• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1189415
審判番号 不服2004-20923  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-07 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 平成10年特許願第149106号「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月10日出願公開、特開平11-338311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、平成10年5月29日の出願であって、平成16年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月5日に手続補正がなされ、平成19年2月9日付けで当審において拒絶理由が通知され、同年4月16日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものであり、「画像形成装置」に関するものである。

2.当審における拒絶理由の概要
平成19年2月9日付けで当審から通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

『本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


A.発明の詳細な説明について
(1)【図3】に「当接圧と地汚れ及び異常画像の関係」を示す表が示されている。
この表には、特定の構成の感光体であって、未処理で感光体表面の「摩擦係数」μが0.57?0.59の範囲であるもの、ステアリン酸亜鉛塗布によりμが0.22?0.25の範囲とされたもの、シリコンオイルによりμが0.2とされたもの、を用いた実験結果が記載されているだけである。
そして、どの感光体を用いても、当接圧に依存して「バンディング」、「先端白抜け」、「ベタムラ」のいずれかが生じることが記載されている。
これに対して、明細書の段落【0040】に、「【発明の効果】請求項1記載の発明によれば、潜像担持体の摩擦係数を0.1≦μ≦0.4の範囲に設定することにより、現像剤が静電潜像以外の箇所である潜像担持体の地肌部で擦り込まれて付着するのを確実に防止して地肌汚れをなくすことが可能になる。」と記載されている。
段落【0040】の記載内容は、【図3】における、「摩擦係数」μが0.2?0.25のものとしても異常画像等が発生することを示す記載と矛盾するものであるとともに、「摩擦係数」を「0.1≦μ≦0.4の範囲に設定すること」ができることの根拠は明細書に何ら記載されていない。
潤滑剤を用いないで感光体表面の摩擦係数が少ないものとすることは、例えば特開平6-230591号公報、特開平6-332219号公報に記載されているように周知であるが、このようなものも適用対象とされているのかも不明である。
要するに、実施例として用いられているもの以外の感光体に対して、同じ条件で実験を行った場合に、【図3】と同様の実験結果が得られるのか否かさえ明らかでない。
また、【図3】に「目標値(ΔID)<0.02」と記載されているが、ΔIDとは何であるのか、どのように計測されるのかが全く不明である。
さらに、「対感光体線速比率(×1.2)」と記載されているから、【図3】に記載の実験は、現像ローラの感光体に対する周速比を1.2に固定して行ったものとも解されるが、そうであるとすると、現像ローラの感光体に対する周速比が異なるものとするとどのような結果が得られるのか本願明細書には全く記載されていない。
現像ローラの硬度についても、JIS-Aで20°のものと40°のものについて示されているだけであり、(シリコンオイルにより感光体の「摩擦係数」を調整するものにおいては40°のものしか記載されていない)、硬度が10°や60°ものや、感光体の硬度が柔らかいものについては何も示されていない。

(2)段落【0015】及び【図2】に、オイラーベルト方式により感光体ドラム1の表面の摩擦係数を測定することが記載されており、測定用の用紙として「リコー製PPC用紙 TYPE6200A4サイズT目)を用いたことも記載されている。
画像形成装置において、特定の物体の表面の摩擦係数をオイラーベルト方式により摩擦対象の用紙を基準として測定すること自体は、特開平9-68860号公報に記載されており、公知である。
しかしながら、本願発明の課題を解決するために重要な事項は、感光体と現像ローラの間の摩擦であって、感光体表面の摩擦係数のみで性能が決定されるものでないし、このことは明細書の段落【0019】や【0032】に記載されている現像ローラが果たす機能を考慮しても明らかである。
以上を要するに、感光体表面と用紙との間の摩擦係数のみが規定され、一方、感光体表面と現像ローラとの相互の摩擦係数や摩擦力の範囲が記載されていない理由が全く不明である。

(3)本願発明に係る画像形成装置は、【図1】の構成を有するものとされており、段落【0017】ないし【0039】に装置の概要が説明されている。
しかしながら、本願実施例に係る発明の具体的構成について記載されておらず(現像バイアス、現像ローラの表面粗さや表面の材質及び直径、規制ブレードの構成、使用されたトナー、感光体の材質等)、【図3】の実験がどのような装置構成のものを用いて行われたのか全く不明であり、当業者が、実験を行うことにより、【図3】に示される実験結果を追試して確認することもできない。

B.特許請求の範囲の記載について
(1)平成15年10月20日付け手続補正によって補正された本願の特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。
「 【請求項1】
予め均一帯電した潜像担持体に対して光り書き込みにより静電潜像を形成し、該静電潜像に対して現像剤を担持した現像剤担持体を当接させて上記静電潜像を可視像処理し、転写媒体への転写および転写画像の定着を行って画像を形成する画像形成装置において、
上記転写媒体として用いられる用紙に対する上記潜像担持体の摩擦係数(μ)を、0.1≦μ≦0.4に設定したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置において、
上記潜像担持体および現像剤担持体のうちの少なくとも一方の硬度(HS)を、10≦(HS)≦60°(JIS-A)に設定したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1記載の画像形成装置において、
上記潜像担持体および現像剤担持体のうちの少なくとも一方の基材硬度(HS)を、10≦(HS)≦60°(JIS-A)に設定したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちの一つに記載の画像形成装置において、
上記潜像担持体に対する現像剤担持体の当接圧(P)を、3≦P≦16g・f/mmに設定したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちの一つに記載の画像形成装置において、
上記潜像担持体と現像剤担持体とのニップ幅を2mm以下に設定したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項5記載の画像形成装置において、
上記潜像担持体と現像剤担持体とのそれぞれの直径D、dを、(D/d)<6の関係に設定したことを特徴とする画像形成装置。」

(2)上記A.(1)、(2)で述べた理由により、請求項1において、潜像担持体の摩擦係数のみを規定することの技術的意義が不明であるとともに、数値範囲を 「0.1≦μ≦0.4 」とすることの根拠も不明である。
また、「転写媒体として用いられる用紙に対する」摩擦係数を設定することは発明の詳細な説明に記載された事項ではない。

(3)上記A.(1)で述べた理由により、請求項2及び請求項3において、「10≦(HS)≦60°(JIS-A)」と規定することができることの根拠が不明であり、感光体の硬度が「10≦(HS)≦60°(JIS-A)」であるものを規定することができる根拠も不明である。

(4)請求項4において、「現像剤担持体の当接圧(P)を、3≦P≦16g・f/mmに設定」すると規定することができることの根拠が不明である。
段落【0021】には、現像ローラの硬度が30°(JIS-A)のときに当接圧が3?16g・f/mmに設定されることが記載されているだけである。

(5)請求項5において、「潜像担持体と現像剤担持体とのニップ幅を2mm以下に設定」すると規定することができることの根拠が不明である。

(6)請求項6において、「潜像担持体と現像剤担持体とのそれぞれの直径D、dを、(D/d)<6の関係に設定」すると規定することができることの根拠が不明である。』

3.審判請求人による手続補正
上記拒絶理由に対し、審判請求人は、平成19年4月16日付けの手続補正により、特許請求の範囲を以下のものとした。

「【請求項1】
予め均一帯電した感光体ドラムに対して光り書き込みにより静電潜像を形成し、該静電潜像に対して一成分現像剤を担持した弾性材料からなる現像ローラを当接させて上記静電潜像を可視像処理し、転写媒体への転写および転写画像の定着を行って画像を形成する画像形成装置において、
上記感光体ドラムに対する現像ローラの当接圧が3?16g・f/mmであって、
オイラーベルト方式による上記感光体ドラムの摩擦係数(μ)がTYPE6200A4サイズT目用紙(株式会社リコー製)に対して0.22≦μ≦0.4であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置において、
上記感光体ドラムと現像ローラとのニップ幅を2mm以下に設定したことを特徴とする
画像形成装置。
【請求項3】
請求項2記載の画像形成装置において、
上記現像ローラの硬度(HS)を、10≦(HS)≦60°(JIS-A)に設定したことを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項2記載の画像形成装置において、
上記感光体ドラムと現像ローラとのそれぞれの直径D,dを、(D/d)<6の関係としたことを特徴とする画像形成装置。」

4.当審の判断
上記手続補正により、請求項1に、「上記感光体ドラムに対する現像ローラの当接圧が3?16g・f/mmであって、」という事項が加えられたこと、及び、「0.22≦μ≦0.4であること」とされたこと等により、前記拒絶理由が解消したのであるかについて、以下に検討する。(下線は当審で付与。)
前記拒絶理由の「A.(1)」、「A.(3)」で参照している【図3】は、以下に示すものである。

なお、審判請求人は、平成19年4月16日付け意見書の3頁において、上記【図3】に記載のΔIDは反射濃度差であって、ΔIDとトナー付着量m/aは線形の相関関係にあり、ΔIDが得られるとトナー付着量、即ち地汚れ量が算出できることを明らかにしている。

また、上記【図3】に関して以下の記載がある。
「【0029】図3は、当接圧と硬度との関係における画像特性、つまり、不良画像の発生状態を実験により得た結果であり、同図において硬度40°(JIS-A)の場合の現像ローラ(仮に現像ローラAとする)と、硬度20°(JIS-A)の現像ローラ(仮に現像ローラBとする)とを用いた場合、不良画像が発生しない手応接圧(当審判注:当接圧の誤り)に関していうと、現像ローラAでは適用当接圧3?8gf/mmの範囲において、また、現像ローラBでは3?16gf/mmの範囲において不良画像が発生しない状態が得られることが判る。」

上記【図3】に、その具体的構成が記載されていない特定の感光体の摩擦係数(μ)が未処理のときに0.57?0.59であるのに対し、ステアリン酸亜鉛を塗布することにより0.22?0.25となり、シリコンオイルを塗布することにより0.2となることが示されている。
そして、シリコンオイルを塗布して摩擦係数(μ)を0.2としたものにおいて、感光体に対するトナー付着量に比例する反射濃度差ΔIDの値についてみると、当接圧が4gf/mmのときは0.165、当接圧が14gf/mmのときは0.146、当接圧が16gf/mmのときは0.084であり、0.02より小さいものとされている目標値よりも高い。
これに対して、ステアリン酸亜鉛を塗布して摩擦係数(μ)が0.22?0.25とされた感光体のΔIDは、当接圧3?18gf/mmの範囲において、0.02より低い。
そして、シリコンオイルを塗布することにより摩擦係数(μ)を0.22≦μ≦0.4とした感光体を想定した場合、この感光体がシリコンオイルを塗布することにより摩擦係数(μ)が0.2とされた感光体と比較して格段に地汚れ特性等が良いものであるということはできない。
上記事項、及び上記段落【0029】の記載内容を参酌すると、請求項1において、「上記感光体ドラムに対する現像ローラの当接圧が3?16g・f/mmであって、」したことにより、地汚れが発生しなく、良好な画像が得られる範囲を規定したものではないことがわかる。
また、請求項1に「0.22≦μ≦0.4であること」という事項を加えたことによる格別の技術的意義は認められない。
そうすると、本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、依然として明確でない。
また、【図3】に示される実験結果を得るために使用された感光体や現像装置、使用されたトナー等は不明であるため、依然として、当業者が実験を行うことにより【図3】に示されている実験結果を追試して確認することができない。
以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
また、特許請求の範囲に記載された発明は明確でない。

5.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項および同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-08 
結審通知日 2008-10-14 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願平10-149106
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03G)
P 1 8・ 536- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金田 理香▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 赤木 啓二
伊藤 裕美
発明の名称 画像形成装置  
代理人 樺山 亨  
代理人 本多 章悟  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ