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審判番号(事件番号) データベース 権利
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不服200517013 審決 特許
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1190307
審判番号 不服2005-13488  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2009-01-08 
事件の表示 平成10年特許願第260041号「乳酸菌用プライマー」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 8日出願公開、特開平11-151097〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年9月14日の出願(国内優先権主張 平成9年9月19日)であって、平成17年6月10日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成17年5月13日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載されたとおりのものである(以下、請求項の番号に対応して「本願発明1」?「本願発明5」という。)ところ、そのうちの請求項1および請求項3の記載は以下のとおりである。

「【請求項1】配列番号1?11、14、16及び18?21から選ばれる塩基配列又は該塩基配列に相補的な配列からなる乳酸菌用プライマー又はプローブ。」
「【請求項3】配列番号1と12、2と13、3と14、4と13、5と13、6と13、7と15、8と13、9と16、10と16、11と17、18と19及び20と21から選ばれる2つの塩基配列の組合わせ又はこれら塩基配列の組合わせに相補的な配列からなるプライマーの組合せ、或いは請求項1記載の塩基配列若しくは該塩基配列に相補的な配列から選ばれる1のプライマー又はプローブを使用することを特徴とする乳酸菌菌種の同定方法。」

3.引用文献記載の事項
(1)引用文献1
これに対して、原審の拒絶査定の理由で引用した、本願の優先日前である平成9年3月15日に頒布された「日本醸造協会誌, 92 [3](1997)p.188-194」(以下「引用文献1」という。)には、「16SリボゾームRNA遺伝子情報を利用した乳酸菌の同定システム」と題された記事が掲載されており、以下の事項が記載されている。

(1-1)「著者らは、この乳酸菌の16S rRNA又は16S rDNAの塩基配列を利用して、迅速・高精度の同定方法(システム)の開発を進めた。」(第189頁右欄第11-13行)

(1-2)「現在までに、食品からよく分離される乳酸菌約100種についてその分類基準菌株等の1400R領域のデータと約20種の300R領域のデータをまとめ、「乳酸菌同定用データベース」としてコンピューター検索が可能なファイルにまとめた。同定は、第3図に概略を示したように、この基準菌株の塩基配列と、分離された未知の乳酸菌の塩基配列を比較することにより行う。」(第191頁右欄第6-12行)

また、引用文献1には、図面として「第3図 コンピュータ乳酸菌同定システムによる乳酸菌同定の概略」および「第4図 乳酸菌の16S rDNA塩基配列決定法の概略」が示されており、以下の事項が図示されている。

(1-3)「コンピュータ乳酸菌用同定システムによる乳酸菌同定の概略」について、「食品」から「分離」した「乳酸菌」について、「塩基配列決定」を行うことにより「16S rRNA遺伝子 1400R、300R領域 塩基配列」を決定し、これを「乳酸菌同定用DB (分類基準株の16S rRNA遺伝子 塩基配列 データベース)」により、「菌種名リスト」を用いて「同定」を行うという手順(第3図)。

(1-4)「乳酸菌の16S rDNA塩基配列決定法の概略」について、「(1)微生物菌体」を「食品」から「分離」、「純化」して、「純粋培養菌体」を作成し、「(2)全DNAの抽出・精製」を行い、「(3)16SrDNAの増幅」を「1400R領域増幅用のプライマー」及び「300R領域増幅用プライマー」を用いて「PCR法」により行った後、「(4)精製」し、「(5)ダイデオキシ反応」を行って、「(6)DNAシーケンサー(電気泳動分析)」により「(7)16S rDNAの塩基配列」を決定するという手順(第4図)。

(2)引用文献2
また、同じく原審の拒絶査定の理由で引用した、本願の優先日前である1992年8月に頒布された「Applied and Environmental Microbiology, Vol. 58, No. 8 (1992) p.2606-2615」(以下「引用文献2」という。)には、「16S rRNA増幅によるマイコプラズマの属及び種特異的な同定」と題された論文が掲載されており、以下の事項が記載されている。

(2-1)「マイコプラズマの16S rRNA配列の系統だったコンピュータ・アラインメントは、属及び種の両方に特異的な配列を有する可変領域の同定を可能とした。種特異的な配列は、16S rRNAの保存領域に相補的なプライマーを使用して、可変領域の非対称増幅とジデオキシヌクレオチド配列解析により明らかにした。マイコプラズマ・ニューモニアエ、マイコプラズマ・ホミニス、マイコプラズマ・ファーメンタンス、ウレアプラズマ・ウレアリティクム、マイコプラズマ・プルモニス、マイコプラズマ・アルテリティディス、マイコプラズマ・ニューロリティクム、マイコプラズマ・ムリス、マイコプラズマ・コリスに対して選択されたプライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応において種特異的であることが判明した。」(第2606頁、要約欄)

(2-2)「配列データ。 マイコプラズマの16S rRNA配列は、他の微生物の16S rRNA配列と同様に、GenBankとEMBLのヌクレオチド配列データライブラリから取得した。」(第2609頁左欄第10-13行)

(2-3)「アライメント調査により、わずかだが一貫した配列の相違を、調査した種の中に見出した。固有のプライマー配列を、マイコプラズマ・ニューモニアエ、マイコプラズマ・ホミニス、マイコプラズマ・ファーメンタンス、マイコプラズマ・プルモニス、マイコプラズマ・アルテリティディス、マイコプラズマ・ニューロリティクム、マイコプラズマ・ムリス、マイコプラズマ・コリスに対して選択した。」(第2610頁左欄第11-15行)

(2-4)「PCR分析の感度。 マイコプラズマ・ニューモニアエの染色体DNAと未分解のrRNAの両方を同一のサンプル内に単離した(データ不掲載)。rDNAと同一サンプルから逆転写したrRNAの双方を増幅することにより、感度の直接比較が容易になった。そのため、マイコプラズマ・ニューモニアエの精製核酸の連続10倍希釈物を、PCRで試験した。rRNAの事前の転写無しでは、ゲル電気泳動による検出で核酸1pgの感度を得た(図8A)。」(第2611頁左欄第7-15行)

(2-5)「この手順により、可変領域の配列を決定することが可能となり、それによって、興味があるどのようなマイコプラズマの種に対しても、種特異的なオリゴヌクレオチドを選択することが可能となった。」(第2611頁右欄第11-14行)

(2-6)「図8.マイコプラズマ・ニューモニアエ特異的プライマーを用いたPCRによる、マイコプラズマ・ニューモニアエ細胞から単離、精製、希釈した核酸の検出感度」(第2614頁、図8)

4.本願発明3と引用文献1に記載された発明(引用発明1)との対比
引用文献1には、記載事項(1-1)?(1-4)の内容からみて、
「乳酸菌の16SrRNA遺伝子の特定の乳酸菌菌種に特異的な配列の存在を検出することにより、乳酸菌菌種を同定する方法」、具体的には、「同定対象の乳酸菌の16SrRNA遺伝子の1400Rおよび300R領域の塩基配列を決定し、当該配列を既知の乳酸菌菌種の当該領域の塩基配列と対比し、異同を調べることにより、当該乳酸菌の菌種を同定する方法」が記載されているといえる(以下、これを「引用発明1」という。)。

そこで、引用発明1と同様に「乳酸菌菌種の同定方法」に係る本願発明3について、以下検討する。
本願発明3と引用発明1を対比すると、
本願発明3に列挙された配列番号の塩基配列の組合せは、本願明細書によれば、それぞれ乳酸菌の16SrRNA遺伝子に由来するものであり、少なくともその一方が特定の乳酸菌菌種に特異的な配列である、塩基配列の組合せであり、また、本願発明3で引用する請求項1記載の塩基配列は、同じく、乳酸菌の16SrRNA遺伝子に由来する、特定の乳酸菌菌種に特異的な塩基配列であるから、
両者は、
「乳酸菌の16SrRNA遺伝子の特定の乳酸菌菌種に特異的な配列の存在を検出することにより、乳酸菌菌種を同定する方法。」である点で一致するが、
本願発明3が「配列番号1と12、2と13、3と14、4と13、5と13、6と13、7と15、8と13、9と16、10と16、11と17、18と19及び20と21から選ばれる2つの塩基配列の組合わせ又はこれら塩基配列の組合わせに相補的な配列からなるプライマーの組合せ、或いは請求項1記載の塩基配列若しくは該塩基配列に相補的な配列から選ばれる1のプライマー又はプローブを使用することを特徴とする」、すなわち、具体的には、これらの各菌種に特異的な特定の塩基配列からなる核酸分子をプライマー対若しくはプライマーの一方とする、各菌種に特異的なプライマー対のいずれか1つを用いて、検査対象試料中のDNAからPCR増幅物が得られるか否かにより、あるいは、当該特定の塩基配列からなる核酸分子のいずれか1つをプローブとして用いて、検査対象試料中のDNAがこれとハイブリダイズするか否かにより、当該1つのプライマー対もしくはプローブに対応する同定対象の乳酸菌菌種が検査対象試料中に含まれているか否かを同定するものであるのに対し、引用発明1は、「同定対象の乳酸菌の16SrRNA遺伝子の1400Rおよび300R領域の塩基配列を決定し、当該配列を既知の乳酸菌菌種の当該領域の塩基配列と対比し、異同を調べることにより、菌種を同定する」ものである点、そして、引用文献1には、当該領域の配列が具体的に記載されておらず、引用発明1において具体的にどのような配列の異同に基づき菌種を同定するのか明らかにされていない点で相違する。

5.判断
上記相違点について検討すると、
引用文献2には、記載事項(2-1)?(2-5)の内容からみて、
「マイコプラズマの菌種を同定する方法」であって、「既知の菌種の16SrRNAの配列をヌクレオチド配列データライブラリーから取得し、コンピュータ・アラインメントにより種に一貫した配列の相違を特定し、そのような種特異的な配列の相違を含む所定の塩基配列からなる種特異的なプライマーを設計した上で、同定対象の染色体DNAと未分解のrRNAをサンプル内に単離し、前記種特異的プライマーを用いてPCRによる増幅を行うことによる、マイコプラズマ菌種の同定方法。」が記載されているといえる(以下、これを「引用発明2」という。)ところ、当該方法によれば、微生物の菌種同定に際し、一々検体中の16S rDNAの塩基配列の決定を行わなくともよいという利点があることは明らかである。
また、一般に、微生物等の生物体に由来するDNAが当該生物体のDNAに特異的な塩基配列からなるプローブとハイブリダイズすることを確認することにより当該生物体を同定する方法は、引用例を挙げるまでもなく、本願優先日当時、当業者に周知の手法であり、当該手法を用いて微生物の菌種を同定するためには、菌種に特異的な塩基配列からなるプローブを用いる必要があることは自明である。
そうすると、乳酸菌の菌種同定についても、種特異的な配列の相違を含む塩基配列からなる種特異的なプライマーを用いてPCRによる増幅を行い、増幅の有無を確認することにより菌種の同定を行おうとすること、同じく、種特異的な配列の相違を含む塩基配列からなる種特異的なプローブを用いて、ハイブリダイズ法により菌種の同定を行おうとすること、そして、そのために必要な、種特異的な配列の相違を含む塩基配列からなる、適切な「種特異的なプライマー」ないし「種特異的なプローブ」を設計しようとすることは、引用文献2の記載及び本願優先日当時の周知技術に基づき当業者が容易に想起し得ることである。
ここで、本願発明3において菌種同定可能な対象として念頭におかれている乳酸菌の菌種それら自体は、いずれについても本願優先日前に当業者に周知である(要すれば、1997年4月10日発行の「Milk Science, Vol. 46, No. 1 (1997) p.1-20」または「微生物, Vol. 6, No. 1 (1990) p.1-12」を参照。)。また、上記摘記(1-2)にあるように、少なくとも約100種の1400R領域と、約20種の300R領域について、乳酸菌16S rDNAが同定されていることからみても、本願発明3において菌種同定可能な対象として念頭におかれている各乳酸菌菌種の16S rDNAの塩基配列は、本願優先日前に当業者に知られていたか、または、当業者に周知の塩基配列決定のための定型的作業により配列決定を行うことができたものであるといえる。
事実、請求人が平成17年9月28日付で提出した手続補足書の参考資料2に、各種乳酸菌菌種の16S rDNAのV1領域(70-100)を含む58から110までの領域(これらは上述の300R領域(1-300)に含まれる領域である。)の具体的な配列が、本願優先日前に公知であったものとして示されているように、本願優先日には、多くの乳酸菌菌種について、16S rDNAのこれらの領域の具体的な配列が知られていたものである。なお、請求人は、上記参考資料2において、L.acidophilus、L.fermentum、L.gasseri及びL.helveticusについて、V1領域を含む上記領域に欠落を有する具体的配列を記載しており、これによればあたかもこれらのすべての菌種について当該領域の具体的配列が知られていなかったかのような印象を受けるが、これらのうち、L.acidophilusについては、請求人が提出した上記手続補足書の参考資料1において本願発明に際し発明者が新規に解読したとされているATCC4356株について、seqM58802として、参考資料1の当該株の塩基配列と3’末端の1塩基のみが相違する具体的配列が本願優先日前に公知であり、L.fermentumについては、ATCC14931株について、参考資料1にも記載されているseqM58819の具体的配列が公知であり、L.gasseriについては、参考資料1において本願発明に際し発明者が新規に解読したとされているDMS20243株について、seqM58820として、参考資料1と同じ具体的配列が本願優先日前に公知であったことは、これらの株名若しくはseq名に基づき配列データーベースにより確認すれば、明らかである。
そして、プライマーやプローブの設計にあたっては、総塩基数やGC含量について考慮することについても、本願優先日において既に当業者の周知技術である。
してみると、本願優先日時点における、乳酸菌の16S rDNAに関する当業者の知見は、引用発明2におけるマイコプラズマの16S rRNAのそれと同様に、菌種特異的な配列を同定できる程度に整っていたと言えるから、引用発明1の菌種同定においても、引用発明2のマイコプラズマ菌種の同定方法と同様のPCRを用いる方法、あるいはそれ自体周知のハイブリダイズ法を採用すること、そしてそのために、乳酸菌の各菌種の16S rDNAの1400Rまたは300R由来の配列をアラインメントさせることにより、当該方法に使用するに適した特異的塩基配列を選定し、当該配列からなるプライマー対、プライマー又はプローブを作成することは、当業者であれば容易になし得たと言うべきである。
そして、これにより本願発明3に規定した具体的な配列を選定したことについても、以下の6.においても述べるとおり、当該配列を選定することが格別困難であったとも認められず、特に、本願発明3で引用する本願発明1に記載された17配列のうちの配列番号1?10、18、20の12配列は、いずれも、引用発明1において、乳酸菌において菌種特異的な配列が存在する領域として、菌種特定のターゲットとされた領域の1つである300R領域に含まれる領域に由来するものであり、しかもこれらのうち、L.helveticusに由来する配列番号5、L.reuteriに由来し、後述するようにL.fermentumにも全く同一の配列が存在する配列番号20、及び、L.delbrueckii、Lc.cremoris、Lc.lactis、並びにL.ferumentumにそれぞれ由来し、公知の配列とは1塩基相違し、および/または、公知の配列では1塩基が未定である、配列番号3、9、10、並びに18以外の配列番号の6配列については、いずれも上述した公知の配列の部分配列に相当するものであり、かつ、当該公知の配列情報に基づき、これらの菌種間において特異的であることが容易に判断できたものであるから、少なくとも、これら公知の配列に由来する6配列をこれらの菌種間において当該菌種を特異的に同定するためのプライマー対の一方、もしくはプローブとして選択することが困難であったとは認められない。
そして、菌を培養することなく、迅速、簡便、低コスト且つ高精度に乳酸菌菌種の同定を行うことができるという本願発明3の効果については、いずれも引用文献1、2から当業者であれば予測可能なものであり、本願発明3に規定した具体的な配列からなるプライマー対等が予測し難い格別の効果を奏するものであったともいえない。
したがって、本願発明3は、原審の拒絶査定で指摘したとおり、引用文献1、2に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.請求人の主張について
これについて、審判請求人は、審判請求書において以下の主張をしている。
(主張点1:塩基配列決定の困難性)「塩基配列の決定は、菌の取得が可能であれば当然に行えるというものでは決してなく、少なくとも正確な塩基情報を入手するには高度な技術と労力を要するのであります。実際本願出願前に公知であった乳酸菌の塩基配列情報には、多くの誤りが存在していました。」
(主張点2:実用可能性)「実際に使用可能なプライマーは、上述の如く設計されたプライマーまたはプローブからさらに対象菌と類縁菌との混在下でその特異性による選別を行って初めて取得できるものであります。すなわち、対象とする菌種に特異的な配列を持つプライマー又はプローブが見出されたとしても、直ちにそれが実用可能なプライマーとなるわけでは決してありません。例えば、参考資料3に示すように、理論上は菌種特異的プライマーとして設計されたものであっても、他の菌種と反応してしまう場合が多くあります。」
(1)主張点1について
しかしながら、主張点1において請求人が主張する「多くの誤り」については、上述のとおり、本願発明3で引用する本願発明1に記載された17配列のうちの配列番号1?10、18、20の12配列の中には、当該配列が由来する菌種について本願優先日前公知の上記領域内の塩基配列と完全に一致しないものがいくつか存在するが、それらにおける配列の相違は全長20塩基中の1?2塩基にすぎないから、このことが、本願優先日前公知の上記領域内の配列と完全に一致する上記6配列を、当該塩基配列の不一致を有する菌種をも含め、配列が公知の菌種間において、当該配列を有する菌種に特異的なものとして選択する上で、格別の障害となったとはいえない。
請求人は、また、主張点1に関連し、本願優先日前には、L.acidophilusやL.helveticusについて、本願発明3で規定する塩基配列に対応する部分の配列情報は知られていなかったから、当該塩基配列が菌種特異的であるか否かの検討は不可能である旨も、主張している。
しかしながら、L.acidophilusについては、参考資料1の配列と3’末端の1塩基を除いて同一の塩基配列が本願優先日前に知られていたのは上記のとおりであり、また、本願発明3でL.acidophilusについて規定する配列番号1の配列は当該3’末端部分を含むものではないから、当該配列の相違ないし誤りが当該配列番号1の配列を選択する際の障害になったとはいえない。
また、たとえL.helveticusについて上記の部分の配列が知られていなかったのが事実であったとしても、当該菌種自体は公知であり、その菌株も入手できたのであり、本願明細書をみても当該菌種について上記部分を含む領域の配列を決定することに格別の困難性があったであろうことは窺えない。
更にまた、仮にL.helveticusについて何らかの理由により上記部分を含む領域の配列を決定することが困難であったとしても、多数の菌種について本願優先日前公知であった上述の上記部分を含む領域の配列を対比すれば、当該領域において菌種間に配列の多様性があることが認められるから、当該領域において、上記多数の菌種の公知の配列間で特異的な配列であって、本願発明のプローブ又はプライマーの配列のように17?26塩基長というある程度の長さのものであれば、L.helveticusなどの配列が未知の菌種の配列に対しても特異的であろうことは、十分な蓋然性をもって推測できるといえる。
従って、L.helveticus等の配列情報があって初めて本願発明に至ることができたということにはならない。
そして、本願発明3の乳酸菌菌種の同定方法を使用する対象となる発酵乳製品等に含まれ得る乳酸菌菌種および他の菌の菌種は必ずしも本願明細書に記載されたものに限られないと考えられることからすれば、本願発明において特定した配列が菌種特異的であるといっても、それは相対的なものに過ぎず、本願明細書に記載されていない菌種との識別性については依然として不確実なままであり、この点は、L.helveticusの配列情報を知ることなく、配列が知られた範囲の菌種について菌種特異的な配列を定めることと、何ら事情が異なるところはないから、L.helveticusの配列情報が知られていなかったから、塩基配列が菌種特異的であるか否かの検討は不可能であるとする請求人の主張は妥当なものではない。
(2)主張点2について
また、主張点2については、その論拠としている平成17年9月28日付手続補足書の参考資料3の(1)をみると、本願発明に用いられる配列番号2の「プライマー(1)」(ラクトバチルス・カゼイ特異的)に対して比較検討している「プライマ-(2)」は、「プライマー(1)」に対してその5’末端側で2塩基分が短縮される一方で、3’末端に他の菌種(ラクトバチルス・ラムノサス及びラクトバチルス・ゼアエ)と共通する6塩基が追加されていることがわかる。これに注目すれば、当業者であれば「プライマ-(2)」が「プライマー(1)」と比べて菌種特異性に劣ることが設計時から十分に予想可能であると認められ、「プライマ-(2)」のような配列を敢えて選択するはずがないといえる。してみると、この実験例は、菌種特異的なプライマーまたはプローブとして実用可能なものを選択することの困難性または「プライマー(1)」の効果の顕著性を、何ら示すものとはいえない。
また、同じく参考資料3の(2)をみれば、本願発明に用いられる配列番号20の「プライマー(3)」は、目的菌種(ラクトバチルス・ロイテリ)だけでなく、他菌種(ラクトバチルス・ファーメンタム)にも完全一致する配列であることが読み取れ、このような配列を一方のプライマーとして用いてもラクトバチルス・ファーメンタムは同定されず、ラクトバチルス・ロイテリのみが同定されたこと(上記手続補足書の表1参照)からすれば、用いた他方のプライマーの配列番号21の配列がラクトバチルス・ロイテリに存在し、ラクトバチルス・ファーメンタムに存在しない配列であるものと解される。そして、上記表1によれば、配列番号20の「プライマー(3)」をプライマー(4)に変えることにより、ラクトバチルス・ロイテリと並んでL.orisとL.vaginalisが同定されたが、このことは、プライマー(4)の塩基配列がL.oris及びL.vaginalisのどこかの配列と類似するものであり、また、配列番号21の配列もまた、L.oris及びL.vaginalisのどこかの配列と類似するものであったことを示すものである。
しかしながら、当該事実は、配列番号21との組合せにおいて、配列番号20を用いることにより初めてラクトバチルス・ロイテリをL.orisおよびL.vaginalisとも識別して同定し得るという効果が奏されることを示すものではあるが、このことをもって、本願発明3に列挙されたその他のプライマーとして用いる配列の組合せ、あるいは、プライマーまたはプローブとして用いる配列が、この事例における配列20と21の組合せと同様に、当該菌種について特異的なものとして選定し得る他の配列ないし配列の組合せと比べて、格別の効果を有することを示すものではない。
しかも、配列番号20の核酸分子は、配列番号21と組み合わせてプライマー対として用いられた場合は上述の効果を有するものではあるが、これを単独でプローブとして用いた場合は、ラクトバチルス・ロイテリのみならずラクトバチルス・ファーメンタムをも検出してしまうものであり、また、配列番号21の核酸分子は、L.orisおよびL.vaginalisにも類似する配列があると考えられるから、これを単独でプローブとして用いた場合は、ラクトバチルス・ロイテリのみならず、これら2つの菌種をも検出してしまう可能性があるから、配列番号20および21の配列自体についても、本願発明3のうち、少なくともこれらの配列を単独でプローブとして用いる場合には、そもそも格別の効果を有するものとはいえない。
したがって、主張点2についても、採用できないものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-29 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-25 
出願番号 特願平10-260041
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 光本 美奈子
鵜飼 健
発明の名称 乳酸菌用プライマー  
代理人 浅野 康隆  
代理人 山本 博人  
代理人 有賀 三幸  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 中嶋 俊夫  

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