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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1189919
審判番号 不服2004-23220  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-11 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2002-223962「サーマルプリンタ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 58618〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年7月31日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年9月13日付けで手続補正がされたが、同年10月5日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年11月11日付けで審判請求がされるとともに、同年12月13日付けで明細書についての手続補正がなされた。
そして、当審における審理の結果、平成20年6月6日付けで平成16年12月13日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年8月11日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年8月11日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
列状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、
オリジナル画像データを記憶するイメージバッファ及び熱履歴補正データを記憶する一対のラインメモリを要するメインメモリと、
熱履歴補正回路及び前記サーマルヘッドを制御する印字制御回路が設けられた信号処理装置と、
DMA制御部を備えた中央処理装置とを備え、
前記DMA制御部の制御により前記イメージバッファに記憶されているオリジナル画像データは前記信号処理装置の熱履歴補正回路にDMA転送されて熱履歴補正が行われ、その熱履歴補正された熱履歴補正データは前記一対のラインメモリのいずれか一方に記憶され、再度その熱履歴補正データは前記印字制御回路にDMA転送されるものであって、
前記熱履歴補正データを前記一対のラインメモリのいずれか一方に転送する際に、階調数と前記サーマルヘッドの1ラインのドット数に応じた規則に基づいて熱履歴補正データを並べ替えて記憶させ、
前記熱履歴補正データを前記一対のラインメモリのいずれか一方に並べ替えて記憶させているときに、他方のラインメモリに記憶された熱履歴補正データを読み出して前記印字制御回路にDMA転送することを特徴とするサーマルプリンタ装置。」(以下、本願発明という。)

第3 引用発明
当審拒絶理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平9-220823号公報(以下、「引用例」という。)には、【従来の技術】に関して、以下の記載と、それに関連する図6がある。

「【0002】
【従来の技術】ラインサーマルヘッドを使用して高速な熱転写印字を行うと、印字の開始直後の濃度は低く、その後印字が連続すると濃度が高くなるという問題が発生する。これは印字のためにサーマルヘッドの発熱素子に印加するエネルギーがサーマルヘッド自体に蓄熱するためである。このようなサーマルヘッドの蓄熱による印字濃度の変化は印字品質を劣化させることになる。
【0003】このようなことから、例えば、特開平6-24027号公報では、図7に示すように、発熱素子が前印字ラインの位置にあるときをA1,A2,A3,A4,A5とし、現印字ラインにあるときをB1,B2,B3,B4,B5とし、発熱素子A1,A2,A3,A4,A5の多階調印字データをA1 ,A2 ,A3 ,A4 ,A5 とし、発熱素子B1,B2,B3,B4,B5の多階調印字データをB1 ,B2 ,B3 ,B4 ,B5 とすると、印字対象となる注目発熱素子B2の多階調印字データB2 の熱履歴補正後のデータB20は、
B20=B2 -(A1 ×α+A2 ×β+A3 ×α)-γ(B1 +B3 )
によって求める。
【0004】これを一般式で表わすと、
Bn0=Bn -(An-1 ×α+An ×β+An+1 ×α)
-γ(Bn-1 +Bn+1 ) …(1)
となる。但し、αは、隣接発熱素子の前印字ラインでの多階調印字データAn-1 ,An+1 (図7では発熱素子A1及びA3の多階調印字データA1 ,A3 )が注目発熱素子(図7では発熱素子B2)に及ぼす熱的影響を補正する割合を示す熱履歴補正係数、βは、注目発熱素子の前印字ラインの多階調印字データAn (図7では発熱素子A2の多階調印字データA2 )が注目発熱素子に及ぼす熱的影響を補正する割合を示す熱履歴補正係数、γは、隣接発熱素子の多階調印字データBn-1 ,Bn+1 (図7では発熱素子B1及びB3の多階調印字データB1 ,B3 )が注目発熱素子に及ぼす熱的影響を補正する割合を示す熱履歴補正係数で、これらはプリンタシステムにより決定される。
【0005】従って、上記(1) 式における、(An-1 ×α+An ×β+An+1 ×α)の項は、前印字ラインのうち、注目発熱素子の近傍の3つの発熱素子(図7では発熱素子A1,A2,A3)が注目発熱素子へ与える蓄熱影響量を示し、γ(Bn-1 +Bn+1 )の項は、注目発熱素子と同一印字ラインにおける隣接発熱素子(図7では発熱素子B1及びB3)が注目発熱素子へ与える蓄熱影響量を示すことになる。
【0006】このような熱履歴補正を行う多階調サーマル記録装置は、例えば図6に示す構成になっている。すなわち、ホストコンピュータからI/F(インターフェース)回路1を介して1ライン分の多階調印字データが入力されると、この印字データは先ず受信用ラインメモリ2に格納される。このとき、印字用ラインメモリ3に格納している現印字ラインの多階調印字データと前印字ラインメモリ4に格納している前印字ラインの多階調印字データを読出して蓄熱補正演算回路5に供給する。
【0007】蓄熱補正演算回路5は上記(1) 式に基づく演算を行って各発熱素子の多階調印字データを補正し、補正後の多階調印字データをデータ展開回路6に供給する。データ展開回路6は最大表現階調値を31階調とすると、多階調印字データを第1階調目から第31階調目のデータに展開して展開データラインメモリ7に格納する。そして、展開データラインメモリ7の第1階調目から第31階調目の展開データに基づいてラインサーマルヘッド8の各発熱素子が駆動する。
【0008】CPU等からなるコントロール回路9を設け、このコントロール回路9でI/F回路1、蓄熱補正演算回路5、メモリコントローラ10、印字時間補正ROM11及びメカ制御回路12を制御している。また、コントロール回路9はデータ展開回路6、展開データラインメモリ7及びラインサーマルヘッド8に転送クロックCLKを供給している。メモリコントローラ10は各ラインメモリ2?4を制御している。
【0009】印字時間補正ROM11に格納した補正値は予め実験で求めて決めており、図9に示すように階調数に比例した印字濃度が得られるような第1階調から第31階調までの通電時間の補正値が格納されている。メカ制御回路12は用紙を搬送するモータやインク転写リボンを駆動するモータ等の機構部を駆動制御する。
【0010】ラインサーマルヘッド8は1280本の発熱素子B1 ?B1280を配置して構成するが、この発熱素子を64本ずつの20ブロックに分割し、各ブロック毎に図8に示す構成の駆動回路を設けている。すなわち、64本の発熱素子B1 ,B2 ,B3 ,…B64を+VH 端子と接地間にそれぞれトランジスタT1 ,T2 ,T3 ,…T64を介して接続する。そして外部からシリアルな多階調印字データを転送クロックCLKに同期して1ビットずつ64ビットシフトレジスタ13に順次シフトして転送し、シフトレジスタ13への64ビットの印字データの転送が終了するとラッチパルスが64ビットラッチ回路14に入力してシフトレジスタ13の印字データをラッチ回路14にラッチする。ラッチ回路14の64ビット出力はそれぞれ2入力アンドゲートAN1 ,AN2 ,AN3 ,…AN64の一方の入力端子に入力する。また、アンドゲートAN1 ,AN2 ,AN3 ,…AN64の他方の入力端子には印字開始のタイミングでハイレベルとなるストローブ信号を入力している。従って、ハイレベルなストローブ信号の入力により、ラッチ回路4の64ビット出力がアンドゲートAN1 ?AN64を介して各トランジスタT1 ?T64のベースに供給され、オン、オフ動作されることになる。」

以上のことから、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。

「多階調印字データが入力されるとこの印字データを格納する受信用ラインメモリ2と、印字用ラインメモリ3に格納されている現印字ラインの多階調印字データと前印字ラインメモリ4に格納されている前印字ラインの多階調印字データとから所定演算により多階調印字データに熱履歴補正を施し、熱履歴補正後の多階調印字データをデータ展開回路6に供給する蓄熱補正演算回路5と、
熱履歴補正後の多階調印字データを第1階調目から第31階調目のデータである展開データに展開して展開データラインメモリ7に格納するデータ展開回路6と、
展開データをラインサーマルヘッド8に供給する展開データラインメモリ7と、
各ラインメモリ2?4を制御するメモリコントローラ10と、
I/F回路1、蓄熱補正演算回路5、メモリコントローラ10を制御し、データ展開回路6、展開データラインメモリ7及びラインサーマルヘッド8に転送クロックCLKを供給する、CPU等からなるコントロール回路9と、
1280本の発熱素子が配置され、発熱素子の駆動回路が設けられたラインサーマルヘッド8と、
を備え、
1280本の発熱素子は64本ずつの20ブロックに分割され、
各ブロック毎に設けられる駆動回路は、展開データラインメモリ7からシリアルに転送されてくる展開データを受ける64ビットシフトレジスタ13、64ビットシフトレジスタ13への転送が終了した64ビット分の展開データをラッチし、ストローブ信号が入力されると64ビット分の展開データをゲートを介して各ブロックの各発熱素子の駆動をオンオフ制御するトランジスタに供給する64ビットラッチ回路とからなる、
サーマルプリンタ装置」(以下、「引用発明」という。)

第4 対比
本願発明と引用発明とを比較する。

引用発明の「1280本の発熱素子」は、ラインサーマルヘッド8に配置されているから列状に配列されており、かつ、1280本は複数本であるから、本願発明の「列状に配列された複数の発熱素子」に相当する。
引用発明の「駆動回路」は、発熱素子を制御するから、本願発明の「印字制御回路」に相当する。
すると、引用発明の「ラインサーマルヘッド8」は、本願発明の「サーマルヘッド」と「印字制御回路」を合わせたものに相当する。すなわち、引用発明の「ラインサーマルヘッド8」から「駆動回路」を除いた部分が、本願発明の「サーマルヘッド」に相当する。

引用発明の「多階調印字データ」、「蓄熱補正演算回路5」、「熱履歴補正後の多階調印字データ」は、本願発明の「オリジナル画像データ」、「熱履歴補正回路」、「熱履歴補正データ」に相当する。

引用発明の「受信用ラインメモリ2」と「印字用ラインメモリ3」は「オリジナル画像データ」(前者では入力されつつある多階調印字データ、後者では既に受信済みの現印字ラインの多階調印字データ)を記憶するから、本願発明の「イメージバッファ」に相当する。
なお、一般のプリンタで画像メモリが複数のページメモリからなることがありふれた構成であるように、最新のラインの印字データのメモリである「受信用ラインメモリ2」と、1ライン前の印字データのメモリである「印字用ラインメモリ3」を合わせて1つのメモリということができる。

引用発明の「展開データ」は、「熱履歴補正データ」(熱履歴補正後の多階調印字データ)を階調数他に応じて処理されたデータである点で、本願発明の「階調数と前記サーマルヘッドの1ラインのドット数に応じた規則に基づいて熱履歴補正データを並べ替えた熱履歴補正データ」と共通している。
すると、引用発明の「展開データラインメモリ7」は、「熱履歴補正データ」(熱履歴補正後の多階調印字データ)を階調数他に応じて処理されたデータを記憶するメモリである点で、本願発明の本願発明の「一対のラインメモリ」と共通している。

引用発明の、「コントロール回路9」で制御される「メモリコントローラ10」は各ラインメモリ2?4を制御するので、「コントロール回路9」と「メモリコントローラ10」を合わせたものは、「イメージバッファ」(印字用ラインメモリ3)から「熱履歴補正回路」(蓄熱補正演算回路5)への「オリジナル画像データ」(多階調印字データ)の転送を担うことになり、この点で、本願発明の「前記DMA制御部の制御により前記イメージバッファに記憶されているオリジナル画像データは前記信号処理装置の熱履歴補正回路にDMA転送されて」の転送を担う「DMA制御部」と共通している。

引用発明では、「熱履歴補正データ」(熱履歴補正後の多階調印字データ)を、「熱履歴補正回路」(蓄熱補正演算回路5)から「データ展開回路6」を介して「展開データラインメモリ7」に転送する際に、「データ展開回路6」によって第1階調目から第31階調目のデータである展開データに展開する。
これに対して、本願発明では、「熱履歴補正データ」を「熱履歴補正回路」から「一対のラインメモリ」に転送する際に、階調数と前記サーマルヘッドの1ラインのドット数に応じた規則に基づいて熱履歴補正データを並べ替えている。(なお、本願発明では、この並べ替えを実行する手段を明示していないが、本願明細書の発明の詳細な説明中の段落【0036】には「このようにして熱履歴補正回路21により生成された熱履歴補正後のデータは送信FIFO24を介してCPU11の制御によりメインメモリ13のラインメモリA13bに書き込まれる。」と記載され、段落【0037】には「このようにして、熱履歴補正回路21から読み出された10752(=1536×7)ビットの熱履歴補正データはその順番でラインメモリA13bに記憶されるのではなく、一定の規則に基づいて順番が入れ替えられてラインメモリA13bに記憶される。」と記載されているから、「熱履歴補正データ」を一旦CPU11内に取り込むか否かは定かでないが、少なくともCPU11が介在してこの並べ替えが実行される。)
よって、「熱履歴補正データ」(熱履歴補正後の多階調印字データ)を「熱履歴補正回路」(蓄熱補正演算回路5)から転送する際に、階調数他に応じて処理がなされる点で、上記両転送は共通している。

引用発明における、「展開データラインメモリ7」への「展開データ」の記憶、及び、「展開データラインメモリ7」から「駆動回路」への「展開データ」の転送は、一対のラインメモリの一方に記憶させつつ他方から読み出す仕方でなく、かつ、読み出し後のデータの転送がDMA転送ではないものの、「熱履歴補正データ」(熱履歴補正後の多階調印字データ)が階調数他に応じて処理されたデータの記憶と読み出しである点で、本願発明の「前記熱履歴補正データを前記一対のラインメモリのいずれか一方に並べ替えて記憶させているときに、他方のラインメモリに記憶された熱履歴補正データを読み出して前記印字制御回路にDMA転送すること」と一致している。

引用発明の「CPU等からなるコントロール回路9」におけるCPUなる用語は中央処理装置を意味する。
一方、引用発明の「コントロール回路9」は、データ転送を制御する機能を有する「メモリコントローラ10」を制御し、さらに、データ展開回路6、展開データラインメモリ7及びラインサーマルヘッド8に転送クロックCLKを供給することで、データ展開回路6から展開データラインメモリ7へのデータ転送、及び、展開データラインメモリ7からラインサーマルヘッド8(の駆動回路)へのデータ転送を制御するから、DMA転送を制御する「DMA制御部」ではないものの「データ転送制御部」を備えている。
よって、引用発明の「コントロール回路9」は、「データ転送制御部」を備える「中央処理装置」である点で、本願発明の「DMA制御部を備えた中央処理装置」と共通している。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「列状に配列された複数の発熱素子を有するサーマルヘッドと、
オリジナル画像データを記憶するイメージバッファ、及び、オリジナル画像データを熱履歴補正した熱履歴補正データを階調数他に応じた規則に基づいて処理した熱履歴補正済み階調データを記憶する熱履歴補正済み階調データメモリと、
熱履歴補正回路と、前記サーマルヘッドを制御する印字制御回路と、
データ転送制御部を備えた中央処理装置とを備え、
前記データ転送制御部の制御により前記イメージバッファに記憶されているオリジナル画像データは前記熱履歴補正回路に転送されて熱履歴補正が行われ、その熱履歴補正された熱履歴補正データは階調数他に応じた規則に基づいて処理されて熱履歴補正済み階調データとして前記熱履歴補正済み階調データメモリに記憶され、
その熱履歴補正済み階調データは前記印字制御回路に転送されるものであって、
前記熱履歴補正データを前記熱履歴補正済み階調データメモリに転送する際に、階調数他に応じた規則に基づいて熱履歴補正データを熱履歴補正済み階調データに処理して記憶させ、
前記熱履歴補正データを処理して熱履歴補正済み階調データとして前記熱履歴補正済み階調データメモリに記憶させるとともに、前記熱履歴補正済み階調データメモリに記憶された熱履歴補正済み階調データを読み出して前記印字制御回路に転送するサーマルプリンタ装置」

<相違点>
(相違点1)
本願発明は、「オリジナル画像データを記憶するイメージバッファ及び熱履歴補正データを記憶する一対のラインメモリを要するメインメモリと」と特定されるのに対して、引用発明は、「熱履歴補正済み階調データメモリ」が単一の「展開データラインメモリ7」であって、一方にデータを書き込み記憶しつつ他方から読み出す一対のラインメモリではなく、かつ、「イメージバッファ」(受信用ラインメモリ2と印字用ラインメモリ3)と「熱履歴補正済み階調データメモリ」(展開データラインメモリ7)が別個に存在し、1つのメインメモリが担保するものでないことから、前記特定を有しない点。

(相違点2)
本願発明は、「熱履歴補正回路及び前記サーマルヘッドを制御する印字制御回路が設けられた信号処理装置」と特定されるのに対して、引用発明は、「熱履歴補正回路」(蓄熱補正演算回路5)と「印字制御回路」(駆動回路)が同じ装置に設けられておらず、前記特定を有しない点。
そして、本願発明では、「熱履歴補正回路」と「印字制御回路」が同じ信号処理装置に設けられ、「一対のラインメモリ」が信号処理装置の外部に設けられていることに伴い、信号処理装置内部の「熱履歴補正回路」から信号処理装置外部の「一対のラインメモリ」に「熱履歴補正データ」を転送して階調数他に応じた規則に基づく処理を施した後、再度その処理後のデータを信号処理装置外部の「一対のラインメモリ」から信号処理装置内部の「印字制御回路」に転送しているが、引用発明は、「熱履歴補正回路」(蓄熱補正演算回路5)と「印字制御回路」(駆動回路)が同じ装置に設けられていないので、この再度の転送を行っていない点。

(相違点3)
「データ転送制御部」が、本願発明では「DMA制御部」であるのに対して、引用発明は、データ転送の方式がDMA転送に限定されていない点。
これに伴い、「イメージバッファ」から「熱履歴補正回路」への「オリジナル画像データ」の転送、及び、「熱履歴補正済み階調データ」の「熱履歴補正済み階調データメモリ」から「印字制御回路」への転送が、本願発明ではDMA転送であるのに対して、引用発明ではDMA転送に限定されていない点。

(相違点4)「熱履歴補正データ」の「階調数他に応じた規則に基づいた処理」が、本願発明では「階調数と前記サーマルヘッドの1ラインのドット数に応じた規則に基づいて熱履歴補正データを並べ替えて」と特定されるのに対して、引用発明は、前記特定を有するか否か定かでない点。

(相違点5)本願発明は「前記熱履歴補正データを前記一対のラインメモリのいずれか一方に並べ替えて記憶させているときに、他方のラインメモリに記憶された熱履歴補正データを読み出して前記印字制御回路にDMA転送する」と特定されている。つまり、入力される「熱履歴補正済み階調データ」を記憶し出力する「前記熱履歴補正データメモリ」が一対のラインメモリで構成されていて、その一方のラインメモリに「熱履歴補正済み階調データ」が入力され記憶されるときに、他方のラインメモリから以前に記憶した「熱履歴補正済み階調データ」を出力している。
これに対して、引用発明は、入力される「熱履歴補正済み階調データ」を記憶し出力するものが単一の「展開データラインメモリ7」であってメモリ対でないから、メモリ対の一方のメモリに記憶させているときに他方のメモリを読み出す構成も備えていない点。

第5 判断
(相違点1)について
(1)「熱履歴補正済み階調データメモリ」をメモリ対とする点について
プリンタにおいて、印字画像用のメモリを、書き込みと読み出しが独立に行えるメモリ対とすることは本願出願日前に周知である。
例えば、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平8-102825号公報の【0024】には「次に、画像データ蓄積部102と103について説明する。画像データ蓄積部102と103は、画像データを記憶するためのメモリであり、ともに同じ性質のものである。これらは、それぞれ独立に、メモリ制御部403から制御される。メモリ制御部403は、例えば、データ展開制御部402を構成するCPUから画像データ蓄積部102に画像データを書込むために、画像データ蓄積部102をCPUからの書込モード(CPUモード)に設定し、同時に、画像データ蓄積部103から画像データを出力するために、画像データ蓄積部103を画像出力モード(VIDEOモード)に設定することが可能である。」と記載されている。 本願出願日前に頒布された刊行物である特開平11-331529号公報の【0004】には、「これに対して、ダブルバッファ方式は、2頁分の展開バッファを用意し、1頁の画像データを出力中に次の頁の画像データをもう一方のページバッファに展開する方式である。」と記載されている。
なお、引用例においても、【0027】に「前記各ラインメモリ22,23,24はメモリコントローラ33で管理され、1ライン毎に図2に示すように役割を順次交替するようになっている。すなわち、受信した多階調印字データを格納した受信用ラインメモリ22は次の1ラインでは印字用ラインメモリ23となり、次の1ラインでは前印字ラインメモリ24となり、さらに次の1ラインでは再び受信用ラインメモリ22となる。」とあり、多階調印字データの書き込みは受信用ラインメモリ22へ、読み出しは印字用ラインメモリ23からと別のメモリを用い、かつ書き込みと読み出しの役割を順次交替することが記載されている。

(2)「イメージバッファ」と「熱履歴補正済み階調データメモリ」を同一メモリが担保するものとする点について
2つのメモリを別個に設けるか、1つのメモリが担保するものとするかは設計事項である。
そして、引用発明の受信用ラインメモリ2、印字用ラインメモリ3、展開データラインメモリ7、はすべて印字データを記憶する同種のメモリであるから、1つのメモリ(例えばカスタムICとして)が担保する点になんら困難性はない。

上記(1)、(2)のことから、引用発明において、本願発明の(相違点1)に係る構成を備えることは、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2)について
電気機器一般において、2つの回路を同じ装置に設けるか別に設けるかは設計事項である。
また、CPUを用いる装置一般において、ある装置内の各種の構成要素とその装置の外部とがデータを入出力するためのデータバスライン、アドレスバスライン、入出力回路等を共有することは、通常採用されている技術である。
よって、引用発明において、蓄熱補正演算回路5と駆動回路を同じ信号処理装置に設け、かつ、信号処理装置(の内部の蓄熱補正演算回路5)から「熱履歴補正データ」が出て所定の処理を施されて「熱履歴補正済み階調データ」となって再度信号処理装置(の内部の駆動回路)に入るようにし、本願発明の(相違点2)に係る構成を備えることは、技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点3)について
CPUを介さず周辺機器同士が直接データをやり取りするDMA転送はCPUの負荷を軽減するための慣用技術である。DMA転送を採用するとCPUの負荷は軽減されるが DMA制御部が必要となる。DMA転送を採用するか否かはこれらの長所短所を勘案し定めるべき設計事項にすぎない。
よって、引用発明において、本願発明の(相違点3)に係る構成を備えることは、慣用技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点4)について
サーマルヘッドの構成、駆動の仕方等に応じて、印字データを階調数とサーマルヘッドの1ラインのドット数に応じた規則に基づいて並べ替えることが必要ならば、そのための演算手段を設け、並べ替えを実施することは当然採用すべき構成である。
なお、引用発明においても、「補正後の多階調印字データを第1階調目から第31階調目のデータに展開して」とされていて、階調数に応じた規則に基づいて熱履歴補正データを展開していることに加えて、1280本の発熱素子は64本ずつの20ブロックに分割され、各ブロック毎に設けられる駆動回路において、展開データラインメモリ7からシリアルに転送されてくる展開データを64ビットシフトレジスタ13で受けている。つまり、1ライン分のデータが、サーマルヘッドの構成、駆動の仕方に応じた配列(64個×20個の行列)とされている。
よって、引用発明において、本願発明の(相違点4)に係る構成を備えることは、技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点5)について
上記「(相違点1)について」で指摘したとおり、メモリを対にしてデータの書き込みと読み出しを独立して行えるようにすることは周知である。
よって、引用発明において、本願発明の(相違点5)に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

まとめ
以上のことから、引用発明において、本願発明の(相違点1)?(相違点5)に係る構成を備えることは、引用例の記載、周知技術、慣用技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことであり、それによる作用・効果も、容易に予想し得る程度のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、引用例の記載、周知技術、慣用技術、及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-21 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2002-223962(P2002-223962)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 俊彦  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅藤 政明
江成 克己
発明の名称 サーマルプリンタ装置  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 橋本 良郎  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  

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