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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05C
管理番号 1190344
審判番号 不服2006-21615  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-27 
確定日 2009-01-08 
事件の表示 特願2001- 68017「被膜形成装置及び被膜形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月17日出願公開、特開2002-263548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年3月12日の出願であって、平成18年8月25日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、平成18年9月27日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成18年10月25日付け手続補正書により審判請求書の請求の理由が補正された。その後平成20年8月18日付けで当審より拒絶の理由が通知され、平成20年10月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

したがって、本願請求項1に係る発明は、平成20年10月17日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるものである。

「【請求項1】 基板を上流側から下流側へ搬送するライン上に塗布ステーションを設け、この塗布ステーションよりも下流側のライン上に減圧乾燥ステーションを配置した被膜形成装置において、前記塗布ステーションの上流側には塗布装置が、下流側には回転処理装置が配置され、前記減圧乾燥ステーションには、複数の減圧乾燥装置がライン上に直列に配置され、下流側の減圧乾燥装置は上流側での減圧乾燥処理が終了した基板を受けて処理を継続すべく、複数の減圧乾燥装置はそれぞれ独立して処理条件を設定し得るものとされ、且つ下流側の減圧乾燥装置の減圧状態を上流側の減圧乾燥装置の減圧状態よりも圧力を低く設定したことを特徴とする被膜形成装置。」(以下、「本願発明」という。)

2.特許法第29条の2の適用
(1)先願明細書等に記載された発明
当審より通知した拒絶の理由において引用した、本願の出願日前の他の特許出願であって、本願特許出願後に出願公開された、特願2000-135414号(特開2001-319852号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次のことが記載されている。

a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被処理基板上に塗布された揮発性の溶剤を含む塗布液を乾燥させる乾燥方法であって、
第1の減圧空間内に前記基板を置いて、前記塗布液中の溶剤を所定の量だけ揮発させる第1の工程と、
前記第1の乾燥工程の後に、前記第1の減圧空間から実質的に独立した第2の減圧空間内に前記基板を置きかつ加熱して、前記塗布液中の溶剤をさらに所定の量だけ揮発させる第2の工程とを有する乾燥方法。
【請求項2】 前記第2の減圧空間の圧力を前記第1の減圧空間の圧力よりも低い値に設定する請求項1に記載の乾燥方法。
‥ (中略) ‥
【請求項9】 被処理基板上に塗布された揮発性の溶剤を含む塗布液を乾燥する乾燥装置であって、
第1の減圧空間を有し、前記第1の減圧空間内に前記基板を置いて、前記塗布液中の溶剤を所定の量だけ揮発させる第1の処理部と、
前記第1の減圧空間から実質的に独立した第2の減圧空間を有し、前記第2の減圧空間内に前記基板を置いてかつ加熱して、前記塗布液中の溶剤をさらに所定の量だけ揮発させる第2の処理部とを有する乾燥装置。」(【特許請求の範囲】)

b)「【0016】図1に、本発明の一実施形態における乾燥装置の構成を模式的に示す。この乾燥装置は、密閉可能つまり減圧可能な2つの処理室またはチャンバ10,12を併設してなる。両チャンバ10,12は、側壁14とゲートバルブ16を介して互いに隣接している。」(段落【0016】)

c)「【0031】先ず、被処理基板Bは第1のチャンバ10に搬入される。この搬入される基板Bは、直前に塗布装置(図示せず)において基板表面全体にたとえば常法の塗布工程たとえばスピンコート法により塗布液を一定の膜厚に塗布されている。
【0032】この基板Bの搬入に際して、第1のチャンバ10の室内は不活性ガス(パージングガス)で満たされ常圧に維持されている。ゲートバルブ34が開いて外部搬送装置の搬送アームが基板Bを保持したまま室10内に入ってきて、基板Bを支持台18の上方にセットする。そこに、リフトピン22が上昇して搬送アームから基板Bを受け取る。搬送アームが退室した後、リフトピン22が下降して基板Bを支持台18に載置する。一方で、ゲートバルブ34が閉じて、第1のチャンバ10内は密閉空間となる。
‥ (中略) ‥
【0034】こうして、第1のチャンバ10において基板Bが常圧状態から真空度の比較的低い設定圧力まで徐々に減圧する空間内に置かれることで、基板B上の塗布液中の溶剤が徐々にかつ穏やかに揮発し、揮発した溶剤は室外に排出される。ここで、減圧乾燥の初期段階には、基板Bの表面よりガスが放出される。また、真空引きの初期段階には第1のチャンバ10の内壁等からもガスが放出される。 ‥ (中略) ‥
【0035】真空引きを開始してから所定時間t1が経つと、第1のチャンバ10における減圧乾燥処理が終了する。この時点で、基板B上の塗布液は一定の段階まで乾燥している。この減圧乾燥処理における乾燥の度合いまたは溶剤の揮発量は、レジスト液の種類に依存するが、処理時間t1、圧力等のパラメータによって調節可能であり、たとえば所望の到達乾燥度(総揮発量)の30%の程度まで乾燥させてよい。
【0036】上記のようにして第1のチャンバ10における減圧乾燥処理が終了すると、リフトピン22が上昇して基板Bを水平姿勢のまま所定の高さ位置まで持ち上げる。この直後に、同室内の搬送装置24が作動して、搬送アーム26をリフトピン22に支持されている基板Bの下まで伸ばし、リフトピン22から基板Bを受け取る。一方で、ゲートバルブ16が開く。
‥ (中略) ‥
【0038】第2のチャンバ12の室内は、基板Bの搬入に先立って予め所定の真空度たとえば10^(-2) Torr付近に維持されている。基板Bの搬入時には上記のようにゲートバルブ16が開いて一時的に第1のチャンバ10と連通するため、第2のチャンバ12の室内の圧力は上昇する。この圧力の変化は圧力センサ58によって検出され、コントローラの制御の下で第2の真空排気システムにより直ちに補正される。これにより、第2のチャンバ12においては、基板Bの搬入直後から所定の真空度で減圧乾燥を開始することができる。」(段落【0031】?【0038】)

d)「【0042】このように、第2のチャンバ12内では、第1のチャンバ12内で減圧乾燥処理を一定の段階まで受けてきた基板Bに対して、より高い真空度の減圧空間にて減圧乾燥処理が続行されると同時に加熱処理が行われる。これにより、基板B上の塗布液から溶剤が本格的に勢いよく揮発し、短時間のうちに塗布液が乾燥して、塗布膜(被膜)が形成される。」(段落【0042】)

e)【0060】塗布プロセス部112は、レジスト塗布ユニット(CT)134と、乾燥ユニット(VD)136と、エッジリムーバ・ユニット(ER)138と、上下2段型アドヒージョン/冷却ユニット(AD/COL)140と、冷却ユニット(COL)142と、加熱ユニット(HP)144とを含んでいる。乾燥ユニット(VD)136が本発明の一実施形態による乾燥装置であり、その詳細は後に説明する。」(段落【0060】)

f)上記e)及び図5等の記載からみて、先願明細書等に記載された塗布プロセス部112は、上流側に配置されたレジスト塗布ユニット(CT)134と、当該レジスト塗布ユニット(CT)134よりも下流側に配置された乾燥ユニット(VD)136とがライン上に配置され、当該ライン上を基板が搬送されるものであることがわかる。

g)上記a)乃至d)、及び図1等の記載からみて、先願明細書等に記載された乾燥ユニット(VD)136は、ライン上に直列に配置され、各々のチャンバにおいて基板を減圧乾燥させるものであること、及び各々のチャンバにおける減圧乾燥は、それぞれ独立して真空度等の処理条件を設定できるものであることがわかる。

h)以上のこと、及び図面の記載からみて、先願明細書等には以下の発明が記載されているものといえる。

「基板を上流側から下流側へ搬送するライン上にレジスト塗布ユニット(CT)134を設け、このレジスト塗布ユニット(CT)134よりも下流側のライン上に乾燥ユニット(VD)136を配置した塗布プロセス部112において、前記乾燥ユニット(VD)136には、第1のチャンバ10と第2のチャンバ12との2つのチャンバがライン上に直列に配置され、下流側の第2チャンバ12は、上流側(第1チャンバ10)での減圧乾燥処理が終了した基板を受けて(減圧乾燥)処理を継続すべく、2つのチャンバ10及び12はそれぞれ独立して処理条件を設定し得るものとされ、且つ下流側の第2チャンバ12の真空度を上流側の第1チャンバ10の真空度よりも圧力を低く設定した塗布プロセス部112。」(以下、「先願明細書等に記載された発明」という。)

(2)対比
本願発明と先願明細書等に記載された発明とを比較すると、先願明細書等に記載された発明における「レジスト塗布ユニット(CT)134」、「乾燥ユニット(VD)136」、「塗布プロセス部112」、「第1のチャンバ10」、「第2のチャンバ12」および「真空度」は、それぞれ本願発明における「塗布ステーション」、「減圧乾燥ステーション」、「被膜形成装置」、「上流側の減圧乾燥装置」、「下流側の減圧乾燥装置」および「減圧状態」に相当し、先願明細書等に記載された発明は第1のチャンバ10及び第2のチャンバ12の「2つのチャンバ」を備えるものであり、本願発明の「複数の減圧乾燥装置」に包含されるものであるから、両者は、「基板を上流側から下流側へ搬送するライン上に塗布ステーションを設け、この塗布ステーションよりも下流側のライン上に減圧乾燥ステーションを配置した被膜形成装置において、前記減圧乾燥ステーションには、複数の減圧乾燥装置がライン上に直列に配置され、下流側の減圧乾燥装置は上流側での減圧乾燥処理が終了した基板を受けて処理を継続すべく、複数の減圧乾燥装置はそれぞれ独立して処理条件を設定し得るものとされ、且つ下流側の減圧乾燥装置の減圧状態を上流側の減圧乾燥装置の減圧状態よりも圧力を低く設定した被膜形成装置。」である点で一致するが、本願発明の備える「塗布ステーション」は「上流側には塗布装置が、下流側には回転処理装置が配置され」るものであるのに対し、先願明細書等に記載された発明が備える「塗布プロセス部112」は具体的にどのようなものか明らかでない点、相違する。
しかし、回転塗布(いわゆるスピンコート)の技術分野において、上流側に塗布装置を、下流側に回転処理装置を配設したような形式のものは、例えば特開平4-118073号公報(公報第2頁左下欄第19行?右下欄第15行、同第4頁左下欄7行?第5頁左上欄第17行、及び第1図、第2図等の記載を参照されたい。)、特開平2-290277号公報(公報第4頁左下欄第6行?同第5頁右上欄第6行、及び第2図等の「第1の実施例」に関する記載を参照されたい。)に記載されているように、上記他の特許出願の出願前において周知の技術である(以下、「周知技術」という。)。
してみると、上記の相違点は、単に先願明細書等に記載された発明の塗布プロセス部112に当該周知技術を採用した程度のことにすぎず、また、上記周知技術を採用することが、本願発明の課題とする、減圧乾燥装置による処理時間を短くすることによりタクトタイムを短縮しつつ基板を同1条件で処理することと、特段齟齬を生ずるものでもない(むしろ、2つの工程を個々に処理できるという意味では、本願発明の課題に沿った好適なものといえる)ので、上記の相違点については、当業者にとり設計上、適宜に選択・採用する程度の微差にすぎない。
したがって、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願明細書等に記載された発明の発明者と同一でもなく、また本願の出願の時点において、本願の出願人が上記他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。

3.進歩性について
(1)刊行物1に記載された発明
当審より通知した拒絶の理由において引用した、本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2000-106341号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次のことが記載されている。

a)「【0040】次に、本実施の形態に係る塗布・現像処理システムにおける、一体的に設けられたレジスト塗布処理ユニット(COT)22、乾燥処理ユニット(DR)80およびエッジリムーバー(ER)23で構成されるユニット部107について説明する。図3は、一体的に設けられたレジスト塗布処理ユニット(CT)、乾燥処理ユニット(DR)およびエッジリムーバー(ER)からなるユニット部107の全体構成を示す概略平面図である。
【0041】図3に示すように、これらレジスト塗布処理ユニット(COT)22、乾燥処理ユニット(DR)80およびエッジリムーバー(ER)23で構成されるユニット部107は、同一のステージに一体的に並設されている。レジスト塗布処理ユニット(COT)22でレジストが塗布された基板Gは、ガイドレール43に沿って移動可能な一対のユニット内搬送機構である例えば搬送アーム41により乾燥処理ユニット(DR)80を経てエッジリムーバー(ER)23に搬送されるようになっている。 ‥(以下略) ‥」(段落【0040】、【0041】)

b)「【0051】次に、レジスト塗布から加熱処理までの一連の動作について詳細に説明する。上述のように一体的に構成されたレジスト塗布処理ユニット(COT)22、乾燥処理ユニット(DR)80およびエッジリムーバー(ER)23においては、まず、レジスト塗布処理ユニット(COT)22において、シャッター95を下降下させ、搬入口22aから主搬送装置18により基板Gがスピンチェック51上に載置される。主搬送装置18が搬入口22aから退出した後、シャッター95が上昇し、レジスト塗布処理ユニット(COT)22、乾燥処理ユニット(DR)80およびエッジリムーバー(ER)23を配置するユニット部107内は閉じられた空間となる。スピンチャック51および回転カップ52とともに基板Gが回転され、噴頭56が基板Gの中心上方に位置するようにアーム55が回動され、溶剤ノズル58から基板Gの表面中心にシンナーが供給される。
【0052】続いて、基板Gを回転させた状態でレジストノズル57から基板Gの中心にレジストを滴下して基板G全体に拡散させ、蓋体93で回転カップ52を閉塞し、基板Gの回転数を上昇させてレジスト膜の膜厚を整える。
【0053】その後、回転カップ52を回転させるか、または排気口104から排気を引き、回転カップ52内を常圧よりも低い圧力に維持しながら、レジスト膜の乾燥を行う。(第一の乾燥工程)。
【0054】回転カップ52内を減圧してレジスト膜の乾燥を行うことにより、次工程へ基板Gを搬送する搬送アーム41にレジストが付着して乾燥してこれがパーティクルとなって基板G上に付着することもなく、搬送アーム41の加減速によってレジスト膜厚が慣性力により変動することもなく、転写に対しても効果的である。また、回転カップ52内を減圧しているので、回転カップ52内のミストが外にもれてパーティクルとなって基板に付着することもない。また、第一の乾燥工程において、転写が発生しない程度に加熱することも可能で、さらに、乾燥処理時間が短縮できる。
【0055】その後、回転カップ52内でシャワーヘッド94から基板Gに気体である不活性ガスをレジスト膜の膜厚が変化しない程度の量で供給しながらレジスト膜を乾燥させると、さらに乾燥処理時間を短縮できる。
【0056】このようにしてレジスト塗布が終了した基板Gは、スピンチャック51から搬送アーム41により、乾燥処理ユニット(DR)80に搬送され、そこを通過しながらシャワーヘッド82から不活性ガスが吹き付けられてレジスト液中のシンナー等の溶剤がある程度蒸発され、その後エッジリムーバー(ER)23に搬送され、載置台61上に載置されて、4個のリムーバーヘッド62が基板Gの各辺に沿って移動し、吐出されたシンナーにより基板Gの四辺のエッジに付着した余分なレジストが除去(端面処理工程)される。エッジリムーバー(ER)23から搬出された基板Gは、ユニット28,29のいずれかの加熱処理ユニット(HP)にてプリベーク処理が施される。」(段落【0051】?【0056】)

c)「【0062】さらに、図6に示した不活性ガス等の吹き付けによる乾燥に代えて、前記第一の乾燥工程を行った後で、第二の乾燥工程である減圧乾燥を行ってもよい。すなわち、筐体81に、排気ポンプ(減圧手段、図示略)を有するガス排気管(図示略)を接続し、筐体81を密閉して筐体81内を排気ポンプにより排気するように構成されていてもよい。
【0063】第二の乾燥工程の雰囲気は、第一の乾燥工程の雰囲気より低圧力に設定されるのが好ましい。第一の乾燥工程にてレジスト膜中の微小泡が成長しない程度に常圧から減圧して乾燥させ、前記微小泡が成長しない程度に乾燥した後に、第一の乾燥工程の雰囲気より低圧力に設定された第二の乾燥工程の雰囲気で乾燥させることにより、微小泡が成長して膜厚が変化することがなく、転写に対しても効果的である。また、第一と第二の乾燥工程に分けることにより並列処理が行え、効率よく乾燥処理を行うことができる。」(段落【0062】、【0063】)

d)上記a)及び図3の記載からみて、刊行物1に記載された「ユニット部107」は、ユニット内搬送機構上にレジスト塗布処理ユニット(COT)22、及び当該レジスト塗布処理ユニット(COT)22の下流側のユニット内搬送機構上に乾燥処理ユニット(DR)80を配置したものであることがわかる。

e)上記b)、c)、図3及び図6の記載からみて、刊行物1に記載された「ユニット部107」では、レジスト塗布処理ユニット(COT)22において、回転カップ52内の基板にレジストを滴下し、基板の回転数を上昇させレジスト膜の膜厚を整えた後、レジスト処理ユニット内に存在する回転カップ22内において第一の乾燥工程(減圧乾燥)を実行し、その後乾燥処理ユニット(DR)80において第二の乾燥工程(減圧乾燥)を実行するものであること、また、当該第二の乾燥工程の雰囲気は第一の乾燥工程の雰囲気よりも低圧力に設定されるものであることがわかる。さらに上記c)によれば、乾燥工程を第一と第二の乾燥工程に分けることにより、並列処理が行え、効率よく乾燥処理を行うことができるものであることもわかる。

f)以上のことからみて、刊行物1には、次の発明が記載されているものといえる。

「基板を上流側から下流側へ搬送するユニット内搬送機構上にレジスト塗布処理ユニット(COT)22を設け、このレジスト塗布処理ユニット(COT)22よりも下流側のユニット搬送機構上に乾燥処理ユニット(DR)80を配置したユニット部107において、第一の乾燥工程を行うレジスト塗布処理ユニット(COT)22と乾燥処理ユニット(DR)80とがユニット内搬送機構上に直列に配置され、下流側の乾燥処理ユニット(DR)80は上流側での第一の乾燥工程が終了した基板を受けて処理を継続すべく、第一の乾燥工程及び第二の乾燥工程はそれぞれ独立して処理条件を設定し得るものとされ、且つ下流側の乾燥処理ユニット(DR)80における第二の乾燥工程の雰囲気を上流側の第一の乾燥工程の雰囲気よりも圧力を低く設定した、ユニット部107。」(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)

(2)刊行物2に記載された技術
当審より通知した拒絶の理由において引用した、本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開平7-283108号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次のことが記載されている。

a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薄膜形成装置及び薄膜形成方法に関し、特に、各種基板の表面にフォトレジスト等の塗布液を塗布して薄膜を形成する薄膜形成装置及び薄膜形成方法に関する。」(段落【0001】)

b)「【0015】
【実施例】
第1実施例
図1及び図2において、本発明の第1実施例による薄膜形成装置は、角型基板1の表面にフォトレジスト液の薄膜を形成するスピンコータ2と、薄膜が形成された角型基板1の端縁から不要な薄膜を除去する基板端縁洗浄装置3と、角型基板1を乾燥させるオーブン4とから主に構成されている。スピンコータ2は、基板周囲の雰囲気を減圧して基板を減圧乾燥する機能も有している。スピンコータ2と基板端縁洗浄装置3との間及び基板端縁洗浄装置3とオーブン4との間には、角型基板1を保持して搬送するための基板搬送ロボット5,6がそれぞれ配置されている。」(段落【0015】)

c)「【0025】第2実施例
図6に示す第2実施例の薄膜形成装置は、スピンコータ40と、減圧乾燥装置41と、基板端縁洗浄装置42と、複数のオーブン43とを有している。スピンコータ40は従来のスピンコータと同様であり、基板を保持する基板保持部と、基板表面に塗布液を供給する塗布液供給部と、基板保持部を回転させるための回転機構とを有している。減圧乾燥装置41は、装置本体45と、装置本体45に対して開閉自在な蓋46とを有している。基板1はケース本体45に設けられた支持ピン47上に載置される。ケース本体45には真空ポンプ等を含む排気系が接続されている。また排気経路の途中には切り換え弁48が設けられており、ガス供給系が接続されている。基板端縁洗浄装置42及びオーブン43は前述の実施例と同様の構成である。」(段落【0025】)

d)上記a)、図1、図2及び図6の記載からみて、刊行物2に記載された薄膜形成装置は、工程ライン上に、上流側にフォトレジスト液の薄膜を形成するスピンコータ40を、下流側に減圧乾燥装置41を直列に配置したものであることがわかる。

e)以上のこと、並びに図1,図2及び図6等の記載からみて、刊行物2には、「基板を上流側から下流側へ搬送するライン上にスピンコータ2を設け、当該スピンコータ2において塗布回転処理、及び減圧乾燥処理を実行する薄膜形成装置。」(第1実施例)、及び、「基板を上流側から下流側へ搬送するライン上にスピンコータ40を設け、このスピンコータ40よりも下流側のライン上に減圧乾燥処理装置41を配置し、当該スピンコータ40において塗布回転処理を実行し、また当該減圧乾燥処理装置41において減圧乾燥処理を実行するようにした薄膜形成装置。」(第2実施例)の両者が記載されており、当業者であれば、フォトレジスト等を塗布回転処理した後、減圧乾燥処理を実行する場合に、当該減圧乾燥処理については、スピンコータ部により実行しても、当該スピンコータに直列して別個に設けた減圧乾燥処理装置により実行しても、何れでもよいことが理解できる(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)。

(3)周知技術
先に上記2.(2)においても指摘したように、回転塗布(いわゆるスピンコート)の技術分野において、上流側に塗布装置を、下流側に回転処理装置を配設したような形式のものは、例えば特開平4-118073号公報、特開平2-290277号公報に記載されているように本願出願前において周知技術である。

(4)対比
本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の備える「ユニット内搬送機構」、「レジスト塗布処理ユニット(COT)22」、「乾燥処理ユニット(DR)80」、「ユニット部107」及び「雰囲気」は、それぞれ本願発明の備える「ライン」、「塗布ステーション」、「減圧乾燥ステーション」、「被膜形成装置」及び「減圧状態」に相当し、また、刊行物1に記載された発明における「乾燥処理ユニット(DR)80」は、レジスト塗布処理ユニット(COT)22の下流に配置され、且つ第二の乾燥工程を実行するものであるから、本願発明の備える「減圧乾燥ステーション」及び「下流側の減圧乾燥装置」に相当するものである。さらに、刊行物1に記載された発明では、上流側での「第一の乾燥工程」は「レジスト塗布処理ユニット(COT)22」により実行され、下流側の「第二工程の乾燥処理」は「乾燥処理ユニット(DR)」により実行されるものであるから、上流側の減圧乾燥装置において先の減圧乾燥処理を実行し、下流側の減圧乾燥装置において次の減圧乾燥処理を実行するものである本願発明とは、処理部位を異にするものではあるが、ともに「上流側において減圧乾燥処理が終了した基板を受けて(減圧乾燥)処理を継続」するものである限りにおいて、両者は共通する。
したがって、両者は、次の一致点及び相違点を有するものである。

〈一致点〉
「基板を上流側から下流側へ搬送するライン上に塗布ステーションを設け、この塗布ステーションよりも下流側のライン上に減圧乾燥ステーションを配置した被膜形成装置において、前記減圧乾燥ステーションには、減圧乾燥装置がライン上に直列に配置され、下流側の減圧乾燥処理は上流側での減圧乾燥処理が終了した基板を受けて処理を継続すべく、複数の減圧乾燥処理はそれぞれ独立して処理条件を設定し得るものとされ、且つ下流側の減圧乾燥処理の減圧状態を上流側の減圧乾燥処理の減圧状態よりも圧力を低く設定した被膜形成装置。」

〈相違点〉
a)本願発明における「塗布ステーション」は、「塗布ステーションの上流側には塗布装置が、下流側には回転処理装置が配置」されたものであるのに対し、刊行物1に記載された発明における「レジスト塗布処理ユニット(COT)22」は、塗布及び回転処理をともに実行するものである点(以下、「相違点1」という。)。

b)第一段階の減圧乾燥処理について、本願発明では、「減圧乾燥ステーション」に配置された上流側の「減圧乾燥装置」により実行されるのに対し、刊行物1に記載された発明では、「乾燥処理ユニット(DR)80」の上流側にある「レジスト塗布処理ユニット(COT)22」により実行されるものである点(以下、「相違点2」という。)。

(5)当審の判断
a)相違点1について
刊行物1に記載された発明の「レジスト塗布処理ユニット(COT)22」の部分に上記周知技術を採用し、相違点1に係る本願発明のようにすることは、当業者にとり、設計上適宜に選択・採用する程度の微差にすぎない。

b)相違点2について
刊行物2に記載された技術の示唆するところに従い、刊行物1に記載された発明では「レジスト塗布処理ユニット(COT)22」により実行されていた第一乾燥工程を別個に設けた乾燥処理装置により実行することとし、相違点2に係る本願発明のようにすることは、当業者にとり、通常の創作力の範囲でなしうる程度のことにすぎない。

また、本願発明を全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に比べ、予測されないような顕著な効果を奏するものとも認められない。

(6)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上の通り、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願明細書等に記載された発明の発明者と同一でもなく、また本願の出願の時点において、本願の出願人が上記他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものである。

また、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもある。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2008-11-07 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-26 
出願番号 特願2001-68017(P2001-68017)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B05C)
P 1 8・ 16- WZ (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺川 ゆりか  
特許庁審判長 早野 公惠
特許庁審判官 森藤 淳志
中川 隆司
発明の名称 被膜形成装置及び被膜形成方法  
代理人 小山 有  

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