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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1191172
審判番号 不服2006-19654  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-06 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2000-171251「球状黒鉛鋳鉄」拒絶査定不服審判事件〔平成13年3月6日出願公開、特開2001-59127〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月7日の出願(優先日:平成11年6月8日,日本国)であって、平成18年8月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月6日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成20年8月11日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年10月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成20年10月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものである。そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「肉厚が50mm以下である低合金球状黒鉛鋳鉄において、Niを2.0?4.0質量%、Mnを0.05?0.50質量%、Cを3.1?4.0質量%、Siを2.49?3.0質量%、Pを0.05質量%以下、Sを0.02質量%以下、Mgを0.02?0.06質量%、及び不可避的不純物を含み、残部がFeであり、鋳放ししてなるとともに、引張強さが750MPa以上、及び伸びが8%以上で、切削性に優れることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄。」

3.当審拒絶理由の概要
当審より通知された拒絶の理由の概要は、次のとおりのものである。

本願請求項1?6に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開昭53-134720号公報

4.引用刊行物とその記載事項
当審より通知された拒絶の理由で引用された刊行物1(特開昭53-134720号公報)には、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1:特開昭53-134720号公報
(1a)「1.C3?4.2%、Si1.3?2.2%、Ni1?5%、Mg0.02?0.08%とし残部Fe及びMn、Cr、V、Mo、Cuなどの不純物よりなる溶湯を用い、注入湯面接種及び/又は鋳型接種を行なうことを特徴とする鋳放しパーライト地球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
2.Mn含有量を0.30%以下とする特許請求の範囲第1項記載の鋳放しパーライト地球状黒鉛鋳鉄の製造方法。」(第1頁左下欄の特許請求の範囲)

(1b)「基地組織がパーライト地である球状黒鉛鋳鉄は鋳放し状態で容易に得られるため古くから製造され、又使用されている。この場合パーライト地球状黒鉛鋳鉄を得るためには目的とする硬度と製品肉厚に応じてMn量を増減する方法によっていたが、Mnはパーライト化を促進すると同時にセメンタイトの晶(析)出を促進する元素であるため必要以上にMnを含有すると上記の好ましからざる組織により局部的に硬度が高くなり、脆くなったり、あるいは切削性が大幅に低下するなどの問題があった。
従つて鋳放し状態で使用されるパーライト地球状黒鉛鋳鉄を製造する場合、上記の好ましからざる組織の晶(析)出を防止するために一般的にはSi含有量を高くする(2.5?3.0%)ことによりなされてきた。」(第1頁右下欄6行?第2頁左上欄第1行)

(1c)「これらは偏にフェライト化促進元素であるSiと、パーライト化促進元素であるMnとの作用の相反する元素を同時に多量に含有させたためである。」(第2頁左上欄第16?19行)

(1d)「以下本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
(実施例)
低周波炉に球状黒鉛鋳鉄戻り屑(中略)砂型鋳型に鋳込んだ。
この時鋳型鋳湯中の(中略)この時の化学成分を第1表に示し、又各板厚の機械的性質を第2表に示し、」(第2頁右下欄第14行?第3頁左上欄第9行)

(1e)第1表には、成分と含有量(%)について、C:3.60,Si:1.88,Mn:0.16,P:0.022,S:0.006,Mg:0.042,・・・・,Ni:2.7 と表示されている。

(1f)第2表には、板厚(mm)、引張強さ(kg/mm^(2))、伸び(%)について、
板厚(mm)10の欄に、引張強さ(kg/mm^(2)):79.6、伸び(%):4.4;
板厚(mm)30の欄に、引張強さ(kg/mm^(2)):72.4、伸び(%):5.8;
板厚(mm)50の欄に、引張強さ(kg/mm^(2)):71.6、伸び(%):6.6
と表示されている。

5.当審の判断
(1)引用発明
当審より通知された拒絶の理由において引用された刊行物1の上記(1a)には、「鋳放しパーライト地球状黒鉛鋳鉄の製造方法。」と記載されており、この「球状黒鉛鋳鉄の製造方法」によって製造されるものは、球状黒鉛鋳鉄といえるから、刊行物1には、球状黒鉛鋳鉄について記載されているともいえる。
また、この球状黒鉛鋳鉄の組成は、(1a)の「1.C3?4.2%、Si1.3?2.2%、Ni1?5%、Mg0.02?0.08%とし残部Fe及びMn、Cr、V、Mo、Cuなどの不純物よりなる溶湯を用い、・・・鋳放しパーライト地球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
2.Mn含有量を0.30%以下とする特許請求の範囲第1項記載の鋳放しパーライト地球状黒鉛鋳鉄の製造方法。」という記載によれば、C3?4.2%、Si1.3?2.2%、Ni1?5%、Mg0.02?0.08%、Mn0.30%以下とし残部Fe及びCr、V、Mo、Cuなどの不純物といえる。更に、(1a)の「鋳放しパーライト地球状黒鉛鋳鉄の製造方法。」という記載によれば、鋳放してなるものといえる。
(1e)の、P:0.022,S:0.006 という表示によれば、PとSの含有量は、それぞれ、0.022%、S:0.006% であるといえる。
(1f)の、板厚(mm)10、30、50という表示によれば、板厚は、10mm、30mm、50mmであるといえる。
さらに、(1a)の記載における「%」、「Cr、V、Mo、Cuなどの不純物」(Mnを除く。)及び(1f)の表示の「板厚」は、それぞれ、本願発明における「質量%」、「不可避的不純物」及び「肉厚」に相当するものといえる。
刊行物1の上記記載事項及び該記載事項から認定した上記事項を、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「肉厚が10mm、30mm、50mmである低合金球状黒鉛鋳鉄において、Niを1?5質量%、Mnを0.50質量%以下、Cを3?4.2質量%、Siを1.3?2.2質量%、Pを0.022質量%、Sを0.004質量%、Mgを0.02?0.08質量%、及び不可避的不純物を含み、残部がFeであり、鋳放してなる球状黒鉛鋳鉄。」

(2)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「肉厚が10mm、30mm、50mmである低合金球状黒鉛鋳鉄において、Niを2?4質量%、Mnを0.05?0.50質量%、Cを3.1?4.0質量%、Pを0.022質量%、Sを0.004質量%、Mgを0.02?0.06質量%、Si及び不可避的不純物を含み、残部がFeであり、鋳放してなる球状黒鉛鋳鉄。」という点で一致し、次の点で相違するといえる。

相違点(イ)
Si含有量が、本願発明は、「2.49?3.0質量%」であるのに対して、引用発明は、1.3?2.2質量%である点

相違点(ロ)
球状黒鉛鋳鉄の性質が、本願発明1は、「引張強さが750MPa以上、及び伸びが8%以上で、切削性に優れる」のに対して、引用発明は、引張強さ、伸び、及び切削性が不明である点

(3)相違点の検討
そこで、上記相違点について、検討する。
(3-1)相違点(イ)について
(1c)の「フェライト化促進元素であるSi」という記載によれば、Siはフェライト化促進元素であるといえる。そして、Si含有量は、(1b)の「基地組織がパーライト地である球状黒鉛鋳鉄は鋳放し状態で容易に得られるため古くから製造され、又使用されている。・・・Mnはパーライト化を促進すると同時にセメンタイトの晶(析)出を促進する元素であるため必要以上にMnを含有すると上記の好ましからざる組織により局部的に硬度が高くなり、脆くなったり、・・・鋳放し状態で使用されるパーライト地球状黒鉛鋳鉄を製造する場合、上記の好ましからざる組織の晶(析)出を防止するために一般的にはSi含有量を高くする(2.5?3.0%)ことによりなされてきた。」という記載によれば、好ましからざる組織であるセメンタイトの晶(析)出を抑えるために、Si含有量を高く2.5?3.0%程度とすることは、本出願前当業者に周知の事項といえる。
してみると、好ましからざる組織であるセメンタイトの晶(析)出を抑えるために、フェライト化促進元素であるSiの含有量を高く(2.5?3.0%程度)とすることは、所望とする性質に応じて当業者が適宜なし得ることといえる。

(3-2)相違点(ロ)について
(1d)の板厚(mm)10の欄の引張強さ(kg/mm^(2)):79.6という表示によれば、79.6kg/mm^(2)は、約781MPaであるから、引用発明の球状黒鉛鋳鉄も、750MPa以上といえる。
また、(3-1)で示したように、Siは、フェライト化促進元素であり、パーライト地球状黒鉛鋳鉄においてSi含有量を高くし、組織中のフェライト量を増大させて、伸びを向上させることは、本出願前当業者の技術常識といえるから、Si含有量を高くしたとき、伸びが8%以上となることも、当業者が十分に予測できる程度のことといえる。
更に、(1b)の「好ましからざる組織により局部的に硬度が高くなり、脆くなったり、あるいは切削性が大幅に低下するなどの問題があった。従つて鋳放し状態で使用されるパーライト地球状黒鉛鋳鉄を製造する場合、上記の好ましからざる組織の晶(析)出を防止するために一般的にはSi含有量を高くする(2.5?3.0%)ことによりなされてきた。」という記載によれば、切削性が大幅に低下するという問題をSi含有量を高くする(2.5?3.0%)ことにより解決することができるといえるから、Si含有量を高くした球状黒鉛鋳鉄は、切削性が優れたものといえる。
してみると、この相違点(ロ)は、引用発明においてSi量を2.5質量%以上高くしたとき十分に予測される性質について、単に追認したにすぎないものといえる。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明、及び本出願前当業者に周知の事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-13 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-171251(P2000-171251)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 正紀小川 武  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 平塚 義三
守安 太郎
発明の名称 球状黒鉛鋳鉄  
代理人 渡邉 一平  

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