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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1190462
審判番号 不服2006-28555  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-21 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 特願2004- 83458「アスパラガスのマルチ促成栽培方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月 6日出願公開、特開2005-269903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月22日の出願であって、平成18年11月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年12月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年12月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年12月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正の概要
本件補正により、特許請求の範囲は、次のとおりに補正された。

「【請求項1】 アスパラガスの株をハウス内の温床に伏込んで加温しながら栽培する伏込み栽培を行う前に、圃場に畦を形成し、該畦にアスパラガス栽培用マルチフィルムを被覆し、該畦の頂部に配置される各定植穴にアスパラガスの株を植え付けて前記伏込み栽培用の大株を育成するアスパラガスのマルチ促成栽培方法であって、
前記畦が、露地面に形成され、圃場面から20cm以上50cm以下の高畦であり、
前記アスパラガス栽培用マルチフィルムは、フィルムの長さ方向に沿って所定間隔で設けられた複数の定植穴と、各々の定植穴の近傍に追肥を行うための追肥用穴とを同一列上に1条に有することを特徴とするアスパラガスのマルチ促成栽培方法。」

上記【請求項1】の補正は、補正前の請求項1の「アスパラガスのマルチ促成栽培方法」について、「アスパラガスの株をハウス内の温床に伏込んで加温しながら栽培する伏込み栽培を行う前に」という前提を加え、伏込み栽培の前に行われる栽培方法であることを限定したものであり、また、畦が露地面に形成されるものであることを限定したものである。
してみると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献
引用文献1:農文協編、「野菜園芸大百科 第2版 9 アスパラガス」、農山漁村文化協会、2004年2月20日第1刷発行 第261-267頁
引用文献2:特開平8-336335号公報
引用文献3:「くにびきふぁーむ」 のうさぎょうメモ,[online],2002.4.1,[検索日2006.08.11],インターネット<URL
http://web.archive.org/web/20020401090131/http://www.ja-kunibiki.or.jp/farm/memo/0202.htm

本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(ア)
「第3表に播種時期を変えた試験結果を示した。定植当年の収量性をみると、播種の早い大苗が遅いものに比べて、収量が多く有利である。したがって初期からの収量性を確保するには、前年の秋から播種を行なうなどして、定植時期までに生育をすすめ大苗に仕上げておくことが重要となる。」(第263頁左欄第17-23行)

(イ)
「アスパラガスの根域は地表下50?60cmに集中しているといわれ、深いものは1m以上にも及ぶ。そのため地下水位が高い場所は生育が悪く適さない。」(第263頁左欄第36行-同右欄第2行)

(ウ)
「定植うねは幅150cm前後で高うね整地し、植付け準備として定植前に灌水チューブをあらかじめ設置し、シルバーマルチをかけ十分灌水し適湿を保っておく。」(第263頁右欄第18-21行)

(エ)
「・・・うね幅150cmであれば株間35cm前後の1条植えが適当と思われる。」(第264頁第15-23行)

(オ)
第264頁第2図によれば、圃場のうねをマルチフィルムで被覆し、当該マルチフィルムにはアスパラガスの株を植え付ける複数の定植穴をうねの頂部に1条に設けたものが記載されている。

これらの記載事項(ア)?(オ)及び第264頁第2図によれば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「圃場にうねを形成し、該うねにアスパラガス栽培用マルチフィルムを被覆し、該うねの頂部に配置される各定植穴にアスパラガスの株を植え付けて株を育成するアスパラガスのマルチ促成栽培方法であって、
前記うねが、ハウス内に形成され、高うねであり、
前記アスパラガス栽培用マルチフィルムは、フィルムの長さ方向に沿って所定間隔で設けられた複数の定植穴を1条に有するアスパラガスのマルチ促成栽培方法。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

また、本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(カ)
「【請求項1】 マルチ栽培用シートに於けるシート材に流入部を設けてなり、該マルチ栽培時に於ける栽培床内の培養土が渇水状態、又は肥料不足状態に至った場合、前記シートを剥がさず、必要に応じて施した追肥又は灌水を、前記培養土中に速やかに浸透させる、前記流入部を前記シート材に設けたことを特徴とするマルチ栽培用シート。
【請求項2】 前記流入部を複数の開口部状の流入部とした請求項1記載のマルチ栽培用シート。」

(キ)
「【0010】
【実施例】・・・図1は本発明の第1実施例のシート材を示す斜視図、図2は第1実施例のシートを用いたマルチ栽培状態を示す一部断面の斜視図で、合成樹脂又は紙等から成るフィルム状のシート材1には栽培される作物の間に位置するよう流入部2が設けてあり、例えば図1及び図2に於いてはシート材1の略中央付近に複数の開口部で構成された流入部2を併設してある。流入部2は、栽培床3の適宜位置に設けた溝3Aの底部付近内に収まる程度の大きさがよく、流入部2は作物5の株と株の間に複数個配設する程度でよい。
【0011】本発朋のシート材1を使用してマルチ栽培を行うには、栽培を企図する畑地等に基肥え等を施したマルチ栽培床3を設け、シート材1に設けた流入部2の直下付近を若干窪ませた溝3Aを設けた後、シート材1を栽培床3の面に敷、さらに、シート材1の周縁部を土等で覆い固定する。この時、流入部2は溝3Aの面より若干低くし、シート材1の面に落ちた雨滴や散水又は追肥等を流入部2に誘導するとよい。栽培床3を被ったシート材1の適宜位置を切り明けて移植用開口部7を設け、この移植用開口部7に栽培すべき作物5を移植してマルチ栽培を開始する。・・・」

また、本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであり、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(ク)アスパラガスに関する記述の中に、次の記載がある。
「アスパラガス(ユリ科)
・・・
・圃場準備と植付け
日当たりが良く耕土が深く排水の良い有機質に富んだ畑を選び、予め深く耕し1平方メートル当たり、堆肥20キロを土と良く混和し、苦土石灰200グラムを施しpH6.5程度に調整する。基肥は有機化成肥料140グラムを施し、畝幅120?140センチ、高さ30センチ位の高畝とする。植付けは5月中下旬頃、株間35?40センチ間隔に植え付ける。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用発明の「うね」は、本願補正発明の「畦」に相当するといえるから、両者は、

「圃場に畦を形成し、該畦にアスパラガス栽培用マルチフィルムを被覆し、該畦の頂部に配置される各定植穴にアスパラガスの株を植え付けて株を育成するアスパラガスのマルチ促成栽培方法であって、
前記畦が、高畦であり、
前記アスパラガス栽培用マルチフィルムは、フィルムの長さ方向に沿って所定間隔で設けられた複数の定植穴を1条に有するアスパラガスのマルチ促成栽培方法。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願補正発明は、「アスパラガスの株をハウス内の温床に伏込んで加温しながら栽培する伏込み栽培」の前に行われる大株を育成する栽培方法であるのに対し、引用文献1記載の発明は、伏込み栽培との関連が不明である点。

(相違点2)
本願補正発明は、畦が露地面に形成されているのに対し、引用文献1記載の発明は、畦がハウス内に形成されている点。

(相違点3)
本願補正発明は、畦が圃場面から20cm以上50cm以下の高畦であるのに対し、引用文献1記載の発明は、畦が高畦であるものの、その高さについては不明である点。

(相違点4)
本願補正発明は、定植穴の近傍に追肥を行うための追肥用穴を設け、複数の定植穴と同一列上に1条に配しているのに対し、引用文献1記載の発明は、定植穴は1条に配しているものの、追肥用穴が設けられていない点。

(4)判断
(a)相違点1及び相違点2について
アスパラガスにおいて伏込み栽培を行うこと、伏込み栽培を行う場合、その前段階の育成栽培が露地栽培で行われることについては、平成18年4月6日付け拒絶理由通知書で提示された「農耕と園芸編集部/編、「農耕と園芸11月号別冊 図解 野菜栽培技術百科 葉根菜類」、 誠文堂新光社、 1988年11月22日発行 第106,107,111,112頁、図11,18」(以下、単に「農耕と園芸」という。)などにおいて明らかなように、従来周知である(特に、上記「農耕と園芸」の107頁の図11では、生育相と栽培歴において、「ビニルハウス」での「保温開始」(伏込み栽培開始)なる語、及びそれより前に「黒マルチ処理」、「降霜」なる語が用いられていることにより、伏込み栽培開始前に露地栽培が行われていることが読み取れる。)。
また、引用文献1記載の発明がアスパラガスの株の育成に係るものであることが明らかであり、伏込み栽培開始前を含めてアスパラガスの株の育成一般に用いることに格別の困難性はない。
してみると、引用文献1記載の発明を、伏込み栽培開始前の露地栽培に適用し、相違点1及び相違点2の本願補正発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。

(b)相違点3について、
畦の高さについて、伏込み栽培の前段階の育成栽培であることを考慮し、株の掘り上げに適した高さとすることは、当業者ならば当然想到し得るものであり、その高さの数値を限定することに格別の顕著性はない。
また、上記記載事項(ク)によれば、引用文献3には、アスパラガスの畝(「畦」に相当)の高さを30センチ位の高畝することが記載されており、相違点3に係る「20cm以上50cm以下の高畦」は、通常のアスパラガスの栽培に用いられている高さの畦にすぎないものとみられる。
してみると、伏込み栽培開始前の育成栽培において、最適な畦の高さを選択し、相違点3の本願補正発明に係る構成とすることは、必要に応じて適宜なし得るものであり、当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。

(c)相違点4について
上記記載事項(カ)、(キ)によれば、引用文献2には、移植用開口部7(「定植穴」に相当)の近傍に追肥用の開口部状の流入部(「追肥用穴」に相当)を設けたものが記載されている。
また、肥料付与箇所を畦の上部で定植箇所と同一列上に設けるものは従来周知である(特開平10-165004号公報、特開平10-117514号公報、特開平8-266160号公報、特開平7-203782号公報等参照)。
してみると、引用文献1に記載の発明において、良好な育成を期するために畦上の定植穴近傍に追肥用穴を設け、追肥用穴を定植穴と同一列状に配し、相違点4における本願補正発明に係る構成とすることは、必要に応じて適宜なし得るものであり、当業者であれば容易に想到し得ることであるというべきである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献1記載の発明、引用文献2及び3記載の技術事項並びに周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2及び3記載の技術事項並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

3.本願発明
平成18年12月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年6月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「圃場に畦を形成し、該畦にアスパラガス栽培用マルチフィルムを被覆し、該畦の頂部に配置される各定植穴にアスパラガスの株を植え付けて大株を育成するアスパラガスのマルチ促成栽培方法であって、
前記畦が、圃場面から20cm以上50cm以下の高畦であり、
前記アスパラガス栽培用マルチフィルムは、フィルムの長さ方向に沿って所定間隔で設けられた複数の定植穴と、各々の定植穴の近傍に追肥を行うための追肥用穴とを同一列上に1条に有することを特徴とするアスパラガスのマルチ促成栽培方法。」

4.引用文献及びその記載内容
引用文献及びその記載事項は、前記「2.(2)引用文献」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、「アスパラガスのマルチ促成栽培方法」について、「アスパラガスの株をハウス内の温床に伏込んで加温しながら栽培する伏込み栽培を行う前に」という前提を削除し、伏込み栽培の前に行われる栽培方法であることの限定を省略したものであり、また、畦が露地面に形成されるものであることの限定を省略したものである。
してみると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)判断」に記載したとおり、引用文献1記載の発明、引用文献2及び3記載の技術事項並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用文献1記載の発明、引用文献2及び3記載の技術事項並びに周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2及び3記載の技術事項並びに周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-23 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2004-83458(P2004-83458)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
P 1 8・ 575- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 山口 由木
草野 顕子
発明の名称 アスパラガスのマルチ促成栽培方法  
代理人 丸山 英一  

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