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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04C
管理番号 1189967
審判番号 不服2007-415  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-10 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2004-220101「定着補強鉄筋およびこれを用いる帯鉄筋の定着構造」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月9日出願公開、特開2006-37549〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は,平成16年7月28日の出願であって,平成18年11月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年1月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年1月23日付けで手続補正がなされたものである。
そして,当審において,平成20年7月10日付けで審査官による前置報告書に基づく審尋がなされたところ,同年9月16日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成19年1月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年1月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,特許請求の範囲の減縮を目的として,次のように補正された。
「1本の鉄筋(鉄筋コンクリート用棒鋼)を中央で90°に折り曲げ、両端を180°折り返して半円形フックとした帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋。」
そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて,以下に検討する。


[2]引用刊行物及びそれの記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2003-253814号公報(以下,「刊行物」という。)には,「配筋定着方法及び該方法に用いられる定着具」に関して,次の事項が記載されている。
(イ)「【発明の属する技術分野】この発明は、鉄筋コンクリート橋脚、建築物の鉄筋コンクリート柱など鉄筋コンクリート構造物の断面内部に配置される帯鉄筋や軸方向鉄筋のはらみだしを抑制するための配筋定着方法及び該方法に用いられる定着具に関するものである。」(段落【0001】)
(ロ)「【従来の技術】鉄筋コンクリート構造物、例えば図11に示す鉄筋コンクリート柱1においては、大地震時に塑性化することを考慮して耐震設計しており、その耐震性を高めるため、該柱の断面内部に配置される中間帯鉄筋4を、その両端部に形成した半円形フックもしくは鋭角フック5を帯鉄筋3に引っ掛けて定着させている。これにより帯鉄筋3や軸方向鉄筋2の外側へのはらみだしを抑制する構造となっている。しかしながら、中間帯鉄筋4の両端部に半円形フックもしくは鋭角フック5を形成して帯鉄筋3に引っ掛けるのは、施工上非常に難しい。そのため、図12(A)に示すように2本の鉄筋4a,4bを断面内部で一部重ね合わせて中間帯鉄筋4としたり、同(B)に示すように対向端部を機械式継手4c等を用いて接続して中間帯鉄筋4とする構造が従来より用いられている。
ところで、2本の鉄筋を断面内部で重ね合わせて中間帯鉄筋とする方法では、断面内部で鉄筋が輻輳するため、施工が煩雑となるという問題点がある。また、機械式継手等で接続して中間帯鉄筋とする方法では、別途継手等を用意する必要があるため、コストアップとなるという問題点がある。」(段落【0002】?【0003】)
(ハ)「【発明が解決しようとする課題】そこでこの発明は、前記のような従来の問題点を解決し、1本の鉄筋で・・・帯鉄筋の軸方向鉄筋への定着が確実に行え、その施工性も従来に比して格段に改善することができ、コストも比較的安価に抑えることができる配筋定着方法及び該方法に用いられる定着具を提供することを目的とする。」(段落【0004】)
(ニ)「請求項16に記載した定着具の発明は、鉄筋コンクリート橋脚、建築物の鉄筋コンクリート柱など鉄筋コンクリート構造物の断面内部に配置される帯鉄筋や軸方向鉄筋のはらみだしを抑制するための配筋定着方法であって、第1の帯鉄筋の端部にほぼ直角に折り曲げ形成されたフック部を軸方向鉄筋に引っ掛けて配筋するとともに、第2の帯鉄筋の端部にほぼ直角に折り曲げ形成されたフック部を第1の帯鉄筋のフック部と反対側から前記軸方向鉄筋に上下に添うように当接させて引っ掛けて配筋した後、第1の帯鉄筋のフック部と第2の帯鉄筋及び第2の帯鉄筋のフック部と第1の帯鉄筋を定着具の一端部及び他端部に形成した係合部で係合することにより帯鉄筋を軸方向鉄筋に定着させることを特徴とする。
請求項17に記載した定着具の発明は、請求項16の配筋定着方法に用いられるもので、一端部に第1の帯鉄筋のフック部と第2の帯鉄筋の当接部を係合する係合部が形成され、他端部に第2の帯鉄筋のフック部と第1の帯鉄筋の当接部を係合する係合部が形成されていることを特徴とする。」(段落【0017】?【0018】)
(ホ)「図9は第6の実施の形態を示す。この実施の形態では全体が線材からなり、一端部に第1の帯鉄筋3aのフック部55と第2の帯鉄筋3bの当接部を係合する係合部56が形成され、他端部に第2の帯鉄筋3bのフック部57と第1の帯鉄筋3aの当接部を係合する係合部58が形成されている金属コネクタ60を用いている。このコネクタ60を用いて帯鉄筋3a,3bを軸方向鉄筋2に定着するには第1の帯鉄筋3aのフック部55を軸方向鉄筋2に引っ掛けて配筋するとともに、第2の帯鉄筋3bのフック部57を第1の帯鉄筋3aのフック部55と反対側から軸方向鉄筋2に上下に添うように当接させて引っ掛けて配筋した後、第1の帯鉄筋3aのフック部55と第2の帯鉄筋3b及び第2の帯鉄筋3bのフック部57と第1の帯鉄筋3aをコネクタ60の一端部及び他端部に形成した係合部56,58で係合する。これにより第1の帯鉄筋3aと第2の帯鉄筋3bが軸方向鉄筋2に定着させられる。」(段落【0032】)
(ヘ)「尚、前記各実施の形態では定着具として金属コネクタ・・・60・・・を挙げて説明したが、これはあくまでも好ましい一例であり、このような金属コネクタ・・・に限定するものではない。また、材質も必ずしも金属(鋼材)である必要はなく、・・・また、実施の形態で示した金属コネクタ・・・の具体的な形状、構造などは実施に際し種々に設計変更、修正してもよいことは勿論である。・・・」(段落【0034】)
(ト)「【発明の効果】この発明は前記のようであって、請求項・・・16・・・に記載した配筋定着方法によれば、1本の鉄筋で・・・帯鉄筋の軸方向鉄筋への定着がきわめて容易かつ確実に行えて、施工性が従来のものに比して格段に改善することができる。・・・また、従来のように機械的継手等を使用しないため、コストも比較的安価に抑えることができる。さらに、請求項・・・17・・・に記載した定着具によれば、前記配筋定着方法を実施するに当り、その施工性を高める役目を果たすことができるという優れた効果がある。」(段落【0035】)
(チ)そして,以上の各記載事項を参照して,図9をみると,金属コネクタ60が,1本の鉄筋の中央を90°に折り曲げ,その両端に係合部56,58が形成されてなるものであることは明らかである。(請求人も,請求書の平成19年1月23日付け補正書2頁27?29行で,「さて引用文献1に記載の発明では、・・・金属コネクタ60は・・・中央で90度折り曲げられており、両端に係合部56、58が形成されます。・・・」と主張し,これを認めている。)

これら(イ)?(チ)の記載事項及び図9等の記載を含む刊行物全体の記載並びに当業者の技術常識によれば,刊行物には,次の発明が記載されているものと認められる。
「1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ,両端に係合部56,58をそれぞれ形成し,1本の鉄筋で帯鉄筋の軸方向鉄筋への定着を容易かつ確実に行え,施工性も改善することができるようにした金属コネクタ60。」(以下,「刊行物記載の発明」という。)


[3]対比
補正発明と刊行物記載の発明とを比較すると,
刊行物記載の発明の「1本の鉄筋で帯鉄筋の軸方向鉄筋への定着を容易かつ確実に行え,施工性も改善することができるようにした金属コネクタ60」は,補正発明の「帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋」に相当している。
また,刊行物記載の発明の「両端に係合部56,58をそれぞれ形成し」と,補正発明の「両端を180°折り返して半円形フックとし」とは,「両端を帯鉄筋定着部とし」で共通する。
そうすると,両者は,
「1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ,両端を帯鉄筋定着部とした帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋。」の点で一致し,次の点で相違している。
<相違点1>
1本の鉄筋について,補正発明では,「鉄筋コンクリート用棒鋼」であるのに対して,刊行物記載の発明では,鉄筋コンクリート用棒鋼であるのか定かでない点。
<相違点2>
両端の帯鉄筋定着部について,補正発明では,「(両端を180°折り返してなる)半円形フック」であるのに対して,刊行物記載の発明では,「(両端にそれぞれ形成した)係合部56,58」であって,それらの形態がどのようなものか定かでない点。


[4]判断
上記相違点について検討する。
<相違点1について>
刊行物記載の発明の「金属コネクタ60」は,「1本の鉄筋」で構成されているものの,該「1本の鉄筋」が,鉄筋コンクリート用棒鋼で構成されたものであるか否かは,刊行物の全体の記載をみても,定かでない。
しかしながら,「鉄筋」というと,通常,鉄筋コンクリート用棒鋼を指すものであることは,鉄筋コンクリート構造物の技術分野における当業者の技術常識とされていること(請求人も,審査官による前置報告書に基づく審尋に対する平成20年9月16日付け回答書3頁13?14行で,「『鉄筋』は『鉄筋コンクリート用棒鋼』の通称であることは各種用語辞典等を参照するまでもなく明瞭であります」と主張し,これを認めている。また,例えば,「建築大辞典 第2版<普及版>」(彰国社,1997年4月10日第3刷(1993年6月10日発行),P.1127)には,「てっきん[鉄筋]」について,「コンクリートを補強するための鋼棒(SR).・・・異形棒鋼(SD)は表面にリブや節の突起があるものをいう.直径6?51mm程度.(JIS G 3112)」と説明されている。)であるから,上記「1本の鉄筋」が,鉄筋コンクリート用棒鋼で構成されたものであることは,当業者にとって自明のことということができる。
したがって,上記相違点1において,補正発明と刊行物記載の発明との間に,実質的な差異があるということはできない。

ところで,刊行物の上記記載事項(イ)?(ホ)によれば,刊行物記載の「金属コネクタ60」の発明は,「建築物の鉄筋コンクリート柱など鉄筋コンクリート構造物の断面内部に配置される帯鉄筋や軸方向鉄筋のはらみだしを抑制するための配筋定着方法」に用いる「定着具」に係るものであり,
鉄筋コンクリート柱の耐震性を高めるようにした従来の技術として,例えば,「(図11に示す鉄筋コンクリート柱1の)断面内部に配置される中間帯鉄筋4を、その両端部に形成した半円形フックもしくは鋭角フック5を帯鉄筋3に引っ掛けて定着させている。これにより帯鉄筋3や軸方向鉄筋2の外側へのはらみだしを抑制する構造」にしているが,「中間帯鉄筋4の両端部に半円形フックもしくは鋭角フック5を形成して帯鉄筋3に引っ掛けるのは、施工上非常に難しい」ものとなり,そのため,「図12(A)に示すように2本の鉄筋4a,4bを断面内部で一部重ね合わせて中間帯鉄筋4としたり、同(B)に示すように対向端部を機械式継手4c等を用いて接続して中間帯鉄筋4とする構造」もあるが,前者では,「断面内部で鉄筋が輻輳するため、施工が煩雑となるという問題点」があり,後者では,「別途継手等を用意する必要があるため、コストアップとなるという問題点」があるところ,
このような従来の技術の問題点を解決するために,「1本の鉄筋で・・・帯鉄筋の軸方向鉄筋への定着が確実に行え、その施工性も従来に比して格段に改善することができ、コストも比較的安価に抑えることができる配筋定着方法」に用いる「定着具」を得ることを目的としてなされたものである。
そして,刊行物の上記記載事項(ニ)?(ト)を参照して,図9をみると,「金属コネクタ60」を用いている「第6の実施の形態」においては,該「金属コネクタ60」以外に,上記従来の技術や刊行物の他の実施の形態(但し,図7で示された「第4の実施の形態」を除く。)で用いられているような「中間帯鉄筋」は用いられておらず,また,刊行物中にそれの使用を示唆する記載も特にないことから,該「第6の実施の形態」は,該「金属コネクタ60」のみにより,「帯鉄筋3a,3b」の「軸方向鉄筋2」への定着を確実に行うとともに,該「帯鉄筋3a,3b」を柱の内側から拘束して,「帯鉄筋や軸方向鉄筋のはらみだしを抑制する」ようにしたものということができる。
してみると,刊行物記載の発明の「金属コネクタ60」を形成する「1本の鉄筋」については,請求人も,「いったん地震等の大荷重が作用してかぶりコンクリートが脱落してしまうと針金15などは何の役にも立たず、帯鉄筋が開口してしまうので、本発明や、引用文献1に記載の発明などがなされるに至ったのであります。」(上記請求書の補正書2頁24?26行)と主張しているように,針金などの線材ではなしに,少なくとも,帯鉄筋や軸方向鉄筋の外側へのはらみだしを抑制するなどのために従来から用いられている中間帯鉄筋などと同等程度の強度の材料が要請されるものと推認されるから,仮に,刊行物記載の発明の「金属コネクタ60」を構成する「1本の鉄筋」が,鉄筋コンクリート用棒鋼で構成されたものであると,直ちにいうことができないとしても,該「1本の鉄筋」を,鉄筋コンクリート用棒鋼で構成して,上記相違点1に係る補正発明の構成を想到することは,当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものということができる。

尚,請求人は,上記請求書の補正書2頁27?50行で,
「金属コネクタ60は・・・線材を折り曲げたものと推定されます。」,「金属コネクタ60と称するものの材料が人力で簡単に曲げたり巻き付けたりできるいわゆる線材(『軟鋼線材(JIS G 3505)』または『鉄線(JIS G 3532)』)であることが必要であり、鉄筋などの『鉄筋コンクリート用棒鋼(JIS G 3112)』ではこのようなことは不可能であります。」と主張し,
また,上記審尋に対する回答書3頁4?10行で,
「『金属コネクタ』が『線材』であれば、これはJISにおける『軟鋼線材』、あるいは『鉄線』を意味することは明瞭であり、素手で曲げることなど到底不可能な鉄筋などの『棒鋼』とは全く異なるものであります。
引用文献1の段落[0034]に金属コネクタは『必ずしも金属(鋼材)である必要はなく』とありますのは、おそらく銅線等でも同様の効果が認められることからの記載であり、『柔らかい線材』であることに相違はないものと考える次第であります。」と主張している。
しかしながら,刊行物に,各実施の形態の金属コネクタ或いは金属クリップ全般の材料について,「材質も必ずしも金属(鋼材)である必要はなく」(段落【0034】,記載事項(ヘ)を参照。)と記載され,また,「金属コネクタ60」が線材で構成されることが記載され(段落【0032】,記載事項(ホ)を参照。)ているとしても,既に説示したとおり,「金属コネクタ60」が,「1本の鉄筋」で構成されているものであって,かつ,それには,針金などの線材ではなしに,少なくとも,従来から用いられている中間帯鉄筋などと同等程度の強度の材料が要請されるものと推認される以上,これを鉄筋コンクリート用棒鋼で構成することは,当業者の技術常識の範囲内において容易に想到しえたものということができるから,請求人の上記のような主張について,直ちに首肯することはできない。

<相違点2について>
刊行物の上記記載事項(ニ)?(チ)によれば,刊行物記載の発明の「金属コネクタ60」の両端にそれぞれ形成した「係合部56,58」については,
一方の「係合部58」が,「第2の帯鉄筋3bのフック部57と第1の帯鉄筋3aの当接部を係合する」ために,「金属コネクタ60」の他端部に形成されたものであって,鋭角のフック状に折り曲げてなるものであり(請求人も,上記請求書の補正書2頁29?30行で,「一方の係合部58は・・・鋭角のフック状に折り曲げただけのものであり」と主張し,これを認めている。),他方の「係合部56」が,「第1の帯鉄筋3aのフック部55と第2の帯鉄筋3bの当接部を係合する」ために,「金属コネクタ60」の一端部に形成されたものであり,
これら「係合部56,58」により,「第1の帯鉄筋3aと第2の帯鉄筋3bが軸方向鉄筋2に定着させられる」ようにした,具体的には,「第1の帯鉄筋3aのフック部55を軸方向鉄筋2に引っ掛けて配筋するとともに、第2の帯鉄筋3bのフック部57を第1の帯鉄筋3aのフック部55と反対側から軸方向鉄筋2に上下に添うように当接させて引っ掛けて配筋した後、第1の帯鉄筋3aのフック部55と第2の帯鉄筋3b及び第2の帯鉄筋3bのフック部57と第1の帯鉄筋3aをコネクタ60の一端部及び他端部に形成した係合部56,58で係合する。これにより第1の帯鉄筋3aと第2の帯鉄筋3bが軸方向鉄筋2に定着させられる。」ようにしたものである。
そうすると,「第1の帯鉄筋3a」及び「第2の帯鉄筋3b」と「軸方向鉄筋2」との定着は,「軸方向鉄筋2」の両側における「第1の帯鉄筋3a」と「第2の帯鉄筋3b」との上下当接部分に,「(金属)コネクタ60の一端部及び他端部に形成した係合部56,58で係合する」ことにより行われるものであり,該「係合部56,58」のうちの,「係合部56」のみを,「第1の帯鉄筋3aと第2の帯鉄筋3b」に巻き付けるようなことなど行うものではないから,該「係合部56,58」については,「係合部58」だけではなしに,「係合部56」も,鉄筋定着作業に入る前段階において,既に,鋭角のフック状に折り曲げた鉄筋係合構造を持つものとして,「コネクタ60の一端部及び他端部に形成」されているものであるということができる。
また,刊行物の上記記載事項(ホ)においては,「係合部56」と「係合部58」とを,表現上何ら区別して記載しておらず,また,図9をみると,「係合部56,58」の各先端は,「第1の帯鉄筋3a」と「第2の帯鉄筋3b」との上下当接部分への係合部分を越えたところから,直ちに,「第1の帯鉄筋3a」及び「第2の帯鉄筋3b」の内側斜め下方に向けて延びていることがみてとれるから,該「係合部56,58」は,上記したように,何れも,鋭角のフック状に折り曲げてなるものであるとするのが相当である。

[刊行物・図9]

ここで,鉄筋に対する係合部を,半円形フックとすることは,例えば,刊行物に従来の技術として,両端部に「半円形フック」が形成された「中間帯鉄筋4」が記載され,その他にも,実願昭50-160866号(実開昭52-73906号)のマイクロフィルム(鋼線の両端部に「わん曲部3、3」が形成された「締結金具T」が記載されている。),実願昭55-41589号(実開昭56-143423号)のマイクロフィルム(鋼鉄線の両端部に「半円弧2及び3」が形成された「鉄筋バインド1」が記載されている。)に記載されているように,鉄筋定着金具の技術分野において,従来周知の事項である。
してみると,刊行物記載の発明の「金属コネクタ60」の両端にそれぞれ形成した「係合部56,58」を,「180°折り返して半円形フック」として,上記相違点2に係る補正発明の構成を想到することは,当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえたものということができる。

尚,請求人は,上記請求書の補正書2頁27?46行で,同書に添付した参考図1?5を参照して,
「さて引用文献1に記載の発明では、ここで金属コネクタ60が登場いたします。金属コネクタ60は参考図3の(a)に示したような、線材を折り曲げたものと推定されます。中央で90度折り曲げられており、両端に係合部56、58が形成されます。一方の係合部58は線材を鋭角のフック状に折り曲げただけのものであり、他方の係合部56はこの段階ではまだまっすぐのままであります。
参考図4は、(a)に示しました金属コネクタ60を帯鉄筋に取り付けようとしている段階を示し、係合部58を向かって前方の帯鉄筋とフック部の重なり部に引っかけ、まっすぐだった金属コネクタ60の手前の部分を手前の帯鉄筋に巻き付けております。矢印のように残った部分を完全に巻き付けると、参考図5の状態となり、これが引用文献1の第9図に相当いたします。なお、金属コネクタ60を取り付けた段階で針金15の役目は終わっていますので、参考図4、5では針金15を省略しております。実際の施工ではわざわざこの針金を取り除くことはせず、通常そのまま放置いたします。
さて、金属コネクタ60の係合部60はこのように帯鉄筋に巻き付けて形成されるものでありますから、参考図3で(b)に示しましたような「予め巻き付けた形状に形成しておくもの」ではありません。仮に参考図3の(b)のようなものといたしますと、参考図2の状態ではもはや取り付けることができず、参考図1の段階にさかのぼって輪の部分をくぐらせて嵌めておかなければなりません。さらに参考図2の段階でその輪の中へ2本目の帯鉄筋を通さねばならず、しかも通った後の係合部56には若干の隙間が残り、2本の鉄筋をしっかりと固定することができません。したがって係合部56はどうしても先にご説明したように、後から2本の鉄筋に巻き付ける構造としなくてはなりません。」と主張し,
上記審尋に対する回答書2頁18?28行で,
「(2)ポイントは引用文献1の第9図をどのように見るかの問題でありますが、元来この図は詳しい説明がなく、図も小さいため引用文献1の出願人の意図を十分反映したものとは思えませんが、本願出願人は平成19年1月23日付手続補正書(方式)に添付いたしました[参考図5]のように解釈いたしました。すなわち、元の第9図には係合部56、58に沿って線材の形状が破線で示されており、係合部58ではその形状が2本の鉄筋を係合するフック状であるのに対し、係合部56では2本の鉄筋を囲む円形で示されていること、また係合部56では2本の鉄筋55、3bに対して手前側に円弧状の線が3本描かれていますがいずれも同じ径で、参考図2に示しましたような鉄筋の外周に密着したものでなく、線材の太さを加えた曲率で描かれていること等により、係合部56は太さを有する線材を2回ほど巻き付けたものと解釈せざるを得ません。」と主張している。

[参考図1?5]


しかしながら,既に説示したように,図9からは,「金属コネクタ60」の両端にそれぞれ形成した「係合部56,58」の各先端が,「第1の帯鉄筋3a」と「第2の帯鉄筋3b」との上下当接部分への係合部分を越えたところから,直ちに,「第1の帯鉄筋3a」及び「第2の帯鉄筋3b」の内側斜め下方に向けて延びていることがみてとれるのであり,また,図面解釈上,「係合部56」が位置する部分において,「2本の鉄筋を囲む円形で示されている」線(「2本の鉄筋55、3bに対して手前側」に描かれている3本の「円弧状の線」のうちの左側の1本の線を含む線)については,「第1の帯鉄筋3a」と「第2の帯鉄筋3b」との上下当接部分を軽く固定するための,同図,「係合部58」が位置する部分に用いられている「針金15」と同様の「針金」を表現しているものと推認でき,同じく,「係合部56」が位置する部分において,「2本の鉄筋55、3bに対して手前側」に描かれている3本の「円弧状の線」のうちの右側の2本の線は,「金属コネクタ60」の輪郭を表現しているものと推認できることから,
請求人の,上記請求書の補正書における,「係合部56」についてした,「他方の係合部56はこの段階ではまだまっすぐのままであります。」,「まっすぐだった金属コネクタ60の手前の部分を手前の帯鉄筋に巻き付けております。矢印のように残った部分を完全に巻き付けると、参考図5の状態となり、これが引用文献1の第9図に相当いたします。」,「金属コネクタ60の係合部60(当審注:「56」の誤り。)はこのように帯鉄筋に巻き付けて形成されるものでありますから、参考図3で(b)に示しましたような「予め巻き付けた形状に形成しておくもの」ではありません。」,「したがって係合部56はどうしても先にご説明したように、後から2本の鉄筋に巻き付ける構造としなくてはなりません。」などの主張,及び,上記審尋に対する回答書における,「係合部56は太さを有する線材を2回ほど巻き付けたものと解釈せざるを得ません。」などの主張は,何れも,刊行物の記載の内容を正解しないものといわざるをえないから,このような主張について,直ちに首肯することはできない。

そして,補正発明全体の効果も,刊行物記載の発明及び従来周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって,格別のものということができないから,補正発明は,刊行物記載の発明及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


[5]むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。


【3】本願発明について
平成19年1月23日付けの手続補正が上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし3に係る発明は,平成18年9月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
1本の鉄筋を中央で90°に折り曲げ、両端を180°折り返して半円形フックとした帯鉄筋定着用の定着補強鉄筋。
【請求項2】(記載を省略する。)
【請求項3】(記載を省略する。)」
(請求項1に係る発明を,以下,「本願発明」という。)

[1]引用刊行物及びそれの記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された引用刊行物及びそれの記載事項は,上記【2】[2]のとおりである。


[2]対比・判断
本願発明は,上記【2】で検討した補正発明を特定するために必要な事項である「1本の鉄筋」に関して,「(鉄筋コンクリート用棒鋼)」という限定事項を削除したものであって,本願発明を特定するために必要な事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が,上記【2】[4]で説示したとおり,刊行物記載の発明及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるといえるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物記載の発明及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


[3]むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物記載の発明及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-22 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2004-220101(P2004-220101)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04C)
P 1 8・ 121- Z (E04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 隆住田 秀弘萩田 裕介  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 定着補強鉄筋およびこれを用いる帯鉄筋の定着構造  
代理人 小林 英一  

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