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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D05B
管理番号 1189661
審判番号 不服2007-16221  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-11 
確定日 2008-12-15 
事件の表示 平成10年特許願第137477号「ミシンの糸切断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月9日出願公開、特開平11-309289号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は、平成10年4月30日の出願であって、平成19年2月5日付け拒絶理由通知に応答して、平成19年4月13日付けで明細書を対象とする手続補正がなされたが、平成19年5月9日付けで拒絶査定され、平成19年6月11日にこれを不服として審判請求がなされたものである。

2. 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成19年4月13日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は、次のとおり記載されている。

「釜から針板の針穴を通り縫製枠に張設された加工布に連なる下糸を前記釜と前記針穴との間で切断する糸切断装置を備えたミシンの糸切断方法において、
前記釜と前記針穴との間の下糸の弛みを取るために、針の落下位置が移動前位置(P0)から第1位置(P1)に移動するように、前記縫製枠を第一所定量移動させてから、前記糸切断装置で下糸を切断し、
前記切断した後の前記加工布に連なる下糸の先端を前記針穴から抜き前記針板の上に載せるために、針の落下位置が前記第1位置(P1)から第2位置(P2)に移動するように、前記縫製枠を前記第一所定量移動させた方向と一致する方向へさらに第二所定量移動させることを特徴とするミシンの糸切断方法。 」(以下この発明を「本願発明」という。)

3. 刊行物の記載事項
(3-1) 刊行物1に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-198088号公報(以下「刊行物1」という。)の段落【0004】?【0008】、【0010】、【0011】、【0015】、【0019】、【0021】、【0022】には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の自動ミシンにおける上糸及び下糸の切断はこのようになされるが、その際、X-Y送りは停止しており、動メス9の捌きによる糸の弛み除去について特別な工夫はなされていない。即ち、図7(3)に示すように捌かれて(4)に示すように屈曲した下糸には、下糸自体の復元力以外には大きな力が働かないので、矢印Aで示すように、時には十分に復帰することができないことがある。そのような場合には、動メス9が(5)に示す最後退位置から(6)に示すように復動するときに、屈曲状態の下糸が糸手繰り部9bに糸掛けされず、(8)に示すように、下糸が切断されないことがある。
【0005】
ところで、動メス9が糸を捌くときの軌跡を、矢印Aで示すような糸の弛みを生じないものにすればよいのであるが、現実的には非常に困難である。
【0006】
この発明は、動メスに捌かれて屈曲した下糸の復元不足による糸手繰り部への糸掛けミスを防ぎ、布側上糸及び下糸を確実に切断することのできる自動ミシンにおける糸切断装置を提供することを目的としている。」
(b)「【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明の自動ミシンにおける糸切断装置は、動メスによる糸切断動作時にX-Y駆動装置を若干作動させて切断対象糸を緊張させるようにしたものである。
【0008】
【作 用】
上記のように構成された自動ミシンにおける糸切断装置においては、動メスが往動して下糸、布側上糸の順に捌かれると、X-Y駆動装置が若干作動し、切断対象糸が緊張される。その後、動メスが復動を開始し、布側上糸、下糸の順に糸手繰り部に糸掛けがなされ、布側上糸、下糸の切断が行なわれる。」
(c)「【0010】
この発明の糸切断装置は、図1に示すごとき自動ミシン、即ち、記憶装置にX-Y座標値として記憶された縫製パターンのデーターに基づき、上押え1及び下押え2よりなる被縫製物保持用布押えとミシン頭部3を相対的に移動させる自動ミシンに設置されるものである。そして、この発明においては、動メス糸捌き終了後のミシン上軸の最終回転時に、縫製パターンのデーターとは別個の記憶装置に記憶されたデーターに従ってX-Y駆動装置を若干駆動するようにすることが重要である。なお、図示の自動ミシンにおけるX-Y駆動装置は、ベット5の内部に取付けられたX軸パルスモーター6とY軸パルスモーター7とよりなり、これらのパルスモーター6、7によって、作業台4の上に位置する上押え1及び下押え2は、針棒8に対してX-Y駆動される。」
(d)「【0011】
この自動ミシンは、ボビンの下糸導出点と中釜剣先との間に針落ち位置がある半回転釜(以下、広義のDB仕様の半回転釜という)を有しており、その糸切断装置は、図2に示すように、作業者(紙面上手前側)から見て図示省略した支軸が針穴Oの右側前方にあり、糸手繰り部9bを手前に向けて待機する動メス9と、動メス9と共働して布側上糸及び下糸を切断する固定メス10とより構成されており、上糸及び下糸は切断の際に、大釜上ばね11の孔12によって制御される。」
(e)「【0015】
図4における丸数字1は、針先の動きを示す曲線であり、既サインカーブの軌跡を有し、上死点は上軸角度0°のときである。また、丸数字2は針板の位置を示し、丸数字3はX-Y送りの動作区間である。ところで、ミシン上軸には上軸角度50°を示す上位置信号丸数字4を発信する図示省略したセンサーと、上軸角度135°を示す下位置信号丸数字5を発信する図示省略したセンサーが取り付けられており、X-Y送りの駆動は、これらのセンサーの信号により、針が針板より上昇しているときに行なわれるように中央処理装置(CPU)により制御される。」(丸数字は丸数字1などとした。)
(f)「【0019】
最終布送りが行われた後にCPUが上軸角度135°の下位置信号丸数字5を検出すると、糸切断カム信号丸数字6がオンとなり、動メス9が図3(1)に示す待機状態から(2)?(4)に示すように往動し、下糸、布側上糸は順に捌かれる。糸切断カム信号丸数字6のオンと同時にタイマーが作動し、所定時間を計時した後に、図3(5)の矢印に示すようにX-Y駆動が行われ、切断対象糸が緊張される。そして、図3(6)に示すように、動メス9が復動を開始し、布側上糸、下糸は順に糸手繰り部9bに掛けられ、(7)に示すように、上糸が天秤により引き上げられた後、(8)に示すように、布側上糸、下糸の切断が行なわれる。そして、上位置信号丸数字4によりミシン上軸が停止し、糸切断カム信号丸数字6がオフとなる。」(丸数字は丸数字1などとした。)
(g)「【0021】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載するような効果を奏する。
【0022】
即ち、動メスによる糸切断動作時にX-Y駆動装置を若干作動させて切断対象糸を緊張させるようにしたので、動メス捌き時に発生する糸の弛みを除去することができ、動メスの糸手繰り部への糸掛けが確実になされ、布側上糸、下糸を確実に切断することができる。」
そして、上記各記載並びに図3及び4から次の事項は明白である。
・特に摘示事項(c)、(f)、(g)から、X-Y駆動装置は、ベット5の内部に取付けられたX軸パルスモーター6とY軸パルスモーター7とよりなり、これらのモーターによって作業台4の上に位置する上押え1及び下押え2が針棒8に対してX-Y駆動されるように構成されており、下糸切断時には、X-Y駆動装置が作動することによって、上押え1及び下押え2とが所定量移動して切断対象糸の弛みが除かれること。

したがって、刊行物1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「半回転釜から針板の針穴を通り上押え1と下押え2により張設された被縫製物に連なる下糸を前記半回転釜と前記針穴との間で切断する糸切断装置を備えたミシンの糸切断方法において、
前記半回転釜と前記針穴との間の下糸の弛みを取るために、上押え1と下押え2とを一定量移動させてから、糸切断装置で下糸を切断するミシンの糸切断方法。」

(3-2) 刊行物2に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開昭61-063762号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「(発明が解決しようとする問題点)
前記従来の技術で説明したように、刺しゅう枠が停止した最終縫目の位置で刺しゅう糸の糸切りをする場合、糸切り装置のフックと刺しゅう糸がうまくかみ合わずに糸切り装置が刺しゅう糸を切らない糸切りミスを発生ずるという問題点があった。また、最終縫目の位置で刺しゅう糸の糸切りをした場合、次の運針によって、新、旧の刺しゅう糸が損傷するという問題点があった。さらに、切断された刺しゅう糸の糸尻をそのまま垂下させた状態にしておいた場合、次の運針始動時において、布にささった針と新しい糸との間に切断された糸尻が入り込んで、針が上昇するとき、新しい刺しゅう糸が針から抜けてしまうという問題点があった。
本発明はこれらの前記従来の問題点を解決するものである。」(第2頁左上欄第11行?右上欄第7行)
(b)「(問題点を解決するための手段)
本発明は、刺しゅう機が刺しゅう用データに含まれる色換コードもしくは終了コードを読み取ったときに、刺しゅう枠に対する通常枠出力を停止して、刺しゅう枠を前記色換コードもしくは終了コードを読取り時点の位置から予め演算された移動量で移動させるための糸切りステッチバック信号を出力して、刺しゅう枠を今まで縫ってきた方向に移動させた状態で、刺しゅう機の糸切り装置で刺しゅう糸を切断させ、そのあと、前記糸切りステッチバック信号の反対量の信号を出力して前記刺しゅう枠を前記色換コードもしくは終了コード読取り時点の停止位置まで戻したあと、刺しゅう枠を任意の一定方向に一定移動量で往復させ前記糸切り装置によって切断された刺しゅう糸の糸尻を確実に処理するための糸抜き制御を行うことを特徴とする刺しゅう機における糸切りステッチバック制御方法を前記問題点の解決手段とする。」(第2頁左上欄第8行?左下欄第5行)
(c)「以上のように、刺しゅう機が刺しゅうする工程において、色換コード、もしくは、終了コードを読み込んだ場合に刺しゅう糸を切断するに際して、刺しゅう枠を最終縫目の位置から予め演算された移動量で移動させることによってステッチを戻し、その状態で刺しゅう機の糸切り装置を刺しゅう糸と係合させることによって、確実に刺しゅう糸を切断することを可能にし、さらに、次の運針開始時の針の位置が、刺しゅう糸の切断位置と異なる位置となるため、色換された刺しゅう系、もしくは、その前の刺しゅう糸が損傷することが解決される。また、前記糸抜き制御をするため、糸が布と針板の間に入り込むことによって、次の運針開始時に切断された刺しゅう糸の糸尻と新しい刺しゅう糸との干渉がなくなり、新しい刺しゅう糸が針から抜けてしまうことが解決される。」(第6頁右下欄第17行?第7頁左上欄第12行)
(d)「なお、本実施例においては、糸切りステッチバック戻し信号によって刺しゅう枠を糸切りステッチバックさせる前の位置に戻したあと、刺しゅう枠3を例えば、Y軸方向に一定移動量で往復させ、切断された刺しゅう糸の糸尻を布と針板の間に入り込ませる糸抜き動作を行っているが、プログラムを部分的に変更することによって前記糸切りステッチバック信号の中に、予め糸抜き動作のための往復移動のうちの復移動量分を含めておき、刺しゅう枠を糸切りステッチバック移動量と糸抜き動作のための復移動量分を含めた移動量で移動させるとともに、前記糸切りステッチバック戻し信号の中に、予め糸抜き動作のための往復移動のうらの往移動量分を含めておき、刺しゅう枠3を前記色換コード、もしくは終了コード読取り位置まで戻すことによって、前記糸抜き動作を行わせることも可能である。」(第7頁左上欄第13行?右上欄第9行)

したがって、刊行物2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「刺しゅう機が刺しゅう用データに含まれる色換コードもしくは終了コードを読み取ったときに、刺しゅう枠を停止して、刺しゅう枠を今まで縫ってきた方向に移動させた状態で、糸切り装置で刺しゅう糸を切断し、その後、刺しゅう枠を前記色換コードもしくは終了コード読取り時点の停止位置まで戻したあと、刺しゅう枠を任意の一定方向に一定移動量で往復させ前記糸切り装置によって切断された刺しゅう糸の糸尻を布と針板との間に入れ込むことで糸抜き処理を行う方法。」

4. 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、その文言上の意義、構造及び機能等からみて、引用発明1における「上押え1と下押え2」、「被縫製物」は、本願発明の「縫製枠」、「加工布」とにそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「半回転釜」は、釜の一種であるから本願発明の「釜」に含まれる。
そして、縫製枠を移動させることは針の落下位置を移動させることにほかならないから、引用発明1の「上押え1及び下押え2とが所定量移動」することは、本願発明の、「針の落下位置が移動前位置(P0)から第1位置(P1)に移動するように、前記縫製枠を第一所定量移動」することに相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

〈一致点〉
「釜から針板の針穴を通り縫製枠により張設された加工布に連なる下糸を前記釜と前記針穴との間で切断する糸切断装置を備えたミシンの糸切断方法において、
前記釜と前記針穴との間の下糸の弛みを取るために、針の落下位置が移動前位置(P0)から第1位置(P1)に移動するように、縫製枠を一定量移動させてから、糸切断装置で下糸を切断するミシンの糸切断方法。」
〈相違点〉
本願発明においては、「切断した後の前記加工布に連なる下糸の先端を前記針穴から抜き前記針板の上に載せるために、針の落下位置が前記第1位置(P1)から第2位置(P2)に移動するように、前記縫製枠を前記第一所定量移動させた方向と一致する方向へさらに第二所定量移動」させるのに対して、引用発明1においては切断後の縫製枠の移動については明確でない点。

5. 相違点についての検討及び判断
本願発明の相違点に係る構成の技術的意義について検討する。
本願の明細書の段落【0011】、【0012】、【0013】、【0024】及び【0033】には、本願発明の相違点に係る構成に関して次のように記載されている。
「【0011】
前記切断した後の前記加工布に連なる下糸の先端を前記針穴から抜き前記針板の上に載せるために前記縫製枠をさらに第二所定量移動させることが好ましい。」
「【0012】
前記第二所定量としては、特に限定されないが、前記糸切断装置による下糸の切断位置と、前記針穴の前記針板上面側開口縁との間隔に応じて設定することが好ましい。下糸の伸縮しやすさにもよるが、前記第二所定量が該間隔よりも短すぎると前記下糸の先端を前記針板の上に載せることができないからである。」
「【0013】
前記縫製枠を前記第二所定量移動させる方向としては、前記切断した後の前記加工布に連なる下糸の先端を前記針穴から抜き前記針板の上に載せることができる方向であれば特に限定されないが、該第二所定量移動させる方向を前記第一所定量移動させる方向に一致させると、前記第二所定量を最少に設定することができるため好ましい。」
「【0024】
また、ステップS34で下糸11の弛みをとるために縫製枠4をX方向に第一所定量X1(約5mm)移動させた後の位置P1から、ステップS36でさら同方向に位置P2まで第二所定量X2(約7.7mm)移動させて、切断した後の加工布Wに連なる上糸10a及び下糸11の先端を針穴5aから抜き針板5の上に載せるようにしている。従って、ステップS34で一旦位置P0まで戻してから、再度第一所定量X1と第二所定量X2とを合計した量(約12.7mm)を移動するよりも縫製枠4の移動距離を短くでき、その処理時間を短縮することができる。」
「【0033】
上記効果に加え、請求項2の発明に係るミシンの糸切断方法によれば、切断した後の加工布に連なる糸の先端を針穴から抜き針板の上に載せるときの処理時間を短縮することができる。」

これらの記載からみて、本願発明の相違点に係る構成の技術的意義は、縫製枠を第一所定量移動させて下糸を切断した後に、さらに同方向へ縫製枠を第二所定量移動させることにより、短時間で加工布に連なる下糸の先端を針穴から抜いて針板の上に載せることにあると解することができる。
一般に、サーボモータ等を用いた制御系による位置制御方法において、原点から第1位置及び第2位置に順次位置決めするに当たり、第1位置に位置決め後、いったん原点に復帰させた後第2位置に位置決めすることも、あるいは、第1位置に位置決め後、原点に復帰させることなく直ちに第2位置に位置決めすることも、制御系の制御特性や、要求される位置決め精度等に応じ、本願出願前より広く採用されている事項である。
この点を踏まえれば、引用発明2の糸切断後の縫製枠の移動形態については、糸切断位置(本願の用語では第1位置(P1))から停止信号を受け取った位置(本願の用語では移動前位置(P0))に復帰させた後に糸抜き位置(本願の用語では第2位置(P2))に移動することも、糸切断位置(本願の用語では第1位置(P1))からただちに糸抜き位置(本願の用語では第2位置(P2))に移動することも当業者であればいずれも制御系の制御特性や、要求される位置決め精度等に応じて採用し得るといえる。
しかも、刊行物2には、「本実施例においては、糸切りステッチバック戻し信号によって刺しゅう枠を糸切りステッチバックさせる前の位置に戻したあと、刺しゅう枠3を例えば、Y軸方向に一定移動量で往復させ、切断された刺しゅう糸の糸尻を布と針板の間に入り込ませる糸抜き動作を行っているが、プログラムを部分的に変更することによって前記糸切りステッチバック信号の中に、予め糸抜き動作のための往復移動のうちの復移動量分を含めておき、刺しゅう枠を糸切りステッチバック移動量と糸抜き動作のための復移動量分を含めた移動量で移動させるとともに、前記糸切りステッチバック戻し信号の中に、予め糸抜き動作のための往復移動のうちの往移動量分を含めておき、刺しゅう枠3を前記色換コード、もしくは終了コード読取り位置まで戻すことによって、前記糸抜き動作を行わせることも可能である。」(刊行物2の摘記事項(d))として、糸切断位置と糸抜き位置を連続的に移動することも示唆されており、引用発明1に引用発明2の糸抜き処理を適用するに際し、停止信号を受け取った位置(原点)に復帰させなければ、糸切断位置から糸抜き位置に位置決めすることができないといった特段の事情も見当たらない。
一方、本願明細書を参酌しても、「針の落下位置が前記第1位置(P1)から第2位置(P2)に移動するように、前記縫製枠を前記第一所定量移動させた方向と一致する方向へさらに第二所定量移動させる」ために、ミシン刺繍枠の制御系に特定の技術的手段を採用したものとも解することはできず、また、糸抜きをするためには、糸切断位置より、さらに刺繍枠を離隔させる必要があることは、明白なことであるから、上述のように引用発明1に引用発明2の糸抜き処理を適用するに際し、糸切断位置に所定量移動させた方向と一致する方向へさらに所定量移動させて糸抜き位置とすることは、当業者が具体化に当たり適宜採用し得る程度の事項にすぎないものである。

6. むすび
本願発明を全体構成でみても引用発明1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-07 
結審通知日 2008-10-14 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願平10-137477
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 佐野 健治
遠藤 秀明
発明の名称 ミシンの糸切断方法  
代理人 松原 等  

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