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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1191184
審判番号 不服2006-25892  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 平成 9年特許願第292931号「アルミニウム含有金属材料の表面処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月18日出願公開、特開平11-131254〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年10月24日の出願であって、請求項1?7に係る発明は、平成18年6月12日付手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 アルミニウム含有金属材料の表面の少なくとも1部に、化学エッチング処理を施し、このとき、アルミニウム含有金属材料の減量を0.02?10g/m^(2)にコントロールし、次にリン酸ジルコニウム及びリン酸チタンの少なくとも1種を含む化成処理液による化成処理を施して、第1保護膜層を形成し、次に
この第1保護膜層上に、親水性樹脂を含む第2保護膜層を形成する工程を含み、
前記第2保護膜層中の親水性樹脂が、架橋されていない少なくとも1種の親水性官能基と、この親水性官能基とは異なる少なくとも1種の反応性官能基とを含み、この反応性官能基の少なくとも一部が架橋されている、ことを特徴とするアルミニウム含有金属材料の表面処理方法。」

2.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に国内において頒布された特開平9-14889号公報(以下、「引用例1」という。)、及び、特開平4-32583号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開平9-14889号公報
(1a)「【請求項3】 アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成され・・・た熱交換器のチューブおよびフィンの表面の一部または全部に、化成皮膜からなる第1保護層を形成する工程と、前記第1保護層上に・・・少なくとも1種の親水性官能基(a)と、前記親水性官能基(a)とは異なる少なくとも1種の反応性官能基(b)と・・・を有し、さらに前記反応性官能基(b)と、これと架橋反応し得る架橋剤との架橋反応により形成された架橋構造を有する樹脂からな・・・る第2保護層を形成する工程とを含むことを特徴とするアルミニウム含有金属製熱交換器の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項3)
(1b)「第1保護層は、好ましくは・・・リン酸ジルコニウム処理生成物、およびリン酸チタン処理生成物などから選ばれた少なくとも1種を含むものである。」(【0014】)
(1c)「親水性保護皮膜の形成方法について説明する。まず、アルミニウム含有金属材料表面に、予めアルカリ、酸、溶剤等による脱脂処理を施して清浄した後、これに、化成処理を施して第1保護層を形成し、その後・・・水性処理剤を塗布して乾燥して第2保護層を形成する。」(【0025】)

(2)引用例2:特開平4-32583号公報
(2a)「(1)Al又はAl合金板の製造方法において、熱間圧延終了後塗装前処理までの間に表面を・・・酸性洗剤又は・・・アルカリ性洗剤で・・・洗浄して表面を50mg/m^(2)以上エッチングすることを特徴とする塗装性に優れたAl板の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「〔従来の技術〕 ・・・塗装を施して使用される代表的にものとしては・・・熱交換器に用いられるフィン・・・等がある。」(1頁右下欄4?16行)
(2c)「熱間圧延時に結晶性の酸化膜が生成し、その皮膜が最終板まで残留するために、酸又はアルカリ系の脱脂、エッチング処理を行っても完全に除去できずに残留し、その後の化成処理にて脆弱な化成皮膜を生成する為、塗装処理後、加工後又は使用中に塗膜の膨れ、剥離等密着不良が発生することがわかった。そこで本発明の目的は、塗装用アルミニウム板が抱えていた上記密着不良を解消し、品質の優れた塗装用アルミニウム板の製造方法を提供することにある。・・・表面のエッチング量を50mg/m^(2)以上としたのは50mg/m^(2)未満だと結晶性の酸化膜を完全に除去できないからである。」(3頁左上欄下から2行?左下欄8行)
(2d)「〔実施例〕・・・第1表に示すように各種用途合金を・・・所定の板厚にコイル連続処理にて仕上げた。・・・尚、表面の洗浄実施工程及び洗浄条件は、第1表に示すように行い、溶解量の変化は処理時間を変えることで調整した。・・・iii)フィン:コイルを連続処理にて脱脂、エツチング、化成処理を施し、その後塗装処理を行った。・・・このようにして作成した試料をフィン形状に成形加工し・・・た。」(4頁左上欄3行?5頁左上欄10行)
(2e)第1表には、本発明法No.3、8に関して、次のように記載されている(6頁)。
製品用途 洗浄液種類 溶解量(mg/m^(2))
No.3 フィン 炭酸ナトリウム 1030
No.8 フィン 硝酸系 2510

3.当審の判断
3-1.引用例記載の発明
引用例1の摘記事項(1a)によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成された熱交換器のチューブ及びフィンの表面の少なくとも1部に、化成皮膜からなる第1保護層を形成する工程と、前記第1保護層上に少なくとも1種の親水性官能基(a)と、前記親水性官能基(a)とは異なる少なくとも1種の反応性官能基(b)とを有し、さらに前記反応性官能基(b)と、これと架橋反応し得る架橋剤との架橋反応により形成された架橋構造を有する樹脂からなる第2保護層を形成する工程とを含むアルミニウム含有金属製熱交換器の製造方法が記載され、この記載によれば、架橋剤は反応性官能基(b)と架橋反応することが理解できる。すると、樹脂からなる第2保護層は、少なくとも1種の親水性官能基(a)と、この親水性官能基(a)とは異なる少なくとも1種の反応性官能基(b)とを含んでいるものであって、親水性官能基(a)は架橋されておらず、反応性官能基(b)は、その少なくとも一部が架橋されているといえるし、架橋されていない親水性官能基(a)を含む樹脂からなる第2保護層は、親水性樹脂を含む第2保護層といえる。
また、摘記事項(1b)によれば、上記「化成皮膜からなる第1保護層」に関して、リン酸ジルコニウム処理生成物、及びリン酸チタン処理生成物から選ばれた少なくとも1種を含むものであることが記載されているから、第1保護層は、リン酸ジルコニウム及びリン酸チタンの少なくとも1種を含む化成処理液による化成処理を施して形成されたものであるといえる。
さらに、摘記事項(1c)によれば、アルミニウム含有金属材料表面に、予め脱脂処理を施した後、これに第1保護層を形成し、その後第2保護層を形成することが記載されているから、上記「アルミニウム含有金属製熱交換器の製造方法」は、アルミニウム又はアルミニウム合金から形成された熱交換器のチューブ及びフィンの表面の少なくとも1部に、脱脂処理を施し、次に第1保護層を形成し、次にこの第1保護層上に、第2保護層を形成する工程を含むものであることが理解できる。
そこで、引用例1の摘記事項(1a)?(1c)の記載を総合すれば、引用例1には、「アルミニウム又はアルミニウム合金から形成された熱交換器のチューブ及びフィンの表面の少なくとも1部に、脱脂処理を施し、次にリン酸ジルコニウム及びリン酸チタンの少なくとも1種を含む化成処理液による化成処理を施して、第1保護層を形成し、次にこの第1保護層上に、親水性樹脂を含む第2保護層を形成する工程を含み、前記第2保護層中の親水性樹脂が、架橋されていない少なくとも1種の親水性官能基と、この親水性官能基とは異なる少なくとも1種の反応性官能基とを含み、この反応性官能基の少なくとも一部が架橋されているアルミニウム含有金属製熱交換器の製造方法。」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていることになる。

3-2.対比・判断
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「アルミニウム又はアルミニウム合金から形成された熱交換器のチューブ及びフィン」、「第1保護層」、「第2保護層」、「アルミニウム含有金属製熱交換器の製造方法」は、それぞれ本願発明1の「アルミニウム含有金属材料」、「第1保護膜層」、「第2保護膜層」、「アルミニウム含有金属材料の表面処理方法」に相当するから、両者は、
「アルミニウム含有金属材料の表面の少なくとも1部に、リン酸ジルコニウム及びリン酸チタンの少なくとも1種を含む化成処理液による化成処理を施して、第1保護膜層を形成し、次にこの第1保護膜層上に、親水性樹脂を含む第2保護膜層を形成する工程を含み、前記第2保護膜層中の親水性樹脂が、架橋されていない少なくとも1種の親水性官能基と、この親水性官能基とは異なる少なくとも1種の反応性官能基とを含み、この反応性官能基の少なくとも一部が架橋されているアルミニウム含有金属材料の表面処理方法。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:第1保護膜層形成の前の工程に関して、本願発明1は、「化学エッチング処理を施し、このとき、アルミニウム含有金属材料の減量を0.02?10g/m^(2)にコントロール」するのに対し、引用例1発明は、脱脂処理を施す点

上記相違点について検討する。
引用例2の摘記事項(2a)によれば、塗装性に優れたアルミニウム含有金属材料(Al又はAl合金板)の製造方法において、表面を0.05g/m^(2)(50mg/m^(2))以上エッチングすることが記載され、摘記事項(2b)、(2d)によれば、熱交換器のフィンの実施例において、アルミニウム含有金属材料(コイル)をエッチング、化成処理、その後、塗装処理することが、摘記事項(2c)によれば、表面のエッチング量を0.05g/m^(2)(50mg/m^(2))以上とすることにより、結晶性酸化膜を完全に除去して、塗膜の膨れ、剥離等の密着不良のない塗装用アルミニウム含有金属材料を提供することが、それぞれ記載されている。これらの記載によれば、アルミニウム含有金属材料の表面にエッチング処理を施し、次に化成処理を施して化成処理皮膜(第1保護膜層)を形成し、次にこの化成処理皮膜(第1保護膜層)の上に塗膜(第2保護膜層)を形成する工程を含むアルミニウム含有金属材料の表面処理方法において、エッチング処理におけるアルミニウム含有金属材料の減量を0.05g/m^(2)以上とすることにより、塗膜(第2保護膜層)の膨れ、剥離等の密着不良のないアルミニウム含有金属材料を提供できることが理解できるところ、第2保護膜層の膨れ、剥離等の密着不良のないアルミニウム含有金属材料を提供することは、引用例1発明においても、当業者が当然に目的とすべきことである。
そうであれば、引用例1発明において、第1保護膜層形成の前に、化学エッチング処理を施すことは、当業者が容易に想到することであるし、また、引用例2の摘記事項(2e)によれば、減量が1.0g/m^(2)(1030mg/m^(2))、2.5g/m^(2)(2510mg/m^(2))の実施例も記載されているのであるから、減量を、引用例2に開示された0.05?2.5g/m^(2)の範囲を含む0.02?10g/m^(2)にコントロールすることも、当業者にとって格別な創意を要することではない。
してみると、上記相違点は、引用例2の記載から当業者が適宜なし得たことである。

そして、本願発明1の奏する効果も引用例1、2の記載から予測される範囲のものであって、格別顕著なものとは認められない。

したがって、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

審判請求人は、審判請求書の平成19年3月2日付の手続補正書において、「本願の発明は・・・下記問題点、(i)湿潤・乾燥が繰り返えされると、ノンクロメート化成処理皮膜が劣化し、皮膜の一部が剥離して欠陥部を発生すること。(ii)この欠陥部に露出した金属またはその酸化物などに起因する臭気が発生すること。を解消するためになされたものである。」(2頁22?30行)とし、「引用文献1(引用例1)には・・・作用効果(i)、(ii)が得られることについても記載も示唆もない。」(6頁23、24行)、「引用文献7(引用例2)には・・・作用効果(i)、(ii)については記載も示唆もない。つまり、引用文献7は、本願発明の進歩性を阻却できないものである。」(7頁37?41行)と主張している。
しかし、本願明細書の「【0028】・・・本発明方法においては・・・親水性樹脂を含む第2保護層の軟化点が100℃以下であることが好ましい。この軟化点が100℃を超えると膜飛び現象を防止する効果が十分に得られないことがある。」という記載によれば、上記(i)、(ii)の問題点は、親水性樹脂を含む第2保護層の軟化点が100℃以下であることにより解決されることが理解できるところ、親水性樹脂を含む第2保護層の軟化点が100℃以下である点は、本願発明1の特定事項ではない。
してみると、上記審判請求人の主張は、本願特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり失当である。
そして、上記(i)、(ii)の問題点の解決を目的としなくても、第2保護膜層の膨れ、剥離等の密着不良を防止することを目的として、引用例1発明において、相違点に係る本願発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易であることは前示したとおりであるから、上記判断を覆す必要性はないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、上記のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-11 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願平9-292931
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬良 聡機  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 諸岡 健一
鈴木 正紀
発明の名称 アルミニウム含有金属材料の表面処理方法  
代理人 西舘 和之  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 西舘 和之  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  

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