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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1190255
審判番号 不服2006-5637  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-28 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 特願2002- 21684「パチンコ機」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 5日出願公開、特開2003-220228〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成14年1月30日の出願であって、平成18年2月7日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年3月28日付けで本件審判請求がされるとともに、同年4月25日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年4月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項及び補正目的
本件補正は特許請求の範囲の補正を含んでおり、特許請求の範囲(本件補正後を通じて請求項数は1)の請求項1における「前記抽出図柄の全てを円形の囲み線で囲みながら前記表示装置に表示」との記載を「前記抽出図柄の全てを個々に円形の囲み線で囲んで前記表示装置に表示」と補正するものである。
「囲みながら」を「囲んで」と補正することについては、請求項削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明の何れにも該当しないが、補正を却下しなければならないほどの重大な補正事項と認めることはできないので、ここでは不問に付す。
「個々に」との文言を追加することは、明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)については、独立特許要件の判断を行う。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「表示装置に表示された複数の識別情報の図柄が変動し順次に停止して確定識別情報となった際に、前記確定識別情報が特定の組合せであれば、特別電動役物が作動して大当たり状態となるパチンコ機において、
一定の時間間隔で更新されるカウンタの更新値をパチンコ球が始動口に入賞した時点で判定値として取得し所定値と比較する判定値比較手段と、
前記判定値が所定値である場合には、前記確定識別情報を前記特定の組合せとする大当たり変動情報を作成し、前記判定値が前記所定値でない場合には、前記確定識別情報を、前記確定識別情報のうち最終停止識別情報のみが前記特定の組合せとは異なるリーチハズレの組合せにさせるリーチハズレ変動情報を作成し又は、前記確定識別情報を、前記特定の組合せ及び前記リーチハズレの組合せとは異なるものにさせる完全ハズレ変動情報を作成する変動情報作成手段と、
前記大当たり変動情報又は、前記リーチハズレ変動情報、前記完全ハズレ変動情報に基づいて、前記表示装置に表示された複数の識別情報の図柄を変動させ順次に停止させて前記確定識別情報とし、その際に、各識別情報の図柄の表示を予め定められた順番で周期的に変動させる表示装置制御手段と、を備え、
前記表示装置制御手段は、前記大当たり変動情報又は前記リーチハズレ変動情報に基づいて前記確定識別情報を前記表示装置に表示する場合に、前記最終停止識別情報の図柄の一部を抽出図柄として選定し、前記最終停止識別情報のみが変動しているリーチ状態になったときに、前記抽出図柄の全てを個々に円形の囲み線で囲んで前記表示装置に表示するとともに、前記最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら前記抽出図柄で前記順番を維持して周期的に変動させて表示し、その際に、前記抽出図柄として選定されなかった図柄を省いて前記抽出図柄のみで連続的に変動させるとともに、前記表示装置から前記抽出図柄を一つずつ消去させるとともに当該抽出図柄の囲み線を消去させること、を特徴とするパチンコ機。」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-76538号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?サの記載又は図示がある。
ア.「遊技盤面上に打ち出された球が特定入賞口へ入賞した際に所定の図柄合わせゲームを実行し、その結果が当たりのとき遊技者に有利な特別価値を付与する遊技機において、
予め定めた複数種類の図柄のうち任意のものを表示し得る可変表示領域を複数備えた可変表示手段と、所定の図柄が揃うことで当たりの出る図柄合わせゲームを前記可変表示手段上で実行する図柄合わせゲーム実行手段と、前記可変表示手段上に確定表示される図柄の候補として前記複数種類の図柄のうち任意数のものを選択表示する確定候補表示手段と、前記図柄合わせゲームで当たりが出たとき前記特別価値を発生させる特別価値発生手段とを備え、
前記確定候補表示手段は、前記可変表示手段上にあと1つ所定の図柄が揃うと当たりになるリーチ状態が形成されたとき、前記複数種類の図柄のうち任意数の図柄を当該リーチ状態で図柄の未確定な残り1つの可変表示領域に最終的に確定表示される図柄の候補として表示し、
前記図柄合わせゲーム実行手段は、前記リーチ状態を形成した際に前記確定候補表示手段の表示した図柄の候補の中の1つを当該リーチ状態で図柄の未確定な残り1つの可変表示領域に確定表示して今回の図柄合わせゲームの実行結果を確定させることを特徴とする遊技機。」(【請求項1】)
イ.「【従来の技術】従来、パチンコ機において、遊技盤面上に液晶モニター等の可変表示手段と特定入賞口(スタートチャッカー)と大入賞口(アタッカー)とを設け、スタートチャッカーに球が入賞したとき、可変表示手段上の図柄を一旦変動させた後停止させ、その際の図柄が特定の組み合せであった場合に当たりとなり、通常状態では閉じているアタッカーを一時的に開口させ、遊技者の有利な状態(特賞)を形成するものがある。」(段落【0002】)
ウ.「図柄変動欄21上で実行される図柄合わせゲームは、数字の「0」から「9」までとスペード、ハート、クローバー、ダイヤを合わせた14種類の図柄を用いて行うようになっている。上段に配置された6つの図柄種別表示欄23には、図中左から「0」から「6」の数字が1つずつ順に割り当てられている。また下段に配置された6つの図柄種別表示欄23には左から数字の「7」、「8」、「9」、スペード、ハート、クローバー、ダイヤの図柄が割り当てられている。」(段落【0023】)
エ.「確定候補表示手段60は、リーチ状態において未確定のまま残っている1つの図柄変動欄21上に最終的に確定表示される図柄の候補を選択し、図柄種別表示欄23上に表示する機能を有している。確定候補表示手段60は、候補となる図柄については、その図柄の描かれたカードの表面を表示し、候補から外れた図柄については図柄の描かれていないカードの裏面側を表示するようになっている。」(段落【0031】)
オ.「図柄合わせゲーム実行手段50は、確率設定部70から受けた確率指示信号44に従った当選確率で抽選を行い、今回実行中の図柄合わせゲームの最終的な実行結果を決定し、これを可変表示手段20の図柄変動欄21上に確定表示するようになっている。」(段落【0032】)
カ.「図柄合わせゲームの最終的な実行結果が当たりか否かを示す実行結果表示信号45は、図柄合わせゲーム実行手段50から出力され、特別価値発生手段30に入力されている。特別価値発生手段30は、通常状態では閉じているが、遊技者に有利な特別価値を付与するときに開かれる大口の入賞口としてアタッカー31を有しており、該アタッカー31は、ソレノイド32により開閉駆動される。」(段落【0033】)
キ.「図5cに示すように、3つの図柄変動欄21a?21cのうちの2つ(21a、21b)の図柄が確定した状態で、それら確定した2つの図柄が揃い、リーチ状態になった場合には(ステップS103;Y)、図5dに示すように図柄種別表示欄23の図柄を一斉に回転させてその変動を開始させる(ステップS104)。なお、リーチが出なかった場合には(ステップS103;N)、図柄合わせゲーム実行手段50は、その後、残る1つの図柄を適宜の図柄で停止させ、外れの状態を確定表示し(ステップS105)、今回の図柄合わせゲームを終了する(エンド)。」(段落【0039】)
ク.「リーチ状態発生後、図5dから図5iに示すように、図柄種別表示欄23の図柄を回転させる等して一旦間をおいた後、未確定状態の図柄変動欄21cに最終的に表示される図柄の候補となるものを表面に返して任意数の候補を確定させる(ステップS106)。」(段落【0040】)
ケ.「図5に示した例では、7つの図柄をほぼ一斉に候補の図柄として確定させたが、候補の数が次第に減少するように演出する表示を行っても良い。たとえば、14種類すべての図柄を一旦、候補として表面側を表示した後、図柄を順次裏返して、次第に候補として残る図柄の数を減少させるようにすることができる。このほか、図5に示したように一旦、所定数の候補を仮に確定させ、その後、候補となっている図柄を回転させ、1枚ずつ順に、表面と裏面のいずれかに最終確定させることで候補の数を減少させてもよい。」(段落【0042】)
コ.「以上説明した実施の形態では、トランプカードに見立てたものの表面を表示するか裏面を表示するかによって候補の図柄を選択表示したが、他の方法により候補の図柄を選択表示するようにしても良い。」(段落【0049】)
サ.【図5】(i)には、最終的に確定表示される図柄の候補として、0,2,3,6,7,ハート及びクローバーが図柄種別表示欄23上に表示し、その状態で、図柄変動欄21a?cには、図柄を四角形の囲み線内に表示し、図柄変動欄21cには、「7」の上半分と「ハート」の下半分が表示される様子が図示されている。

4.引用例1記載の発明の認定
記載アの「遊技機」として想定されているのは、記載イにあるとおり「パチンコ機」である。
記載アの「前記リーチ状態を形成した際に前記確定候補表示手段の表示した図柄の候補の中の1つを当該リーチ状態で図柄の未確定な残り1つの可変表示領域に確定表示して今回の図柄合わせゲームの実行結果を確定させる」に際し、記載ケに従い、所定数の候補を仮に確定させ、その後、候補の数を1つずつ減少させてもよい。
【図5】等における四角形の囲み線内部が記載アの「可変表示領域」に該当する。
【図5】(i)からは、図柄順としては「7」と「ハート」間に位置する確定候補以外の図柄、すなわち、「8」,「9」及び「スペード」が図柄変動欄(記載アの「可変表示領域」に等しいと認める。)21cに表示されないことが読み取れ、このことから、リーチ状態発生後、未確定状態の図柄変動欄21cには確定候補図柄のみを、図柄順に変動表示することが読み取れる。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「遊技盤面上に打ち出された球が特定入賞口へ入賞した際に所定の図柄合わせゲームを実行し、その結果が当たりのとき、ソレノイドにより開閉駆動されるアタッカーを開放することにより遊技者に有利な特別価値を付与するパチンコ機において、
予め定めた複数種類の図柄のうち任意のものを表示し得る可変表示領域を複数備えた可変表示手段と、所定の図柄が揃うことで当たりの出る図柄合わせゲームを前記可変表示手段上で実行する図柄合わせゲーム実行手段と、前記可変表示手段上に確定表示される図柄の候補として前記複数種類の図柄のうち任意数のものを選択表示する確定候補表示手段と、前記図柄合わせゲームで当たりが出たとき前記特別価値を発生させる特別価値発生手段とを備え、
前記可変表示領域は四角形の囲み線内部となるように構成され、
前記図柄合わせゲームの最終的な実行結果は抽選により決定するものであり、
前記確定候補表示手段は、前記可変表示手段上にあと1つ所定の図柄が揃うと当たりになるリーチ状態が形成されたとき、前記複数種類の図柄のうち任意数の図柄を当該リーチ状態で図柄の未確定な残り1つの可変表示領域に最終的に確定表示される図柄の候補として表示し、その後最終的に確定表示される図柄の候補を1つずつ減少し、
前記図柄合わせゲーム実行手段は、前記リーチ状態を形成した際に前記確定候補表示手段に表示した図柄の候補のみを、未確定な残り1つの可変表示領域に図柄の順に表示し、確定候補表示手段に表示した図柄の候補の中の1つを同領域に確定表示して今回の図柄合わせゲームの実行結果を確定させるパチンコ機。」(以下「引用発明1」という。)

5.補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
引用発明1の「可変表示手段」、「複数種類の図柄」及び「ソレノイドにより開閉駆動されるアタッカー」は、補正発明の「複数の識別情報の図柄」、「表示装置」及び「特別電動役物」にそれぞれ相当し、引用発明1の「可変表示手段上に確定表示」された図柄(可変表示終了時の図柄)は補正発明の「確定識別情報」と異ならず、「所定の図柄が揃うこと」(引用発明1)と「確定識別情報が特定の組合せ」(補正発明)には表現上の相違しかないから、「表示装置に表示された複数の識別情報の図柄が変動し順次に停止して確定識別情報となった際に、前記確定識別情報が特定の組合せであれば、特別電動役物が作動して大当たり状態となるパチンコ機」であることは補正発明と引用発明1の一致点である。
引用発明1では「図柄合わせゲームの最終的な実行結果は抽選により決定」している。他方、補正発明は「一定の時間間隔で更新されるカウンタの更新値をパチンコ球が始動口に入賞した時点で判定値として取得し所定値と比較する判定値比較手段」及び「前記判定値が所定値である場合には、前記確定識別情報を前記特定の組合せとする大当たり変動情報を作成し、前記判定値が前記所定値でない場合には、前記確定識別情報を、前記確定識別情報のうち最終停止識別情報のみが前記特定の組合せとは異なるリーチハズレの組合せにさせるリーチハズレ変動情報を作成し又は、前記確定識別情報を、前記特定の組合せ及び前記リーチハズレの組合せとは異なるものにさせる完全ハズレ変動情報を作成する変動情報作成手段」を備えるのであるが、抽選により「確定識別情報を前記特定の組合せとする大当たり変動情報を作成」するかどうかを決定する手段(以下「大当り決定手段」ということにする。)を備える点では一致している。また、「前記大当たり変動情報又は、前記リーチハズレ変動情報、前記完全ハズレ変動情報に基づ」くかどうかは別として、「大当り決定手段の決定結果に基づいて、表示装置に表示された複数の識別情報の図柄を変動させ順次に停止させて確定識別情報とし、その際に、各識別情報の図柄の表示を予め定められた順番で周期的に変動させる表示装置制御手段」を備えることも、当然補正発明と引用発明1の一致点である。
引用発明1の「前記複数種類の図柄のうち任意数の図柄を当該リーチ状態で図柄の未確定な残り1つの可変表示領域に最終的に確定表示される図柄の候補として表示」と補正発明の「前記最終停止識別情報のみが変動しているリーチ状態になったときに、前記抽出図柄の全てを個々に円形の囲み線で囲んで前記表示装置に表示」を対比すると、「個々に円形の囲み線で囲」む点は相違点であるが、その余の点では一致している。また、引用発明1の「確定候補表示手段に表示した図柄の候補のみを、未確定な残り1つの可変表示領域に図柄の順に表示」と補正発明の「前記最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら前記抽出図柄で前記順番を維持して周期的に変動させて表示し、その際に、前記抽出図柄として選定されなかった図柄を省いて前記抽出図柄のみで連続的に変動」を対比すると、「前記最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線内部に、前記抽出図柄で前記順番を維持して周期的に変動させて表示し、その際に、前記抽出図柄として選定されなかった図柄を省いて前記抽出図柄のみで連続的に変動」の点で一致している。さらに、補正発明の「前記表示装置から前記抽出図柄を一つずつ消去させるとともに当該抽出図柄の囲み線を消去」は、引用発明1の「最終的に確定表示される図柄の候補を1つずつ減少」を具体化したものであるから、「抽出図柄を一つずつ減少」の限度で両発明は一致している。
したがって、補正発明と引用発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「表示装置に表示された複数の識別情報の図柄が変動し順次に停止して確定識別情報となった際に、前記確定識別情報が特定の組合せであれば、特別電動役物が作動して大当たり状態となるパチンコ機において、
抽選により前記確定識別情報を前記特定の組合せとする大当たり変動情報を作成するかどうかを決定する大当り決定手段と、
前記大当り決定手段の決定結果に基づいて、前記表示装置に表示された複数の識別情報の図柄を変動させ順次に停止させて前記確定識別情報とし、その際に、各識別情報の図柄の表示を予め定められた順番で周期的に変動させる表示装置制御手段と、を備え、
前記表示装置制御手段は、前記最終停止識別情報の図柄の一部を抽出図柄として選定し、前記最終停止識別情報のみが変動しているリーチ状態になったときに、前記抽出図柄の全てを前記表示装置に表示するとともに、前記最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線内部に、前記抽出図柄で前記順番を維持して周期的に変動させて表示し、その際に、前記抽出図柄として選定されなかった図柄を省いて前記抽出図柄のみで連続的に変動させるとともに、前記抽出図柄を一つずつ減少させるパチンコ機。」
〈相違点1〉「大当り決定手段」に関して、補正発明が「一定の時間間隔で更新されるカウンタの更新値をパチンコ球が始動口に入賞した時点で判定値として取得し所定値と比較する判定値比較手段」及び「前記判定値が所定値である場合には、前記確定識別情報を前記特定の組合せとする大当たり変動情報を作成し、前記判定値が前記所定値でない場合には、前記確定識別情報を、前記確定識別情報のうち最終停止識別情報のみが前記特定の組合せとは異なるリーチハズレの組合せにさせるリーチハズレ変動情報を作成し又は、前記確定識別情報を、前記特定の組合せ及び前記リーチハズレの組合せとは異なるものにさせる完全ハズレ変動情報を作成する変動情報作成手段」を備えるとしているのに対し、引用発明1にはかかる限定がなく、大当たり変動情報を作成することは一致点であるものの、大当たり変動情報を作成しない場合に、「リーチハズレ変動情報」又は「完全ハズレ変動情報」のどちらかを作成するかどうかも不明である点。
〈相違点2〉「表示装置制御手段」に関して、補正発明が「前記大当たり変動情報又は、前記リーチハズレ変動情報、前記完全ハズレ変動情報に基づいて、」と限定するのに対し、引用発明1では、大当たり変動情報かどうかには基づくものの、大当たり変動情報でない場合に「前記リーチハズレ変動情報、前記完全ハズレ変動情報に基づ」くかどうか明らかでない点。
〈相違点3〉「最終停止識別情報の図柄の一部を抽出図柄として選定」するに当たり、補正発明が「前記大当たり変動情報又は前記リーチハズレ変動情報に基づいて前記確定識別情報を前記表示装置に表示する場合に、」行う旨限定するのに対し、引用発明1がかかる限定を有するとまではいえない点。
〈相違点4〉最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線内部に表示する点につき、補正発明が「最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら」と限定するのに対し、引用発明1が同限定を有するかどうか明らかでない点。
〈相違点5〉抽出図柄の全てを表示装置に表示するに当たり、補正発明が「個々に円形の囲み線で囲んで」と限定するのに対し、引用発明1は同限定を有さない点。
〈相違点6〉抽出図柄の減少につき、補正発明が「前記表示装置から前記抽出図柄を一つずつ消去させるとともに当該抽出図柄の囲み線を消去」と限定するのに対し、引用発明1では囲み線を含めて消去するとはいえない点。

6.相違点の判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1?3について
「表示装置に表示された複数の識別情報の図柄が変動し順次に停止して確定識別情報となった際に、前記確定識別情報が特定の組合せであれば、特別電動役物が作動して大当たり状態となるパチンコ機」の技術分野においては、「一定の時間間隔で更新されるカウンタの更新値をパチンコ球が始動口に入賞した時点で判定値として取得し所定値と比較」することにより大当りかどうかの判定を行うこと、及び大当りでないと判定された場合に、「確定識別情報のうち最終停止識別情報のみが前記特定の組合せとは異なるリーチハズレの組合せにさせる」のか「前記特定の組合せ及び前記リーチハズレの組合せとは異なるものにさせる」のかを事前決定することが周知である。そのことは、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-84182号公報(以下「引用例2」という。)に、「C_HITは、可変表示装置4における特別図柄の可変表示の結果、大当たりを発生させるか否かを決定するための大当たり決定用のランダムカウンタである。C_HITは、0?255のカウント範囲において、カウンタ値が所定タイミングごとに1ずつカウントアップ(加算)される。C_HITは、その上限までカウントアップされると、再度0からカウントをし直すように構成されている。」(段落【0064】)、「C_HITの抽出値が予め定められた大当り判定値と一致した場合には、大当りを発生させることが事前に決定される。」(段落【0065】)、「ハズレの事前決定がなされている場合は、SC2に進む。」(段落【0108】)及び「SC2では、リーチ表示状態を発生させることが事前に決定されているか否かの判断がなされる。」(段落【0109】)との各記載があることによって裏付けられる。
補正発明の「リーチハズレ変動情報」及び「完全ハズレ変動情報」とは、上記周知技術において事前決定される情報にすぎないから、上記周知技術では補正発明でいうところの「変動情報作成手段」が必要である。
そうである以上、引用発明1に上記周知技術を適用して、相違点1に係る補正発明の構成に至ることには何の困難性もない。
相違点1に係る補正発明の構成を採用するのであれば、「大当たり変動情報」、「リーチハズレ変動情報」又は「完全ハズレ変動情報」の1つが作成されており、リーチ状態になるのは前2者の場合だけであるから、相違点2及び相違点3に係る補正発明の構成を採用することは必然的結果である。
以上のとおりであるから、相違点1?3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(2)相違点4について
「最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら」につき、個々の図柄を囲む四角形が存在するとの趣旨なのか、それとも最終停止識別情報の図柄が四角形の囲み線内部にあるとの趣旨なのか、請求項1の記載からは明らかでない。後者の趣旨であるとすると、相違点4は存在しない。
相違点4に係る補正発明の構成は、平成17年12月28日付け手続補正により追加された構成であるが、同日付け意見書において請求人は、「追加事項の中の「…四角形の囲み線で囲みながら…」については、出願当初の明細書の請求項2に明示的に記載された事項ではありませんが、出願当初の図2などの記載を考慮すれば、出願当初の明細書の記載から自明な事項であります。」(3頁26?28行)と主張している。出願当初の【図2】には、最終停止識別情報の図柄が、符番7で示される四角形の囲み線内に変動表示されることが図示されているが、囲み線内に図示されているのは下向き矢印であるから、変動表示中において常に図柄を囲む四角形が存在するかどうかは分からない。
そうすると、「最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら」が、個々の図柄を囲む四角形が存在するとの趣旨であるとすれば、新規事項追加の補正がされていることになり、新規事項追加補正がないとの前提のもとでは、相違点4は存在しない。
そればかりか、引用発明1の実施例では、最終停止識別情報の図柄を可変表示領域(四角形の囲み線内部)にスクロール表示しているため、個々の図柄を囲む四角形は常には存在しないが、スクロール表示に代えて、瞬時に次の図柄に切り替えても構わないことは明らかであり、そのようにすれば、個々の図柄を囲む四角形が常に存在することになるから、「最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら」が、個々の図柄を囲む四角形が存在するとの趣旨であるとしても設計事項程度の軽微な相違点にすぎない。
以上のとおりであるから、相違点4は実質的相違点でないか、又は設計事項程度の軽微な相違点にすぎない。

(3)相違点5について
引用例2には、「中可変表示部で可変表示が継続されている最中に、左可変表示部および右可変表示部に数字図柄「7」が停止表示されてリーチ表示状態となれば、可変表示途中の中可変表示部に停止表示される特別図柄の候補としていくつかの特別図柄が予め画像表示部5に表示されて、可変表示装置4の表示結果が予告される場合がある。以下、予告のために画像表示部5に表示される特別図柄を予告図柄という。」(段落【0028】)との記載があり、ここでいう「予告図柄」は補正発明の「抽出図柄」に相当する。 引用例2の【図23】には、いくつかの予告図柄が画像表示部に表示される様子が図示されているところ、どの予告図柄をみても、個々の図柄に装飾が施されていることが看て取れる。
引用発明1の実施例は「トランプカードに見立てたものの表面を表示するか裏面を表示」(記載コ)であり、「トランプカードに見立て」るということも、個々の図柄の装飾の一種である。
そして、個々の図柄を装飾するために「円形の囲み線で囲」むことは、極めてありふれた周知技術であり、実際例えば特開2001-314593号公報の【図2】?【図4】及び特開2000-140282号公報の【図16】に図示されているとおりである。
そうであれば、引用発明1において、「抽出図柄の全てを個々に円形の囲み線で囲んで前記表示装置に表示する」ことは、単に図柄装飾の手法として、上記のとおりの極めてありふれた周知技術を採用した程度であり、当業者にとって想到容易といわなければならない。

(4)相違点6について
引用例2には「予告図柄1を消滅させることによって予告を取消す表示がなされ」(段落【0086】)との記載があり、【図23】(b)?(d)には「予告図柄」の1つである「A」が、その装飾部とともに画像表示部から追い出される様子が図示されている。
引用発明1の実施例は、先に述べたように「トランプカードに見立てたものの表面を表示するか裏面を表示」(記載コ)であり、同実施例では、裏面を表示しても、装飾部を消去することはできないが、引用例1には「他の方法により候補の図柄を選択表示するようにしても良い。」(記載コ)と記載されているのだから、抽出図柄の表示、その図柄数の減少に当たっては、実施例に拘泥する必要はさらさらなく、引用例2記載の技術を採用して、抽出図柄とその装飾部を一つずつ消去することには何の困難性もない。
そして、相違点5の容易性は上記のとおりであるが、図柄の装飾として「個々に円形の囲み線で囲」むことを採用した場合には、「円形の囲み線」が図柄装飾部に該当するから、抽出図柄消去の際に、「当該抽出図柄の囲み線を消去」することは必然的結果にすぎない。
したがって、相違点6に係る補正発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易である。

(5)補正発明の独立特許要件の判断
以上述べたとおり、相違点1?6は、実質的相違点でないか、設計事項程度であるか又は当業者にとって想到容易な相違点であり、これら相違点に係る補正発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおりであるから、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年12月28日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「表示装置に表示された複数の識別情報の図柄が変動し順次に停止して確定識別情報となった際に、前記確定識別情報が特定の組合せであれば、特別電動役物が作動して大当たり状態となるパチンコ機において、
一定の時間間隔で更新されるカウンタの更新値をパチンコ球が始動口に入賞した時点で判定値として取得し所定値と比較する判定値比較手段と、
前記判定値が所定値である場合には、前記確定識別情報を前記特定の組合せとする大当たり変動情報を作成し、前記判定値が前記所定値でない場合には、前記確定識別情報を、前記確定識別情報のうち最終停止識別情報のみが前記特定の組合せとは異なるリーチハズレの組合せにさせるリーチハズレ変動情報を作成し又は、前記確定識別情報を、前記特定の組合せ及び前記リーチハズレの組合せとは異なるものにさせる完全ハズレ変動情報を作成する変動情報作成手段と、
前記大当たり変動情報又は、前記リーチハズレ変動情報、前記完全ハズレ変動情報に基づいて、前記表示装置に表示された複数の識別情報の図柄を変動させ順次に停止させて前記確定識別情報とし、その際に、各識別情報の図柄の表示を予め定められた順番で周期的に変動させる表示装置制御手段と、を備え、
前記表示装置制御手段は、前記大当たり変動情報又は前記リーチハズレ変動情報に基づいて前記確定識別情報を前記表示装置に表示する場合に、前記最終停止識別情報の図柄の一部を抽出図柄として選定し、前記最終停止識別情報のみが変動しているリーチ状態になったときに、前記抽出図柄の全てを円形の囲み線で囲みながら前記表示装置に表示するとともに、前記最終停止識別情報の図柄を四角形の囲み線で囲みながら前記抽出図柄で前記順番を維持して周期的に変動させて表示し、その際に、前記抽出図柄として選定されなかった図柄を省いて前記抽出図柄のみで連続的に変動させるとともに、前記表示装置から前記抽出図柄を一つずつ消去させるとともに当該抽出図柄の囲み線を消去させること、を特徴とするパチンコ機。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と補正発明を比較すると、「前記抽出図柄の全てを円形の囲み線で囲みながら前記表示装置に表示」(本願発明)と「前記抽出図柄の全てを個々に円形の囲み線で囲んで前記表示装置に表示」(補正発明)以外には、文言上異なる点はない。「前記抽出図柄の全てを個々に円形の囲み線で囲んで前記表示装置に表示」との構成は、「前記抽出図柄の全てを円形の囲み線で囲みながら前記表示装置に表示」との構成を限定したものであるから、補正発明に進歩性がなければ本願発明にも進歩性がないことになる。
そして、補正発明が引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは、「第2[理由]」で述べたとおりであるから、同様の理由により、本願発明も引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといわざるを得ない。
したがって、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができないから、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-30 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願2002-21684(P2002-21684)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 保  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 小原 博生
深田 高義
発明の名称 パチンコ機  
代理人 特許業務法人コスモス特許事務所  
代理人 田中 裕人  
代理人 山中 郁生  

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