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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1190314
審判番号 不服2005-25380  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-28 
確定日 2009-01-08 
事件の表示 平成 7年特許願第195178号「インクジェットプリンタ装置及びインクジェットプリンタの階調制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月10日出願公開、特開平 9- 39274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成7年7月31日に出願したものであって、平成17年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年1月27日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成20年2月20日付けで平成18年1月27日付け手続補正を補正却下するとともに拒絶理由(以下、「当審最初の拒絶理由」という。)を通知したところ、平成20年4月28日付けで明細書についての手続補正がなされ、さらに、当審において平成20年5月19日付けで最後の拒絶理由(以下、「当審最後の拒絶理由」という。)を通知したところ、請求人は平成20年7月22日付けで意見書及び手続補正書を提出した。

第2.平成20年7月22日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含むものであって、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。

<補正前>(平成20年4月28日付け手続補正による)
「【請求項1】 液体インクをノズルから吐出させ、記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ装置において、
1画素の入力データ値を出力階調数に応じて設定された複数の閾値で多値化する際に、多値化時に計算される誤差を周囲の画素に分配して、多値化された値を得るディザ表示制御手段と、
各画素を形成する上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で複数段階に可変制御するために、上記多値化された値を予め決定された関係に基づき駆動信号に変換するインク制御手段と、
上記ディザ表示制御手段及び上記インク制御手段により制御された直径を有する上記液体インクの液滴を、上記駆動信号に基づき吐出するプリントヘッドとを備えて成り、
上記インク制御手段は、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さく変換する
インクジェットプリンタ装置。
【請求項2】 インク液滴を吐出するための手段として電歪振動子を備え、上記電歪振動子への印加電圧を切換制御して、上記ノズルから吐出される上記液体インクの液滴の直径を複数段階に可変制御する請求項1記載のインクジェットプリンタ装置。
【請求項3】 上記インク制御手段は、少なくとも、インク吐出特性若しくはインク粘性のいずれかに基づき、上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で可変する請求項1記載のインクジェットプリンタ装置。
【請求項4】 液体インクをノズルから吐出させ、記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタの階調制御方法において、
1画素の入力データ値を出力階調数に応じて設定された複数の閾値で多値化する際に、多値化時に計算される誤差を周囲の画素に分配して、多値化された値を得る第1の工程と、
各画素を形成する上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で複数段階に可変制御するために、上記多値化された値を予め決定された関係に基づき駆動信号に変換する第2の工程と、
上記第1の工程及び上記第2の工程により制御された直径を有する上記液体インクの液滴を、上記駆動信号に基づき吐出する工程とを備えて成り、
上記第2の工程では、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さく変換する
インクジェットプリンタの階調制御方法。
【請求項5】 インク液滴を吐出するための手段として電歪振動子を用い、上記電歪振動子への印加電圧を切換制御して、上記ノズルから吐出される上記液体インクの液滴の直径を複数段階に可変制御する請求項4記載のインクジェットプリンタの階調制御方法。
【請求項6】 上記第2の工程は、少なくとも、インク吐出特性若しくはインク粘性のいずれかに基づき、上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で可変する請求項4記載のインクジェットプリンタの階調制御方法。」

<補正後>(平成20年7月22日付け手続補正による)
「【請求項1】 液体インクをノズルから吐出させ、記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ装置において、
1画素の入力データ値を出力階調数に応じて設定された複数の閾値で多値化する際に、多値化時に計算される誤差を周囲の画素に分配して、多値化された値を得るディザ表示制御手段と、
各画素を形成する上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で複数段階に可変制御するために、上記多値化された値を予め決定された関係に基づき駆動信号に変換するインク制御手段と、
上記ディザ表示制御手段及び上記インク制御手段により制御された直径を有する上記液体インクの液滴を、上記駆動信号に基づき吐出するプリントヘッドとを備えて成り、
上記インク制御手段は、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する
インクジェットプリンタ装置。
【請求項2】 インク液滴を吐出するための手段として電歪振動子を備え、上記電歪振動子への印加電圧を切換制御して、上記ノズルから吐出される上記液体インクの液滴の直径を複数段階に可変制御する請求項1記載のインクジェットプリンタ装置。
【請求項3】 上記インク制御手段は、少なくとも、インク吐出特性若しくはインク粘性のいずれかに基づき、上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で可変する請求項1記載のインクジェットプリンタ装置。
【請求項4】 液体インクをノズルから吐出させ、記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタの階調制御方法において、
1画素の入力データ値を出力階調数に応じて設定された複数の閾値で多値化する際に、多値化時に計算される誤差を周囲の画素に分配して、多値化された値を得る第1の工程と、
各画素を形成する上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で複数段階に可変制御するために、上記多値化された値を予め決定された関係に基づき駆動信号に変換する第2の工程と、
上記第1の工程及び上記第2の工程により制御された直径を有する上記液体インクの液滴を、上記駆動信号に基づき吐出する工程とを備えて成り、
上記第2の工程では、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する
インクジェットプリンタの階調制御方法。
【請求項5】 インク液滴を吐出するための手段として電歪振動子を用い、上記電歪振動子への印加電圧を切換制御して、上記ノズルから吐出される上記液体インクの液滴の直径を複数段階に可変制御する請求項4記載のインクジェットプリンタの階調制御方法。
【請求項6】 上記第2の工程は、少なくとも、インク吐出特性若しくはインク粘性のいずれかに基づき、上記液体インクの液滴の直径を上記多値化された値で可変する請求項4記載のインクジェットプリンタの階調制御方法。」

この補正は、インク制御手段(第2の工程)に関して、補正前の請求項1及び4に「上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さく変換する」とあったのを、補正後の請求項1及び4では、「上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」とするものである。

2.補正の目的についての検討
本件補正における特許請求の範囲の補正は、当審最後の拒絶理由で示す理由1の特許法第17条の2第3項及び理由2の特許法第36条第6項第1号の拒絶理由を解消するために行ったものと解される。
つまり、特許請求の範囲が発明の詳細な説明に記載される事項の範囲外まで含むとの拒絶理由(前記「理由1」)や、特許請求の範囲に記載される事項まで拡張ないし一般化できないとの拒絶理由(前記「理由2」)は、特許請求の範囲の記載が明りようでないことによって生じていたので、特許請求の範囲の記載を補正することで前記拒絶理由を解消しようとするものであるから、この補正は、特許請求の範囲の記載を明りようにすることを目的としているといえる。
よって、この補正の目的は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」に該当する。

第3.本願の請求項1?6に係る発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成20年7月22日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1?6に係る発明は、前記「第2.平成20年7月22日付け手続補正の補正(以下、「本件補正」という。)について」の「1.補正の内容」において、「<補正後>(平成20年7月22日付け手続補正による)」で摘記したとおりである。

第4.当審最後の拒絶理由
当審最後の拒絶理由の内容は以下の通りである。

「<理由1>
(記載を省略)

<理由2>
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


平成20年4月28日付け手続補正により、請求項1?6に係る発明は、「上記インク制御手段は、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さく変換する」又は「上記第2の工程では、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さく変換する」との構成が付加されたものである。
一方、発明の詳細な説明の段落【0015】?【0016】には、上記構成に関して、
「ここで、このインクジェットプリンタ装置で用いられる画像を多階調で表現する方法は、読み出し専用メモリであるROM2に格納されたプログラムが、演算処理装置であるCPU1に自動的に送られたり、あるいは使用者がCPU1に接続される図示しない操作キー等を手動的で操作した内容等がCPU1に送られたりすることにより、CPU1によって選択される。
この画像を多階調で表現する方法としては、第1の方法として、記録媒体上のインク液滴の直径、即ちインクドット径を中間調に適した大きさに合わせる方法、第2の方法として、インクドット径を中間調に適した大きさよりも1?2段階小さくし、その不足分のインク液滴を周囲の画素として小さなインクドット径で配置することにより、総合的に中間調を表現する方法、及び第3の方法として、小さなインクドット径でインク液滴を数多く周囲に配置して、総合的に中間調を表現する方法等が考えられる。上記第1の方法では、画像の実質的な解像度は高いが、大きなインクドット径を用いるので、画像の粒状性は良くないのに対して、第3の方法では、画像の実質的な解像度は低下するが、画像の粒状性は良くなる。従って、実質的な解像度が落ちても粒状性が良い画像が好まれるポートレート等に対しては、第2の方法及び第3の方法で画像の印画を行い、逆に、粒状性は悪くても、実質的な解像度が高い画像が要求される設計図面等に対しては、第1の方法で画像の印画を行う。また、実質的な解像度及び粒状性の両方が求められる画像に対しては、第2の方法を用いる。尚、1枚の画像の中で、部分的に実質的な解像度と粒状性とを変化させることが要求されるときに、部分的に実質的な解像度及び粒状性を計測することが可能な場合には、CPU1の制御により、上記第1、第2、及び第3の方法を自動的に切り換えるようにしてもよい。」
との記載があり、概略して、設計図面等に対する階調制御方法は第1の方法を採り、ポートレート等に対する階調制御方法は第2の方法及び第3の方法を採ることが記載されている。
しかしながら、第1の方法を採った場合には、中間調に適した大きさのインクを吐出させるための駆動信号のみがプリントヘッドに入力されるのに対して、第2又は第3の方法を採った場合には、中間調に適した大きさよりも小さくしたインクを吐出させるための駆動信号と、不足分を補うための小さなインクを吐出させるための駆動信号とがプリントヘッドに入力されることになり、第1の方法の場合と第2又は第3の方法の場合のいずれの場合でも正常に印画できるものとするために、「入力データ値」と「1画素」と「ノズル」と「駆動信号」をどのような対応関係とするのか記載されておらず対応関係が不明である。さらに、第2又は第3の方法の場合においては、「中間調に適した大きさよりも小さくしたインクを吐出させるための駆動信号」と「不足分を補うための小さなインクを吐出させるための駆動信号」の両方がプリントヘッドに入力されることになるが、正常に印画できるものとするために、それらの駆動信号と「入力データ値」と「1画素」と「ノズル」をどのような対応関係とするのかも記載されておらず対応関係が不明である。
そして、これらの対応関係が不明であると、ポートレート画像が入力された場合とポートレート以外の画像が入力された場合のいずれにおいても、正常な印画を行うことができるインクジェットプリンタ装置を想定することができない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(記載を省略) 」

第5.当審の判断
当審最後の拒絶理由の理由2は、その理由の1つとして、「発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」とするものであるから、発明の詳細な説明において、請求項1?6に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかについて検討する。
発明が複数の構成からなる場合には、当然、そのすべての構成に対して、発明の詳細な説明に当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていなければならないものであるが、以下では、特に、請求項1?6に係る発明に共通し、それらの発明の特徴点といえる構成について、発明の詳細な説明に当業者が実施可能な程度に記載されているかを検討することとする。

1.請求項1?6に係る発明に共通する構成
請求項1?3に係る発明と、請求項4?6に係る発明とは、物の発明と方法の発明という発明のカテゴリーという点でのみ異なり、さらに、請求項2,3は、請求項1を引用する発明であり、請求項5,6は、請求項4を引用する発明であることから、請求項1?6のすべての発明に共通する構成は、請求項1に記載されているといえる。

2.請求項1に係る発明における特徴点
まず、請求項1に係る発明を、当審最初の拒絶理由において示された刊行物に記載される発明と対比することで、請求項1に係る発明の特徴点を検討する。

(1)請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明との対比
請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と、当審最初の拒絶理由で示され、本願出願日前に頒布された特開平3-18177号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明との一致点及び相違点は、概ね、以下のとおりである。

<一致点>
「1画素の入力データ値を出力階調数に応じて設定された複数の閾値で多値化する際に、多値化時に計算される誤差を周囲の画素に分配して、多値化された値を得るディザ表示制御手段と、ディザ表示制御手段により制御された画像データに基づいて記録を行うプリントヘッドとを備えたプリンタ装置。」

<相違点1>
本願発明は、「多値化された値」を予め決定された関係に基づき「駆動信号」に変換するインク制御手段を備えることを特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。

<相違点2>
本願発明は、プリンタの記録方式が、「液体インクをノズルから吐出させ、記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ」であって、階調制御を行う方法が、各画素を形成する液体インクの液滴の直径を複数段階に可変制御するものであり、プリントヘッドは、インク制御手段が出力する駆動信号に基づいて、液体インクの液滴の直径を制御して吐出するものであることを特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。

<相違点3>
本願発明では、「上記インク制御手段は、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」との特定を有するのに対し、引用発明では、そのような特定を有しない点。

(2)本願発明と刊行物1記載の発明との相違点についての検討
<相違点1>について
一般に、記録方式(インクジェット方式かサーマル方式か等、また、インクジェット方式のおける加熱方式か圧電方式か等)が異なれば駆動対象が異なるので、同じ階調値でも駆動対象に応じた駆動信号に変換する必要があることは周知の事項であるし、装置毎の設計の違いによってもヘッドの駆動量と出力される階調値との関係が異なるので、同じ階調値でも装置毎に駆動信号に変換する特性を設計する必要があることも周知の事項である。
したがって、所望の階調値が得られるように、装置毎に入力階調値から駆動信号への変換特性を予め決定させておくことは、プリンタの駆動装置を設計する際の技術常識である。
そして、刊行物1記載の発明は、1画素で数階調を出力できる多値プリンタであることから、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、刊行物1、周知の事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

<相違点2>について
当審最初の拒絶理由で示され、本願出願日前に頒布された特開平7-60961号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「液体インクをインク吐出口から吐出させ、用紙に記録を行うインクジェットプリンタにおいて、インク滴の大きさを複数段階に変化させることで階調度を制御する点」が記載されており、刊行物1記載の発明のプリンタを、刊行物2に記載されるごとき、インクの直径を複数段階に変化させることで階調度を制御するインクジェットプリンタとすることは当業者が容易に想到することである。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に想到できたものである。

(3)検討結果
したがって、前記相違点1及び2については、刊行物1、刊行物2、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるから(既に、当審最初の拒絶理由の理由2で同様のことを示している。)、本願発明は、前記相違点3に係る構成の「上記インク制御手段は、上記画像データがポートレートの場合、上記画像データがポートレート以外の場合よりも、インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」点(請求人は、当審最初の拒絶理由及び当審最後の拒絶理由に対応して、前記相違点3に係る構成を新たに特定したものである。)に特徴を有する発明といえる。

3.発明の詳細な説明の記載について
そこで、請求項1?6に共通し、それらの発明の特徴点である前記相違点3に係る構成について、発明の詳細な説明で、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討する。

発明の詳細な説明における、前記相違点3に係る構成に関連した記載箇所は、段落【0015】?【0016】であって、その記載は、以下のとおりである。
「 【0015】
ここで、このインクジェットプリンタ装置で用いられる画像を多階調で表現する方法は、読み出し専用メモリであるROM2に格納されたプログラムが、演算処理装置であるCPU1に自動的に送られたり、あるいは使用者がCPU1に接続される図示しない操作キー等を手動的で操作した内容等がCPU1に送られたりすることにより、CPU1によって選択される。
【0016】
この画像を多階調で表現する方法としては、第1の方法として、記録媒体上のインク液滴の直径、即ちインクドット径を中間調に適した大きさに合わせる方法、第2の方法として、インクドット径を中間調に適した大きさよりも1?2段階小さくし、その不足分のインク液滴を周囲の画素として小さなインクドット径で配置することにより、総合的に中間調を表現する方法、及び第3の方法として、小さなインクドット径でインク液滴を数多く周囲に配置して、総合的に中間調を表現する方法等が考えられる。上記第1の方法では、画像の実質的な解像度は高いが、大きなインクドット径を用いるので、画像の粒状性は良くないのに対して、第3の方法では、画像の実質的な解像度は低下するが、画像の粒状性は良くなる。従って、実質的な解像度が落ちても粒状性が良い画像が好まれるポートレート等に対しては、第2の方法及び第3の方法で画像の印画を行い、逆に、粒状性は悪くても、実質的な解像度が高い画像が要求される設計図面等に対しては、第1の方法で画像の印画を行う。また、実質的な解像度及び粒状性の両方が求められる画像に対しては、第2の方法を用いる。尚、1枚の画像の中で、部分的に実質的な解像度と粒状性とを変化させることが要求されるときに、部分的に実質的な解像度及び粒状性を計測することが可能な場合には、CPU1の制御により、上記第1、第2、及び第3の方法を自動的に切り換えるようにしてもよい。」

段落【0015】に、「多階調で表現する方法は、・・・CPU1によって選択される。」と記載されていることから、入力画像データの種類が何かしらの方法で判別され、入力画像データの種類に応じて第1の方法から第3の方法のいずれかが選択されることが把握できる。例えば、入力画像データがポートレートの場合に、第2の方法又は第3の方法が選択されるのに対して、ポートレート以外の場合に、第1の方法が選択されることが把握できる。
そこで、発明の詳細な説明の記載から、ポートレートの場合とポートレート以外の場合のそれぞれの場合において、当業者が発明を実施できるかについて検討するが、本件の請求項1?6に係る発明は、「ディザ表示制御手段」と「インク制御手段」を用いて、入力されるデータをインク吐出するための駆動信号とするまでのデータ処理に特徴を有する発明であるので、入力されるデータから各ノズルに対する出力用の駆動信号をどのように作成すればよいかを、当業者が容易に想定できるかについて検討することとする。

(1)ポートレート以外の場合
この場合には、多階調で表現する方法として、第1の方法に切り換えられる。
そして、「ディザ表示制御部」において、入力された階調値データを多値化処理及び誤差拡散処理して各画素に対する多値データとした後、「インク制御手段」において、多値データを駆動信号に変換することで、各画素に対する駆動信号が得られ、得られた駆動信号に応じた大きさのインクをプリントヘッドから吐出することが、発明の詳細な説明の記載から理解できる。そして、プリントヘッドの長手方向(主走査方向)の各ノズルに対して各画素の駆動信号を1対1に対応付けることで、駆動信号に応じたインクを各ノズルから吐出することが可能であることが理解できる。
つまり、この場合については、発明の詳細な説明の記載から、当業者が発明を容易に実施することができるものである。

(2)ポートレートの場合
この場合には、多階調で表現する方法として、第2又は第3の方法に切り換えられる。
「ディザ表示制御部」において、入力された階調値データを多値化処理及び誤差拡散処理して各画素に対する多値データとするまでは、ポートレート以外の場合と同様であると理解できる。
また、「インク制御手段」において、多値データを駆動信号に変換するときに、第1の方法における駆動信号と比較してインク吐出量の少ない駆動信号(第2又は第3の方法における注目画素の駆動信号で吐出されるインク量は、第1の方法における注目画素の駆動信号で吐出されるインク量よりも少ない。)とすることまでは理解できる。
しかしながら、第2又は第3の方法を採用することによって、「インク制御手段」は、直径が小さくされたインクが形成される画素(以下「注目画素」という。)の周囲に「小さなインクドット」を形成するとしているが、小さなインクドットを形成するために、「インク制御手段」で多値化された値をどのように駆動信号に変換するのか理解できない。
「小さなインクドット」を形成するためには、小さなインクを吐出するための駆動信号を発生させて、その駆動信号に基づいてインク吐出を行っているはずであるから、「注目画素」の周囲の画素に対して、「小さなインクドット」を形成するための駆動データを割り当てる必要が生じる。しかし、前記の「注目画素」とは、特定の画素のみを指すのではなく、全ての多値化されたデータに対する画素を順番に注目するものであるから、「注目画素」の周囲の画素もまた「注目画素」となり得るものである。すると、それぞれの画素に対して、「注目画素」として多値化された値に対する駆動信号が割り当てられるとともに、周囲の画素として小さなインクドットを形成するための駆動信号も割り当てられることになり、それぞれの画素に対する駆動信号としてどのような信号とすればよいのか想定できない。また、小さなインクドットを形成するための駆動信号があっても、その画素の周囲に位置する画素自身の駆動信号によって小さなインクドットではなくなることも十分に想定される。
また、「注目画素」とする画素と、「小さなインクドット」を形成する画素とを別々にすることも一応考えられるが、そうすると、ポートレートの場合とポートレート以外の場合で記録位置が大きく異なることになり、それぞれの場合の記録位置をどのように設定するか(各ノズルの駆動素子に対してどの駆動信号を割り当てるか)について何ら記載されていないことからして、発明の詳細な説明は、「注目画素」とする画素と、「小さなインクドット」を形成する画素とを別々にすることを想定して記載されたものと解することはできない。
してみれば、ポートレート画像とポートレート以外の画像の両方を入力できるプリンタとして、第1の方法の場合と第2又は第3の方法の場合のどちらの場合においても正常に印字できるように、「小さなインクドット」を形成する場合と、「小さなインクドット」を形成しない場合のそれぞれにおいて、「入力データ」と「多値データ」と「駆動信号」を、1つの画素に対してどのように対応させているのか不明であるとともに、インク制御手段が具体的にどのようなことを行って駆動信号を作成すればよいか理解できない。
つまり、発明の詳細な説明をみても、入力されるデータから出力用の駆動信号をどのように作成し、各ノズルの駆動素子に対してどの駆動信号を割り当てるかを想定できないのであるから、本件の発明の詳細な説明は、データ処理に特徴を有する請求項1?6に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない。

よって、前記相違点3に係る構成について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

また、請求人は、平成20年7月22日付けの意見書において、当審最後の拒絶理由の理由2に対して、
「 「よって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
とされ、
「よって、請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」
とされた。
上記指摘に対しては、本意見書と同日付けで提出した手続補正書により特許請求の範囲の請求項1,4の記載を補正し、
「インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」
との旨を明記し、記載の明瞭化を図った。
ここで、上記「インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」ことは、画素サイズまで小さくして中心に小さな液滴を打ってその周囲の画素に小さな液滴を打ち込むようにし、総液滴の数を増やす(当初の画素の中に複数の液滴を打つ)ことを意味するものではなく、画素サイズは変わらず、周囲の画素に対して、例えばディザ処理時のスレッショルドレベルを変えることによって、液滴を小さくするものである。また、少なくとも、「インク液滴を小さくすると共に、その不足分のインク液滴を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」という記載からは、画素サイズを変えることを想起させるものではなく、「中間調に適した大きさよりも小さくしたインクを吐出させるための駆動信号」と「不足分を補うための小さなインクを吐出させるための駆動信号」の両方がプリントヘッドに入力されるものでもない。
上記補正によって、上記拒絶理由通知書において指摘された拒絶の理由2は解消されたものと思料する。 」
と主張している。
ここで、「インクの液滴の直径を小さくすると共に、その不足分を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」点について、請求人の主張は以下の(a)?(d)を指摘するものと解される。

(a)画素サイズまで小さくして中心に小さな液滴を打ってその周囲の画素に小さな液滴を打ち込むようにし、総液滴の数を増やす(当初の画素の中に複数の液滴を打つ)ことを意味するものではない。
(b)画素サイズは変わらず、周囲の画素に対して、例えばディザ処理時のスレッショルドレベルを変えることによって、液滴を小さくするものである。
(c)少なくとも、「インク液滴を小さくすると共に、その不足分のインク液滴を周囲の画素として小さなインクドット径で配置する」という記載からは、画素サイズを変えることを想起させるものではない。
(d)中間調に適した大きさよりも小さくしたインクを吐出させるための駆動信号」と「不足分を補うための小さなインクを吐出させるための駆動信号」の両方がプリントヘッドに入力されるものではない。

前記(a),(c),(d)の主張は、発明の詳細な説明の記載から請求項1?6に係る発明を実施することができることを、説明するものではない。
また、前記(b)の主張は、例えばディザ処理時のスレッショルドレベルを変えることで液滴を小さくするとの主張であるが、そもそも、ディザ処理を行うのは「ディザ表示制御部」であって、「インク制御手段」でディザ処理を行うことについては、発明の詳細な説明に記載されていないのであるから、この主張からは、インク制御部でどのような処理を行っているのかは理解できない。
したがって、請求人のこれらの主張をみても、発明の詳細な説明の記載が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると解することはできず、請求人のこれらの主張は採用できない。

4.まとめ
少なくとも、請求項1?6に共通し、それらの発明の特徴点といえる当審の最初の拒絶理由で指摘した容易想到性には含まれていない前記相違点3に係る構成について、発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえないのであるから、他の構成との組合わせも検討し得ず、発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、当審最後の拒絶理由で示した理由2の1つの理由である平成14年改正前特許法第36条第4項の拒絶の理由については、依然として解消していないというべきである。

なお、当審において、本件補正における特許請求の範囲の補正の目的は、特許請求の範囲の記載を明りようにするものに該当すると判断したものであるが、仮に、この補正の目的を特許請求の範囲の減縮であるとしても、発明の詳細な説明の記載は、先に検討したのと同様に、明確かつ十分に記載されていないのであって、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないのであるから、請求項1?6に係る発明は独立して特許を受けることができない。したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反することになるので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであり、平成20年5月19日付け最後の拒絶理由通知書の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願明細書の記載が不備であり、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-06 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-26 
出願番号 特願平7-195178
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男大仲 雅人  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 酒井 進
菅藤 政明
発明の名称 インクジェットプリンタ装置及びインクジェットプリンタの階調制御方法  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  

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