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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1190258
審判番号 不服2006-6462  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-06 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 特願2000- 46170「階調記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月28日出願公開、特開2001-232844〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年2月23日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年9月16日付けで手続補正がされたが、平成18年2月28日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年4月6日付けで審判請求がされるとともに、同年4月28日付けで明細書についての手続補正がされたものである。

第2 平成18年4月28日付けの手続補正について
1.本件補正の内容
平成18年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)における特許請求の範囲についての補正は、補正前(平成17年9月16日付け手続補正書参照)に
「【請求項1】 1画素を複数のブロックに分けて各ブロックへのサーマルヘッドの通電を制御することで階調記録を行なう階調記録方法であって、前記複数のブロックは、1画素の整数倍の解像度を持つサーマルヘッドへの倍密通電数と分割通電数との組み合わせにより決定され、1画素毎の階調データに応じて、前記各ブロックを所定の順序で成長させて当該ブロックを構成するドットへの通電・非通電を決定することを特徴とする階調記録方法。」
とあったものを、
「【請求項1】 1画素を複数のブロックに分割し、各ブロックへのサーマルヘッドの通電を制御することで階調表現を行なう階調記録方法であって、1画素のn倍(nは整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い、1画素を構成するブロックを主走査方向にn個、副走査方向に倍密通電と分割通電を組み合わせた通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう中で、1画素毎の階調データに応じて、前記各ブロックを所定の順序で成長させて当該ブロックを構成するドットへの通電、非通電を決定することを特徴とする階調記録方法。」
と補正するものである。

つまり、本件補正は、特許請求の範囲の補正として以下の補正事項を含む。
(補正事項)
補正前の
「1画素を複数のブロックに分けて」、「階調記録を行なう階調記録方法」及び「前記複数のブロックは、1画素の整数倍の解像度を持つサーマルヘッドへの倍密通電数と分割通電数との組み合わせにより決定され」を、
補正後には
「1画素を複数のブロックに分割し、」、「階調表現を行なう階調記録方法」、及び「1画素のn倍(nは整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い、1画素を構成するブロックを主走査方向にn個、副走査方向に倍密通電と分割通電を組み合わせた通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう中で」
とする補正。

2.本件補正の目的
補正前の「1画素を複数のブロックに分けて」及び「1画素の整数倍の解像度を持つサーマルヘッド」は、補正後の「1画素を複数のブロックに分割し」及び「1画素のn倍(nは整数)の解像度を持つサーマルヘッド」とそれぞれ技術的には同じことを意味する。
補正前に「階調記録を行なう階調記録方法」とあることは、ドットへの通電による記録工程が終了した後の結果に着目しているのであり、補正後に「階調表現を行なう階調記録方法」とあることは、ドットへの通電に使うパターンに着目しているのであって、実際は、補正前後で、ドットへの通電による記録工程にもドットへの通電に使うパターンにも違いはない。
以上のことを考慮すれば、上記(補正事項)は、1画素を分割した複数のブロックの構成の仕方を、補正前には「1画素の整数倍の解像度を持つサーマルヘッドへの倍密通電数と分割通電数との組み合わせにより決定され」としていた点を、補正後には「主走査方向にn個、副走査方向に倍密通電と分割通電を組み合わせた通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう中で」とすることで、主走査方向と副走査方向とに分けて定めたことに相当する。
よって、上記(補正事項)は、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか( 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

3.独立特許要件について
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「1画素を複数のブロックに分割し、各ブロックへのサーマルヘッドの通電を制御することで階調表現を行なう階調記録方法であって、1画素のn倍(nは整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い、1画素を構成するブロックを主走査方向にn個、副走査方向に倍密通電と分割通電を組み合わせた通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう中で、1画素毎の階調データに応じて、前記各ブロックを所定の順序で成長させて当該ブロックを構成するドットへの通電、非通電を決定することを特徴とする階調記録方法。」(以下、「本願補正発明」という。)

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平7-237313号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の(ア)?(エ)の記載が図示と共にある。
(ア)「【請求項1】(A)複数の発熱素子を主走査方向に配列したサーマルヘッドを用い、このサーマルヘッドが記録紙上で副走査方向に移動する間に、各発熱素子を選択的に駆動して副走査方向に伸びた副サブライン上のセルにインクドットを記録し、各行の端がオーバーラップするように、1行の記録後に記録紙を主走査方向に移動するシリアルサーマルプリント方法において、
(B)隣接するN(2以上の整数)本の副サブラインで、主走査方向がN個,副走査方向がM(2以上の整数)個のセルからなる1個の画素を配列した画素列を形成すること,
(C)1個の画素内の各セルに、画素の階調レベルに応じたインクドットパターンとなるようにインクドットを記録すること,N本の副サブラインのうち1個の画素内に存在するN個の副サブライン部分の中から、少なくとも1本の第1優先副サブライン部分と、これに隣接する少なくとも1本の第2優先副サブライン部分とを決め、この第1優先副サブライン部分は、第2優先副サブライン部分の全てのセルにインクドットが記録される階調レベルよりも低い階調レベルで、第1優先副サブライン部分の全てのセルにインクドットが記録されるようにすること,
(D)隣接する2つの行によるオーバーラッブが、少なくとも1本の第1優先副サブライン部分で行われるように、記録紙の送り量を決定するとともに、第n行の下方の副サブラインと次に記録される第(n+1)行の上方の副サブラインとで、行の境界上に位置する1本の画素列を形成するように、この画素列を2回に分けて記録すること
(E)を特徴とするシリアルサーマルプリント方法。」(ただし、後に(ア)の記載を引用することに備えて、当審で便宜的に(A)?(E)の5箇所に分けて符号を付した。)

(イ)「【0012】1画素を構成する副サブライン部分は2個以上であればよい。階調表現性が高く、低階調からなめらかにつなぎ目を補正するには、4本以上がよい。4本以上の場合には、第1優先副サブライン部分の位置は、画素列の中央側に位置させるのがよい。そして、これに隣接して第2優先副サブライン部分を配置し、これらの第1及び第2優先副サブライン部分を挟むように、第3及び第4優先副サブライン部分を配置するのがよい。

(ウ)「【0014】各画素のドットパターンとしては、第1優先副サブライン部分のセルの1つからインクドットの記録が開始され、階調レベルが高くなるにつれてインクドットが記録されるセルの個数が増えてゆき、この第1優先副サブライン部分の全てのセルにインクドットが記録された後は、第2優先副サブライン部分のセルの記録が開始されるようなパターンが用いられる。この際に、第1及び第2優先副サブライン部分では、端から順番に記録する他に、画素の中央付近にあるセルから記録を開始し、階調レベルが1ステップ上がる毎に、その両側のセルに交互にインクドットを記録してゆくのがよい。」

(エ)「【0022】記録時には、インクリボン15がサーマルヘッド10によって背後から記録紙12に密着されるとともに、リボンカセット16がサーマルヘッド10と一緒にヘッド移動機構11によって副走査方向に移動される。サーマルヘッド10は、インクリボン15の背後を加熱し、溶融又は軟化したインクを記録紙12に転写する。このインクは、図3において、仮想的に表したセル22内に付着し、インクドットを形成する。1行の記録が終了すると、サーマルヘッド10及びリボンカセット16は、初期位置に戻されるとともに、記録紙12が主走査方向に1行の幅より僅かに少なく搬送される。
【0023】図3において、サーマルヘッド10には、例えば144個の発熱素子10a_(1) ,10b_(1) ,10c_(1) ,10d_(1) ,10a_(2 ),10b_(2) ,・・・,10c_(36),10d_(36)が主走査方向に沿って配列されている。各発熱素子は、主走査方向の長さがL1(例えば、70μm),副走査方向の長さがL2(例えば、100μm)の矩形状をしている。例えば、4個の発熱素子10a_(1) ,10b_(1) ,10c_(1) ,10d_(1 )は、1本の主走査方向サブライン(以下、主サブラインという)24だけ送られる毎に駆動され、4本の副サブライン(副走査方向サブライン)21A?21Dを記録する。主サブライン24の幅は、発熱素子の副走査方向の長さL2と同じである。
【0024】隣合う2行の端で副走査方向に伸びた1画素列を形成するために、本実施例では、1行が141個の発熱素子で記録され、そして規定の紙送り量は140個の発熱素子の主走査方向の長さ(L1×140)となっている。最上端の画素P_(1) は2個の発熱素子10c_(1 ),10d_(1) で記録し、次の画素P_(2) は4個の発熱素子10a_(2) ?10d_(2) で記録し、そして最下端の画素P_(36)は3個の発熱素子10a_(36),10b_(36),10c_(36)で記録する。そして、発熱素子10c_(36)は次行と重複記録を予定している副サブライン21Aを記録する。発熱素子10c_(36)は、上の発熱素子10b_(36)と同じ駆動データにより駆動され、副サブライン21Aは直ぐ上の副サブライン21Bと同じ状態で記録される。なお、画素P2 のセル22内に記した番号1?32は、インクドットが記録される階調レベルを表しており、例えば階調レベル「5」では、数字「1」?「5」を付したセルにインクドットが記録される。また、画素P_(1) ,P_(36)のセル内に記した「0」は、発熱素子を発熱させない駆動データを示している。また、第1行目の上端及び最終行の下端の画素は隣の行が存在しないので、4個の発熱素子を用いて、画素の階調レベルに応じたインクドットを記録してもよい。
【0025】1画素は、主走査方向に4個,副走査方向に8個のセル22で構成され、32階調を表現する。各画素は、副サブラインの一部によって構成されているから、図4に示すように、副サブラインのうち1画素内にある部分を副サブライン部分と称する。図4に示すように、インクドットの記録は、3列目の副サブライン21Aの一部を構成する第1優先副サブライン部分21aのセルから開始される。階調レベルが高くなるに従って、中央のセルから左右のセルが交互に記録される。第1優先副サブライン部分21aの全てのセルが記録されてから、2列目の第2優先副サブライン部分21bのセルの記録に移行する。第2優先副サブライン部分21bの全てのセルの記録が終わると、画素の中央部が上下に突出するように第3優先副サブライン部分21c,第4優先副サブライン部分21d上にインクドットが記録される。すなわち、1画素に記録されるインクドットパターンの形状は、階調レベルが高くなるに従って、点→横線→逆T字→十字→矩形と変化する。」

上記、(ア)の(A)と(B)、及び(エ)によれば、サーマルヘッドには主走査方向に複数((エ)の【0023】によれば、例えば144個)の発熱素子が配列し、発熱素子が駆動されることで記録紙上にインクドットが記録され、これがセルであり、サーマルヘッドが副走査方向に移動する間に発熱素子が駆動されることにより、副走査方向にもセルへの記録がなされ、主走査方向にN(2以上の整数)個、副走査方向にM(2以上の整数)個のセルで1画素が形成される。(エ)の【0025】によれば、例えばN=4,M=8である。この場合、144=4×36であるから主走査方向には36個の画素が形成され、(エ)の【0024】ではこの36個の画素を上から順にP_(1) 、P_(2)、・・・P_(36)と名づけている。

上記(ア)の(C)によれば、1個の画素内の各セルに、画素の階調レベルに応じたインクドットパターンとなるようにインクドットを記録する。
そして、上記、(ア)の(C)、(イ)、(ウ)によれば、サーマルヘッドが副走査方向に移動する間に発熱素子が駆動されることにより各発熱素子毎に副走査方向にセルが形成されたラインである1画素当りN本の副サブラインに、第1優先副サブライン、第2優先副サブラインの優先度と、各優先副サブラインにおいて、副走査方向に並ぶ8個のセルのどれから画素の階調レベルに応じて駆動されるかの順序(引用例の【図3】で1つの画素P2またはP_(35)の4×8=32個のセルに数字が割り振られた点参照)を割り振ることにより、上記(エ)の【0025】にいうように「1画素に記録されるインクドットパターンの形状は、階調レベルが高くなるに従って、点→横線→逆T字→十字→矩形と変化する」ようにされている。つまり、1画素毎の階調データに応じて、1画素を構成する各セルを所定の順序で成長させるようにセルを形成する発熱素子の駆動、非駆動が決定されている。(この成長の様子が引用例の【図4】に示されている。)

上記(ア)の(D)の隣接する2つの行の間で副サブラインをオーバーラップさせる記録は、上記(エ)の【0024】によれば、主走査方向に36個並んだ画素のうちの一番上のP_(1)と一番下のP_(36)のみが関与し、その間にあるP_(2)?P_(35)の画素は関与しない(隣接する画素の副サブラインはオーバーラップせず、各画素を形成するセルの記録は独立して行われる)。

以上のことから、上記(ア)?(エ)の記載を含む引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「1画素を複数のセルに分割し、各セルへのサーマルヘッドの通電を制御することで階調表現を行なう階調記録方法であって、1画素のN倍(Nは2以上の整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い、1画素を構成するセルを主走査方向にN個、副走査方向にM個(Mは2以上の整数)配列させ、副走査方向にセルの配列個数M回の通電を行なう中で、1画素毎の階調データに応じて、前記各セルを所定の順序で成長させて当該セルを構成する発熱素子への通電、非通電を決定することを特徴とする階調記録方法」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
(a)引用発明の「セル」は、本願補正発明の「ブロック」に相当する。

(b)本願明細書の段落【0003】には「サーマルヘッドに対する通電時間」、「1ドットの通電時間」、同【0005】には「サーマルヘッドの複数の発熱素子に選択的に通電」、とあって、通電する対象について種々の表現がなされているものの、本願補正発明における「ドットへの通電」が、サーマルヘッドが備える複数の発熱素子のそれぞれへの通電であることは明らかである。
よって、引用発明の「発熱素子」は、本願補正発明の「ドット」に相当する。

(c)2以上の整数は整数全体に含まれるから、引用発明の「1画素のN倍(Nは2以上の整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い」は、本願補正発明の「1画素のn倍(nは整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い」に相当する。

(d)引用発明の「1画素を構成するセルを主走査方向にN個、副走査方向にM個(Mは2以上の整数)配列させ、副走査方向にセルの配列個数M回の通電を行なう」について、主走査方向の構成である「1画素を構成するセルを主走査方向にN個」は、上記(b)で検討したのと同様に、本願補正発明の「1画素を構成するブロックを主走査方向にn個」と相当関係にある。
副走査方向の構成である「副走査方向にM個(Mは2以上の整数)を配列させ、副走査方向にセルの配列個数M回の通電を行なう」は、ブロック(セル)の副走査方向での配列個数回の通電を行なう点で、本願補正発明の「副走査方向に倍密通電と分割通電を組み合わせた通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう」と共通している。

(e)引用発明の「1画素毎の階調データに応じて、前記各セルを所定の順序で成長させて当該セルを構成する発熱素子への通電、非通電を決定する」は、1画素毎の階調データに応じて、「ブロック」(セル)を所定の順序で成長させて当該「ブロック」(セル)を構成する「ドット」(発熱素子)への通電、非通電を決定する点で、本願補正発明の「1画素毎の階調データに応じて、前記各ブロックを所定の順序で成長させて当該ブロックを構成するドットへの通電、非通電を決定する」と共通している。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「1画素を複数のブロックに分割し、各ブロックへのサーマルヘッドの通電を制御することで階調表現を行なう階調記録方法であって、1画素のn倍(nは整数)の解像度を持つサーマルヘッドを用い、1画素を構成するブロックを主走査方向にn個、副走査方向に通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう中で、1画素毎の階調データに応じて、前記各ブロックを所定の順序で成長させて当該ブロックを構成するドットへの通電、非通電を決定することを特徴とする階調記録方法。」

<相違点>
本願補正発明は「副走査方向に倍密通電と分割通電を組み合わせた通電回数個を配列させ、副走査方向にブロックの配列個数回の通電を行なう中で」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。

(4)判断
本願明細書の【0009】の「副走査方向の通電は、前記各ブロックの副走査方向幅毎に行う分割通電とする」等の記載から、本願補正発明の「分割通電」とは、あるブロックに係る通電を行い、それが済むとサーマルヘッドをブロックの幅分副走査して隣接するブロックの位置に移動させ、そのブロックに係る通電を行うという、時間経過とともに順に各ブロックへなされる通電を意味することは明らかである。
そして、本願明細書の【0012】の「さらに、サーマルヘッドの印字データを図2に示すような2×2分割=4ドットのディザマトリクスとした場合には、サーマルヘッドの各1ドットに対し倍密通電することで、図3に示すように、副走査方向に4ブロックを形成することができる。これで受信データの1ドットを副走査方向400dpiとする倍密印字データとすることで8階調分のブロックで表現することが可能となる。」等の記載から、本願補正発明の「倍密通電」とは、各ブロックについて1回だけドットの通電、非通電をしていたのを2回通電することで、例えば副走査方向に4個並んだブロックに各1回計4回のドットの記録を行っていたのを2回×4回=8回の記録を行うことで、実質8個のブロックがあるのと同様な表現をなすことと解される。
一方、引用発明でも、1画素を構成するセルを副走査方向にM個(Mは2以上の整数)配列させ、副走査方向にセルの配列個数M回の通電を行なっているから、「分割通電」を行っている。ただし、「倍密通電」は行っていない。
しかしながら、1つの画素を形成する副走査方向の複数個のブロックへの印字において、各ブロックに2回印字することで2倍の数のブロックがあるのと同様な表現をなすことは周知技術である。例えば、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-105320号公報には、ヘッド発熱体Hの幅分だけ順次副走査方向に4回移動し、各移動位置で1回印字して副走査方向に4ドットであったのを、各移動位置でドット位置をずらして(具体的にはヘッド発熱体Hの幅の半分だけ副走査方向に移動させて)2回印字することで、解像度を2倍の8ドット相当にすることが記載されている(特に、同公報の「【0039】すなわち、記録紙7に対し印字ヘッド3をそのヘッド発熱体Hの幅分だけ順次移動させて印刷を行なう1印字周期T内に、一定間隔の前半,後半のタイミングt1 ,t2 で2回ヘッド発熱体Hに通電制御し、転写されるべくドット位置を1印字周期T内で2回ずらすように制御することにより、1印字周期Tにおいて、ヘッド発熱体Hの幅Wだけ転写される印刷状態とヘッド発熱体Hの幅Wの1.5倍の幅1.5Wで転写される印刷状態との2つの階調を得ることができる。【0040】 つまり、図11で示したような、1画素の面積がヘッド発熱体Hの縦横4倍の面積で同じであっても、印字ヘッド3を主走査方向へ移動させる1印字周期T内に一定間隔のタイミングt1 ,t2 で2回の通電を行なうように制御することにより、単純には1画素の横方向の解像度が2倍となり、縦4ドット×横8ドットの32ドットの解像度を得ることができる。」との記載参照)。つまり、同公報には、4個のブロックに対する4回の「分割通電」に「倍密通電」を組み合わせることで、具体的には、ヘッド発熱体Hの幅分だけ順次副走査方向に4回移動して4個のブロックに各1回印字していたのを、各回の移動にヘッド発熱体Hの幅の半分だけの副走査方向への移動を加えることで、8個のブロックに各1回印字している。
よって、引用発明において、本願補正発明の<相違点>に係る構成を備えることは、引用例の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたことである。
また、本願発明の効果は、引用発明、引用例の記載、及び周知技術から予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。

4.本件補正についてのむすび
上記「3.独立特許要件について」に記載のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年4月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年9月16日付けで補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「1画素を複数のブロックに分けて各ブロックへのサーマルヘッドの通電を制御することで階調記録を行なう階調記録方法であって、前記複数のブロックは、1画素の整数倍の解像度を持つサーマルヘッドへの倍密通電数と分割通電数との組み合わせにより決定され、1画素毎の階調データに応じて、前記各ブロックを所定の順序で成長させて当該ブロックを構成するドットへの通電・非通電を決定することを特徴とする階調記録方法。」(以下、本願発明という。)

2.引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、上記「第2 平成18年4月28日付けの手続補正について (2)引用発明」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2 平成18年4月28日付けの手続補正について 3.独立特許要件について」で検討した本願補正発明の発明特定事項から、1画素を分割した複数のブロックの構成の仕方に関する限定を省いたものに相当する。

すると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成18年4月28日付けの手続補正について 3.独立特許要件について」に記載したとおり、引用発明、引用例の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例の記載、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-30 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-18 
出願番号 特願2000-46170(P2000-46170)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 俊彦  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 菅藤 政明
酒井 進
発明の名称 階調記録方法  
代理人 伊藤 高英  
代理人 玉利 房枝  
代理人 鈴木 健之  
代理人 大倉 奈緒子  
代理人 磯田 志郎  
代理人 畑中 芳実  
代理人 中尾 俊輔  

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