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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1189853
審判番号 不服2006-2925  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-16 
確定日 2008-12-22 
事件の表示 特願2000-24305「分解性高吸水性複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年8月7日出願公開、特開2001-212899〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年2月1日の出願であって、平成18年1月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成18年2月16日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年3月20日付けで手続補正書が提出された後、平成19年11月28日付けで審尋がなされ、平成20年1月24日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年3月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年3月20日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 平成18年3月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により特許請求の範囲の補正前の請求項1、16、18及び19について補正がされた。その請求項1は以下のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。
「吸収体層(A層)を支持体層(B層)上に積層してなる分解性高吸水性複合体であって、
前記吸収体層(A層)が架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)表面の少なくとも一部をミクロフィブリル状セルロース(a-2)により被覆した複合体を含んで構成され、
前記支持体層(B層)が分解性支持体層であり、
前記架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)に対する前記ミクロフィブリル状セルロース(a-2)の割合は、0.3重量%を越えて20重量%以下であることを特徴とする、分解性高吸水性複合体。」(以下、「本願補正発明」という。)

2 拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1は以下のとおりである。
「吸収体層(A層)を支持体層(B層)上に積層してなる分解性高吸水性複合体であって、
前記吸収体層(A層)が架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)表面の少なくとも一部をミクロフィブリル状セルロース(a-2)により被覆した複合体を含んで構成され、
前記支持体層(B層)が分解性支持体層であることを特徴とする、分解性高吸水性複合体。」(以下、「本願発明」という。)

3 補正の目的要件について
特許請求の範囲についてする補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号に規定する要件に該当するためには、「発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であることが必要である。
そして、「発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であるといい得るためには、補正前の請求項における「発明を特定するための事項」の一つ以上を、概念的により下位の「発明を特定するための事項」とする必要がある。
そこで検討すると、本件補正は、補正前の本願発明に対し、補正により「前記架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)に対する前記ミクロフィブリル状セルロース(a-2)の割合は、0.3重量%を超えて20重量%以下である」を追加して本願補正発明とすることを含むものであるが、補正前の請求項1には、「前記架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)に対する前記ミクロフィブリル状セルロース(a-2)の割合」に関連する何らかの規定が存在しない。
すなわち、本件補正において「前記架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)に対する前記ミクロフィブリル状セルロース(a-2)の割合は、0.3重量%を超えて20重量%以下である」という要件を追加する補正が認められるためには、本件補正前の特許請求の範囲における請求項1に、「前記架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)に対する前記ミクロフィブリル状セルロース(a-2)の割合」に関連する何らかの規定がなされていることが必要であるが、それらの規定は本件補正前の特許請求の範囲における請求項1には存在しないのである。
したがって、「前記架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)に対する前記ミクロフィブリル状セルロース(a-2)の割合は、0.3重量%を超えて20重量%以下である」という要件を追加する補正事項は、補正前の請求項における「発明を特定するための事項」の一つ以上を、概念的により下位の「発明を特定するための事項」とする補正であるとは認められない。
また、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明の何れにも相当しない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

4 独立特許要件について
以上のとおり、本件補正は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するため、却下されるべきものであるが、以下、念のため、進んで本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(本願補正発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(すなわち、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条5項の規定に違反するか)否かについて、検討する。

(1) 刊行物1の記載事項
特開平10-168230号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a) 「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および水膨潤性固状体を主成分とし、前記水膨潤性固状体の表面の少なくとも一部が前記ミクロフィブリルにより被覆されていることを特徴とする複合体組成物。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
(b) 「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および水膨潤性固状体粒子を主成分とし、前記水膨潤性固状体粒子が相互に前記ミクロフィブリルにより結合されていることを特徴とする複合体組成物。」(特許請求の範囲の【請求項2】)
(c) 「前記水膨潤性固状体が高分子吸収体である請求項1または2に記載の複合体組成物。」(特許請求の範囲の【請求項3】)
(d) 「前記高分子吸収体に対する前記ミクロフィブリルの割合が、重量比で0.5?20/100である請求項3?6のいずれか1項に記載の複合体組成物。」(特許請求の範囲の【請求項7】)
(e) 「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および高分子吸収体粒子を主成分とし、前記高分子吸収体粒子が相互に、前記ミクロフィブリルにより結合された構造を有している複合体組成物と、この複合体組成物を支持するシート状支持体とを備えていることを特徴とする高吸水性シート材料。」(特許請求の範囲の【請求項8】)
(f) 「水膨潤性固状体の膨潤を抑制し、かつセルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリルを水和分散できる、水相溶性のある有機溶媒と水との混合溶媒からなる分散媒体中に、前記水膨潤性固状体および前記ミクロフィブリルを分散させ、得られた分散液から前記水膨潤性固状体および前記ミクロフィブリルを前記混合溶媒から分離し、ついで脱溶媒したのち乾燥させることを特徴とする複合体組成物の製造方法。」(特許請求の範囲の【請求項15】)
(g) 「前記水膨潤性固状体が高分子吸収体である請求項15に記載の方法。」(特許請求の範囲の【請求項16】)
(h) 「前記分散液をシート状支持体上に塗布し、ついで脱溶媒したのち乾燥させ、これにより前記シート状支持体上に高分子吸収体とミクロフィブリルとの高吸水性複合体を形成させる請求項16?19のいずれか1項に記載の方法。」(特許請求の範囲の【請求項20】)
(i) 「【産業上の利用分野】本発明は、水膨潤性を有する固状体、とくに粉末状からペレット状に至る種々のサイズおよび形態の粒子の保存性や取扱い性を向上させた、新たな形態の複合体組成物に関する。さらに本発明は、この複合体組成物からなる、あるいはこれを使用して構成された、従来の吸収体とはまったく形態を異にする新規な高吸水性複合体組成物、ならびにこの高吸水性複合体組成物を主たる吸収体とする高吸水性複合体に関する。この高吸水性複合体は、通常の高吸水体と同様に、幼児用および成人用オムツ、女性用生理用品、あるいはメディカル用の血液吸収体等の吸収体製品に広く用いることができ、いわゆる高吸水性高分子を利用した、パルプレスの薄型複合体として有用である。また本発明は、このような複合体組成物を製造する方法にも関する。」(段落【0001】)
(j) 「吸収体製品に用いられている水分や体液を吸収する吸収体主成分としては、従来よりフラッフ状木材パルプと、いわゆる高分子吸収体(以下「SAP」と略称する)との組合せから成り立っている。」(段落【0002】)
(k) 「この複合体組成物は、単独で種々の形態、たとえば粉末状、粒子状、ペレット状、シート状もしくは任意の形状の三次元構造物等の形態に成形することが可能であるが、不織布のような任意のシート状支持体をベースとしてその上にシート状に成形することもできる。」(段落【0010】)
(k’) 「本発明の複合体組成物は、基本的には、水膨潤性を有する固状体と、これを被覆するミクロフィブリルとの複合体である。水膨潤性を有する固状体としては、種々の多糖類、凝集剤、あるいは高分子吸収体(SAP)等がある。中でもSAPは、そのきわめて大きい吸水性から、取扱いや保存が容易でないが、本発明にしたがってミクロフィブリルで被覆することにより、このような問題が解消される。またSAP粒子を相互にミクロフィブリルで結合した構造は、ミクロフィブリルが各SAP粒子を所定の位置に拘束するとともに、その周囲に適当な空間を確保するため、きわめて厚さの薄いシート状の吸収体を構成する。」(段落【0012】)
(l) 「SAPと略称される高分子吸収体は、一般にはカルギキンメチルセルローズ、ポリアクリル酸及びその塩類、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの、あるいはイソブチレンとマレイン酸との共重合体等である。また生物分解性のあるポリアスパラギン酸のアミノ酸架橋物、あるいはAlcaligenes Latusからの培養生成物である微生物起源高吸水性ポリマー等も含まれる。」(段落【0014】)
(m) 「また本発明において、SAP粒子を所定の位置に拘束するネットワーク構造は、いわゆるミクロフィブリルによって構成される。このミクロフィブリルは、一般的には平均直径が2.0μm?0.01μm、平均で0.1もしくはそれ以下の極めて細い繊維状物で、SAPが水を吸収したときにその膨潤によって直ちに構造が崩壊するのを防止することができる耐水性をもち、しかも水の浸透性、SAPの膨潤性を阻害しないような性質を持つ。」(段落【0015】)
(m’) 「図1は、分散液中のミクロフィブリル(S-MFC)の濃度と、その粘度との関係を示す一例である。図1から、低濃度でも高い粘度特性をもっていることがわかる。またこのミクロフィブリルの分散液は構造粘性を示し、シェアをかけることによって流動配向を示し、粘度が下がるが、シェアを下げるとともに復元する。従って、このミクロフィブリルの分散媒体中に粒子状SAPを添加分散すると、低シェアの分散状態では、ミクロフィブリルのネットワーク構造の中にSAP粒子が安定に取り込まれて、高濃度のSAPを安定に分散することができる。またポンプ等で搬送する場合には、粘度が下がって輸送しやすくなり、シート成形後、分散媒体が除去され乾燥状態に至ると、ミクロフィブリル相互が自己接合してプラスター状になってSAP粒子を安定に結合、固定することができる。
したがって、このミクロフィブリルの分散媒体中にSAPを分散すると、高濃度のSAPを安定に分散することができ、分散媒体が除去される過程では、強固に自己接合してプラスター状になってネットワーク構造を形成し、SAP粒子を包み込んで機械的に包囲すると同時に、ミクロフィブリル相互がイオン的な水素結合効果により結合し、SAP粒子を確実に保持する。」(【0016】?【0017】)
(n) 「SAPに対するミクロフィブリルの割合(MFC/SAP×100(%))は、その値が大きくなると強度が上がるが、紙状になって固くなってくるので、20%以下が望ましい。また0.3%以下では十分な結合力が得にくい。この結合力の評価は、表面強度の測定法に用いられるセロテープ法を援用して行うことができ、その結果からみるより好適な範囲は5%?0.5%である。」(段落【0030】)
(o) 「つぎに混合溶媒中にミクロフィブリルおよびSAPを分散させた分散液から複合体組成物を形成する方法について図面を参照して説明する。・・・
以下、とくに汎用性の高い、分散液から直接シートに成形する方法について詳しく説明する。前述のようなミクロフィブリルのネットワーク構造は、その内部にSAPを安定かつ強固に保持した状態を保ちながら、極めて薄い層に成形することを可能にする。すなわち、ミクロフィブリルおよびSAPを分散媒体に分散させた分散液を、適当な平面上に流延し、ミクロフィブリルおよびSAPのみからなるシート状の高吸水性複合体組成物を形成することができる。この形態の高吸水性複合体組成物層10を図6(a)に示す。図6(a)において、符号11はミクロフィブリル、12はSAP粒子をそれぞれ示す。なお実際には、70倍の顕微鏡写真からスケッチした図6(b)に示すように、各SAP粒子は、微細なミクロフィブリルによって完全に包み込まれているとともに、隣接するSAP粒子との間でミクロフィブリルで絡合された、ミクロフィブリルのネットワーク構造に取り込まれている。」(段落【0032】?【0033】)
(p) 「あるいは、分散液を適当なシート状支持体上に流延した場合には、分散液の乾燥後に、シート状支持体と複合体組成物層とからなる高吸水性複合シート材料が得られる。とくにシート状支持体として多孔質な不織布を使用した場合には、・・・。なお、この場合の不織布の構成素材としては、液の浸透性の問題から、コットン、レーヨン、木材パルプ等の親水性素材、あるいはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成繊維を親水性化処理した素材を用いることが望ましい。」(段落【0034】)
(q) 「本発明で得られる高吸水性複合体組成物を組み入れた吸収体製品の特徴、性能についても要約説明しておく。本発明の高吸水性複合体組成物を吸収体製品に用いると、まず第一に、使用前でも使用時でも、非吸水状態では極めて薄くコンパクトな構造を持ち、SAP粒子が強固に固定、安定化されているため、たとえ折り曲げや伸縮が働いても、SAP粒子が移動することはなく、SAPの脱落、構造の破壊も起こりにくい。」(段落【0053】)
(r) 「第二に、吸水時にはSAPが90%以上のパルプレス構造にもかかわらず、ミクロフィブリルの親水性とその物性形態の故に、吸収速度が早くしかもブロッキングを起こさないことである。」(段落【0054】)
(s) 「第三に、吸水後もフィブリルのネットワークによりゆるやかに膨潤ポリマーを把持し、脱落を防ぐことである。」(段落【0055】)
(t) 「第四に、使用後の廃棄時の特性である。本発明の吸収体は過剰の水に接した場合、静置状態では安定であるが、シェアをかけると直ちに離解する性質があるので、フラッシャブルな商品設計に適している。またセルローズミクロフィブリルはセルラーゼ活性が極めて高く、土中埋没により短期間で構造がバラバラになる。もしSAPとして生分解のあるアミノ酸系吸水性ポリマー等を組合せれば、理想的な環境適応型の吸収体の設計が可能になる。」(段落【0056】)

(2) 引用発明
刊行物1の「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および高分子吸収体粒子を主成分とし、前記高分子吸収体粒子が相互に、前記ミクロフィブリルにより結合された構造を有している複合体組成物と、この複合体組成物を支持するシート状支持体とを備えていることを特徴とする高吸水性シート材料。」(摘示(e))に関する発明が記載されており、また「この複合体組成物は、単独で種々の形態、たとえば粉末状、粒子状、ペレット状、シート状もしくは任意の形状の三次元構造物等の形態に成形することが可能であるが、不織布のような任意のシート状支持体をベースとしてその上にシート状に成形することもできる。」(摘示(k))こと、及び「あるいは、分散液を適当なシート状支持体上に流延した場合には、分散液の乾燥後に、シート状支持体と複合体組成物層とからなる高吸水性複合シート材料が得られる。」(摘示(p))こと、も記載されている。
そして、引用発明においては「分散液を適当なシート状支持体上に流延した場合には、分散液の乾燥後に、シート状支持体と複合体組成物層とからなる高吸水性複合シート材料が得られる。」(摘示(p))ところ、このようにして得られるものは、その形成方法からみて、「複合体組成物層をシート状支持体上に積層してなる高吸水性複合シート材料」であることは明らかである。
以上のことから、刊行物1には、
「複合体組成物層をシート状支持体上に積層してなる高吸水性複合シート材料であって、前記複合体組成物層が、セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および高分子吸収体粒子を主成分とし、前記高分子吸収体粒子が相互に、前記ミクロフィブリルにより結合された構造を有している高吸水性複合シート材料。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3) 本願補正発明と引用発明との対比
(審決注.本願補正発明では「吸収体層(A層)」及び「支持体層(B層)」、並びに「架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)」及び「ミクロフィブリル状セルロース(a-2)」という表現を用いているところ、これらは本願補正発明における「吸収体層」及び「支持体層」、並びに「架橋ポリアミノ酸粒子」及び「ミクロフィブリル状セルロース」とを明確に区別するとともに、技術的な説明をより分かりやすくするために、「吸収体層(A層)」及び「支持体層(B層)」、並びに「架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)」及び「ミクロフィブリル状セルロース(a-2)」というように、「吸収体層」及び「支持体層」、並びに「架橋ポリアミノ酸粒子」及び「ミクロフィブリル状セルロース」のそれぞれに、「(A層)」及び「(B層)」、並びに「(a-1)」及び「(a-2)」という符合を付加しただけであって、しかも「(A層)」、「(B層)」、「(a-1)」及び「(a-2)」という符合に技術的な意味はないので、本願補正発明から「(A層)」、「(B層)」、「(a-1)」及び「(a-2)」という符合を省いても、本願補正発明の実体は何ら変わらない。
したがって、以下、本願補正発明における「吸収体層(A層)」、「支持体層(B層)」、「架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)」及び「ミクロフィブリル状セルロース(a-2)」という表現に替えて、「吸収体層」、「支持体層」、「架橋ポリアミノ酸粒子」及び「ミクロフィブリル状セルロース」という表現を用いることにする。)

以下、本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「複合体組成物層」は、先に引用発明として記載したように、「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および高分子吸収体粒子を主成分」とするものであって、「高吸水性複合体組成物層10」(摘示(o)、及び図6(a))に相当するものであるから、本願補正発明における「吸収体層」に対応する。
また、引用発明における「シート状支持体」、「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル」及び「高吸水性複合シート材料」は、本願補正発明における「支持体層」、「ミクロフィブリル状セルロース」及び「高吸水性複合体」に対応する。
してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「吸収体層を支持体層上に積層してなる高吸水性複合体であって、前記吸収体層がミクロフィブリル状セルロースと粒子を含んで構成されている、高吸水性複合体。」
の点で一致し、次の点で相違する。
ア 粒子が、本願補正発明においては、架橋ポリアミノ酸粒子であるのに対し、引用発明においては高分子吸収体粒子である点
イ 吸収体層が、本願補正発明においては、粒子表面の少なくとも一部をミクロフィブリル状セルロースにより被覆した複合体を含んで構成されているのに対し、引用発明においては粒子が相互に、前記ミクロフィブリル状セルロースにより結合された構造を有している点
ウ 支持体層及び高吸水性複合体が、本願補正発明においては、分解性であることが特定されているのに対し、引用発明においてはかかる特定がなされていない点
エ 粒子に対するミクロフィブリル状セルロースの割合が、本願補正発明においては、0.3重量%を超えて20重量%以下であるのに対し、引用発明においてはかかる規定がなされていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点ア」、「相違点イ」、「相違点ウ」及び「相違点エ」という。)

(4) 当審の判断
(4-1) 相違点の検討
ア 相違点アについて
刊行物1には、高分子吸収体として、生物分解性のあるポリアスパラギン酸のアミノ酸架橋物が例示されており(摘示(l))、また「セルローズミクロフィブリルはセルラーゼ活性が極めて高く、土中埋没により短期間で構造がバラバラになる。もしSAPとして生分解のあるアミノ酸系吸水性ポリマー等を組合せれば、理想的な環境適応型の吸収体の設計が可能になる」(摘示(t))ことが記載されており、「SAP」は高分子吸収体を指すことが摘示(j)に記載されている。
したがって、理想的な環境適応型の吸収体とするために、高分子吸収体粒子として、生分解性のあるポリアスパラギン酸のアミノ酸架橋物粒子を用いることは、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点イについて
刊行物1には「セルローズあるいはセルローズ誘導体から得られる水和性を有するミクロフィブリル、および水膨潤性固状体を主成分とし、前記水膨潤性固状体の表面の少なくとも一部が前記ミクロフィブリルにより被覆されていることを特徴とする複合体組成物。」(摘示(a))という引用発明が記載されていることからも明らかなように、吸収体層(複合体組成物層)は、「水膨潤性固状体の表面の少なくとも一部が前記ミクロフィブリルにより被覆されている」ものである。
また、摘示(o)には、ミクロフィブリルおよびSAPを分散媒体に分散させた分散液を、適当な平面上に流延し、ミクロフィブリルおよびSAPのみからなるシート状の高吸水性複合体組成物を形成した場合、「各SAP粒子は、微細なミクロフィブリルによって完全に包み込まれているとともに、隣接するSAP粒子との間でミクロフィブリルで絡合された、ミクロフィブリルのネットワーク構造に取り込まれている」ことが記載されており、そして図6(a)及び(b)には、その構造が図示されている。
さらに、刊行物1には「SAP粒子を相互にミクロフィブリルで結合した構造は、ミクロフィブリルが各SAP粒子を所定の位置に拘束するとともに、その周囲に適当な空間を確保する」(摘示(k’))こと、及び「シート成形後、分散媒体が除去され乾燥状態に至ると、ミクロフィブリル相互が自己接合してプラスター状になってSAP粒子を安定に結合、固定することができる。したがって、このミクロフィブリルの分散媒体中にSAPを分散すると、・・・分散媒体が除去される過程では、強固に自己接合してプラスター状になってネットワーク構造を形成し、SAP粒子を包み込んで機械的に包囲する」(摘示(m’))こと、も記載されている。
してみると、引用発明の吸収体層においても、「粒子表面の少なくとも一部をミクロフィブリル状セルロースにより被覆した複合体を含んで構成されている」ものに相当することは明らかである。
したがって、相違点イは実質的な相違点とは認められない。

ウ 相違点ウについて
引用発明においては、シート状支持体、即ち、支持体層として、分解性のものを用いることは特に記載はされていないが、刊行物1には、生分解性のセルローズミクロフィブリル(フィブリル状セルロース)と、高分子吸収体として生分解性のアミノ酸系吸水性ポリマーと組み合わせれば、理想的な環境適応型の吸収体の設計が可能となること(摘示(t))が記載されている。
また、シート状支持体として、コットン、レーヨン、木材パルプ等の親水性素材を用いることが望ましいこと(摘示(p))が記載されており、そして、これらの親水性素材は、生分解性であることが周知である(必要なら、例えば、特開平6-212511号公報の2頁1欄35?37行参照。)。
したがって、単に生分解性のセルローズミクロフィブリル(フィブリル状セルロース)と、高分子吸収体として生分解性のアミノ酸系吸水性ポリマーと組み合わせるだけでなく、製品全体として理想的な環境適応型の吸収体とするために、支持体層及び高吸水性複合体が生分解性(すなわち、分解性)とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

エ 相違点エについて
刊行物1(摘示(n))には、引用発明におけるSAP(高分子吸収体)に対するミクロフィブリルの割合は、その値が大きくなると強度が上がるが、紙状になって固くなってくるので、20%以下が望ましく、また0.3%以下では十分な結合力が得にくい旨が記載されているところ、これを言い換えると、0.3%を超えて20%以下であることが望ましいことが記載されているに等しい。
ところで、摘示(n)では、%が重量%であるかどうかは明記されていないが、通常、%は重量%の意味であることが多いし、しかも、摘示(d)には「前記高分子吸収体に対するミクロフィブリルの割合が、重量比で0.5?20/100である請求項3?6いずれか1項に記載の複合体組成物」と記載されているところ、この数的範囲は前記の「0.3%を超えて20%以下であること」にほぼ対応しており、また、摘示(d)は高分子吸収体に対するミクロフィブリルの割合を重量比で表記することを示しているから、摘示(n)における%は重量%であると解するのが自然である。
してみると、引用発明における(高分子吸収体である)粒子に対するミクロフィブリル状セルロースの割合は、0.3重量%を超えて20重量%以下であることが望ましいことが記載されているに等しいから、相違点エは実質的な相違点とは認められない。
また、仮に、相違点エが実質的な相違点であるとしても、先に指摘した刊行物1(摘示(n))の記載から、通常、%は重量%の意味であることが多いことも考慮して、紙状になって固くならず、しかも十分な結合力が得られるためようにするため数値範囲の最適化又は好適化を行うことにより、粒子に対するミクロフィブリル状セルロースの割合を「0.3重量%を超えて20重量%以下」と規定することは当業者が容易になし得ることである。

(4-2) 効果について
本願明細書等を検討しても、本願補正発明が上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
すなわち、引用発明においては、「高吸水性複合体組成物を吸収体製品に用いると、まず第一に、使用前でも使用時でも、非吸水状態では極めて薄くコンパクトな構造を持ち、SAP粒子が強固に固定、安定化されているため、たとえ折り曲げや伸縮が働いても、SAP粒子が移動することはなく、SAPの脱落、構造の破壊も起こりにくい。第二に、吸水時にはSAPが90%以上のパルプレス構造にもかかわらず、ミクロフィブリルの親水性とその物性形態の故に、吸収速度が早くしかもブロッキングを起こさないことである。第三に、吸水後もフィブリルのネットワークによりゆるやかに膨潤ポリマーを把持し、脱落を防ぐことである。第四に、使用後の廃棄時の特性である。本発明の吸収体は過剰の水に接した場合、静置状態では安定であるが、シェアをかけると直ちに離解する性質があるので、フラッシャブルな商品設計に適している。またセルローズミクロフィブリルはセルラーゼ活性が極めて高く、土中埋没により短期間で構造がバラバラになる。もしSAPとして生分解のあるアミノ酸系吸水性ポリマー等を組合せれば、理想的な環境適応型の吸収体の設計が可能になる。」(摘示(q)?(t))という効果を奏するものであるところ、これらの効果は、本願補正発明における効果(本願明細書の段落【0285】?【0288】)と実質上同じであるから、本願補正発明が格別顕著な効果を奏し得たものとはいうことはできない。

(4-3) 小括
したがって、上記各相違点は実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たものであり、また本願補正発明がこれらの相違点に係る特定事項により格別顕著な効果を奏するものとも認められないから、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4-4) 請求人の主張について
ア 請求人は、課題について、回答書5.(1)において、本願補正発明と引用発明とは目的が異なる旨主張するが、かかる主張は採用できない。
請求人の主張は、本願補正発明の構成に想到するための動機付けは、本願補正発明の技術的課題の認識以外に存在し得ないことを当然の前提とするものであり、このような前提が認められないことは論ずるまでもないことであるからである(一般に、異なった動機で同一の行動をとることは珍しいことではない。発明もその例外ではなく、異なった技術的課題の解決が同一の構成により達成されることは、十分あり得ることである。)。
しかも、引用発明においても、摘示(i)に記載されているように、高吸収性で、幼児用及び成人用オムツ、女性用生理用品、あるいはメディカル用の血液吸収体等の吸収体製品に使用でき、パルプレスの薄型複合体を提供することを目的としており、また、摘示(t)に記載するように、生分解性素材を用いることにより、生分解性の環境適応型の吸収体を得ることをも目的としているのであるから、本願補正発明の課題である「生分解性を有する分解性高吸水性複合体を提供すること」(本願明細書段落【0038】)や「吸収特性に優れ、衛生材料等に使用した場合に薄型である分解性高吸水性複合体とその製造方法を提供すること」(本願明細書段落【0039】)という目的と相違するものでもない。
イ また、請求人は、回答書5.(3)(b)において、概略、以下のようなことを主張する。
「『分解性』と『吸水性』を両立させることは、分解性の発揮には水が必要であるが、単に分解性を示す吸水成分では、水分の吸収により崩壊するおそれが高く組成物として一体性を保持し得なくなり、困難であるが、『架橋ポリアミノ酸粒子』及び『ミクロフィブリル状セルロース』を組み合わせた場合は、それらを両立できるので、刊行物1の記載事項を単に組み合わせるのみでは本願補正発明をなし得ない。」
しかしながら、刊行物1には、「SAP粒子を所定の位置に拘束するネットワーク構造は、いわゆるミクロフィブリルによって構成される。このミクロフィブリルは、一般的には平均直径が2.0μm?0.01μm、平均で0.1もしくはそれ以下の極めて細い繊維状物で、SAPが水を吸収したときにその膨潤によって直ちに構造が崩壊するのを防止することができる耐水性をもち、しかも水の浸透性、SAPの膨潤性を阻害しないような性質を持つ」(摘示(m))こと、及び「本発明の吸収体は過剰の水に接した場合、静置状態では安定であるが、シェアをかけると直ちに離解する性質があるので、フラッシャブルな商品設計に適している。またセルローズミクロフィブリルはセルラーゼ活性が極めて高く、土中埋没により短期間で構造がバラバラになる。もしSAPとして生分解のあるアミノ酸系吸水性ポリマー等を組合せれば、理想的な環境適応型の吸収体の設計が可能になる。」(摘示(t))ことが記載されているので、請求人が主張する点は当業者が予測可能である。そして、本願補正発明が、その出願前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは先に指摘したとおりである。
ウ したがって、請求人の何れの主張も、上記(4-3)の判断を左右するものではない。

(5) 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反し、また、仮に同規定に違反しないとしても、同法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、その余の点を検討するまでもなく、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、本願発明は、拒絶査定時の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(本願発明)は「第2 2」に記載されたとおりのものと認める。以下、本願発明を再掲する。
「吸収体層(A層)を支持体層(B層)上に積層してなる分解性高吸水性複合体であって、
前記吸収体層(A層)が架橋ポリアミノ酸粒子(a-1)表面の少なくとも一部をミクロフィブリル状セルロース(a-2)により被覆した複合体を含んで構成され、
前記支持体層(B層)が分解性支持体層であることを特徴とする、分解性高吸水性複合体。」

2 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物(特開平10-168230号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 当審の判断
(1)刊行物1の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物(特開平10-168230号公報)は上記の「第2 4(1)」に示した刊行物1と同じものである。
したがって、刊行物1の記載事項及び引用発明は、前記「第2 4」の(1)及び(2)に記載したとおりである。

(2)本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「吸収体層を支持体層上に積層してなる高吸水性複合体であって、前記吸収体層がミクロフィブリル状セルロースと粒子を含んで構成されている、高吸水性複合体。」
の点で一致し、次の点で相違する。
ア’ 粒子が、本願発明においては、架橋ポリアミノ酸粒子であるのに対し、引用発明においては高分子吸収体粒子である点
イ’ 吸収体層が、本願発明においては、粒子の表面の少なくとも一部をミクロフィブリル状セルロースにより被覆した複合体を含んで構成されているのに対し、引用発明においては粒子が相互に、前記ミクロフィブリル状セルロースにより結合された構造を有している点
ウ’ 支持体層及び高吸水性複合体が、本願発明においては、分解性であることが特定されているのに対し、引用発明においては分解性であるかどうか特定されていない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ「相違点ア’」、「相違点イ’」及び「相違点ウ’」という。)

(3) 相違点の検討
ア 相違点ア’、相違点イ’及び相違点ウ’について
相違点ア’、相違点イ’及び相違点ウ’は、それぞれ、先に「第2 4(3)」で指摘した相違点ア、相違点イ及び相違点ウに相当するので、相違点ア’、相違点イ’及び相違点ウ’については、それぞれ、先に「第2 4(4)(4-1)ア」、「第2 4(4)(4-1)イ」及び「第2 4(4)(4-1)ウ」で判断したとおりである。

イ 効果について
効果については、先に「第2 4(4)(4-2)」で述べたとおりである(ただし、「本願補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。

ウ 小括
したがって、上記各相違点は実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たものであり、また本願発明がこれらの相違点に係る特定事項により格別顕著な効果を奏するものとも認められないから、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-24 
結審通知日 2008-10-27 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2000-24305(P2000-24305)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B32B)
P 1 8・ 572- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 橋本 栄和
坂崎 恵美子
発明の名称 分解性高吸水性複合体  
代理人 山下 穣平  

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