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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1190136
審判番号 不服2006-5157  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-20 
確定日 2008-12-10 
事件の表示 平成 9年特許願第520656号「フィラメント状及び微粒子状物質を体内に移植する装置、システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月 5日国際公開、WO97/19643、平成12年 9月26日国内公表、特表2000-512515号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年11月25日の出願(パリ条約による優先権主張1995年12月1日、米国)であって、平成17年12月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年3月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものであって、その請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、平成18年4月19日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「患者の体の指定位置にフィラメントを挿入する装置であって:
軸、内壁、指定位置に挿入するための末端方向端部、及び基部方向端部を有する外側カニューレと;
フィラメントの外径にほぼ一致する内径を有する内側カニューレであって、前記外側カニューレに対して同軸の関係で配設された内側カニューレと;
前進及び後退運動からなる軸方向往復運動で内側カニューレを駆動させるための作動機構と;
前記内側カニューレの前進運動の間にフィラメントを内側カニューレと共に移動させるために、フィラメントの、内側カニューレ内に収容された部分を内側カニューレに解放可能に連結する連結手段であって、フィラメントを内側カニューレと共に移動させることなく、内側カニューレが後方に戻ることを可能にするために、内側カニューレの後退運動の間はフィラメントを解放する連結手段と;
を具備する、フィラメントを挿入する装置。」

第2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第2625934号明細書、(以下、「引用例」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。
1.「This invention relates to surgical instruments ・・・with fine relatively soft wire upon which the blood coagulates.(この発明は、外科用機器に関連し、また、特に外科用ワイヤ送り込む装置に関連する。私の発明の主な目的の一つは、比較的細いワイヤを制限されたスペースに供給するための装置を提供することである。そのような装置は、血管のいくぶん制限的な拡張、動脈瘤の外科治療に特に適用がある。・・・これは、動脈瘤を細い比較的やわらかなワイヤを満たし、血液を凝固させることで成しとげる。)(翻訳は当審による仮訳。以下、同様。)」(第1欄1?15行目)
2.「Referring now to the drawings,・・・The tube 12 is adapted to reciprocate within the outer tube 11.(図面を参照すると、私の発明を具体的に表している装置は、全体として10で示されており、外側の延長ガイド、すなわちチューブ11と、内側の延長ガイド、すなわちチューブ12を含む。チューブ12はアウターチューブ11の中を往復運動する。)」(第1欄54行?第2欄3行)
3.「As shown in the drawings, ・・・and out the delivery end 13 of the outer tube 11.(図面に示されているように、比較的細いステンレスの外科用ワイヤ20は、供給用スプール(図示せず)からインナーチューブ12を通り、アウターチューブ11の放出端部13から出て延びる。)」(第2欄13?17行)
4.「The wire-delivery end 13 is inserted through the dilated blood vessel wall ・・・will have been fed out of the delivery end 13 of the outer tube.(ワイヤを送る端部13は、拡張した血管壁を通して嚢の内部に挿入され、フランジ14は前もってアウターチューブ11の嚢への深さの制限に調整される。カラー40は、図示されるようにぎざぎざであり、一方の手の指で握られ、ハンドルメンバ25は、他の手の指で握られ、親指は親指リング37を通して延びている。クラッチアセンブリ24は、図1のように、実線すなわち前方の位置から、仮想線すなわち後方の位置へと移動する。クラッチアセンブリのこの後方への移動の間、リング37には操作者の親指による圧力が働いていないので、ワイヤ20は残り、インナーチューブだけがクラッチアセンブリに沿って後方へ運ばれる。クラッチアセンブリが後方のポジションに到達したときには、親指より力がはたらき、クラッチメンバ32をハンドルに向け旋回し、フィンガー34と表面36との間でワイヤ20をクランプする。クラッチアセンブリは、それから前方へ移動し、ワイヤチューブ12をアウターチューブ11の中へはめ込ませ、ワイヤがクラッチアセンブリに沿って運ばれる。クラッチアセンブリが前方すなわち実線の場所に到達したとき、ワイヤの長さは、クラッチアセンブリがアウターチューブの放出端部13の外へ送られたストロークの長さと等しい。)」(第3段落4?32行目)

上記記載2、および4において、インナーチューブが往復運動し、クラッチアセンブリがインナーチューブを運ぶことが記載されているから、クラッチアセンブリはインナーチューブを前進及び後退運動からなる軸方向往復運動で駆動させているといえる。
また、図1、2には、アウターチューブ11に対して同軸の関係で配設されたインナーチューブ12、が図示されている。
また、図2において、フィンガー34はクラッチアセンブリ24と一体に移動する構成が示唆されており、上記記載4に「クラッチアセンブリが後方のポジションに到達したときには、親指より力がはたらき、クラッチメンバ32をハンドルに向け旋回し、フィンガー34と表面36との間でワイヤ20をクランプする。クラッチアセンブリは、それから前方へ移動し、ワイヤチューブ12をアウターチューブ11の中へはめ込ませ、ワイヤがクラッチアセンブリに沿って運ばれる。」と記載されていることから、フィンガー34は、インナーチューブ12の前進運動の間にワイヤ20をインナーチューブ12と共に移動させるために、インナーチューブ12に開放可能に連結する手段といえる。
そして、フィンガー34について、上記記載4に「クラッチアセンブリのこの後方への移動の間、リング37には操作者の親指による圧力が働いていないので、ワイヤ20は残り、インナーチューブ12だけがクラッチアセンブリに沿って後方へ運ばれる。」と記載されていることから、ワイヤ20をインナーチューブと共に移動させることなく、インナーチューブ12が後方へ戻ることを可能にするために、インナーチューブ12の後退運動の間、フィンガー34はワイヤ20を解放しているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
「制限されたスペースに外科用ワイヤ20を送り込む装置であって:
放出端部13を有するアウターチューブ11と;
アウターチューブ11に対して同軸の関係で配設されたインナーチューブ12と;
前進及び後退運動からなる軸方向往復運動でインナーチューブを駆動させるためのクラッチアセンブリ24と;
前記インナーチューブ12が前方へ移動する間にワイヤ20をインナーチューブ12と共に移動させるために、インナーチューブ12に開放可能に連結するフィンガー34であって、ワイヤ20をインナーチューブと共に移動させることなく、インナーチューブ12が後方へ戻ることを可能にするために、インナーチューブ12の後退運動の間はワイヤ20を解放するフィンガー34と;
を具備する、外科用ワイヤを送り込む装置。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「制限されたスペース」は、本願発明の「患者の体の指定位置」に相当し、以下同様に、「外科用ワイヤ20」は動脈瘤の外科治療に用いられる細い比較的やわらかなワイヤであることから、「フィラメント」に、「外科用ワイヤ20を送り込む装置」は「フィラメントを挿入する装置」に、「放出端部13」は嚢の内部に挿入される部分であることから、「指定位置に挿入するための末端方向端部」に、「放出端部13を有するアウターチューブ11」は「放出端部13」が「末端方向端部」に相当し、アウターチューブ11が管状の構成を備えたものであることから、「軸、内壁、指定位置に挿入するための末端方向端部、及び基部方向端部を有する外側カニューレ」に、「インナーチューブ12」は「内側カニューレ」に、「クラッチアセンブリ24」は「作動機構」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「フィンガー34」と、本願発明の「連結手段」とは、「連結する手段」という概念で共通している。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「患者の体の指定位置にフィラメントを挿入する装置であって:
軸、内壁、指定位置に挿入するための末端方向端部、及び基部方向端部を有する外側カニューレと;
内側カニューレであって、前記外側カニューレに対して同軸の関係で配設された内側カニューレと;
前進及び後退運動からなる軸方向往復運動で内側カニューレを駆動させるための作動機構と;
前記内側カニューレの前進運動の間にフィラメントを内側カニューレと共に移動させるために、フィラメントを解放可能に連結する連結手段であって、フィラメントを内側カニューレと共に移動させることなく、内側カニューレが後方に戻ることを可能にするために、内側カニューレの後退運動の間はフィラメントを解放する連結手段と;
を具備する、フィラメントを挿入する装置。」

そして、両者は次の相違点1、2で相違する(対応する引用発明記載の用語を( )内に示す)。
(相違点1)
内側カニューレに関して、本願発明はフィラメントの外径にほぼ一致する内径を有するのに対し、引用発明はその点が明確ではない点。

(相違点2)
「連結する手段」がフィラメントを解放可能に連結する場所に関して、本願発明は「フィラメントの、内側カニューレ内に収容された部分」を解放可能に連結するのに対し、引用発明はフィラメント(外科ワイヤ20)の、内側カニューレ(インナーチューブ12)内に収容された部分でない点。

第3 相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明において、フィラメント(外科用ワイヤ20)を運ぶ際の摺動性を考慮すると、また、比較的やわらかな材料であることから、内側カニューレ内において座屈を起こさないよう配慮することは当業者であれば通常おこなう設計事項であり、そのために、内側カニューレの内径を、フィラメントの外径にほぼ一致する構成とすることは当業者が容易に想到し得ることといえる。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用発明の「連結する手段」(フィンガー34)は、フィラメント(外科ワイヤ20)を送り込むためにフィラメントを解放可能にクランプする構成を備えている。
そして、フィラメントをクランプするにあたり、フィラメントのどの部分でクランプするかは、装置全体の形状を考慮したうえでの使いやすさ、構成上の強度等を考慮して当業者が適宜決定し得る事項にすぎない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明による効果も、引用発明から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-09 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-07-30 
出願番号 特願平9-520656
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 真徳石川 太郎  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 北村 英隆
新井 克夫
発明の名称 フィラメント状及び微粒子状物質を体内に移植する装置、システム及び方法  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 篠崎 正海  
代理人 鶴田 準一  

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