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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200519597 審決 特許
不服200413441 審決 特許
不服20068354 審決 特許
不服200220454 審決 特許
不服200511006 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1189538
審判番号 不服2005-16973  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-05 
確定日 2008-12-16 
事件の表示 平成 6年特許願第514315号「緑内障の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 6月23日国際公開、WO94/13275、平成 8年 7月23日国内公表、特表平 8-506807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成5年12月6日(パリ条約による優先権主張1992年12月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成17年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成17年9月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明

本願発明は、平成17年10月5日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?10に記載された、以下のとおりのものである(以下、これらをまとめて「本願発明」という。)

【請求項1】 下記a)からd)のいずれかに属するNMDAレセプター-チャンネル複合体拮抗物質を有効成分とする、緑内障の網膜神経節細胞損傷の治療、予防または保護用薬剤。
a)表2のカラム1に掲げられた、競合的NMDA拮抗物質
b)表2のカラム2または6に掲げられた、非競合的NMDA拮抗物質
c)表2のカラム3に掲げられた、NMDAレセプターのグリシン部位における拮抗物質d)表2のカラム4に掲げられた、NMDAレセプターのポリアミン部位における拮抗物質
【請求項2】拮抗物質が非競合的NMDA拮抗物質である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】拮抗物質がアダマンタン誘導体である、請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】拮抗物質がメマンチン、アマンタジン、リマンタジンまたはこれらの誘導体である、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】拮抗物質がメマンチンである、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】前記拮抗物質が脳-血管関門および脳-網膜関門を通過することが可能である拮抗物質である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項7】前記緑内障が、非血管新生型緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、原発性開放隅角緑内障、または偽剥奪性緑内障である、請求項1から6のいずれかに記載の薬剤
【請求項8】前記薬剤が前記患者に対し局所的に、経口的に、あるいは硝子体内に投与される薬剤である、請求項1から6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項9】前記薬剤が慢性的投与用に設計された薬剤である、請求項1から6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項10】前記拮抗物質が表2のカラム1,2,3,4に掲げられた物質である、請求項1に記載の薬剤。

3.原査定の理由

原査定の拒絶の理由は、本願明細書には、「NMDAレセプター-チャンネル複合体拮抗物質」の一般的な有効投与量、剤型が記載されているにとどまり、薬理試験方法及び薬理データが記載されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、「NMDAレセプター-チャンネル複合体拮抗物質」が緑内障の網膜神経節細胞の治療、予防または保護用薬剤として使用できることを当業者が客観的に理解できる程度に記載されているとは認められないので、本願は特許法第36条第4項の規定する要件を満たしていないというものである。

4.当審の判断

本願発明は、上記のa)?b)の何れかに属する「NMDAレセプター-チャンネル複合体拮抗物質」(以下、単に「NMDA拮抗物質」という。)を有効成分とし、「緑内障の網膜神経節細胞損傷の治療、予防または保護」(以下、「緑内障治療」という。)をその用途とする医薬用途発明に関するものである。
ところで、本願発明のように、有効成分が、特定の化学構造を有する化学物質である場合、一般には、その化学構造から医薬用途を予測し、あるいはその効果の程度を知ることは当業者であっても困難であることから、このような医薬用途を目的とする出願にあっては、当該化学物質が、目的とする医薬用途に実際に有効であることを、明細書中に、薬理実験データあるいはそれと同視すべき程度の説明をもって記載し、医薬用途に係る治療効果を明確に裏付ける必要がある。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明にこれらの記載があるか否かについて検討する。

本願明細書には、NMDA拮抗物質の有用性に関し段落【0016】に
「硝子体中のグルタミン酸塩濃度の上昇は、緑内障が媒介した視神経の損傷・傷害に関連していることを明示する詳細な説明を以下にする。・・・しかしながら、充分に文書化された文献によって、網膜ニューロンを含めて中枢神経系のニューロンに対してグルタミン酸塩が及ぼす毒性促進効果が確立されているのに鑑みて、本発明の化合物は、グルタミン酸塩誘発毒性促進を遮断・阻害する能力があり、緑内障を治療する上で有用である可能性は高い。また、当業者に対して、網膜神経節細胞の損傷・傷害を低減するかまたは防止するに際してレセプター拮抗物質が有する潜在的効果・効能を測定・決定するために必要な指導手本となる測定法に就いても概略説明する。」
との記載があり、これに続き、段落【0017】?【0023】には「グルタミン酸塩の硝子体内濃度の検出方法」と題して、26人の緑内障患者および非緑内障患者の硝子体試料をとり分析した結果、緑内障および白内障罹患患者においては、白内障罹患比較対照と比較して、グルタミン酸濃度がほぼ二倍増加していることが判明したこと、グルタミン酸塩濃度と緑内障に起因した失明段階との間において直接的な相関関係があることが表1,及び図1,2と共に示され、グルタミン酸塩濃度が増加すると、NMDAによって媒介された活性化によりニューロンが損傷され得ること、このような神経毒は、緑内障母集団においては増大し、従って、かかる疾病における網膜神経節細胞の破壊とその後の失明に関与することの記載がある。
しかし、緑内障患者ではグルタミン酸塩濃度が相対的に高いという事実が具体的に示され、グルタミン酸塩の中枢神経系のニューロンに対する毒性促進効果が確立されているとしても、そのことからは、単にグルタミン酸塩誘発毒性促進を遮断・阻害する能力がある化合物は緑内障治療に使用できる可能性があるとの推測が可能というだけであって、上記【0016】の「本発明の化合物は、グルタミン酸塩誘発毒性促進を遮断・阻害する能力があり、緑内障を治療する上で有用である可能性は高い。」との記載に見るとおりあくまで「可能性」の域を出るものではない。
そして、神経伝達物質としてのグルタミン酸塩の受容体である、グルタミン酸塩レセプターは、イオンチャンネル共役型と代謝共役型に大別され、それぞれはさらに小分け分類されていて、多数種類があり、NMDAレセプターはその小分け分類されたものの1つにすぎず、グルタミン酸塩誘発網膜神経節細胞喪失のプロセスは単純なものでなく、本願明細書の段落【0022】においても「グルタミン酸塩濃度が増加すると、NMDAによって媒介された活性化によりニューロンが損傷され得る。また、非NMDAレセプターのグルタミン酸塩(またはコンジーナ)による活性化も、網膜神経節細胞喪失の原因になる可能性がある。また仮にNMDA分布が圧倒的であるとしても、非NMDAレセプターのグルタミン酸塩による活性化を制御することは重要となる。」との記載があり、網膜神経節細胞喪失の原因がNMDAレセプターのみに起因するものではないことに言及されている。
そうすると、仮にグルタミン酸塩の増大と、緑内障の網膜神経節細胞喪失に一応の因果関係が推定されたとしても、その推定だけで、グルタミン酸塩とその受容体のうちの1タイプであるNMDAレセプターとの結合を回避さえすれば網膜神経節細胞喪失の抑制(緑内障治療)作用が奏されるとまでの推論が成立するとはいえない。

また、本願発明の化合物のニューロン細胞死滅を低減させる能力に関しては、本願明細書の段落【0028】?【0031】には「インビトロ(in vitro)におけるニューロン細胞死滅測定」と題し、出生後ラットから採取した網膜神経節細胞を使用し、NMDA拮抗物質のグルタミン酸塩の毒性(死滅)防止作用をインビトロで測定することによって、当該物質のニューロン細胞死滅を低減させる能力を測定する方法が記載されているものの、本願発明で使用される化合物について、この測定方法によってグルタミン酸塩毒性防止作用を評価した結果については具体的に示されていない。
段落【0032】【0032】には、本願発明の薬剤の「用法」として、剤型や投与法、1日あたりの有効投与量(0.01から1000mgまで)の記載があるが、それらにより本願発明の化合物のグルタミン酸塩毒性低減作用や緑内障治療効果が裏付けられるものでもない。

そして、上記を含む本願明細書の全記載を精査してもNMDA拮抗物質が緑内障治療に有効であることを客観的に理解するに足りる具体的な薬理データの記載はみあたらず、本出願の優先日当時の技術常識を考慮しても、それと同視すべき程度の記載を見出すことはできない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、NMDA拮抗物質を緑内障治療に利用する点につき、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成、効果が記載されているということはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-22 
結審通知日 2008-07-23 
審決日 2008-08-05 
出願番号 特願平6-514315
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 塚中 哲雄
谷口 博
発明の名称 緑内障の治療  
代理人 清水 初志  
代理人 清水 初志  

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