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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1191216
審判番号 不服2007-18098  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-28 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2000-227493「駆動力伝達装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 6日出願公開、特開2002- 39216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年7月27日の出願であって、平成19年5月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年6月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月27日付けで明細書について手続補正がなされたが、同手続補正は、当審において平成20年9月5日付けで決定をもって却下され、同日付で拒絶理由が通知され、平成20年10月30日付けで手続補正がなされたものである。
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成18年12月25日付け及び平成20年10月30日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「同軸的に配置される駆動軸および従動軸の一方にトルク伝達可能に同心的に連結されるアウタケースと、同アウタケース内にて同心的に位置し前記駆動軸および前記従動軸の他方にトルク伝達可能に連結されるインナシャフトと、同インナシャフトと前記アウタケース間にて液密的に区画して形成されて作動油が封入されるクラッチ収容室と、同クラッチ収容室内に収容されて前記アウタケースと前記インナシャフト間のトルク伝達可能な連結状態を断続する摩擦クラッチを備えた駆動力伝達装置において、
前記インナシャフトとして、その軸心に貫通孔を有する中空シャフトを採用して、前記貫通孔の一端部分の内周面にブローチ加工によって前記駆動軸又は従動軸の先端が嵌合される内スプラインを形成し、その後に前記貫通孔の中間部に椀形状の金属製キャップ部の外周に前記貫通孔の内周面に液密的に密着するゴム製のカバー体を貼着した遮断部材を嵌合固定して同遮断部材によって形成された一端側分割孔と他端側分割孔を液密的に隔離するようにしたことを特徴とする駆動力伝達装置の製造方法。」

2 引用例及びその記載事項
これに対して、当審で通知した拒絶理由に引用された、この出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開された特願平11-225358号(特開2000-356229号)(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、「カップリング及びデファレンシャル装置」に関して図面とともに次の事項が記載されている。
(ア) 「【発明の属する技術分野】この発明は、電磁石及びクラッチを用いて伝達トルクを制御するカップリング及びデファレンシャル装置に関する。」(段落【0001】)
(イ) 「後述する非磁性材料のリング129を含めて前側ロ-タ65はトルク伝達経路の部分とされており、動力伝達軸77が一体に形成され、入力トルクをケ-ス67へ伝達する。…」(段落【0093】)
(ウ) 「又、連結軸47のスプライン部101には、ドライブピニオンシャフト103が連結されている。…」(段落【0104】)
(エ) 「又、回転ケ-ス45の内部にはオイル供給用の流路111からオイルが注入され、注入後このオイル供給用流路111は密封ボ-ル113を圧入してシ-ルされる。回転ケ-ス45の内部に封入するこのオイルには、後側ケ-シング本体39のオイルと異なった専用のオイルが用いられている。」(段落【0109】)
(オ) 「次に、図3と図4によってカップリング209(第2実施形態)の説明をする。
このカップリング209は請求項1、2、4、5、7、9、11の特徴を備えている。左右の方向は図10の四輪駆動車の左右の方向であり、図3の左方はこの車両の前方に相当する。なお、符号を与えていない部材等は図示されていない。
カップリング209は、第1実施形態のカップリング1と同様に、図10の車両の後輪側プロペラシャフト19とリヤデフ21との間に配置されており、後輪27、29側の連結と切り離し及び伝達トルクの制御を行う。
以下、カップリング1と同機能部材には同一の符号を与えて参照しながら説明する。
カップリング209は、回転ケ-ス45(一側のケ-ス状トルク伝達部材)、連結軸47(他側の軸状トルク伝達部材)、多板式のメインクラッチ49及びコントロ-ルクラッチ51、カムリング53、ボ-ルカム55、プレッシャプレ-ト57、ア-マチャ59、リング状の電磁石61、リング状のねじ211(規制部材:ねじ部材)、コントロ-ラなどから構成されている。」(段落【0169】ないし【0173】)
(カ) 「又、連結軸47には、区画板233を固定することによって容量増大空間部135が形成されている。」(段落【0191】)
(キ) 「なお、連結軸47には一体の区画壁がないから、スプライン部101は、ホブカッタ-、あるいは、ブロ-チによって容易に加工できる。」(段落【0194】)
(ク) 前記(エ)の摘示事項及び図3によれば、連結軸47と回転ケース45間にて液密的に区画して形成されてオイルが封入されるクラッチ室が看取でき、さらに、前記(カ)の摘示事項及び図3によれば、連結軸47はその軸心に貫通孔を有する中空シャフトである点、及びその貫通孔の中間部に区画板233を嵌着して同区画板233によって形成された一端側分割孔と他端側分割孔を液密的に隔離するようにした点が看取できる。さらには、前記(カ)及び(キ)の摘示事項並びに図3によれば、先願明細書に記載された「カップリング」、すなわち駆動力伝達装置の製造にあたって、スプライン部101をブローチによって加工により形成した後に、連結軸に区画板233を固定する製造方法とすることは出願時の技術常識である。
したがって、上記(ア)ないし(ク)の摘示事項及び図3によれば、先願明細書には、
「同軸的に配置される動力伝達軸77およびドライブピニオンシャフト103の一方にトルク伝達可能に同心的に連結される回転ケース45と、同回転ケース45内にて同心的に位置し前記動力伝達軸77および前記ドライブピニオンシャフト103の他方にトルク伝達可能に連結される連結軸47と、同連結軸47と前記回転ケース間にて液密的に区画して形成されてオイルが封入されるクラッチ収容室と、同クラッチ収容室内に収容されて前記回転ケース45と前記連結軸47間のトルク伝達可能な連結状態を断続する多板式のメインクラッチ49を備えた駆動力伝達装置において、
前記連結軸47として、その軸心に貫通孔を有する中空シャフトを採用して、前記貫通孔の一端部分の内周面にブローチ加工によって前記ドライブピニオンシャフト103の先端が嵌合されるスプライン部101を形成し、その後に前記貫通孔の中間部に区画板233を嵌合固定して同区画板233によって形成された一端側分割孔と他端側分割孔を液密的に隔離するようにした駆動力伝達装置の製造方法。」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認める。

3 対比
本願発明と先願発明を対比する。
後者の「動力伝達軸77」は、その機能、配置からみて、前者の「駆動軸」に相当し、以下同様に、「ドライブピニオンシャフト103」は「従動軸」に、「回転ケース45」は「アウタケース」に、「連結軸47」は「インナケース」に、「オイル」は「作動油」に、「多板式のメインクラッチ49」は「摩擦クラッチ」に、「スプライン部101」は「内スプライン」に、それぞれ相当する。 また、後者の「区画板233」は、中空シャフトである連結軸47の一端側分割孔と他端側分割孔を液密的に隔離する限りにおいて、前者の「遮断部材」に相当する。
したがって、両者は、本願発明の表記に倣えば、
「同軸的に配置される駆動軸および従動軸の一方にトルク伝達可能に同心的に連結されるアウタケースと、同アウタケース内にて同心的に位置し前記駆動軸および前記従動軸の他方にトルク伝達可能に連結されるインナシャフトと、同インナシャフトと前記アウタケース間にて液密的に区画して形成されて作動油が封入されるクラッチ収容室と、同クラッチ収容室内に収容されて前記アウタケースと前記インナシャフト間のトルク伝達可能な連結状態を断続する摩擦クラッチを備えた駆動力伝達装置において、
前記インナシャフトとして、その軸心に貫通孔を有する中空シャフトを採用して、前記貫通孔の一端部分の内周面にブローチ加工によって前記駆動軸又は従動軸の先端が嵌合される内スプラインを形成し、その後に前記貫通孔の中間部に遮断部材を嵌合固定して同遮断部材によって形成された一端側分割孔と他端側分割孔を液密的に隔離するようにした駆動力伝達装置の製造方法。」である点で一致し、次の点で形式上相違している。
〈形式上の相違点〉
本願発明は、「椀形状の金属製キャップ部の外周に前記貫通孔の内周面に液密的に密着するゴム製のカバー体を貼着した」遮断部材であるのに対し、先願発明は、区画板233が上述した金属製キャップ部およびゴム製のカバー体を具備していない点。

4 相違点の判断
上記形式上の相違点について検討する。
遮断部材、すなわちシール部材として、椀形状の金属製キャップ部の外周にゴム製のカバー体を貼着して形成することは、例えば、特開平11-227478号公報(特に、段落【0022】及び【図2】参照)及び特開平10-339328号公報(特に、段落【0017】及び【図3】参照)に記載されている如く従来周知の技術であるので、先願発明の「区画板233」を上記形式上の相違点に係る本願発明の構成とすることは、課題解決のための具体化手段における微差であって、新たな効果を奏するものではない。
よって、本願発明は、先願発明と実質同一である。

なお、審判請求人は、平成20年10月30日付け意見書において、「2)上記の指摘事項に基づき本願発明2が先願発明1と実質同一と認定されたことは、下記の理由により特許法第29条の2の適用を誤ったもので承服できません。
(1)特開平11-227478号公報に記載の発明は、自動車用プロペラシャフトの所謂クラッシャブル構造に関するものであって、本願発明とは技術分野が全く異なり自ずからその解決課題も異なり、先願明細書1に記載の発明をした発明者が上記指摘事項を参照して本願発明2を完成する動機はあり得ません。
(2)上記の指摘事項において、芯金の外周にゴムを一体化することの技術的意義は、「通常時にはシールプレート(8)を所定位置に確実に保持すると共に、衝突時にはゴムが変形又は破断しないようにするため、シールプレート(8)がゴムの外周よりも小径で且つ芯金の径よりも大きい径を有する管シャフトの中空部にスムースに突入できるようにする」ことにある。一方、本願発明2において遮断部材を金属製キャップ部の外周にゴム製のカバー体を貼着して形成することの技術的意義は、ゴム製のカバー体によってシャフト貫通孔の中間部を確実に液密的に分割することにある。すなわち、本願発明2の駆動力伝達装置においては、摩擦クラッチの摩擦摺動による発熱によって各部材が加熱され、例えば先願発明の図3に記載されているように、区画板233をゴム製のカバー体を介在させることなく連結軸47の貫通孔に嵌着した場合には、連結軸47と区画板233との間の温度差や熱膨張率の相違により、両部材の間に隙間が生じ、液密性が保たれなくなるおそれがあるが、本願発明2によれば金属製キャップの外径と貫通孔の内径との隙間が変化したとしても、ゴムの弾性によってこれが吸収されて液密性が確実に保たれる。
上述した技術的意義の相違によって理解されるとおり、本願発明2におけるゴム製のカバー体は、駆動力伝達装置の使用によって各構成部材の温度が変化しても、確実に液密性を保つという固有の作用効果を奏する。この作用効果は、特開平11-227478号公報に記載の発明に求められているものとは明らかに異なり共通性がない。」と主張している。
しかしながら、特開平11-227478号公報に記載された「シールプレート(8)」がシール効果を奏することは明らかであり、椀形状の金属製キャップ部の外周にゴム製のカバー体を貼着したシール部材が従来周知の技術である一例として、上記公報記載の「シールプレート(8)」を引用したまでで、審判請求人が主張する「シールプレート(8)」の技術的意義がシール効果以外にあったとしても、そのことが直ちに本願発明が先願発明と実質同一であるとの判断に影響を及ぼすものではない。
よって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

5 むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないので、本願は、特許請求の範囲の請求項2に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-13 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-227493(P2000-227493)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 常盤 務
戸田 耕太郎
発明の名称 駆動力伝達装置の製造方法  
代理人 長谷 照一  

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