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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1189971
審判番号 不服2007-1318  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-15 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 特願2002-163189号「乗員保護装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月15日出願公開、特開2004-9798号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成14年 6月 4日の出願であって、平成18年12月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年 1月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成19年 2月 9日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成19年 2月 9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年 2月 9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1. 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「車体側面のドアに隣接配置された座席に座っている乗員を側突時又は横転時に保護するための装置であって、
該座席は、クッション本体と、該クッション本体の表面を覆うカバーとを有する乗員保護装置において、
側突時又は横転時に該乗員のドア側の臀部を押上げる押上手段を有する乗員保護装置であって、
該押上手段は、膨張可能なバッグと、該バッグを膨張させるガス発生器とを備えており、
該バッグは、前記クッション本体と、該クッション本体の表面を覆う前記カバーとの間に配置されていることを特徴とする乗員保護装置。」と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「座席」について、「クッション本体と、該クッション本体の表面を覆うカバーとを有する」という限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2. 先願発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された特願2002-65998号(特開2003-261000号)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には、次の技術的事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、車両のボディサイド部に対する他の車両の衝突(以下、単に側突という)により、車両のボディに所定値以上の衝撃が加わったとき、車室内のシートに着座する乗員を衝撃から保護するための車両のサイドエアバッグ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種のサイドエアバッグ装置としては、例えば特開平7-323802号公報(第1従来構成)及び特開2001-206176号公報(第2従来構成)に開示されるような構成のものが知られている。
【0003】すなわち、前記第1従来構成においては、シートの腰掛け部のドア側端縁にエアバッグが配設され、側突時に、エアバッグがシートに着座する乗員と車両のボディサイド部との間に展開膨張して、衝撃を吸収するようになっている。また、シートがサイドレールを介して車両の中央方向へ移動可能に支持され、通常時にはロック機構により所定位置にロックされている。そして、前記エアバッグの展開膨張時にロック機構によるロックが解除されて、シートの車両中央側への移動が許容されるようになっている。
【0004】一方、第2従来構成においては、車両のドア内面に可動パネルと、その可動パネルを車両の中央方向へ移動させるための駆動装置とが設けられている。そして、プリクラッシュセンサにより側突が予測検出されたとき、駆動装置により可動パネルが車両の中央側に突出されて、シートに着座する乗員を車両の中央側に押し付け移動させるようになっている。また、車両のドアには可動パネルに近接してサイドエアバッグが設けられ、横加速度センサにより側突が検出されたとき、このサイドエアバッグが乗員とドアとの間に展開膨張されるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、これらの従来構成においては、次のような問題があった。すなわち、第1従来構成では、側突時に、ロック機構によるシートのロックが解除されるのみで、フロントシートが積極的に移動されるようになっていない。このため、エアバッグが乗員と車両のボディサイド部との間に展開膨張された後、そのエアバッグに押し付けられて、乗員がシートとともに車両の中央側へ移動されることになる。よって、側突時に、乗員を車輌中央側へ移動させる際に、乗員に対して乗員自身の体重に加えて、シートを移動させるための荷重が作用することになり、乗員に作用する衝撃を効果的に吸収する点で改善の余地があった。
【0006】また、第2従来構成では、側突の予測検出時に、平板状で硬質な可動パネルがドアの内面から突出して、乗員の身体を車両の中央側に直接押し付けるようになっている。このため、可動パネルの突出時に乗員の身体に衝撃的な押し付け荷重が掛かるおそれがあった。
【0007】さらに、この第2従来構成では、側突時に、ドア内面からの可動パネルの突出により、乗員が車両の中央側に押し付けられた後に、サイドエアバッグが乗員とドアとの間に展開膨張される。この場合、可動パネルが突出状態にあって邪魔になるため、サイドエアバッグが乗員の胸郭部や腰部等を覆うように広範囲に展開膨張することはできなかった。よって、この第2従来構成においても、側突時において乗員に作用する衝撃を効果的に吸収する点で改善の余地があった。
【0008】この発明は、このような従来の技術に存在する着目点に基づいてなされたものである。その目的は、側突時において、乗員に作用する衝撃を効果的に吸収することができて、乗員を有効かつ確実に保護することができる車両のサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車輌側方からの衝突時に乗員を保護するためのサイドエアバッグ機構を備えたサイドエアバッグ装置において、前記サイドエアバッグ機構のサイドエアバッグの展開膨張の直前または膨張展開とほぼ同時に、車室内のシートを少なくとも部分的に移動させて、シートに着座する乗員とボディサイド部との間の空間を広げるシート移動機構を備えたことを特徴とするものである。なお、ここで、衝突時とは衝突直前の時も含むものとする。
【0010】従って、この請求項1に記載の発明によれば、車両のボディ側部への衝突時において、フロントシート移動機構が作動されて、シートの一部分または全体が移動される。この移動により、シートに着座する乗員に直接負荷が掛かることなく、乗員とボディサイド部との間に空間が形成される。そして、その空間内においてサイドエアバッグ機構が動作され、サイドエアバッグが乗員とボディサイド部との間の空間内に展開膨張される。よって、乗員に作用する衝撃を効果的に吸収することができて、乗員を有効かつ確実に保護することができる。
【0011】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記シート移動機構は、シートの腰掛け部内にボディサイド部側へ偏倚して設けられ、腰掛け部の座面をボディサイド部側へ向かって高くなるように傾斜させることを特徴とするものである。
【0012】従って、この請求項2に記載の発明によれば、シート移動機構の作動に伴い、シートの腰掛け部の座面がボディサイド部側へ向かって高くなるように傾斜されて、乗員が室内中央側へ向かって傾くように姿勢変更される。よって、サイドエアバッグ機構のサイドエアバッグの展開膨張時に、乗員とボディサイド部との間に所定の空間を的確に形成することができる。
【0013】請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記シート移動機構は、腰掛け部の座面を傾斜させるように展開膨張するボトムエアバッグを有するボトムエアバッグ機構から構成したことを特徴とするものである。
【0014】従って、この請求項3に記載の発明によれば、シート移動機構の構成が簡単であるとともに、ボトムエアバッグの展開膨張により、腰掛け部の座面を迅速に傾斜させることができる。」

(イ) 「【0026】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)以下に、この発明の第1実施形態を、図1?図5に基づいて説明する。
【0027】図1及び図2には、車室内に配置された左側のフロントシート11が示され、このフロントシート11は腰掛け部11aと背もたれ部11bとを備えている。フロントシート11の腰掛け部11a内で、クッション11cの下部には、ボディサイド部の一部を構成するドア12側及び背もたれ部11b側に偏倚した位置に、すなわち、乗員Pの臀部に対応する位置にフロントシート移動機構13がケース14内に収容した状態で埋設配設されている。フロントシート11の背もたれ部11bにおけるドア12側の左側内部にはサイドエアバッグ機構15がケース16内に収容した状態で埋設配置されている。なお、図面においては、左側のフロントシート11のみを図示したが、右側のフロントシートの右側内部にも同様なサイドエアバッグ機構が埋設配置されている。
【0028】図1及び図2に示すように、前記フロントシート移動機構13はボトムエアバッグ機構から構成され、ケース14内に固定されたガス発生源としてのインフレータ19と、そのインフレータ19を被覆するように装着された織布等からなる袋状のボトムエアバッグ20とを備えている。インフレータ19の内部にはガス発生剤(図示しない)が内装され、インフレータ19の側部にはガス噴出口19aが形成されている。このボトムエアバッグ20は、通常はケース14内に折り畳み状態で収納されている。
【0029】図5に示すように、前記インフレータ19の着火部19bには、車両のボディサイド部に対する衝撃を検出するための横加速度センサ17が制御装置18を介して電気的に接続されている。そして、車両のボディサイド部に対する側突により、ボディサイド部に所定値以上の衝撃が加わったとき、横加速度センサ17から制御装置18を介してインフレータ19の着火部19bに駆動電流が出力される。この駆動電流により、インフレータ19の前記ガス発生剤が着火されてガスが発生される。そして、このガスがガス噴出口19aからボトムエアバッグ20内に噴出供給されて、そのボトムエアバッグ20が折り畳み状態から展開膨張される。このため、このボトムエアバッグ20により腰掛け部11aの座面が下方から突き上げられて、ボディサイド部側に向かって高くなるように傾斜される。この結果、図2に示すように、フロントシート11に着座している乗員Pが室内中央側へ傾くように姿勢変更されて、乗員Pとボディサイド部を構成するドア12との間に所定の空間S1が形成される。」

(ウ) 「【0036】次に、前記のように構成された車両のサイドエアバッグ装置の動作を説明する。さて、車両のボディサイド部に対する他の車両による側突により、ボディサイド部に所定値以上の衝撃が加わると、横加速度センサ17から制御装置18を介して、フロントシート移動機構13及びサイドエアバッグ機構15のインフレータ19,23に所定の時間をおいて駆動電流が順に出力される。このため、まずフロントシート移動機構13のインフレータ19からボトムエアバッグ20内にガスが噴出供給されて、そのボトムエアバッグ20が展開膨張される。この展開膨張により、図2に示すように、腰掛け部11aの座面の臀部位置がボディサイド部側に向かって高くなるように傾斜される。このため、フロントシート11に着座している乗員Pが室内中央側へ傾くように姿勢変更されて、乗員Pとドア12との間に所定の空間S1が形成される。」

(エ) 「【0039】従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この車両のサイドエアバッグ装置においては、フロントシート移動機構13とサイドエアバッグ機構15とが装備されている。フロントシート移動機構13は、車両のボディに側突により所値定以上の衝撃が加わったときに作動され、乗員Pの臀部と対応する座面を上方へ移動させて、乗員Pの姿勢を傾け、フロントシート11に着座する乗員Pとボディサイド部との間に空間S1を形成する。そして、サイドエアバッグ機構15は、フロントシート移動機構13の作動から所定時間後に動作され、乗員Pとボディサイド部との間の空間S1内においてサイドエアバッグ24を展開膨張させる。
【0040】このため、前述した従来技術とは異なり、フロントシート11に着座する乗員Pにフロントシート11の移動荷重が作用したり、硬質で板状のものが当たったりすることがない。よって、サイドエアバッグ24により乗員Pに作用する衝撃を効果的に吸収することができて、乗員Pを有効かつ確実に保護することができる。
【0041】(2) この車両のサイドエアバッグ装置においては、前記フロントシート移動機構13が、フロントシート11の腰掛け部11a内に乗員Pの臀部と対応して設けられたボトムエアバッグ機構から構成されている。そして、このボトムエアバッグ機構のボトムエアバッグ20の展開膨張により、腰掛け部11aの座面を室内中央側に向かって下降傾斜させるようになっている。このため、ボトムエアバッグ20の展開膨張により、乗員Pに大きな身体的負担を負わせることなく、車室内中央側へ向かって傾くように姿勢変更させることができる。よって、サイドエアバッグ機構15のサイドエアバッグ24の展開膨張に先立って、乗員Pとボディサイド部との間に所定の空間S1を有効に形成することができる。
【0042】(3) この車両のサイドエアバッグ装置においては、前記サイドエアバッグ機構15のサイドエアバッグ24が、乗員Pを肩部Psから腰部Phにかけて覆うように展開膨張される構成になっている。このため、サイドエアバッグ24の展開膨張時に、乗員Pを肩部Psから腰部Phにかけての広範囲に亘って覆うことができて、乗員Pの保護効果を高めることができる。
【0043】(4) この車両のサイドエアバッグ装置においては、前記サイドエアバッグ機構15のサイドエアバッグ24に、乗員Pの肩部Psに対応する上部区画室26と、腰部Phに対応する下部区画室27と、胸郭部Pcに対応する中間区画室28とが形成されている。そして、サイドエアバッグ24の展開膨張時に、上部区画室26及び下部区画室27の厚さが中間区画室28の内厚さよりも大きくなるように構成されている。このため、サイドエアバッグ24の展開膨張時に、胸郭部Pcを保護しつつ、外部衝撃に対する抗堪性の高い肩部Ps及び腰部Phを押して、乗員Pの姿勢を傾けることが可能になり、乗員Pの保護効果を一層高めることができる。」

ここで、主に上記記載事項及び図面から次のことが明らかである。
・第2図面、及び記載事項(イ)の【0027】、【0029】等の構成、記載事項(ア)の【0010】の構成から、先願明細書において、ドア12は、車両の側面のボディサイド部の一部を構成する構成部材であると認められる。また、第2図面の図示内容から、フロントシート11は、ドア12に対して隣接配置されているということができる。
したがって、先願明細書には、「車両側面のボディサイド部の一部を構成するドア12に隣接配置されたフロントシート11に着座している乗員Pを側突時に保護するサイドエアバッグ装置」が記載されていると言える。

・記載事項(イ)に記載の構成から、先願明細書には、「クッション11cを備えたフロントシート11」が記載されていると言える。

・記載事項(イ)に記載の構成から、先願明細書には、「側突時に、腰掛け部11aの座面を下方から突き上げて、ボディサイド部側に向かって高くなるよう傾斜させるボトムバッグ20を備えるボトムエアバッグ機構を有するフロントシート11であって、
ボトムエアバッグ機構は、膨張可能なボトムバッグ20と、ボトムバッグ20を膨張させるインフレータ19とを備えたフロントシート11」が記載されていると言える。

すると、先願明細書には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているということができる。
「車両側面のボディサイド部の一部を構成するドア12に隣接配置されたフロントシート11に着座している乗員Pを側突時に保護するサイドエアバッグ装置であって、
フロントシート11が、クッション11cを備えたサイドエアバッグ装置において、
側突時に、腰掛け部11aの座面を下方から突き上げて、ボディサイド部側に向かって高くなるよう傾斜させるボトムバッグ20を備えるボトムエアバッグ機構を有するフロントシート11であって、
ボトムエアバッグ機構は、膨張可能なボトムバッグ20と、ボトムバッグ20を膨張させるインフレータ19とを備えたフロントシート11からなるサイドエアバッグ装置。」

3. 本願補正発明と先願発明との対比
(1) 両発明の対応関係
・先願発明の「ドア12」は、本願補正発明の「ドア」に相当する構成であると認められる。以下、同様に、「車両」は「車体」に、「ボトムエアバッグ20」は「バッグ」に、「インフレータ19」は「ガス発生器」に、「ボトムエアバッグ機構」は「押上手段」に、それぞれ相当する構成であると認められる。

・また、車両用の座席において、クッション本体に、クッション本体の表面を覆うカバーを設けることは従来より周知である(必要であれば、実願平4-39027号(実開平5-91960号)のCD-ROM;クッションカバー16等参照、実願昭60-104004号(実開昭62-11449号)のマイクロフィルム;第1図面、表皮材14等参照、実願昭63-22426号(実開平1-133446号)のマイクロフィルム;第3図面等参照、実願昭56-122136号(実開昭58-26357号)のマイクロフィルム;第1、2、4図面等参照、実願昭62-12498号(実開昭63-120953号)のマイクロフィルム;第1?6図面等参照)。
上記周知技術を勘案すれば、先願発明における「腰掛け部11a」は、「クッション本体」及び「カバー」を含む構成であると認められる。
したがって、先願発明の「フロントシート11」は、本願補正発明の「クッション本体」と「クッション本体の表面を覆うカバー」とを有する「座席」に相当する構成である。

・先願発明の「サイドエアバッグ装置」は、「乗員P」を保護する装置といえるから「乗員保護装置」ということができ、本願補正発明の「乗員保護装置」に相当している。

・先願発明の「着座」は、本願補正発明の「座っている」状態に相当している。

・先願発明の「腰掛け部11aの座面を下方から突き上げて、ボディサイド部側に向かって高くなるよう傾斜させるボトムバッグ20を備えるボトムエアバッグ機構」とは、腰掛け部11aの座面を、ボディサイド部側に向かって高くなるよう傾斜させることにより、乗員が着座した状態でボディサイド側すなわちドア側の座面を押し上げる構成であると認められるから、本願補正発明の「乗員のドア側の臀部を押上げる押上手段」に相当する構成であると認められる。

(2) 両発明の一致点
「車体側面のドアに隣接配置された座席に座っている乗員を側突時に保護する装置であって、
該座席は、クッション本体と、該クッション本体の表面を覆うカバーとを有するエアバッグ装置において、
側突時に、該乗員のドア側の臀部を押上げる押上手段を有し、
該押上手段は、膨張可能なバッグと、該バッグを膨張させるガス発生器とを備える乗員保護装置。」

(3) 両発明の相違点
本願補正発明においては、乗員の押上手段を構成するバッグが、クッション本体と、クッション本体の表面を覆うカバーとの間に配置された配置構成であるが、先願発明において、バッグの配置構成は、そのような配置構成ではない点で、本願補正発明に対して相違している。

4. 上記相違点の検討
(1) 乗員の臀部を押上げる押上手段を有する車両の座席として、乗員の押上手段を構成するバッグが、クッション本体と、クッション本体の表面を覆うカバーとの間に配置された装置構成は、従来より周知である(必要であれば、実願平4-39027号(実開平5-91960号)のCD-ROM;エアバッグ17等参照、実願昭60-104004号(実開昭62-11449号)のマイクロフィルム;第1図面、エアサポートマット8等参照、実願昭63-22426号(実開平1-133446号)のマイクロフィルム;第3図面エアー袋体10等参照、実願昭56-122136号(実開昭58-26357号)のマイクロフィルム;第1、4図面等参照、実願昭62-12498号(実開昭63-120953号)のマイクロフィルム;第1?6図面等参照)。

すると、先願発明の乗員保護装置のフロントシート11において、腰掛け部11aの座面を、ボディサイド部側に向かって高くなるよう傾斜させる手段、すなわち、上記一致点として認定した、乗員のドア側の臀部を押上げる押上手段として、上記周知技術のように、乗員の押上手段を構成するバッグを、クッション本体と、クッション本体の表面を覆うカバーとの間に配置することにより構成したものを採用することは、先願発明の課題解決のための具体化手段における設計上の微差にすぎない。

(3) 総合判断
なお、本願補正発明の作用効果は、先願発明、並びに上記周知技術に対して新たな効果を奏するものとはいえず、作用効果の面からも本願補正発明と先願発明とが異なる発明と認識されるものでもない。
すると、本願補正発明は、先願発明と実質的に同一であるということができる。

5. むすび
以上のとおり、本願補正発明は、上記先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書又は図面に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

第3 本願発明について
1. 本願発明
平成18年2月9日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の各請求項に係る発明は、平成18年11月24日に手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものと認められ、そのうち請求項1は次のとおりである。
「車体側面のドアに隣接配置された座席に座っている乗員を側突時又は横転時に保護するための乗員保護装置において、
側突時又は横転時に該乗員のドア側の臀部を押上げる押上手段を有する乗員保護装置であって、
該押上手段は、膨張可能なバッグと、該バッグを膨張させるガス発生器とを備えており、
該バッグは、前記座席のクッション本体と、該クッション本体の表面を覆うカバーとの間に配置されていることを特徴とする乗員保護装置。」

2. 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された先願明細書とその記載事項は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

3. 対比・判断
本件出願の請求項1に係る発明の構成を全て含むとともに、当該発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明が、前記「第2 3.」および「第2 4.」以下に記載したとおり、先願明細書に開示された発明と同一であるから、本件出願の請求項1に係る発明も、同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一であるといえる。

4. むすび
以上、本件出願の請求項1に係る発明については、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、請求項2に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2008-10-22 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2002-163189(P2002-163189)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60R)
P 1 8・ 161- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 中川 真一
渡邉 洋
発明の名称 乗員保護装置  
代理人 重野 剛  

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