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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1190208
審判番号 不服2004-11115  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-27 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 平成10年特許願第222842号「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年2月25日出願公開、特開2000-56619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、平成10年8月6日の出願であって、平成16年4月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月28日付けで手続補正がなされ、平成18年12月25日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成19年2月26日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものであり、「画像形成装置」に関するものである。

2.当審における拒絶理由の概要
平成18年12月25日付けで当審から通知した拒絶の理由のうち、明細書の記載不備に関する拒絶理由の概要は、次のとおりである。

『1)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1)<転記省略>

(2)本願明細書の段落【0034】に、「画像が良好に形成されたときの感光体ベルト1を裁断したベルト片を用いて、オイラー法により像担持体の摩擦係数を調べたことが記載されているが、どのような現像条件(使用トナー、現像バイアス、現像ローラの構成、周速比、当接圧、像担持体の組成)で画像を形成し、何を評価項目として画像を評価したのか全く不明である。 仮に何らかの現像条件により画像が良好に形成されたときの像担持体の「摩擦係数」が0.1から0.4であったことが確認されたとしても、可撓性を有する無端状部材で構成された「摩擦係数」が0.1から0.4である像担持体を用い、請求項1に記載された当接圧の範囲で現像さえすれば、必然的に画像が良好に形成されるということを確認することができない。
像担持体の「摩擦係数」を0.1から0.4の範囲にするためには、種々の手段を採用することが想定されるが(表面の凹凸の具合、潤滑剤の使用の有無、トナーの外添剤、像担持体の表面の物性など)、どのような手段を用いて「摩擦係数」を0.1から0.4にしたとしても同様に画像が良好に形成される理由が不明である。

(3)<転記省略>

(4)本願明細書には、補正された本願請求項1に係る発明(以下単に「本願発明」という。)を具体化した実施態様(実施例)が明確に記載されていないので、どのような装置、材料を用い、どのように構成し、どのような条件設定をすれば本願発明が実施できるのか不明りょうである。
本願明細書における「[1]請求項1に対応する実施の形態」と題する記載(段落【0011】?【0044】)は本願発明の説明ではあるが、本願発明を具体化した具体的態様を開示していない。
本願発明が容易に実施できるためには、例えば、以下に示すような事項が実施例において明らかにされる必要がある。
(4-1)無端状部材で構成した像担持体について:感光体ベルトの構造、材料、長さ、懸架構造、ベルトの張力、感光体ベルト表面の摩擦係数値(但し、該摩擦係数は定義が明確なものであり、かつ第3者が確実に追試できるものでなければならない。)、現像ロールが当接した時の喰い込み量など。(4-2)現像剤担持体(現像ロール)について:構造、材料、現像ロールの径、表面の硬さ、無端状の像担持体と現像ロールの配置関係など。
(4-3)現像剤担持体に対する像担持体の当接圧P(g・f/mm)値。(4-4)「摩擦係数を低下させる物質」について:種類、感光体ベルトへの供給方法など。
(4-5)現像領域について:現像ニップ幅など。

(5)<転記省略>

(6)本願発明は、像担持体が可撓性を有する無端状部材で構成され、潜像の可視化は像担持体に現像剤担持体を当接させて行う画像形成装置(本願請求項1の記載参照)において、現像剤担持体に対する像担持体の「当接圧P」を2g・f/mm以下とし、かつ、像担持体の「TYPE 6200 A4 T目用紙(リコー製)」に対する「摩擦係数」を0.1以上、0.4以下とするものであるが、前記したような画像形成装置で「当接圧P」を2g・f/mm以下とし、「摩擦係数」を0.1以上、0.4以下とさえすれば(他の条件の影響を受けないで)発明効果が奏されるとは本願明細書の記載からは認められない。
なお、本願明細書、段落【0044】では、効果をもたらす「摩擦係数」と「当接圧P」の数値範囲に言及しているが、これだけの条件だけでよいとは記載していない。
したがって、本願発明によりどのような効果が奏されるのか不明りょうである。

(7)本願明細書には、像担持体が可撓性を有する無端状部材で構成され、潜像の可視化は像担持体に現像剤担持体を当接させて行う画像形成装置(本願請求項1の記載参照)において、像担持体の「当接圧P」を「2g・f/mm」を中心に変化させた場合の実験データが示されておらず、また、「摩擦係数」についても0.1以下とした場合、0.4以上とした場合の実験データが示されていないので、本願発明において、「当接圧P」と「摩擦係数」を限定することの技術的意味が不明である。

(8)<転記省略>

(9)本願の図面中、図3?11に示される実験データ又は装置図が、本願発明とどのように関係するのか、不明である。』

3.審判請求人による手続補正、及び、意見書における主張
上記拒絶理由に対し、審判請求人は、平成19年2月26日付けの手続補正により、特許請求の範囲の記載を以下のものとした。(下線は補正箇所を示す。)

「【請求項1】
予め均一に帯電させた像坦持体に、光書き込みにより静電潜像を形成し、1成分現像剤を坦持した現像剤坦持体を当接させて前記静電潜像の可視化を行い、この可視化された像の転写紙への転写工程および定着工程を経て画像を形成する画像形成装置において、
前記像坦持体は、可撓性を有する無端状部材を複数の支持部材に懸架したものからなり、
前記現像剤坦持体を該複数の支持部材の中間部に当接配置し、
さらに、前記現像剤坦持体に対する前記像坦持体の当接圧Pを0.8g・f/mm≦P≦2g・f/mmの範囲に設定するとともに、前記像坦持体と前記現像剤坦持体の現像ニップ幅を2mm以下に設定し、
かつ、前記像坦持体表面に潤滑剤を塗布することにより、オイラー法による摩擦係数μの範囲がTYPE 6200 A4 T目用紙(リコー製)に対して0.1≦μ≦0.4としたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置において、前記像坦持体に対する前記現像剤坦持体の喰い込み量δ〔mm〕及び現像剤坦持体の直径をd〔mm〕とするとd×δ<100の関係を満たすことを特徴とする画像形成装置。」

また、審判請求人は、上記拒絶理由に対し、意見書において、以下のように主張している。(下線は当審で付与。)
『(4-2)拒絶理由(1-2)について
『本願明細書の…記載されているが、どのような現像条件…全く不明である。』に対して本願発明の具体的な現像条件の一例が、使用トナーに関しては本願出願当初明細書の段落[0020]、現像ローラの構成に関しては本願出願当初明細書の段落[0021]?[0023]、当接圧に関しては本願出願当初明細書の段落[0039]にそれぞれ記載されております。その他の前提構成につきましても、本願出願当初明細書の段落[0038]?[0040]に記載されております。これらは、本願出願当時の一般的な条件でありますから、これを以って実施可能要件を満たさないとは言えないと思料致します。なお、現像バイアス、現像剤坦持体と像坦持体との周速比、像坦持体の組成につきましては、審判官殿のご指摘の通り、明細書中に記載はありません。本願発明の実施例におきましては、一般的なネガ・ポジ現像(像担持体、トナーがマイナス帯電である現像方式)であり、帯電電位は-500V、画像部電位は-100V、現像バイアス電位は-400Vを印加しております。さらに、像坦持体に対する現像剤坦持体の周速比は1.1倍、像担持体の組成は、導電性ベース層の上にCGL(電荷発生層)、CTL(電荷輸送層)を設けた有機感光体からなる感光体ベルトであり、その厚みは25μmのものを用いております。これらは本願出願当時の一般的な条件であり、これを以って実施可能要件を満たさないとは言えないと思料致します。
また、画像の評価項目につきましては、(1)地汚れ(2)低コントラスト画像不良(3)ベタ画像における先端白抜け、の3項目で評価しております。(1)の地汚れ評価につきましては、像担持体地肌部(非画像部)の現像剤を透明の粘着テープに転写し、そのテープを用紙に貼付けたものの反射濃度を測定し、用紙表面との差分ΔIDを取って評価しております。(2)低コントラスト画像不良評価につきましては、像担持体上に600dpi 2by2ドット画像を現像し、品質(濃度不足、画像欠け)を官能評価致します。(3)ベタ画像における先端白抜け評価につきましては、像担持体上にベタ画像を現像した時のベタ画像先端部の品質(濃度不足、画像欠け)を官能評価致します。これら3項目の評価は本願出願当時の一般的な評価方法であり、これを以って実施可能要件を満たさないとは言えないと思料致します。
『仮に何らかの現像条件により・・・確認されたとしても・・・当接圧の範囲で現像さえすれば、必然的に画像が良好に形成されるということを確認することができない。』に対しては、本願発明の作用効果は、地汚れ量の低減と、均一ベタ現像の両立ですが、そのメカニズムを解明した結果、今回発明の作用効果に限って言えば、像坦持体の摩擦係数と、当接圧と、現像ニップ幅の寄与度が最も大きいことを見出し、本願発明はその最適範囲を規定したものです。従って、摩擦係数と当接圧と現像ニップ幅以外の他の現像条件が、一般的な範囲であれば、明細書に記載した効果は発揮されるものであり、出願人は、明細書の記載からその作用効果を十分に確認できるものと思料致します。
『像担持体の「摩擦係数」を0.1から0.4の範囲にするためには・・・画像が良好に形成される理由が不明である。』に対しては、審判官殿のご指摘通り、像坦持体の摩擦係数を0.1から0.4の範囲にするために用いる手段によっては、本願発明の作用効果は発揮されない可能性は否定できません。出願人が実際に確認したのは、明細書記載の潤滑剤を像坦持体に塗布する方法だけであります。従いまして、今回補正において、本願出願当初明細書の段落[0036]の記載を根拠に『像坦持体表面に潤滑剤を塗布すること』を明確にする補正を行いました。この補正により、本事項は明確になったと思料致します。
・・・<中略>・・・
(4-4)拒絶理由(1.4-1)について
・『無端状部材で構成した像担持体について・・・喰い込み量など』に対しては、本願発明の実施例における感光体ベルトは、具体的には、導電性ベース層の上にCGL(電荷発生層)、CTL(電荷輸送層)を設けた有機感光体からなり、その厚みは25μmのものを用いております。この点につきましては、上記の拒絶理由(1-2)でも述べましたように、本願発明における感光体ベルトの構造、材料に関しましては、本願出願当時の一般的なものであります。次に、その長さ、懸架構造、ベルト張力、喰い込み量に関しましては、その一例として、本願出願当初明細書の段落[0037]? [0051]に具体的態様が明記されております。なお、像坦持体の摩擦係数値に関しましては、使用中にある程度の幅を持ってぶれてしまうものでありますから、特定の値は明記することが困難なため、0.1?0.4という範囲を維持するという記載にしております。その摩擦係数の定義も、本願出願当初明細書の段落[0034]?[0036]に明記されております。
(4-5)拒絶理由(1.4-2)について
『現像剤坦持体(現像ロール)について、・・・無端状の像担持体と現像ロールの配置関係など。』に対しては、本願発明の実施例における現像ロールは、例えばEPDMからなるゴム材料に導電性材料が分散されたものを芯金上に形成し、さらに表層に導電性コート材料を塗布したものからなります。現像ロール径16mmの場合には、芯金径8mm、ゴム層厚みを4mm、導電性コート層を5?20μm程度塗布しております。本願発明における現像剤坦持体の構造、材料に関しましては、本願出願当時の一般的なものであります。本願出願当初明細書におきましては、現像ローラの径は本願出願当初明細書の段落[0038]、表面硬さは同段落[0029]、配置関係は同段落[0037]?[0040]に、具体的態様が明記されております。
なお、旧請求項1において、像坦持体と現像剤坦持体との配置関係が、明細書に記載のない態様も含むものになっておりましたので、今回補正により、『前記像坦持体は、可撓性を有する無端状部材を複数の支持部材に懸架したものからなり、前記現像剤坦持体を該複数の支持部材の中間部に当接配置する』点を明確に致しました。
(4-6)拒絶理由(1.4-3)について
『現像剤坦持体に対する・・・当接圧P(g・f/mm)値。』に対しては、本願発明における当接圧値は、本願出願当初明細書の段落[0039]に記載されておりますように、1.0±0.2g・f/mmに設定されております。また、同段落[0041]、及び本願出願当初明細書に添付した図面の[図3]には、当接圧と喰い込み量に関する具体的な測定値がプロットされております。
(4-7)拒絶理由(1.4-4)について
『摩擦係数を低下させる物質について・・・感光体ベルトへの供給方法など。』に対しては、本願発明の実施例における潤滑剤は、具体的には、ステアリン酸亜鉛を主原料とする固形状のものからなり、その供給方法は、固形潤滑剤を回転可能なブラシローラに当接させ、ブラシローラを介して感光体ベルトへ供給しております。この像坦持体の摩擦係数を低下させる物質としての潤滑剤につきましては、本願出願当初明細書の[従来の技術]欄に記載された文献:特開平8‐254933号公報、本願出願当初明細書の段落[0032]に記載された文献:特開平4‐372981号公報を始めとする文献において、本願出願時周知であり、一般的なものであります。
(4-8)拒絶理由(1.4-5)について
『現像領域について:現像ニップ幅など』に対しては、本願発明における当接圧値は、その一例として本願出願当初明細書の段落[0040]に記載されておりますように、現像ニップ幅は0.32mmに設定されております。また、本願出願当初明細書の段落[0045]?[0046]にも、現像ニップ幅が2mmを越えない範囲で測定した、具体的なデータが記載されております。
・・・<中略>・・・
(4-10)拒絶理由(1-6)について
『本願発明は、・・・どのような効果が奏されるのか不明りょうである。』に対しては、上述致しましたように、本願発明の作用効果は、地汚れ量の低減と、均一ベタ現像の両立ですが、そのメカニズムを解明した結果、この作用効果に限って言えば、像坦持体の摩擦係数と、当接圧と、現像ニップ幅の寄与度が最も大きいことを見出し、本願発明はその最適範囲を規定したものです。従って、摩擦係数と当接圧と現像ニップ幅以外の他の現像条件が、一般的な範囲であれば、明細書に記載した効果は発揮されるものであり、出願人は、明細書の記載からその作用効果を十分に確認できるものと思料致します。
(4-11)拒絶理由(1-7)について
『本願明細書には、・・・像担持体の「当接圧P」を・・・変化させた場合の実験データが示されておらず、』に対しては、本願出願当初明細書の段落[0037]?[0040]、図3、図4は、当接圧を1.0±0.2g・f/mmに固定した状態で、摩擦係数μが0.1?0.4に振れたときの画像を評価した内容になります。また、本願出願当初明細書の段落[0041]?[0043]、図10、図11は、摩擦係数μが0.1≦μ≦0.4の範囲に維持された感光体ベルトを用い、当接圧を振ったときの画像を評価し、当接圧(線圧)の範囲を特定した内容になります。
『・・・また、「摩擦係数」についても・・・実験データが示されていないので、』に対しては、上記(4-4)項で述べましたように、本願出願当初明細書の段落[0031]において、像坦持体の摩擦係数は、0.1?0.4という範囲を維持するという記載があります。しかしながら、ご指摘の、0.1以下の場合、0.4以上の場合の実験データは明細書中に記載されておりません。これは、本願発明は、本願出願当時に主流であった像坦持体の摩擦係数値(0.4?0.6)に比べて、その値よりも低いものであれば、地汚れ余裕度が向上することを見出したのものでありますが、この従来の像坦持体に比べて摩擦係数が低い、という条件をこのまま請求の範囲に記載すれば、発明の外縁が不明確となると考えたため、具体的な数値範囲(0.1?0.4)で規定致しました。従って、上限値0.4は本願出願当時に主流であった像坦持体と区分するために規定し、下限値0.1は、本願発明に用いる潤滑剤供給により低減可能な値を規定したものであります。
『・・・本願発明において、「当接圧P」と「摩擦係数」を限定することの技術的意味が不明である。』に対しては、以上の理由から、「当接圧P」と「摩擦係数」を限定することの技術的意味が明確になったと思料致します。
・・・<中略>・・・
(4-13)拒絶理由(1-9)について
『本願の図面中、図3?11・・・が、本願発明とどのように関係するのか、不明である。』に対しては、図3、図4は、出願当初の請求項1に関する実験データ、実験装置で、これは、当接圧(線圧)を1.0±0.2g・f/mmに固定した状態で、摩擦係数μが0.1?0.4に振れたときの画像を評価した内容になります。本願明細書の段落[0037]?[0040]記載の実施形態に対応致します。
図10、図11は、出願当初の請求項2に関する実験装置で、これは、摩擦係数μが0.1≦μ≦0.4の範囲に維持された感光体ベルトを用い、当接圧(線圧)を振ったときの画像を評価し、当接圧(線圧)の範囲を特定した内容になります。本願明細書の段落[0041]?[0043]記載の実施形態に対応致します。
図5は、出願当初の請求項3に関する実験データで、これは、摩擦係数μが0.1?0.4の潜像担持体を用い、当接圧(線圧)を1.0±0.2g・f/mmに固定した状態で、現像ニップ幅を振ったときの画像を評価し、現像ニップ幅の範囲を特定した内容になります。本願明細書の段落[0045]?[0046]記載の実施形態に対応致します。
図6?図9は、出願当初の請求項4に関する実験データ、実験装置で、摩擦係数μが0.1?0.4の潜像担持体を用い、当接圧(線圧)を1.0±0.2g・f/mmに固定した状態で、現像ニップが2mm以下となるような、喰い込み量と現像剤担持体の直径とを特定した内容になります。本願明細書の段落[0047]?[0051]記載の実施形態に対応致します。』

4.当審の判断
平成19年2月26日付けの手続補正により、請求項1に係る発明が上記のものとされたこと等や、審判請求人の意見書における主張により、前記拒絶理由が解消したのであるかについて、以下に検討する。

(4-1)画像特性に関する実験に関して記載されている事項について
審判請求人は、上記意見書において、本願の請求項1ないし2に係る発明は、実験によって結果が確認されたものであると主張している。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落【0034】、【0035】に記載の摩擦係数測定方法により「摩擦係数」を測定した感光体べルトに実際に画像を形成して評価したものであるとされる実験結果に関して記載されている事項は、次のものだけである。(下線は当審で付与。)

「【0036】感光体ベルト1表面に潤滑剤等を塗布しない、未処理の場合の感光体ベルト1における上記方法によるμの測定値は、0.4?0.6であり、経時で増加する傾向にある。これに対して潤滑剤を塗布した感光体ベルト1の測定を行うとそのμ値は0.1?0.4の範囲であり、この摩擦係数の値のときの画像について、地汚れ量が低減されていて、かつ、均一なベタ現像特性も得られていた。」

上記段落【0036】には、潤滑剤を塗布した感光体ベルト1の「摩擦係数μ」の値が0.1?0.4の範囲であって、この摩擦係数の値のときの画像について「地汚れ量」が低減され、かつ、「均一なベタ画像特性」も得られたということが記載されているが、感光体ベルト1の材質など画像特性に影響を与える実験条件の詳細、「摩擦係数μ」の具体的数値、画像特性と現像剤担持体に対する像担持体(感光体ベルト1)の当接圧の範囲、及び、像担持体と現像剤担持体の現像ニップ幅の範囲と「地汚れ量」の相関関係等について何ら記載されていない。

なお、【図3】ないし【図11】、及び、それらの説明文は、感光体ベルトに対する現像ローラの当接圧、ニップ幅、食い込み量の関係などについて記載したものであって、【0036】に記載されている実験結果に直接関係する事項を記載したものではないから、【0036】に記載されている実験結果を理解するために利用することはできない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が追試の実験を行うことにより発明の効果を確認することができる程度に記載したものということはできない。

(4-2)先願明細書に記載されている実験内容について
上述したように、本願明細書の記載事項のみに基づいて、実際に行ったとされる実験の具体的内容を把握することは到底できない。
特に、上記意見書において下線を付した、「また、画像の評価項目につきましては、(1)地汚れ(2)低コントラスト画像不良(3)ベタ画像における先端白抜け、の3項目で評価しております。(1)の地汚れ評価につきましては、像担持体地肌部(非画像部)の現像剤を透明の粘着テープに転写し、そのテープを用紙に貼付けたものの反射濃度を測定し、用紙表面との差分ΔIDを取って評価しております。(2)低コントラスト画像不良評価につきましては、像担持体上に600dpi 2by2ドット画像を現像し、品質(濃度不足、画像欠け)を官能評価致します。(3)ベタ画像における先端白抜け評価につきましては、像担持体上にベタ画像を現像した時のベタ画像先端部の品質(濃度不足、画像欠け)を官能評価致します。」という主張における実験内容は、発明の詳細な説明に何ら記載されていない。
そこで、上記実験内容についての参考資料として、一人を除いて本願発明と発明者が一致する同一出願人に係る特願平10-149106号(特開平11-338311号公報参照)[以下、「先願」という。]における、本願明細書記載の実験と同様の実験が感光体ドラムに対して行われた際の実験結果を記載したものである【図3】を参照することとする。
上記先願明細書の【図3】は以下に示すものである。

上記先願の【図3】には、詳細が不明である特定の感光体ドラムについて、未処理のときの表面の「摩擦係数μ」が、0.57から0.59であったものが、ステアリン酸亜鉛を塗布した後は0.22から0.25に変化し、シリコンオイルを潤滑剤として用いた場合は0.2に変化し、それぞれ0.1から0.4の範囲内となるが、いずれの場合も当接圧に応じて画像特性(ΔID値、バンディング、先端白抜け、ベタムラ)が変化することが明示されており、また、シリコンオイルはステアリン酸亜鉛よりも潤滑剤としての性能が劣ることも明示されている。

(4-3)審判請求人の実験に関する主張について
審判請求人は、上記(4-1)で指摘したように、本願発明に係る感光体ベルトに対して、感光体ドラムに対して行われた上記実験と同様の実験を行ったものであり、請求項1ないし請求項2に係る発明はその実験結果に基づくものと主張している。
審判請求人が主張するように、実際にそのような実験が行われたのであれば、その実験の結果として、上記【図3】に示されたものと同様の評価項目を示す表が作成されたものと考えられる。
しかしながら、上述したように、本願明細書には、その実験の具体的内容や実験結果が何ら記載されていないので、実際に感光体ベルトに対して先願における感光体ドラムに対して行われたのと同様の実験が行われ、特定の評価基準に基づいて本願発明の効果が確かめられたという事実を確認することができないし、当業者がその実験を追試することにより本願発明の効果を確認することもできない。
仮に、先願と同様の実験が行われ、請求項1ないし請求項2に係る発明の効果が確認されたのであれば、特定の感光体ベルトが未処理のときの摩擦係数、処理時の摩擦係数、及び、画像特性に対する当接圧の影響についての先願の【図3】に示されている実験結果と同様の実験結果が得られるとともに、先願の【図3】には示されていないニップ幅の影響について行ったとされる同様の実験結果をも明細書に記載することにより、各請求項に係る発明における当接圧の範囲の規定やニップ幅の範囲の規定の根拠とすることができたものと考えられるが、前記のように、本願の発明の詳細な説明には、実際に行ったとされる実験の具体的内容について何ら記載されていない。
上記理由により、本願請求項1ないし請求項2に係る発明が、感光体ベルトに対して実際に行われた実験結果に基づくものであるという、審判請求人の主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから、本願の段落【0036】において実際に行ったと記載されている実験の具体的内容、及び、具体的実験結果が全く不明であって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし請求項2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(4-4)補正後の請求項1ないし請求項2に係る発明について
補正後の請求項1に係る発明は、現像剤担持体に対する像担持体の当接圧Pを「0.8g・f/mm≦P≦2g・f/mmの範囲に設定」し、像担持体と現像剤担持体の現像ニップ幅を2mm以下に設定し、「像担持体表面に潤滑剤を塗布する」ことにより、摩擦係数を、0.1≦μ≦0.4としたものである。
しかしながら、上記(4-1)で指摘したように、可撓性を有する無端状部材を複数の支持部材に懸架したものからなる潜像担持体(感光体ベルト)
を使用する画像形成装置において、現像剤担持体に対する像担持体の当接圧Pの範囲や現像ニップ幅の範囲を上記のように設定することにより、良好な画像特性が得られることは、実験によって確認されたものではなく、また、上記(4-2)に記載の事項を参照すると、潤滑剤の種類の如何によらず、像担持体表面に潤滑剤を塗布して「摩擦係数μ」を特定の範囲とすることにより画像特性を改善することができるものでもない。
例えば、感光体ベルトの張力を小さくし、感光体べルトに対する現像剤担持体の当接圧を最小値の0.8g・f/mmとし、ニップ幅を最大の2mmとしてニップ部の圧力(g・f/mm^(2))を最小とした場合であっても、感光体ベルトの張力を大きくし、現像剤担持体の当接圧を最大値の2g・f/mmとし、ニップ幅を小さくし、ニップ部の圧力を最大とした場合であっても、感光体ベルトの表面に何らかの潤滑剤を塗布することにより、「摩擦係数μ」が0.1≦μ≦0.4の範囲でありさえすれば、画像特性を同様に改善できるということは、実験によって確認された事項であると認めることができないばかりでなく、発明の詳細な説明には、そのことを裏付けることができる根拠も記載されていない。
したがって、補正後の請求項1ないし請求項2に係る発明における上記規定の技術的意義は不明であり、補正後の請求項1ないし請求項2に係る発明は明確でない。

(4-5)まとめ
上記(4-1)ないし(4-4)に記載した理由により、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし請求項2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないし、また、請求項1ないし請求項2に係る発明は明確でないので、先の拒絶理由通知で指摘した明細書の記載不備は依然として解消していない。

5.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項および同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-30 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願平10-222842
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03G)
P 1 8・ 536- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介金田 理香  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 伊藤 裕美
赤木 啓二
発明の名称 画像形成装置  
代理人 樺山 亨  
代理人 本多 章悟  

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