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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1190313
審判番号 不服2005-24937  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-26 
確定日 2009-01-07 
事件の表示 特願2003- 13133「木造建築の耐震構造説明用模型」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月12日出願公開、特開2004-226590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年1月22日に出願したものであって、平成17年11月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月26日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、同日付けで明細書について手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成20年1月17日付けで平成17年12月26日付けの手続補正を却下するとともに、同日付けで平成17年8月1日付けの手続補正に対し拒絶の理由を通知したところ、請求人は平成20年4月10日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

2.本願発明
平成20年4月10日付けの手続補正によって特許請求の範囲(請求項数3)は補正され、そのうち請求項1の記載は、以下の通りである。

「可動地盤用台部と、この可動地盤用台部上に設置される木造建築模型とからなる耐震構造説明用の模型であって、
前記木造建築模型を構成する軸組み部材の仕口接合部を、弾性伸縮部材で締結することによって、前記可動地盤用台部の振動による、前記仕口接合部を変形中心点とする前記木造建物模型の揺れによる変形を、目視確認できるよう構成したこと
を特徴とする木造建築の耐震構造説明用模型。」

なお、請求項1に「前記木造建物模型」との記載があるが、当該「前記木造建物模型」に相当する部分は、それ以前に記載がなく、当該記載の意味は、「木造建築模型」がいかなるものであるかを記載していることが明らかであることから、当該「前記木造建物模型」は「前記木造建築模型」の誤記と認定し、本願の請求項1に係る発明は、以下のものと認める。

「可動地盤用台部と、この可動地盤用台部上に設置される木造建築模型とからなる耐震構造説明用の模型であって、
前記木造建築模型を構成する軸組み部材の仕口接合部を、弾性伸縮部材で締結することによって、前記可動地盤用台部の振動による、前記仕口接合部を変形中心点とする前記木造建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるよう構成したこと
を特徴とする木造建築の耐震構造説明用模型。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用刊行物
当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-169460号公報号(以下、「引用文献」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

ア.「【請求項1】 建物における制振構造の耐震性能を視的に確認できる装置であって、振動数が調節可能な震動再現装置と、該震動再現装置に載置した模型建物と、該模型建物に取り付ける制振装置模型と、から構成する制振構造体験装置。
イ.「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、戸建て住宅やマンションを購入する住宅建築予定者、又は建築学・建築業界に携わる者が簡単にビルや住宅の耐震性能を視的に確認できる装置であって、特に制振構造の耐震性能を実感できる装置に関する。」
ウ.「【0003】 【発明が解決しようとする課題】 上述した制振構造においては、過去の大震災の経験から、上記の耐震性能が優れたものであるということが広く一般に認識されるようになった。そして、該制振構造は、一般人が購入住宅を選択する際の一つの重要な要素となっている。そこで、住宅を提供する側は、該制振構造を説明することが必要となるが、専門的な用語で詳細に説明しても、その内容が複雑であるため、一般人には伝わりにくいのである。そこで、制振構造の耐震性能を、一般人が見ても簡単に解るようにすること、さらには、制振構造を体験できることが望まれるのである。
・・・そこで、高精度なせ制御装置等を使用することなく、効果的に制振構造の耐震性能を体験できることが望まれるのである。
さらに、上述した模型建物を備える装置は、全体としてコンパクトであることが望ましい。これは、例えば、住宅購入者を対象とした住宅展示場や、建築専門家の集まる研究集会等においてプレゼンテーションする際は、持ち運びに便利で、しかも場所とらないで設置できるからである。」
エ.「【0008】 まず、図1を用いて、本発明に掲げる制振構造体験装置1の概要について説明する。該制振構造体験装置1は、下部に配した震動再現装置2と、該震動再現装置2に載置した模型建物4(4A・4B)と、該模型建物4に吊り下げられる制振装置模型3から構成している。」
オ.「【0013】 次に、震動再現装置2の内部構造について説明する。図3に示すように、震動再現装置2は、震動を発生させるモーター(以下震動モーター20とする)、該震動モーター20に電源を供給する電源ユニット21、及び該震動モーター20の回転を震動台16に伝える各種震動伝達装置を内装している。」
カ.「【0019】 次に、模型建物4について説明する。図8に示すごとく,該模型建物4は、三階建て住宅を再現したものであって、板状の四本の通し柱40・40・・・を一階フロア41から立設させ、該通し柱40・40・・・に二階フロア42、三階フロア47、及び屋根部43を配設するものである。
【0020】 一階フロア41の中心部には、前記震動台16に模型建物4を固設するための模型建物固定ボルト孔44が、上表面から下表面にかけて貫通されている。さらに、該模型建物固定ボルト孔44を中心とした二箇所には、前記震動台16に対しての位置決めをするための模型建物位置出しピン孔45・45が、上表面から下表面にかけて貫通されている。
【0021】 通し柱40・40・・・は、厚さが0.2?0.4mm程度の板状の部材であって、すべての板表面を同じ向きに構成している。これは、前記震動台16の振動方向に合わせて、模型建物4の全体としての横揺れを増幅させるためである。尚、本実施例では、該通し柱40・40・・・と他の模型建物4の構成部材とは、ビス46・46・・・によって結合されている。
【0022】 二階フロア42、及び三階フロア43は、前述のごとく、ビス46・46・・・によって通し柱40・40・・・に結合されている。」
キ.「【0024】 以上の模型建物4の構成は、一実施例にすぎず、高層ビル模型であってもよいし、図9に示すごとく、二階建て模型建物55であってもよい。なお、該二階建て模型建物55のごとく、高さ方向が低い模型を使用する際には、模型の揺れが少なくなる恐れがあり、地震時の揺れの様子が再現されない場合が生じる。そこで、本実施例においては、通し柱40・40・・・を二階フロア42に対して、震動の自由を持たせつつ保持させ、あえて震動の自由を持たせることにより、模型建物4の揺れを増幅させることとした。より詳しくは、図10に示すごとく、二階フロア42側の凸形支持部材51を、通し柱40側の凹形支持部材52に緩挿し、両部材を支持ピン53により回動自在に枢支する構成とした。」
ク.「【0027】 そして、震動スイッチ8をONにすることで、図11に示すごとく、震動台16の震動に合わせて、模型建物4(4A・4B)が震動を開始する。この状態は、模型建物4(4A・4B)に前記制振装置模型3を取り付けていないため、制振構造を有しない建物が、地震により震動する状態を再現しているのである。 模型住宅4(4A・4B)の振幅の大きさについては、前記振幅認識バー11に対する手前側の模型住宅4Aの一階フロア41の振れ幅を基準とすることで視認できる。」
ケ.「【0028】 この状態で、模型住宅4Aの吊り下げフック44に制振装置模型3を吊り下げ、振り子31を振り子運動させるのである。そして、前記震動調節ダイアル9を、振り子31の振り子運動の振動周期と、模型住宅4Aの揺れの振動周期とが逆になる(振動を打ち消し合う)ように調節するのである。すなわち、振り子31の振り子運動によって、模型住宅4Aが震動台16から受ける震動エネルギーを打ち消すのである。こうして、模型建物4Aの揺れ具合は、図11の状態と比較して、減少することが確認される。この状態は、模型住宅4Aに制振装置模型3を吊り下げているため、制振構造を有する建物が、地震により震動する状態を再現しているのである。一方で、模型住宅4Bには、制振装置模型3が吊り下げていないため、図11の状態のままとなる。こうして、模型住宅4Aと模型住宅4Bの揺れ具合を同時に比較することにより、制振構造の有無による耐震性能の違いを比較することができるのである。
【0029】 また、模型住宅4Aから制振装置模型3を取り外せば、上記と同様に模型住宅4Aが制振構造を有しない場合の震動の状態に戻される。さらには、模型住宅4A・4Bの両方に制振装置模型3を吊り下げて、模型住宅4A・4B供に制振構造を有する耐震性能を再現してもよい。
【0030】 以上のごとく操作し、制振装置模型3を吊り下げ、または取り外すことを繰り返して表現することにより、観覧者に対して制振構造の耐震性能を効果的にプレゼンテーションをすることができるのである。」
コ.【図11】より、制振装置模型を取り付けない状態では、模型建物が地震により震動する状態が再現され、模型建物が変形していることが認識できる。

エ.の「震動再現装置2に載置した模型建物4」の記載より、模型建物は「震動再現装置2上に設置される」ものである。
イ.の「本発明は、戸建て住宅やマンションを購入する住宅建築予定者、又は建築学・建築業界に携わる者が簡単にビルや住宅の耐震性能を視的に確認できる装置であって、特に制振構造の耐震性能を実感できる装置に関する。」、ウの「住宅を提供する側は、該制振構造を説明することが必要となるが」、「住宅購入者を対象とした住宅展示場や、建築専門家の集まる研究集会等においてプレゼンテーションする際は」の記載より、制振構造体験装置1は制振構造を説明する際に使用されるものであるから、「制振構造説明用模型」ということができる。
キ.の「本実施例においては、通し柱40・40・・・を二階フロア42に対して、震動の自由を持たせつつ保持させ、あえて震動の自由を持たせることにより、模型建物4の揺れを増幅させることとした。より詳しくは、図10に示すごとく、二階フロア42側の凸形支持部材51を、通し柱40側の凹形支持部材52に緩挿し、両部材を支持ピン53により回動自在に枢支する構成とした。」の記載より、凸形支持部材51が設けられた二階フロア42と、凹形支持部材52が設けられた通し柱40は模型建物4を構成する部材であるから、支持ピン53による二階フロア42と通し柱40の接合部は、「部材の接合部」といえる。
イ.の「耐震性能を視的に確認できる装置」、ク.の「この状態は、模型建物4(4A・4B)に前記制振装置模型3を取り付けていないため、制振構造を有しない建物が、地震により震動する状態を再現しているのである。模型住宅4(4A・4B)の振幅の大きさについては、前記振幅認識バー11に対する手前側の模型住宅4Aの一階フロア41の振れ幅を基準とすることで視認できる。」、及びコ.の記載より、引用発明記載の制振構造説明用模型においても、「模型住宅4の揺れによる変形を目視確認できるよう構成した」といえる。

したがって、上記記載及び図面を含む刊行物全体の記載から、刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。
「震動再現装置2と、この震動再現装置2上に設置される模型建物4とからなる制振構造説明用模型であって、模型建物4を構成する部材の接合部を支持ピン53により回動自在に枢支することによって、震動再現装置2の振動による模型建物4の揺れによる変形を目視確認できるよう構成した制振構造説明用模型。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比
本願発明と引用発明を比較する。
a.引用発明の「震動再現装置2」は本願発明の「可動地盤用台部」に相当する。
b.引用発明の「模型建物4」と本願発明の「木造建築模型」は、「建築模型」である点で共通する。
c.引用発明の「制振構造説明用模型」と本願発明の「耐震構造説明用模型」は、「説明用模型」である点で共通する。
d.引用発明の模型建物4は、接合部を「支持ピン53により回動自在に枢支することにより」、本願発明の木造建築模型は、接合部を「弾性伸縮部材で締結することにより」、可動地盤用台部の振動による建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるように構成されているから、引用発明と本願発明とは、接合部を「外部から力が加えられない時には静止し、外部から力を加えられたときに回動可能となるように連結することにより」可動地盤用台部の振動による建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるように構成されている点で共通する。

したがって、両者は、
「可動地盤用台部と、この可動地盤用台部上に設置される建築模型とからなる説明用の模型であって、
建築模型を構成する部材の接合部を、外部から力が加えられない時には静止し、外部から力を加えられたときに回動可能に連結することによって、可動地盤用台部の振動による建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるよう構成した説明用模型。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]説明用模型について、本願発明は、「耐震構造説明用」であるのに対し、引用発明においては「制振構造説明用」である点。
[相違点2]建築模型について、本願発明は、「木造建築模型」であって、外部から力が加えられない時には静止し、外部から力を加えられたときに回動可能な連結について、「軸組み部材の仕口接合部を、弾性伸縮部材で締結する」ものであり、「仕口接合部を変形中心点とする木造建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるよう構成」したのに対し、引用発明においてはそのような特定がされていない点。

5.判断
相違点1について検討する。
本願発明は、「耐震構造説明用模型」に係る発明であるが、本願発明の構成要件として、耐震構造を説明するための具体的な構成は記載されておらず、本願発明は単に「可動地盤用台部の振動による建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるよう構成した説明用模型」にすぎないのであるから、引用発明に記載された「説明用模型」を耐震構造説明用として使用することは、当業者にとって容易である。

相違点2について検討する。
引用文献には、模型の構成は限定されないこと及び二階建て模型建物を使用することが記載されている(引用文献キ.参照)。現実の二階建て建物として木造軸組構造はごく一般的なものであるから、引用発明に記載された模型建物を木造建築模型とし、軸組み部材の仕口接合部が連結したものとすることに困難性は認められない。
模型において、仕口接合部同士を、力が加えられない時には静止し、力を加えたときに回動可能に接合するために、弾性伸縮部材で締結し、仕口接合部を変形中心点とする接合は、例えば実願昭49-52676号(実開昭50-140590号)のマイクロフィルム(第4ページ第9行目?第5ページ第7行目、第4図、第5図参照)等に示されるように周知である。
引用発明の接合部が、力が加えられない時には静止し、力を加えたときに回動可能となることが要求されることは明らかであるから、軸組部材を仕口接合部で連結する際、周知の技術を採用して、引用発明に記載された模型建物を木造建築模型とし、軸組み部材の仕口接合部が連結したものとし、軸組み部材の仕口接合部を弾性伸縮部材で締結し、仕口接合部を変形中心点とする木造建築模型の揺れによる変形を、目視確認できるよう構成した相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうる程度のことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用文献及び周知技術から、当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願発明は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-24 
結審通知日 2008-10-21 
審決日 2008-11-04 
出願番号 特願2003-13133(P2003-13133)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 七字 ひろみ
酒井 進
発明の名称 木造建築の耐震構造説明用模型  
代理人 幸田 全弘  
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