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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1189298
審判番号 不服2005-12512  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-01 
確定日 2008-12-18 
事件の表示 平成11年特許願第 89135号「ポリプロピレン系多層シート及び容器」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月10日出願公開、特開2000-280420〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成11年3月30日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成17年 3月25日付け 拒絶理由通知
平成17年 5月23日 意見書・手続補正書
平成17年 6月 2日付け 拒絶査定
平成17年 7月 1日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成17年 8月16日付け 前置審査移管
平成17年 9月 5日付け 前置報告書
平成17年 9月16日付け 前置審査解除
平成19年10月17日付け 審尋
平成19年11月26日 回答書
平成20年 3月18日付け 補正の却下の決定・拒絶理由通知
平成20年 4月16日 意見書・手続補正書
平成20年 7月25日付け 拒絶理由通知(最後)
平成20年 8月29日 意見書・手続補正書
(なお、平成17年7月1日付けの手続補正は、平成20年3月18日付けで決定をもって却下された。)

第2 平成20年8月29日付け手続補正の却下の決定

I.補正の内容
上記手続補正では、特許請求の範囲につき以下の補正がなされている。

1.補正前
「【請求項1】 表層(光沢保持層)、基材層および反対表層の三層構成のポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形してなる容器であって、下記の(a)及び(b)の要件を有する電子レンジ用食品包装容器。
(a)表層(光沢保持層)が厚さ30μm以上で、キナクドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、タルク、アルミニウムヒドロキシジパラーtーブチルベンゾエート及びジメチルベンジリデンソルビトールより選択された少なくとも1種の結晶核剤を含有するポリプロピレン系樹脂からなり、容器内面の光沢度が40以上である。
(b)表層と基材層の少なくともいずれか一層が、キナクドリン系顔料またはフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂からなる。
【請求項2】ポリプロピレン系樹脂多層シートの表層(光沢保持層)が、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して前記結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下で含有する結晶性ポリプロピレン系樹脂からなり、30?200μmの厚みである請求項1に記載の電子レンジ用食品包装容器。
【請求項3】多層シートの表層と反対表層の色相が異なることを特徴とする請求項2に記載の電子レンジ用食品包装容器。
【請求項4】多層シートの少なくともいずれか1つの層が(A)ポリプロピレン系樹脂を主体とし、(B)無機充填材20?40重量%、(C)着色剤0.5?5重量部含むことを特徴とする請求項3に記載の電子レンジ用食品包装容器。」
(以下、各請求項毎に「旧請求項1」?「旧請求項4」という。)

2.補正後
「【請求項1】 表層(光沢保持層)、基材層および反対表層の三層構成のポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形してなる容器であって、下記の(a)及び(b)の要件を有する電子レンジ用漆様食品包装容器。
(a)表層(光沢保持層)が厚さ30?200μmで、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、キナクドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、タルク、アルミニウムヒドロキシジパラーtーブチルベンゾエート及びジメチルベンジリデンソルビトールより選択された少なくとも1種の結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下含有するポリプロピレン系樹脂からなり、容器内面の光沢度が40以上である。
(b)表層と基材層の少なくともいずれか一層が、キナクドリン系顔料またはフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂からなる。
【請求項2】多層シートの表層と反対表層の色相が異なることを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ用漆様食品包装容器。
【請求項3】多層シートの少なくともいずれか1つの層が(A)ポリプロピレン系樹脂を主体とし、(B)無機充填材20?40重量%、(C)着色剤0.5?5重量部含むことを特徴とする請求項2に記載の電子レンジ用漆様食品包装容器。」
(以下、各請求項毎に「新請求項1」?「新請求項3」という。)

II.補正事項に係る検討

1.新規事項の追加の有無
まず、上記新請求項1?新請求項3に記載された各事項が、本願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものかにつき検討すると、上記各新請求項における記載事項は、全ての事項につき上記明細書に記載した事項のみである。
したがって、上記手続補正は、本願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。

2.補正の目的の適否
次に、上記手続補正は、最後の拒絶理由通知に対する応答期間内になされたものであって、特許請求の範囲に係るものであるので、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成14年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
上記手続補正では、旧請求項1に対して、(ア)旧請求項1を引用して記載された旧請求項2の「ポリプロピレン系樹脂多層シートの表層(光沢保持層)が、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して前記結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下で含有する結晶性ポリプロピレン系樹脂からな」る点及び「ポリプロピレン系樹脂多層シートの表層(光沢保持層)が、・・30?200μmの厚みである」点を付加し、さらに(イ)「電子レンジ用食品包装容器」が「漆様」である点を付加して新請求項1とし、旧請求項2を削除するとともに、旧請求項3及び4につき、引用関係は従前どおりとして項番を単に整理し、新請求項2及び3としている。
そこで検討すると、上記(ア)の点については、旧請求項2に記載された事項に基づき当該事項を旧請求項1に加入することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、補正の前後に係る当該請求項に記載の発明の属する技術分野を同じくするものであるから、補正前の請求項に記載した事項を限定するものといえる。
しかしながら、上記(イ)の点については、「漆様」なる事項が補正前の旧請求項1?4に記載した事項ではなく、補正前の旧請求項1?4に記載された事項に基づき、当業者に自明な事項であるともいえない。
してみると、旧請求項1から新請求項1への補正については、旧請求項1に対して旧請求項1?4に記載されていない事項により限定し新請求項1とするものであるから、特許請求の範囲を限定的に減縮するものとはいえない。
また、旧請求項1から新請求項1への補正について、「漆様」なる事項が付加されているのであるから、旧請求項2を単に新請求項1にしたものともいえず、請求項の削除に相当するものとはいえず、さらに、旧請求項1から新請求項1への補正が、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明に相当するものともいえない。
したがって、上記手続補正は、平成14年改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものとはいえない。

3.独立特許要件
上記2.のとおり、上記手続補正は、平成14年改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものではないが、仮に、上記手続補正が、平成14年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものとして、新請求項1?3に記載された各発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて、特に新請求項1に記載された発明につき検討する。

(1)新請求項1に係る発明
新請求項1に係る発明は、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「【請求項1】 表層(光沢保持層)、基材層および反対表層の三層構成のポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形してなる容器であって、下記の(a)及び(b)の要件を有する電子レンジ用漆様食品包装容器。
(a)表層(光沢保持層)が厚さ30?200μmで、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、キナクドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、タルク、アルミニウムヒドロキシジパラーtーブチルベンゾエート及びジメチルベンジリデンソルビトールより選択された少なくとも1種の結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下含有するポリプロピレン系樹脂からなり、容器内面の光沢度が40以上である。
(b)表層と基材層の少なくともいずれか一層が、キナクドリン系顔料またはフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂からなる。」(以下「本件補正発明」という。)

(2)検討
しかるに、本件補正発明については、下記の理由により独立して特許を受けることができないものである。

本件補正発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:
1.特開平8-156201号公報
2.特開平7-126409号公報
3.「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品[改訂第二版]」1993年10月30日、株式会社ラバーダイジェスト社発行、第456頁
(以下、上記刊行物1?3をそれぞれ「引用例1」?「引用例3」という。)

ア.上記各引用例に記載された事項

(a)引用例1
上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【請求項1】 A層およびB層から構成される積層体において、A層はポリプロピレン100重量部に対し、溶融型有機造核剤0.01?3重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなり、B層はプロピレン系樹脂35?95重量%および高溶融張力ポリプロピレン5?65重量%の合計量100重量部に対し、平均粒径が5μm 以下の無機充填剤5?100重量部を含有する樹脂組成物からなる積層体。
【請求項3】 請求項1または請求項2記載の積層体を、A層を非金型側、B層を金型側として熱成形して得られる成形品において、A層の光沢が70%以上であることを特徴とする熱成形品。」(請求項1、3)

(a-2)
「【産業上の利用分野】本発明は、真空成形、圧空成形などの熱成形により得られた成形品が剛性、衝撃性に優れ、且つ高光沢である積層体に関する。・・・ポリプロピレンは成形加工性が良好なこと、ゴム成分や充填剤の添加により剛性と耐衝撃性のバランスが優れた材料となることなどの優れた特徴があり、シート状に成形されたものは、真空成形、圧空成形等に熱成形されて・・・容器等に広く用いられている。」(段落【0001】?【0002】)

(a-3)
「ポリプロピレンのような結晶性樹脂のシートは、熱成形時において再溶融する際に球晶が成長し、このため表面が荒れて光沢が低下するものと考えられる。したがって、真空成形後の光沢を改善するためには、この球晶成長を抑える必要があり、造核剤を添加する方法が考えられる。・・・A層に無機造核剤や分散型有機造核剤を添加・・・する方法が提案されている(特公平3-20331)。」(段落【0004】?【0005】)

(a-4)
「【発明が解決しようとする課題】本発明は、熱成形が可能であり、剛性と耐衝撃のバランスに優れ、かつ、熱成形後の光沢が良好な積層体を提供することを課題とする。」(段落【0006】)

(a-5)
「以下、本発明を具体的に説明する。
(a)ポリプロピレン
A層のポリプロピレン系樹脂組成物に用いられるプロピレン(以下PPと略すこともある)は、プロピレン単独重合体、・・・共重合体であり、それぞれ単独で使用しても、2種類以上使用してもよい。」(段落【0008】)

(a-6)
「(b)溶融型有機造核剤
A層のポリプロピレン系樹脂組成物に使用される造核剤は溶融型有機造核剤である。通常使用されている分散型の有機系造核剤又は無機系造核剤では、熱成形後の光沢改善効果が弱く・・・溶融型有機造核剤としては、ソルビトール系誘導体が挙げられ、その代表例としては、ジベンジリデンソルビトール、低級アルキルで置換したビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p-エチルベンジリデン)ソルビトール等が挙げられる。」(段落【0010】?【0011】)

(a-7)
「(c)プロピレン系樹脂
B層の樹脂組成物に用いられるプロピレン系樹脂は(a)のポリプロピレンはもとより、・・・変性プロピレン系樹脂も含まれる。これらのプロピレン系樹脂は、単独で使用してもよく、二種以上使用してもよい。」(段落【0013】)

(a-8)
「無機充填剤をB層に使用される樹脂組成物に配合する場合、無機充填剤の配合割合は、プロピレン系樹脂および高溶融張力ポリプロピレンの合計量100重量部に対し、5?100重量部であり・・・無機充填剤の配合割合が100重量部を超えると、シート成形が難しく良好なシートが得られない。また、5重量部未満では剛性の向上が期待出来ない。」(段落【0029】)

(a-9)
「このようにして得られたシートの厚さは通常0.1?7.0mmであり、0.2?4.0mmが好ましく、0.3?3.5mmが特に好ましい。・・・本発明の積層体におけるA層の厚みは、A層とB層の厚みの総和に対し0.05?20%の範囲であり、0.1?15%が好ましく、0.5?10%が特に好ましい。・・・0.05%未満ではA層の厚みが均一とならず、光沢が低下するので好ましくない。」(段落【0035】?【0036】)

(a-10)
「(熱成形品の製造)上記積層体から熱成形品を製造するには、プロピレン系樹脂のシート分野において通常用いられている真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等を使用すればよい。・・・熱成形して得られた成形品において、非金型側の光沢が70%以上とするためには、プロピレン系樹脂の結晶化温度より30℃以上低いことが好ましい。例えば、真空成形法の場合はシート加熱温度がシート中心温度で150?240℃であり・・・シート加熱温度が240℃より高ければ非金型側のA層に含まれている溶融型有機造核剤が分解し光沢良好な成形品を得ることが難しい。・・・成形温度はシート表面温度で120?240℃であり、150?210℃が好ましく、160?200℃が特に好ましい。・・・金型温度は30?90℃であり、・・・金型温度が90℃より高ければ光沢良好な成形品を得ることが難しい。」(段落【0037】)

(a-11)
「【実施例】以下、実施例、比較例によって本発明をさらに詳しく説明する・・・
(光沢度)厚さ1mmの積層体を成形し、A層側を非金型面として絞り比0.3のトレイを真空成形で成形し、JIS K7105に従い60度鏡面法でA層側の光沢度を成形前後について測定した。
・・・
(実施例1)A層にホモポリプロピレン・・・100重量部に、溶融型有機造核剤・・・を0.3重量部添加したポリプロピレン系樹脂組成物を使用した。B層にプロピレン系樹脂としてブロックポリプロピレン・・・85重量%およびHMS-PP・・・15重量%の合計量100重量部に対し、無機充填剤としてタルク・・・18重量部を配合した樹脂組成物を使用した。共押出Tダイ法でA層の厚みが0.1mmで、B層の厚みが0.9mmの2種2層積層体を成形し、物性を評価した。結果を表1に示す。
・・・(実施例3)B層にプロピレン系樹脂・・・の合計量100重量部に対し、無機充填剤として炭酸カルシウムを17重量部を配合した樹脂組成物を使用した以外は実施例1と同様に積層体を成形し、物性を評価した。結果を表1に示す。
・・・(比較例3)A層に造核剤としてAL-PTBBA・・・を使用した以外は実施例3と同様に操作を行った。結果を表1に示す。」(段落【0038】?【0050】)

(a-12)
段落【0053】の表1には、実施例1?5の成形後の光沢度(%)が86?88であることが記載されている。

(a-13)
「【発明の効果】本発明によって得られるシートは、熱成形が可能であり、得られた成形品は剛性と耐衝撃性のバランスに優れ、かつ成形品内側の光沢が良好である。したがって成形品の内側の美粧性が要求される包装材料・・・等に用いることができる。」(段落【0054】)

(b)引用例2
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「【請求項1】 約0.3?0.95のK値において存在するβ球晶を有するプロピレンの結晶質樹脂ポリマーの1以上の層を含む熱成形可能なシート。
【請求項2】 シートを成形する前に1以上の好適なβ球晶核剤を樹脂ポリマー中に含ませることによってβ結晶が樹脂ポリマー中に包含される請求項1記載の熱成形可能なシート。
【請求項3】 β球晶核剤が、約0.1?約10ppmのレベルで存在し、次式:【化1】


を有する請求項2記載の熱成形可能なシート。
【請求項4】 プロピレンの樹脂ポリマーが、ポリプロピレン、プロピレンと40モル%以下のエチレン又は4?12個の炭素原子を有するαオレフィンとのランダム又はブロックコポリマー、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとのブレンド、及びポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのブレンドからなる群から選択される請求項3記載の熱成形可能なシート。
【請求項5】 プロピレンのβ球晶含有樹脂ポリマーの中間層及び熱可塑性樹脂の二つの外層を有する請求項4記載の熱成形可能なシート。
【請求項6】 約0.25mm以上の厚さを有し、二つの外層がそれぞれ約0.01?約0.1mmの厚さを有し、中間層が約0.23?約4.5mmの厚さを有する請求項5記載の熱成形可能なシート。
【請求項7】 熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、プロピレンと40モル%以下のエチレン又は4?12個の炭素原子を有するαオレフィンとのランダム又はブロックコポリマー、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとのブレンド、ポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのブレンド、約1?20重量%のエチレン含有量を有するブロックエチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/プロピレンラバーポリマーと高密度ポリエチレンとのブレンド、及びエチレン/プロピレンラバーポリマーと低密度ポリエチレンとのブレンドからなる群から選択される請求項6記載の熱成形可能なシート。
【請求項8】 中間層が更にエチレンビニルアルコールコポリマーを含む請求項7記載の熱成形可能なシート。
【請求項9】 中間層が更に、プロピレンの結晶質樹脂ポリマー及び有機β球晶核剤の残渣を含む粉砕再生材料を含む請求項7記載の熱成形可能なシート。
【請求項10】 プロピレンの樹脂ポリマー、1以上の好適なβ球晶核剤及び約0.05?約5重量%のTiO_(2)又はCaCO_(3)を含む請求項1記載の熱成形可能なシートを成形するのに好適なポリマー組成物。
【請求項11】 (a)α球晶を有するプロピレンの結晶質樹脂ポリマー、及びβ球晶をシートに調製することができる核剤の有効量を含むポリマー組成物を溶融成形し;
(b)溶融成形シートを、β球晶が約0.3?0.95のK値において存在するβ球晶を生成するのに十分な急冷温度に急冷し;
(c)急冷シートを、熱成形させるのに十分な熱成形温度に加熱し;
(d)熱成形条件下において、熱成形手段を用いて加熱シートから物品を熱成形する;
工程を含むことを特徴とするプロピレンの樹脂ポリマーを含有するシートを熱成形する方法。
【請求項12】 プロピレンの樹脂ポリマーが、ポリプロピレン、プロピレンと40モル%以下のエチレン又は4?12個の炭素原子を有するαオレフィンとのランダム又はブロックコポリマー、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとのブレンド、及びポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのブレンドからなる群から選択され、β球晶核剤が、プロピレンの樹脂ポリマーの重量を基準として約0.1?約10ppmのレベルで存在し、次式:
【化2】


を有する請求項11記載の方法。
【請求項13】 工程(b)の急冷温度が約100?約130℃である請求項12記載の方法。
【請求項14】 工程(c)の熱成形温度が、β球晶を溶融させるのに十分であるが、α球晶を溶融させるには足りない温度である請求項12記載の方法。
【請求項15】 工程(c)の熱成形温度がβ球晶の溶融温度未満であり、工程(d) の熱成形物品が工程(c)の急冷シートより約2?20%低い側壁密度を有する請求項11記載の方法。
【請求項16】 α球晶を有するプロピレンの結晶質樹脂ポリマー及び有機β球晶核剤の残渣を含むポリマー組成物の1以上の層を含み、有機β球晶残渣を含まないプロピレンの樹脂ポリマーを含む熱成形物品と比較して改良されたマイクロ波処理性を有する熱成形物品。
【請求項17】 残渣が次式:
【化3】


を有し、約0.1?約10ppmの量で物品中に存在する請求項16記載の物品。
【請求項18】 熱成形食品容器の形態の請求項1記載の熱成形可能なシート。
【請求項19】 改良された低温衝撃耐性を有する熱成形物品の形態の請求項7記載の熱成形可能なシート。
【請求項20】 プロピレンのβ球晶含有樹脂ポリマーの中間層、及び、ポリプロピレン、プロピレンと40モル%以下のエチレン又は4?12個の炭素原子を有するαオレフィンとのランダム又はブロックコポリマー、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとのブレンド、及びポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのブレンドからなる群から選択される熱可塑性樹脂の二つの外層を含む請求項16記載の熱成形物品。」(【特許請求の範囲】)

(b-2)
「本発明はプロピレン樹脂ポリマーの少なくともひとつの層及び有効量のβ-球晶からなる改良熱成形シート、斯かるシートの製造方法、並びに斯かるシートから熱成形された物品に関している。斯かる物品は速い生産性で熱成形でき、マイクロ波処理可能性(microwaveability)及び低温耐衝撃性のような末端用途特性を改良できる。」(【0001】)

(b-3)
「本発明では、十分なベータ球晶を、シートがポリマーから溶融成形されたときに慣用の熱成形設備でアルファ形の核形成された又はされていないポリプロピレンから製造したシートと比べてより低温且つよりはやい製造速度で熱成形可能であるようにプロピレンの樹脂ポリマーに組み入れられている。ベータ球晶を樹脂ポリマーに含まれるのに用いる典型的な方法は、1種又は2種以上の適切なベータ球晶の核剤をシート成形前に樹脂ポリマーに組み入れるものである。
本発明の実施に当たっては、核剤を用いてベータ形球晶をポリプロピレン基樹脂に生成することが好ましい。
・・(中略)・・
Duswaltらによって検討されているように、ほんの2、3種の材料がベータ形球晶の核を優先的に形成するものとして知られているに過ぎない。こららの知られているベータ核形成剤には、(a)ガンマ結晶質の以下の構造式で示されるキナクリドン着色剤 パーマネントレッドE3B、
【化4】


(以下、”Q-染料”と呼ぶ。)
・・(中略)・・が含まれる。」(【0018】?【0020】)

(b-4)
「より詳細には、本発明の熱成形可能なシートにおいては、出発基本樹脂として種々のタイプのポリオレフィン樹脂を用いることができるが、プロピレンの樹脂状ポリマーを用いた場合に特に満足しうる結果が得られる。好適なプロピレンの樹脂状ポリマーとしては、プロピレンホモポリマー、プロピレンとエチレンまたはα-オレフィン(炭素原子数4から12、特に好ましくはブテン-1、ヘキセン-1等の炭素原子数4から8のα-オレフィン、またはこのようなα-オレフィンの混合物)とのランダムまたはブロックコポリマーが挙げられる。また、プロピレンホモポリマーとその他のポリオレフィン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリブチレン等)とのブレンドを用いることもできる。好ましくは、プロピレンの樹脂状ポリマーは、ポリプロピレン、プロピレンと40モル%以下のエチレンまたは炭素数4から12のα-オレフィンおよびその混合物との、ランダムまたはブロックコポリマー、ポリプロピレンと低密度ポリエチレンとのブレンド、およびポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのブレンドからなる群より選択される。」(【0028】)

(b-5)
「ポリプロピレンの樹脂状ポリマーには、必要に応じて、種々の他の種類の添加物、例えば、潤滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、放射耐性剤、粘着防止剤、帯電防止剤、顔料および染料等の着色剤、タルクおよびTiO_(2)等の不透明剤、等を通常の量で混合することができる。他の核剤または核剤として働き得る顔料はベータ球晶の適当な核形成を阻害するため、これらの材料を取り込まないように注意しなければならない。ジヒドロキシタルク等のラジカル捕捉剤も、多少の核形成能を有するため、避けなければならない。TiO_(2)およびCaCO_(3)等の白色化剤または不透明剤として用いられる無機材料は核形成剤(nucleants)ではなく、ベータ球晶核形成を妨害しない。これらの添加物の効果的な量は、シートから熱成形された製品に求められる特定の応用または末端における使用に依存し、ポリマーの重量に基づき、0.005重量%から約5重量%の範囲でありうる。好適な安定剤は、ポリプロピレンおよびその他のα-オレフィンポリマーのための通常の安定化化合物である。好ましくは、不透明化な白色の熱成形された製品については、TiO_(2)またはCaCO_(3)を約0.5から約5重量%のレベルでプロピレンのベータ有核樹脂状ポリマーに添加する。」(【0030】)

(b-6)
「本発明の方法に用いるベータ球晶核剤は、K値0.3?0.95に対応する密度で溶融成形シート中にベータ球晶を形成することができるものであればいかなる無機または有機核剤であってもよい。ベータ球晶核剤として、キナクリドン色素パーマネントレッド(Permanent Red)E3Bを、プロピレン樹脂ポリマーの重量の約0.1?約10ppmで使用すれば効果的であることが見いだされている。キナクリドン色素は以下の構造を有する。
【化5】


」(【0037】)

(b-7)
「押出、積層、またはその他の方法によって製造される単層シートまたは多層シートは、熱成形の途中で過度のたるみを生じることなく熱成形されるのに十分な程厚く、かつ受容部に熱成形できない程には厚すぎない厚さを有することができる。典型的には、本発明の熱成形可能シートは0.25mmまたはそれ以上の厚さを有し、約10?約200ミルの範囲にある。多層シートは、ベータ有核ポリマー樹脂がシート厚さの約10?約99.9%を占め、無核ポリマー樹脂がシート厚さの約90?約0.1%を占めるような構造をもつことができる。好ましくは、3層シートでは、中側のシートがベータ有核ポリマー樹脂であって、シート厚さの約50?約99.5%を占めており、外側の2つの層は無核ポリマーであって、シート厚さの約0.5?約50%を占めている。外側の層は実質的に同じ厚さであるか、あるいは異なる厚さであってよい。好ましくは、外側の層のそれぞれは、約0.01?約0.1mmの厚さ、中間層は約0.23?約4.5mmの厚さを有することができる。このような多層シートは2またはそれ以上の押出機を用いて異なる樹脂を組み合わせることができる。多層シート用プロピレンの樹脂ポリマーは、例えば、ポリプロピレンホモポリマー、ランダムまたはブロック重合したエチレン-プロピレンコポリマー、異なる溶融流量をもつポリプロピレン、ポリプロピレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体で修飾された接着ポリオレフィン、ポリプロピレンとポリエチレンまたはエチレン-酢酸ビニルコポリマー、ポリプロピレンとエチレン-ビニルアルコールコポリマー、ベータ球晶有核化ポリプロピレンとポリプロピレンなどでありうる。・・(後略)」
(【0041】)

(b-8)
「本発明の熱成形可能シートはシート流延押出機とインラインでの、または巻取供給熱成形機を用いるオフラインでの熱成形を含む慣用の熱成形装置と方法によって熱成形することができる。慣用の熱成形法は、真空成形、加圧成形、プラグアシスト加圧成形およびThe Encyclopedia of Polymer Science & Engineering(ポリマー科学と工学辞典)、John Willy & Sons,Vol.16,p.807-832,1989に記載のマッチドモールド熱成形を含む。このような熱成形とは、(a)熱可塑性シートを軟化するまで加熱し、(b)軟化シートを型の中で重力、圧力および/または真空の影響下に成形し、そして(c)成形シートを冷却、固化してシートから切り出して積み重ねてパッケージングする、という一連の工程を一般に含む、熱可塑性シートからの製品の製造法である。基本的熱成形の変更としては、サイズ切断、巻取供給、またはインラインの押出シート工程;金属シース輻射ヒーター、クォーツ輻射ヒーターパネル、セラミックヒーター、対流オーブン、接触ヒーティングなどのシート加熱材;型;真空または空気圧成形;その場での、または別工程でのトリミング;およびパッケージングなどを含む。本発明の熱成形シートの方法においては、非ベータ有核ポリプロピレンシートの熱成形に比較して、一般に低い圧力を用いる。また、本発明の熱成形法は熱成形可能シートの製造途中でインラインで実施することができ、あるいはシート材のロールからオフラインで実施することもできる。好ましい熱成形法は真空成形およびプラグアシスト加圧成形を含む。」(【0050】)

(b-9)
「本発明の熱成形された製品は、典型的には、・・(中略)・・一般に食品および飲料のための容器と蓋;およびヨーグルトカップ、マーガリンチューブ、コテッテージチーズ容器、配送容器、冷凍食品トレイ、蓋など、ミートトレイ、ファーストフード用使い捨て製品などの包装用途などの用途に使用される。より深い絞りの、もっと厚いシートから成型された製品も製造できる。好適熱成形製品は、食品容器および低温衝撃抵抗を有する製品である。」(【0053】)

(c)引用例3

(c-1)
「(VII)フタロシアニン顔料(phthalocyanine pigments)
青色ないし緑色の顔料で色が鮮やかで着色力が大きく、耐光性・耐熱性が優秀である。生産量もきわめて多い。
◆(1)フタロシアニン・ブルー・・(中略)・・FDA合格,JHPA-PL。JIS K-5241-71がある。
◆(2)フタロシアニン・グリーン・・(中略)・・深い青緑色で白色顔料を加えると鮮明な緑色になる。・・(後略)」(第3行?第18行)

イ.当審の判断

(ア)各引用例に記載された発明

(i)引用例1
引用例1には、上記摘示(a-1)より、A層およびB層から構成される積層体において、A層はポリプロピレン100重量部と溶融型有機造核剤0.01?3重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなり、B層はプロピレン系樹脂及び高溶融張力ポリプロピレンの合計量100重量部に対して5?100重量部の無機充填剤を含有する樹脂組成物からなる積層体が、上記摘示(a-5)より、A層のプロピレンは、プロピレン単独重合体、共重合体であることが、上記摘示(a-6)より、溶融型有機造核剤としては、ソルビトール系誘導体が挙げられ、その代表例としては、ジベンジリデンソルビトール、低級アルキルで置換したビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p-エチルベンジリデン)ソルビトール等を用いることが、上記摘示(a-4)より、積層体は、熱成形が可能であり、熱成形後の光沢が良好なことが、上記摘示(a-9)及び(a-10)より、積層体はA層の厚さが5?1400μmであり全体の厚さが0.1?7.0mmの積層シートであり、このシートを熱成形することが、上記摘示(a-10)?(a-12)より、A層側を非金型面として熱成形し、この成形品の非金型面側の光沢度は70%以上であることが、また、上記摘示(a-13)より、このようにして得られた成形品は、包装材料等に用いることができることがそれぞれ記載されている。
してみると、引用例1には、
「ポリプロピレン系樹脂100重量部及びビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールである溶融型有機造核剤0.1?3重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなる非金型面を構成する厚さ5?1400μmのA層及びプロピレン系樹脂100重量部に対して無機充填剤5?100重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなるB層から構成されるポリプロピレン系多層積層シートを金型内で熱成形してなり、非金型面であるA層の表面の熱成形した後の光沢度が70以上である包装材料用成形品。」
に係る発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されている。

(ii)引用例2
上記引用例2には、上記摘示(b-1)より、シートを成形する前に1以上の好適なβ球晶核剤を樹脂ポリマー中に含ませることによってβ結晶が樹脂ポリマー中に包含されるプロピレンのβ球晶含有樹脂ポリマーの約0.23?約4.5mmの厚さを有する中間層及びポリプロピレン等の熱可塑性樹脂の二つのそれぞれ約0.01?約0.1mmの厚さを有する外層を有する約0.25mm以上の厚さを有する熱成形可能なシートを熱成形してなるマイクロ波処理性を有する食品包装容器が、上記摘示(b-3)より、β球晶核剤がキナクリドン系着色剤であることが、上記摘示(b-8)より、熱成形が、熱可塑性シートを軟化するまで加熱し、軟化シートを型の中で圧力又は真空の影響下に成形することが、それぞれ記載されている。
してみると、引用例2には、
「シートを成形する前にキナクリドン系着色剤であるβ球晶核剤を樹脂ポリマー中に含ませることによってβ結晶が樹脂ポリマー中に包含されるプロピレンのβ球晶含有樹脂ポリマーの約0.23?約4.5mmの厚さを有する中間層及びポリプロピレン等の熱可塑性樹脂の二つのそれぞれ約0.01?約0.1mmの厚さを有する外層を有する約0.25mm以上の厚さを有する熱成形可能なシートを軟化するまで加熱し、軟化シートを型の中で圧力又は真空の影響下に熱成形してなるマイクロ波処理性を有する食品包装容器。」
に係る発明(以下「引用例2記載の発明」という。)が記載されている。

(イ)本件補正発明との対比・判断

(A)対比
そこで、本件補正発明と上記引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「A層」は、非金型面を構成し成形物とした場合に光沢を有し容器の内側を形成する層であるから、本件補正発明における「表層(光沢保持層)」に相当し、引用例1記載の発明における「B層」は、積層シートのA層とは反対側の面(金型面)を構成するものであるから、本件補正発明における「反対表層」に相当するものである。
また、引用例1記載の発明における「ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール」は、命名表現を変えると「ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール」すなわち「ジメチルベンジリデンソルビトール」であり、本件補正発明における「ジメチルベンジリデンソルビトール」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用例1記載の発明とは、
「表層(光沢保持層)及び反対表層を有するポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形してなる包装材料用成形品であって、下記の(a)の要件を有する包装材料用成形品。
(a)表層(光沢保持層)がジメチルベンジリデンソルビトールからなる結晶核剤を含有するポリプロピレン系樹脂からなり、成形物の表層(光沢保持層)面の光沢度が70以上である。」
に係る点で一致し、下記の点で一応相違する。

相違点1:ポリプロピレン系樹脂多層シートにつき、本件補正発明では、「表層(光沢保持層)、基材層および反対表層の三層構成」を有するものであるのに対し、引用例1記載の発明では、「A層及びB層から構成されるポリプロピレン系多層積層シート」である点。

相違点2:表層(光沢保持層)の厚さにつき、本件補正発明では「30?200μm」であるのに対し、引用例1記載の発明では「5?1400μm」である点。

相違点3:表層(光沢保持層)を構成するポリプロピレン系樹脂につき、本件補正発明では、「ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して・・結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下含有する」のに対し、引用例1記載の発明では、「ポリプロピレン系樹脂100重量部及び・・溶融型有機造核剤0.1?3重量部を含有する」点

相違点4:本件補正発明では、「(b)表層と基材層の少なくともいずれか一層が、キナクドリン系顔料またはフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂からなる」のに対し、引用例1には、当該各顔料の使用につき記載されていない点。

相違点5:本件補正発明は、「電子レンジ用漆様食品包装容器」に係るものであるのに対し、引用例1記載の発明は、「包装材料用成形品」に係るものである点。

(B)上記各相違点について

(B-1)相違点1について
まず、上記相違点1につき検討すると、上記引用例2記載の発明のとおり、それぞれポリプロピレン系樹脂組成物からなる中間層及び2つの外層から構成される3層構成の積層シートを熱成形して食品包装容器を製造することは、少なくとも公知であるから、引用例1記載の発明において、上記公知技術に基づき、2層構成の多層シートに代えて、さらにポリプロピレン系樹脂(組成物)からなる基材層(中間層)を設け3層構成としてなるポリプロピレン系樹脂多層シートを使用し包装材料用成形品を構成することは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。

(B-2)相違点2について
次に、上記相違点2につき検討すると、表層(光沢保持層)の厚さに係る本件補正発明における「30?200μm」なる範囲と引用例1記載の発明における「5?1400μm」なる範囲とは、「30?200μm」の範囲で重複するものであり、上記引用例1には、当該層の厚さが100μmである具体例につき記載されている(上記摘示(a-11)参照。)のであるから、上記相違点2については、実質的な相違ではないか、当業者が適宜設定し得るものである。

(B-3)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、本件補正発明における「ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下含有する」なる範囲と引用例1記載の発明における「ポリプロピレン系樹脂100重量部及び溶融型有機造核剤0.1?3重量部」なる範囲とは、「ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して造核剤0.1?3重量部」の範囲で重複するものであり、上記引用例1には、「A層」の構成にあたりホモポリプロピレン100重量部に溶融型有機造核剤を0.3重量部添加したポリプロピレン系樹脂組成物を使用した具体例についても記載されている(上記摘示(a-11)参照。)から、上記相違点3については、実質的な相違ではないか、当業者が適宜設定し得るものである。

(B-4)相違点4について
また、上記相違点4につき検討すると、上記引用例2記載の発明のとおり、それぞれポリプロピレン系樹脂組成物からなる中間層及び2つの外層から構成される3層構成の積層シートを熱成形して食品包装容器を構成する際に、キナクリドン系着色剤を核剤又は着色顔料として添加してなる樹脂組成物により層を構成することは、少なくとも公知の技術であり、また、上記引用例3にも記載されているとおり、フタロシアニン系顔料は、プラスチック用着色顔料として周知のものであり、FDA認可を受けているように、食品容器に使用することも当業界周知の技術であるから、引用例1記載の発明において、所望の着色等を行うことを意図し、引用例2記載の発明及び引用例3記載の周知技術に基づき、表層等の成形体を形成する層を、キナクリドン系着色剤又はフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂組成物で構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

(B-5)相違点5について
さらに、上記相違点5につき検討すると、上記引用例2記載の発明のとおり、ポリプロピレン系樹脂組成物からなる多層積層シートを熱成形してマイクロ波処理性を有する食品包装容器とすることは、少なくとも公知の技術であり、引用例1記載の「包装材料用成形品」に係る発明について、包装材料用成形品なる同一の技術分野に属する引用例2記載の発明に基づき、マイクロ波処理性、すなわち食品包装容器としての電子レンジによる処理可能性を付与し、「電子レンジ用食品包装容器」とすることは、当業者ならば適宜なし得ることである。
ここで、「漆様」につき検討すると、「漆様」なる表現は一般的に当業界で使用される技術用語でないが、本願明細書(【0010】及び【0013】)の記載からみて、漆を塗布・施工した表面のように、十分な光沢と着色を有する表面外観性状をいうものと認められ、本願明細書の実施例に係る記載(【0021】)からみて、光沢保持層のみで光沢と着色を同時に発現させる場合(実施例1)、光沢保持層と基材層との同色併用により光沢と着色を発現させる場合(実施例2)及び光沢保持層により光沢を発現させ基材層により着色を発現させる場合(実施例3?8)のいずれの場合であっても、「漆様」なる表面外観性状が得られるものと解される。
しかるに、上記相違点1に係る検討において説示したように、引用例1記載の発明において、引用例2記載の発明に基づき、3層構成の多層シートにより包装材料用成形品とする場合、引用例2には、基材層(中間層)を構成するポリプロピレン系樹脂(組成物)として、キナクリドン系着色剤とともに他の顔料又は染料等の着色剤を併用することも記載されている(上記摘示(b-5)参照。)から、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明を組み合わせた場合、表面層による光沢と基材層による着色がともに十分となる蓋然性が高く、もって「漆様」なる表面外観性状を有するものとなる蓋然性が高いものといえる。
してみると、「漆様」についても、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明に基づき、当業者が適宜なし得ることである。

(B-6)本件補正発明の効果について
また、本件補正発明の効果につき検討すると、引用例1記載の発明についても、成形後の成形品表面(特に内面)の光沢が7.0以上となっており、上記(B-5)で説示したとおり、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明を組み合わせた場合、本件補正発明に係る「漆様」等を含む所期の効果を奏するものといえ、さらに、本願明細書の記載を検討しても、上記相違点1?5により、他の特異な効果を奏するものとはいえないから、本件補正発明が、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明を組み合わせたものに比して、格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

(C)小括
したがって、本件補正発明は、上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(D)請求人の主張について
なお、審判請求人は、平成20年7月25日付け拒絶理由通知に対する平成20年8月29日付け意見書において、
「本願発明の課題するところは、平成20年4月16日に提出した意見書でも述べましたが、本願明細書の段落0004および0005に記載されているように、大きくは以下の二つの特徴を有する食品容器を提供することにあります。
1)(漆塗りの容器等)と同様な表面光沢と料理に応じた色彩。
2)電子レンジ加熱対応できる(130℃の電子レンジ耐熱性)。
即ち、本願発明の課題の1)として、熱成形した後の容器内面の光沢度を40以上とすることが確かに重要なのですが、本願発明の課題としては、段落0010に記載されているように、「各種顔料を用いると着色と光沢を同時に付けることができ、漆に似た表面光沢と色合いとすることができる」点が大きな特徴です。これは本願発明が、段落0003に記載されている「日本古来の弁当容器である漆塗りの重箱や、中華料理、西洋料理を盛り付ける陶磁器の皿」の表面光沢を意識した容器であるからです。このように1)の特徴は極めて重要です。このことは、単に核剤効果による表面光沢のみではなく、特定の顔料核剤による着色が相乗効果を有することで漆様の表面光沢が得られたものです。このような効果を「格別の効果を奏するものではない」と認定されることは到底承服できません。前記のように拒絶理由書において、本願発明と引用例1の間の4つの相違点は、一つ一つは決定的な相違点とは言えないかもしれませんが、それらが複合したときに有利な効果(漆様の容器)が得られた場合には、進歩性は否定されるべきでないと思料致します。」(「3.引用例と本願発明の対比」の欄第6行以降)
と主張している。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討すると、本願発明に係る実施例1及び2では、キナクリドン系又はフタロシアニン系の顔料核剤を添加使用したポリプロピレン系樹脂により光沢保持層を構成しているのに対して、本願発明に係る実施例3?8では、タルク等の有意な着色(例えば赤色、緑色又は青色等の彩色)を示さない核剤を添加使用したポリプロピレン系樹脂により光沢保持層を構成し、フタロシアニン系の顔料はあくまで基材層中に含有されているのみであり、いずれの実施例においても「漆様」の表面外観性状を有するものと解されるところ、実施例3?8に係るフタロシアニン系顔料は、あくまで基材層における着色剤である顔料としての機能を発揮しているのみであって、表面光沢を発現する核剤としての機能を発揮しているものとはいえないから、例えば、タルク等の有意な着色(例えば赤色、緑色又は青色等の彩色)を示さない核剤を添加使用したポリプロピレン系樹脂により光沢保持層とキナクリドン系又はフタロシアニン系以外の顔料又は染料により十分に着色した基材層とを有するものであっても、「漆様」の光沢保持層側からの表面外観性状を有する蓋然性が高いものといえ、「漆様の表面光沢」は、光沢保持層による表面光沢といずれかの層に係る着色との単なる相加的効果によるものと解するのが相当であって、上記意見書の主張における「核剤効果による表面光沢のみではなく、特定の顔料核剤による着色が相乗効果を有する」ものとはいえない。
したがって、審判請求人の上記手続補正書における主張は、本願明細書の記載に基づかないものであり、論拠を欠くものであるから、採用する余地がないものである。

(ウ)小括
したがって、本件補正発明は、上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができない。

III.補正の却下の決定のまとめ

以上のとおりであるから、上記手続補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的としない補正事項を含むものであるか、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項に違反する補正事項を含むものであるから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願について

I.本願に係る発明
平成20年8月29日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は平成17年5月23日付け及び平成20年4月16日付けの各手続補正により補正された本願明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりの下記のものである。
「【請求項1】 表層(光沢保持層)、基材層および反対表層の三層構成のポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形してなる容器であって、下記の(a)及び(b)の要件を有する電子レンジ用食品包装容器。
(a)表層(光沢保持層)が厚さ30μm以上で、キナクドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、タルク、アルミニウムヒドロキシジパラーtーブチルベンゾエート及びジメチルベンジリデンソルビトールより選択された少なくとも1種の結晶核剤を含有するポリプロピレン系樹脂からなり、容器内面の光沢度が40以上である。
(b)表層と基材層の少なくともいずれか一層が、キナクドリン系顔料またはフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂からなる。
【請求項2】ポリプロピレン系樹脂多層シートの表層(光沢保持層)が、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して前記結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下で含有する結晶性ポリプロピレン系樹脂からなり、30?200μmの厚みである請求項1に記載の電子レンジ用食品包装容器。
【請求項3】多層シートの表層と反対表層の色相が異なることを特徴とする請求項2に記載の電子レンジ用食品包装容器。
【請求項4】多層シートの少なくともいずれか1つの層が(A)ポリプロピレン系樹脂を主体とし、(B)無機充填材20?40重量%、(C)着色剤0.5?5重量部含むことを特徴とする請求項3に記載の電子レンジ用食品包装容器。」
(以下、請求項の項番に従い、「本願発明1」?「本願発明4」という。)

II.当審の拒絶理由通知の概要
当審において、平成20年7月25日付けで概略以下の内容を含む拒絶理由を通知した。

「 理 由
< 最 後 >
最後の拒絶理由通知とする理由
最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正(平成20年4月16日付け)によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。
・・(中略)・・
第2 拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。
本願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物:
1.特開平8-156201号公報(先の拒絶理由通知における「引用例1」
2.特開平7-126409号公報
3.「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品[改訂第二版]」1993年10月30日、株式会社ラバーダイジェスト社発行、第456頁
(以下、上記刊行物1?3をそれぞれ「引用例1」?「引用例3」という。)
・・(後略)」

III.当審が通知した拒絶理由に係る検討
上記拒絶理由通知に係る拒絶理由につき以下再度検討する。
1.本願に係る発明
上記第3のI.に記載したとおりである。

2.上記引用例1ないし3に記載された事項
上記引用例1ないし3は、それぞれ、上記第2のII.3.(2)で引用した引用例1?3とそれぞれ同一であり、上記第2のII.3.(2)ア.で摘示したとおり、引用例1には、上記「(a-1)」?「(a-13)」の事項が、引用例2には、上記「(b-1)」?「(b-9)」の事項が、そして、引用例3には上記「(c-1)」の事項がそれぞれ記載されている。

3.当審の判断

(1)各引用例に記載された発明

(i)引用例1
引用例1には、上記第2のII.3.(2)イ.(ア)(i)で示したとおり、
「ポリプロピレン系樹脂100重量部及びビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトールである溶融型有機造核剤0.1?3重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなる非金型面を構成する厚さ5?1400μmのA層及びプロピレン系樹脂100重量部に対して無機充填剤5?100重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなるB層から構成されるポリプロピレン系多層積層シートを金型内で熱成形してなり、非金型面であるA層の表面の熱成形した後の光沢度が70以上である包装材料用成形品。」
に係る引用例1記載の発明が記載されている。

(ii)引用例2
上記引用例2には、上記第2のII.3.(2)イ.(ア)(ii)で示したとおり、
「シートを成形する前にキナクリドン系着色剤であるβ球晶核剤を樹脂ポリマー中に含ませることによってβ結晶が樹脂ポリマー中に包含されるプロピレンのβ球晶含有樹脂ポリマーの約0.23?約4.5mmの厚さを有する中間層及びポリプロピレン等の熱可塑性樹脂の二つのそれぞれ約0.01?約0.1mmの厚さを有する外層を有する約0.25mm以上の厚さを有する熱成形可能なシートを軟化するまで加熱し、軟化シートを型の中で圧力又は真空の影響下に熱成形してなるマイクロ波処理性を有する食品包装容器。」
に係る引用例2記載の発明が記載されている。

(2)本願各発明との対比・判断

ア.本願発明1について

(ア)対比
そこで、本願発明1と上記引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「A層」は、非金型面を構成し成形物とした場合に光沢を有し容器の内側を形成する層であるから、本願発明1における「表層(光沢保持層)」に相当し、引用例1記載の発明における「B層」は、積層シートのA層とは反対側の面(金型面)を構成するものであるから、本願発明1における「反対表層」に相当するものである。
また、引用例1記載の発明における「ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール」は、命名表現を変えると「ジ(メチルベンジリデン)ソルビトール」すなわち「ジメチルベンジリデンソルビトール」であり、本願発明1における「ジメチルベンジリデンソルビトール」に相当する。
したがって、本願発明1と引用例1記載の発明とは、
「表層(光沢保持層)及び反対表層を有するポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形してなる包装材料用成形品であって、下記の(a)の要件を有する包装材料用成形品。
(a)表層(光沢保持層)がジメチルベンジリデンソルビトールからなる結晶核剤を含有するポリプロピレン系樹脂からなり、成形物の表層(光沢保持層)面の光沢度が70以上である。」
に係る点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:ポリプロピレン系樹脂多層シートにつき、本願発明1では、「表層(光沢保持層)、基材層および反対表層の三層構成」を有するものであるのに対し、引用例1記載の発明では、「A層及びB層から構成されるポリプロピレン系多層積層シート」である点。

相違点2’:表層(光沢保持層)の厚さにつき、本願発明1では「30μm以上」であるのに対し、引用例1記載の発明では「5?1400μm」である点。

相違点4:本願発明1では、「(b)表層と基材層の少なくともいずれか一層が、キナクドリン系顔料またはフタロシアニン系顔料を含有するポリプロピレン系樹脂からなる」のに対し、引用例1には、当該各顔料の使用につき記載されていない点。

相違点5’:本願発明1は、「電子レンジ用食品包装容器」に係るものであるのに対し、引用例1記載の発明は、「包装材料用成形品」に係るものである点。

(イ)上記各相違点について
・相違点1について
まず、上記相違点1については、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(A)で指摘した「相違点1」と同一であるから、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(B)(B-1)で説示した理由により、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。
・相違点2’について
次に、上記相違点2’につき検討すると、表層(光沢保持層)の厚さに係る本願発明1における「30μm以上」なる範囲と引用例1記載の発明における「5?1400μm」なる範囲とは、「30?1400μm」の範囲で重複するものであり、上記引用例1には、当該層の厚さが100μmである具体例につき記載されている(上記摘示(a-11)参照。)のであるから、上記相違点2’については、実質的な相違ではないか、当業者が適宜設定し得るものである。
・相違点4について
また、上記相違点4については、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(A)で指摘した「相違点4」と同一であるから、上記第2のII.3.(2)イ.(イ)(B)(B-4)で説示した理由により、当業者が適宜なし得ることである。
・相違点5’について
さらに、上記相違点5’につき検討すると、上記引用例2記載の発明のとおり、ポリプロピレン系樹脂組成物からなる多層積層シートを熱成形してマイクロ波処理性を有する食品包装容器とすることは、少なくとも公知の技術であり、引用例1記載の「包装材料用成形品」に係る発明について、包装材料用成形品なる同一の技術分野に属する引用例2記載の発明に基づき、マイクロ波処理性、すなわち食品包装容器としての電子レンジによる処理可能性を付与し、「電子レンジ用食品包装容器」とすることは、当業者ならば適宜なし得ることである。
・本願発明1の効果について
また、本願発明1の効果につき検討すると、引用例1記載の発明についても、成形後の成形品表面(特に内面)の光沢が7.0以上となっているのであるから、本願発明1に係る所期の効果を奏するものといえ、さらに、本願明細書及び図面の記載を検討しても、上記相違点1、2’、4及び5’により、他の特異な効果を奏するものとはいえないから、本願発明1が、引用例1記載の発明に比して、格別顕著な効果を奏するものとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本願発明1は、上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本願発明2について

(ア)対比・検討
本願請求項1を引用する本願発明2と上記引用例1記載の発明とを比較すると、引用例1記載の発明においては、「A層」を構成する樹脂組成物として、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して溶融型有機造核剤0.1?3重量部を含有するポリプロピレン系樹脂組成物を使用するものであり、当該「A層」の厚さが5?1400μmであるものであるとともに、上記引用例1には、「A層」の構成にあたりホモポリプロピレン100重量部に溶融型有機造核剤を0.3重量部添加したポリプロピレン系樹脂組成物を使用し、100μmの厚さの層とした具体例についても記載されている(上記摘示(a-11)参照。)から、本願発明2における「表層(光沢保持層)が、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して前記結晶核剤を0.05重量部以上6重量部以下で含有する結晶性ポリプロピレン系樹脂からなり、30?200μmの厚みである」に相当する。
してみると、本願発明2と引用例1記載の発明との間には、上記ア.の本願発明1に係る検討で指摘した相違点1、2’、4及び5’以外の新たな相違点が存しないところ、上記ア.で説示した理由により、相違点1、2’、4及び5’については、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得る事項であって、当該相違点1、2’、4及び5’により格別顕著な効果を奏するものでもない。

(イ)小括
したがって、本願発明2は、上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本願発明3について

(ア)対比
本願請求項2を引用する本願発明3と上記引用例1記載の発明とを比較すると、上記ア.で指摘した相違点1、2’、4及び5’に加えて、下記の相違点6で相違している。

相違点6:本願発明3では、「多層シートの表層と反対表層の色相が異なる」のに対し、引用例1記載の発明では、特に「A層」と「B層」との色相が異なる点が規定されていない点

(イ)検討
上記相違点1、2’、4及び5’については、上記ア.で説示した理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得る事項であって、当該相違点1、2’、4及び5’により格別顕著な効果を奏するものでもない。
そして、上記相違点6につき検討すると、多層シートを熱成形する際に、シートの両面の色相が異なるようにすることは、当業者が所望に応じて適宜行い得る設計的事項にすぎず、また、本願出願前に内面と外面の色相が異なる弁当容器等の食品包装容器が上市されていたことは、当審に顕著な事項であるから、引用例1記載の発明において、内面層である「A層」と外面層である「B層」との色相を異なるものとすることは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることであって、当該色相を異ならせることを妨げる技術的課題が存するものでもなく、単に色相を異ならせること以外の格別顕著な効果を奏するものともいえない。

(ウ)小括
したがって、本願発明3は、上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本願発明4について

(ア)対比
本願請求項3を引用する本願発明4と上記引用例1記載の発明とを比較すると、引用例1記載の発明では、「B層」を構成するポリプロピレン系樹脂組成物としてポリプロピレン系樹脂100重量部に対して無機充填剤5?100重量部を含有するものを使用し、さらに引用例1には、当該「B層」としてポリプロピレン系樹脂100重量部に対して無機充填剤としてのタルク18重量部を含有する樹脂組成物を使用した具体例が記載されている(上記摘示(a-11)参照。)から、本願発明4における「多層シートの少なくともいずれか1つの層がポリプロピレン系樹脂を主体とし、無機充填剤20?40重量%含む」に相当する。
したがって、両者は、上記ア.及びウ.で指摘した相違点1、2’、4、5’及び6に加えて、下記の相違点7で相違している。

相違点7:本願発明4では、「多層シートの少なくともいずれか1つの層がポリプロピレン系樹脂を主体とし着色剤0.5?5重量部含む」のに対し、引用例1記載の発明では、着色剤の使用及びその使用量比が特に規定されていない点

(イ)検討
上記相違点1、2’、4、5’及び6については、上記ア.及びウ.で説示した理由により、いずれも実質的な相違点ではないか、当業者が適宜なし得る事項であって、当該相違点1、2’、4、5’及び6により格別顕著な効果を奏するものでもない。
そして、上記相違点7につき検討すると、上記引用例2にも記載されているとおり、ポリプロピレン系樹脂多層シートを熱成形し食品包装容器を構成する際に、所望又は必要に応じて、0.005?5重量%の着色剤等の添加剤を添加したポリプロピレン系樹脂組成物により層を構成することは、当業者が所望に応じて適宜行い得る設計的事項にすぎない(上記摘示(b-5)参照。)から、引用例1記載の発明において、「A層」又は「B層」として、0.005?5重量%の着色剤等の添加剤を添加したポリプロピレン系樹脂組成物により層を構成することは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることであって、当該着色剤の添加を妨げる技術的課題が存するものでもなく、単に所望に応じた着色を行うこと以外の格別顕著な効果を奏するものともいえない。

(ウ)小括
したがって、本願発明4は、上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成20年8月29日付けで手続補正書を提出する一方、同日付けで意見書を提出し縷々主張するが、上記手続補正は、上記第2で説示した理由により決定をもって却下すべきものであり、上記意見書における審判請求人の主張については、上記第2のII.3.(2)イ.(D)で説示した理由により及び上記手続補正に係る補正内容に基づくものであるから、いずれにしても採用する余地がないものである。

5.小括
結局、本願発明1ないし4は、いずれも上記引用例1記載の発明、引用例2記載の発明及び引用例3の当業界周知の技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 まとめ

以上のとおり、本願発明1ないし4は、いずれも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-14 
結審通知日 2008-10-21 
審決日 2008-11-06 
出願番号 特願平11-89135
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
P 1 8・ 575- WZ (B32B)
P 1 8・ 572- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
坂崎 恵美子
発明の名称 ポリプロピレン系多層シート及び容器  

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