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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1191207 |
審判番号 | 不服2007-12053 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-26 |
確定日 | 2009-01-15 |
事件の表示 | 特願2004-564426「回転電機の固定子およびその固定子巻線の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日国際公開、WO2004/062065〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2002年12月26日(日本国)を国際出願日とする出願であって、平成19年3月20日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月26日に拒絶査定に対する審判が請求されると共に、同日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 2.本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願の発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「スロットが内径側に開口するようにして周方向に配列してなる円筒状の固定子鉄心と、上記固定子鉄心に装着された固定子巻線とを備えた回転電機の固定子であって、 上記固定子巻線は、上記スロットのそれぞれに収納された複数のスロット収納部と、所定スロット数離れた上記スロットの対に収納されている上記スロット収納部の端部同士を連結するコイルエンド部とを有し、 上記スロット収納部は、断面レーストラック状に形成され、断面の長手方向を周方向に向けて径方向に1列に並んで、かつ、互いに密接して収納されており、 上記スロット収納部は、断面レーストラック状の長辺長さをL_(1)、短辺長さをL_(2)としたときに、45%≦縦横比(L_(2)/L_(1))≦70%を満足し、かつL_(1)がスロット開口より大きく形成されていることを特徴とする回転電機の固定子。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「径方向に少なくとも1列に並んで」を「径方向に1列に並んで」に、「45%≦縦横比(L_(2)/L_(1))≦70%を満足するように形成されている」を「45%≦縦横比(L_(2)/L_(1))≦70%を満足し、かつL_(1)がスロット開口より大きく形成されている」に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭63-194543号公報(以下、「引用例1」という。)、特開2001-211587号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ図面と共に以下の事項が記載されている。 (2-1)引用例1 a)「第1図において、車両用交流発電機の筒状固定子(電機子)1の一部断面が示されている。この固定子1は、複数の鋼板を所定形状に打ち抜き、これを積層して形成して成り、固定子鉄心2は、外周側の背高鉄心部6,円周方向に向つて延長する歯状鉄心7を有し、上記歯状鉄心7の間に複数個のスロツト3を形成している。本実施例になる車両用交流発電機の固定子においては、固定子1の内周面上に12個のスロツトを形成しているが、上記第1図においてはその内の3個のみが示されている。また、上記歯状鉄心7の先端部には磁束収集部5である突起がその両端に形成され、もつて、磁束を収集する働きをするとともに、以下に説明する巻線の飛び出しを防止するための、いわゆる半閉スロツトを形成している。 上記固定子1のスロツト3内には、その断面が略長方形の固定子(電機子)巻線4が、この例では6本の巻線から成る固定子巻線がそう入されている。」(2頁左下欄19行?同頁右下欄17行) b)「第2図は、第1図に示す発電機固定子1を下側から見た図である。この図からも明らかなように、上記固定子鉄心2のスロット3内に収納された固定子巻線4は、スロツトそう入部においては偏平(長方形断面)に加工され、その他の部分、すなわちコイル端部4aにおいては円形断面の状態を保つている。」(3頁左上欄4?10行) c)「次に、上記の様にして形成された固定子巻線4は、第6図に示す固定子鉄心2の歯状鉄心7の間ら形成されたスロツト3内に、絶縁シート等を介してそう入固定される。この第6図にも示される様に、固定子鉄心2の歯状鉄心7は先端部には、その軸方向に貫通した略楕円形状の貫通孔10が設けられており、後に説明するように、その歯状鉄心の先端表面を押圧することにより上記の磁束収集部となる突起を形成し、もつて上記巻線がスロツト3から抜け出ないようにする。」(3頁左下欄7?16行) d)「以上述べた実施例においては、上記固定子巻線を形成するための電線素材を、その断面が円形の中実巻線、いわゆる丸線とした場合について説明した。しかしながら、本発明によれば、上記の丸線に代え、例えば第8図(a)に示すような中空導線40を使用することも可能である。この中空導線40は、図示のように、円環状の断面を有し、これを押圧すれば、第8図(b)に示す如く、略長方形の断面を有する導線となる。このような中空導線40を使用した場合、上記第4図に示した加圧成形工程において、既述の中実丸線に比較し、成形加工に必要な押圧力が減少し、かつ角形状への変形も容易かつ確実となることは明らかである。また、このような中空導線40を使用する場合においてもそのスロツトそう入部のみを偏平に形成することは同様である。」(3頁右下欄17行?4頁左上欄12行) e)「上記中空導線を使用する場合、中実導体に比較し、その加工工程における押圧力を減少できることから、加圧の際の巻線の絶縁被膜に傷が付きにくく、極めて不良率の低いものとすることができる。」(4頁左上欄12?16行) f)第6図には、スロツト3が内径側に開口するようにして周方向に配列してなる円筒状の固定子鉄心2の構成が示されている。 g)第1?3図及び第5図には、固定子巻線4は、スロツト3のそれぞれに収納された複数のスロツトそう入部と、所定スロツト数離れた上記スロツト3の対に収納されている上記スロツトそう入部の端部同士を連結するコイル端部4aとを有する態様が示されている。 h)第8図(b)には、スロツトそう入部が、断面が半円形の両端部を有する略長方形に形成され、その長辺長さを短辺長さの所定倍にしている態様が示され、第7図(b)には、スロツトそう入部の断面の長手方向を周方向に向けて径方向に1列に並んで、かつ、互いに密接して収納されて、長手方向の長さがスロツト3開口より大きく形成されている態様が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。 「スロツト3が内径側に開口するようにして周方向に配列してなる円筒状の固定子鉄心2と、上記固定子鉄心2のスロット3内に収納された固定子巻線4とを備えた車両用交流発電機の固定子1であって、 上記固定子巻線4は、上記スロツト3のそれぞれに収納された複数のスロツトそう入部と、所定スロツト数離れた上記スロツト3の対に収納されている上記スロツトそう入部の端部同士を連結するコイル端部4aとを有し、 上記スロツトそう入部は、断面が半円形の両端部を有する略長方形に形成され、断面の長手方向を周方向に向けて径方向に1列に並んで、かつ、互いに密接して収納されており、 上記スロツトそう入部は、断面が半円形の両端部を有する略長方形の長辺長さを短辺長さの所定倍にし、かつ長辺長さがスロツト開口より大きく形成されている車両用交流発電機の固定子1。」 (2-2)引用例2 a)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】従来の回転電機の固定子では、以上のように、巻線4を構成する導体2は、巻装時の固定子鉄心1にならう塑性変形と、巻装後のワニス処理によって固定子鉄心1に固定されている。そして、各スロット1aにおいては、導体2の直線部2aが互いに離間して、かつ、スロット1aの内周面から離間してスロット深さ方向に1列に並んで6層に収納されているので、ワニス7がスロット1aの内周面と直線部2aとの間および直線部2a間に含浸される際に空気が抜けきらず、空気層が残ってしまっている。その結果、導体2で発生した熱は、ワニス7および空気の層を介して固定子鉄心1に伝達されることになり、導体2から固定子鉄心1への熱伝導性が悪化し、導体2の温度が過度に上昇して、絶縁性能等を低下させ、高信頼性が得られなくなるとともに、導体2の抵抗が高くなり、出力が低下してしまうという課題があった。」 b)「【0011】 【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図について説明する。 実施の形態1.図1はこの発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を示す断面図であり、図において図4乃至図6に示した従来の固定子と同一または相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。図1において、各相の巻線10は、導体2が、その直線部2aを例えば3スロット毎のスロット1aに順次挿入されて波巻きに6回周回して固定子鉄心1に巻装されて構成されている。そして、導体2の直線部2aが絶縁被膜3を介して互いに密着してスロット深さ方向に1列に並んで、かつ、最深層の直線部2aがインシュレータ5を介してスロット1aの内底面に密着してスロット1a内に収納されている。」 c)「【0012】このように構成された固定子では、導体2の直線部2aが絶縁被膜3を介して互いに密着してスロット深さ方向に1列に並んで、かつ、最深層の直線部2aがインシュレータ5を介してスロット1aの内底面に密着してスロット1a内に収納されているので、ワニス処理を施したときに、ワニス7が直線部2a間、さらには直線部2aとスロット1aの内底面との間に十分侵入せず、直線部2a間、さらには直線部2aとスロット1aの内底面との間の接触面積が確保される。そこで、直線部2a間および直線部2aとスロット1aの内底面との間の良好な熱伝導性が確保され、導体2で発生した熱が固定子鉄心1に速やかに伝達され、固定子鉄心1さらにはハウジングから放熱される。これにより、導体2の温度が過度に上昇することがなく、導体2の温度上昇に起因する絶縁被膜3の劣化が抑えられるので、絶縁性能が確保される。その結果、絶縁性能の低下に起因する寿命低下が防止され、高信頼性の固定子が得られる。また、導体2の温度上昇に起因する導体2の抵抗値の上昇が抑えられるので、導体2の低抵抗化が図られ、出力の低下を抑えることができる。」 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能・作用からみて、後者の「スロツト3」が前者の「スロット」に相当し、以下同様に、「固定子鉄心2のスロット3内に収納された固定子巻線4」が「固定子鉄心に装着された固定子巻線」に、「車両用交流発電機」が「回転電機」に、「スロツトそう入部」が「スロット収納部」に、「コイル端部4a」が「コイルエンド部」に、「断面が半円形の両端部を有する略長方形」が「断面レーストラック状」に、それぞれ相当している。 また、後者の「長辺長さを短辺長さの所定倍にし、かつ長辺長さがスロツト開口より大きく形成されている」態様と前者の「長辺長さをL_(1)、短辺長さをL_(2)としたときに、45%≦縦横比(L_(2)/L_(1))≦70%を満足し、かつL_(1)がスロット開口より大きく形成されている」態様とは、「長辺長さをL_(1)、短辺長さをL_(2)としたときに、縦横比(L_(2)/L_(1))が所定の関係を満足し、かつL_(1)がスロット開口より大きく形成されている」との概念で共通している。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、 「スロットが内径側に開口するようにして周方向に配列してなる円筒状の固定子鉄心と、上記固定子鉄心に装着された固定子巻線とを備えた回転電機の固定子であって、 上記固定子巻線は、上記スロットのそれぞれに収納された複数のスロット収納部と、所定スロット数離れた上記スロットの対に収納されている上記スロット収納部の端部同士を連結するコイルエンド部とを有し、 上記スロット収納部は、断面レーストラック状に形成され、断面の長手方向を周方向に向けて径方向に1列に並んで、かつ、互いに密接して収納されており、 上記スロット収納部は、断面レーストラック状の長辺長さをL_(1)、短辺長さをL_(2)としたときに、縦横比(L_(2)/L_(1))が所定の関係を満足し、かつL_(1)がスロット開口より大きく形成されている回転電機の固定子。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] スロット収納部の断面レーストラック状の長辺長さL_(1)と短辺長さL_(2)との縦横比(L_(2)/L_(1))について、本願補正発明が、「45%≦縦横比(L_(2)/L_(1))≦70%」と特定しているのに対し、引用発明では、かかる特定がなされていない点。 (4)判断 上記相違点について、以下検討する。 例えば、引用例2にも開示されているように、固定子巻線(導体2)の温度が過度に上昇してしまうという課題を解決するために、スロット収納部(直線部2a)間の接触面積を確保して熱伝導性を良好にすることは、回転電機の分野における周知技術であるところ、かかる周知技術によれば、固定子巻線のスロット収納部で発生した熱を効果的に放熱しようとする際に、固定子巻線のスロット収納部間の接触面積を大きくする方が、換言すれば、縦横比(L_(2)/L_(1))を小さくする方が良いことが理解される。 一方、引用例1の上記「(2-1)e)」の記載によれば、固定子巻線の絶縁皮膜の損傷を防止するとの観点からは、固定子巻線のスロット収納部を断面レーストラック状にする際の押圧力を小さくし変形量を少なくする方が、換言すれば、縦横比(L_(2)/L_(1))を大きくする方が良いことが理解される。 してみると、固定子巻線のスロット収納部において、効果的に放熱を行い、かつ、絶縁皮膜の損傷を防ぐためには、好ましい縦横比(L_(2)/L_(1))の範囲が存在するであろうことは、当業者が容易に理解し得るところである。 また、引用発明において、固定子巻線の絶縁皮膜の損傷防止のみならず、効果的な放熱は、当然に要求されるべき課題であるといえる。 そうすると、引用発明において、上記課題の下に、上記縦横比(L_(2)/L_(1))の範囲を実験的に最適な特性が得られるものとして適宜設定することにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。 そして、本願補正発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおりであって、本件補正は、上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願の発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年9月12日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「スロットが内径側に開口するようにして周方向に配列してなる円筒状の固定子鉄心と、上記固定子鉄心に装着された固定子巻線とを備えた回転電機の固定子であって、 上記固定子巻線は、上記スロットのそれぞれに収納された複数のスロット収納部と、所定スロット数離れた上記スロットの対に収納されている上記スロット収納部の端部同士を連結するコイルエンド部とを有し、 上記スロット収納部は、断面レーストラック状に形成され、断面の長手方向を周方向に向けて径方向に少なくとも1列に並んで、かつ、互いに密接して収納されており、 上記スロット収納部は、断面レーストラック状の長辺長さをL_(1)、短辺長さをL_(2)としたときに、45%≦縦横比(L_(2)/L_(1))≦70%を満足するように形成されていることを特徴とする回転電機の固定子。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、上記「2.(1)」で検討した本願補正発明から、「径方向に少なくとも1列に並んで」について「径方向に1列に並んで」とする限定を省くと共に、実質的に「L_(1)がスロット開口より大きく」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明を特定する事項の全てを含み、さらに実質的に該事項を特定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-11-12 |
結審通知日 | 2008-11-18 |
審決日 | 2008-12-01 |
出願番号 | 特願2004-564426(P2004-564426) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 泰典 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
片岡 弘之 大河原 裕 |
発明の名称 | 回転電機の固定子およびその固定子巻線の製造方法 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 大宅 一宏 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 上田 俊一 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 梶並 順 |