• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1189628
審判番号 不服2006-25876  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 平成9年特許願第118697号「無電極放電灯点灯装置及び照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年2月24日出願公開、特開平10-55892号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年3月31日(優先権主張平成8年3月29日)の出願であって、平成18年10月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月16日に拒絶査定不服審判が請求され、平成20年7月8日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年9月11日に手続補正がされたものである。

第2 平成20年7月8日付けで通知した拒絶の理由の概要
1.理由A
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項並びに第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)図3?6及び図20は励磁コイル4の規格化インダクタンスに対する相対直下照度の試験結果であって、ランプ電力の試験結果でない。ランプ電力が相対直下照度に比例するとしても、その比例係数は記載されていない。
励磁コイル4のインダクタンスLcとランプ電力Plampのずれについては、段落【0038】にその範囲内であればケーブル長は最適である旨が記載されるのみで、その根拠やデータは明細書に記載されていない。
そうすると、特許請求の範囲に記載される「無電極放電灯の出力」について、・・・(中略)・・・ランプ電力であるとしても、その値の技術的根拠・意義が不明確である。
(2)図3?6及び図20の実験結果は、特定の第1及び第2の整合回路2a,2b、同軸ケーブル5、高周波電源1、励磁コイル4及び放電ランプ3に対しての実験結果である。
そして、各構成要素が上記特定のもの以外の全ての組合せにおいて、必ず、相対直下照度が全ての範囲で1.00となる、更にはランプ電力が10%以内となる、最長でない場合を含んだ、ある特定の線路長の同軸ケーブルが存在するという、論理的説明が充分になされていない。
そうすると、特許請求の範囲に記載される発明特定事項において、必ず上記のような最適の線路長が存在するという充分な説明がなされていない。
(3)図3?6及び図20の実験について、高周波電源1の出力インピーダンス等の特性や同軸ケーブルの特性インピーダンス以外の特性が不明であり、且つ第1及び第2の整合回路2a,2bはどのように設計され、制作(誤差等も含め)されたのかも記載されていない。また、第1及び第2の整合回路2a,2bが、高周波電源1、同軸ケーブル5、励磁コイル4及び放電ランプ3等を含めてどのように設計され、いかなる理由で、最長とは限らない、ある特定の線路長の同軸ケーブル5の時に、励磁コイル4のインダクタンスに5%のずれがあっても、相対直下照度が全く変動しないのか説明も無く、不明確である。
さらに、どのような設計であっても、最長ではない場合を必ず含む、ある特定の線路長の同軸ケーブルが、励磁コイル4のインダクタンスの5%のずれに対してランプ電力が10%以内となる、又は相対直下照度が全く変動しない理由が充分説明されておらず、発明が不明確である。

その上、第1の整合回路2aの出力インピーダンスや第2の整合回路2bの入力インピーダンス、高周波電源1の出力インピーダンスも不明であり、また、段落【0008】には共振を利用するものが通常とするが、このことも必須か否か不明である。
さらに、第1の整合回路2aや第2の整合回路2bと同軸ケーブル5の特性インピーダンスを一致または整合させるとも記載されず、具体的にどのように構成されるのか不明確である。
たとえ、完全に整合させたものとしても、どうして特定の線路長で、励磁コイル4のインダクタンスのずれに対して出力が変動しないのか論理的な説明がない。実験データは、特定のものの結果であるとともに、整合回路やその他のものの製造誤差や特性も不明である。
一方、完全にインピーダンスが50Ωに整合する以外では、同軸ケーブルの長さに応じてインピーダンスが変化するが、本願明細書には、各種の条件が規定されず、且つ、それによりどのように電力の伝送等が変化して、出力が変化しないようになるのか、説明されていない。(出願当初の明細書をみても説明がない。)

2.理由B
本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1 特開平6-310291号公報(基本的構成に関して)
刊行物2 特開平5-325608号公報
(段落【0072】にはマッチング回路と点灯用コイルの共振回路の同調範囲を広くとろうとすることが示され、図16及び17の実施例には、段落【0073】?【0075】の調整方法で調整した点灯装置の出力特性が、点灯用コイルのインダクタンスが20%ずれても出力電力のずれが10%以内となることが示されている。)
刊行物3 特開平1-178247号公報
(RFコイル及び可変コンデンサからなるチューニング部とLC集中定数インピーダンス変換部とをλ/4ケーブルインピーダンス変換部で接続すること、ケーブルは長いほど電力損失が大きく、一方チューニング部のインピーダンス変化の緩衝部として働きRFコイルのインピーダンス変化を緩和すること、さらにケーブルの電力損失を低減すべくケーブル長を短くし、虚部成分をLC集中定数インピーダンス変換部で除去することが示される。)
刊行物4 特開平7-45381号公報
(2段のインピーダンス整合回路とすることで高周波電源から高周波電力供給用コイルに効率よく高周波電力を供給することや、インピーダンス整合回路と同軸ケーブルとで2段のインピーダンス整合回路を構成することが示される。)

刊行物2には、点灯用コイルのインダクタンスが20%ずれても出力電力のずれを10%以内とすることが示されているから、刊行物1に記載のものにおいても同様の特性を得ようとすることは当業者が適宜なし得る設計上の事項である。
本願発明は物の発明であり、刊行物1記載の物も、同軸ケーブルは当然、所定の長さを有する。
また、刊行物3にはケーブルがRFコイルのインピーダンス変化を緩和する緩衝部として働くことが示されているから、また長いと電力損失が大きくなることも示されているから、出力電力のずれを所定内に納めるべく、同軸ケーブルの長さを変えて調べることは、当業者が通常行うことといえる。
また、インピーダンスが完全に整合していない場合、そのインピーダンスはその長さに影響されることは自明であり、刊行物3にも記載されるようにこれを含めてインピーダンス整合を行うことに格別の困難性はない。
刊行物4にも示されるように、インピーダンス整合回路をより多段にすることも、整合回路を同軸ケーブルに置き換えることも、当業者が通常なす設計変更の範囲内といえる。

第3 当審の判断
1.上記第2の1.理由A(特許法第36条第4項並びに第6項第1号又は第2号)について
(1)「第2の1.理由Aの(1)」について
励磁コイル4のインダクタンスLcとランプ電力Plampのずれについては、段落【0038】等に、「ケーブル5を介して第1、第2の整合回路2a、2bを接続する構成において、励磁コイル4のインダクタンスLcを意図的に設計値から2.5%程度ずらし、そのときのランプ電力Plampのずれが設計値(銘板値)の±10%以内であれば、そのときのケーブル長は最適であると判断することができる。」旨の記載があるものの、その具体的な値に対する根拠やデータは明細書に記載されていない。ランプ電力が直下照度に関連するとしても、図3?6や図20の各相対直下照度との具体的関係は示されておらず、正の相関があるとしても、相関係数、ましてや比例係数等は記載されていない。
そうすると、上記「2.5%」及び「±10%」という値に臨界的意義も認められず、かつその値の技術的根拠・意義が不明確である。

(2)「第2の1.理由Aの(2)及び(3)」について
図3?6及び図20の実験結果は、特定の第1及び第2の整合回路2a,2b、同軸ケーブル5、高周波電源1、励磁コイル4及び放電ランプ3に対しての実験結果である。
ア.ランプ電力について
まず、上記実験結果は相対直下照度に関するものであるから、励磁コイル4のインダクタンスLcとランプ電力Plampのずれについて示すものではない。
相対直下照度が全ての範囲で1.00となる場合においてのみ、その可能性を有するものの相対直下照度の誤差がランプ電力にどのように影響するか不明であって、1.00の場合でも本願発明の範囲にはいるか否か明細書及び図面からは不明である。
イ.実験例について
(ア)測定条件等について
また、高周波電源1の構成や出力インピーダンス等の各特性、同軸ケーブルの特性インピーダンス以外の特性、放電ランプ3のガスの種類、ガス圧、ランプ電圧やランプ電流、ランプ電力に対する光束等の諸特性が不明であり、第1及び第2の整合回路2a,2bが誤差、浮遊容量、浮遊インダクタンス等を含めて具体的にどのように制作されているのかも不明であって、実験例の各素子の値の誤差も示されない。
第1の整合回路2aの出力インピーダンスや第2の整合回路2bの入力インピーダンスも不明であって、各部分における整合状態についても何ら記載されておらず、さらに、各種測定条件も不明である。
(イ)伝送線路との整合する場合
伝送線路と第1及び第2の整合回路2a,2bと整合について不明であるが、もし設計時、及び、制作・調整時に、励磁コイルや放電ランプ以外について完全に整合させたものとしても、励磁コイル4のインダクタンスが設計値よりずれる時、各整合回路は受動回路であるから、一方の入力のインピーダンス変化は他方の入力のインピーダンスを変化させるので、その影響は各部に現れるものであって、かつ具体的第1及び第2の整合回路2a,2bの構成や伝送線路の種類、高周波電源の構成によってその影響は変化するものといえる。そして、伝送線路の長さによる影響もこれらの影響を受けることは明らかであって、実験例のみでは励磁コイルのインダクタンスがずれる時、どうして、必ずランプ電力のずれが10%以内となる特定の線路長が採用し得るといえるのか、充分説明するものとはいえない。かつ論理的な説明もない。
(ウ)伝送線路との整合しない場合
一方、伝送線路の特性インピーダンスの50Ωに整合する以外では、同軸ケーブルの長さに応じてインピーダンスが変化するが、本願特許請求の範囲には、各種の条件が規定されず、単にそのような例があったと言うのみでは、どのように電力の伝送等が変化して、出力が変化しないようになるのか、説明されておらず、ランプ電力が変化しない線路長が全ての場合に選択しうるとはいえない。(出願当初の明細書をみても説明がない。)
(エ)上記(ア)で述べたような各種の条件が、上記(イ)や(ウ)で述べるように、実験結果に影響するといえるのであるから、明細書及び図面記載された実験例のみでは、励磁コイルのインダクタンスが設定値から2.5%変動した場合に、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように前記伝送線路の長さが設定出来るとする根拠が不明である。
ウ.実験例以外について
さらに、第1及び第2の整合回路2a,2bについては、基本回路の組み合わせを網羅しておらず、基本回路以外の応用回路についても実験していない。さらに、図20では伝送線路のない(本願発明とは異なる)ものが最適となっている。
高周波電源1、同軸ケーブル、放電ランプ3等についても、実験例に用いたもの以外の全てについて必ず、相対直下照度が全ての範囲で1.00となる、或いは励磁コイル4のインダクタンスに5%のずれがあってもランプ電力のずれが10%以内となる伝送線路の線路長を選択し得ることを証明するものではない。
エ.まとめ
以上のように、各種の第1、第2のインピーダンス整合回路、伝送線路、無電極放電灯、高周波電源、及びに励磁コイルについて、励磁コイルのインダクタンスが設定値から2.5%変動した場合に、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように前記伝送線路の長さが設定出来るとする根拠が不明である。
そうすると、特許請求の範囲には、明細書及び図面に記載された発明が記載されているとはいえない。

以上(1)及び(2)で述べたとおりであるから、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.理由Bについて
(1)本願発明
さらに、平成20年9月11日に手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の進歩性についても検討する。
請求項1「無電極放電灯の近傍に励磁コイルを配置し、励磁コイルに高周波電力を印加して磁界を発生することにより無電極放電灯を点灯する無電極放電灯点灯装置において、前記無電極放電灯の点灯を維持するための高周波電力を発生する高周波電源と、前記高周波電源に接続された第1のインピーダンス整合回路と、前記励磁コイルに接続された第2のインピーダンス整合回路と、前記第1、第2のインピーダンス整合回路の間に接続された伝送線路とを有し、前記第1、第2のインピーダンス整合回路の特性に応じて、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように前記伝送線路の長さが設定されており、更に、前記励磁コイルのインダクタンスが設定値から2.5%変動した場合に、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように前記伝送線路の長さが設定されていることを特徴とする無電極放電灯点灯装置。」

(2)引用刊行物
ア.引用刊行物1
これに対して、当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平6-310291号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図1?8とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 高周波電源と、この高周波電源の出力端間に接続される高周波電力供給用コイルと、この高周波電力供給用コイルの近接に配置されガラスバルブ内に不活性ガス、金属蒸気などの放電ガスを封入した無電極放電灯と、前記高周波電源と前記高周波電力供給用コイルとの間に接続された第1のインピ-ダンス整合回路部とを備えて成る無電極放電灯点灯装置において、前記高周波電源と第1のインピ-ダンス整合回路部との間に介挿される同軸ケ-ブルと、この同軸ケ-ブルと高周波電源との間に接続された第2のインピ-ダンス整合回路部とを構成したことを特徴とする無電極放電灯点灯装置。
【請求項2】 第1及び第2のインピ-ダンス整合回路部は、同軸ケーブルから見た無電極放電灯側の入力インピ-ダンスと、高周波電源側から見た同軸ケーブル側の出力インピ-ダンスと、同軸ケーブルの特性インピ-ダンスとを略一致させたことを特徴とする請求項1記載の無電極放電灯点灯装置。」(特許請求の範囲)
(イ)「従来、無電極放電灯に高周波電磁界を印加して発光させるこの種の無電極放電灯点灯装置は、図1に示すように、高周波電源7の出力端間に接続される高周波電力供給用コイル2と、この高周波電力供給用コイル2の近接に配置されガラスバルブ内に不活性ガス、金属蒸気などの放電ガスを封入した無電極放電灯1と、前記高周波電源7と前記高周波電力供給用コイル2との間に接続されインピーダンス整合を取り反射を少なくするインピ-ダンス整合回路部6とを備えて構成されている。
以下、動作状態を簡単に説明する。高周波電源7からの高周波電圧が無電極放電灯3の球状の外周に沿って近接配置された高周波電力供給用コイル2に印加される。そして、高周波電力供給用コイル2に数MHzから数100MHzの高周波電流を流すことにより、高周波電力供給用コイル2に高周波電磁界を発生させ、無電極放電灯1に高周波電力を供給し、無電極放電灯1内に高周波プラズマ電流を発生させて紫外線もしくは可視光を発生するようになっている。」(段落【0002】及び【0003】)
(ウ)「図1は、本発明の一実施例を示すブロック図である。先の図5に示す従来例と異なる構成は、同軸ケ-ブル13と高周波電力供給用コイル2との間に第1のインピ-ダンス整合回路部9を介挿した点と、高周波電源7と同軸ケ-ブル13との間に第2のインピ-ダンス整合回路部8を介挿した点とである。なお、同一箇所には同一符号を付して重複する説明を省略する。」(段落【0015】)
上記(ア)?(ウ)の記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「無電極放電灯1に高周波電力供給用コイル2を近接配置し、高周波電力供給用コイル2に高周波電圧を印加して高周波電流を流して高周波電磁界を発生させ、高周波電力を供給して無電極放電灯1から紫外線もしくは可視光を発生させる無電極放電灯点灯装置において、
無電極放電灯1内に高周波プラズマ電流を発生させて紫外線もしくは可視光を発生する高周波電力を供給する高周波電源7と、
高周波電源7と高周波電力供給用コイル2との間に接続された第1のインピ-ダンス整合回路部9と、高周波電源7と第1のインピ-ダンス整合回路部9との間に介挿される同軸ケ-ブル13と、この同軸ケ-ブル13と高周波電源7との間に接続された第2のインピ-ダンス整合回路部8を介挿した無電極放電灯点灯装置。」

イ.引用刊行物2
同じく引用され、本願優先日前に頒布された特開平5-325608号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図1?18とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「無電極放電ランプを点灯させるにあたっては、点灯用コイル85での損失を低く抑える必要上、非常にQ(共振の尖鋭度)の高い回路を使用しており、マッチング回路84の構成素子の静電容量や点灯用コイル85のインダクタンスが、温度変化や経時変化によって変動した場合に、回路特性が大きく変化するようになる。このような回路特性の変化により、マッチングずれが生じると、高周波電力の入力波の一部が反射波となって戻ったり、点灯用コイル85でロスが生じ、ランプが始動しなかったり、インバータ部83の素子の破壊を招くようになる。また、ランプ点灯時に回路特性が変化した場合には、電力ロスによりランプの点灯効率を悪化し、光出力が低下するようになる。」(段落【0005】)
(イ)「本発明は、このような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、以下に述べるような目的を達成し得る優れた無電極放電ランプおよび点灯装置および点灯装置の調整方法を提供するものである。
・・・(中略)・・・
(7)マッチング回路と点灯用コイルとの同調範囲を広くとれるようにし、回路動作の安定化を図れるようにする。
(8)調整方法を改善することにより、マッチング回路の素子や点灯用コイルに高精度のものを必要としなくなり、素子の選定を容易にするとともに、回路の安定化を図れるようにする。
これらの目的が達成されることにより、ランプの始動の容易化、インバータ素子の保護、ランプの点灯の安定化、ランプの高効率化、光出力の一定化、回路部品の選定の容易化などが可能となる。」(段落【0007】)
(ウ)「図15に示す無電極放電ランプ点灯装置を説明する。この点灯装置でも、インバータ部33の出力端子がたとえば50Ωの同軸ケーブル68によってマッチング回路69に接続され、このマッチング回路69が点灯用コイル35に接続されている。・・・(中略)・・・
このように、各コンデンサ38,39,65に直列にインダクタンスL1,L2,L3を接続するとともに、これらのインダクタンスL1,L2,L3の値を上式のように設定することにより、マッチング回路69と点灯用コイル35とからなる共振回路の同調曲線にリップルを生じさせ、同調範囲を広くとることができる。これにより、安定にマッチングの調整を行なえる。・・・(中略)・・・また、特に上記入力インピーダンスのリアクタンス成分が概略ゼロにしておくと、同軸ケーブル68に対し、マッチングがとりやすくなり、しかも、その長さを任意に選べる」(段落【0071】及び【0072】)
(エ)「無電極放電ランプ点灯装置の調整方法を図16に基づいて説明する。まず、調整の第1手順では、図中A-A線で回路を切断して、直列コンデンサ38とアース回路70を切り離し、点灯用コイル35に並列コンデンサ39を接続した状態で、並列コンデンサ39と点灯用コイル35との並列共振周波数fp が規定値となるように、並列コンデンサ39の静電容量Cp を調整する。・・・(中略)・・・続いて、直列コンデンサ38とアース回路70を接続した状態で、直列コンデンサ38と並列コンデンサ39および点灯用コイル35の並列回路との直列共振周波数が概略規定値となるように、直列コンデンサ38の静電容量Cs を粗調整する。・・・(中略)・・・続いて、無電極放電ランプを点灯するか、無電極放電ランプの代わりにダミーロードを接続して、インバータ部33から負荷への入力電力または入力電流が規定値となるように、直列コンデンサ38の静電容量Cs を微調整するこれらの調整手順を経て、この点灯装置の調整が完了する。」(段落【0073】)
(オ)「このような調整方法を採用することにより、・・・(中略)・・・点灯用コイル35のインダクタンスLm が±10%程度ずれていたとしても、共振周波数が規定値となるように並列コンデンサ39の静電容量を設定することができ、点灯用コイル35のインダクタンスLm のずれを補償できる。また、各コンデンサ38,39に従来のように±0.5%というような高精度なものが必要なく、部品の選定が容易となる。・・・(中略)・・・
図17は、この調整方法で調整した点灯装置の出力特性の測定結果を示したものであり、点灯用コイル35のインダクタンスLm が±20%ずれたとしても、出力電力の変動は±10%以内に収められている。」(段落【0076】及び【0077】)
カ.「適切な調整方法を採用することで、従来に比べてマッチング回路の素子や点灯用コイルに高精度なものを必要としなくなり、回路定数が多少変動しても、回路の安定動作が確保できるとともに、点灯出力をさらに安定化できる。また、従来に比べて、回路部品の選定が容易となり、製造時の調整も簡素化できる。」(段落【0078】)
ウ.引用刊行物3
同じく引用され、本願優先日前に頒布された特開平1-178247号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、第1?3図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「(1)特性インピーダンスが相違する回路相互間のインピーダンス変換器として、電気的に見た長さがλ/4よりも短い寸法(但し、λ:送波の波長)の同軸ケーブルを前記回路相互間に挿入してなることを特徴とするマッチング回路。」(特許請求の範囲)
(イ)「従来、この種のマツチング回路は、例えば第3図に示すように、RFコイル1と可変コンデンサ2とにより直列共振回路を形成したチューニング部10と、LC集中定数インピーダンス変換部11とを、λ/4同軸ケーブル3により電気的に結合し、このλ/4同軸ケーブルによる固有インピーダンスZ_(0)に従ってチューニング部10とLC集中定数インピーダンス変換部11との相互間のインピーダンス変換を行なうλ/4ケーブルインピーダンス変換部12を構成している。」(第1頁右欄第10?19行)
(ウ)「同時に、インピーダンスZ_(1)はチューニング状態で純抵抗の低インピーダンスなのでインピーダンスZ_(2)は純抵抗の高インピーダンスとなる。
このλ/4同軸ケーブル3の部分は、分布定数回路としてとらえることができ、内部抵抗による電圧降下で大きな電力損失が発生する。そして、λ/4同軸ケーブル3の長さが長くなる程、その電力損失が更に大きくなる。
これは、同時にチューニング部のインピーダンス変化の緩衝部としての役割を持つことになるから、従来、MRI装置において被検者や部品毎によるRFコイルのインピーダンス変化を緩和させることに役立たせていた。」(第2頁左上欄第11行?右上欄第3行)
(エ)「本発明によるマツチング回路では、同軸ケーブルのインピーダンス変換をλ/4以下でするためケーブル長に依存する電力損失が大幅に軽減される。
この際、同軸ケーブルがλ/4になることによって残存する虚部成分はLC集中定数回路により除去すれば良い。
(実施例)
第1図は本発明の一実施例のマッチング回路の概略構成を示す回路図である。
この一実施例のマッチング回路は、チューニング部10とLC集中定数インピーダンス変換部11との間でインピーダンス変換を行なうため、電気的に見た長さがλ/4よりも短い寸法(但しλ:送波の波長)の同軸ケーブル4をチューニング部10とLC集中定数インピーダンス変換部11との相互間に挿入してケーブルインピーダンス変換部14を構成している。なお、同図において、1はRFコイル、2は可変コンデンサであり、第3図の従来例同様に直列共振回路を形成する接続構成である。
この一実施例の如くマッチング回路を構成した際、同軸ケーブル4により得られるLC集中定数インピーダンス変換部12側のインピーダンスZ_(2)は、チューニング部11をチューニングした時に純抵抗とならず、虚部成分を含む。
そのため、ケーブルインピーダンス変換部14では、ケーブルの高周波損失が従来に比して小さくなり、これにより電力損失が大幅に軽減される。
この場合、ケーブルインピーダンス変換部14によるインピーダンス変換後に、LC集中定数インピーダンス変換部11において、マッチングをとることにより変換インピーダンスZ_(2)から虚部成分を除去する補償作業を行なえばよい。
このようにして、LC集中定数インピーダンス変換部11では、後述するMRI装置の静磁場下の被検体の存在や部品構造に起因するRFコイル1のインピーダンス変化の緩衝部としての役割りを持つことになる。
また、LC集中定数インピーダンス変換部11に対し、インピーダンス変化の緩衝部として機能させる場合、同軸ケーブル14の高周波電力損失と不可分の関係にあるので、同軸ケーブル4の長さlを最適に選ぶことにより、上記高周波損失並びに緩衝の程度を任意に選択することができる。」(第2頁右上欄第19行?第3頁左上欄第3行)

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「高周波電力供給用コイル2」は、その機能・構造からみて、前者の「励磁コイル」に相当し、以下同様に、後者の「第1のインピ-ダンス整合回路部9」は前者の「第2のインピーダンス整合回路」に、後者の「第2のインピ-ダンス整合回路部8」は前者の「第1のインピーダンス整合回路」に、後者の「同軸ケ-ブル13」は前者の「伝送線路」にそれぞれ相当する。
また、後者の「無電極放電灯1に高周波電力供給用コイル2を近接配置し、高周波電力供給用コイル2に高周波電圧を印加して高周波電流を流して高周波電磁界を発生させ、高周波電力を供給して無電極放電灯1から紫外線もしくは可視光を発生させる」ことは、前者の「無電極放電灯の近傍に励磁コイルを配置し、励磁コイルに高周波電力を印加して磁界を発生することにより無電極放電灯を点灯する」ことに相当し、後者の「無電極放電灯1内に高周波プラズマ電流を発生させて紫外線もしくは可視光を発生する高周波電力を供給する高周波電源7」は前者の「無電極放電灯の点灯を維持するための高周波電力を発生する高周波電源」に相当する。
さらに、後者の「高周波電源7と高周波電力供給用コイル2との間に接続された第1のインピ-ダンス整合回路部9と、高周波電源7と第1のインピ-ダンス整合回路部9との間に介挿される同軸ケ-ブル13と、この同軸ケ-ブル13と高周波電源7との間に接続された第2のインピ-ダンス整合回路部8を介挿」する接続態様は、前者の「高周波電源に接続された第1のインピーダンス整合回路と、励磁コイルに接続された第2のインピーダンス整合回路と、第1、第2のインピーダンス整合回路の間に接続された伝送線路とを有」する接続態様に対応する。
そうすると、両者は、「無電極放電灯の近傍に励磁コイルを配置し、励磁コイルに高周波電力を印加して磁界を発生することにより無電極放電灯を点灯する無電極放電灯点灯装置において、前記無電極放電灯の点灯を維持するための高周波電力を発生する高周波電源と、前記高周波電源に接続された第1のインピーダンス整合回路と、前記励磁コイルに接続された第2のインピーダンス整合回路と、前記第1、第2のインピーダンス整合回路の間に接続された伝送線路とを有する無電極放電灯点灯装置。」である点で一致し、以下の点で相違しているものと認められる。
本願発明が「前記第1、第2のインピーダンス整合回路の特性に応じて、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように前記伝送線路の長さが設定されており、更に、前記励磁コイルのインダクタンスが設定値から2.5%変動した場合に、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように前記伝送線路の長さが設定されている」のに対して、引用発明はそのようなものではない点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.引用刊行物2には、同軸ケーブル68や点灯用コイル35に接続されるマッチング回路69を有する無電極放電ランプ点灯装置において、「点灯用コイル85のインダクタンスが、温度変化や経時変化によって変動した場合に、回路特性が大きく変化」し「このような回路特性の変化により、マッチングずれが生じると、高周波電力の入力波の一部が反射波となって戻ったり、点灯用コイル85でロスが生じ、ランプが始動しなかったり、インバータ部83の素子の破壊を招くようになる。また、ランプ点灯時に回路特性が変化した場合には、電力ロスによりランプの点灯効率を悪化し、光出力が低下するようになる」((2)イ.(ア)参照)こと、そのために、「マッチング回路と点灯用コイルとの同調範囲を広くとれるようにし、回路動作の安定化を図れるように」((2)イ.(イ)参照)、「マッチング回路69と点灯用コイル35とからなる共振回路の同調曲線にリップルを生じさせ、同調範囲を広くと」り「安定にマッチングの調整を行なえる」ようなすことが示されている。
上記事項は点灯用コイル85のインダクタンスが変動しても、マッチングがずれて電力ロス、ランプの点灯効率を悪化、光出力が低下等を生じないようにすることといえ、第1のインピ-ダンス整合回路部9や第2のインピ-ダンス整合回路部8を有する引用発明において、同様に高周波電力供給用コイル2のインダクタンスが変動しても、マッチングがずれて電力ロス、ランプの点灯効率を悪化、光出力が低下等を生じないように設計しようとすることは、当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことといえる。
また、引用刊行物2には調整によって「点灯用コイル35のインダクタンスLm が±20%ずれたとしても、出力電力の変動は±10%以内に収められ」るようなすことも示されており、上記インダクタンスが変動したときの、マッチングがずれて電力ロス、ランプの点灯効率を悪化、光出力が低下等を防止する指標として、上記事項を参考にすることも当業者にとって格別のこととはいえない。同調範囲を広くとることができるインピ-ダンス整合回路は、上記引用刊行物2のみならず引用刊行物3にも記載されるように当業者にとって格別のものではない。
本願発明のカテゴリーが物の発明であるところ、引用発明が上記のようになされるときも、同軸ケーブル14は接続されているから、ある長さを有した伝送線路を有する無電極放電灯点灯装置であり、本願発明の「励磁コイルのインダクタンスが設定値から2.5%変動した場合に、前記無電極放電灯のランプ電力のずれが設計値の±10%以内になるように伝送線路の長さが設定され」ている構成を有するといえる。
イ.また、引用刊行物3には、RFコイル1を含むチューニング部10と同軸ケーブル4とLC集中定数インピーダンス変換部11からなるマッチング回路において、同軸ケーブル4はチューニング部10のインピーダンス変化の緩衝部としての役割を持ち、部品毎によるRFコイル1のインピーダンス変化を緩和させると同時に、その長さが長くなる程その電力損失が大きくなること、同軸ケーブル4をλ/4よりも短い寸法としつつその長さlを最適に選ぶことにより、高周波損失並びに緩衝の程度を任意に選択することができること、その際LC集中定数インピーダンス変換部11において、マッチングをとることにより変換インピーダンスZ_(2)から虚部成分を除去する補償作業を行なうこと等が示されており、同軸ケーブル4の長さとLC集中定数インピーダンス変換部11を合わせて調整することが示されているともいえる。
上記引用刊行物2には励磁コイルのインダクタンスが変動してもマッチングがずれることによる影響を除こうとすることが記載されているのであるから、引用発明において、励磁コイルのインダクタンスが変動による影響を除くように構成するに際し、同軸ケーブルの長さによってインピーダンス変化の緩衝部とするとともに、これにつながる第1のインピ-ダンス整合回路部と第2のインピ-ダンス整合回路部の特性に合わせたものとすることは当業者が容易になし得たことである。同軸ケーブルの長さによってマッチングをとりランプ電力のずれを制限しようとすることが格別であるとはいえない。
ウ.なお、本願発明の図3?6及び図20の実験例は、特定の回路構成における、特定の各構成要素の定数についてのみ実験したものであって、上記1.(1)で述べたように各数値に格別の臨界的意義を有するものではなく、かつ、上記1.(2)で述べたように、励磁コイル4のインダクタンスLcを意図的に設計値から2.5%程度ずらし、そのときのランプ電力Plampのずれが設計値(銘板値)の±10%以内となる伝送線路の長さを必ず設定し得る構成を充分に開示するものでもなく、上記するように引用刊行物2や3には励磁コイルのインダクタンスの変動等のマッチングがはずれるような場合に、それによる出力への影響を防止しようとすることが示されているのであって、更には引用刊行物3には伝送線路の長さで緩衝することが示されているので、単に2.5%変動した場合に±10%以内になるように伝送線路の長さを設定することに格別の困難性は認められない。

そして、本願発明を全体としてみても、その効果が格別であるとは認められない。

(4)まとめ
以上のように、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明並びに引用刊行物2及び3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第1項第2号又は第4号に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-30 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-20 
出願番号 特願平9-118697
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H05B)
P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 光治  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 岸 智章
平上 悦司
発明の名称 無電極放電灯点灯装置及び照明装置  
代理人 本田 崇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ