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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1189944
審判番号 不服2006-13533  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-28 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2002- 16635「NDIR法によるHC分析方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月30日出願公開、特開2003-215037〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・特許を受けようとする発明
本願は、平成14年1月25日の出願であって、平成18年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年7月28日付けで手続補正がなされたものである。その後、当審において、平成20年4月10日付けで、平成18年7月28日付け手続補正の却下の決定および拒絶理由の通知がされ、さらに、平成20年7月15日付けで拒絶理由が通知され、その応答期間中に、平成20年9月22日付けで手続補正が行われた。
そして、平成20年9月22日付け手続補正書には、特許請求の範囲の請求項1として、以下の記載がなされている。
「【請求項1】 セルの一端側に赤外光源を備え、他端側にHC成分の種類毎に決定される吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器を有する検出部を備えたガス分析部に対して該エンジン排ガスを供給して、HC検出器毎にHC検出器の感度係数と得られた赤外光の吸収変化量を乗算し、これらの総和に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分トータルの濃度を求めるようにしたことを特徴とするNDIR法によるHC分析方法。」(以下、「特許を受けようとする発明」という。)


2.当審の拒絶理由
(1)平成20年4月10日付け拒絶理由
当審において平成20年4月10日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

[理由1]
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



本願明細書には、前記式1により得られる合算した値をどのように用いたら複数のHC成分トータルの濃度を高精度に測定することができるの、あるいは、どのように複数波長を複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定するのかについて、何ら記載されていない。また、そのようなことを実現しうる感度係数A,B,Fが実在することを示してもいない。したがって、本願明細書は目的を達するための具体的な手法や具体的な条件を示していないため、当業者が実施できる程度に記載されているとすることができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?18に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。


[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



本願明細書には、図5のように相対感度が揃っていない事例のみが開示されており、明細書のいずれにもサンプルガス中の複数のHC成分の相対感度が揃う波長が開示されていない。
よって、請求項1?18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


[理由3]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項14において、「請求項10?13のいずれかに記載のNDIR法によるHC分析方法。」と記載されているが、請求項10?13に係る発明はいずれもHC分析装置に関する発明であるため、発明のカテゴリーが相違しており、矛盾している。このため、特許を受けようとする発明が不明確となっている。(HC分析方法はHC分析装置の誤記と思われる。)
よって、請求項14,18に係る発明は明確でない。

(2)平成20年7月15日付け拒絶理由
当審において平成20年7月15日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

[理由1]
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



明細書の記載によれば、互いに異なる特性吸収帯域を有する第1HC検出器21、第2HC検出器22を用い、二つの吸収波長帯における吸収変化量に基づいて(1)式によってマトリックス演算することによりHC成分トータルの濃度を求めることが記載されていると認められるものの、相対感度を揃えるようにするためにどのようにして複数波長を選定するのかが本願明細書には開示されていない。また、どの吸収波長帯域を有する検出器を選択したことにより相対感度を揃えることが達成できたのかについても開示されていない。
飽和炭化水素や不飽和炭化水素が特定の振動エネルギに合う赤外線吸収帯域を有すること自体は自明であり、演算に用いる式は記載されているものの、出願人は、サンプルガスを複数のグループに分け、振動エネルギに合う赤外波長を用いて、複数のHC成分の相対感度を揃えることが本願出願時における技術常識であることについて根拠を示していない。また、同じ波数ポイントを用いて複数の化合物を一つの化合物群として総量を一括定量すること(特開平4-265842号公報)、多成分を吸収ピークの形状および吸収領域に基づいて複数の成分群にグループ分けし、各成分群に最も適切な定量演算手法を用いるようにしたこと(特開平5-296923号公報)、物理量または化学量を、複数の波長での測光値を用いて検量線式により測定すること(特開平3-209149号公報)等の技術は本願出願前に知られているものの、サンプルガスを複数のグループに分け、振動エネルギに合う赤外波長を用いて、複数のHC成分の相対感度を揃えることが、本願出願前において技術常識であったとも、明細書の記載から自明であるとも認められない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?18に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。


[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1?18について
本願明細書の発明の詳細な説明には、段落【0032】に「HC成分を検出するためのHC検出器を二つ21,22設け、各HC成分の吸収スペクトルのうちの複数の吸収波長での吸収を測定し、これら二つのHC検出器を21,22の出力をマトリックス演算するようにしているので、図5(A)に示すように、複数のHC成分の相対感度を望ましい値(図示例では1.0)に可及的に揃えた状態で測定することができる。したがって、複数のHC成分トータルの濃度を精度よく検出することができる。」と記載されており、【図5】には、HC検出器を2個設けた2波長測定型におけるHC成分の相対感度が開示されているものの、これらの記載や技術常識を勘案しても、結合部分の振動エネルギの違いによりグループに分けることや、各グループの特性吸収帯域の波長の吸収を式(1)に適用して相対感度を揃えることが記載されていたとは認められない。
請求項1,2,7,10,11,16を引用する、請求項3?6,8?9,12?15,17,18についても同様である。
よって、請求項1?18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


[理由3]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1,2,7,10,11,16には、「サンプルガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された複数波長における吸収変化量に基づいてサンプルガス中の複数のHC成分トータルの濃度を求めるようにした」との記載がされているが、この記載が結合部分の振動エネルギの違いにより複数のグループに分け、各グループの振動エネルギに合う波長の検出器を用い、各検出器の出力に相対感度を揃えるように設定された係数を掛け合わせることを特定しているとは認められない。そして、上記各請求項における記載は「サンプルガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された複数波長における吸収変化量」から「サンプルガス中の複数のHC成分トータルの濃度」を求めるための構成を欠いており、この記載に基づくと技術的関連が理解できないため、発明が不明確となっている。
請求項1,2,7,10,11,16を引用する、請求項3?6,8?9,12?15,17,18についても同様である。
よって、請求項1?18に係る発明は明確でない。


3.当審の判断
(1)特許法第36条第4項の要件について
特許を受けようとする発明は、「吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器」を用いる方法に関する発明である。
一方、平成20年9月22日付け手続補正書により全文補正された本願明細書には、以下の記載がある。
「 【0003】
ところが、HCといわれるものには多種多様のHC成分があり、各HC成分の種類によって吸収スペクトルの形状が異なるために、図5(B)に示すように、HC成分それぞれの相対感度にかなりのバラツキが生じてしまう。この図5(B)は、C_(3) H_(8) の感度を1.0としたときにおける他のHC成分の感度を示すもので、C_(2) H_(4) 、C_(7) H_(8) 、C_(3) H_(6) 、CH_(4) 、1-C_(4) H_(8) などの成分は、感度が0.5に達していない。このように、成分ごとに感度に大きな差が生じていると、測定の結果得られるHC成分トータルの濃度として高精度な値が得られないことがある。
【0004】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、エンジン排ガス中に含まれる複数のHC成分の相対感度を望ましい値に可及的に揃えた状態で測定することにより複数のHC成分トータルの濃度を高精度に測定できるNDIR法によるHC分析方法および装置(以下、単にHC分析方法および装置という)を提供することである。」
「 【0021】
そして、検出器21?24は、例えば半導体検出器よりなり、二つのHC検出器および水分検出器21?23に対応する光学フィルタ25?27は、特定の測定対象成分のみの特性吸収帯域の赤外線を通過させるバンドパスフィルタよりなる。二つのHC検出器21,22にそれぞれ対応する光学フィルタ25,26は、HCの特性吸収帯域の赤外線のみを通過させるバンドパスフィルタよりなるが、互いに異なる特性吸収帯域を有している。つまり、この実施の形態におけるHC分析装置6は、2波長測定型に構成されている。以下、HC検出器21を第1HC検出器、HC検出器22を第2HC検出器という。そして、水分検出器23に対応する光学フィルタ27は、H_(2) Oの特性吸収帯域の赤外線のみを通過させるバンドパスフィルタよりなる。さらに、比較検出器24に対応するフィルタ28は、サンプルガスSG中のHC、H_(2) Oのいずれに対しても吸収帯域のないところの波長の赤外線を通過させるバンドパスフィルタよりなる。
【0022】
29は演算制御部6B内の濃度演算部で、検出器21?24の出力に基づいて濃度演算を行うもので、30は同期整流回路、31は平滑回路、32は引き算回路、33は水分干渉並びに水分共存影響補正演算回路(以下、単に補正演算回路という)であり、検出器21?24の出力に基づいて、測定対象成分としてのHC成分の濃度および干渉成分としての水分の濃度を演算し、さらに、これらの濃度を用いて、図4に示すような手法(後述する)によって水分影響を補正したHC成分の濃度を得るものである。この場合、サンプルガスSG中のHC成分の検出に際して二つのHC検出器21,22を用いて、二つの吸収波長帯における吸収変化量に基づいてHC成分トータルの濃度を求めるようにしているので、HC濃度は、下記(1)式によってマトリックス演算することにより得ることができる。
HC濃度=F×{A×(第1HC検出器の出力)+B×(第2HC検出器の出力)}
……(1)
A;第1HC検出器の感度係数
B;第2HC検出器の感度係数
F;HC濃度演算係数」
「 【0032】
上述のように、この発明のHC分析装置6においては、HC成分を検出するためのHC検出器を二つ21,22設け、各HC成分の吸収スペクトルのうちの複数の吸収波長での吸収を測定し、これら二つのHC検出器を21,22の出力をマトリックス演算するようにしているので、図5(A)に示すように、複数のHC成分の相対感度を望ましい値(図示例では1.0)に可及的に揃えた状態で測定することができる。したがって、複数のHC成分トータルの濃度を精度よく検出することができる。」

上記記載によれば、特許を受けようとする発明は、「各HC成分の種類によって吸収スペクトルの形状が異なるために、・・・、HC成分それぞれの相対感度にかなりのバラツキが生じてしまう。」という従来技術の問題点を解決することを目的としており、この目的を解決するための手段として「吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器」を利用するものであるが、本願明細書には、吸収スペクトルの形状が異なるために相対感度にバラツキが生じてしまうという問題の解決を、吸収スペクトルの形状に基づいて相対感度を揃えるように波長を選定することにより行うことが記載されるのみであり、どのようにしてそのような条件を備えた波長を選定するかについての具体的な手法が開示されていない。また、選定された波長も具体的に記載されていない。

請求人は、上記具体的な手法について以下の主張を行っているので検討する。
(ア)平成20年6月16日付けの意見の検討
(ア-1)請求人の主張
請求人は、平成20年6月16日付け意見書では、「例えば、HC成分の相対感度を揃えるという具体的な手段の選定をするに際し、当業者であれば、当然以下の技術的原理的事項を考慮することができ、当該事項に基づけば上記選定は必ず行えます。」とし、その手法として、結合部分の構造を手がかりに適当なグループに分け、結合の振動エネルギに合う赤外線波長を用いることによりグループに属する炭化水素の相対感度を揃えることができると説明している。
(ア-2)検討
しかし、特定の結合が特定の振動エネルギにおいて赤外線吸収波長帯域を有することは自明であるものの、化合物の種類によってその相対感度は異なるものである。例えばモル濃度に基づいて相対感度を比較する場合、メタンとエタンでは1分子当たりの飽和C-H結合の数が異なるため、モル濃度当たりの相対感度も飽和C-H結合数の割合に応じて異なっている。また、重量濃度に基づいて相対感度を比較する場合であっても、例えばメタンとトルエンでは重量当たりの飽和C-H結合の数が異なるため、重量濃度当たりの相対感度も異なっている。このため、単に特定の結合を有する化合物をグループとして特定の振動エネルギに相当する波長を受光する検出器を選択したとしても、相対感度を揃えることにはならない。そして、そもそも、本願明細書にはサンプルガスを複数のグループに分け、振動エネルギに合う赤外波長を用いることについて記載されておらず、サンプルガスを複数のグループに分け、振動エネルギに合う赤外波長を用いることによって、複数のHC成分の相対感度を揃えることが、本願出願前において技術常識であったとも、明細書の記載から自明であるともいえない。
(イ)平成20年9月22日付けの意見の検討
(イ-1)請求人の主張
また、請求人は平成20年9月22日付け意見書では、「測定対象となる各HC成分の特性吸収波長帯域及び各波長帯域での感度は自明ですので、それらの各スペクトルの形状に基づいて、複数のHC成分の相対感度を望ましい値に可及的に揃えた状態で測定する波長を選択することも当業者にとって自明な事項に過ぎません。」とし、「まず、各成分のスペクトル形状を参照し、どの測定波長を選定すれば感度はどの程度になるのかを検討することによって、測定対象とするHC成分の中からより感度が揃う共通の測定波長を設定し得る複数のHC成分を見出せます。つまり、このとき、当業者であれば、ピークとなる波長が近い等、HC成分同士のスペクトル形状の類似性が高ければ高いほど相対感度が揃い易くなることを考慮するのであって(段落[0003]にある『各HC成分の種類によって吸収スペクトルの形状が異なるために、図5(B)に示すように、HC成分それぞれの相対感度にかなりのバラツキが生じてしまう。』との記載も、吸収スペクトルの形状が近似するほど相対感度が揃い易くなることを示唆しています)、結果的には、例えば一方の検出器を飽和HC成分の測定を主とするものとし、他方の検出器を不飽和HC成分の測定を主とするものとする、という様な設定が行われることになるものと思料します。」との説明がされている。
(イ-2)検討
ここで、「スペクトル形状の類似性が高ければ高いほど相対感度が揃い易くなること」および「吸収スペクトルの形状が近似するほど相対感度が揃い易くなること」について是認したとしても、そもそも、本願発明は「各HC成分の種類によって吸収スペクトルの形状が異なるために、・・・、HC成分それぞれの相対感度にかなりのバラツキが生じてしまう。」という従来技術の問題点を解決することを目的として挙げるものであって、吸収スペクトル形状が類似あるいは近似することを前提とするものではない。そうすると、「吸収スペクトルの形状が異なる」複数のHC成分の相対感度をどのように揃えるかについて、意見書の主張を参酌しても、明細書の記載に基づいて当業者が本願発明を実施できるとは認められない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、請求人が平成20年9月22日付け意見書で主張するように、「各HC成分の特性吸収波長帯域及び各波長帯域での感度は当業者にとって自明な事項」であったとしても、その感度は、本願明細書に記載されているように、「相対感度にかなりのバラツキが生じてしまう」ものである。このような技術常識を鑑みても、波長を選定することによって、複数のHC成分の相対感度が揃えられることが当業者に自明であったとはいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明に、相対感度を揃えるように波長を選定することが、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(2)特許法第36条第6項第1号の要件について
特許を受けようとする発明は、「吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器」を必須の要件としている。この要件によれば、選定された波長では複数のHC成分の相対感度が揃っており、そのような波長が複数存在することに基づくものと認められる。
一方、平成20年9月22日付け手続補正書により全文補正された本願明細書には、以下の記載がある。
「 【0022】
29は演算制御部6B内の濃度演算部で、検出器21?24の出力に基づいて濃度演算を行うもので、30は同期整流回路、31は平滑回路、32は引き算回路、33は水分干渉並びに水分共存影響補正演算回路(以下、単に補正演算回路という)であり、検出器21?24の出力に基づいて、測定対象成分としてのHC成分の濃度および干渉成分としての水分の濃度を演算し、さらに、これらの濃度を用いて、図4に示すような手法(後述する)によって水分影響を補正したHC成分の濃度を得るものである。この場合、サンプルガスSG中のHC成分の検出に際して二つのHC検出器21,22を用いて、二つの吸収波長帯における吸収変化量に基づいてHC成分トータルの濃度を求めるようにしているので、HC濃度は、下記(1)式によってマトリックス演算することにより得ることができる。
HC濃度=F×{A×(第1HC検出器の出力)+B×(第2HC検出器の出力)}
……(1)
A;第1HC検出器の感度係数
B;第2HC検出器の感度係数
F;HC濃度演算係数」
「 【0032】
上述のように、この発明のHC分析装置6においては、HC成分を検出するためのHC検出器を二つ21,22設け、各HC成分の吸収スペクトルのうちの複数の吸収波長での吸収を測定し、これら二つのHC検出器を21,22の出力をマトリックス演算するようにしているので、図5(A)に示すように、複数のHC成分の相対感度を望ましい値(図示例では1.0)に可及的に揃えた状態で測定することができる。したがって、複数のHC成分トータルの濃度を精度よく検出することができる。」
また、【図5】(A)には、相対感度が0.32程度のHC成分(C7H8)、相対感度が0.84?1.04程度のHC成分(1-C5H12?C2H6)、相対感度が1.90程度のHC成分(CH4)が記載されている。

上記これらの記載によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、二つの吸収波長帯における吸収変化量に基づいて、式(1)によってマトリックス演算することにより、複数のHC成分の相対感度を0.32程度、0.84?1.04程度、1.90程度のいずれかに揃えた状態とすることが記載されているものの、マトリックス演算する前の各HC検出器における複数のHC成分の相対感度が揃うことや、各HC検出器の「吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された」波長がどの波長帯域であるのかについて、全く記載されていない。また、「3.(1)」において検討したとおり、本願明細書に相対感度を揃えるように波長を選定することを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないため、選定した結果として得られる「エンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長」が実在することが、発明の詳細な説明の記載および技術常識に基づいたとしても、当業者にとって自明とはいえず、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるとまではいえない。

(ア)平成20年6月16日付けの意見の検討
請求人は、平成20年6月16日付け意見書では、「相対感度を揃える」という技術的意義については、相対感度を揃える波長の選定についての説明を援用し、「それでもって当業者には発明の概念は明確で、先行技術等を含め他の技術思想との峻別は充分可能であると思料します。」と述べるに留まり、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることについては何ら釈明をしていない。
(イ)平成20年9月22日付けの意見の検討
(イ-1)請求人の主張
また、請求人は、平成20年9月22日付け意見書では、まず、「相対感度を揃えるように設定されるのはあくまでもHC検出器で検出する波長です。」とし、「今般の補正により、本願各発明において、『HC成分の種類毎に決定される吸収スペクトルの形状に基づいて』エンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように波長を選定することを明確にしました。そして、発明の詳細な説明には、『HC成分の種類毎に決定される吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器』に関する記載があり、これで十分であって、この記載からさらに踏み込んだ『相対感度を揃えるために如何にして複数波長を選定するのか』という点に関する具体的な説明につきましては、当初明細書等に接した当業者であれば出願時の技術常識に照らして適宜行える事項であって、上記の点に関する具体的な説明を発明の詳細な説明に記載しておく必要はないものと思料します。」と主張している。
(イ-2)検討
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明に、「HC成分の種類毎に決定される吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器」という記載を追加したことにより、そのような波長が複数実在することが記載されていることになるともいえない。また、前記(1)で検討したとおり、本願の明細書の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえない以上、発明の詳細な説明に技術常識を加味して考慮したとしても、そのような条件を満たす波長を想定することが当業者にとって自明であったともいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、当業者の技術常識を考慮しても、特許を受けようとする発明の「吸収スペクトルの形状に基づいてエンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように選定された互いに異なる波長の赤外光を受光する複数のHC検出器」という要件が、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。

なお、「HC成分の種類毎に決定される吸収スペクトルの形状に基づいて」エンジン排ガス中の複数のHC成分の相対感度を揃えるように波長を選定すると補正する点については、出願当初の明細書には直接の記載はないものの、波長を選定するにあたりスペクトルの形状を考慮することは技術常識であることに基づけば、新規事項の追加に当たるとまではいえない。


4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項および第36条第6項第1号の要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-23 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2002-16635(P2002-16635)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G01N)
P 1 8・ 536- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 宗彦田邉 英治横尾 雅一  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 村田 尚英
宮澤 浩
発明の名称 NDIR法によるHC分析方法および装置  
代理人 藤本 英夫  
代理人 西村 幸城  

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