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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
管理番号 1191129
審判番号 不服2007-7481  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-15 
確定日 2009-01-13 
事件の表示 特願2002-383178「放射性気体の吸着用フィルター装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日出願公開、特開2004-191347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

特許出願 平成14年12月11日
拒絶理由通知 平成18年 3月23日
意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成18年 6月 2日
拒絶理由通知(最後) 平成18年 8月21日
意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成18年10月30日
補正の却下の決定 平成18年12月26日
拒絶査定 平成18年12月26日
審判請求 平成19年 2月15日
手続補正書(明細書)提出 平成19年 2月15日
審尋 平成19年12月14日
回答書提出 平成20年 2月25日
補正の却下の決定 平成20年 6月20日
拒絶理由通知 平成20年 6月20日
意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成20年 9月 1日

第2 当審からの拒絶の理由の概要
1)(省略)
2)本件出願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3)本件出願の請求項1乃至請求項4に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 特許法第36条第6項第2号
1.本願請求項1の記載
平成20年9月1日付けで補正された本願の特許請求の範囲【請求項1】には、次のように記載されている。
「空調施設の気体処理経路中に介在される空気浄化装置の放射性気体の吸着フィルター装置において、
上記空気浄化装置の吸入口側に設けられているプレフィルター収納部に、比較的大型の粗塵除去を行うレフィルターが配備され、
上記プレフィルター収納部の後段に設けられているフィルター収納部に、より高い除塵作用を果たす高性能フィルターと、放射性気体の捕集除去を行う繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとが配備され、
上記高性能フィルターと上記繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとは、上記フィルター収納部のそれぞれ約半分の高さとされると共に、一体的に組み合わされ、且つ、軽量な木製によりハウジングとされた放射性気体の吸着用フィルター装置として内蔵されることを特徴とする放射性気体の吸着用フィルター装置。」(以下、「本願請求項1」という。)

2.当審の判断
上記本願請求項1の末尾には「放射性気体の吸着用フィルター装置」と記載されていることから、本願請求項1は「放射性気体の吸着用フィルター装置」を対象とする発明を記載したものと解される。
ここで、本願請求項1における「上記高性能フィルターと上記繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとは……軽量な木製によりハウジングとされた放射性気体の吸着用フィルター装置として内蔵される」との記載から、「高性能フィルター」、「シート状チャコールフィルター」、及び「ハウジング」が組み合わされた装置を「放射性気体の吸着用フィルター装置」と称していると解することができる。なお、本願明細書段落【0018】の「高性能フィルター12とシート状チャコールフィルター13は、パッキン15を介して一体に組み合わされた放射性気体の吸着用フィルター装置14として内蔵されている。なお、この吸着用フィルター装置14は、従来のように重量物である鉄製などのような金属製でなく、軽量な木製などによりハウジングを形成している。」との記載、さらに【図2】及び【図面の簡単な説明】からも、「高性能フィルター」、「シート状チャコールフィルター」、及び「ハウジング」が組み合わされた装置を「放射性気体の吸着用フィルター装置」と称していると解することができる。
他方、本願請求項1における、「上記空気浄化装置の吸入口側に設けられているプレフィルター収納部に、比較的大型の粗塵除去を行うレフィルターが配備され」及び「上記プレフィルター収納部の後段に設けられているフィルター収納部に、より高い除塵作用を果たす高性能フィルターと、放射性気体の捕集除去を行う繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとが配備され」との記載から、「プレフィルター収納部」、「プレフィルター」、「フィルター収納部」等も「放射性気体の吸着用フィルター装置」の一部として含まれるものと解することができる。
したがって、本願請求項1の記載では、「放射性気体の吸着用フィルター装置」が何を含むのか不明であるから、本願の請求項1に係る発明は明確でない。

以上のとおり、本願請求項1を含む本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 特許法第29条第2項
前記「第3」に記載のように本願の請求項1に係る発明は明確でないが、仮に明確であるとしても、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年9月1日付けで補正された特許請求の範囲の記載からみて、以下に示すように誤記が2箇所あるものの、その特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるとした場合、次のとおりのものと認める。
「空調施設の気体処理経路中に介在される空気浄化装置の放射性気体の吸着用フィルター装置において、
上記空気浄化装置の吸入口側に設けられているプレフィルター収納部に、比較的大型の粗塵除去を行うプレフィルターが配備され、
上記プレフィルター収納部の後段に設けられているフィルター収納部に、より高い除塵作用を果たす高性能フィルターと、放射性気体の捕集除去を行う繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとが配備され、
上記高性能フィルターと上記繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとは、上記フィルター収納部のそれぞれ約半分の高さとされると共に、一体的に組み合わされ、且つ、軽量な木製によりハウジングとされた放射性気体の吸着用フィルター装置として内蔵されることを特徴とする放射性気体の吸着用フィルター装置。」
なお、特許請求の範囲【請求項1】には「放射性気体の吸着フィルター装置において」及び「比較的大型の粗塵除去を行うレフィルター」と記載されているが、これらをそれぞれ「放射性気体の吸着用フィルター装置において」及び「比較的大型の粗塵除去を行うプレフィルター」の明らかな誤記と認め、本願発明を上記のように認定した。

2.引用例
当審の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭61-230096号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の〈ア〉?〈キ〉の記載が図示とともにある。
〈ア〉「(1)出入れ可能なフィルタユニットを備えこのフィルタユニットにより放射性物質を捕集する非常用放射性ガス処理装置であって、前記フィルタユニットは放射性ヨウ素捕集物質を添着した活性炭素繊維を含む放射性物質除去材を枠体に収納したものであることを特徴とする非常用放射性ガス処理装置。
(2)放射性物質除去材は放射性ヨウ素捕集物質を添着した活性炭素繊維と放射性粒子除去フィルタとを層状に貼り合わせたものである特許請求の範囲第1項記載の非常用放射性ガス処理装置。」(特許請求の範囲参照)
〈イ〉「一般に原子力施設では万一の事故等により建物内で発生した放射性ガスの外部への漏洩を防止するため換気系により建物内を負圧に保つとともに換気系に放射性ガスの内容に応じて非常用放射性ガス処理装置を設置し、排ガス中に含まれる放射性ガス、すなわち放射性ヨウ素や希ガスさらに気流などで舞いあがるコバルト等の放射性粒子物質を除去した後、最終的に排気筒より環境へ放出されるような処理系が設けられている。」(第1頁右欄第3行?第11行参照)
〈ウ〉「第1図において符号7は放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維よりなるフィルタユニットである。これは活性炭素繊維に放射性ヨウ素捕集物質として知られるKI+I_(2)、TEDA、硝酸銀等を添着して加工したものを例えば第2図に示すようにスペーサ8を介在させて折りたたみ、枠体に収納してフィルタユニット7としたものである。なお、この非常用放射性ガス処理装置には、フィルタユニット7の他に湿分除去装置1、電気加熱装置2、プレフィルタ3、放射性粒子物質を除去するためのHEPAフィルタ4およびスペースヒータ6が設置されている。」(第2頁右上欄第12行?左下欄第3行参照)
〈エ〉「また本発明の放射性物質除去材は第4図に示すように放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9の両面にHEPAフィルタ10を重ねてはりあわせたものであってもよく、これを第3図に示すように折りたたみ、スペーサ8を介在させて枠体に収納したフィルタユニット11としてもよい。この場合はガス処理装置内に従来設置されていたHEPAフィルタ4を別に設置する必要がなく、フィルタユニット11内に一体に組込まれるので、ガス処理装置全体としては第5図に示すようなものとなる。」(第2頁右下欄第2行?第12行参照)
〈オ〉第2図において、フィルタユニット7が枠体を備えていることが看取できる。
〈カ〉第3図及び第4図において、放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9がシート状に成形されていること、及び、HEPAフィルタ10と放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9とが一体的に組み合わされていることが看取できる。
〈キ〉第5図において、非常用放射性ガス処理装置の吸入口側にプレフィルタ3が配備され、プレフィルタ3の後段にフィルタユニット11が配備されることが看取できる。

上記〈ア〉、〈ウ〉、〈エ〉、及び〈キ〉の記載等から、フィルタユニット11は非常用放射性ガス処理装置内部の所定の箇所に収納されるものと解され、当該箇所をフィルタユニット11収納部と称することができる。また同様に、プレフィルタ3も非常用放射性ガス処理装置内部の所定の箇所に収納されるものと解され、当該箇所をプレフィルタ3収納部と称することができる。
上記〈イ〉及び〈ウ〉の記載から、放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9は放射性気体の捕集除去を行うものと解される。
上記〈ウ〉及び〈キ〉の記載等から、非常用放射性ガス処理装置の吸入口側に配備されるプレフィルタ3は比較的大型の粗塵除去を行うものであり、プレフィルタ3の後段に配備されるHEPAフィルタ10はより高い除塵作用を果たすものと解される。

以上のことから、上記〈ア〉?〈キ〉の記載等を含む引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる、。
「換気系に設置される非常用放射性ガス処理装置のフィルタユニット11において、
非常用放射性ガス処理装置の吸入口側に設けられているプレフィルタ3収納部に、比較的大型の粗塵除去を行うプレフィルタ3が配備され、
プレフィルタ3収納部の後段に設けられているフィルタユニット11収納部に、より高い除塵作用を果たすHEPAフィルタ10と、放射性気体の捕集除去を行うシート状に成形された放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9とが配備され、
HEPAフィルタ10とシート状に成形された放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9とは一体的に組み合わされ、且つ、枠体に収納されたフィルタユニット11として内蔵される非常用放射性ガス処理装置のフィルタユニット11。」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
a.引用発明における「非常用放射性ガス処理装置」、「プレフィルタ3収納部」、「プレフィルタ3」、「フィルタユニット11収納部」、「HEPAフィルタ10」、及び「枠体」は、それぞれ本願発明における「空気浄化装置」、「プレフィルター収納部」、「プレフィルター」、「フィルター収納部」、「高性能フィルター」、及び「ハウジング」に相当する。
b.引用発明における「換気系に設置される」は、本願発明に倣って「空調施設の気体処理経路中に介在される」と称することができる。
c.引用発明における「フィルタユニット11」は、「非常用放射性ガス処理装置」において放射性気体の捕集除去を行う機能を有するものであるから、本願発明に倣って「放射性気体の吸着用フィルター装置」と称することができる。
d.引用発明における「シート状に成形された放射性ヨウ素捕集物質添着活性炭素繊維9」と本願発明における「繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルター」とは、繊維状活性炭よりなるシート状チャコールフィルターである点で共通する。
e.引用発明における「枠体に収納された」と本願発明における「ハウジングとされた」は、ハウジングに収納されたことを意味する点で共通する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、
「空調施設の気体処理経路中に介在される空気浄化装置の放射性気体の吸着用フィルター装置において、
空気浄化装置の吸入口側に設けられているプレフィルター収納部に、比較的大型の粗塵除去を行うプレフィルターが配備され、
プレフィルター収納部の後段に設けられているフィルター収納部に、より高い除塵作用を果たす高性能フィルターと、放射性気体の捕集除去を行う繊維状活性炭よりなるシート状チャコールフィルターとが配備され、
高性能フィルターと繊維状活性炭よりなるシート状チャコールフィルターとは一体的に組み合わされ、且つ、ハウジングに収納された放射性気体の吸着用フィルター装置として内蔵される放射性気体の吸着用フィルター装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本願発明では繊維状活性炭よりなるシート状チャコールフィルターが「編組された」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点2〉
本願発明では「上記高性能フィルターと上記繊維状活性炭により編組されたシート状チャコールフィルターとは、上記フィルター収納部のそれぞれ約半分の高さとされる」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点3〉
本願発明ではハウジングが「軽量な木製によりハウジングとされた」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

4.判断
〈相違点1〉
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-233111号公報には、
「また、実用新案登録第2541895号公報に示されるように、脱臭フィルタを、一方は活性炭を含有するシートとし他方は酸性および、またはアルカリ性ガスと反応する物質を含有するシートとして、2枚のシートを重ねてプリーツ状に加工した構造に形成……酸性および、またはアルカリ性ガスと反応する物質を含有するシートとして、合成繊維の不織布にリンゴ酸および硫酸第一鉄を添着したものを例に挙げている」(【0004】参照)と、また、
「脱臭フィルタ7は、複数種の破砕添着炭9を2枚の不織布10の間に挟み込んでシート状に形成されている。」(【0014】参照)とそれぞれ記載されている。
これらの記載からみて、繊維状物質からなるシート状のフィルターを、編組された不織布状のものとすることは、本願出願前に周知の技術であり、引用発明においてかかる周知の技術を採用することは、当業者が適宜なし得ることであるといえる。
したがって、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項である。

〈相違点2〉
二種類のフィルターを一体的に組み合わせてハウジングに収納するにあたり、具体的にどのような形態で一体の状態にするかは当業者が適宜選択し得る設計事項であるといえる。また、それぞれのフィルターの高さについては、例えばフィルターの有する吸着性能、フィルターによって浄化後の気体の清浄度合、ハウジング内のフィルター収納スペース等を考慮して当業者が適宜決定し得る事項であり、それぞれをフィルター収納部の約半分の高さとすることに困難性はない。
したがって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項である。

〈相違点3〉
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-46997号公報には、
「【従来の技術】核燃料施設等において、ウラン等の放射性廃棄物の塵を濾過するためにHEPAフィルタが多用されている。例えば、図5及び図6に示すように、HEPAフィルタ1は木製の支持枠2内にAl等の金属からなるセパレータ3が設けられ、このセパレータ3の間をガラス繊維からなるフィルタのろ材シート4がジグザグのアコーディオン状に屈曲挿入された構造を有している。」(【0002】参照)と記載されている。
この記載からみて、放射性物質を含む気体を濾過するフィルター装置においてフィルターを収納するハウジング(「支持枠」)を木製とすることは、本願出願前に周知の技術であり、引用発明においてかかる周知の技術を採用することに困難性はない。
したがって、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得る程度の事項である。

以上のことから、上記相違点1乃至相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が想到容易な事項であり、かかる発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も引用発明及び周知の技術から当業者が予測し得る程度のものである。

第5 むすび
前記「第3」に記載のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また前記「第4」に記載のとおり、仮に本願発明が明確であるとしても、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-30 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-25 
出願番号 特願2002-383178(P2002-383178)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G21F)
P 1 8・ 121- WZ (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一河原 英雄中塚 直樹  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 坂田 誠
江塚 政弘
発明の名称 放射性気体の吸着用フィルター装置  

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