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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41H
管理番号 1189889
審判番号 無効2007-800143  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-25 
確定日 2009-01-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3652251号発明「カップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイド方式」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3652251号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.特許出願:平成13年1月16日
2.特許権設定の登録:平成17年3月4日
3.特許掲載公報び発行:平成17年5月25日
4.荒井通雄(以下、「請求人」という。)による本件無効審判の請求
:平成19年7月25日
5.特許権者:マルコ株式会社(以下、「被請求人」という。)に対する請 求書副本の送達:平成19年8月15日
なお、被請求人に期間をして答弁を求めたが、期間を経過しても何ら の応答もなされなかった。
6.藤熊芳江(以下「参加人」という。)による被請求人側への参加申請書 の提出:平成19年11月12日
7.請求人、被請求人に対する参加申請書副本の送達:平成19年11月2 9日発送
8.参加許否の決定(参加の申請の許可):平成20年1月11日発送
9.参加人による上申書1の提出:平成20年1月16日
10.請求人、被請求人に対する上申書1副本の送付
:平成20年1月25日発送
11.請求人による口頭審理陳述要領書の提出、参加人による口頭審理陳 述要領書(1)、(2)の提出、及び口頭審理の実施:平成20年3 月6日
なお、被請求人側に口頭審理への出頭を求めたが、何人も出頭しな かった。
12.参加人による上申書2の提出:平成20年3月21日
13.参加人による証拠説明書及び上申書3の提出:同年3月31日
14.請求人による第1回弁駁書(平成20年3月21日付け)及び第2回 弁駁書(同年3月28日付け)の提出:平成20年4月2日

第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1ないし8という。)は、登録時の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
バージスサイズを変えた複数のカップ受部と、1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部との組み合わせからなり、カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けてなるカップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル。
【請求項2】
バージスサイズを変えた複数のカップ受部と、1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部と、一つのカップ受部において寸法の異なる複数のバック部とを有し、カップ受部に対してカップ部及びバック部を着脱可能に設けてなるカップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル。
【請求項3】
カップ受部の上端縁とカップ部の下端縁にそれぞれ設けた一対の面ファスナーによってカップ受部とカップ部を着脱可能とした請求項1又は2記載のカップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル。
【請求項4】カップ受部とバック部をかぎホックによって着脱可能とした請求項2又は3記載のカップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル。
【請求項5】バージスサイズを変えた複数のカップ受部と、1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部との組み合わせからなり、カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けることにより、カスタムサイズのカップ部を有するオーダーメイド用計測サンプルの試着を可能としたことを特徴とするカップ部を有する衣類のオーダーメイド方式。
【請求項6】バージスサイズを変えた複数のカップ受部と、1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部と、一つのカップ受部において寸法の異なる複数のバック部とを有し、カップ受部に対してカップ部及びバック部を着脱可能に設けることにより、カスタムサイズのカップ部を有するオーダーメイド用計測サンプルの試着を可能としたことを特徴とするカップ部を有する衣類のオーダーメイド方式。
【請求項7】カップ受部の上端縁とカップ部の下端縁にそれぞれ設けた一対の面ファスナーによってカップ受部とカップ部を着脱可能とした請求項5又は6記載のカップ部を有する衣類のオーダーメイド方式。
【請求項8】カップ受部とバック部をかぎホックによって着脱可能とした請求項6又は7記載のカップ部を有する衣類のオーダーメイド方式。」

第3 請求人の主張
1.請求の趣旨
請求人、上記第1、4の審判請求書において、
「特許第3652251号発明の請求項1ないし8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、概略、次のように主張している。
「本件特許発明1ないし8は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。」

2.証拠方法
請求人は上記主張を立証するため、次の証拠方法を提出している。
(1)甲第1号証:特開平8-158111号公報
(2)甲第2号証:「Dubuleve’(デューブルベ)」と称する株式 会社ワコールのセミオーダーシステムに関するカタログ
(3)甲第3号証;特開2000-64104号公報
(4)甲第4号証;「手作りランジェリー」レディブティックシリーズ通巻 1404号
(5)甲第5号証;特表平9-504636号公報
(6)甲第6号証;特開平7-316909号公報

第4 被請求人の主張
被請求人は、上述のとおり、審判請求書に対する答弁書を提出しておらず、また、口頭審理にも出頭せず、請求人の主張に対し、なんら反論をしていない。

第5 参加人の主張
参加人は、上申書1において、「本件審判請求はいずれも成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上申書1ないし3、及び口頭審理陳述要領書1、2を総合すると概略次のとおり主張している。
「甲第1号証に記載された実施形態のブラジャーを前提に、カップ部が交換可能であるとするならば、甲第1号証のカップ受部の凹部の湾曲形状が乳房の描く実際のバージスラインとは合致しておらず、無関係であり、乳房の描く実際のバージスラインに沿わせつつカップ部を交換しようにも、凹部の湾曲形状は可変ではないから、そのような構成を採ることができないものである。
したがって、甲第1号証に記載されたブラジャーをもって、甲第2号証のバージスサイズに関する開示事項と組み合わせることには積極的な阻害事由があり、体型にフィットするブラジャーを簡易好適に得る計測サンプルへ応用することは、当業者にとって容易に想到し得るものではない。
甲第1号証の段落【0031】には、「ワイヤーポーン4が装着手段のカップ用凹部1aの周縁に配設されている」との記載がある。
しかし、ワイヤーボーンが乳房の下支えする作用を果たす場合でも、必ずしも十分に乳房のバージスラインと適合したものが提供されていたわけでもないことから、ワイヤーボーンがあるからといって、バージスラインとジャストフィットしているとは限らない。また、甲第1号証の実施形態のブラジャーにおけるワイヤーボーンの作用に鑑みるに、平面ファスナーで係止する部分を強化するのが主眼であって、一般的なワイヤーボーンの作用で望まれるようにバージスラインと適合させる必然性も見出せない。したがって、ワイヤーボーンという記載があっても、装着手段1の下部湾曲が乳房のバージスサイズに適合していることを導出することはできない。
また、甲第1号証の段落【0030】は以下の記載がある。
「着用者は、アンダーバストに合わせて装着手段1を選択し、右バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択し、左バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択した後、カップ部材のカップ止着部2b,2bをそれぞれ装着手段のカップ係着部1b,1bに係止することで、右バスト、左バスト、アンダーバスト全てにフィットするファウンデーションを着用することができる。」
しかし、「アンダーバスト」に関しては、JIS工業用語大辞典第5版、JISL0111「衣料のための身体用語』に規定されており、アンダーバストとは「女子の乳房直下における胸部の水平周囲長」のことである。
この定義からも明らかなように、「アンダーバストに沿わせて装着手段1を選択し、」という文言は、あくまで、乳房直下の周囲にぴったり沿わせて装着手段1を装着させたというにとどまる。同段落の記述中には、バージスラインについて直接の言及はなく、以下のとおり、これに直結するものでもない。
すなわち、同段落には、続いて、右バスト、左バストそれぞれのカップ部材を選択し、これらを係止すれば「右バスト、左バスト、アンダーバスト全てにフィットするファウンデーションを着用することができる」とある。つまり、甲第1号証に示された実施態様は、(1)アンダーバストを選び、(2)カップ部材を選べばよいというだけのものであることがわかる。これだけでフィットするとのことである。
事実、甲第1号証の段落【0009】の記述をみてみると、「カップ部の形状、サイズ、材質に特に制限はない」、「好ましくは、カップ部の外形が同じで肉厚が異なって収容できるバストのサイズが異なるもの等を各バストサイズ毎に設けるのが望ましい」とのことであり、(1)アンダーサイズを決めて、そこに(2)様々なカップ部が組合わせることのみである。

第6 当審の判断
1.甲第1号証に記載された発明
特開平8-158111号公報(以下「甲第1号証」という。)には、ブラジャーに関し、図面とともに次のように記載されている。
(a)「【0002】
【従来の技術】従来、この種のファウンデーションは、バストを収容する一対のカップとこのカップを身体胴部に装着するための装着手段とが一体に縫合された構成を有し、複数の着用者に対応するために、1つのデザインに対してアンダーバストやバストのサイズが異なる数種類のサイズが用意されている。その為、各着用者は自分の好みのデザインのものの中から自分のアンダーバストやバストのサイズに最もフィットするものを選んで着用する。
【0003】しかしながら、バストのサイズは、複数の着用者の間のみで異なることではなく、各着用者の左右の間でも異なる。一方、上記ファウンデーションにおいて、左右一対のカップは等しいサイズに形成されている。その為、大きい方のバストはカップにフィットするが小さい方のバストはカップにフィットしないという問題点があった。
【0004】また、従来においては、カップ内にバストパッドを装着することで、バストラインを矯正し、バスト形状を整えることが行われている。
【0005】しかしながら、上述したように着用者の左右のバストのサイズが異なると、バストとカップとの間の隙間はバストが大きい方で少なくバストが小さい方で大きくなるため、バストパットによる矯正効果はバストが大きい方で大きく小さい方で小さくなって、左右のバストサイズのアンバランスが助長されてしまい、思い通りの矯正効果を得ることができないという問題点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、アンダーバストのみならず、左右両方のバストがそれぞれのカップにフィットするファウンデーションを提供することにある。
【0007】また、本発明の他の目的は、バストパッドによるバストラインの矯正効果を、左右のバストで同等に得ることができるファウンデーションを提供することにある。」(段落【0002】?【0007】)
(b)「【0009】本発明において、上記カップ部については、その形状、サイズ、材質等について特に制限されるものではないので従来公知のものをそのまま採用してもよいが、好ましくは、カップ部の外形が同じで肉厚が異なって収容できるバストのサイズが異なるもの等を各バストサイズ毎に設けるのが望ましい。これにより、左右のバストサイズのアンバランスを矯正して、左右のバストの外形を揃えることができる。
【0010】上記カップ部材を係止して身体胸部の所定位置に装身させるための上記装着手段については、ファウンデーションの種類、すなわちブラジャー、ブラスリップ、ボディースーツ等に応じて従来公知の形状、サイズ、材質等をそのまま採用することができる。」
(段落【0009】?【0010】)
(c)「【0028】実施例1
図1?図6において、本発明の実施例に係るファウンデーションであるブラジャーB1が示されている。このブラジャーB1は、基本的には、バストを収容するカップ部2a及びそのカップ部の周縁に形成されたカップ止着部2bからなる一対のカップ部材2と、上記各カップ部2aの周縁と適合する一対のカップ用凹部1a及びそのカップ用凹部1aの周縁に形成されたカップ係着部1bを有し、上記カップ部2aを身体胸部に装着する装着手段1とで構成されている。また、上記カップ部2aの周縁全周に亘ってパッド係着部2cが設けられると共に、上記パッド係着部2cに係脱可能なパッド止着部3aを有するバストパッドaが装着されている。更に、上記カップ部2aの周縁には、その全長に沿って、着用者のバスト形状を維持するためのワイヤボーン4が設けられている。
【0029】そして、上記カップ係着部1bと上記パッド係着部2cとが、多数の柔軟パイルを有する起毛パイル製の縁取りテープで構成されると共に、上記カップ止着部2bと上記パッド止着部3aとが、多数の鉤小片が植設された構成になっていて、上記カップ係着部1bが上記カップ止着部2bに、上記パッド係着部2cが上記パッド止着部3aにそれぞれ固着できるようになっている。
【0030】従って、着用者は、アンダーバストに合わせて装着手段1を選択し、右バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択し、左バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択した後、カップ部材のカップ止着部2b,2bをそれぞれ装着手段のカップ係着部1b,1bに係止することで、右バスト、左バスト、アンダーバスト全てにフィットするファウンデーションを着用することができる。また、上記バストパッドのパッド止着部3aを上記パッド係着部2cに係止することで、左右のバストを同程度に矯正することができて、思い通りの矯正効果を得ることができる。更に、カップ2aの周縁全周に亘ってバストパッド3を移動させながら自己のバスト形状を整え、バストの形状(外形)や位置を自己のバストに合わせて希望どおりに調整でき、また、カップ2a内におけるバストパッド3の取付位置を上記パッド係着部2cに沿って微妙に変更することにより、自己のバストの形状、大きさ、位置等に応じて優れた着用感を得ることができる。」
(段落【0028】?【0030】)

上記摘示事項(a)の段落【0006】に記載された「左右両方のバストがそれぞれのカップにフィットするファウンデーション」、摘示事項(c)の段落【0030】に記載された「右バストに合ったカップ部を有するカップ部材2、左バストに合ったカップ部を有するカップ部材2」等における「バスト」は、ブラジャーとしての機能からみて、カップあるいはカップ部材2が収容する乳房を意味すると解すべきである。
また、摘示事項(c)段落【0030】に記載された「着用者は、アンダーバストに合わせて装着手段1を選択し、右バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択し、左バストに合ったカップ部を有するカップ部材2を選択した後、カップ部材のカップ止着部2b,2bをそれぞれ装着手段のカップ係着部1b,1bに係止すること」からみて、装着手段1はアンダーバスト(女子の乳房直下における胸部の水平周囲長)毎に用意され、収容する乳房のサイズを変えた複数のカップ部材2と組み合わされ、アンダーバストに合った装着手段1と左右の乳房のサイズに適合したカップ部材2がそれぞれ選択され、これらが係止されてブラジャーが構成されるということができる。
そして、摘示事項(c)の【0029】に記載された「そして、上記カップ係着部1bと上記パッド係着部2cとが、多数の柔軟パイルを有する起毛パイル製の縁取りテープで構成されると共に、上記カップ止着部2bと上記パッド止着部3aとが、多数の鉤小片が植設された構成になっていて、上記カップ係着部1bが上記カップ止着部2bに、上記パッド係着部2cが上記パッド止着部3aにそれぞれ固着できるようになっている。」からみて、カップ部材2は、装着手段1のカップ用凹部1aに対し着脱可能に取り付けられているものといえる。
したがって、以上の記載及び各図の図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「アンダーバスト毎に用意され、各カップ部(2a)の周縁と適合する一対のカップ用凹部(1a)及びそのカップ用凹部(1a)の周縁に形成されたカップ係着部(1b)を有する装着手段(1)と、収容する乳房のサイズを変えた複数のカップ部材(2)との組合せからなり、装着手段(1)に対しカップ部材(2)を着脱可能に設けてなるブラジャー。」

(2)甲第2号証に記された技術的事項
「Dubuleve’(デューブルベ)」と称する株式会社ワコールのセミオーダーシステムに関するカタログ(以下「甲第2号証」という。)は、1頁目の下端に「カタログ有効期間:2000年8月1日?2001年1月31日」と記載されていることから、遅くとも本願出願日である平成13年(2001年)1月16日以前に頒布された刊行物ということができる。
そして、甲第2号証2頁目の右欄には、ブラジャーのセミオーダーシステムに関連して次のように記載されている。
(a)「本来ブラの役割は、バストラインを美しくととのえて下垂を防ぐこと。」
(b)「しかも、トップとアンダーだけの採寸だけでなく、オリジナル測定器(バージスメジャー)でバストの底面周径サイズ(バージスサイズ)の測定や、ゲージブラでのフィット感の確認等を行ったうえで、コンサルタントがブラの「フィット診断」を行い、全1248サイズのブラの中から最適なブラをご提案。」

(3)甲第3号証に記載された技術的事項
特開2000-64104号公報(以下「甲第3号証;」という。)の段落【0002】及び【00041】には、ブラジャーに関連して次のように記載されている。
(a)「【0002】
【従来の技術】
ブラジャーは乳房をサポートする保護機能を有するだけでなく、かたち良く整えて持ち上げるバストアップ機能を有している。そして、このブラジャーの一種として、左右一対の乳房を覆うカップ部の下方湾曲部に、半円弧状(ほぼU字状)のカップワイヤー部が縫い込まれたワイヤフォーム型のブラジャーが広く知られている。」
(b)「【0041】
図示の通り、左右一対の乳房を覆うカップ部1L,Rは下カップ布11L,Rと上カップ布12L,Rをそれぞれ縫着して形成されており、下カップ布11L,Rのそれぞれの下縁湾曲部(下方の湾曲した縁部)には、半円弧状のワイヤ2L,R(図2参照)が縫い込まれたカップワイヤー部21L,Rが縫着されている。このワイヤー2L,Rは、形状記憶合金などの金属や剛性のあるプラスチック等で成形されており、乳房のバージスラインに好適にフィットする形状をなしている。そして、ワイヤー2L,Rは不織布などの柔らかい素材からなるバイアステープに包まれて縫い込まれており、前述の下カップ布11L,Rおよび上カップ布12L,Rとこのカップワイヤー部21L,Rにより左右一対のカップ部1L,Rが構成されている。」

(4)甲第4号証に記載された技術的事項
「手作りランジェリー」レディブティックシリーズ通巻1404号(以下「甲第4号証」という。)は、本願出願日前の1999年3月20日発行された刊行物であり、その第52頁、第53頁のイラストには、ブラジャーが胸布A、B(カップ部に相当)と、胸布A、Bと組み合わされるベルトA(カップ受け部に相当)及びベルトAと連結されるベルトB(バック部に相当)で構成することが図示されている。

(5)甲第5号証に記載された技術的事項
特表平9-504636号公報(以下「甲第5号証」という。)には、図面とともに次のように記載されている。
「(a)「発明の開示
本発明は、注文服仕様の衣服のためのシステム及び方法であって、寸法の異なる試着服を数多く用いて最終製品を作製するものである。システムは、数多くの試着服(try-on apparels)とそれらの各寸法の追跡を続けるために使用される。
顧客がこれら試着服の1つを試しに着用したとき、システムと関連づけられた装置により、試着服の適合性について顧客の回答を集める。もし、試着服が適合しない場合、システムは所定の基準(rules)に基づいて、次の試着服の着用を提案する。顧客が特定の試着服について満足し、衣服の購入を希望すると、それは製造システムに報告され、顧客に承認された試着服の寸法に相当する衣服が最終製品として得られるように、裁断、縫製、処理される。」(17頁18?26行)
(b)「本発明の望ましい実施例においては、各々が互いに寸法の異なる相当数の試着服(10)が、販売店にて、容器又は棚(20)の如きラックの中に準備されている。取出しを容易に行なうために、棚(20)の中の区画部(30)には、所定数の試着服(10)が入れられている。ここでは、5着の異なる試着服(10)が区画部(30)の中に入れられた状態が示されている。この実施例では、各々が互いに寸法の異なる約500着もの試着服が入れられている。望ましい実施例において、これらの服は通常は在庫品として用いられるのではなく、試着服として保存される。
望ましい実施例において、試着服(10)は、それら寸法のサイズ変化に応じて、棚(20)の中に保存される。例えば、婦人用ズボンの場合、ウエストサイズ24の試着服(10)は、棚(20)の第1カラムの中に入れられ、各区画部(30)では同じヒップサイズの試着服が5着収容される。ヒップサイズは、5着の試着服(10)が入れられた各区画部(30)毎に1インチずつ大きくなっている。区画部(30)の中には、ウエストとヒップが特定の組合せの試着服(10)が5着ずつ収容されており、各試着服の股上の寸法値は夫々異なっている。図示のように、本発明の方法は、例えば婦人用ジーンズの如く、選択されたデザインと形状(configuration)に対する寸法と共に、販売店のために作られるべき試着服(10)の数を決定するために使用される。
図1をさらに参照すると、システム(40)は販売店で使用され、棚(20)の中の各試着服(10)の寸法を格納するために用いられる。追加のシステム又は端子(42)を同様に使用することができる。本発明の方法及び装置によれば、顧客は試着服(10)を選択し、サイズ合わせした情報を店員に報告し、システム(40)の中に入力される。もし最初の選択したものが顧客の要望に合わない場合、システム(40)は、顧客のサイズ合わせ情報に応じて次の試着服(10)を試すように奨める。」(第20頁7行?第21頁2行)

(6)甲第6号証に記載された技術的事項
特開平7-316909号公報(以下「甲第6号証」という。)の(段落【0004】?【0006】)には、図面とともに次のように記載されている。
「【0004】
【課題を解決するための手段】衿なし洋服の左右の前身頃(1)と左右の後身頃(2)の複数箇所に生地を重ねた縫合部(3.4.5.6.8.9.10)を設けて分断し、肩の縫合部(7)と袖の縫合部(11.12)も生地を重ねて分断し、その各分断箇所に目盛部(13.14.15.16.17.18.19.20.21)を設けたことを特徴とする技術で上記の課題を解決した。
【0005】
【作用】本発明は上記のように構成されているので採寸時に体型把握用洋服を試着することによって各人の体型の厚み、反り、前かがみ、肩の上り、下がり、肩の左右の勾配の違いなどをそれぞれの縫合部の合わせを浅くしたり深くしたりすることによって服地を無理なく身体に添わせることができ、分断箇所に設けてある目盛で分断箇所の開き具合の採寸も同時に容易に行うことができる。
【0006】
【実施例】次に図面を参照しながら本発明の体型把握用洋服を説明する。前身頃の縫合部(3.4.5.6)、肩の縫合部(7)、後身頃の縫合部(8.9.10.)、袖の縫合部(11.12)を標準寸法で仮縫いをしておく。次に体型別の採寸方法を説明する。上半身が反っている人(胸の出ている人)は、前身頃が吊り上がり左右の前身頃が重なり過ぎるので前身頃の縫合部A(3)、B(4)、C(5)、D(6)の縫合を浅くすることによって前身頃の裾を平に調整し、上半身が反ることによって生じる後身頃の裾の垂れは後身頃の縫合部A(8)、B(9)、C(10)の縫合を深く(縫い込みを多くする)することによって後身頃の裾を平にする。反対に上半身が前かがみの人は前身頃が垂れ下がり左右の身頃の裾が開いてしまうので前身頃の縫合部A(3)、B(4)、C(5)、D(6)の縫合を深くすることによって前身頃の裾を平にし、前かがみの人の後身頃は吊り上がっているので後身頃の縫合部A(8)、B(9)、C(10)を浅くすることによって後身頃の裾を平にする。左右の腕の長短、及び肘の曲り具合は、腕の形に添って袖の縫合部A(11)、B(12)を調整する。肩の上り下がりは厚い肩パット、薄い肩パットを数種類用意して各人の肩に合わせて縫合する。洋服の採寸を行いながら同時に体型の歪みが各部の目盛(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)、(20)、(21)によって把握できる。上半身の体型に服地を添わせてそれぞれの縫合部で調整し採寸を行う。各縫合部に接着具(マジックテープ等)を設ければ、待ち針、しつけ縫いを必要としない。」

2.本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と甲第1号証発明との対比
本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比すると、その機能や形状等からみて、甲第1号証発明の「カップ部(2a)」は本件特許発明1の「カップ部」に相当し、同様に、「各カップ部(2a)の周縁と適合する一対のカップ用凹部(1a)及びそのカップ用凹部(1a)の周縁に形成されたカップ係着部(1b)を有する装着手段(1)」は「カップ受部」に相当し、「ブラジャー」は「衣類」に含まれるものである。
そして、乳房のサイズと乳房の高さが相関関係にあることは明白であるから、甲第1号証発明における「収容する乳房のサイズを変えた複数のカップ部材(2)」も「カップ高さを変えた複数のカップ部」ということができる。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
〈一致点〉
「複数のカップ受部と、カップ高さを変えた複数のカップ部との組み合わせからなり、カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けてなるカップ部を有する衣類。」
〈相違点1〉
本件特許発明1においては、カップ受部がバージスサイズを変えた複数のものであり、1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部が組み合わせられるのに対し、甲第1号証発明においては、装着手段(1)がアンダーバストサイズ毎に用意された複数のものであり、各装着手段(1)に左右のバストのサイズに適合したカップ部材(2)が組合せられるものの、カップ用凹部(1a)がバージスサイズを変えたものであるのか否か、そして、カップ部材(2)が1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えたものであるのか否か明確ではない点。
〈相違点2〉
本件特許発明の衣類は、オーダーメイド用計測サンプルであるのに対し、甲第1号証発明は、ブラジャーである点。

(2)相違点についての検討及び判断
(2-1)相違点1について
本件特許発明1の相違点1に係る構成の技術的意義について検討する。
本件明細書の段落【0010】及び【0033】には、本件特許発明1の技術的課題として次のように記載されている。
「【0010】
このように構成すれば、顧客のバージスサイズ及びカップ高さにフィットしたカップ受部とカップ部を選定することが容易であり、顧客はカスタムサイズのカップ部を有する計測サンプルを試着した上で注文することができるので、着用時にフィット感のある衣類を提供できるとともに、あらかじめそのフィット感を確認した上で注文することができるオーダーメイド方式を提供することができる。」
「【0033】
このように構成されたオーダーメイド用計測サンプルを用いて、オーダーメイドのブラジャーを提供する際には、まず、カップ受部2を着用者のバージスラインに当て、バージスサイズの合うものを選択し、次にそのカップ受部2にそのバージスサイズにおいて展開された様々なカップ高さのカップ部1の中からカップ高さの合うものを選択してカップ受部2に面ファスナーを介して連結する。そして、着用者の体形に合ったバック部3を選択してカップ受部2にかぎホックで位置調整しながら連結させ、最後に肩ストラップ4をバック部3の適当な位置に連結することにより、カスタムサイズのオーダーメイド用計測サンプルを試着させ、全体としてのフィット感を確認して採寸を終わることになる。したがって、確定した計測サンプルに基づいてブラジャーを製造すれば、着用者の体型に完全に合い、好ましいフィット感が得られるブラジャーを提供することができる。」
これらの記載からみて、本件特許発明1の相違点1に係る構成の技術的意義は、種々のバージサイズ(乳房の下縁の半円状の輪郭線(バージスライン)の曲率)を有する複数のカップ受部2を用意し、顧客がその中から自分のバージスサイズに最も適合するものを選択し、その上で、当該バージスサイズを有し、カップ高さを変えた複数のカップ部から、顧客のバスト(乳房)の高さに適合するものを選択し、顧客のバージサイズ及びバストの高さの双方に適合するオーダーメイド用計測サンプルを構成することにあると解することができる。
一方、甲第1号証には、摘示事項(a)における段落【0006】に、【発明が解決しようとする手段】として「従って、本発明の目的は、アンダーバストのみならず、左右両方のバストがそれぞれのカップにフィットするファウンデーションを提供することになる。」と記載され、摘示事項(c)における段落【0028】に、実施例として「本発明の実施例に係るファウンデーションであるブラジャーB1が示されている。このブラジャーB1は、基本的には、バストを収容するカップ部2a及びそのカップ部の周縁に形成されたカップ止着部2bからなる一対のカップ部材2と、上記各カップ部2aの周縁と適合する一対のカップ用凹部1a及びそのカップ用凹部1aの周縁に形成されたカップ係着部1bを有し、上記カップ部2aを身体胸部に装着する装着手段1とで構成されている。」と記載されている。
上記記載によれば、甲第1号証発明において、装着手段(1)はアンダーバスト毎に用意され、そのカップ用凹部(1a)が左右の乳房のサイズに適合した各カップ部(2a)の周縁と適合するように形成されていると解することができるものの、カップ用凹部(1a)の周縁とカップ部(2a)の周縁が、その曲率を含め、どのような形状に選定されているのか明確ではない。
そこで、甲第1号証発明におけるカップ部(2a)及びカップ用凹部(1a)の周縁形状について次に検討する。
(2-1-1)甲第1号証発明におけるカップ部(2a)の周縁形状
前述のように、甲第1号証には、甲第1号証発明の目的として、左右両方の乳房がそれぞれのカップにフィットするブラジャーを提供することが挙げられている。
ここで、一般に乳房は、胸等にある隆起部と定義されるが、当該隆起部は、乳房の高さを含め、境界線となる乳房の外周縁部から頂点に到るまでの立体形状で特定されるものであり、乳房がカップにフィットする状態とは、乳房がカップに収容されている状態で、乳房の立体形状がカップ内側に形成される立体形状に適合し、甲第1号証の摘示事項(a)における段落【0005】に記載された、装着者が希望する矯正効果を得る状態ということができる。
甲第2号証の摘示事項(a)、(b)及び甲第3号証の摘示事項(a)をも参酌すれば、甲第1号証に記載された、装着者が希望する矯正効果として、乳房がカップに収容されている状態で、乳房の立体形状をカップ内側に形成される立体形状に適合させることにより、乳房の外周縁部のうち下方周縁部から頂点に到る部分を持ち上げ、カップ内側に形成される内面立体形状により、バストラインを整えることが含まれることは当業者にとって明白である。
したがって、甲第1号証に、「バストパッドによるバストラインの矯正効果を左右のバストで同等に得ることができるファウンデーションを提供することにある。」(摘示事項(a)における段落【0007】)、「カップ部の外形が同じで肉厚が異なって収容できるバストのサイズが異なるもの等を各バストサイズ毎に設けることが望ましい。」(摘示事項(b)における段落【0009】)と記載されているとしても、少なくとも左右の乳房の一方については、そのサイズに適合したカップ部材(2)として、乳房を収容した状態で、下方周縁部が乳房の下方周縁部、すなわちバージスラインに可能な限り近接して配置されるとともに、その内面立体形状が、乳房の高さを含め、外周縁部から頂点に到るまでの立体形状に適合したものを選択することにより、乳房の下部周縁部から頂点に到る部分を持ち上げ、乳房の形状を矯正するよう設計すべきことも十分に示唆されているということができる。

(2-1-2)甲第1号証発明におけるカップ用凹部(1a)の周縁形状 甲第1号証における摘示事項(a)における段落【0028】には、各カップ部(2)の周縁とカップ凹部(2a)の周縁が適合することが、また、段落【0030】には、カップ部(2)の下部周縁部に形成されたカップ部止着部(2b)が装着手段(1)のカップ係着部(1b)に係止することが記載され、さらに、【図2】には、カップ部(2)のカップ部止着部(2b)と装着手段(1)のカップ係着部(1b)が、それぞれ特定の周径及び曲率を有する弧状に形成された下部周縁部を有し、それらが互いに止着される様子が図示されている。
装着者に応じて左右の乳房のサイズ及び立体形状は大きく異なるものであり、個々のサイズ、立体形状毎に、その下方周縁部の曲率や周径が大きく異なることはいうまでもないことである。
したがって、甲第1号証発明において、仮に装着手段(1)のカップ係着部(1b)の曲率や周径が、アンダーバストにかかわらず、例えば、平均的なカップ部の下部周縁部の曲率や周径に合わせて予め定められた一律のものであるとすれば、選定されたカップ部が大小特異サイズの場合、その下部周縁部の曲率や周径が大きく異なることとなり、これらの周縁が適合したものであるとはいうことはできなくなる。
しかも、このような場合、上記のように、カップ部(2)の下部周縁部に形成されたカップ部止着(2b)を、装着手段(1)のカップ係着部(1b)に係着しようとしても、なんらかの手段を講じない限り、両者間の曲率や周径のずれが大きくなり、いずれかに大きなたるみや、つれが生じ、ブラジャーとして体をなさない蓋然性が高いと解される。
したがって、甲第1号証発明において、カップ部(2)の周縁とカップ凹部(2a)の周縁を適合させるに当たり、両者の曲率や周径を適合させることが好ましいことは、当業者が十分に予測し得ることである。

(2-1-3)相違点1についてのむすび
甲第2号証には、ジャストフィットするブラジャーを製造するため、バージスサイズを合わせることが示されている。
したがって、上述した甲第1号証発明におけるカップ部(2a)及びカップ用凹部(1a)の周縁形状についての検討をも踏まえれば、甲第1号証発明において、左右の乳房の各サイズに適合した複数のカップ部材(2)として、乳房を収容した状態で、その下方周縁形状が、種々の乳房の下方周縁部、すなわちバージスラインに可能な限り近接して配置されるよう種々の形状を有し、乳房の下部周縁部から頂点に到る部分を持ち上げて形状を矯正するよう、高さ等の内面立体形状が種々異なるものを用意するとともに、各下方周縁形状に概ね適合するカップ凹部(2a)を備えた装着手段を用意することは、当業者が当然考慮すべき程度の設計的事項というべきであって、これを妨げる特段の事情も見当たらず、当業者が格別の困難を伴うことなく採用し得ることである。
このことは、結局、バージスサイズを変えたカップ凹部(1a)を備えた装着手段を用意し、1つのバージスサイズにおいて高さを含む立体形状を変えた複数のカップ部(2a)を組み合わせることにほかならないから、本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。

(2-2)相違点2について
甲第1号証発明は、結局各パーツを装着者に適合するように選択して製品化する組み合わせブラジャーであるのに対し、本件特許発明1は、衣類のオーダーメイド用計測サンプルである。
しかしながら、甲第1号証発明においても、複数用意された装着手段及びカップ部から、装着者に最適なものが選択され、その装着者にとって最適なブラジャーが組み合わされたとすれば、装着者が、再度の選択を経ずその再現を求めるであろうことは、当業者からみれば、当然に予測し得ることというべきである。
しかも、甲第5号証及び甲第6号証には、複数の試着服あるいは体型把握用洋服を用意し、これらを着用して、最適なものを選択したり、採寸して最終製品を裁断、縫製することが示されており、これら複数の試着服あるいは体型把握用洋服を衣類のオーダーメイド用計測サンプルとして利用することが記載されている。
したがって、甲第5号証及び甲第6号証をも参酌すれば、甲第1号証発明のブラジャーを、オーダーメイドブラジャーの採寸に用いることにより、本件特許発明1の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

(3)本件特許発明1についてのむすび
本件特許発明1を全体構成でみても、甲第1号証発明並びに甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された技術的事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本件特許発明1は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第3号証並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである

3.本件特許発明2について
本件特許発明2と甲第1号証発明とを対比すると、上記相違点1及び2に加え、次の点で相違する。
〈相違点3〉
本件特許発明2は「一つのカップ受部において寸法の異なる複数のバック部」を有しているのに対し、甲第1号証発明は、このような複数のバック部を有していない点。

相違点1及び2については既に検討したので、相違点3について検討する。
一般に衣類を複数のパーツに分け、これらを組み合わせることは、本願出願前より広く行われているものと解されるところ、甲第4号証には、ブラジャーをカップ部と、カップ部と組み合わされるベルトA(カップ受け部に相当)、これらベルトAと連結されるベルトB(バック部に相当)に分け、これらを縫製することによりブラジャーを構成することが示されている。
そして、甲第1号証の摘示事項(c)の段落【0030】の記載によれば、ブラジャーを装着手段(1)とカップ部(2a)に分け、右バスト、左バスト、アンダーバストすべてにフィットするブラジャーを組み合わせることが示されているのであるから、甲第4号証に基いて、種々のアンダーバストに対応すべく、装着手段(1)をカップ用凹部(1a)を有する部分と背中に回される部分、すなわちバック部との組合せに敷衍することに格別の困難を要するものとも解されない。
しかも、バック部は、選定したカップ部(2a)との組合せられるカップ用凹部(1a)とは直接関係のないものであるから、バック部を設けることにより、乳房を保持するというブラジャーとしての本来的な機能からみて、格別の作用効果が奏されるものとも解されない。
したがって、甲第4号証発明を踏まえ、甲第1号証発明において、装着手段(1)をカップ用凹部(1a)及びその周縁にカップ係着部(1b)が形成された部分と、これらに連結される部分とに分離し、これらを組み合わせることにより、本件特許発明2の相違点2に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
以上のとおり、本件特許発明2は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである

4.本件特許発明3について
本件特許請求の範囲の請求項3は、請求項1又は2を引用し、「カップ受部の上端縁とカップ部の下端縁にそれぞれ設けた一対の面ファスナーによってカップ受部とカップ部を着脱可能とした」点をさらに特定するものである。
しかしながら、甲第1号証の摘示事項(c)中の段落【0029】には、カップ係着部(1b)が多数の柔軟パイルを有する起毛パイル製の縁取りテープで構成され、カップ止着部(2b)が多数の鉤小片が植設された構成になっている旨記載されており、上記請求項3で特定された事項は、甲第1号証に実質的に記載されているものといえ、そうでなくても、衣類において、複数のパーツを一対の面ファスナーで着脱可能とすることは、本願出願前より広く採用されていることである。
したがって、本件特許発明3に係る発明は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである。

5.本件特許発明4について
本件特許請求の範囲の請求項4は、請求項2又は3を引用し、「カップ受部とバック部をかぎホックによって着脱可能」として点をさらに特定するものである。
しかしながら、衣類において、複数のパーツをかぎホックによって着脱可能とすることは、本願出願前より広く採用されていることである。
したがって、上記3の「本件特許発明2について」で述べたように、装着手段(1)をカップ用凹部(1a)及びその周縁にカップ係着部(1b)が形成された部分と、これらに連結される部分とに分離して組み合わせるに当たり、かぎホックによって着脱可能とすることは、当業者が適宜採用し得ることである。
したがって、本件特許発明4に係る発明は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである。

6.本件特許発明5ないし8について
本件特許発明5は、本件特許発明1の「バージスサイズを変えた複数のカップ受部と、1つのバージスサイズにおいてカップ高さを変えた複数のカップ部との組み合わせからなり、カップ受部に対してカップ部を着脱可能に設けなるカップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル」を用いて、カスタムサイズのカップ部を有するオーダーメイド用計測サンプルの試着を可能とした衣類のオーダーメイド方式ということができる。
このような関係は、本件特許発明2と本件特許発明6、本件特許発明3と本件特許発明7、そして本件特許発明4と本件特許発明8との関係についても同様である。
本件特許発明1ないし本件特許発明4が、そもそも衣類のオーダーメイド用計測サンプルであることからみて、これらが試着を前提とした衣類のオーダーメイド方式での使用を前提にしたものであることは明白である。
しかも、前述のように、甲第5号証及び甲第6号証には、複数の試着服あるいは体型把握用洋服を用意し、衣類のオーダーメイド用計測サンプルとして利用することが記載されており、このことは、こうした試着服あるいは体型把握用洋服の試着を前提とした衣類のオーダーメイド方式を示していることにほかならない。
したがって、本件特許発明5ないし8は、それぞれ本件特許発明1ないし4について述べたのと同様の理由により、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許発明1ないし8は、いずれも本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
また、審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-15 
結審通知日 2008-04-21 
審決日 2008-05-08 
出願番号 特願2001-8099(P2001-8099)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A41H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 千葉 成就  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 松縄 正登
寺本 光生
登録日 2005-03-04 
登録番号 特許第3652251号(P3652251)
発明の名称 カップ部を有する衣類のオーダーメイド用計測サンプル及びオーダーメイド方式  
代理人 佐藤 久容  
代理人 後藤 誠司  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 登山 桂子  
代理人 飯島 歩  
代理人 東野 修次  
代理人 中山 務  
代理人 栗山 貴行  
代理人 横井 知理  
代理人 小原 順子  
代理人 大島 泰甫  
代理人 稗苗 秀三  

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