され、ここで重み付けがなされた後、アンテナ素子31に供給される。受信時にはアンテナ素子31の受信信号が重み付け器32により重み付けされ、さらに分配/合成部33により合成された後、送受信部34に入力されて復調が行われる。 【0035】次に、図4に示すフローチャートを用いて本実施形態におけるアダプティブアレイアンテナ送受信装置の指向性制御手順を説明する。本実施形態の指向性制御手順は、所望方向のアンテナゲインを大きくするための所望方向測定モードと非所望方向のアンテナゲインを抑えるための非所望方向測定モードからなる。 【0036】まず、ステップS101において測定モードが所望方向測定モードの場合は、所望の方向に位置する端末から基地の参照信号を参照電波として送信し(ステップS102)、その参照信号の受信信号をインタフェース35を介して外部演算装置36に転送して保持する(ステップS103)。 【0037】次に、ステップS104において測定モードが非所望方向測定モードの場合は、非所望の方向に位置する端末から基地の参照信号を参照電波として送信し(ステップS105)、その参照信号の受信信号をインタフェース35を介して外部演算装置36に転送して保持する(ステップS106)。 【0038】なお、ステップS102およびS105で送信する参照信号としては、例えば無変調の搬送波、あるいは既知の情報を乗せた変調波を用いることができる。こうして所望方向および非所望方向の測定モードが終了すると、外部演算装置36は保持した参照信号の受信信号に基づいて重み係数の値を計算し(ステップS107)、これらの重み係数をインタフェース35を介して重み付け器32に設定する(ステップS108)。重み係数の設定は、その係数の値に対応した制御信号を可変利得増幅器または可変減衰器および可変移相器に与えればよい。そして、このように重み係数を計算して半固定的に重み付け器32に設定した後、通信モードに移る(ステップS109)。 【0039】ステップS107での重み係数値の演算方法の一例について説明すると、まず所望方向測定モードでは所望方向のアンテナゲインが大きくなるように、例えば重み付け後の参照信号の受信信号電力が重み付け前のそれより大きくなり、理想的には最大となるような重み係数を求める。また、非所望方向の測定モードでは非所望方向のアンテナゲインがより小さくなるように、例えば重み付け後の参照信号の受信信号電力が重み付け前のそれより小さくなり、理想的には最小となるような重み係数を求める。こうして求められた重み係数の値を重み付け器32に設定することによって、図2に示したように所望方向にはアンテナゲインが大きく、非所望方向にはアンテナゲインが小さい指向性パターンが形成される。 【0040】このような指向性パターンを形成することにより、ある基地局21と所望方向に位置する端末22とが通信を行う場合、隣接する基地局からの干渉による通信障害を極力小さくすることができ、良好な通信品質が得られる。また、このようにするとセルエリア、つまり基地局21の通信サービスエリアの大きさを従来のマイクロセル/ピコセルといったように小さくすることなく隣接基地局からの干渉のない通信が可能となるため、複雑な処理を伴うハンドオフの頻度を低くすることができ、この面からも通信品質の向上を図ることができる。 【0041】また、本実施形態ではアダプティブアレイ送受信装置の設置時さらには非通信時に重み係数を計算しているため、従来のアダプティブアレイアンテナのように通信途中で逐次的に重み係数を計算する方法に比較して計算が簡単である。 【0042】さらに、本実施形態ではアダプティブアレイ送受信装置の外部に設けられた外部演算装置36で重み係数を計算しており、アダプティブアレイ送受信装置には既存の構成に新たにインタフェース35を追加するだけでよいため、アダプティブアレイ送受信装置の小型化・低価格化を図ることができる。 【0043】なお、上記実施形態ではアダプティブアレイ送受信装置に対して所望方向および非所望方向の両方向から参照信号を送信し、その受信信号に基づいて所望方向にはアンテナゲインが大きく、非所望方向にはアンテナゲインが小さい指向性パターンを形成するようにしたが、所望方向および非所望方向のいずれか一方の方向からのみ参照信号を送信し、その受信信号に基づいて指向性パターンを形成するようにしてもよい。 【0044】また、上記実施形態では重み付け器32をアンテナ素子31の給電端に接続してRF帯あるいはIF帯で重み付けを行ったが、ベースバンド帯において重み付けを行ってもよい。 【0045】さらに、重み係数の計算のために用いる参照信号の受信時には重み係数を既知の固定値にしておき、外部演算装置36から重み付け器32に対しては重み係数自体の情報でなく重み係数の修正量の情報を伝送してもよい。」 C.「(第4の実施形態)次に、図8を参照してアダプティブアレイ送受信装置の他の実施形態について説明する。図8は、本実施形態における基地局21内のアダプティブアレイ送受信装置と重み付け制御に係る外部装置の構成を示すブロック図である。図7と同一部分に同一符号を付して説明すると、本実施形態は図7の構成にメモリ48が追加されている。 【0058】メモリ48は、重み付け器42の重み係数設定入力端とインタフェース45との間に挿入されており、重み係数の値を保持するためのものである。このメモリ48に、外部演算装置46で一度計算され有線ネットワーク47およびインタフェース45を介して伝送されてきた重み係数を保持しておくことにより、第1の実施形態で説明したように基地局21の設置時や非通信時に計算した重み係数の値をメモリ48を介して重み付け器42に半固定的に設定することができる。 【0059】また、本実施形態では不要に有線ネットワーク47のトラフィックを増大させることがなくなるという利点がある。すなわち、図7に示した構成では重み係数の情報を常時アダプティブアレイ送受信装置に伝送する必要があるが、本実施形態では一度計算した重み係数の値をメモリ48に一旦保持しておけば、重み係数を変更しない限り、重み係数の情報を外部演算装置46から有線ネットワーク47を介してアダプティブアレイ送受信装置に伝送する必要がないため、有線ネットワーク47のトラフィック増大を招くことはない。 【0060】また、メモリ48にEPROM,EEPROMのような不揮発性メモリを用いれば電源断に対して耐性を持つシステムを構成することができる。さらに、外部演算装置46において複数種類の指向性パターンに対応した重み係数の組を計算してメモリ48に保持しておき、これらの重み係数の組を外部からの選択信号によってメモリ48から選択的に読み出して重み付け器42に設定するようにしてもよい。 【0061】本実施形態によるアダプティブアレイ送受信装置および外部装置を含む無線通信システムの構成は、第1の実施形態で説明した指向性制御方法と組み合わせることも可能であるが、第2の実施形態で説明したように時分割多重システムにおいて各タイムスロット毎に重み係数を切り替えて設定する指向性制御方法にも適用が可能である。その場合、メモリ48には例えば各タイムスロット毎の重み係数の組を保持しておけばよい。」 上記Cの【0058】?【0061】段落には、重み係数をメモリに保持する構成が記載されており、特に、【0061】段落では、【0030】?【0045】段落に記載される第1の実施形態に重み係数を保持するメモリを付加することが可能であることも記載されている。 よって、上記A?Cの記載及び関連する図面を参照すると、引用例1には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用例1記載の発明」という。)。 「複数のアンテナ素子を設け、受信系においては、前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅と位相にメモリに記憶した重み係数を乗じて合成した後に送受信部で復調を行い、送信系においては、送受信部からの送信信号を複数に分配した後にこの分配した各送信信号の振幅と位相にメモリに記憶した重み係数を乗じてそれぞれ前記各アンテナ素子から放射させるアダプティブアレイ送受信装置において、 前記各アンテナ素子の送受信信号の振幅及び位相を前記メモリに記憶した重み係数に基づいてそれぞれ調整する重み付け器と、 この重み付け器にて振幅及び位相の調整を行った各受信信号を合成するとともに重み付け器にて振幅及び位相の調整を行いアンテナ素子に送信する各送信信号を分配する分配/合成部と、 端末からの参照信号の受信信号を保持する外部演算装置と、 外部演算装置に保持された参照信号の受信信号を使用して新たな重み係数の算出を行ってメモリに記憶するアダプティブアレイ送受信装置。」 (引用例2) D.「3.発明の詳細な説明 この発明は、アンテナビームの指向方向を自動的に所望方向へ制御出来るフェーズドアレイアンテナに関する。 アンテナ素子(放射素子)を多数配列したフェーズドアレイアンテナ等のアレイアンテナにおいては、各アンテナ素子が定められた位置からずれると、ビームの指向方向が変化したり、サイドローブの増加が起る。一方、熱によるアレイアンテナの歪は一般にランダムではなく、アレイ周辺部へ徐々に変形し、特に曲面配列のアレイアンテナでは、この現象は顕著である。このようなランダムでない変形も、アンテナビームの指向方向を所望の方向から変化させる原因となる。アレイアンテナは大型化する程、つまりアレー長やアレー面積が大きくなるに従いビームが鋭くなるため、このようなアンテナビーム方向の変化は直ちに通信回線の断絶につながり、またレーダアンテナにおいては目標物の位置検出誤差となって現われる。」(第1頁右下欄第2行?第2頁左上欄第1行) E.「次に、この実施例の動作を説明する。フェーズドアレーアンテナのアンテナビームを所望の方向に向けるには、各アンテナ素子6_(1)?6_(n)の位置が知れていれば、各アンテナ素子6_(1)?6_(n)の励振位相を簡単な計算により求められるから、各アンテナ素子6_(1)?6_(n)に接続されている移相器4_(1)?4_(n)を所定の移相量に設定すれば良い。この発明はこのような点に着目し、各アンテナ素子6_(1)?6_(n)の励振位相とアンテナビームの所望の指向方向を求め、これらの情報に基き励振位相に適当な補正を加えることにより、所望の方向へアンテナビームを指向させるものである。」(第3頁左上欄第5行?同頁同欄第17行) F.「一方、測距装置14でアンテナ素子6_(1)?6_(n)の位置が検出される。測距装置14は例えば異なる3つの位置に置かれ、それぞれの位置から光学的反射物3_(1)?3_(n)までの距離を測定して、それぞれの設置位置を基準とした座標系によって表したアンテナ素子6_(1)?6_(n)の位置情報を出力する。ここで、位相検出器13によって検出された位相差から、測距装置14よりの位相情報に基いて求められる光変調器7_(1)?7_(n)と光偏向器11との間の距離で定まる位相遅れを差引いた値が、光変調器7_(1)?7_(n)に加えられるマイクロ波の位相であり、かつこれがアンテナ素子6_(1)?6_(n)の励振位相となっている。演算制御装置16ではこのような励振位相の算出を、各アンテナ素子6_(1)?6_(n)について順次行なう。これによって、アンテナビームの実際の指向方向を求めることができる。 さらに、方向センサ15によってアンテナビームの所望の指向方向が検出され、その情報が演算制御装置16へ入力される。演算制御装置16では各アンテナ素子6_(1)?6_(n)の励振位相とアンテナビームの所望の指向方向とから移相器4_(1)?4_(n)の移相量の補正量を算出して、その結果を移相器4_(1)?4_(n)へ導き移相量の補正を行う。この補正の結果、アンテナ素子6_(1)?6_(n)の励振位相が変化し、アンテナビームの指向方向が変化する。このときの励振位相が再び同様にして検出され、以下同様な動作が行なわれる。すなわち励振位相は閉ループ制御され、最終的にアンテナビームが方向センサ15で検出された所望の指向方向に指向するように収束する。 以上説明したように、この発明によれば熱等の外乱に起因するアンテナ素子の位置変動によるアンテナビームの方向変化が自動的に補正され、アンテナビームを常に所望の方向に指向させることができ、しかもこの補正をアンテナ本来の動作を中断することなく行なうことができるという利点を有する。また、近傍電界の測定のようにアンテナ前方の全面にわたり特殊な構造のプローブ移動架台を設ける等の必要がなく、通信やレーダー用のアレーアンテナとして極めて有効である。」(第3頁右上欄第18行?同頁右下欄第20行) 上記D?Fの記載及び関連する図面を参照すると、引用例2には、実質的に、次の周知技術が記載されているものと認められる。 「アレイアンテナにおいて、熱等の起因する各アンテナ素子の位置ずれを考慮して、アレイアンテナのウエイト値を計算すること。」 (周知例) G.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、直接拡散CDMA方式のアレーアンテナ無線受信装置における複数の無線受信部の遅延特性又振幅特性を検出して、無線受信部間の遅延特性又振幅特性が揃うように補正するキャリブレーション装置に関するものである。」 H.「【0039】(実施の形態1)図1に、本発明の実施の形態1にかかるキャリブレーション装置の構成例を示す。図1はアンテナ素子数が2本の場合を示している。 【0040】このキャリブレーション装置において、キャリブレーション信号101は,1次変調回路102により1次変調される。本実施形態では,キャリブレーション装置で使用する変調方式は,通常の通信と同一方式とし、1例として1次変調としてQPSK変調,拡散変調としてBPSK変調とし,また、無線部おいては直交変調および直交検波するものとした。また、キャリブレーション信号は,all 0の固定信号とする。1次変調信号は拡散変調回路103において拡散符号によりスペクトラム拡散され,無線送信部104に入力される。 【0041】図3Cに次変調信号のコンスタレーションを示し、また図3Bに拡散信号のコンスタレーションを示す。無線送信部104において,送信信号は直交変調された後,キャリア周波数fcにアップコンバートされ送信端子106より出力される。キャリア周波数fcは本システム(無線受信部)の受信キャリア周波数である。図2にキャリブレーション信号のスペクトラムを示す。通信時に使用される伝送信号が持つ帯域幅M[Hz]と同一の帯域幅を持つように,拡散レートやキャリブレーション信号の伝送速度は設定する。キャリア周波数fcで出力されたキャリブレーション信号は、ケーブル107を経由して送信端子106から無線受信部108,109のアンテナ接続端子110および111に伝送される。このとき,ケーブル長はキャリア周波数の波長に対して十分な精度で等しいものとする。 【0042】各無線受信部の受信出力が同期回路112に入力され,各無線部ごとの逆拡散タイミングt1,t2が生成される。そして、上記タイミングt1,t2により相関器113,114が逆拡散を行い、相関出力115,116を出力する。検出回路117では,相関出力115から求まる受信信号点(以後は受信点)r1と基準となる識別点(以後は基準識別点)とを比較することにより,(振幅比,位相差)=(Ar1,Δψr1)118を求める。ここで求まる位相差は,無線送信部104の遅延Dtと,ケーブル107の遅延Dkと、無線受信部108の遅延Dr1の合計遅延量D(D= Dt + Dk + Dr1)をキャリア周波数fcの波長λcで割ったあまりの遅延量に相当する。同様に,相関出力116から求まる受信点r2と基準識別点とを比較することにより,(振幅比,位相差)=(Ar2,Δψr2)119が求まる。図3Cに無線部RX1(108)側の,また図3Dに無線部RX2(109)側のコンスタレーションおよび基準信別点からの振幅比および位相差の様子を示す。 【0043】以上のように、実施の形態1によれば、CDMA無線受信装置における無線受信部の遅延特性および振幅特性を検出するために、実際のスペクトラム拡散通信に使用する拡散信号と同一の帯域幅の信号またはそれに近い帯域を有する信号をキャリブレーション信号として使用するので、各無線受信部からの出力信号を逆拡散した相関出力と基準識別点とを比較することにより正確な遅延差および振幅比を検出することができる。 【0044】また、各無線受信部について検出した位相差および振幅比をオフセットとして各無線受信部の出力信号に乗算することにより、ウェイト収束結果から得られるヌル点を含む指向性パタンと実際の指向性パタンとが異なるという問題を解決することも可能になる。 【0045】上記実施の形態1では,1次変調としてQPSK変調,拡散変調としてBPSK変調とし,また、無線部おいては直交変調および直交検波するものとしたが、本発明において上記変調方式および検波方式は必須ではなく,別の方式においても同様に検出が行えることは明らかである。また、位相特性または振幅特性のいずれか一方のみを測定することが容易に行えることは明らかである。 【0046】なお、検出値は,必ずしも基準識別点からの遅延差および振幅比である必要性はなく、逆拡散した相関出力を基に計算される各無線受信部間のオフセット値を検出値として出力することも考えられる。例えば、図1において相関出力115,116(図3C,Dの受信点r1およびr2)は位置ベクトルR1,R2で表現されるものとする。検出回路117では,無線受信部の位相特性および振幅特性を無線受信部RX1(108)に一致させる補償を行う場合のオフセット値を求める。このとき、オフセット値をベクトルZri(i=1,2)とすると、 Zr1 = 1 Zr2 = R1/R2 = R1×R2*/|R2|2 (*は複素共役を表す) と表現できる。そして,上記値を118,119として出力する。また、キャリブレーション装置では逆拡散した相関値をそのまま出力または記憶することも考えられる。この場合、記憶してある相関値を用いて各無線受信部の遅延差および振幅差を補償するオフセット値を求める演算は,アレーアンテナ無線受信装置側で行うことになる。そして,アレーアンテナ無線受信装置では、無線受信部RX1(108),RX2(109)からの出力信号に対して前記Zr1およびZr2を乗算することにより,遅延特性および振幅特性のばらつきを補償し,ウェイト収束結果から得られる指向性パタンと実際の指向性パタンとが異なることを防止できる。 【0047】さらに、キャリブレーション信号は,all 0の固定の連続信号としたが、連続信号である必要はなく、周期的なバースト信号でも良いことも明らかである。さらに、ケーブル長は全て等しいものとしたが、異なる長さの場合においても,あらかじめ遅延量および減衰量が既知であれば位相差および振幅比を検出する際に,上記既知の遅延量と減衰量を補正して求めることができる。なお、無線部で使用する基準信号(10MHz等の水晶発振器によるクロック)は全て共通化しておくものとする。 【0048】(実施の形態2)図12に、本発明の実施の形態2にかかるキャリブレーション装置の構成例を示す。図1のキャリブレーション装置にアッテネータ(または減衰器)を追加したものである。図1と同様にアンテナ素子数が2本の場合を示している。 【0049】図13は受信電界レベルPmに応じた無線受信部の遅延特性Δψri(Pm)および振幅特性Ari(Pm)の1例を示している。このような遅延特性および振幅特性を持つ場合には、実施の形態1で示したように,無線受信部に特定の受信電界レベルで入力した時の遅延量を検出しても不十分であり、受信電界レベルPmを変化させた時の遅延特性Δψri(Pm)および振幅特性Ari(Pm)を測定する必要がある。 【0050】図12において,キャリブレーション信号1201は,1次変調回路1202により1次変調される。1次変調信号は拡散変調回路1203において拡散符号により拡散され,無線送信部1204に入力される。無線送信部1204において,送信信号は直交変調された後,キャリア周波数fcにアップコンバートされ送信端子1206より出力される。fcは本システムの受信キャリア周波数である。キャリア周波数fcで出力された信号は、アッテネータ1207を接続したケーブル1208を用いて,送信端子1206から無線受信部1209,1210のアンテナ接続端子1211および1212に伝送される。各無線受信部の受信出力が同期回路1213に入力され,各無線部ごとの逆拡散タイミングt1,t2が生成される。そして、上記タイミングt1,t2により相関器1214,1215が逆拡散を行い、相関出力1216,1217を出力する。検出回路1218では,アッテネータ設定値を変化させることにより、受信電界レベルPmを変化させたときの位相差Δψr1(Pm),Δψr2(Pm)および振幅比Ar1(Pm),Ar2(Pm)を求め出力または記憶する。 【0051】以上のように本発明の実施の形態によれば、無線受信部の遅延量の差に相当する位相差Δψr1(Pm),Δψr2(Pm),および振幅比Ar1(Pm),Ar2(Pm)を受信電界レベルに応じて細かく求めることができる。これにより,アレーアンテナ無線受信装置における遅延特性および振幅特性のばらつき補償を,受信電力レベルに応じて正確に行うことが可能である。 【0052】(実施の形態3)図14に,本発明の実施の形態3にかかるキャリブレーション装置の構成例を示す。図12のキャリブレーション装置に切替スイッチを追加したものである。図12と同様にアンテナ素子数が2本の場合を示している。 【0053】図14において,キャリブレーション信号1401が送信端子1406より出力され,アッテネータ1407により受信電界レベルを変化させるまでは,図12と同様な動作である。すなわち,キャリブレーション信号1401は,1次変調回路1402により1次変調される。1次変調信号は拡散変調回路1403において拡散符号により拡散され,無線送信部1404に入力される。無線送信部1404において,送信信号は直交変調された後,キャリア周波数fcにアップコンバートされ送信端子1406より出力される。キャリア周波数fcで出力された信号は、アッテネータ1407を接続したケーブル1408を用いて,送信端子1406から切替スイッチ1409および1410に伝送される。スイッチ1409,1410はSW切替信号1411によりアンテナからの受信信号とキャリブレーション用拡散信号とを切り替える。そして、切替スイッチからの信号は,無線受信部1412,1413に伝送される。このあとの動作は,図12と同様である。すなわち、各無線受信部の受信出力が同期回路1414に入力され,各無線部ごとの逆拡散タイミングt1,t2が生成される。そして、上記タイミングt1,t2により相関器1415,1416が逆拡散を行い、相関出力1417,1418を出力する。検出回路1419では,アッテネータ設定値を変化させることにより、受信電界レベルPmを変化させたときの位相差Δψr1(Pm),Δψr2(Pm)および振幅比Ar1(Pm),Ar2(Pm)を求め出力または記憶する。 【0054】以上のように,実施の形態3によれば、スイッチ切替信号を制御することにより,無線受信部の遅延特性および振幅特性を必要なときに測定することが可能である。これにより,動作環境等により上記遅延特性および振幅特性が時間的に変化する場合においても,補償を正確に行うことが可能である。 【0055】(実施の形態4)図15に,本発明の実施の形態4にかかるキャリブレーション装置の構成例を示す。図12のキャリブレーション装置に多重回路を追加したものである。図12と同様にアンテナ素子数が2本の場合を示している。 【0056】図15において,キャリブレーション信号が送信端子より出力され,アッテネータにより受信電界レベルを変化させるまでは,図12と同様な動作である。すなわち,キャリブレーション信号1501は,1次変調回路1502により1次変調される。1次変調信号は拡散変調回路1503において拡散符号により拡散され,無線送信部1504に入力される。無線送信部1504において,送信信号は直交変調された後,キャリア周波数fcにアップコンバートされ送信端子1506より出力される。キャリア周波数fcで出力された信号は、アッテネータ1507を接続したケーブル1508を経由して送信端子1506から多重回路1509および1510に伝送される。 【0057】多重回路1509,1510はアンテナからの受信信号とキャリブレーション用の拡散信号とを多重する。そして、多重された信号は,無線受信部1512,1513に伝送される。このあとの動作は,図12と同様である。すなわち、各無線受信部の受信出力が同期回路1514に入力され,各無線部ごとの逆拡散タイミングt1,t2が生成される。そして、上記タイミングt1,t2により相関器1515,1516が逆拡散を行い、相関出力1517,1518を出力する。検出回路1519では,アッテネータ設定値を変化させることにより、受信電界レベルPmを変化させたときの位相差Δψr1(Pm),Δψr2(Pm)および振幅比Ar1(Pm),Ar2(Pm)を求め出力または記憶する。 【0058】以上のように,実施の形態4によれば、通常の通信を途絶することなく無線受信部の遅延特性および振幅特性を常時または必要なときに測定することが可能である。これにより,動作環境等により上記遅延特性および振幅特性が時間的に変化する場合においても,補償を正確に行うことが可能である。なお、測定を行わないときには、無線送信部の電源をオフにすることにより,受信信号にとって雑音成分となるキャリブレーション信号が全く出力されないようにすることが考えられる。」 上記G及びHの記載及び関連する図面を参照すると、周知例には、実質的に、次の周知技術が記載されているものと認められる。 「アレイアンテナにおいて、構成要素のバラツキによる振幅変動や位相変動を考慮して、アレイアンテナのウエイト値を計算すること。」 (3)対比 (あ)本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「アダプティブアレイ送受信装置」、「重み係数」、「メモリ」、「端末」は、それぞれ本願補正発明における「指向性制御無線通信装置」、「ウエイト値」、「ウエイト値記憶手段」、「通信相手局」に相当する。 (い)引用例1記載の発明における「重み付け器」は、【0033】段落の記載によれば、振幅の重み付けのための可変利得増幅器または可変減衰器と、位相の重み付けのための可変移相器により構成されるものであることから、本願補正発明における「振幅、位相調整手段」に相当するものである。 (う)引用例1記載の発明における「送受信部」は、【0034】段落の記載によれば、送信時には送受信部から変調信号が出力され、受信時には受信信号が送受信部で復調されるものであることから、本願補正発明の「変調器」及び「復調器」に相当するものである。 (え)引用例1記載の発明における「分配/合成部」は、複数のアンテナ素子から送出される送信信号を分配し、かつ、複数のアンテナ素子からの受受信信号を合成する機能を有するものであることから、本願補正発明における「同相分配手段」及び「合成手段」に相当するものである。 (お)引用例1の【0036】?【0041】段落には、アダプティブアレイアンテナ送受信装置の指向性制御手順を示すフローチャートである第4図に関する説明がなされており、そこでは、端末から基地局に送信された参照信号の受信信号に基づいて重み係数の値を計算する動作が説明されている。特に、【0036】及び【0037】段落には、「参照信号である受信信号はインタフェース35を介して外部演算装置36に転送し保持する」と説明していることから、引用例1記載の発明における「外部演算装置」は、実質的に、端末からの重み係数の値を計算するために必要となる参照信号の受信信号を測定するとともに、測定された受信信号を保持するものであり、本願補正発明の「端末情報測定手段」及び「端末情報記憶手段」に相当するものである。 (か)また、引用例1記載の発明における「参照信号の受信信号」によって得られる情報は、所望方向における受信信号電力や非所望方向における受信送信電力であることから、引用例1記載の発明における「参照信号の受信信号」は、本願補正発明の「所望波や不要波の方向や電力などの通信相手局の情報」に相当するものである。 上記(あ)?(か)の事項を踏まえると、本願補正発明と引用例1記載発明とは、次の点で一致し、また相違するものと認められる。 (一致点) 「複数のアンテナ素子を設け、受信系においては、前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅と位相にウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値を乗じて合成した後に復調器で復調を行い、送信系においては、変調器からの送信信号を複数に分配した後にこの分配した各送信信号の振幅と位相にウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値を乗じてそれぞれ前記各アンテナ素子から放射させる指向性制御無線通信装置において、 前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅及び位相を前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値に基づいてそれぞれ調整する振幅、位相調整手段とこの振幅、位相調整手段にて振幅及び位相の調整を行った各受信出力を合成して前記復調器に出力する合成手段とを有する受信系と、 前記変調器からの送信信号を前記各アンテナ素子に対応して同相分配する同相分配手段とこの同相分配手段からの各送信信号の振幅及び位相を前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値に基づいてそれぞれ調整して前記各アンテナ素子に出力する振幅、位相調整手段を有する送信系と、 通信相手局からの所望波や不要波の方向や電力など通信相手局の情報を測定する端末情報測定手段と、 この端末情報測定手段が測定した通信相手局の情報を記憶する端末情報記憶手段を備え、 前記端末情報測定手段が測定を行い、前記端末情報記憶手段が測定結果を記憶し、この端末情報記憶手段に記憶した記憶値を使用して新たなウエイト値の算出を行ってウエイト値記憶手段に記憶する指向性制御無線通信装置。」 (相違点) 相違点1: 振幅、位相調整手段について、本願補正発明においては、「送信用の振幅、位相調整手段」及び「受信用の振幅、位相調整手段」を送信系及び受信系にそれぞれ設けているのに対して、引用例1記載の発明では、個別に設けることについて明示していない点。 相違点2: 測定手段及び測定結果を記憶する記憶手段について、本願補正発明においては、通信相手局の情報を測定し記憶する端末情報測定手段及び端末情報記憶手段のみならず、振幅位相とアンテナ素子位置を測定する2つの測定手段、さらにそれらの測定結果を記憶する手段をそれぞれ設けているのに対して、引用例1記載の発明では、通信相手局の情報を測定し記憶する手段のみしか設けていない点。 相違点3: 特に、振幅位相測定手段について、本願補正発明においては、送信系と受信系の両系統の振幅と位相を測定する構成としているのに対して、引用例1記載の発明では、そのような構成がない点。 相違点4: ウエイト値の計算について、本願補正発明においては、振幅位相測定手段、端末情報測定手段及び素子位置測定手段の3つの測定手段について、測定タイミング制御手段が個別の測定タイミングを制御して測定を行い、これらの各測定手段が測定した測定結果に基づいてウエイトを計算するものであるのに対して、引用例1記載の発明においては、上記相違点2で示したように、端末情報測定手段のみしか設けていないため、複数の測定手段のタイミングを制御する手段は設けておらず、端末情報測定手段のみが測定を行い、この測定手段が測定した測定結果に基づいてウエイトを計算するのみの構成である点。 相違点5: 指向性制御無線通信装置と通信を行う端末局について、本願補正発明においては、当該端末局は設定位置がほとんど変化しない端末局であるのに対して、引用例1記載の発明においては、単に移動端末局である点。 (4)判断 そこで、上記相違点1?5について検討する。 (相違点1について) 引用例1記載の発明では、送信系及び受信系を共通した構成として開示しているが、アレイアンテナの送信系及び受信系のウエイトを制御する「振幅、位相調整手段」の構成について、特に、送信用の「振幅、位相調整手段」と受信用の「振幅、位相調整手段」をそれぞれ個別に設けるような構成は、周知技術にすぎない(例えば、特開平10-313472号公報の図1に開示される重み付け部5及び重み付け部32の構成、また、特開平9-74375号公報の図13に開示される振幅可変増幅器(29,30)及び移相器(31,32)の構成を参照されたい。)。 よって、引用例1記載の発明においても、送信系と受信系の構成に際して、特に、アレイアンテナの送信系及び受信系のウエイトを制御する「振幅、位相調整手段」に各々個別に設ける構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (相違点2及び3について) 指向性制御無線通信装置を構成する各部品等の特性のバラツキや、経年変化等による振幅、位相等の特性の変動に対処するため、各アンテナ素子の位置ずれを考慮して、アレイアンテナのウエイト値を計算すること、振幅変動や位相変動を考慮して、アレイアンテナのウエイト値を計算することは、引用例2及び周知例に示されるように、それぞれ周知技術である。 よって、引用例1記載の発明に、各アンテナ素子の位置を測定する素子位置測定手段、振幅位相値を測定する振幅位相測定手段を設けることは当業者が容易に想到し得ることである。 なお、計測したそれぞれの値に基づいてウエイト値を計算することから、測定結果は、何からの手段によって保持される必要があることは当然であり、上記周知技術を採用した際に、各測定手段に対応して個別の記憶手段を設けるような構成とすることは当業者が適宜なし得ることにすぎない。 また、構成要素のバラツキによる振幅変動や位相変動は、送信系及び受信系の両系統で生じるものであり、全ての構成要素のバラツキ変動を考慮することも周知技術であること(例えば、特表平10-503892号公報の第2図及び第3図に開示されるアレイアンテナの校正に係る構成、また、特開平8-256008号公報の図2及び図3に開示されるアレイアンテナの校正に係る構成及びその校正方法を参照されたい。)を鑑みると、振幅位相の測定について、送信系及び受信系の両系統を測定するような構成とすることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。 (相違点4について) 引用例2及び周知例に示される周知技術は、アンテナ素子の位置ずれや、振幅位相の変動をウエイト計算に反映するものであることから、これら周知技術を引用例1記載の発明に採用した場合、各々の測定結果を使用してウエイト値を算出することは自明である。 また、各測定手段を制御するための構成について、引用例1記載の発明の端末情報測定手段の測定タイミングは、【0038】段落には、「測定モードが終了すると、外部演算装置36は保持した参照信号の受信信号に基づいて重み係数の値を計算し(ステップS107)」と説明されていることから、参照信号の測定から重み係数の計算までの処理に関しては、参照信号の測定から重み係数の算出までを連続して行っているものと解されるが、特に【0041】段落には、「本実施形態ではアダプティブアレイ送受信装置の設置時さらには非通信時に重み係数を計算している」と説明されていることから、この参照信号の測定については、非通信時を選んで行うよう制御されている。さらに、引用例2及び周知例に示される周知技術では、各アンテナ素子の位置、振幅位相を計測するタイミングは、例えば、周知例の【0058】段落では、「通常の通信を途絶することなく無線受信部の遅延特性および振幅特性を常時または必要なときに測定することが可能である。これにより,動作環境等により上記遅延特性および振幅特性が時間的に変化する場合においても,補償を正確に行うことが可能である。」と説明されているように、測定するタイミングは動作環境に応じて任意のタイミングとなるものである。 つまり、引用例1記載の発明、引用例2及び周知例に示されている各測定手段の測定タイミングは、各測定手段が採用されている装置の環境や求める性能に応じて適宜異なっているものである。 これに対して、本願補正発明では、タイミング制御手段によって、アンテナ素子位置や振幅位相値の測定等の測定タイミングを各々個別に制御しているが、各測定タイミングについては、各々個別のタイミングによるもので、言い換えれば、各々の測定タイミングについては何ら関連性を有しないものである。 よって、引用例2及び周知例に示す周知技術を引用例1記載の発明に採用した場合、それぞれの測定手段を制御するための構成について、本願補正発明のように、特定の法則に従わず、各々個別の測定タイミングによって測定手段を制御するような構成とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 (相違点5について) 引用例1記載の発明における、指向性制御無線通信装置と通信を行う端末局は、移動端末や携帯端末などの無線端末を想定しているものであるが、一般にこのような無線端末は、指向性制御無線通信装置と通信する際の使用環境や使用状態によっては、指向性制御無線通信装置に対する位置関係がほとんど変化しない状況も存在するものであり、また、引用例1に記載の発明における指向性制御無線通信装置は、通信を行う端末局の位置がほとんど変化しない場合にも対応できないものではないことから、引用例1に記載の発明における端末局を、設置位置がほとんど変化しない端末局とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 そして、本願補正発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1記載の発明及び上記各周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用例1記載の発明及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび よって、本件手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.補正却下の決定を踏まえた検討 (1)本願発明 平成17年7月11日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年10月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認められる(以下、本願発明)という。)。 「複数のアンテナ素子を設け、受信系においては、前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅と位相にウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値を乗じて合成した後に復調器で復調を行い、送信系においては、変調器からの送信信号を複数に分配した後にこの分配した各送信信号の振幅と位相に前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値を乗じてそれぞれ前記各アンテナ素子から放射させる指向性制御無線通信装置において、 前記各アンテナ素子からの受信出力の振幅及び位相を前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値に基づいてそれぞれ調整する受信用の振幅、位相調整手段とこの振幅、位相調整手段にて振幅及び位相の調整を行った各受信出力を合成して前記復調器に出力する合成手段を有する受信系並びに前記変調器からの送信信号を前記各アンテナ素子に対応して同相分配する同相分配手段とこの同相分配手段からの各送信信号の振幅及び位相を前記ウエイト値記憶手段に記憶したウエイト値に基づいてそれぞれ調整して前記各アンテナ素子に出力する送信用の振幅、位相調整手段を有する送信系の各振幅位相値を測定する振幅位相測定手段と、 この振幅位相測定手段が測定した各振幅位相値を記憶する振幅位相値記憶手段と、 通信相手局からの所望波や不要波の方向や電力など通信相手局の情報を測定する端末情報測定手段と、 この端末情報測定手段が測定した通信相手局の情報を記憶する端末情報記憶手段と、 前記各アンテナ素子の位置を測定する素子位置測定手段と、 この素子位置測定手段が測定した各アンテナ素子の位置を記憶する素子位置記憶手段と、 測定タイミングを決める測定タイミング制御手段を備え、 前記測定タイミング制御手段が決めた個別の測定タイミングにより前記各測定手段がそれぞれ測定を行い、前記各記憶手段が測定結果を記憶し、この各記憶手段に記憶した記憶値を使用して新たなウエイト値の算出を行ってウエイト値記憶手段に記憶することを特徴とする指向性制御無線通信装置。」 (2)引用例等 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例1とその記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は、上記2.で検討した本願補正発明における「設置位置がほとんど変化しない端末局と無線通信を行う指向性制御無線通信装置」の「設置位置がほとんど変化しない端末局と無線通信を行う」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要素を全て含み、さらに特定の限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記2.(4)に記載したとおり、引用例1記載の発明及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1記載の発明及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1記載の発明及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-10-15 |
結審通知日 | 2008-10-21 |
審決日 | 2008-11-06 |
出願番号 | 特願平11-240010 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04B)
P 1 8・ 121- Z (H04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 畑中 博幸、原田 聖子 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
伏本 正典 飯田 清司 |
発明の名称 | 指向性制御無線通信装置 |
代理人 | 橋本 良郎 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 橋本 良郎 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 村松 貞男 |