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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1191201
審判番号 不服2007-9060  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-29 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2001-370623「車両用操舵装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月17日出願公開、特開2003-170842〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成13年12月4日の出願であって、原審において、平成18年12月5日付け拒絶理由通知に対して平成19年2月1日付けで手続補正がなされたが、同年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、同年3月29日に本件審判請求がなされるとともに、同年4月26日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成19年4月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年4月26日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1.手続補正後の請求項1に係る発明
本件手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された。
「操舵手段の操作に応じて操舵モータを駆動し、該操舵モータの回転を前記操舵手段から機械的に分離された舵取機構中の操舵軸に伝え、該操舵軸を軸長方向に移動させて操舵を行わせる車両用操舵装置において、
前記操舵モータを2つ備え、これらの操舵モータは、前記操舵軸の軸長方向に対して垂直な方向に配してあり、前記操舵軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオンを有するピニオン軸に回転力を伝えるべく、該ピニオン軸にスプライン結合され、前記ピニオンの端面との間に介装されたスペーサ筒により軸長方向に位置決めして取付けたウォームホイールを介して伝動構成してあることを特徴とする車両用操舵装置。」
(以下「本願補正発明」という。)

上記補正は、補正前の請求項1に係る発明の「ピニオン軸」について「ピニオンを有するピニオン軸」と限定し、同「ピニオン軸に回転力を伝えるべく伝動構成してある」の構成について「ピニオン軸にスプライン結合され、前記ピニオンの端面との間に介装されたスペーサ筒により軸長方向に位置決めして取付けたウォームホイールを介して伝動構成してある」と更に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、上記の本願補正発明が、同法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項に規定する、いわゆる独立特許要件を備えているかどうかについて以下に検討する。

2.引用例とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平10-218000号公報(以下「引用例1」という。)には、「自動車の舵取装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(イ)「【請求項1】 舵取機構と機械的に連結されていない操舵手段と、前記舵取機構にその出力を加える操舵モータとを備え、前記操舵手段の操作位置と前記舵取機構の実動作位置との偏差に基づいて求めた必要操舵力を得るべく前記操舵モータを駆動し、前記操舵手段の操作に応じた舵取りを行わせるようにした自動車の舵取装置において、前記舵取機構の相異なる位置に前記操舵モータを一対配し、これら夫々の出力の目標値を、前記必要操舵力を所定の比率にて配分して決定する舵取制御部を具備することを特徴とする自動車の舵取装置。」

(ロ)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】さて、以上の如く構成された分離型の舵取装置を、従来広く用いられている動力舵取装置と比較した場合、後者における舵取りが、操舵手段たるステアリングホイールに加えられる操作力と、舵取機構に付設された操舵補助用のモータの出力との合力によって行われるのに対し、前者における舵取りは、舵取機構に付設された操舵モータの出力のみによって行われるという相違がある。
【0011】従って、分離型の舵取装置において使用される操舵モータとしては、動力舵取装置において使用される操舵補助用のモータに比して大出力のモータが必要であり、出力の増大に伴って大嵩となる操舵モータの配設位置を舵取機構の周辺に確保することが難しいという問題があった。
【0012】更には、動力舵取装置において操舵補助用のモータが故障した場合、操舵補助力が失われるに過ぎず、ステアリングホイールに加えられる操作力により舵取りを行わせ得るのに対し、分離型の舵取装置において操舵モータが故障した場合には、舵取りが困難となる虞れがあった。
【0013】本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、舵取機構の周辺における操舵モータの配設位置の確保が容易であり、また、操舵モータが故障した場合においても舵取りが困難となることを未然に防止し得る分離型の舵取装置を提供することを目的とする。」

(ハ)「【0015】この発明においては、舵取機構の異なる位置に一対の操舵モータを配し、これらの夫々の出力の目標値を、操舵手段の操作位置と舵取機構の実動作位置との偏差に基づいて求めた必要操舵力を所定の比率にて配分して決定し、これらの目標値を得るべく両操舵モータを駆動して、これらの出力の合力を舵取機構に加えて舵取りを行わせる。これにより、両操舵モータを小型化することができ、舵取機構の周辺への夫々の配設が容易となる。」

(ニ)「【0021】この舵取装置は、車体の左右に配された一対の舵取用の車輪10,10に舵取動作を行わせるための舵取機構1と、該舵取機構1から切り離して配された操舵手段たるステアリングホイール2と、該ステアリングホイール2の操作に応じて前記舵取機構1を動作させるべく、後述する制御動作を行う舵取制御部3とを備えてなる。
【0022】前記舵取機構1は、公知のラック・ピニオン式の舵取機構であり、車体の左右方向に延設されて軸長方向に摺動するラック軸11の両端部を、舵取用の車輪10,10のナックルアーム12,12に各別のタイロッド13,13を介して連結し、ラック軸11の両方向への摺動によりタイロッド13,13を介してナックルアーム12,12を押し引きし、前記車輪10,10を左右に操向させる構成となっている。
【0023】この操向を行わせるため本発明装置は、ラック軸11を軸長方向への摺動自在に支承するラックハウジング14の中途に一体的に構成された主操舵モータM_(1) と、ラックハウジング14の一部に交叉する態様に連設されたピニオンハウジング4に取り付けた副操舵モータM_(2)とを備えており、車輪10,10の操向は、主操舵モータM_(1) 及び副操舵モータM_(2)の回転を、各別の運動変換機構によりラック軸11の摺動に変換して行われる。」

(ホ)「【0028】ラック軸11は、ラックハウジング14との間に介装された図示しない回転拘束手段により軸回りの回転を拘束されており、主操舵モータM_(1) の回転、即ち、ステータ51への通電に伴うロータ52の回転は、ロータ筒53の一側に連設されたボールナット58と、ラック軸11と一体形成されたボールねじ部59との螺合により、該ラック軸11の軸長方向の摺動に直接的に変換されるようになっている。このようにして、主操舵モータM_(1) の回転に応じた舵取り(舵取用の車輪10,10の操向)が行われる。」

(ヘ)「【0029】図3は、副操舵モータ(DCモータ)M_(2)の取り付け位置近傍の縦断面図、図4は、図3のIV-IV線による横断面図である。ラックハウジング14と交叉するピニオンハウジング4の内部には、軸心回りでの回動自在にピニオン軸40が支承されている。該ピニオン軸40は、ラックハウジング14との交叉部において、ラック軸11の対応部分に形成されたラック歯に噛合するピニオン41を一体的に備えており、ピニオン軸40の回転は、ピニオン41とラック歯との噛合により、ラック軸11の軸長方向の摺動に変換されるようになしてある。この実施の形態においては、ラック軸11に噛合するピニオン41を前記副操舵モータM_(2)の運動変換機構としている。
【0030】ピニオン軸40の中途部には、ピニオンハウジング4の一部を大径化して形成されたギヤ室4aの内部において、ウォームホイール42が同軸的に嵌着固定され、該ウォームホイール42には、その外周の適宜位置に、ギヤ室4aの内部に枢支されたウォーム43が噛合させてある。副操舵モータM_(2)は、ギヤ室4aの外側に固定されており、ギヤ室4a内に進入せしめたその出力軸44の先端は、スリーブ状の継手45を介して、前記ウォーム43の基端部に同軸的に連結されている。
【0031】以上の構成により副操舵モータM_(2)が回転した場合、ウォーム43がその軸回りに回転し、この回転がウォームホイール42を介してピニオン軸40に伝達されて、これと一体形成されたピニオン41が回転し、この回転がラック軸11の軸長方向の摺動に変換される。このようにして副操舵モータM_(2)の回転に応じた舵取りが行われる。」

(ト)「【0053】以上の動作により、主操舵モータM_(1)及び副操舵モータM_(2)が共に正常動作可能な状態にある場合(一般的にはこの状態にある)、舵取機構1には、主操舵モータM_(1)の出力F_(1)と副操舵モータM_(2)の出力F_(2)との合力として必要操舵力Fが加えられる。従って、主操舵モータM_(1)及び副操舵モータM_(2)は、必要操舵力Fの一部を負担すれば良く、両モータM_(1),M_(2)を小型化することができ、舵取機構1の周辺への配設が容易に行えるようになる。
【0054】主操舵モータM_(1)は、図2に示す如く、ラック軸11を支承するラックハウジング14の中途部に一体的に構成されており、ラック軸11の周囲に大なる空間を占めることなく配設し得る。また副操舵モータM_(2)は、図3及び図4に示す如く、舵取機構1とステアリングホイール2とが連結された連結型のラック・ピニオン式舵取装置において、ラック軸11の中途部に噛合するピニオン軸40を利用し、該ピニオン軸40に回転力を加える構成としてあり、既存の舵取機構1に無理なく配設することが可能である。
【0055】なお、主操舵モータM_(1)及び副操舵モータM_(2)の構成は、以上の実施の形態に示す構成に限らず、他の構成を採用し得ることは言うまでもない。」

(チ)「【0063】なお以上の実施の形態は、本発明装置の一例を示すものであり、前述の如く、主操舵モータM_(1)及び副操舵モータM_(2)の構成、並びに配設態様を限定するものではなく、また、反力モータM_(3)の構成及び配設態様についても同様である。」

(リ)「【0064】
【発明の効果】以上詳述した如く本発明装置においては、舵取機構の異なる位置に一対の操舵モータを配し、これら夫々を、必要操舵力を所定の比率にて配分して得られる出力を得るべく駆動して、両者の出力を合わせて舵取りを行わせる構成としてあるから、両操舵モータを共に小型化することができ、舵取機構の周辺の限られた空間内への夫々の配設が容易となり、無理のない構成が可能となる。」

<引用発明>
上記記載事項から、引用例1には、次の発明が開示されていると認めることができる。
「操舵手段の操作に応じて操舵モータを駆動し、該操舵モータの回転を前記操舵手段と機械的に連結されていない舵取機構中のラック軸に伝え、該ラック軸を軸長方向に移動させて操舵を行わせる自動車の舵取装置において、
前記操舵モータは、ラック軸11を軸長方向への摺動自在に支承するラックハウジング14の中途に一体的に構成された主操舵モータM_(1)と、ラックハウジング14の一部に交叉する態様に連設されたピニオンハウジング4に取り付けた副操舵モータM_(2)との2つ備え、主操舵モータM_(1)は、ロータ筒53の一側に連設されたボールナット58と、ラック軸11と一体形成されたボールねじ部59との螺合により伝動構成してあり、副操舵モータM_(2)は、前記ラック軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオンを有するピニオン軸に回転力を伝えるべく、該ピニオン軸に嵌着固定されたウォームホイールを介して伝動構成してある自動車の舵取装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)同じく引用された、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平8-258728号公報(以下「引用例2」という。)には、「電動パワーステアリング装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(ヌ)「【0002】
【従来の技術】従来電動パワーステアリング装置は油圧式のものに比較して出力が小さいため、軽自動車において広く用いられてきた。ところが近年走行条件に応じたきめの細かい制御が可能な電動パワーステアリング装置の特性を生かすべく中,大型の自動車にも適用域が拡大されつつある。ただ中,大型の自動車への適用には電動モータとして高出力が必要となるが、これに応えるべく単純に電動モータを大型化してゆくことは設置スペースの面で限りがある外、組立工程での取扱いの作業性、コスト面での問題があった。この対策として小型電動モータを複数基、通常は2基併設することが行われている。」

(ル)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで上述した如き従来の電動パワーステアリング装置における如く小型の電動モータ21,22 を2台使用する構成にあっても、大型の自動車等では据切時等のアシスト力が不足する場合がままある。しかし、電動モータ台数を増してゆくことは搭載性の面で小型電動モータを使用する意義が薄れ、しかも電動モータの慣性モーメントが大きくなって操舵感覚も悪化する等の問題もあった。本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、第1の目的は複数の小型電動モータを使用するが、電動モータと操舵機構との間に介装する減速機構は減速比の大きいものと小さいものとを組合せることで、同じ定格の電動モータを使用した場合はアシスト力を増大し、また同じアシスト力を得る場合は電動モータの定格を小さいものとすることを可能とする。」

(ヲ)「【0011】
【実施例】以下本発明をその実施例を示す図面に基づいて具体的に説明する。図1は本発明に係る電動パワーステアリング装置のステアリングシャフトと電動モータとの結合構造を示す縦断面図、図2は図1のII-II線による拡大断面図である。図1, 図2において、2はステアリングシャフト、21,22 は操舵補助用の電動モータを示している。ステアリングシャフト2はステアリングコラム3内に玉軸受3aを用いて軸支されており、その上端はステアリングコラム3から上方に突き出され、ここには図示しない舵輪が装着されている。
【0012】またステアリングシャフト2の下端にはトーションバー7及び上部軸8がピン7aにて同心に連結され、また前記トーションバー7の下端には下部軸9が同じくピン7bにて同心に連結され、前記舵輪を回転させるとステアリングシャフト2,トーションバー7,上部軸8を介して下部軸9が回転せしめられるようになっている。下部軸9の下端はユニバーサルジョイント10の一端部に連結されており、ユニバーサルジョイント10の他端は従来と同様に(図5参照)ピニオン軸4の上端に連結されている。ピニオン軸4はピニオン軸ケース12内に軸支されており、その下端部にはピニオン歯が形成され、ラック軸ケース13内のラック軸6に形成したラック歯と噛合せしめられ、前記ユニバーサルジョイント10の回転によりピニオン軸4が回転駆動され、ラック軸6がその軸方向に移動せしめられて操向輪に対する操向操作がなされる。
【0013】電動モータ21,22 は前記ステアリングコラム3の下端部に設けたコラムブラケット23に夫々下部軸9と直交する方向に出力軸21c,22c を向けて固定されている。」

(ワ)「【0014】各ウォームギア26,27 は下部軸9の両側にこれを挟む態様で平行に延在され、夫々下部軸9の外周に固定したウォームホイール28,29 に下部軸9の周方向に 180°隔てた反対側にて夫々噛合せしめられている。電動モータ21,22 はその定格を同じにしてもよいし、異ならせてもよい。また第1の減速機構の減速比は同じにしてもよいし、異ならせてもよいが、全体として電動モータ21と下部軸9との間の第1の減速機構による減速比と、電動モータ22と下部軸9との間の第1,第2減速機構による減速比とは異ならせてある。通常は電動モータ21と下部軸9との間の減速機構による減速比は小さく、電動モータ22と下部軸9との間の減速機構による減速比は大きく設定される。」

(カ)「【0017】なお、図3,図4は本発明の電動モータの他の配置を示す模式図であり、上記電動モータ21,22 、電磁クラッチ24,25 及び減速機構は図3に示すように下部軸9に対して互いに反対方向からこれと直交するように配設し、また図4に示す如くピニオン軸ケース12に並設し、ピニオン軸4に設けたウォームホイールに夫々ウォームギアにて噛合連結させてもよい。」

3.本願補正発明と引用発明の対比・判断
(1)本願補正発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「ラック軸」、「自動車の舵取装置」は、本願補正発明におけるそれぞれ「操舵軸」、「車両用操舵装置」に相当する。
また、引用発明における「機械的に連結されていない」の構成は、本願補正発明における「機械的に分離された」の構成と実質的に変わりはないから、本願補正発明と引用発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「操舵手段の操作に応じて操舵モータを駆動し、該操舵モータの回転を前記操舵手段から機械的に分離された舵取機構中の操舵軸に伝え、該操舵軸を軸長方向に移動させて操舵を行わせる車両用操舵装置において、
前記操舵モータを2つ備えた車両用操舵装置。」

<相違点>
2つの操舵モータが、本願補正発明では、「操舵軸の軸長方向に対して垂直な方向に配してあり、前記操舵軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオンを有するピニオン軸に回転力を伝えるべく、該ピニオン軸にスプライン結合され、前記ピニオンの端面との間に介装されたスペーサ筒により軸長方向に位置決めして取付けたウォームホイールを介して伝動構成してある」のに対して、引用発明では、一方の副操舵モータM_(2)は、ラック軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオンを有するピニオン軸に回転力を伝えるべく、該ピニオン軸に嵌着固定された(取付けた)ウォームホイールを介して伝動構成しているものではあるが、その操舵軸軸長方向に対する配置方向については不明であり、他方の主操舵モータM_(1)は、ラックハウジング14の中途に一体的に構成され、ロータ筒53の一側に連設されたボールナット58と、ラック軸11と一体形成されたボールねじ部59との螺合により伝動構成したものである点。

(2)そこで、上記相違点について以下に検討する。
引用例2の上記記載事項(ヲ)、(ワ)、(カ)には、操舵補助用の2つのモータが、操舵軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオンを有するピニオン軸に回転力を伝えるべく、該ピニオン軸に取付けたウォームホイールを介して伝動する構成が示されている。
また、ウォームホイールなどのギアを軸に取り付ける手段として、スプライン結合は、例をあげるまでもなく周知の慣用手段であり、軸長方向の位置決めのためにスペーサを介装することも周知慣用手段である。
そして、引用例1の上記記載事項(ヘ)には、副操舵モータM_(2)の回転力を伝えるウォームは、ウォームホイールの外周の適宜位置に噛合配置させればよいことが示され、同(ト)には、副操舵モータM_(2)からラック軸に噛合するピニオン軸に回転力を加える構成とすることで、既存のラック・ピニオン式舵取装置の舵取機構に無理なく配設することができることが示されている。
そうすると、引用発明に引用例2記載の操舵補助用の2つのモータの上記伝動構成を適用して、主操舵モータM_(1)をも、「操舵軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオンを有するピニオン軸に回転力を伝えるべく、該ピニオン軸に取付けたウォームホイールを介して伝動する」ようにし、その際、上記周知慣用手段を適用してウォームホイールを「ピニオン軸にスプライン結合され、前記ピニオンの端面との間に介装されたスペーサ筒により軸長方向に位置決めして取付け」るようにし、2つのモータの配置方向をピニオン軸に取付けたウォームホイールの外周の適宜位置に噛合配置させ、「操舵軸の軸長方向に対して垂直な方向に配」する程度のことは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明が奏する作用効果も、上記引用発明及び引用例2記載の事項並びに上記周知慣用の技術から予測される程度以上のものでもない。

したがって、本願補正発明は、上記引用発明及び引用例2記載の事項並びに上記周知慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件手続補正による補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
本件手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成19年2月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の各請求項に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明は次のとおりである。
「操舵手段の操作に応じて操舵モータを駆動し、該操舵モータの回転を前記操舵手段から機械的に分離された舵取機構中の操舵軸に伝え、該操舵軸を軸長方向に移動させて操舵を行わせる車両用操舵装置において、
前記操舵モータを2つ備え、これらの操舵モータは、前記操舵軸の軸長方向に対して垂直な方向に配してあり、前記操舵軸の一部に形成されたラック歯に噛合するピニオン軸に回転力を伝えるべく伝動構成してあることを特徴とする車両用操舵装置。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、その構成事項の一部である「ピニオン軸」及び「ピニオン軸に回転力を伝えるべく伝動構成してある」の限定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、更に構成を限定している本願補正発明が、上記【2】3.に記載したとおり、上記引用発明及び引用例2記載の事項並びに上記周知慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記引用発明及び引用例2記載の事項及び上記周知慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【4】むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、上記引用発明及び引用例2記載の事項並びに上記周知慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-12 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2001-370623(P2001-370623)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
P 1 8・ 575- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 渡邉 洋
柴沼 雅樹
発明の名称 車両用操舵装置  
代理人 河野 登夫  

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