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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1189962
審判番号 不服2006-25953  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 平成11年特許願第366047号「カラー画像形成方法、及びカラー画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月 6日出願公開、特開2001-183852〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本願は、平成11年12月24日の出願であって、平成18年10月11日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年11月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の発明は、平成17年12月1日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたものと認められるところ、その請求項3に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「電子写真感光体の表面に電荷を付与する帯電工程と、前記感光体の帯電領域に対して光照射する像露光工程と、これら帯電工程と像露光工程とにより前記感光体の表面に静電潜像を形成するとともに、該静電潜像に対応した着色トナー像を前記感光体の表面に形成する現像工程と、前記感光体上に形成されたトナー像を転写体に転写する転写工程を有し、前記感光体表面の残留トナーを除去するクリーニング工程とを配設した画像形成ユニットを複数配列し、各画像形成ユニットごとに着色を変えたトナーを用いて形成した各トナー像を順次転写体に転写して画像形成するタンデム型のカラー画像形成装置において、各画像形成ユニットの全ての電子写真感光体の量子効率ηが下記一般式(1)で表わされる電場依存性を有し、nが0.3以下であり、且つ前記複数の画像形成ユニットに用いられている各感光体間のnの差が0.1以下であることを特徴とするカラー画像形成装置。
一般式(1)
η=η_(0)E^(n) (η_(0)は定数、Eは電場(V/cm))」

2.引用された刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由において、引用文献等5として引用された特開平5-11463号公報(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)

(2-1)「【請求項1】 導電性基体上に電荷発生物質と電荷輸送物質を含有してなる感光層の上に保護層を有する電子写真感光体において、該感光体が感光体としての量子効率φと電場Eとの関係を下記数1で表わした場合に、定数nが0.5以下であることを特徴とする電子写真感光体。
【数1】


〔ただし、φ_(0)は定数を表わす。〕」
(2-2)「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は電子写真感光体に関し、更に詳しくは、高感度を維持した高耐久型電子写真感光体に関する。
【従来の技術】
近年、複写機、プリンター、ファクシミリ等に使用される電子写真感光体は、無機系の感光材料に代わり、有機系の感光材料を用いたものが、安価、大量生産性、無公害性等を利点として、使用され始めている。
【0002】
有機系の電子写真感光体には、ポリビニルカルバゾール(PVK)に代表される光導電性樹脂、PVK-TNF(2,4,7トリニトロフルオレノン)に代表される電荷移動型錯体型、フタロシアニン-バインダーに代表される顔料分散型、電荷発生物質と電荷輸送物質を組合せて用いる機能分離型の感光体などが知られており、特に電荷発生物質と電荷輸送物質からなる機能分離型の感光体が無機感光体に匹敵する高感度・高速応答性を生かして、実用化の中心にある。
【0003】
しかしながら、高感度機能分離型感光体を連続使用した場合に、帯電性低下や感度変動を生じ、これが高耐久化の大きな防げとなっていた。 この感光体の連続使用による帯電性の低下は、感光体が使用される環境下での機械的特性に大きく影響される。」
(2-3)「【0021】
量子効率の測定は、上記文献に記載の装置に準拠したものによることが好ましいが、市販の静電複写紙試験装置や、特開昭60-100167号公報に開示されている装置等を用いても良好に測定できる。なお測定時の入射光は像露光に使用する領域の波長の単色光が、キャリア移動律速を生じせしめないような比較的弱い露光量で用いられる。」
(2-4)「【0027】
電荷発生層17は、電荷発生物質を主成分とする層であり、必要に応じてバインダー樹脂を併用することができる。 バインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが用いられる。
【0028】
電荷発生物質として、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、キノン系縮合多環化合物、スクアリック酸系染料、アズレニウム系染料、アゾ顔料等が挙げられる。 これらの電荷発生物質は単独で、あるいは2種以上併用して用いられる。」
(2-5)「【0048】
【実施例】
次に実施例を示すが、実施例は本発明を詳しく説明するためのものであり、本発明が実施例によって制約されるものではない。なお、実施例中の部はすべて重量部である。
実施例1?4および比較例1
厚さ0.2mmのアルミ板上に、下記組成の下引層塗工液、電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液、保護層塗工液を順次、塗布、乾燥して、各々0.2μmの下引層、0.3μmのμmの電荷発生層、16μm、24μm、29μm、35μm厚の電荷輸送層および2.5μmの保護層を設けた。これらの感光体を各々実施例1,2,3,4の感光体とし、また実施例2の感光体に保護層を設けない他は実施例2の感光体と同じものを作成し、これを比較例1の感光体とした。
【0049】
〔下引層塗工液〕
メタノール 80部
n-ブタノール 20部
アルコール可溶性ナイロン(アミランCM-8000,東レ製) 3部
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造のアゾ顔料 5部
【化1】(略)
ポリエステル(東洋紡製バイロン100) 4部
テトラヒドロフラン 90部
2-ブタノン 70部
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 10部
【化2】(略)
ポリカーボネート(帝人化成(株)製パンライトL-1250)10部
テトラヒドロフラン 85部
〔保護層用塗工液〕
スチレン?メチルメタクリレート?2-ヒドロキシエチル
メタクリレート?トリフロロエチルメタクリレート共重合体 10部
導電性酸化チタン 8部
トルエン 100部
n-ブタノール 50部
【0050】
以上の様に作成した電子写真感光体は、静電複写紙試験装置(川口電機製作所製SP-428型)を用いて、次の様に電子写真特性を評価した。まず、-5.3KVの放電々圧にてコロナ帯電を15秒間行ない、次いで暗減衰を行ない表面電位が-800Vになったところで520nmの単色層を1.5μw/cm^(2)の強度で照射した。
【0051】
この時の帯電開始後15秒の表面電位V15(V)および光照射の際、表面電位が-100Vになるのに必要な時間を測定し、数3より感度S_(1/8)を求めた。 結果を表1に示す。
【表1】(略)
【0052】
また、これらの感光体の量子効率と電界の関係を図6に示す。図中には、実施例2,4および比較例1の結果を示しており、各感光体は同じ結果を与えている。なお、図示はしていないが、実施例1,3の感光体も同一線上にのり、このことから、量子効率は電荷輸送層の膜厚に依存しないことが分かる。 図6から、これら感光体の光減衰を前記数1で表わした場合、ベき数nは0.21で表現できる。」(当審注:「単色層」は「単色光」の誤記と認める。)
(2-6)図6として、


(2-7)「【0062】
実施例9?12および比較例3
厚さ0.2mmのアルミ板上に、下記組成の電荷輸送層塗工液を塗布、乾燥して、膜厚14μm、23μm、28μm、34μmの電荷輸送層を設けた。この上に下記組成の電荷発生層塗工液を塗布、乾燥して、各々0.3μm厚の電荷発生層を形成した。更にこの上に下記組成の中間層塗工液より同様にして0.2μmの中間層を設け、更にCVD法により厚さ1.0μmのi-Cの保護層を設けた。
【0063】
これらの感光体を各々実施例9,10,11,12の感光体とし、また実施例11の感光体に保護層を設けない他は実施例11の感光体と同じものを作成し、これを比較例3の感光体とする。
【0064】
〔電荷輸送層塗工液〕
下記構造の電荷輸送物質 13部
【化5】(略)
ポリアリレート(Uポリマー U100,ユニチカ製) 10部
テトラヒドロフラン 80部
〔電荷発生層塗工液〕
下記構造のアゾ顔料 4部
【化6】(略)
ポリビニルブチラール 3部
(電気化学工業製,デンカブチラール#5000-A)
テトラヒドロフラン 90部
2-ブタノン 70部
【0065】
〔中間層塗工液〕
メタノール 80部
n-ブタノール 20部
アルコール可溶性ナイロン(帝国化学製トレジン) 3部
以上の各感光体を、先の実施例と同様にして静電複写紙試験装置を用いて、同様に電子写真特性を評価した。ただし、放電々圧は+5.7KVまた照射光は600nm、1.5μw/cm^(2)とした。 結果を表5に示す。
【0066】
【表5】(略)
【0067】
また、これらの感光体の量子効率と電界の関係を図8に示す。図中には、実施例9,10および比較例3の結果を示しており、各感光体は同じ結果を与えている。なお、図示はしていないが、実施例10,12の感光体も同一線上にのり、このことから、量子効率は電荷輸送層の膜厚に依存しないことが分かる。
【0068】
図8から、これら感光体の光減衰を数1で表わした場合、ベき数nは0.3で表現できる。」
(2-8)図8として、



上記摘記事項に関して、電子写真感光体を使用するために、帯電工程と、像露光工程と、現像工程と、転写工程と、クリーニング工程とを備えた画像形成装置に適用することは自明の事項であるから、この点は、刊行物に記載されているに等しい事項といえる。

したがって、上記の事項を総合すると、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物発明」という。)
「導電性基体上に電荷発生物質と電荷輸送物質を含有してなる感光層の上に保護層を有する電子写真感光体を用いるとともに、帯電工程と、像露光工程と、現像工程と、転写工程と、クリーニング工程とを備えた画像形成装置において、該感光体が感光体としての量子効率φと電場Eとの関係を下記数1で表わした場合に、定数nが0.21又は0.3である画像形成装置。
【数1】 φ=φ_(0)・E^(n) 〔ただし、φ_(0)は定数を、Eは電場(V/cm)を表わす。〕」

3.対比
本願発明と刊行物発明と対比すると、
まず、刊行物発明における「導電性基体上に電荷発生物質と電荷輸送物質を含有してなる感光層の上に保護層を有する電子写真感光体を用いるとともに、帯電工程と、像露光工程と、現像工程と、転写工程と、クリーニング工程とを備えた画像形成装置」と、
本願発明における「電子写真感光体の表面に電荷を付与する帯電工程と、前記感光体の帯電領域に対して光照射する像露光工程と、これら帯電工程と像露光工程とにより前記感光体の表面に静電潜像を形成するとともに、該静電潜像に対応した着色トナー像を前記感光体の表面に形成する現像工程と、前記感光体上に形成されたトナー像を転写体に転写する転写工程を有し、前記感光体表面の残留トナーを除去するクリーニング工程とを配設した画像形成ユニットを複数配列し、各画像形成ユニットごとに着色を変えたトナーを用いて形成した各トナー像を順次転写体に転写して画像形成するタンデム型のカラー画像形成装置」とは、
「電子写真感光体の表面に電荷を付与する帯電工程と、前記感光体の帯電領域に対して光照射する像露光工程と、これら帯電工程と像露光工程とにより前記感光体の表面に静電潜像を形成するとともに、該静電潜像に対応した着色トナー像を前記感光体の表面に形成する現像工程と、前記感光体上に形成されたトナー像を転写体に転写する転写工程と、前記感光体表面の残留トナーを除去するクリーニング工程とを有し、トナーを用いて形成したトナー像を転写体に転写して画像形成する画像形成装置」の点で一致する。
また、刊行物発明における「量子効率φ」と、本願発明における「量子効率η」とは同じものであるから、刊行物発明における「【数1】φ=φ_(0)・E^(n)〔ただし、φ0は定数を表わす。〕」は、本願発明の「一般式(1) η=η_(0)E^(n)(η_(0)は定数、Eは電場(V/cm))」に相当する。

したがって、両者は、
「電子写真感光体の表面に電荷を付与する帯電工程と、前記感光体の帯電領域に対して光照射する像露光工程と、これら帯電工程と像露光工程とにより前記感光体の表面に静電潜像を形成するとともに、該静電潜像に対応した着色トナー像を前記感光体の表面に形成する現像工程と、前記感光体上に形成されたトナー像を転写体に転写する転写工程と、前記感光体表面の残留トナーを除去するクリーニング工程とを有し、トナーを用いて形成したトナー像を転写体に転写して画像形成する画像形成装置において、電子写真感光体の量子効率ηが下記一般式(1)で表わされる電場依存性を有し、nが0.3以下である画像形成装置。
一般式(1)
η=η_(0)E^(n) (η_(0)は定数、Eは電場(V/cm))」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「電子写真感光体の表面に電荷を付与する帯電工程と、前記感光体の帯電領域に対して光照射する像露光工程と、これら帯電工程と像露光工程とにより前記感光体の表面に静電潜像を形成するとともに、該静電潜像に対応した着色トナー像を前記感光体の表面に形成する現像工程と、前記感光体上に形成されたトナー像を転写体に転写する転写工程を有し、前記感光体表面の残留トナーを除去するクリーニング工程とを配設した画像形成ユニットを複数配列し、各画像形成ユニットごとに着色を変えたトナーを用いて形成した各トナー像を順次転写体に転写して画像形成するタンデム型のカラー画像形成装置」であるのに対して、刊行物発明は、「画像形成ユニットを複数配列したタンデム型のカラー画像形成装置」の特定がない点。

相違点2:本願発明は、「各画像形成ユニットの全ての電子写真感光体の量子効率ηが下記一般式(1)で表わされる電場依存性を有し、nが0.3以下であり、且つ複数の画像形成ユニットに用いられている各感光体間のnの差が0.1以下である」のに対して、刊行物発明は、そのような特定がない点。

4.当審の判断
上記相違点について、検討する。
(相違点1について)
本願出願時点において、「画像形成ユニットを複数配列し、各画像形成ユニットごとに着色を変えたトナーを用いて形成した各トナー像を順次転写体に転写して画像形成するタンデム型のカラー画像形成装置」は周知のものである。
また、刊行物発明は特にモノクロ用のみと限定するものでもなく、画像形成装置のカラー化は当該分野の技術開発の趨勢であって、カラー化のために関連する技術分野における技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
したがって、モノクロ画像形成装置における技術を、タンデム型のカラー画像形成装置に適用する程度のことは、当業者が適宜為し得たことである。

(相違点2について)
次に、相違点2に関しては、上記のとおり、各色毎の画像形成ユニットを縦列に配置したタンデム型のカラー画像形成装置は従来周知であり、かつ、各色毎の画像形成ユニットに関しては、通常、現像容器に収納される現像剤(トナー)を除いて全て同じ構成を採用されているから、各画像形成ユニットには、電子写真感光体は同じものが組み込まれるはずである。(必要ならば、特開平9-251255号公報,段落【0018】、特開平10-115955号公報,段落【0035】、特開平10-20604号公報,段落【0004】等参照。)
したがって、画像形成ユニット毎に電子写真感光体のnの値が異なることは考えられないから、「各画像形成ユニットの全ての電子写真感光体の量子効率ηが下記一般式(1)で表わされる電場依存性を有し、nが0.3以下であり、且つ複数の画像形成ユニットに用いられている各感光体間のnの差が0.1以下である」ことは、刊行物発明をタンデム型のカラー画像形成装置に適用した場合の必然的な構成である。
そして、上記相違点1及び2によって本願発明が奏する効果も、当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。
よって、相違点に係る構成の変更は、当業者が容易に為し得たものである。

(各感光体間のnの差について、補足的検討)
なお、本願明細書の表4を参照すると、例えば、感光体φ30-1a、1b、1c、1dにおいて、nの値が0.23/0.27/0.21/0.29とばらついているが、同じ製造条件で作成したにもかかわらず、このようなばらつきが起こる原因につき本願明細書は何ら開示していない。
また、仮に、本願発明が、必然的に生じるバラツキを「各感光体間のnの差が0.1以下」となるようにしたものであるとしても、差を0.1以下とするための具体的な手段は何ら開示されていない。
さらに、刊行物にも記載があるとおり、「量子効率は電荷輸送層の膜厚に依存しない」(段落【0052】及び【0067】)から、膜厚にばらつきが生じても、nの値が変動するとは考えられない。
このように、本願明細書の表4の記載には不合理な点があるものの、同一製造条件による感光体であり、各感光体に用いられるトナーが異なるものであっても、各感光体の電界強度依存性の測定は使用するトナーの種類とは無関係であるから(本願明細書段落【0028】参照)、仮にnの値にばらつきが生じたとしても、nの差が0.1を越えることは想定できない。

5.請求人の主張
請求人は、請求の理由において、「引用文献等5および19に記載された発明は、モノクロ感光体に関するものです。目的は、繰り返し使用によっても帯電性低下と感度変動のない高感度・機能分離型感光体を提供するものです。そのために、同引用文献等は感光体の量子効率φと電場Eとの関係に着目し、定数nが0.5以下の感光体を使用するものです。これに対して、本願発明は、PWM制御技術やスムージング技術をカラー画像形成方法に用いた時に発生しやすい色再現の不安定さを改良するカラー画像形成方法及び装置を提供することを目的としています。即ち、引用文献等5は、本願発明のようにカラー画像形成に際に起きる問題を課題としない点で本願発明と相違します。」、「画像形成に使用する複数の感光体n値の差について全く開示も示唆するものではありません。」、「引用文献等5および19に記載された感光体は、ビスアゾ顔料を含有するアナログ用の感光体です。このような感光体は、長波長には分光感度が無いものです。・・・この参考文献2の(0007)に『現在プリント用光源として広く使用されているガリウムーアルミニウムー砒素系発光素子は、発信波長が750nm以上である』という記載から、本願の出願当時の当業者の常識として、引用文献等10に記載する画像形成装置に使用されるレーザー光による画像露光の光源としては、長波長に発信波長を有するものあると解釈することが普通ということになります。 従いまして、引用文献等15および引用文献等19のように長波長領域に分光感度が無い又は低い感光体を引用文献等10の様に、長波長領域にビームを発する光源に使用することは、当業者であれば想定しないことは明らかです。」と、
(1)「引用文献等5(本審決の「刊行物」)および19に記載された発明は、モノクロ感光体に関するものであって、本願発明のようにカラー画像形成に際に起きる問題を課題としていない」(主張1)、
(2)「(引用文献等5および19には)画像形成に使用する複数の感光体n値の差について開示も示唆もない」(主張2)、
(3)「引用文献等5(「刊行物」)および19に記載された感光体は、ビスアゾ顔料を含有するアナログ用の感光体で、長波長には分光感度が無いものであり、本願の出願当時の当業者の常識として、画像形成装置に使用されるレーザー光による画像露光の光源としては、長波長に発信波長を有するものであるから、長波長領域にビームを発する光源に使用することは、当業者であれば想定しない」(主張3)旨、主張している。

(主張1について)
まず、刊行物発明がカラー画像形成に際に起きる問題を課題としない点について検討する。
本願発明は、「色再現の不安定さを改良」するという、カラー画像特有の課題に対処するものであるが、本願明細書を参酌すれば、「多数枚にわたる画質の安定性」、「現像性の安定性を維持する」といった課題も記載されており、一方、刊行物発明は、「高感度を維持した高耐久型電子写真感光体」、「繰り返し使用によっても帯電性低下と感度変動のない高感度・機能分離型感光体」、「繰り返し使用によっても異常画像の発生しない高感度・機能分離型感光体」といった事項を目的・課題とするものである。
また、本願明細書に「レーザー光を用いたドット露光による画素形成に高画質化技術のPMW制御技術やスムージング技術等を用いたときの潜像形成の不安定さは、基本的には1回の帯電、露光、現像で画像形成が完了するモノクロ画像では画質の再現性が問題にならないが、複数回の帯電、露光、現像を繰り返し色重ねが行われるカラー画像では潜像形成の再現性の不安定さが色再現性の不安定性となって表れる。」(段落【0007】)とあるが、カラー画像では「繰り返し色重ねが行われる」ことで、各色毎の潜像形成の再現性の不安定さがより顕著となるのであるから、「色再現の不安定」は、刊行物発明のものと異質の課題というものではなく、より高度ではあるが、同質の課題というべきである。
したがって、本願発明と刊行物発明とは、「繰り返し使用における画質の安定性」を課題とする点で共通し、課題に格別の差異はない。
そして、上記4.で検討したとおり、モノクロ画像形成装置における技術を、タンデム型のカラー画像形成装置に適用する程度のことは、当業者が適宜為し得たことである。
よって、刊行物発明がカラー画像形成に際に起きる問題を課題としないとの主張は当を得たものではない。

(主張2について)
次に、「画像形成に使用する複数の感光体n値の差について開示も示唆もない」点についても、上記4.に記載したように、タンデム型のカラー画像形成装置において、各画像形成ユニットに組み込まれる感光体は同一のものであるのが一般的であるから、感光体のn値に差が生じないことは必然の構成である。

(主張3について)
そして、刊行物発明における感光体は「ビスアゾ顔料を含有するアナログ用の感光体で、長波長には分光感度が無い」との主張に関しては、上記摘記事項(2-7)のとおり、実施例9,11のものの照射光は600nmであり、別の実施例(実施例5,8、段落【0057】)のものの照射光は700nmであるから、長波長には分光感度が無いとは必ずしも言えない。
また、アナログ用感光体における技術的思想をデジタルカラー用感光体に適用することは、当業者が適宜為し得たことである。
そして、「本願の出願当時の当業者の常識として、画像形成装置に使用されるレーザー光による画像露光の光源としては、長波長に発信波長を有するもの」との主張についても、波長670nmのレーザビームや550?650nmのLEDヘッドを露光源としたものが本願出願前に知られているから、長波長に発信波長を有するものでなくとも適用可能であったことは明らかである。(必要ならば、特開平10-240004号公報、特開平11-170608号公報、特開平11-184122号公報、等参照。)
さらに、本願発明は露光波長を限定するものではないから、露光波長の点は構成上の差異とはなり得ない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は刊行物1に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-20 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願平11-366047
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 山下 喜代治
淺野 美奈
発明の名称 カラー画像形成方法、及びカラー画像形成装置  

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