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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200517013 審決 特許
不服200421684 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1189890
審判番号 不服2000-13562  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-08-28 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 平成 2年特許願第418011号「増幅捕捉アッセイ」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年 5月14日出願公開、特開平 4-141099〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成2年12月28日(パリ条約による優先権主張1989年12月29日、米国)の出願であって、その発明の要旨は、平成16年3月11日付で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1、4及び請求項6に係る発明の要旨は次のとおりと認められる。

「【請求項1】 試験に供するサンプル中の一本鎖HIV核酸を測定する組成物であって、
(a)次の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー、
5' TGTGGAGGGGAATTTTTCTACTGTAA 3' および
5' TATATAATTCACTTCTCCAATTGTCCCTCAT 3'
(b)4つの核酸塩基のそれぞれのモノヌクレオチド、
(c)プライマーおよびモノヌクレオチドから延長生成物を生成し得る核酸ポリメラーゼ(これは一本鎖HIV核酸に相補的であり、これに対してプライマーがアニールする)、
(d)第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した普遍的ラベル捕捉部分からなる第1ポリヌクレオチドプローブ(これは次よりなる群から選択される配列を有する)、
5' CCTCCTCCAGGTCTGAAGATCTCGGACTCATTGTT 3' および
5' GTCCACTGATGGGAGGGGCATACATTGCTTTTCCT 3'
(e)この配列の他のものを有する第2ポリヌクレオチドプローブ、
(f)第2ポリヌクレオチドプローブが固定されるマトリックス、並びに
(g)第1ポリヌクレオチドプローブが、増幅された標的核酸配列に対するハイブリダイズにより捕捉される場合(これは次にマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとのハイブリダイズにより捕捉される)、第1ポリヌクレオチドプローブに含有される第1普遍的ラベル捕捉部分によって捕捉され得る普遍的ラベル
からなる組成物。」(以下、「本願発明1」という。)

「【請求項4】 試験に供するサンプル中の一本鎖HIV核酸を測定する方法であって、
(a)次の配列を有するHIV核酸のコピー数を増幅し、
5’ TGTGGAGGGGAATTTTTCTACTGTAA 3’ および
5’ TATATAATTCACTTCTCCAATTGTCCCTCAT 3’
(b)ハイブリッド形成を可能とすべく増幅したコピー数のHIV核酸と、次よりなる群から選択される配列を有する第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した第1普遍的ラベル捕捉部分からなる第1ポリヌクレオチドプローブとを接触させ、
5’ CCTCCTCCAGGTCTGAAGATCTCGGACTCATTGTT 3’ および
5’ GTCCACTGATGGGAGGGGCATACATTGCTTTTCCT 3’
(c)ハイブリダイズし得る条件下で、かくして形成されたハイブリッドと、この配列の他のものを有する第2一本鎖ポリヌクレオチド断片からなるマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとを接触させ、
(d)ハイブリッドとマトリックス固定第2プローブとのハイブリダイズを可能とし、
(e)必要に応じて結合ハイブリッドを全ゆる未結合核酸から分離し、
(f)増幅されたHIV核酸の存在または非存在を測定する
ことからなる方法。」(以下、「本願発明4」という。)

「【請求項6】 試験に供するサンプル中の一本鎖HIV核酸を測定する方法であって、
(a)次の配列を有するプライマーを使用し、標的核酸のコピー数を増幅し、
5’ TGTGGAGGGGAATTTTTCTACTGTAA 3’ および
5’ TATATAATTCACTTCTCCAATTGTCCCTCAT 3’
(b)ハイブリッド形成を可能とすべく増幅したコピー数のHIV核酸と、
(i)次よりなる群から選択される配列を有する第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着したラベル系の少なくとも1つの成分からなる第1ヌクレオチドプローブ、
5’ CCTCCTCCAGGTCTGAAGATCTCGGACTCATTGTT 3’ および
5’ GTCCACTGATGGGAGGGGCATACATTGCTTTTCCT 3’
(ii)この配列の他のものを有する第2一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した第1実体からなる第2ポリヌクレオチドプローブ、
(iii)第1実体と特異的に結合し得る核酸である第2実体が結合したマトリックスとを接触させ、
(c)第1および第2プローブと存在する全ゆる増幅されたコピー数のHIV核酸とをハイブリダイズさせ、第1実体と第2実体とを結合させて結合複合体を形成させ、
(d)必要に応じて結合複合体を全ゆる未結合核酸から分離し、
(e)増幅されたHIV核酸の存在または非存在を測定する
ことからなる方法。」(以下、「本願発明6」という。)

なお、本願の請求項6の(b)(iii)には、上記の「とを接触させ」という記載はないが、その請求項6の記載では、本願の請求項6に係る発明の構成に欠くことができない事項が不明瞭であり、検出対象のみが異なる発明であると認められる請求項12の記載を参酌すれば、本来、発明の構成に欠くことができない事項である「とを接触させ」という語句が欠落しているものと認められるので、本願発明6を上記のように認定した。

第2 引用例
これに対して、当審において平成15年12月9日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1?7のうち、引用文献1?4及び6には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)Analytical Biochemistry, 177, 1989 Feb, p.27-32(以下、「引用例1」という)
(1-1)「我々は、マイクロタイターを基盤としたサンドイッチハイブリダイゼーションアッセイであって、HIV-1の低コピー数の配列の検出を目的としたものを開発した。アッセイは、マイクロタイターウェルにリンカーアームを介して共有結合した捕捉プローブ配列を用いる。検出プローブは、ビオチンで標識されたDNA断片であって、捕捉配列に隣接する配列から得られる。試料核酸の存在下でのハイブリダイゼーションの後、検出プローブは、試料が捕捉プローブ及び検出プローブ間の連結を橋渡しする相補的配列を含む時に限り、結合して残る。結合した検出プローブの量は、ペルオキシダーゼ-ストレプトアビジン結合体とのインキュベート、及びペルオキシダーゼ基質の比色により定量される。このアッセイは、患者試料中のHIV-1の高感度の検出を達成するために、酵素的なターゲットの増幅と組み合わされた。ポリメラーゼ連鎖反応を使用したHIV-1 DNAの増幅によって、190-bpの生産物が得られた。この生産物は、サンドイッチハイブリダイゼーションアッセイの使用により、容易かつ明確に定量される。テスト結果は、10^(5)細胞中のHIV-1感染細胞、又は約30分子のHIV-1 DNAを検出することができる。」(要約)
(1-2)「…(B)HIV-1のDNAのPCR増幅の戦略。190-bpのgag PstI部位を跨ぐ領域が、PCR増幅の対象として選択された。…一対の20塩基長のオリゴヌクレオチドが、この領域間の増幅に用いられた。」(図1の説明)
(1-3)「DNAの酵素的増幅 10μlの水中の1マイクログラムのDNA試料がPCRバッファに…となるように調整された。これに10μlのDMSO、さらに各dNTPが1mM、各プライマーが6.6μg/ml加えられた。反応は、93℃で7分間変性され、室温に冷却され、10単位のThermus Aquaticus (Taq) DNAポリメラーゼが加えられた。…使用されたプライマー配列はGK55(5'-CCTGCTATGTCACTTCCCCT)とGK56(5'-TTATCAGAAGGAGCCACCCC)であった(図1B)。」(29頁左欄19-39行)
(1-4)「HIV-1核酸の検出アッセイの計画において、我々は、サンドイッチハイブリダイゼーション法を選択した。診断アッセイにおいては、サンドイッチハイブリダイゼーションは、直接ハイブリダイゼーションよりも望ましい。それは、試料の固定化が不要であり、未加工試料の信頼できるアッセイが可能だからである。サンドイッチハイブリダイゼーションには、2つの近接し重複していないプローブ、固定化された捕捉プローブとラベルされた検出プローブとが必要である。ゲノムクローンpBH10を使用して、我々は2つのHIV-1のDNA断片を選択した。それはgag PstI部位の両端に位置し、ラベル化された、図1Aの断片1及び2である。断片2の鎖はHIV-1のRNAに相補的であり、捕捉プローブとして機能させるためにM13mp18にクローニングされた。断片1は、検出プローブとして機能させるためにpBR322にクローニングされた。
M13mp18断片2DNA捕捉プローブは、その固定化のために、まず、末端が1級アミノ基であるリンカーアームで修飾された。このリンカーアームは、塩基に化学的に直接結合された。4種の塩基のフラクションは、グアニン及びアデニンはC-8部位で、シトシンはC-5部位で、チミジンはおそらくC-6部位で、化学的手法により修飾された(13)。修飾された捕捉DNAは、活性なマイクロタイターウェルに共有結合され、アッセイが、ELISA類似のハイブリダイゼーション手法を用いて実施することができた(第2図)。クローン化されたpBR322断片1は、フォトビオチンによりビオチン標識され、検出プローブとして使用された。gag PstI部位を含むHIV-1の相補的核酸断片の存在下で、捕捉プローブ及び検出プローブ配列との間でサンドイッチ構造が形成された。適切な洗浄後、結合した検出プローブは、パーオキサイドに結合したストレプトアビジンと比色基質とインキュベートすることにより定量化される。」(29頁右欄下から18行?30頁左欄下から11行)
(1-5)「HIV-1サンドイッチハイブリダイゼーションアッセイの概要図。(A)リンカーアームで修正したM13mp18断片2は、該リンカーアームを介してマイクロタイターウェルに固定化される。pBR322の断片1は、ビオチンで標識される。(B)gag PstI部位を跨ぐDNA断片に相補的なDNA断片の存在下で、捕捉プローブと検出プローブとの間にサンドイッチ構造が形成される。(C)ウェルが洗浄された後、ハイブリダイズしたプローブは、ペルオキシダーゼが結合したストレプトアビジン及び比色基質とインキュベートすることにより検出される。」(図2の説明)

(2)Gene, 61 1987, p.253-264(以下「引用例2」という)
(2-1)HBVのDNAアッセイ系において、捕捉プローブAとラベルプローブBとを対象DNAとハイブリダイズさせ、形成したハイブリッドを、固相捕捉プローブCにハイブリダイズさせ、ラベルされたプローブEを増幅マルチマーDを介してハイブリダイズさせて、対象DNAを検出する方法(図1及びその説明)

(3)Analytical Biochemistry 181, 1989.9, p.345-359(以下「引用例3」という)
(3-1)「該手法は、検出対象核酸を、dAテイルを有する捕捉プローブ及びラベルされたプローブと溶液中でハイブリダイズさせることを含む。捕捉プローブ-検出対象-ラベルされたプローブ、という「3成分複合体」は、その後、オリゴ(dT)を含む磁気ビーズ上に、オリゴ(dT)とポリ(dA)とのハイブリダイゼーションにより捕捉される。」(要約6?11行)
(3-2)「標準的なホスホラミダイト法によりオリゴヌクレオチドを調製し、逆相HPLCにより精製した。リステリア特異的な16S rRNAオリゴヌクレオチド捕捉プローブNo.773は、5’ TGT CCC CGA AGG GAA AGC TCT GTC TCC AGA GTG GT 3’であった。」(346頁左欄5?10行)
(3-3)「図1 可逆対象捕捉(RTC)の概要図 第1部.検出対象、捕捉プローブ(dAを伴う波線)及びラベルされたプローブ(●を伴う波線)からなる3成分複合体は、四角枠で強調されている。… 第2部.3成分複合体は、オリゴ(dT)とポリ(dA)との間のハイブリダイゼーションにより、オリゴ(dT)磁気ビーズ上に捕捉される。…第3部 検出対象は最終的に検出用の固相上に捕捉された。」(図1及びその説明)

(4)Molecular and Cellular Probes 2, 1988, p.47-57(以下「引用例4」という)
(4-1)「クローニングされたLT遺伝子DNAは、連続的に希釈され、合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、酵素的に増幅された。増幅されたDNAは、ビオチンでラベルされたM13に基づくプローブを用いて検出された。」(47頁「要約」の9?11行)
(4-2)「ビオチン又は酵素でラベルされたプローブは、放射性ラベルがされたプローブの魅力的な代替手段を提供した。しかし、非放射性ラベルプローブは、放射性アイソトープでラベルされたプローブと同様の感度を達成可能なものではなかった。最近、Saiki等は、特定の標的DNA配列を酵素的に増幅する方法について述べた。彼らは、この手法を用いて、標的配列の量を2.2×10^(5)倍に増幅したと報告した。この手法は、ハイブリダイゼーションアッセイの感度を劇的に高めるかもしれない。」(48頁6?13行)

(5)Nature, 313, 1985, p.277-284(以下、「引用例6」という)
(5-1)HIVの核酸配列であって、以下の部分配列を有するもの
6933?6958位に 5’ TGTGGAGGGGAATTTTTCTACTGTAA 3’
7224?7254位に 5’ATGAGGGACAATTGGAGAAGTGAATTATATA 3’
7185?7219位に 5’ AACAATGAGTCCGAGATCTTCAGACCTGGAGGAGG 3’
7091?7125位に 5’ AGGAAAAGCAATGTATGCCCCTCCCATCAGTGGAC 3’
(図1)

第3 本願発明4について
便宜上、まず、本願発明4について検討する。

1 対比
引用例1記載の方法は、プライマーとして用いられた特定の配列が含まれているHIV核酸が増幅されている(前記記載事項(1-2)及び(1-3))のであるから、本願発明4と同様に「特定配列を有するHIV核酸のコピー数を増幅」する工程を有するものである。そして、引用例1記載のpBR322断片1は、本願発明4の「第1一本鎖ポリヌクレオチド断片」に相当する。
また、引用例1記載の方法において検出プローブとして使用されるpBR322断片1は、ビオチンで標識されており、それを、パーオキシドに結合したストレプトアビジン及び比色基質とインキュベートすることにより定量化されるものであり(前記記載事項(1-4)及び(1-5))、本願の請求項3には、普遍的ラベル捕捉手段とその結合パートナーとして「アビジンまたはストレプトアビジン」及び「ビオチンまたはその結合アナログ」、が記載されているから、引用例1記載のビオチンは、本願発明4の「第1普遍的ラベル捕捉部分」に相当する。すなわち、引用例1の記載において、ビオチン標識され検出プローブとして使用されるpBR322断片1は、本願発明4の「第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した第1普遍的ラベル捕捉部分からなる第1ポリヌクレオチドプローブ」に相当する。
さらに、引用例1のM13mp18断片2は、本願発明4の「第2一本鎖ポリヌクレオチド断片」に相当し、本願明細書の段落【0021】記載の「マトリックス」の定義からみて、引用例1の「マイクロタイターウエル」は、本願発明4の「マトリックス」に相当することは明らかであるから、引用例1の、マイクロタイターウェルに共有結合された捕捉DNAプローブは、本願発明4の「マトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブ」に相当する。
そして、本願発明も引用例1に記載された方法も、標的配列、第1プローブ及び第2プローブという3種の核酸を接触させ、そのハイブリダイズを可能としている点で共通する。
また、本願発明4の工程(e)は選択的な工程であるから、本願発明4は工程(e)を有さない発明を選択肢として包含している。そこで、その工程(e)を有さない選択肢に係る本願発明4と、引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という)とを比較すると、その一致点及び相違点は、以下の通りである。

[一致点](本願発明4の対応する構成の符号を付した)
「試験に供するサンプル中の一本鎖HIV核酸を測定する方法であって、
(a)特定の配列を有するHIV核酸のコピー数を増幅し、
(b-d)ハイブリッド形成を可能とすべく増幅したコピー数のHIV核酸、該増幅核酸中に存在する第1の特定配列に対して相補的な配列を有する第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した第1普遍的ラベル捕捉部分からなる第1ポリヌクレオチドプローブ、及び該増幅核酸中に存在する第2の特定配列を有する第2一本鎖ポリヌクレオチド断片からなるマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとを接触させ、3種の核酸のハイブリダイズを可能とし、
(f)増幅されたHIV核酸の存在または非存在を測定する
ことからなる方法」
である点。

[相違点]
(1)HIV核酸増幅工程で用いるプライマーの具体的配列が異なり、増幅されるHIV核酸の配列が異なることから、それにハイブリダイズして検出するための第1ポリヌクレオチドプローブ及び第2ポリヌクレオチドプローブの具体的配列も異なる点
(2)本願発明は、増幅HIV核酸と第1ポリヌクレオチドプローブとを接触させ、形成されたハイブリッドとマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとを接触させてハイブリダイズさせているのに対し、引用発明1は、増幅HIV核酸、第1ポリヌクレオチドプローブ及びマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとを同時に接触させハイブリダイズしている点

2 相違点(1)について
引用例6には、本願発明4における測定対象であるHIVの全配列が記載されている。検出対象の配列の適当な部分配列に対応したプライマーやプローブを設計することは、本技術分野においてよく行われていることであり、当業者であれば容易に行うことができることである。本願発明4において採用している増幅用のプライマーは、引用例6に記載されたHIVの配列の6933?6958位と7224?7254位に対応しており(後者については3’から5’方向に読んだ配列の相補配列)、プローブとして使用している配列は、上記配列をプライマーとして使用した場合に増幅される6933?7254位の中に存在する7185?7219位と7091?7125位に対応している(いずれも3’から5’方向に読んだ配列の相補配列)。HIVの全配列のうち特にこの部分の配列を選択することが困難であるとは認められない。

3 相違点(2)について
HIV核酸、第1ポリヌクレオチドプローブ、及びマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブを、引用発明1のように同時にハイブリダイズさせるか、あるいは、本願発明4のようにHIV核酸と第1ポリヌクレオチドプローブとをまずハイブリダイズさせて形成されたハイブリッドを、マトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせるかは、HIV核酸を検出するという引用発明1の目的を達成するためには、最終的に3種類の核酸がハイブリダイズしたものが得られればいいのであるから適宜選択できる事項である。また、例えば、引用例2(特に第1図を参照)及び引用例3(特に第1図を参照)には、サンドイッチハイブリダイゼーションにおいて、マトリクスに固定された核酸とハイブリダイズさせる前に、まず、標的核酸と他のプローブとのハイブリダイズを行う方法が記載されており、引用発明1においても、このような段階を経てハイブリダイズを行うことは、当業者が容易に想到し得たことである。

4 請求人の主張
請求人は、平成16年4月12付けの審尋に対する、平成16年10月14日提出の回答書において、以下のように主張する。
(1)「しかしながら、引用文献1には増幅の後に二つのプローブを使用することが記載されており、一つ目のプローブとして非-放射性標識されたHIV及びPBR配列を含んでおります、二つ目の未標識プローブは固体マトリックスと結合しております。一方、本発明では、第一プローブ及び第二プローブの両者とも標識されておらず、この第一プローブが、第一プローブと相補的な配列からなる標識されたユニバーサルプローブとハイブリダイズされた後に信号発生が起こっております。」
(2)「また、引用文献2は核酸標的の直接分析方法が記載されており、本発明に必須であるプライマー、ヌクレオチド又はポリメラーゼを使用しておらず、また必要ともしておりません。また、引用文献3は標的捕捉のためのユニバーサル配列が記載されておりますが、それはプローブの一部として非-標的配列を使用しておらず、標的に相補的な配列からなるプローブを使用しているのみであります。また、引用文献3はユニバーサル標識-捕捉成分の使用について何ら記載されておらず、それを使用している本発明とは異なります。また、引用文献4ではニトロセルロースフィルタの膜へ固定化された物質を使用しておりますが、これは本発明で使用している捕捉オリゴヌクレオチドを使用しておりません。また、引用文献5は増幅について開示されているのみであり、プロービング、捕捉又は固体マトリックスは使用されておりません。また、引用文献6は単にHIVのヌクレオチド配列が記載されているのみであります。」

主張(1)について
前記「第3」の「1 対比」でも述べたように、引用例1に記載された方法でも、前記記載事項(1-4)及び(1-5)によれば、pBR322断片1は、ビオチン(B)で標識されているが、それのみで信号が発生するのではなく、最終ステップCで、ビオチン(B)が、ペルオキシダーゼ(P)が結合したストレプトアビジン(X)を捕捉することにより信号が発生している。すなわち、ビオチンは、ラベルである「ペルオキシダーゼ(P)が結合したストレプトアビジン(X)」を捕捉するものであると解されるから、pBR322断片1は、本願発明4の「第1一本鎖ポリヌクレオチドに付着した普遍的ラベル捕捉部分からなる第1ポリヌクレオチドプローブ」に相当するものと認められ、この点は相違点とはいえない。

主張(2)について
請求人は、各引用例単独では、本願発明の構成の一部が記載されていないことを主張するのみであり、各引用例に記載された事項から本願発明が容易に想到し得うるという点については、何ら具体的な反論をしていない。

以上のことから、請求人の主張はこれを採用することはできない。

5 小括
上記のように、本願発明4は、引用例1?3及び6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
また、本件明細書の記載からは、本願発明4で用いられた特定の配列を用いることによって、初めて標的配列の検出が可能となったとか、ウイルス検出効率が高まった等の格別顕著な効果があるということもできない。
したがって、本願発明4は、引用文献1?3及び6に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 本願発明1について

1 対比
本願発明1は、本願発明4の測定方法に用いる各種の成分を集めて組成物にしたものと認められる。
そして、本願発明1と引用例1に記載された発明(以下、「引用発明2」という)とを比較すると、その一致点及び相違点は、以下の通りである。

[一致点]
「試験に供するサンプル中の一本鎖HIV核酸を測定する成分である
(a)特定の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー、
(b)4つの核酸塩基のそれぞれのモノヌクレオチド、
(c)プライマーおよびモノヌクレオチドから延長生成物を生成し得る核酸ポリメラーゼ(これは一本鎖HIV核酸に相補的であり、これに対してプライマーがアニールする)、
(d)第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した普遍的ラベル捕捉部分からなる第1ポリヌクレオチドプローブ(これは増幅された配列中の特定の部位の配列を有する)、
(e)増幅された配列中の特定の部位の配列であって、(d)とは異なる配列を有する第2ポリヌクレオチドプローブ、
(f)第2ポリヌクレオチドプローブが固定されるマトリックス、並びに
(g)第1ポリヌクレオチドプローブが、増幅された標的核酸配列に対するハイブリダイズにより捕捉される場合(これは次にマトリックス固定第2ポリヌクレオチドプローブとのハイブリダイズにより捕捉される)、第1ポリヌクレオチドプローブに含有される第1普遍的ラベル捕捉部分によって捕捉され得る普遍的ラベル」
に係るものである点

[相違点]
(1)本願発明1は、上記の成分(a)?(g)からなる組成物であるのに対し、引用発明2は、成分(a)?(g)についての記載はあるものの、それらを組成物とすることは特定されていない点
(2)HIV核酸増幅工程で用いるプライマーの具体的配列が異なり、増幅されるHIV核酸の配列が異なることから、それにハイブリダイズして検出するための第1ポリヌクレオチドプローブ及び第2ポリヌクレオチドプローブの具体的配列も異なる点

2 相違点(1)について
引用例1に記載された検出方法に使用するすべての成分は、検出に際して予め準備しておく必要があるものであり、また、ある作業のために必要な複数の要素をキットとして組み合わせることは例を挙げるまでもなく周知のことであるから、検出に必要な各成分を一緒にして組成物とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

3 相違点(2)について
前記「第3」の「2」で述べたと同様の理由により、この点は、引用例6に記載されたHIVの配列に基づいて、当業者が容易に想到しうることである。

4 小括
上記のように、本願発明1は、引用例1及び6に記載された事項から当業者が容易に想到することができたものである。
また、本件明細書の記載からは、本願発明1で用いられた特定の配列を用いることによって、初めて標的配列の検出が可能となったとか、ウイルス検出効率が高まった等の格別顕著な効果があるということもできない。
したがって、本願発明1は、引用例1及び6に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 本願発明6について

1 対比
引用例3に記載された「ポリ(dA)」、「オリゴ(dT)」、「ラベルされたプローブ」、「捕捉プローブ」、「固体支持体」、「3成分複合体」は、本願発明6の「第1実体」、「第2実体」、「第1ヌクレオチド断片に付着したラベル系の少なくとも一つの成分からなる第1ヌクレオチドプローブ」、「第2ポリヌクレオチドプローブ」、「マトリクス」、「結合複合体」に相当する。
そして、本願発明6の工程(d)は選択的な工程であるから、本願発明6は工程(d)を有さない発明を選択肢として包含している。そこで、その工程(d)を有さない選択肢に係る本願初発明6と、引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という)とを比較すると、その一致点及び相違点は、以下の通りである。

[一致点]
「試験に供するサンプル中の核酸を測定する方法であって、
(b)標的核酸と、
(i)第1の特定配列を有する第1一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着したラベル系の少なくとも1つの成分からなる第1ヌクレオチドプローブ、
(ii)第2の特定配列を有する第2一本鎖ポリヌクレオチド断片に付着した第1実体からなる第2ポリヌクレオチドプローブ、
(iii)第1実体と特異的に結合し得る核酸である第2実体が結合したマトリックスとを接触させ、
(c)第1および第2プローブと存在する全ゆるHIV核酸とをハイブリダイズさせ、第1実体と第2実体とを結合させて結合複合体を形成させ、
(e)増幅されたHIV核酸の存在または非存在を測定する
ことからなる方法。」

[相違点]
(1)本願発明6は、測定対象がHIVであり、プライマー、プローブの配列は、HIVの部分配列であるのに対し、引用発明3は、測定対象がリステリア菌であり、プローブとしてリステリア菌の部分配列を用いている点
(2)本願発明6は、ハイブリッドの形成の前に、特定の配列を有するプライマーを使用し、標的核酸のコピー数を増幅しているのに対し、引用発明3では、そのような増幅工程がない点

2 相違点(1)について
HIVの検出は周知の課題であり(例えば引用例1を参照)、引用発明3の測定対象をHIV核酸として、引例6に記載されたHIV核酸の配列に基づいて捕捉プローブ及び検出プローブの配列を適宜選択することは、当業者が容易に想到しうることである。

3 相違点(2)について
ハイブリダイゼーションによる検出の前に、標的核酸をPCRにより増幅して感度を高めることは、引用例1及び4に記載されている(前記記載事項(1-1)及び(4-2)を参照)ようによく知られていることであり、引用発明3のサンドイッチハイブリダイゼーションによる検出法において、標的核酸を予め増幅することは当業者が容易に想到しうることである。また増幅のためのプライマーの設計も、引用例6に記載されたHIV核酸の配列から当業者が容易に設計できるものである。

上記のように、本願発明6は、引用発明1,3、4及び6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
また、本件明細書の記載からは、本願発明6で用いられた特定の配列を用いることによって、初めて標的配列の検出が可能となったとか、ウイルス検出効率が高まった等の格別顕著な効果があるということもできない。
したがって、本願発明6は、引用例1、3、4及び6に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
したがって、本願発明4は引用例1?3及び6に記載された事項に基づいて、本願発明1は引用例1及び6に記載された事項に基づいて、また、本願発明6は引用例1、3、4及び6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって他の請求項に係る発明については判断するまでもなく、本願は特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-18 
結審通知日 2007-05-23 
審決日 2007-06-05 
出願番号 特願平2-418011
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子深草 亜子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 種村 慈樹
高堀 栄二
発明の名称 増幅捕捉アッセイ  
代理人 浜田 治雄  

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