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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1189960
審判番号 不服2006-25369  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-09 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2001-325961「移動体間通信方式」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 9日出願公開、特開2003-134033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯 ・本願発明

本願は,平成13年10月24日の出願であって,平成18年10月3日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年11月9日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。そして,その請求項2に係る発明は,同年4月17日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て,特許請求の範囲の請求項2に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「それぞれ伝送機能を備える複数台の移動体間の通信を行う移動体間通信方式において,
各移動体は,予め各装置間で重ならないように決められた時間位置に各装置に対し決められた時間軸の位置に挿入されたデータと誤りチェック符号とを組立てたフレームを,バースト的に同一の周波数で送信する送信手段と,自装置以外の他の各装置に割り当てられた時間位置に送信された各フレームを受信する手段とを備え,
前記受信手段は,前記他の各装置から受信したそれぞれの時間位置のフレームについて誤りチェック符号を用いたチェックを行い,誤りがない一つのフレームを選択して,他装置の各データを抽出する受信デジタル処理部を備え,
前記送信手段は,前記受信デジタル処理部で抽出した他装置の各データを中継データとして各装置に対応するフレーム内の位置に挿入すると共に,自装置に割り当てられた位置に自装置の最新のデータを挿入し,前記誤りチェック符号を付加して自装置のフレームを組立てる送信デジタル処理部を備える,
ことを特徴とする移動体間通信方式。」


2 引用刊行物記載の発明

(1)これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願の日前である平成10年4月14日に頒布された「特開平10-96636号公報 」(以下「引用例1」という。)には,図とともに以下のような記載がある。

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,選択された目的地までの経路検索及び経路誘導を行うナビゲーション装置に関し,特に車載電話装置や無線通信機等の通信装置が接続されたナビゲーション装置に関する。

【0002】
【従来の技術】GPS(グローバルポジショニングシステム)による位置検出技術を使用したナビゲーション装置の発達は目覚ましいものがある。特に,近年では,目的地までの経路誘導だけでなく,例えば特開平8-68650号に開示されているように,ナビゲーション装置と通信装置とを接続したシステムをそれぞれ搭載した複数の移動体間において通信装置を介して互いの位置情報及びメッセージを交換し,表示する手法が提案されている。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来例は,それぞれの移動体間の距離が,搭載されている通信装置の通信範囲を超えてしまう場合,移動体相互間の通信を継続することができなくなり,他移動体の位置の把握ができなくなる。

【0004】そこで本発明は,少なくとも3台の移動体からなるグループ内で使用する,通信装置が接続されたナビゲーション装置であって,自移動体の無線通信範囲外に位置する他移動体との無線通信が可能なナビゲーション装置の提供を目的とする。

【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため,本発明は以下の構成を特徴とする。

【0006】即ち,少なくとも3台の移動体からなるグループ内で無線通信を行う無線通信手段が接続されたナビゲーション装置であって,自ナビゲーション装置が搭載された自移動体に関する情報及び/または前記グループ内の他移動体から受信した情報により,送信する情報を生成する送信情報生成手段を備え,その送信情報生成手段により生成した送信情報を,前記無線通信手段により送信することを特徴とする。」

(ロ)「【0010】
【発明の実施の形態】以下,本発明を代表的な移動体である自動車に適用した一実施形態を,図面を参照して説明する。はじめに,本発明の一実施形態に係るナビゲーション装置のハードウエアの構成を図1を参照して説明する。

【0011】図1は,本発明の一実施形態としてのナビゲーション装置が自動車に実装された状態の一例を示すシステム構成図である。

【0012】図中,2は集中制御ユニットであり,走行状態に係る各種データ(燃料残量,平均燃費,平均車速等)の算出や,以下の各構成を統括的に制御する。3は車載LANユニットであり,例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)や4輪駆動制御等の制御に必要な不図示のセンサ及び駆動部と集中制御ユニット2との所謂ローカルエリアネットワーク通信を制御する。4はRAMカードドライブであり,例えば,シート位置,ミラー位置等の運転者に関する情報を記憶したRAMカードのデータ読み込み/書き込み装置である。5はデータドライブであり,例えば,FD,MD,PD等のデータ記憶媒体に記憶した各種情報の読み込み/書き込み装置である。6は音声ガイド用スピーカであり,ナビゲーションコントローラ17からの音声情報が集中制御ユニット2内の音声出力インタフェースを介して出力される。7はマイクであり,操作者の音声による指示が集中制御ユニット2内の音声認識インタフェース(不図示)を介してナビゲーションコントローラ17に入力される。8は液晶表示等のディスプレイであり,ナビゲーション画面,各種入力操作用の画面,移動体の状態(車速,空調設定等)が表示される。更に,ディスプレイ8の前面には,その表示に応じてタッチ操作による入力操作が可能な,静電容量方式や赤外線方式等の入力装置を備える。尚,ディスプレイ8の表示情報のうち,運転中に常に必要な情報は,所謂ヘッドアップディスプレイ(不図示)に表示する構成としてもよい。9は車載電話としての携帯電話であり,電話アンテナ13が接続される。10は操作スイッチであり,集中制御ユニット2及びナビゲーションコントローラ17への入力操作を行う。17はナビゲーションコントローラであり,GPS(グローバルポジショニングシステム)アンテナ11からの位置情報とCD-ROMチェンジャ19に搭載されたCD-ROMの地図情報に基づいて,操作者が操作スイッチ10等により指定した目的地までの適当な経路を検索し,ディスプレイ8上の表示及び音声ガイド用スピーカ6からの音声出力により誘導を行う。CD-ROMチェンジャ19により読み出されるCD-ROMの地図情報は,以下の説明におけるディスプレイ8への表示情報の基本情報である。

【0013】更に,ナビゲーションコントローラ17には,図示の如く無線アンテナ20が接続された無線送受信機21が接続されており,後述する複数移動体間のデータ通信を行う。

【0014】更に好ましくは,ナビゲーションコントローラ17に,VICS対応のFM多重放送を受信するFMチューナと,電波ビーコン信号及び光ビーコン信号を受信するビーコン信号受信機とを接続し,それらにより得られる情報を交通規制情報(所謂,VICS情報)として解釈してディスプレイ8に表示し,経路誘導の際の経路検索の条件(制約条件)として使用するとよい。更に,走行経路周辺の地域情報をデータドライブ5等から入力し,表示情報に利用してもよい。尚,GPSによる自車位置の検出手法は公知なため,説明を省略する。

【0015】次に,本発明の一実施形態に係るナビゲーション装置のソフトウェアの特徴について説明する。」

(ハ)「【0019】次に,上述した表示画面の動作を実現するディスプレイ8の画面の更新処理を図3を参照して説明する。

【0020】図3は,本発明の一実施形態としてのナビゲーション装置における表示画面の更新処理を示すフローチャートであり,ナビゲーション装置の起動により処理が開始される。

【0021】図中,まず前回の画面更新から所定時間Aが経過したかを判断し(ステップS1),NOの場合は緊急FLがオンかどうかを判断する(ステップS2)。

【0022】ここで緊急FLは,後述の送受信処理(図6)との間で受け渡しされる処理フラグであって,他移動体に搭載されているナビゲーション装置のディスプレイ8上で,緊急送信スイッチ33(図2)がオンにされ,それに関するデータを後述の移動体間データ通信によって自移動体が受信したとき,前述の予め登録された所定のメッセージを所定の画面更新周期に関らず自移動体のディスプレイ8に表示するためのフラグである。

【0023】次に,ステップS2でNOの場合はステップS6に進み,一方YESの場合はステップS3で緊急FLをオフにしてステップS4に進む。また,ステップS1でYESの場合は,ナビゲーションコントローラ17内の不図示のメモリ(RAM)に記憶されている最新のGPS情報と他移動体との通信により受信した情報(以下,移動体間情報)とに基づいて自移動体及び他移動体の現在位置,進行方向,移動体間距離等を算出し,関連するテキストデータと共にディスプレイ8に表示する(ステップS4,ステップS5)。そしてディスプレイ8上の強制受信スイッチ32または緊急送信スイッチ33或は不図示の他のスイッチがオンにされたかを判断し(ステップS6),NOの場合はステップS1にリターンし,一方YESの場合はオンにされた当該スイッチの表示色の変更や,例えば「〇〇〇〇を開始します。」等の所定のメッセージを報知し(ステップS7),ステップS1にリターンする。

【0024】
【移動体間通信】次に,自移動体と複数の他移動体との移動体間通信について説明する。

【0025】図4は,本発明の一実施形態としてのナビゲーション装置間における移動体間通信のデータフォーマットを示す概略図であり,このデータフォーマットが移動体間で送受信されることにより移動体間通信が実現される。

【0026】図中,データフォーマット40は,以下の各フィールドにより構成される。

【0027】・IDコード41 :自移動体と複数の他移動体からなる自グループを識別するグループIDである。

【0028】・情報ビット42 :自フィールド以降のデータが緊急のものかどうかを表わすコード,発信元の移動体ID及び後述の電話回線時に使用される送信先の移動体ID,及び発信時刻が含まれる。

【0029】・自移動体データ43 :自移動体の移動体ID,自移動体の現在位置情報,走行中/停車中コード,進行方向,及び車速が含まれる。

【0030】・他移動体データ44 :他移動体から受信したデータを該他移動体とは異なる他移動体に送信するためのフィールドであって,1つ以上の自移動体データ43により構成されるか,または自移動体が最初に発信する場合や他移動体との位置関係により1つも含まれない場合もある。

【0031】・通信方式データ45 :他移動体同士の現在の通信方式(無線/電話)を表わすコードデータである。

【0032】・メッセージデータ46 :ディスプレイ8の入力装置によって入力された任意のメッセージやマイクを介して音声入力されたメッセージであるテキストデータである。

【0033】図5は,本発明の一実施形態としてのナビゲーション装置により,複数移動体間で無線により移動体間通信が行われている様子を説明する図である。

【0034】図中,移動体Aから移動体Dは,ある経路上を走行している。46?47は,それぞれの移動体の無線通信が可能な範囲を示している。尚,実際の無線通信範囲は周囲の環境により複雑な形状となることは言うまでもない。このとき,例えば移動体Aの送信した移動体間情報は,直接は移動体Dには到達しない。しかし,移動体B,移動体Cが自移動体のデータを付加しながら順次図4のデータフォーマットに基づいて移動体Aの移動体間情報を中継するため,移動体Dは移動体Aの移動体間情報を受信することができる。この場合,移動体間の位置関係により,同一の他移動体から送信された移動体間情報が,複数の他の他移動体から中継されて送られてくることになるが,その場合の重複するデータは情報ビットフィールド42(図4)に含まれる発信時刻により取捨選択の判断を行う。

【0035】図6は,本発明の一実施形態としてのナビゲーション装置における移動体間通信の送受信処理を示すフローチャートであり,ナビゲーション装置の起動により処理が開始される。

【0036】図中,ステップS11では,他移動体との無線通信周波数の設定を行う。ステップS12では,無線通信のための移動体ID,携帯電話9の電話番号を設定する。これらの設定操作は,通常の使用において変更する頻度は少ないため,変更しない場合は確認だけが容易にできる構成とすることは言うまでもない。

【0037】ステップS13AからステップS23は送受信ルーチンであり,無線通信の場合も電話回線による通信の場合も同様の処理となる。まず,GPS情報を受信したかを判断し(ステップS13A),YESの場合はその受信したGPS情報をメモリに記憶し(ステップS14),ステップS13Aにリターンする。一方,ステップS13AにてNOの場合は,移動体間情報を受信したかを判断し(ステップS13B),NOの場合はステップS13Aにリターンする。一方,ステップS13BにてYESの場合は,受信した移動体間情報を,図4のデータフォーマットに基づいて解釈することによって自グループあてかを判別し(ステップS15),YESの場合はその移動体間情報をメモリに記憶し(ステップS16),その移動体間情報に他移動体にて緊急送信スイッチ33がオンにされたことによる緊急送信コードが含まれているかを判断する(ステップS17)。ステップS17でYESの場合は,前記の緊急FLをオンとし(ステップS18:これにより,前記の予め登録された「ちょっと待って!」や「集合しよう!」等の所定のメッセージが自移動体のディスプレイ8に表示される),さらにその移動体間情報に他移動体にて強制受信スイッチ32がオンにされたことによる強制受信コードが含まれているかを判断する(ステップS19A)。ステップS17でNOの場合は,直接ステップS19Aに進む。そしてステップS19AでNOの場合は,ステップS19Bで前回の移動体間情報の送信から所定時間Bが経過したかを判断する。一方ステップS19AでYESの場合は,所定時間Bの経過を待たずに送信する必要が有るため,ステップS21に進む。

【0038】ステップS19BでNOの場合は,自移動体のディスプレイ8上の緊急送信スイッチ33が操作者によりオンにされたかを判断し(ステップS20),YESの場合は所定のメッセージを自移動体データに付加し,ステップS14でメモリに受信した移動体間情報と共に図4のデータフォーマットに基づいて送信を行い(ステップS21),ステップS13Aにリターンする。ステップS19BでYESの場合は,自移動体データと,ステップS14でメモリに受信した移動体間情報とを図4のデータフォーマットに基づいて送信し(ステップS21),ステップS13Aにリターンする。一方,ステップS20でNOの場合は,自移動体のディスプレイ8上で強制受信スイッチ32が操作者によりオンにされたかを判断し(ステップS22),YESの場合はディスプレイ8の表示から消えてしまった当該他移動体と電話回線を接続して移動体間情報を送受信し(ステップS23),ステップS13Aにリターンする。一方ステップS22でNOの場合は直接ステップS13Aにリターンする。また,ステップS15でNOの場合に直接ステップS21に進み,自移動体データと受信した移動体間情報とを送信するのは,無線通信による通信範囲を超えて長距離の相互通信を行うためである。

【0039】尚,ステップS21において,自移動体がグループ内の他移動体の中間位置ではない場合,即ちグループの先頭,最後尾(それまでの移動体間通信によりグループ内の他移動体の現在位置は把握しているため,判断可能である)に位置する場合は,他移動体から受信したデータを改めて自移動体からは送信しないものとする。また,後述する移動体間通信の切り換え処理により電話回線による移動体間通信が行われている場合に,電話回線により通信されるデータ内容と同一のデータが無線送受信機21から送出されるものとする。これは,他移動体から受信した移動体間情報の電界強度に応じて移動体間通信の切り換え処理を行うためである。」


これらの記載事項によると,引用例1には,「少なくとも3台の移動体からなるグループ内で使用する,無線により移動体間通信を行うナビゲーション装置であって,代表的な移動体である自動車に実装されたナビゲーション装置は,複数移動体間のデータ通信を行う無線送受信機21が接続された,ナビゲーションコントローラ17を備えており,前回の画面更新から所定時間Aが経過したと判断した場合は,ナビゲーションコントローラ17内の不図示のメモリ(RAM)に記憶されている最新のGPS情報と他移動体との通信により受信した情報(以下,移動体間情報)とに基づいて自移動体及び他移動体の現在位置等を算出し,関連するテキストデータと共にディスプレイ8に表示するものであり,ナビゲーション装置間における移動体間通信のデータフォーマットは,自グループを識別するIDコード41と,発信時刻が含まれる情報ビット42と,自移動体の移動体ID,及び自移動体の現在位置情報が含まれる自移動体データ43と,他移動体から受信したデータを該他移動体とは異なる他移動体に送信するためのフィールドであって,1つ以上の自移動体データ43により構成されるか,または自移動体が最初に発信する場合や他移動体との位置関係により1つも含まれない場合もある他移動体データ44とを含み,前記移動体間通信の送受信処理は,ナビゲーション装置の起動により処理が開始され,他移動体との無線通信周波数の設定を行い(ステップS11),これらの設定操作は,通常の使用において変更する頻度は少ないため,変更しない場合は確認だけが容易にできる構成とするものであり,GPS情報を受信したと判断した場合は,その受信したGPS情報をメモリに記憶し(ステップS14),移動体間情報を受信したと判断した場合は,受信した移動体間情報を,IDコード41,情報ビット42,自移動体データ43,及び他移動体データ44を含むデータフォーマットに基づいて解釈することによって自グループあてかを判別し(ステップS15),YESの場合はその移動体間情報をメモリに記憶し(ステップS16),前回の移動体間情報の送信から所定時間Bが経過したと判断した場合は,自移動体データと,ステップS14でメモリに受信した移動体間情報とを,IDコード41,情報ビット42,自移動体データ43,及び他移動体データ44を含むデータフォーマットに基づいて送信し(ステップS21),例えば移動体Aの送信した移動体間情報が直接は移動体Dには到達しない場合においても,移動体B,移動体Cが自移動体のデータを付加しながら順次,IDコード41,情報ビット42,自移動体データ43,及び他移動体データ44を含むデータフォーマットに基づいて移動体Aの移動体間情報を中継することにより,移動体Dは移動体Aの移動体間情報を受信することができるようにし,この場合,移動体間の位置関係により,同一の他移動体から送信された移動体間情報が,複数の他の他移動体から中継されて送られてくることになるが,その場合の重複するデータは情報ビットフィールド42に含まれる発信時刻により取捨選択の判断を行うナビゲーション装置」の発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。


3 対比

本願発明を引用例1発明と比較すると,引用例1発明の「ナビゲーション装置」が,少なくとも3台の移動体それぞれに設けられるとともに,「無線送受信機21」により複数移動体間のデータ通信を行うことは,本願発明の「それぞれ伝送機能を備える複数台の移動体間の通信を行う移動体間通信方式」に相当する。
引用例1発明の「移動体間通信のデータフォーマット」は,「自移動体データ43」及び「他移動体データ44」を含み,移動体間の通信により送受信されるものであるから,本願発明の「各装置に対し決められた時間軸の位置に挿入されたデータ」「を組立てたフレーム」に相当する。
引用例1発明の送受信処理において,移動体間情報を受信して送信する構成は,本願発明の「各移動体は」「フレームを」「送信する送信手段と,」「送信された各フレームを受信する手段とを備え」ていることに相当する。
引用例1発明において,同一の他移動体から送信された移動体間情報を,複数の他の他移動体から重複して受信した場合に,重複するデータについて取捨選択の判断を行うこと,及び受信した移動体間情報を解釈して自グループにあてられたものであると判別した場合に,その移動体間情報をメモリに記憶することは,本願発明の「前記受信手段は,前記他の各装置から受信した」,「一つのフレームを選択して,他装置の各データを抽出する受信デジタル処理部を備え」ていることに相当する。
引用例1発明において,自移動体データと,ステップS14でメモリに受信した移動体間情報とを,IDコード41,情報ビット42,自移動体データ43,及び他移動体データ44を含むデータフォーマットに基づいて送信することは,本願発明の「前記送信手段は,前記受信デジタル処理部で抽出した他装置の各データを中継データとして各装置に対応するフレーム内の位置に挿入すると共に,自装置に割り当てられた位置に自装置の最新のデータを挿入し,」「自装置のフレームを組立てる送信デジタル処理部を備える」ことに相当する。

よって,両者は「それぞれ伝送機能を備える複数台の移動体間の通信を行う移動体間通信方式において,各移動体は,各装置に対し決められた時間軸の位置に挿入されたデータを組立てたフレームを,送信する送信手段と,送信された各フレームを受信する手段とを備え,前記受信手段は,前記他の各装置から受信した,一つのフレームを選択して,他装置の各データを抽出する受信デジタル処理部を備え,前記送信手段は,前記受信デジタル処理部で抽出した他装置の各データを中継データとして各装置に対応するフレーム内の位置に挿入すると共に,自装置に割り当てられた位置に自装置の最新のデータを挿入し,自装置のフレームを組立てる送信デジタル処理部を備える,移動体間通信方式」で一致し,次のA及びBの点で相違する。

A.本願発明では,各移動体は,予め各装置間で重ならないように決められた時間位置にフレームを,バースト的に同一の周波数で送信する送信手段と,自装置以外の他の各装置に割り当てられた時間位置に送信された各フレームを受信する手段とを備えているのに対して,引用例1には,他移動体との無線通信周波数の設定を行うことが記載されているにすぎず,無線通信周波数が同一であるか否か,及び移動体間情報の送信タイミングの記載がない点。

B.本願発明では,誤りチェック符号を付加してフレームを組み立てる送信デジタル処理部,及び,他の各装置から受信したそれぞれの時間位置のフレームについて誤りチェック符号を用いたチェックを行い,誤りがない一つのフレームを選択して,他装置の各データを抽出する受信デジタル処理部を備えているのに対して,引用例1には,誤りチェック符号を用いたチェックを行う構成の記載がなく,また,他の各装置から受信した一つのデータを選択する判断を,情報ビットフィールド42に含まれる発信時刻により行う点。


4 当審の判断

・相違点Aについて

通信の技術分野において,各送信手段が,互いに重ならないように割り当てられた一定時間(タイムスロット)において,同一周波数帯を用いてバースト信号を送信し,受信手段がこれらの信号を受信することによって,通信伝送容量を分割して使用する方法は,所謂時分割多元接続(TDMA)として,当業者に周知(例えば,山本平一,外1名,”TDMA通信”,初版,社団法人電子情報通信学会,平成元年4月5日,p.4-5を参照。)である。
そして,引用例1発明においても,各移動体の無線通信範囲が少なくとも一部重なる状況において,複数の移動体から同一周波数帯で,かつ同一のタイミングで信号が送信されると,相互干渉の問題を生じることは自明であるから,この問題を回避するために,上記周知技術を採用することは,当業者が容易に為し得ることである。

・相違点Bについて

同一の信号系列を複数の経路から受信して,より信頼性の高い受信結果を得ようとするダイバーシティ受信機において,

a.送信時に誤りチェック符号を付加した信号系列を受信して,受信時に誤りチェック符号を用いて信号系列の誤りを検出すること。

b.誤り検出処理を行った複数の信号系列の中から,検出された誤りが最も少ない信号系列を選択すること。

は共に周知(上記aについて,例えば特開平5-167490号公報の段落0007,特開平6-77942号公報の段落0012,0015を参照。上記b.については,例えば特開昭64-39842号公報の第3頁右上欄第15行乃至同左下欄第2行,特開平5-167490号公報の段落0007,特開平6-77942号公報の段落0016を参照。)である。
そして,引用例1発明においても,複数の他の他移動体から中継されて送られてくる重複するデータを取捨選択する際に,より信頼性の高いデータを選択すべきことは自明であるから,移動体間情報の送信時及び受信時に上記周知技術を適用して,取捨選択の判断を,発信時刻に代えて誤りの数に基づいて行う構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,本願発明のように構成したことによる効果も引用例1発明,及び上記周知技術から予測できる程度のものである。


5 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用例1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は他の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-16 
結審通知日 2008-10-21 
審決日 2008-11-04 
出願番号 特願2001-325961(P2001-325961)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 進海江田 章裕  
特許庁審判長 江嶋 清仁
特許庁審判官 江口 能弘
圓道 浩史
発明の名称 移動体間通信方式  
代理人 穂坂 和雄  
代理人 長谷川 文廣  
代理人 小笠原 吉義  

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