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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47K
管理番号 1191176
審判番号 不服2006-21236  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-21 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2000-215178「防汚性を備えた便座」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月15日出願公開、特開2001-128891〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年7月14日(国内優先権主張 平成11年8月24日)に特許出願したものであって、平成18年8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月20日付けで手続補正がなされたものであるが、当該手続補正については、当審において平成20年8月14日付けで補正の却下の決定がなされたとともに、同日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対し、平成20年10月20日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年10月20日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「便座シート、便座底板、便蓋、本体ケース、洗浄ノズル等の部材の表面に、片面にシリコーン樹脂層が形成されたフィルム状又はシート状の熱可塑性樹脂よりなる樹脂層を設けることで、部材の基材樹脂表面よりも低い低表面自由エネルギー層を形成した便器用部材の製造方法であって、
前記片面にシリコーン樹脂層が形成された熱可塑性樹脂フィルムの他面に該熱可塑性樹脂フィルムの融点より5℃以上低い融点の低融点熱可塑性樹脂層が積層され、
シリコーン樹脂層が金型面と接するように金型に装着し、ポリオレフィンを供給してフィルムインモールド成形を行い、
前記シリコーン樹脂層を、熱硬化型又は紫外線硬化型のシリコーンから構成した便器用部材の製造方法。」

3.刊行物に記載された発明
本願優先日前に頒布され、当審の拒絶の理由に引用された刊行物である、特開平9-56642号公報(本願明細書に従来例として提示された刊行物で、以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。

(イ)
「・・・便座シート11、洗浄ノズル12、本体ケース13や便蓋7はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(以下ABS樹脂と云う)の成形品で主に構成されている。・・・」(【0002】)

(ロ)
「本発明は上記課題を解決するもので、クリーンで耐汚染性に優れた暖房便座の提供を第1の目的とし、そして抗菌性に優れ衛生的で、しかも高性能な暖房便座を提供することを第2の目的としたものである。
【課題を解決するための手段】本発明は第1の上記目的を達成するため、暖房便座の便座シート、便蓋、本体ケースおよび洗浄ノズルの構成材料の内の少なくとも一部をシリコーン樹脂を分散した樹脂体で構成し、さらに第2の目的を達成するためシリコーン樹脂と抗菌剤を分散した樹脂体で構成してある。」(【0009】、【0010】)

(ハ)
「・・・シリコーン樹脂を配合することにより、樹脂体の表面エネルギーが低下し、水に対する接触角が増大し、汚れ成分が付着しにくくなる。しかしその配合割合が過度に高くなると、表面性が劣化し、機械強度などの物理特性も劣化する。」(【0021】)

これら(イ)?(ハ)の記載や刊行物1全体の記載及び当業者の技術常識によれば、刊行物1には以下の発明が記載されているものと認められる。

「便座シート、便蓋、本体ケースおよび洗浄ノズルの構成材料の内の少なくとも一部をシリコーン樹脂を分散したABS樹脂体で構成することにより、樹脂体の表面エネルギーを低下させた便座の製造方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

また、本願優先日前に頒布された刊行物であり、当審の拒絶の理由に引用された特開平8-281877号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

(ニ)
「ベースフィルムの一方の面に、シリコーン系被膜が形成された防汚染性フィルムであって、前記ベースフィルムが、(A)飽和主鎖を有するゴム成分に、(B)芳香族ビニルモノマー又はアルキル(メタ)アクリレートと、(C)シアン化ビニルモノマーとをグラフト重合して得られるゴム変性熱可塑性樹脂で構成されている防汚染性フィルム。」(【請求項1】)

(ホ)
「本発明の防汚染性フィルムの特色は、前記ゴム変性熱可塑性樹脂で構成されたベースフィルムと、防汚染性に優れるシリコーン系被膜とを組み合わせて用いる点にある。・・・前記シリコーン系被膜は、・・・表面張力が小さいために、防汚染性に優れる。・・・」(【0053】)

(へ)
「シリコーン系被膜は、慣用の方法、例えば、被処理面を清浄化した後、コーティング、ディッピング、スプレー、刷毛塗りなどの方法でコーティング剤を塗布し、乾燥、加熱硬化などにより形成できる。」(【0064】)

また、本願優先日前に頒布された刊行物であり、当審の拒絶の理由に引用された特開平11-58623号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の記載がある。

(ト)
「プラスチック系基材フィルムの表面上に1層以上の薄膜層が積層された多層フィルムであって、該薄膜層のうち最外層を含む少なくとも1層以上が実質的にアナターゼ型のTiO2微粒子を含有するシリコーン系化合物からなることを特徴とする抗菌性を有するフィルム。」(【請求項1】)

(チ)
「プラスチック系基材フィルムを構成する材料は特に限定されないが、・・・、ポリプロピレン、・・・等・・・が使用でき、プラスチック系基材フィルムは通常一般の方法で形成されたものであって良い。」(【0014】)

(リ)
「本発明の抗菌性を有するフィルムは、・・・抗菌性をはじめ、防汚染性、防臭性などの機能を、プラスチック系基材フィルムの物性を維持したまま長期に渡って実現することができるため、・・・サニタリー製品などの表面保護フィルムなど広範囲への応用が可能である。」(【0028】)

4.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「便座シート、便蓋、本体ケースおよび洗浄ノズル」、「便座の製造方法」が、本願発明の「便座シート、便座底板、便蓋、本体ケース、洗浄ノズル等の部材」、「便器用部材の製造方法」にそれぞれ相当し、刊行物1記載の発明の「構成材料の内の少なくとも一部をシリコーン樹脂、さらには抗菌剤を分散したABS樹脂体で構成することにより、樹脂体の表面エネルギーを低下させた」と、本願発明の「部材の表面に、片面にシリコーン樹脂層が形成されたフィルム状又はシート状の熱可塑性樹脂よりなる樹脂層を設けることで、部材の基材樹脂表面よりも低い低表面自由エネルギー層を形成した」とは、「部材の一部に、シリコーン樹脂を用いることで、部材の基材樹脂の表面エネルギーを低下させた」で共通するから、両者は、
「便座シート、便座底板、便蓋、本体ケース、洗浄ノズル等の部材の一部に、シリコーン樹脂を用いることで、部材の基材樹脂の表面エネルギーを低下させた便器用部材の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違している。

<相違点>
部材の一部に、シリコーン樹脂を用いることで、部材の基材樹脂の表面エネルギーを低下させるのに、本願発明では、部材の表面に、片面にシリコーン樹脂層が形成されたフィルム状又はシート状の熱可塑性樹脂よりなる樹脂層を設け、該熱可塑性樹脂フィルムの他面に該熱可塑性樹脂フィルムの融点より5℃以上低い融点の低融点熱可塑性樹脂層が積層され、シリコーン樹脂層が金型面と接するように金型に装着し、ポリオレフィンを供給してフィルムインモールド成形を行い、前記シリコーン樹脂層を、熱硬化型又は紫外線硬化型のシリコーンから構成しているのに対し、刊行物1記載の発明では、部材の一部を、シリコーン樹脂を分散したABS樹脂体で構成している点。

5.判断
刊行物1記載の発明は、防汚染性を目的とするものであるところ、刊行物2及び刊行物3には、防汚染性のため、部材の表面に、片面にシリコーン樹脂層が形成された熱可塑性樹脂フィルムよりなる樹脂層を設けることが記載されている。一般に、部材の表面に防汚染性をもたせるためであれば、部材の表面に防汚染層を設ければ足りるのであり、刊行物1記載の発明において、部材にシリコーン樹脂を分散させたものに代えて、部材の表面に、片面にシリコーン樹脂層が形成された熱可塑性樹脂フィルムよりなる樹脂層を設けることは、必要に応じて適宜なし得る技術事項にすぎない。
また、便座本体を形成するのに、ポリプロピレンを用いることは周知技術(例えば、特開昭63-109832号公報等参照)にすぎず、格別の顕著性はない。
そして、ベースフィルムよりも低融点の低融点熱可塑性樹脂層が積層された熱可塑性樹脂フィルムを金型に装着し、低融点熱可塑性樹脂層側に溶融樹脂を供給してフィルムインモールド成形を行うことは周知技術(例えば、特開昭61-64412号公報、特開平11-105067号公報等参照)にすぎず、部材の表面に樹脂層を形成する手段として、上記周知技術を採用することは、当業者が容易になし得ることである。また、その際、低融点熱可塑性樹脂層の融点を熱可塑性樹脂フィルムの融点より5℃以上低くする点は、熱可塑性樹脂フィルムの融点と部材であるポリオレフィンの融点を考慮して適宜設定し得る技術事項にすぎず、数値を限定することに格別の顕著性はない。
さらに、上記記載事項(ヘ)によれば、刊行物2には、シリコーン樹脂層として熱硬化型であるものが記載されている。

してみると、上記相違点に係る事項は、いずれも、公知技術又は周知技術であり、これらの技術を、刊行物1記載の発明に採用して本願発明のようにすることは、当業者が容易に想到する程度のことにすぎない。

そして、本願発明全体の効果も刊行物1記載の発明、刊行物2及び刊行物3に記載された技術事項並びに周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2及び刊行物3に記載された技術事項並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-12 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-215178(P2000-215178)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 山口 由木
関根 裕
発明の名称 防汚性を備えた便座  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 松尾 憲一郎  

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