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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1189965
審判番号 不服2006-28873  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-28 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2002- 74045「基礎構造」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月25日出願公開、特開2003-268782〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月18日の出願であって、平成18年11月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年1月29日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成20年7月10日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったが、回答はなかった。

2.平成19年1月29日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年1月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の内容及び補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の、
「【請求項1】コンクリートスラブとH形鋼からなる梁を組み合わせて構成した基礎構造であって、コンクリートスラブの上部に配置した圧縮力のみを伝達する複数の伝達要素を介してH形鋼からなる梁を点支持すると共に、H形鋼からなる梁の下フランジを貫通したずれ止め具を有することを特徴とする基礎構造。
【請求項2】前記ずれ止め具が、コンクリートスラブに埋設された埋設ボルト又はコンクリートスラブに埋設された埋設ナットに螺合するボルトであり、前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトの頭部が前記梁の下フランジからルーズな状態で離隔していることを特徴とする請求項1に記載した基礎構造。
【請求項3】コンクリートスラブとH形鋼からなる梁を組み合わせて構成した基礎構造であって、コンクリートスラブの上部に配置されたポリプロピレンを材料とする成形品からなる圧縮力のみを伝達する複数の伝達要素を介してH形鋼からなる梁を点支持して構成したことを特徴とする基礎構造。」を、
「【請求項1】コンクリートスラブとH形鋼からなる梁を組み合わせて構成した基礎構造であって、コンクリートスラブの上部に配置した圧縮力のみを伝達する複数の伝達要素を介してH形鋼からなる梁を点支持すると共に、H形鋼からなる梁の下フランジを貫通し該H形鋼からなる梁に上向きの力が作用したときに自由な挙動を許容し且つ該H形鋼からなる梁と前記コンクリートスラブに相対的な水平力が作用したときに該水平力を伝達するずれ止め具を有し、前記ずれ止め具が、コンクリートスラブに埋設された埋設ボルト又はコンクリートスラブに埋設された埋設ナットに螺合するボルトであり、前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトの頭部が前記H形鋼からなる梁の下フランジとの間に付勢部材を介在させ、該H形鋼からなる梁に上向きの力が作用したとき前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトに沿って上向きに自由な挙動を許容し得るように、前記H形鋼からなる梁の下フランジからルーズな状態で離隔していることを特徴とする基礎構造。」と補正しようとする補正事項を含むものである。

上記補正事項は、本願の補正前の請求項1と請求項3を削除し、補正前の請求項1を引用する請求項2に係る発明を独立形式で記載するとともに、「ずれ止め具」を「該H形鋼からなる梁に上向きの力が作用したときに自由な挙動を許容し且つ該H形鋼からなる梁と前記コンクリートスラブに相対的な水平力が作用したときに該水平力を伝達する」ものに限定し、「前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトの頭部が前記梁の下フランジからルーズな状態で離隔している」状態について、「前記H形鋼からなる梁の下フランジとの間に付勢部材を介在させ、該H形鋼からなる梁に上向きの力が作用したとき前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトに沿って上向きに自由な挙動を許容し得るように」したものに限定するものであって、請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)刊行物及びその記載内容
刊行物1:特開平10-227038号公報
刊行物2:特開平02-229323号公報
刊行物3:特開平10-231643号公報

原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された上記刊行物1には、図面とともに、次のことが記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一戸建て住宅の基礎構造に関する。」、
(1b)「【0004】そこで本発明の目的は、耐震性を向上させ、一戸建て住宅の崩壊を防止可能な基礎構造を提供することにある。」、
(1c)「【0008】
【発明の実施の形態】以下、図1,図2を参照して本発明の実施例を説明すると、独立フーチング基礎(以下単に「基礎」という)は、その中央部に大型の中央部基礎10を配置し、その周囲に複数の小型の基礎1…を配設したもので、この大型、小型の基礎1,10の上面には免震部材2、20が載置してあり、この免震部材の上には一体化している鋼構造の架台3が設置してある。したがって、基礎1,10と架台3との間には免震部材2、20が介在した状態になっている。免震部材2、20としては、積層ゴムのアイソレータ、鉛プラグ入りアイソレータ、固着型アイソレータが適宜選択して適用される。中央部に位置している大型の中央部基礎10の上面には複数のアンカーボルト4…が植設してある。勿論、基礎1,10の全面にアンカーボルト4を植設してもよい。鋼構造の架台3の構造は基礎1、1、10の全体に架設可能な形状であり、この架台の中心部にはアンカーボルト4に対応する位置関係でこのアンカーボルトが貫通可能な貫通穴3aが開設してあり、この架台の周辺にはアンカーボルト5…が所定間隔をもって植設してある。さらに、鋼構造の架台3の上面に一戸建て住宅の土台6が設置してあり、この土台にはアンカーボルト5が貫通可能な大きさと間隔で貫通穴6aが開設してある。
【0009】大型の中央部基礎10に植設してあるアンカーボルト4は鋼構造の架台3の貫通穴3aを貫通し、ナット7により連結してある。さらに、鋼構造の架台3に植設してあるアンカーボルト5は土台6の貫通穴6aを貫通し、ナット8がこのボルトに締結されることにより連結してある。そして、土台6の上方には、図示していないが従来と同様にして上部構造の一戸建ての木造建築物が構築される。」、
(1d)「【0010】したがって、大型の地震が発生し基礎1,10が破断しても、鋼構造の架台3により土台6の保持が確保され、そのため木造建築物が崩壊することは防止され、さらに、一戸建て建築物への振動は免震部材2、20により緩和され、崩壊がより確実に防止される。」、
(1e)「【0011】上記実施例では独立フーチング基礎を参照したが、布基礎、複合フーチング基礎の場合でも同様である。」。
(1f)【図1】及び【図2】には、架台3はH形鋼からなること、アンカーボルト4は、上下のフランジを貫通し、上フランジに当接するように締め付けられたナットにより固定されることが記載されている。

上記記載及び技術常識から、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「フーチング基礎1,10とH形鋼からなる架台3を組み合わせて構成した基礎構造であって、フーチング基礎1,10の上部に配置した複数の免震部材2,20を介してH形鋼からなる架台3を点支持すると共に、H形鋼からなる架台3の上下のフランジを貫通するアンカーボルト4を有し、前記アンカーボルト4が、フーチング基礎1,10に埋設されたものである基礎構造。」

同じく、上記刊行物2には、図面とともに、次のことが記載されている。
(2a)「産業上の利用分野
この発明は、床下換気性能や耐震性の向上を目的として構築される住宅の基礎構造に関するものである。」(1頁左下欄17?20行)、
(2b)「実施例
この発明の実施例を示す第1図?第4図において、(1)は、フーチング部(2)と布部(3)とからなる基礎コンクリートであり、この基礎コンクリート(1)の布部(3)の天端上に、肉厚の厚い第1の台座(4)と肉厚の薄い複数枚の第2の台座(5)を介して、土台(6)が乗せられている。基礎コンクリート(1)に予め埋設されたアンカーボルト(7)を、これら台座(4)(5)のボルト穴(8)、及び、土台(6)のボルト穴(図示せず)を貫通させて、ナット(9)で締め付け固定している。土台(6)は、その開口部分を外向きにして配置した断面コ字形であり、その下片(10)部分がアンカーボルト(7)側へ固定されている。」(2頁右下欄3?17行)、
(2c)「さらに、前記薄い方の台座(5)(5)…は、複数枚例えば5枚程度用いるとともに、各台座(4)(5)の表面に滑りを良好とするためのテフロン塗装等を行なうことによって、地震時の地盤からの振動を、これらの台座(4)(5)の水平方向の摺動により吸収させ、その振動が建物側に伝達されるのを防ぐ免震構造とする。この場合、このような数枚の台座(4)(5)に変えて、積層ゴム等の他の減衰材を用いても良い。」(3頁右上欄16行?左下欄4行)。
上記記載及び技術常識から、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「基礎コンクリート(1)と開口部分を外向きにして配置した断面コ字形の土台(6)を組み合わせて構成した基礎構造であって、基礎コンクリート1の天端に振動減衰部材を介して土台(6)を支持すると共に、基礎コンクリート(1)に埋設されたアンカーボルト(7)を断面コ字形の土台(6)の下フランジを貫通させ、ナット(9)を締め付けて固定した基礎構造。」

同じく、上記刊行物3には、図面とともに、次のことが記載されている。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄骨軸組みにより構築する建物における免震装置に関する。」、
(3b)「【0006】
【発明の実施の形態】しかして、本発明手段は、図5の構造の概要図にあるよう、地盤Gの所定位置に敷設した基礎1の上に、…H型鋼等の鋼材よりなる柱2の柱脚部20の底部を載架して、基礎1に植設してあるアンカーボルト3とナット30…による締着で、ピン構造により基礎1に連結して、柱2…を立設し、これら柱2…の上部側に、その柱2…と同様に鋼材で成形した梁4…を渡架連結して、鉄骨軸組みの構造体aを構築するようにし、その際、柱2の柱脚部20の底面と基礎1の上面との連結部位に、マットbを敷き込み介装して、鉄骨軸組みの建物の免震手段を構成することについては、従前手段と変わりなく構成する。
【0007】しかし、基礎1の上に構築する鉄骨軸組みの構造体aは、それの柱2の柱脚部20と隣り合う柱脚部20との間に、…H型鋼等の鋼材よりなる鉄骨梁5を、柱脚部20と基礎1との連結部位より上方において渡架して、その接合部位を、熔接により一体に連結するか、接合部位のまわりにコンクリートを巻いて一体に連結するなどにより、剛構造に構成する。」、
(3c)「【0009】しかして、基礎1と柱脚部20との連結部位に介装するこのマットbについては、本発明においては、硬質ゴム・スチール・木材・合成樹脂材等の、主として鉛直荷重を考慮した材質の素材を用いて、図7にあるように、板状乃至シート状の単位マット60…を成形し、これを多層に積み重ねることで構成する、免震用マット6を用いるようにしている。」、
(3d)「【0011】そして、この免震用マット6は、図7の如く、単位マット60…を積層して基礎1の上面に敷き込み、それの最上位のものの上面に、立設する柱2の柱脚部20の底面に座板状に設けておく鋼板よりなるベースプレート21を載置し、それらに、基礎1に植設してあるアンカーボルト3を挿通させ、ベースプレート21の上面に突出するそのアンカーボルト3の上部に、スプリングワッシャー31を介して締付けナット30を螺合して締着することで、免震構造のマット6を構成し、これにより、地盤Gから基礎1を経て、免震構造のマット6を介し鉄骨軸組みの構造体aに伝えられる応力のうちの垂直方向のモーメントを多層に積み重なる単位マット60…の重合部位で吸収し、横方向のモーメントを多層に積み重なる単位マット60…の重合面のずれにより吸収されるようになる。」。
上記記載及び技術常識から、刊行物3には、次の発明(以下、「刊行物3記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「地盤Gの所定位置に敷設した基礎1の上に、H型鋼等の鋼材よりなる鉄骨梁5及び鉄骨梁5と一体の柱脚部20とを組み合わせた鉄骨軸組みの構造体aを構築した、建物の基礎構造であって、基礎1の上面に複数の免震マット6を敷き込み、その上に柱脚部20の底面に設けたベースプレート21を載置し、基礎1に植設してあるアンカーボルト3をベースプレート21に挿通させ、ベースプレート21の上面に突出するアンカーボルト3にスプリングワッシャー31を介して締付けナット30を螺合して締着する基礎構造。」
(3)対比
そこで、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「架台3」は本願補正発明の「梁」に相当し、「アンカーボルト4」は「ずれ止め具(埋設ボルト)」に相当する。
また、本願補正発明の「コンクリートスラブ」について、平成19年1月29日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)には、「コンクリートスラブの構成は特に限定するものではなく、通常の中低層住宅に利用する構造(べた基礎としてのコンクリートスラブ及びフーチング等の構造を含む)を持ったものを利用することが可能である。」(段落【0022】)と記載されているから、刊行物1記載の発明の「フーチング基礎1,11」は、本願補正発明の「コンクリートスラブ」に相当する。
さらに、刊行物1記載の発明の「免震部材2、20」は、梁または基礎に掛かる力を相互に伝達していることは明らかであるから、本願補正発明の「伝達要素」に相当する。
したがって、両者は、
「基礎とH形鋼からなる梁を組み合わせて構成した基礎構造であって、基礎の上部に配置した複数の伝達要素を介してH形鋼からなる梁を点支持すると共に、H形鋼からなる梁のフランジを貫通するずれ止め具を有し、前記ずれ止め具が、基礎に埋設された埋設ボルトである基礎構造。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
ずれ止め具は、本願補正発明が「梁の下フランジを貫通する」のに対し、刊行物1記載の発明が「梁の上下フランジを貫通する」ものである点。
(相違点2)
伝達要素が、本願補正発明では「圧縮力のみを伝達する」のに対し、刊行物1記載の発明ではこのようなものに限定されていない点。
(相違点3)
本願補正発明が「梁に上向きの力が作用したときに自由な挙動を許容し且つ梁と前記基礎に相対的な水平力が作用したときに該水平力を伝達する」ずれ止め具を有し、埋設ボルトに螺合したナットが「梁の下フランジとの間に付勢部材を介在させ、該梁に上向きの力が作用したとき埋設ボルトに螺合したナットに沿って上向きに自由な挙動を許容し得るように」、すなわち、梁の下フランジからルーズな状態で離隔しているのに対し、刊行物1記載の発明は、このような構成を有していない点。

(4)判断
上記相違点1について検討すると、上記刊行物2記載の発明は、本願補正発明と同一技術分野に属する基礎構造であって、上下にフランジを有する梁(刊行物2における「土台(6)」)を、下フランジを貫通するずれ止め具(同「アンカーボルト(7)」)により、基礎に固定するものであり、刊行物1記載の発明において、ずれ止め具を梁の下フランジのみを貫通するものとすることは、刊行物2記載の発明に基づいて当業者であれば容易になし得る事項にすぎない。

上記相違点2、3について検討する。
上記刊行物1記載の発明の伝達要素(免震部材2,20)は、具体的には、刊行物1の段落【0008】に記載されているように、積層ゴムのアイソレータ、鉛プラグ入りアイソレータ、固着型アイソレータからなり、地震などの水平力により横方向に変形するものの、本願補正発明と同様に、圧縮力を伝達するものである。
しかし、刊行物1記載の発明では、ナットが、梁のフランジ面に当接して、ずれ止め具であるアンカーボルトに固定されているため、基礎には、圧縮力とともに梁に掛かる上向きの引張力も伝達されるものと認められる。
一方、上記刊行物3記載の発明は、本願発明と類似する、コンクリートの基礎と、鉄骨梁5及び鉄骨梁5と一体の柱脚部20とを組み合わせた基礎構造であって、基礎の上部に複数の免震マット6を介して柱脚部20を支持するものにおいて、柱脚部20のベースプレート21を貫通し、基礎に埋設したアンカーボルト3にスプリングワッシャー31を介在させて締付けナット30を螺合して締着したものである。
そして、本願の補正明細書には、本願補正発明の「ずれ止め具」及び「付勢部材」の具体例として、それぞれ「アンカーボルト」(段落【0034】)、「スプリングワッシャー」(段落【0035】)が挙げられており、刊行物3記載の発明の「アンカーボルト3」、「スプリングワッシャー31」は、本願補正発明の「ずれ止め具(埋設ボルト)」、「付勢手段」に相当する。
刊行物3には、アンカーボルトの上部にスプリングワッシャーを介して締着された締付ナットが、「梁に上向きの力が作用したとき埋設ボルトに螺合したナットに沿って上向きに自由な挙動を許容し得る」状態を保持し、基礎に「圧縮力のみ」が伝達されることの記載はない。
しかし、柱脚等に上向きの力や回転力が作用したときに、アンカーボルト及び基礎に掛かる引張力を緩和し、水平力を伝達しようとすることは、特開平10-299081号公報、特開平10-292487号公報及び特開2001-303587号公報等にも記載されているように周知の課題であり、これらの周知例には、刊行物3記載の発明と同様に、基礎に埋設されたボルトには、柱脚等のベースプレートとの間に付勢部材を介在させてナットを締着し、「柱脚に上向きの力が作用したとき埋設ボルトに螺合したナットに沿って上向きに自由な挙動を許容し得るように」したことが示されている。
そうすると、刊行物3記載の発明も、鉄骨梁5又は鉄骨梁5と一体の柱脚部20に上向きの力が掛かった場合に、スプリングワッシャー31の弾性変形可能な範囲において、ずれ止め具(アンカーボルト3)は、柱脚部の自由な挙動を許容し、且つ柱脚部及び梁と基礎との間に相対的な水平力が作用したときに該水平力を伝達することができるものであり、本願補正発明と同様の機能を有しているといえる。
また、柱脚部及び梁にかかる上向きの力は上記のとおり、柱脚部の自由な挙動により吸収されるから、基礎には引張力は伝達せず、圧縮力のみが伝達されることになる。
そうすると、上記刊行物1記載の発明において、上向きの力が作用したときに、アンカーボルト及び基礎に掛かる引張力を緩和し、水平力を伝達するために、基礎に重層する梁の取り付け構造に上記刊行物3記載の発明を採用し、上記相違点2、3の本願発明に係る事項とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願補正発明の作用効果は、刊行物1ないし3に記載された発明及び上記周知技術から、予測することができる程度のことであって格別のものとは認められない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし3記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年1月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に掛かる発明は平成18年4月20日付け手続補正書に
より補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1、2に係る発明は次のとおりである。
なお、平成18年8月24日付け手続補正は、平成18年11月7日付けの補正の却下の決定により却下されている。
「【請求項1】コンクリートスラブとH形鋼からなる梁を組み合わせて構成した基礎構造であって、コンクリートスラブの上部に配置した圧縮力のみを伝達する複数の伝達要素を介してH形鋼からなる梁を点支持すると共に、H形鋼からなる梁の下フランジを貫通したずれ止め具を有することを特徴とする基礎構造。
【請求項2】前記ずれ止め具が、コンクリートスラブに埋設された埋設ボルト又はコンクリートスラブに埋設された埋設ナットに螺合するボルトであり、前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトの頭部が前記梁の下フランジからルーズな状態で離隔していることを特徴とする請求項1に記載した基礎構造。」

(2)刊行物及びその記載内容
原査定に引用され本願出願前に頒布された刊行物1ないし3及びその記載内容は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記2.で検討した本願補正発明から「ずれ止め具」の限定事項である「該H形鋼からなる梁に上向きの力が作用したときに自由な挙動を許容し且つ該H形鋼からなる梁と前記コンクリートスラブに相対的な水平力が作用したときに該水平力を伝達する」との事項を省き、埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトの頭部の状態である「前記H形鋼からなる梁の下フランジとの間に付勢部材を介在させ、該H形鋼からなる梁に上向きの力が作用したとき前記埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトに沿って上向きに自由な挙動を許容し得るように、前記H形鋼からなる」との特定事項を省略し、上位概念である「埋設ボルトに螺合したナット又は埋設ナットに螺合したボルトの頭部が、前記梁の下フランジからルーズな状態で離隔している」としたものである。
また、本願発明の「コンクリートスラブ」について本願明細書に記載された定義は、補正明細書に記載の定義(上記2.(3)参照)と同じである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、刊行物1ないし3記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-23 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2002-74045(P2002-74045)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E02D)
P 1 8・ 575- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義高橋 三成  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 石川 好文
家田 政明
発明の名称 基礎構造  
代理人 特許業務法人中川国際特許事務所  

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