• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1189315
審判番号 不服2006-9540  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-11 
確定日 2008-12-18 
事件の表示 平成10年特許願第107011号「印刷装置、画像形成方法および記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月 3日出願公開、特開平11-207947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年4月1日(優先権主張平成9年4月2日、平成9年11月19日)の特許出願であって、平成17年12月12日付け拒絶理由に対して、平成18年2月17日付けで手続補正がなされたが、同年4月6日付けで拒絶査定され、これに対し、同年5月11日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成20年7月4日付けで平成18年5月11日付け手続補正を補正却下するとともに、同日付けで拒絶理由を通知したところ、請求人は同年9月16日付けで意見書および明細書についての手続補正書を提出した。



2.本願発明の認定
本願の請求項1乃至11に係る発明は、平成20年9月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「ドット径が異なる2種類以上のドットのうち1回の走査において同一のドット形成要素を用いて記録できるドットの種類が一つであり、前記2種類以上のドットのうち、ドット径が大きい側のドットを、前記印刷対象との相対的な位置関係において予め定められた第1の位置に記録可能である共に、該2種類以上のドットのうち、ドット径が小さい側のドットを、前記第1の位置とは異なる予め定められた第2の位置に記録可能なヘッドを駆動して、前記2種類以上のドットを対象物上に記録し、該2種類以上のドットの記録密度により多階調の画像を形成する画像形成方法であって、
印刷しようとする画像の濃度情報を含む画像データを入力し、
前記印刷対象物との相対的な位置関係に基づいて、前記ヘッドが、前記第1の位置にあるか第2の位置にあるかを判別し、
所定の判断条件を用いて、前記入力された画像データにを、前記ドットにより表現可能な階調数に変換する処理であり、該入力された画像データの所定の画素について前記多値化を行なう際、該画素に対応して前記ドットを記録する前記ヘッドの前記判別された位置が前記第2の位置の場合には、前記第1の位置の場合よりドットが記録されやすい判断条件を選択して多値化を行なう
画像形成方法。」

上記本願発明を特定する事項については、請求項の記載のみでは明確に解釈できるとまでは言えないものがある。この点について当審では、以下(A)?(D)のように解釈した。

(A)本願発明は「印刷対象」、「対象物」、「印刷対象物」という発明を特定する事項を有するものである。請求項の記載全体を考慮するに、これらは表現は異なるものの、いずれも、印刷を行う対象物、すなわち、本願の発明の実施の形態における用紙Pを意味するものであると認められる。
したがって、当審においては、本願発明における「印刷対象」、「対象物」、「印刷対象物」は、いずれも「印刷対象物」を意味するものと認めた。

(B)本願発明における「第1の位置に記録可能である共に、」および「入力された画像データにを、」との事項については、それぞれ、「第1の位置に記録可能であると共に、」および「入力された画像データを、」の明白な誤記であると認められる。
したがって、当審においては、本願発明における「第1の位置に記録可能である共に、」および「入力された画像データにを、」との事項を、それぞれ、「第1の位置に記録可能であると共に、」および「入力された画像データを、」を意味するものとして認め、以下本審決では、「第1の位置に記録可能である(と)共に、」および「入力された画像データ(に)を、」と表記する。

(C)本願発明を特定する事項には、「位置」、「第1の位置」、「第2の位置」という語句で示されるものがある。しかしながら、これら「位置」、「第1の位置」、「第2の位置」が具体的に示す内容については、
(C-1)用紙等の「印刷対象物」と「ヘッド」とが、画像を形成する際に
物理的に「ドット」を記録する位置(以下、「物理的な記録位置
」という。)
(C-2)画像データにおいて、「ドット」の形成を指示する位置(以下、
「データ処理位置」という。)
のいずれを意味するものであるのか、請求項の記載から明確に示されているとまでは言えない。
そこで、この「位置」、「第1の位置」、「第2の位置」について、その意味するところを以下に検討する。
本願発明における「ドット径が異なる・・・(中略)・・・画像形成方法であって、」とある部分に使用されている「位置」、「第1の位置」および「第2の位置」は、いずれも「記録」するための「位置」であることがその記載から明らかであることから、上記(1)で示した「物理的な記録位置」を意味するものであると解釈すべきものである。
しかしながら、本願発明における「印刷しようとする画像の・・・(中略)・・・画像形成方法。」とある部分に使用されている「位置」、「第1の位置」および「第2の位置」については、上記(1)にて示した「物理的な記録位置」を意味するものであると解すると、本願発明における「印刷対象物との相対的な位置関係に基づいて、前記ヘッドが、前記第1の位置にあるか第2の位置にあるかを判別」する事項については、本願の明細書および図面には記載も示唆もない、いわゆる新規事項を含むこととなる。したがって、これらの「位置」、「第1の位置」および「第2の位置」が「物理的な記録位置」であると解釈することはできない。
ここで、「印刷しようとする画像の・・・(中略)・・・画像形成方法。」とある部分に使用されている「位置」、「第1の位置」および「第2の位置」との語句は、いずれも「画像データを入力」してから「多値化」を行う間の画像データの処理に関して使用されているものであると認められる。
さらに、「画像データを入力」してから「多値化」を行う間の画像データの処理に関する記載のある、本願の発明の詳細な説明の段落【0084】?【0090】,【0105】?【0106】等において使用されている「位置」は、いずれも、上記(2)にて示した「データ処理位置」を意味するものとして使用されている。
これらを考慮すれば、本願発明における「印刷しようとする画像の・・・(中略)・・・画像形成方法。」とある部分に使用されている「位置」、「第1の位置」および「第2の位置」は、「データ処理位置」を意味するものであると解さざるを得ない。
上記のとおりであるから、当審では、本願発明における「位置」、「第1の位置」および「第2の位置」について、「ドット径が異なる・・・(中略)・・・画像形成方法であって、」の部分においては、いずれも「物理的な記録位置」を意味するものであり、一方「印刷しようとする画像の・・・(中略)・・・画像形成方法。」の部分においては、いずれも「データ処理位置」を意味するものであると解釈した。
また、これに対応して、以下、本審決においては、原則、本件特許出願ならびに引用文献の摘記の部分を除き、ドットの「物理的な記録位置」を表す場合においては「ドット記録位置」との表現を用いるとともに、画像データ上のドットの形成を指示する「データ処理位置」を表す場合においては「ドット形成位置」との表現を用いる。

(D)本願発明は、「多値化」に関して、「入力された画像データの所定の画素について多値化を行なう際、該画素に対応してドットを記録するヘッドの判別された位置が第2の位置の場合には、第1の位置の場合よりドットが記録されやすい判断条件を選択して多値化を行なう」との発明を特定する事項を有するものである。
ここで、上記「第2の位置の場合には、第1の位置の場合よりドットが記録されやすい判断条件を選択」する、とはどのような技術的内容を意味するものであるのか、請求項の記載によって明確に示されているとまでは言えない。
これについて、請求人は、平成20年9月16日付け意見書において「上記補正により、形成されやすくなるように多値化を行なうといの記載を改めました。多値化は所定の判断条件を用いて行なわれるものですが、この判断条件を選択することを明確にしました。なお、多値化の選択条件については、複数の例を実施例に挙げており、これらに共通の内容として、上記「前記ヘッドの前記判別された位置が前記第2の位置の場合には、前記第1の位置の場合よりドットが記録されやすい判断条件を選択」するとすることは、認められるものと思料いたします。また、例えば図14に示した事例では、閾値を小ドットが記録される位置では値100に、大ドットが記録される位置では値127に設定しており、例え小ドットが形成される位置であっても、ドットが記録されるとは限らず、ドットが記録される確率が、第1の位置にある場合より高くされているに過ぎません。従って、この記載で、発明の内容を明確に表わしているものと思料いたします。」(第3頁第13行?22行)と述べている。
また、上記「第2の位置の場合には、第1の位置の場合よりドットが記録されやすい判断条件を選択」することに関連して、本願の発明の詳細な説明の段落【0091】には「この実施例では、奇数ラインでの閾値Drefを小さく設定しているので、低濃度領域では、小ドットが発生しやすい条件が実現されている。」との記載があり、さらに、本願の発明の詳細な説明の段落【0109】?【0112】には、ドット径が小さい側のドットのドット形成位置とドット径が大きい側のドットのドット形成位置のそれぞれで異なる関数を用いてこれらのドットを発生させるための閾値を決定するもの、ならびに、閾値と比較する階調データをドット径が小さい側のドットのドット形成位置とドット径が大きい側のドットのドット形成位置とで異なる演算をするもの、がそれぞれ記載されているとともに、これらの処理をすることによって、同じ値の階調データがドット径が小さい側のドットのドット形成位置に与えられた場合と、ドット径が大きい側のドットのドット形成位置に与えられた場合とでは、ドット径が小さい側のドットのドット形成位置においてドット径が小さい側のドットが形成される確率の方がドット径が大きい側のドットのドット形成位置においてドット径が大きい側のドットが形成される確率よりも高くなることが開示されている。
したがって、当審では、本願発明における「第2の位置の場合には、第1の位置の場合よりドットが記録されやすい判断条件を選択」するとの事項については、同じ値の階調データがドット径が小さい側のドットのドット形成位置に与えられた場合と、ドット径が大きい側のドットのドット形成位置に与えられた場合とでは、ドット径が小さい側のドットのドット形成位置においてドット径が小さい側のドットが形成される確率の方がドット径が大きい側のドットのドット形成位置においてドット径が大きい側のドットが形成される確率よりも高くなるように処理を行うことを意味するものであると解釈した。



3.引用文献

3-1.引用文献1
当審における拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-312519号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図示と共に以下に示す(イ)?(ト)の記載がある。

(イ)「濃度が異なる複数のインクを記録媒体上に付着させて記録を行うインクジェット記録方法であって、
記録媒体上に付着する濃度が異なる同系色のインクドットの着弾位置が一致しないようにインクを付着させることを特徴とするインクジェット記録方法。」(【請求項14】)

(ロ)「【産業上の利用分野】本発明は濃度の異なる同系色のインクを用いて記録を行うインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。」(段落【0001】)

(ハ)「図7に上述のインクジェット記録装置における画像信号処理回路の例を示す。イエロー、マゼンタ、シアンの原画像濃度信号Y1、M1、C1をマスキング回路40で色処理を施した後、下色除去(UCR)・黒生成回路41で色処理を施した後、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの新たな画像濃度信号Y3、M3、C3、K3に変換する。ガンマ補正回路42で従来例と同様に図18のガンマ補正テーブルを用いてガンマ補正が行われた画像濃度信号Y4、M4、C4、K4は濃淡振り分け回路43で染料濃度の高い濃ブラックインク、濃シアンインク、濃マゼンタインク、濃イエローインクの画像濃度信号Kk5、Ck5、Mk5、Yk5と、染料濃度の低い淡ブラックインク、淡シアンインク、淡マゼンタインク、淡イエローインクの画像信号Ku5、Cu5、Mu5、Yu5の画像濃度信号に振り分けられる。図19は従来例と同様な濃淡振り分け方法の一例を説明する図である。入力画像濃度信号レベルに基づいて遂次出力画像濃度信号に演算しても良いが、処理の高速化の為同図に基づいた濃淡振り分けテーブルを用いるのが一般的である。濃淡振り分けテーブルは画像濃度信号値と記録後の反射濃度値とが比例関係となる様に染料濃度の比率に応じて設定されている。濃淡振り分けの後、2値化回路44で各々2値化処理を施し4色濃淡一体ヘッド702に転送する画像信号Kk6、Ku6、Ck6、Cu6、Mk6、Mu6、Yk6、Yu6を生成する。画像信号は印字バッファメモリ45に一時格納し、記録走査にタイミングを合わせて順次記録ヘッドに画像信号として転送する。本実施例では同一の記録領域に同系色の濃淡インクを別の記録走査で順次記録するようにしているので印字バッファへの格納は4色濃淡別々の合計8個の領域に分けて行っている。記録ヘッドは同系色の濃淡は同一の記録ヘッドの上下に配置しているので、印字バッファメモリから記録ヘッドへ画像記録信号を送る際には、色毎に濃淡のデータを合成して転送している。すなわち、本実施例では上下4ノズルずつの濃淡インクノズル列配置となっているので画像記録信号は濃淡の画像記録信号が4個ずつ交互に配列したデータの形式となっている。図8は上記の画像データ処理及び印字制御を行うためのブロック図を示している。」(段落【0027】)

(ニ)「図1の説明に戻ると、記録ヘッドの配列は図中上側半分(4ノズル)は淡インクを、また下側半分(4ノズル)は濃インクを吐出して記録を行う。ここで図1に示すように、淡インクを吐出するノズル列は紙送り方向(副走査方向)に3/8画素分だけずらして配置されている。すなわち、本実施例の4ヘッド一体インクジェットカートリッジの各々のヘッドは、前述の溝天のノズルピッチ及びヒーターボード上の電気・熱エネルギー変換体の配列ピッチを濃淡インク用液室に対応した仕切り部のみ本来の画素密度に応じた間隔よりも3/8画素相当分だけ大きくしている。さらにキャリッジの主走査に同期して画像信号に応じて吐出のタイミングを取っている濃インクノズル列に対して、淡インクノズル列の吐出タイミングを主走査方向に3/8画素相当分だけ早めて印字を行うようにしている。」(段落【0029】)

(ホ)「図1に示した記録画素配置は159/255レベルの入力画像濃度信号が入力された場合に、2値化処理を単純なディザ方式で行う際の印字の様子を示している。図19の濃度振り分けテーブルに基づいて濃インクノズル列側には63レベル、淡インクノズル側には191レベルの出力画像濃度信号が振り分けられるので、図1の記録画素配置に示すように濃インク記録領域では周期的に1/4の画素に吐出記録がなされ、淡インク記録領域では3/4の画素に吐出記録される。図1は4画素相当ずつ紙送りされつつ記録する第2記録走査での印字の様子を示しているので、濃インクノズル列は紙面上の第2画像領域に対してドツト形成を行い、淡インクノズル列は紙面上の第1画像領域に対してドット形成を行う。第1画像領域には第1記録走査で濃インクのドット形成が予め行われているので、第2記録走査では濃インクに重ねて淡インクがドット形成される。本実施例では前述のごとく淡インクを上下、左右に3/8画素ずらしてドット形成するようにしているので、後からドット形成する淡インクのドツトが濃インクのドットの下に潜り込みにくくなっており、ほぼ所望の濃度が得られる。・・・(後略)」(段落【0030】)

(ヘ)「【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、濃度が異なる同系色のインクを用いて記録媒体上にドットを形成したとき、インクの沈み込みによる濃度のばらつきを抑制することができ、階調性に優れた記録物を得ることができる。」(段落【0058】)

記載(ハ),(ホ),(ヘ)から、引用文献1に記載されたインクジェット記録方法は、誤差拡散法を用いることにより、濃インクのドットと淡インクのドットの記録密度を相互に変更して多階調の画像を形成するもの、すなわち、2種類以上のドットの記録密度により多階調の画像を形成するものであることが把握できる。

記載(ハ),(ホ),(ヘ)から、入力される「原画像濃度信号Y1、M1、C1」は、印刷しようとする画像の濃度情報を含むものであることが把握できる。

記載(ハ),(ホ),(ヘ)から、引用発明1に記載されたインクジェット記録方法は、入力された多階調の画像を、該インクジェット記録方法で表現可能な、濃インクドット,淡インクドット,ドットなしの3階調に変換する処理により、多値化を行うものであることが把握できる。

引用文献1の明細書ならびに図面全体を参酌しつつ、上記記載(イ)?(ヘ)を検討すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「濃度が異なる2種類以上のドットをそれぞれに対応するインクノズルにより記録することができるとともに、濃淡のドット形成位置が3/8画素分だけずれるように記録することが可能な記録ヘッドを駆動して、前記濃度が異なる2種類以上のインクのドットを記録媒体上に記録し、該2種類以上のドットの記録密度により多階調の画像を形成するインクジェット記録方法であって、
印刷しようとする画像の濃度情報を含む原画像濃度信号Y1、M1、C1を入力し、
該原画像濃度信号に基づいて、濃インクと淡インクにそれぞれ対応する画像濃度信号Kk5、Ck5、Mk5、Yk5および画像信号Ku5、Cu5、Mu5、Yu5を濃淡振り分け回路43により濃淡振り分けするものであって、
前記原画像濃度信号Y1、M1、C1を、濃淡振り分けの後、2値化回路44で2値化処理を施すことにより、各濃インクのドットおよび淡インクのドットにより表現可能な階調数に変換して、多値化を行う
インクジェット記録方法。」


3-2.引用文献2
当審における拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-70987号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図示と共に以下に示す(い)?(に)の記載がある。

(い)「【発明の属する技術分野】本発明は印刷装置および印刷方法に関し、詳しくは紙等の被印刷媒体にドットを形成し、該ドットの面積または濃度を変更することにより多値印刷を行う装置および方法に関するものである。」(段落【0001】)

(ろ)「原画バッファ5に格納されるR,G,Bの画像データは、CPU1の処理により、所定の色変換が行われ、Y(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン)のデータに変換された後、さらに、対数変換、マスキング、γ補正等の所定の画像処理が施され、最終的にY,M,Cの画像データに対して3値化処理が行われる。これにより、各画素について(Y0,M0,C0),(Y1,M1,C1)または(Y2,M2,C2)のいずれかのプリントデータが得られ、これらは印刷バッファ8に一時的に格納される。すなわち、印刷バッファ8には、図3に示すように、Y,M,Cそれぞれについて、形成するドットの大きさに関してそれぞれ無し,小,大を示すデータであるY0,M0,C0(不図示)、Y1,M1,C1およびY2,M2,C2が格納されている。」(段落【0013】)

(は)「プリンタ12は、以上の状態で、図1に示すホストシステムからプリント司令があるとプリント動作を開始し、まず、ステップS3では、キャリッジ110の往走査を行いこの間にプリントデータY1,M1,C1を有する画素に対してそれぞれのヘッドからインクを吐出しプリントを行う。すなわち、図5に示す信号線24を介して上記画素対応するピエゾ素子には、データY1,M1,C1に応じた幅のパルスが印加され、該当画素には図7(b)に示す小ドットが形成される。なお、同図(b)は全ての画素がデータY1,M1またはC1を有している場合を示している。」(段落【0025】)

(に)「次に、ステップS4では、キャリッジ110の復走査において、プリントデータY2,M2,C2を有する画素に対してそれぞれのヘッドからインクを吐出してプリントを行う。すなわち、このとき、上記画素に対応するピエゾ素子には、信号線24を介してデータY2,M2,C2に応じたより大きな幅のパルスが印加され、図7(a)に示す大ドットが形成される。」(段落【0026】)



4.対比
本願発明と引用発明1を対比する。
引用発明1における「濃度が異なる2種類以上のドット」と、本願発明における「ドット径が異なる2種類以上のドット」とは、「画像の濃淡を表現するための2種類以上のドット」であることを限度として一致するものである。
引用発明1における「インクノズル」は、本願発明における「ドット形成要素」に相当する。
引用発明1における「濃度が異なる2種類以上のドットをそれぞれに対応するインクノズルにより記録する」ことができる「記録ヘッド」は、各インクノズル毎には1種類の濃度のインクによるドットのみしか記録できないものであるから、本願発明における「1回の走査において同一のドット形成要素を用いて記録できるドットの種類が一つ」である「ヘッド」に相当する。
引用発明1における「記録媒体」は、本願発明における「印刷対象物」に相当する。
引用発明1における「濃インクのドット」と本願発明における「ドット径が大きい側のドット」とは、画像の濃度情報が高い場合に使用される「濃ドット」である点で共通する。
引用発明1における「淡インクのドット」と本願発明における「ドット径が小さい側のドット」とは、画像の濃度情報が低い場合に使用される「淡ドット」である点で共通する。
引用発明1における「濃淡のドット形成位置が3/8画素分だけずれるように記録することが可能な記録ヘッド」は、記録媒体上において濃淡のドットを異なる位置に記録するものであると認められるものであることから、本願発明における「2種類以上のドットのうち、ドット径が大きい側のドットを、印刷対象との相対的な位置関係において予め定められた第1の位置に記録可能である共に、該2種類以上のドットのうち、ドット径が小さい側のドットを、前記第1の位置とは異なる予め定められた第2の位置に記録可能なヘッド」とは、「2種類以上のドットのうち、濃ドットを、印刷対象物との相対的な位置関係において予め定められた濃ドット記録位置に記録可能であると共に、該2種類以上のドットのうち、淡ドットを、前記濃ドット記録位置とは異なる予め定められた淡ドット記録位置に記録可能なヘッド」である点で共通する。
引用発明1における「インクジェット記録方法」は、本願発明における「画像形成方法」に相当する。
引用発明1における「原画像濃度信号Y1、M1、C1」は、本願発明における「画像データ」に相当する。
引用発明1における「原画像濃度信号Y1、M1、C1を、濃淡振り分けの後、2値化回路44で2値化処理を施すことにより、各濃インクのドットおよび淡インクのドットにより表現可能な階調数に変換して、多値化を行う」は、本願発明における「入力された画像データ(に)を、ドットにより表現可能な階調数に変換する処理」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致する。
「画像の濃淡を表現するための2種類以上のドットのうち、1回の走査において同一のドット形成要素を用いて記録できるドットの種類が一つであり、前記2種類以上のドットのうち、濃ドットを、印刷対象物との相対的な位置関係において予め定められた濃ドット記録位置に記録可能であると共に、該2種類以上のドットのうち、淡ドットを、前記濃ドット記録位置とは異なる予め定められた淡ドット記録位置に記録可能なヘッドを駆動して、前記2種類以上のドットを印刷対象物上に記録し、該2種類以上のドットの記録密度により多階調の画像を形成する画像形成方法であって、
印刷しようとする画像の濃度情報を含む画像データを入力し、
前記入力された画像データ(に)を、ドットにより表現可能な階調数に変換する処理により、多値化を行う
画像形成方法。」

一方で、本願発明と引用発明1とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明は、画像の濃淡を表現するための2種類以上のドットとして「ドット径が異なる2種類以上のドット」、すなわち、濃ドットとして「ドット径が大きい側のドット」を、淡ドットとして「ドット径が小さい側のドット」を用いるものと特定されるのに対し、引用発明1は、画像の濃淡を表現するための2種類以上のドットとして「インクの濃度が異なる2種類以上のドット」、すなわち、濃ドットとして「濃インクのドット」を、淡ドットとして「淡インクのドット」を用いるものであり、上記特定を有しない点
<相違点2>
本願発明は、濃ドット形成位置である「第1の位置」と淡ドット形成位置である「第2の位置」に関して、「印刷対象物との相対的な位置関係に基づいて、ヘッドが、前記第1の位置にあるか第2の位置にあるかを判別」するものと特定されるのに対し、引用発明1には上記判別について明記がなく、上記特定を有するかどうか不明である点
<相違点3>
本願発明は、「入力された画像データ(に)を、ドットにより表現可能な階調数に変換する処理」として、「所定の判断条件」を用いるものであり、「入力された画像データの所定の画素について多値化を行なう際、該画素に対応してドットを記録するヘッドの判別された位置」が淡ドット記録位置の場合には、濃ドット形成位置の場合より「ドットが記録されやすい判断条件を選択して多値化を行なう」と特定されるのに対し、引用発明1における「入力された画像データにを、ドットにより表現可能な階調数に変換する処理」は、そのような処理を行うものであるかどうか明記がなく、上記特定を有するかどうか不明である点



5.判断
上記相違点について検討する。

5-1.<相違点1>について
引用文献2には、「画像の濃淡を表現するための2種類以上のドットとして、ドットの大きさが異なる2種類以上のドットを用いて多階調の画像を形成する画像形成方法であって、濃ドットとして大ドットを、淡ドットとして小ドットを用いる画像形成方法」が記載されている。(上記 3-2.引用文献2 参照。)
ここで、引用文献2に記載された「大ドット」および「小ドット」は、それぞれ、本願発明における「ドット径が大きい側のドット」および「ドット径が小さい側のドット」にそれぞれ相当する。
したがって、引用文献2には、「画像の濃淡を表現するための2種類以上のドットとして、ドット径が異なる2種類以上のドットを用いて多階調の画像を形成する画像形成方法であって、濃ドットとしてドット径が大きい側のドットを、淡ドットとしてドット径が小さい側のドットを用いる画像形成方法」が記載されている。

引用発明1と引用文献2に記載された事項とは、ともに、画像の濃淡を表現するために2種類以上のドットを使用する画像形成方法という、共通した技術分野に属するものである。そして、引用発明1における「濃インクのドット」と引用文献2に記載された「ドット径が大きい側のドット」は、ともに、画像の濃い部分を表現するために使用されるものであり、かつ、引用発明1における「淡インクのドット」と引用文献2に記載された「ドット径が小さい側のドット」とは、ともに、画像の淡い部分を表現するために使用されるものであるから、これらのドットの機能および作用の点で共通するものである。
したがって、引用発明1における「画像の濃淡を表現するための2種類以上のドット」として「インクの濃度が異なる2種類以上のドット」、すなわち、濃ドットとして「濃インクのドット」を、淡ドットとして「淡インクのドット」を用いる構成に替えて、引用文献2に記載された「ドット径が異なる2種類以上のドット」、すなわち、濃ドットとして「ドット径が大きい側のドット」を、淡ドットとして「ドット径が小さい側のドット」を用いる構成を採用することにより、もって<相違点1>の構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。


5-2.<相違点2>について
<相違点2>における、「印刷対象物との相対的な位置関係に基づいて、ヘッドが、前記第1の位置にあるか第2の位置にあるかを判別」するとの事項のうち、相対的な「位置」関係、「第1の位置」および「第2の位置」は、上記「2.本願発明の認定 (C)」にて示したように、画像データ上における「データ処理位置」を示すものであると解釈されるものである。
してみると、上記「印刷対象物との相対的な位置関係に基づいて、ヘッドが、前記第1の位置にあるか第2の位置にあるかを判別」するとの事項は、画像データにおいて、「第1の位置」すなわち濃ドット形成位置と、「第2の位置」すなわち淡ドット形成位置とを割り付ける処理を意味すると解釈される。

ここで、引用発明1は、濃インクのドットと淡インクのドットとが、その物理的な記録位置において異なるものであり、かつ、濃淡振り分けにより生成された濃インクと淡インクにそれぞれ対応する画像データに基づき記録を行うものである。
つまり、引用発明1における濃ドットに対応する画像データと淡ドットに対応する画像データは、濃ドットと淡ドットをそれぞれ異なるものとして識別するものであり、かつ、これらのドットがどのドット形成位置に形成されるかの情報を有するものであると解釈される。
してみると、引用発明1における濃淡振り分け処理は、濃ドットに対応するドット形成位置を記憶した画像データと、淡ドットに対応するドット形成位置を記憶した画像データとを求める処理という、実質的に、画像データにおいて濃ドット形成位置と淡ドット形成位置とを割り付ける処理と等価な処理を包含するものである。

したがって、引用発明1における「濃インクと淡インクにそれぞれ対応する画像濃度信号Kk5、Ck5、Mk5、Yk5および画像信号Ku5、Cu5、Mu5、Yu5を濃淡振り分け回路43により濃淡振り分けする」処理は、実質的に、本願発明における「印刷対象物との相対的な位置関係に基づいて、ヘッドが、前記第1の位置にあるか第2の位置にあるかを判別」する処理を包含する処理である。
よって、上記<相違点2>は、形式的な相違点に過ぎず、実質的に相違するものではない。


5-3.<相違点3>について
<相違点3>における、「画素に対応してドットを記録するヘッドの判別された位置」が淡ドット形成位置の場合には、濃ドット形成位置の場合より「ドットが記録されやすい判断条件を選択して多値化を行なう」との事項は、上記「2.本願発明の認定 (D)」にて示したように、同じ値の階調データが淡ドット形成位置に与えられた場合と、濃ドット形成位置に与えられた場合とでは、淡ドット形成位置において淡ドットが形成される確率の方が濃ドット形成位置において濃ドットが形成される確率よりも高くなるように処理を行うことを意味すると解釈される。
一方、引用発明1の濃ドットと淡ドットとは、濃淡振り分け回路で振り分けられた画像濃度信号に基づいて、各ドットが形成される確率が影響されるものであると認められる。
ここで、記録される画像に対して、その濃淡を調整し、求める画質の画像を得ようとすることは、画像形成方法という技術分野においては、当業者には当然求められる要請に過ぎないことから、該要請に対応するために、濃淡振り分けの配分、すなわち濃淡のドットの形成される確率を調整することは、当業者ならば適宜なし得る設計変更に過ぎないものである。
したがって、<相違点3>の構成は、引用発明1および技術常識から、当業者が容易に想到することができたものである。

以上のとおり、上記<相違点1>乃至<相違点3>にて示した本願発明を特定する事項は、引用発明1、引用文献2に記載された事項および技術常識に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、かつ、その作用効果も当業者が予測することができた程度のものである。

よって、本願発明は、引用発明1、引用文献2に記載された事項および技術常識に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-15 
結審通知日 2008-10-21 
審決日 2008-11-04 
出願番号 特願平10-107011
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 陽子  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 上田 正樹
江成 克己
発明の名称 印刷装置、画像形成方法および記録媒体  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ