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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1191198
審判番号 不服2007-7497  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-14 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2000-333507「引上げ室」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月17日出願公開、特開2002-138620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯
本願は、平成12年10月31日の出願であって、平成19年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月14日に審判請求がなされるとともに、同年3月30日付けで手続補正がなされたものである。
また、当審において、平成20年9月5日付けで審査官による前置報告書に基づく審尋がなされたところ、同年10月23日付けで回答書が提出されたものである。

【2】平成19年3月30日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年3月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容・目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成18年11月21日付け手続補正書により補正された明細書参照。)に、

「【請求項1】 複数台の単結晶引上げ機を設置し、複数の作業床を有し、天井またはその近傍の上部よりクリーンエアーをダウンフローにて供給するクリーン化された引上げ室において、各作業床で行われる作業に必要なクリーン度に応じて、高さ方向の階層に分かれている、少なくとも3床以上の作業床を設け、前記クリーン度が前記各作業床により区分けされており、上の階のクリーン度が下の階よりも高いことを特徴とする引上げ室。
【請求項2】 前記引上げ室の床構造は、少なくとも最上階に配置され高クリーン度を要する原材料搬入および単結晶棒搬出用の作業床、中間階に配置され単結晶製造後の発塵を伴う引上げ機内部の清掃あるいは炉体構成部品組み立て用の低クリーン度の作業床、並びに最下層に配置されクリーン度を必要としない引上げ機本体とその付帯機器およびユーティリティを設置しそれらのメンテナンスを行う作業床から成ることを特徴とする請求項1に記載した引上げ室。
【請求項3】 前記複数台の単結晶引上げ機が、前記引上げ室において仕切られずに設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した引上げ室。
【請求項4】 前記各作業床は自動搬送装置が通る通路を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載した引上げ室。」
とあったものを、

「【請求項1】 複数台の単結晶引上げ機を設置し、複数の作業床を有し、天井またはその近傍の上部よりクリーンエアーをダウンフローにて供給するクリーン化された引上げ室において、各作業床で行われる作業に必要なクリーン度に応じて、高さ方向の階層に分かれている、少なくとも3床以上の作業床を設け、前記クリーン度が前記各作業床により区分けされており、上の階のクリーン度が下の階よりも高く、前記引上げ室の床構造は、少なくとも最上階に配置され高クリーン度を要する原材料搬入および単結晶棒搬出用の作業床、中間階に配置され単結晶製造後の発塵を伴う引上げ機内部の清掃あるいは炉体構成部品組み立て用の低クリーン度の作業床、並びに最下層に配置されクリーン度を必要としない引上げ機本体とその付帯機器およびユーティリティを設置しそれらのメンテナンスを行う作業床から成り、前記複数台の単結晶引上げ機が、前記引上げ室において仕切られずに設置されていることを特徴とする引上げ室。
【請求項2】 前記各作業床は自動搬送装置が通る通路を有していることを特徴とする請求項1に記載した引上げ室。」
と補正しようとするものである。

本件補正は、本件補正前の請求項1及び2を削除し、請求項1または2を引用した請求項3に係る発明、すなわち2つの項を引用した形式の請求項3に係る発明を、請求項1を引用した請求項2を引用した請求項3に係る発明に限定して新たな請求項1に係る発明としたものであるから、本件補正は、少なくとも、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで、上記本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか、について以下に検討する。

2.特許法第29条第2項違反について

2-1.引用刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平10-310491号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】チョクラルスキー法によって成長された単結晶をメインチャンバーおよびプルチャンバーから構成される引上げ装置から取り出す装置であって、前記単結晶を昇降させる装置と、前記プルチャンバーを昇降および旋回させる装置と、引上げ装置を設置する固定床と、その固定床の上方であってプルチャンバーの旋回位置に開口部を設けた作業架台と、この作業架台上で前記単結晶を運搬する手段とを備え、プルチャンバーによって作業架台に設けられた開口部を通して保持された単結晶を冷却することを特徴とする単結晶の取り出し装置。
【請求項2】上記単結晶を運搬する手段が、単結晶を保持および運搬する台車と、この台車を昇降および移動するフォークリフトとから構成されることを特徴とする請求項1記載の単結晶の取り出し装置。」

(1b)「【0022】図1は本発明の単結晶の取り出し装置の全体構成の一例を説明する図であり、単結晶を作業架台に設けられた開口部を通して保持し冷却している状態を示している。同図に示すように、引上げ装置はメインチャンバー3とプルチャンバー4とで構成される。引上げ装置の下部を構成するメインチャンバー3の内部で単結晶が育成され、その中心部には結晶原料の溶融液を収容する坩堝が配置される。メインチャンバー3は、下部に制御装置8を設けて固定床10上に配置される。メインチャンバー3の下部に設けられる制御装置8には、坩堝1の回転昇降駆動装置、坩堝内の溶融液を加熱するヒータ電源装置、さらに後述するプルチャンバー用昇降旋回装置6の駆動装置などが配置されている。」

(1c)「【0024】作業者の作業領域となる作業架台11は固定床10の上方に設けられ、ハニカム構造またはパンチングメタル等のクリーンルーム内のエヤー流れを妨げない材料で構成される。・・・」

(1d)上記(1b)(1c)の記載事項に照らして図1を見ると、クリーンルームは固定床10及びその上方に設けられた作業架台11によって、高さ方向の階層に分かれている点が開示されている。

以上の記載事項(1a)?(1d)から見て、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

「単結晶の取り出し装置を設置し、固定床10の上方に作業架台11を設けて、高さ方向の階層に分かれ、作業架台11を単結晶運搬用としたクリーンルーム。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-205988号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
(2a)「【請求項1】 床(1b)に平行するパンチング床板(12)でその上側に位置する作業域と下側に位置する排気域とに分割され且つ天井(1a)近傍の全面に設置されているファンフィルタユニット(11)から噴き出すクリアエアが上記排気域から外部に排出し得るように構成されているダウンフロー式の無塵室(1) 内に設置される、少なくともローダ・アンローダ部(41)と処理部(42)とを具えた無塵室用製造装置であって、
前記作業域内の所定位置にある未加工部材を処理部へ供給しまたは加工済加工部材を該処理部から上記所定位置に戻すローダ・アンローダ部(41)が前記作業域内に設置され、該ローダ・アンローダ部(41)の下側に位置する処理部(42)が前記排気域内に配置されて構成されていることを特徴とした無塵室用製造装置。」

(2b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は無塵室(クリーンルーム)内に設置する製造装置の構成に係り、特に製造装置の発塵し易いメンテナンスゾーン等を特別に仕切ることなく作業域での清浄度を維持しまたは向上させると共に床面積の有効利用を実現して生産性の向上を図った無塵室用製造装置に関する。」

(2c)「【0005】なおいずれも理解し易くするため無塵室を垂直面で切断した断面で表わしている。図2で天井1aと床1bで囲まれている無塵室1は、天井1aに近接した位置には微細な塵埃を吸収して清浄なエアのみを通過させるファンフィルタ・ユニット11が該天井1aと平行に配設されていると共に、該ファンフィルタ・ユニット11と床1bとの間の所定位置に該床1bと平行に配設されている適当な間隔に貫通孔を持つパンチング床板12で作業域Aと排気ポンプ13に繋がる排気域Bとに分離された構成になっている。
【0006】そして、該無塵室1の外部に設置されている吸気ポンプ14から吸入され上記天井1aとファンフィルタ・ユニット11の間に流入するエアE1は該ファンフィルタ・ユニット11で清浄化された後クリーンエアE2となって作業域A内をダウンフローするが、パンチング床板12を通過した後の該作業域A内で発生する塵埃を含んだエアE3は上記排気ポンプ13によって外部に排出されることとなる。
【0007】従って、作業域Aではその上方から常時クリーンエアE2が供給されていると同時に該領域で発生する塵埃はそのまま該クリーンエアE2と共にダウンフローして排気域Bから排出されるので、清浄雰囲気中での作業が実現できる無塵室1を構成することができる。」

(2d)「【0016】
【作用】無塵室内での作業域とメンテナンスゾーンとが上下の階層的に分離できると作業域での床面積を有効に利用することができる。
【0017】そこで本発明では、水平方向に展開して配設している従来の製造装置を垂直方向に展開して配設することで作業域とメンテナンスゾーンとを階層的に分離するようにしている。」

(2e)「【0019】
【実施例】図1は本発明になる無塵室用製造装置を無塵室と共に説明する断面図であり、上記同様に製造装置がイオン・エッチング装置である場合例としているため図2および図3と同じ対象部材には同一の記号を付して表わしている。
【0020】図1で、ローダ・アンローダ部41とイオン・エッチング処理部42とからなるイオン・エッチング装置4はローダ・アンローダ部41が図2で説明した作業域Aに配設され、またイオン・エッチング処理部42はそれに繋がる給排水管23や真空ポンプ24等の付設物と共に図2で説明した排気域Bに配設されている。」

(2f)「【0023】そして特にこの場合には、イオン・エッチング処理部42等をメンテナンスするときには該メンテナンス対象物が排気域Bに位置しているため例えば該領域Bに位置する破線で示す作業者M2によって行なうことができる。
【0024】従って少なくとも作業域A内ではクリアエアE2はダウンフローすることになるので、メンテナンス作業時に発生する上記塵埃や異物はエアE3となってそのまま排気されると同時にこれらの塵埃や異物によってクリアエアE2が汚染されることがない。」

(2g)上記記載事項(2c)に照らして図1?3を見ると、無塵室は床1b及びその上方に設けられたパンチング床板12によって、高さ方向の階層に分かれている2床が設けられている点が開示されている。

以上の記載事項(2a)?(2g)から見て、刊行物2には、以下の技術が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物2記載の技術」という。)

「無塵室用製造装置を設置し、床1b及びパンチング床板12を有し、天井1aに近接した位置に配設されたファンフィルタ・ユニット11で清浄化された後のクリーンエアーをダウンフローにて上方から供給する無塵室において、高さ方向の階層、すなわちクリーンエアE2が供給される作業域A及び塵埃や異物を含むエアE3が供給され、メンテナンスゾーンとして利用できる排気域Bに分かれている、2床を設けた無塵室。」

(3)刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、米国特許第5641354号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。
(3a)「TECHNICAL FIELD
This invention relates to facilities for growing crystals for use in the semiconductor industry and, in particular, to a crystal puller cell for housing a Czochralski crystal puller and to a growing hall housing multiple ones of such cells.」(公報第1欄第3?6行)
上記には、この発明がチョクラルスキー法によって成長された単結晶を引き上げる装置及びこれを設置するセルに関連したものである点が記載されている。

(3b)「The crystal puller cell comprises plural cell walls that isolate the environment within the cell from the environment in the growing hall outside the cell and a base floor at a first level for mounting of a crystal puller. Above the base floor is a second floor for accessing the crystal puller. The second floor is preferably a multi-level floor having a second, or operator, level positioned at a height convenient for loading the raw material and unloading the single crystal and an intermediate, or maintenance, level positioned at a height between the first and second levels and convenient for maintaining the crystal puller. 」(公報第2欄第27?37行)
上記には、ベースフロアの上方に、単結晶引き上げ装置にアクセスするための2番目のフロアが、また、ベースフロアと2番目のフロアの間にメンテナンスのためのフロアが設けられている点が記載されている。

(3c)「The area within the growing hall is divided into three types of areas: puller cells, clean aisles, and maintenance aisles. Each area has an environment characterized by an airborne particulate level, which corresponds to a level of cleanliness. A relatively high degree of cleanliness is maintained in the clean aisles, which are used to bring raw material to and finished products from the puller cell. A lower degree of cleanliness is maintained in the maintenance aisles, which are used by maintenance workers to maintain the crystal pullers.
Each crystal puller cell has two doors: a first door, at the operator level, that opens onto a clean aisle and a second door, at the maintenance level, that opens onto a maintenance aisle. 」(公報第2欄第57行?第3欄第6行)
上記には、ホール内は、引き上げ装置のセル、クリーン通路、メンテナンス通路の3つのエリアに分かれている点、各々のエリアは清潔さのレベルに応じて特徴づけられている点、原材料の導入や製品をセルから引き上げる際に使用するクリーン通路は比較的高度な清潔さを保っており、メンテナンス通路はそれより低い程度で清潔さを維持している点が記載されている。

(3d)「 FIG. 2 shows a cross sectional view of a preferred crystal puller cell 18 of the present invention within crystal-growing hall 10. ・・・Crystal puller cell 18 houses a multi-story crystal puller 28, which rests upon a prefabricated concrete pad 30, which, in turn, rests upon a base floor 32.
・・・
Crystal puller 28 comprises a pull chamber 42a into which the grown single crystal is received, a furnace tank 42b in which a semiconductor material is melted and grown into a single crystal, and a mechanical unit 44, positioned below furnace tank 42b, that contains mechanical and electrical components that operate crystal puller machine 28.
Puller cell 18 also includes a discontinuous multi-level floor 46 comprising an operator floor 48 positioned at an operator level convenient to pull chamber 42a and a maintenance floor 52 at a maintenance level convenient to furnace tank 42b. Operator floor 48 is typically level with the bottom of pull chamber 42a so that an operator or a material handling device (not shown) can easily access the pull chamber 42a. Such an operator floor 48 is particularly useful with crystal pullers 28 that use a door-type pull chamber 42a. It will be understood that ingots grown in crystal puller 28 can be quite large, some being longer than two meters and weighing over one hundred kilograms. Access to crystal puller 28 is provided through two doors in puller cell 18, a maintenance door 62 that opens onto the maintenance level and an operator door 64 that opens onto the operator level.
FIG. 3 shows that prefabricated ceiling unit 26 includes a filter housing 78 for housing high-efficiency particulate air ("HEPA") filters 80, lighting fixtures 82, and fire-prevention sprinklers 84 all mounted on a common ceiling grid 86. Grid 86 is mounted at the top of walls 24, above crystal pulling machine 28 and below a hall ceiling 16, and attached to a plenum 88 to provide air flow.」(公報第3欄第55行?第4欄第41行)
上記には、FIG. 2には、ホール10内の単結晶引き上げ装置のセル18の断面が示され、セル18には、ベースフロア32上のコンクリートパッド30上に単結晶引き上げ装置28が設置されている点、単結晶単結晶引き上げ装置28は、引き上げチャンバー42a、炉タンク42b、及び炉タンク42bの下方にメカニカルユニット44を有している点、セル18は、オペレータや材料取扱い装置が引き上げチャンバー42aに簡単に近づくことができる、該チャンバー42aと同じレベルのオペレーターフロア48を構成するマルチレベルフロア46と、炉タンク42bのメンテナンスに便利なメンテナンスフロア52を有する点、HEPAフィルタ80を内蔵するフィルタハウジング78等を含む天井ユニット26が、共通の天井グリッド86に設置された点、が記載されている。

(3e)「Referring to FIG. 1, the area within growing hall 10 is divided into puller cells 18, clean aisles 114, and maintenance aisles 116. Puller cell maintenance door 62 opens onto maintenance aisle 116, and operator door 64 opens onto clean aisle 114. A relatively high degree of cleanliness is maintained in clean aisles 114, which are used to bring raw materials and finished products to and from puller cell 18. The raw material typically comprises ultrapure polycrystalline silicon, precharged in a quartz crucible; the finished product is typically a single crystal silicon ingot. A lower degree of cleanliness is maintained in maintenance aisle 116, which is used by maintenance workers to maintain crystal puller 28.」(公報第5欄第20?32行)
上記には、FIG. 1に示すように、ホール10には、セル18と分離されたクリーン通路114とメンテナンス通路116があり、引き上げ装置のセルのメンテナンスドア62はメンテナンス通路116上に開き、オペレータ・ドア64はクリーン通路114に開く点、クリーン通路114では、比較的高度のクリーン度が維持され、原料や単結晶製品の運搬に用いられる点、メンテナンス通路116は、より低い度合いのクリーン度が維持され、単結晶引き上げ装置28をメンテナンスする作業者に使用される点、が記載されている。

(3f)上記記載事項(3e)に照らして図2を見ると、最下層にベースフロア32が、メカニカルユニット44と炉タンク42bの間の位置にメンテナンスフロア52が、引き上げチャンバー42aと炉タンク42bの間の位置にオペレータフロア48がそれぞれ設けられ、高さ方向の階層に分けられる、3つのフロア(床)が設けられている点が開示されている。

以上の記載事項(3a)?(3f)から見て、刊行物3には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物3記載の技術」という。)

「複数台の単結晶引き上げ装置28をそれぞれ内部に設置した複数のセル18とクリーン通路114とメンテナンス通路116とを有するホール10であって、各セル18内には、ベースフロア32と、オペレータや材料取扱い装置が引き上げチャンバー42aに簡単に近づくことができるオペレータフロア48と、これらの間に設置され、炉タンク42bのメンテナンスに使用されるメンテナンスフロア52とが設けられ、高さ方向の階層に分かれた3つのフロアが形成されており、天井にHEPAフィルタ80が設けられ、最上階のオペレータフロア48は、比較的高度のクリーン度が維持されているクリーン通路114に開き、中間階のメンテナンスフロア52は、より低い度合いのクリーン度が維持されるメンテナンス通路116に開いており、前記複数台の単結晶引き上げ装置28が、前記セル18により仕切られているホール10。」

2-2.対比
本件補正発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「単結晶の取り出し装置」、「固定床10及びその上方の作業架台11」、「クリーンルーム」が、本件補正発明の「単結晶引上げ機」、「複数の作業床」、「クリーン化された引上げ室」に相当する。
よって、両者は、

「単結晶引上げ機を設置し、複数の作業床を有するクリーン化された引上げ室において、高さ方向の階層に分かれている複数の作業床を設け、上階の作業床を単結晶棒搬出用の作業床とした引上げ室。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本件補正発明は、天井またはその近傍の上部よりクリーンエアーをダウンフローにて供給するのに対して、刊行物1記載の発明は、クリーンエアーをどのように供給しているのか不明である点。
(相違点2)
本件補正発明は、各作業床で行われる作業に必要なクリーン度に応じて、高さ方向の階層に分かれている、少なくとも3床以上の作業床を設け、前記クリーン度が前記各作業床により区分けされており、上の階のクリーン度が下の階よりも高く、前記引上げ室の床構造は、少なくとも最上階に配置され高クリーン度を要する原材料搬入および単結晶棒搬出用の作業床、中間階に配置され単結晶製造後の発塵を伴う引上げ機内部の清掃あるいは炉体構成部品組み立て用の低クリーン度の作業床、並びに最下層に配置されクリーン度を必要としない引上げ機本体とその付帯機器およびユーティリティを設置しそれらのメンテナンスを行う作業床から成るのに対して、刊行物1記載の発明は、高さ方向の階層に分かれている2床を設けており、それぞれの階層のクリーン度は不明である点。
(相違点3)
本件補正発明は、複数台の単結晶引上げ機が、引上げ室において仕切られずに設置されているのに対して、刊行物1記載の発明は、単結晶引上げ機の台数及び仕切りの有無について不明である点。

2-3.判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
上記のように、刊行物2記載の技術は、上方を作業域とした無塵室において、天井1aに近接した位置に配設されたファンフィルタ・ユニット11で清浄化された後のクリーンエアーをダウンフローにて上方から供給するものであり、上記相違点1に係る構成は、公知の技術である。
そして、刊行物1記載の発明は、上の階を単結晶棒取り出し用としていることから、上方のクリーン度が高いことが求められていることは明らかであり、クリーンエアの供給に、刊行物2記載の技術を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
してみると、本件補正発明の上記相違点1に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
刊行物3記載の技術は、天井にHEPAフィルタ80が設置されており(上記記載事項(3d)参照)、該フィルタ80からクリーンエアをダウンフローにて供給するものであり、その際、空間内の上方がクリーン度が高く、下方ほどクリーン度が低くなることは自明な事項であり、刊行物3記載の技術において、最上階のオペレータフロア48がクリーン度が最も高く、次いでメンテナンスフロア52、ベースフロア32となっていることは明らかである。
一方、上記記載事項(3c)?(3f)から明らかであるように、クリーン通路114とメンテナンス通路116は清潔さのレベルに応じて、すなわちクリーン度に応じて分けられており、原材料の搬入等を行うクリーン通路114は比較的高度なクリーン度を維持しており、メンテナンス通路116はそれより低いクリーン度を維持していることから、それに通じるオペレータフロア48及びメンテナンスフロア52もそれぞれクリーン度に応じて分けられている状態となっていることは明らかであり、クリーン度が高いクリーン通路114に通じるオペレータフロア48の方が、その下層側にある、それより低い程度のクリーン度を維持するメンテナンス通路116に通じるメンテナンスフロア52よりクリーン度が高く、その下方のベースフロア32はさらにクリーン度が下がることは自明な事項であり、このことからも、刊行物3記載の技術において、最上階のオペレータフロア48がクリーン度が最も高く、次いでメンテナンスフロア52、ベースフロア32となっていることは明らかである。
そして、刊行物1記載の発明及び刊行物3記載の技術はいずれも単結晶引き上げ作業を行う引き上げ室に関するものであり、共通の技術分野に属するものであるから、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を採用して、各作業床で行われる作業に必要なクリーン度に応じて、高さ方向の階層に分かれている、少なくとも3床以上の作業床を設け、前記クリーン度が前記各作業床により区分けされており、上の階のクリーン度を下の階よりも高くすることは、当業者が容易になし得たことである。
ここで、刊行物3記載の技術は、中間階が「単結晶製造後の発塵を伴う引上げ機内部の清掃あるいは炉体構成部品組み立て用」であり、最下層が「引上げ機本体とその付帯機器及びユーティリティのメンテナンスを行う」ためであるか、明らかではないが、刊行物3記載の技術も、中間階に相当するメンテナンスフロアに炉タンクが、最下層に相当するベースフロアにメカニカルユニットがそれぞれ配置されており(上記記載事項(3d)(3f)参照)、また、一般的に機器をメンテナンスすることは、当業者であれば当然に行う事項であるから、中間階及び最下層を上記の用途で使用することは、当業者が適宜なし得たことである。
してみると、本件補正発明の上記相違点2に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点3について)
刊行物3記載の技術は、セル18毎に3つの作業床を設けたものであるが、複数台の単結晶引上げ機が引上げ室において仕切られずに設置されることは、例えば特開平4-310592号公報(特に段落【0010】、図1参照)、特開平11-322493号公報(特に段落【0039】、図8参照)にも開示されているように、従来周知の技術であり、また、刊行物2記載の技術は、室内に複数の作業機を仕切らずに設置したものにおいて、階層を分ける作業床を共通のものとして作業者が作業機間を移動できるものとしており、当該技術を刊行物1記載の発明に採用することは、当業者が容易になし得たことである。
してみると、本件補正発明の上記相違点3に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本件補正発明の効果は、刊行物1記載の発明、刊行物2,3記載の技術、及び周知技術から予測することができる程度のことである。

よって、本件補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2,3記載の技術、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

【3】本願発明
1.平成19年3月30日付けの手続補正書は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成18年11月21日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 複数台の単結晶引上げ機を設置し、複数の作業床を有し、天井またはその近傍の上部よりクリーンエアーをダウンフローにて供給するクリーン化された引上げ室において、各作業床で行われる作業に必要なクリーン度に応じて、高さ方向の階層に分かれている、少なくとも3床以上の作業床を設け、前記クリーン度が前記各作業床により区分けされており、上の階のクリーン度が下の階よりも高いことを特徴とする引上げ室。」
(以下、本願の請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

2.本願発明と引用発明1との対比・判断
2-1.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「【2】2-1.」に記載した通りである。

2-2.対比・判断
本願発明は、前記【2】で検討した本件補正発明から、「前記引上げ室の床構造は、少なくとも最上階に配置され高クリーン度を要する原材料搬入および単結晶棒搬出用の作業床、中間階に配置され単結晶製造後の発塵を伴う引上げ機内部の清掃あるいは炉体構成部品組み立て用の低クリーン度の作業床、並びに最下層に配置されクリーン度を必要としない引上げ機本体とその付帯機器およびユーティリティを設置しそれらのメンテナンスを行う作業床から成り、前記複数台の単結晶引上げ機が、前記引上げ室において仕切られずに設置されている」点を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「【2】2-3.」に記載したとおり、刊行物1記載の発明、刊行物2,3記載の技術、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1記載の発明、刊行物2,3記載の技術、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたのものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2,3記載の技術、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-14 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-333507(P2000-333507)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 草野 顕子
石川 好文
発明の名称 引上げ室  
代理人 好宮 幹夫  

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