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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1191224
審判番号 不服2007-26475  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-27 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2002-196782「遠心クラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 36806〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成14年(2002年)7月5日の出願であって、平成19年8月22日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、請求人より平成19年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年10月29日付けで明細書について手続補正がなされたものである。

2.平成19年10月29日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年10月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)本願補正発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
クラッチの周方向に亘り配設されたクラッチウェイトがその一端部を中心とし遠心力により傾動して、駆動側と被駆動側とが接続されて動力の伝達が行われる遠心クラッチにおいて、
前記クラッチウェイトは該ウェイトの一部が比重の異なる部材で形成されることによりその重心位置設定がなされ、前記クラッチウェイトの一部が比重の異なる部材で形成されることによるその重心位置設定は、該クラッチウェイトが比重の小さな焼結金属粉の焼成からなる形成部と比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部とから形成されて、前記比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部が該クラッチウェイトの前記傾動のための支点から離れた該クラッチウェイトの先端部側に設定され、遠心ウェイトを支持する部材は、中央のボスと径方向に延びて前記遠心ウェイトを支持する板状のプレート部材とからなり、該プレート部材はボスとの結合部において遠心ウェイトの中心に該結合部が近づくように弯曲して結合され、
前記クラッチウェイトには、前記クラッチウェイトに働く遠心力に対抗して前記遠心クラッチの回転中心に向い該クラッチウェイトを付勢するばねの取付け開口が、前記比重の小さな焼結金属形成部と、前記比重の大きな焼結金属形成部とにそれぞれ設けられ、
前記クラッチ周方向に亘り配設され他隣合う一方向のクラッチウェイトの大比重側ばね取付け開口と、他方のクラッチウェイトの小比重側ばね取付け開口とに、前記ばねの両端がそれぞれ取り付けられたことを特徴とする遠心クラッチ。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)
上記の特許請求の範囲の【請求項1】に記載の「前記クラッチ周方向に亘り配設され他」との記載(下線部)は、「前記クラッチ周方向に亘り配設された」の誤記として以下扱うものとする。

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書の記載に基づき、「遠心クラッチ」について「クラッチの周方向に亘り配設されたクラッチウェイトがその一端部を中心とし遠心力により傾動して、」(下線部)と構成を限定するとともに、「クラッチウェイトへの該クラッチウェイトを付勢するばねの取り付け構造」について「前記クラッチウェイトには、前記クラッチウェイトに働く遠心力に対抗して前記遠心クラッチの回転中心に向い該クラッチウェイトを付勢するばねの取付け開口が、前記比重の小さな焼結金属形成部と、前記比重の大きな焼結金属形成部とにそれぞれ設けられ、前記クラッチ周方向に亘り配設された隣合う一方向のクラッチウェイトの大比重側ばね取付け開口と、他方のクラッチウェイトの小比重側ばね取付け開口とに、前記ばねの両端がそれぞれ取り付けられた」と構成を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-23034号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「遠心クラッチ装置」に関して、下記の事項ア?キが図面とともに記載されている。
ア;「本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、伝達トルク容量を低下させることなく軽量化を図ることができ、またクラッチシューの温度変化による動作特性の変動やクラッチ鳴きの発生も抑制することが可能な遠心クラッチ装置を提供することを目的とする。」(第2頁左上欄3行?8行)

イ;「本発明によればこの目的は、クラッチドラムと、このクラッチドラムの開口を閉じるように配設されたキャリヤ板と、キャリヤ板に一端が軸支され前記クラッチドラムの内周面に対抗する略弧状の複数のクラッチシューとを備える遠心クラッチ装置において、前記クラッチシューはリーディングタイプとされると共に、その回動端側に大比重の重錘をアルミ合金で鋳ぐるむことにより形成されていることを特徴とする遠心クラッチ装置により達成される。」(第2頁左上欄10行?19行)

ウ;「このクラッチシュー14はアルミ合金(比重約2.7)によるダイキャスト鋳造法で作られ、そのピン12と反対側の回動端寄りの内部には大比重の鋳鉄製の重錘14Aが鋳ぐるまれている。」(第2頁右上欄19行?左下欄2行)

エ;「2つのクラッチシュー14a,14bは、これらの一方の突起20を他方の緩衝材24の長溝に係合させつつ、ピン12に取付けられ、各クラッチシュー14a,14bの一方の回動端と他方の基端との間に引張りばね26,26が掛け渡される。」(第2頁左下欄16行?右下欄1行)

オ;「このように構成されたクラッチ装置において駆動軸と共にキャリヤ板10が第1図で時計方向(矢印方向)に回転すると、キャリヤ板10に組付けたクラッチシュー14も一体に回転する。回転速度が低ければ、クラッチシュー14に作用する遠心力がばね26の引張り力より小さく、クラッチシュー14はクラッチドラム28の内周面から離隔している。従ってクラッチドラム28および被動軸には回転は伝達されない。
駆動軸およびキャリヤ板10の回転が上昇し、クラッチシュー14に作用する遠心力がばね26の引張り力より大になると、クラッチシュー14はピン12を中心にして外周方向へ回動し、クラッチドラム28の内周面に押圧される。従ってクラッチ接続状態になり、クラッチドラム28および被動軸に回転が伝達される。」(第2頁右下欄6行?第3頁左上欄1行)

カ;「この実施例では重錘14Aを比重の大きい鋳鉄(比重約7.3)製とし、これをアルミダイキャストによってクラッチシュー14のリーディング側に鋳込んだものであるから、クラッチシュー14のリーディング側の押圧力が大きくなり、伝達トルク容量の減少を招くことなくクラッチシュー14の軽量化が図れる。」(第3頁左上欄14行?20行)

キ;「本発明は以上のように、回動端側に位置する大比重の重錘を小比重のアルミ合金に鋳込むことによりクラッチシューを形成したものであるから、クラッチシューの自己サーボ作用を有効に利用して大きな摩擦力を発生させ、伝達トルク容量を犠牲にすることなく軽量化が図れる。」(第3頁右上欄16行?左下欄1行)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?キ及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。

【刊行物1に記載された発明】
「クラッチドラム28の周方向に亘り配設されたクラッチシュー14がその一端部をピン12を中心とし遠心力によりクラッチドラム28の内周面に押圧され(傾動して)、駆動軸(駆動側)と被動軸(被駆動側)とが接続されて回転が伝達される(動力の伝達が行われる)遠心クラッチ装置において、
前記クラッチシュー14は該クラッチシュー14のリーディング側に比重の大きい鋳鉄を鋳込んで形成され、
前記クラッチシュー14には、前記クラッチシュー14に働く遠心力に対抗して前記遠心クラッチの回転中心に向い該クラッチシュー14を付勢するばね26,26の取付開口と切欠きが、クラッチシュー14の基端側と回動端側とにそれぞれ設けられ、
前記クラッチドラム28の周方向に亘り配設された隣合う一方向のクラッチシュー14の回動端側(大比重側)ばね26取付け切欠きと、他方のクラッチシュー14の基端側ばね26取付け開口とに、前記ばね26の両端がそれぞれ取り付けられた遠心クラッチ装置。」

<刊行物2>
同じく引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭61-154198号(実開昭63-59227号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、「遠心クラッチ」に関して、下記の事項ク及びケが図面とともに記載されている。
ク;「本考案にかかる遠心クラッチは、各ライニングが外向きになるよう対峙して配置され外周面が半円弧状に形成されたクラッチシューの各基端部を枢支軸で回動自在に枢支し、停止時を含む所定回転数以下のとき、各クラッチシューの自由端側の端部が半径方向内方の収縮した位置で着座し、所定回転以上のとき、上記着座した位置から半径方向外方に拡張するよう構成され、クラッチシューの基部が焼結合金で形成された遠心クラッチにおいて、
上記クラッチシューの着座する自由端側の端部、及び着座させるクラッチシューの基端部側の端部の、両方若しくはいずれか一方の当接部分を、他の部分に比べ低い焼結密度の組織で構成するか、若しくは他の部分に比べ軟らかい材質の金属で構成していることを特徴とする。」(明細書第5頁15行?第6頁10行)

ケ;「図において、1はクラッチシュー、2は枢支軸であるクラッチピン、3はドラム、4は引張型のスプリングである。クラッチシュー1は、外周面が半円弧状をしており、その基端部1aに形成された取付ボス部分において、クラッチピン2でエンジン側の回転体5側に回転自在に枢支されている。そして、本実施例においては、上記クラッチシューの自由端側の端部1bは、クラッチシューのその他の部分に比べ焼結密度の低い組織に構成されている。
このように、一つの成形品の、一部のみ焼結密度を低くするのは、第2図に示すように、焼結密度を異にする部分毎に、加圧値A、B(A<B)を変えた加圧用ピストンP1、P2を用意して、加圧・焼結することにより得ることができる。」(明細書第7頁6行?第8頁1行)

(3)対比・判断
刊行物1に記載された発明の「遠心クラッチ装置」を構成する各部材の奏する機能からみて、刊行物1に記載された発明の「クラッチシュー14(14a,14b)」は本願補正発明の「クラッチウェイト(遠心ウェイト)」に相当し、以下同様に、「クラッチドラム28の内周面」は「クラッチの周方向」に、「駆動軸」は「駆動側」に、「被動軸」は「被駆動側」に、「ばね26,26」は「(クラッチウェイトを付勢する)ばね」に、「クラッチシュー14の基端側の開口及び回動端側の切欠き(第1図参照)」は、「大比重側ばね取付け開口と小比重側ばね取付け開口」に機能的に相当するものと認めることができるものである。
そして、刊行物1に記載された発明でも、明示的な記載はないものの、クラッチシュー14(14a,14b)のピン12と反対側の回動端寄りの内部に大比重の鋳鉄製の重錘14Aを鋳込むことの技術的意義は、クラッチシュー14の重心をクラッチシュー14の回動端側(先端部側)に設定することにあることは、当業者であれば自明の事項にすぎないものである。
そこで、本願補正発明の用語を使用して、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「クラッチの周方向に亘り配設されたクラッチウェイトがその一端部を中心とし遠心力により傾動して、駆動側と被駆動側とが接続されて動力の伝達が行われる遠心クラッチにおいて、
前記クラッチウェイトは該ウェイトの一部が比重の異なる部材で形成されることによりその重心位置設定がなされ、
前記クラッチウェイトには、前記クラッチウェイトに働く遠心力に対抗して前記遠心クラッチの回転中心に向い該クラッチウェイトを付勢するばねの取付け部(開口又は切欠き)が、前記比重の小さな部分と、前記比重の部部分とにそれぞれ設けられ、
前記クラッチ周方向に亘り配設され他隣合う一方向のクラッチウェイトの大比重側ばね取付け部(切欠き)と、他方のクラッチウェイトの小比重側ばね取付け部(開口)とに、前記ばねの両端がそれぞれ取り付けられた遠心クラッチ。」
で一致しており、下記の点で一応相違している。

相違点1;本願補正発明では、「クラッチウェイトの一部が比重の異なる部材で形成されることによるその重心位置設定は、該クラッチウェイトが比重の小さな焼結金属粉の焼成からなる形成部と比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部とから形成されて、前記比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部が該クラッチウェイトの前記傾動のための支点から離れた該クラッチウェイトの先端部側に設定され」るものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、クラッチシュー14(14a,14b)の一部が比重の異なる部材で形成されることによるその重心位置設定は、該クラッチシュー14のピン12と反対側の回動端寄りの内部(本願補正発明でいうところの「クラッチウェイトの前記傾動のための支点から離れた該クラッチウェイトの先端部側」に実質的に相当)に大比重の鋳鉄製の重錘14Aを鋳込むことによってクラッチシュー14の回動端側(先端部側)に設定されるものである点。

相違点2;本願補正発明では、「遠心ウェイトを支持する部材は、中央のボスと径方向に延びて前記遠心ウェイトを支持する板状のプレート部材とからなり、該プレート部材はボスとの結合部において遠心ウェイトの中心に該結合部が近づくように弯曲して結合され」るものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、クラッチシュー14を支持する部材は、本願補正発明のように板状のプレート部材をボスとの結合部においてクラッチシュー14の中心に結合部が近づくように弯曲して結合するような構造を採用していない点。

相違点3;本願補正発明では、クラッチウェイトに設けられるばね取付部を比重の小さな焼結金属形成部と、比重の大きな焼結金属形成部とにばね取付け開口として設けるものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、クラッチシュー14の基端(比重の小さな部分)のばね取付け部は「ばね取付け開口(第1図参照)」として設けられるものであるが、回動端(比重の大きな部分)のばね取付け部は「切欠き(第1図参照)」として設けられるものである点。

上記相違点1ないし相違点3について検討した結果は次のとおりである。
《相違点1について》
クラッチウェイトの材質として焼結金属を採用すること、及び、焼結金属の密度(比重)を異ならせるには、密度を異にする部分毎に加圧値を変えればよいことは、上記刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に周知の事項にすぎないものである。
そして、刊行物2に記載されたような焼結金属をクラッチウエイトの材質として採用した場合には、加圧値を大きくして密度を高くした部分は、加圧値を小さくして密度を低くした部分に比較して比重が大きくなることは当業者であれば容易に理解できる事項と認めることができるものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明の上記事項ク、ケを知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のクラッチシュー14の材質としてアルミ合金に変えて焼結金属を採用するとともに、比重の大きな鋳鉄製の重錘14Aを鋳込む部分に相当する部分の焼結金属の密度を他の部分の密度よりも高くして、当該部分の比重を大きくすること(本願補正発明でいうところの「該クラッチウェイトが比重の小さな焼結金属粉の焼成からなる形成部と比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部とから形成されて、前記比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部が該クラッチウェイトの前記傾動のための支点から離れた該クラッチウェイトの先端部側に設定され」ることに実質的に相当)により、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
刊行物1に記載された発明の遠心クラッチ装置において、クラッチシュー14(遠心ウェイト)を支持する部材の具体的な構造については、格別限定されるものではなく、本願出願前遠心クラッチの遠心ウェイトの支持部材として採用されている所望の構造を採用することができるものである。
そして、遠心ウェイトを支持する部材を、本願補正発明のように「中央のボスと径方向に延びて前記遠心ウェイトを支持する板状のプレート部材とからなり、該プレート部材はボスとの結合部において遠心ウェイトの中心に該結合部が近づくように弯曲して結合され」るものとすることは、本願出願前周知の事項(例えば、原査定の備考欄で例示された、特開2002-144897号公報の第4図(従来例の一例)、特開昭56-127828号公報の第1図参照)にすぎないものであって、上記周知の遠心ウェイトの支持構造を刊行物1に記載されたクラッチシュー14の支持構造として採用することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のクラッチシュー14を支持する部材の具体的な構造として上記周知の構造(本願補正発明でいうところの「中央のボスと径方向に延びて前記遠心ウェイトを支持する板状のプレート部材とからなり、該プレート部材はボスとの結合部において遠心ウェイトの中心に該結合部が近づくように弯曲して結合され」た構造)を採用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、適宜採用することができる程度の設計的事項にすぎないものであって、格別創意を要することではない。

《相違点3について》
クラッチウエイトの先端側(「比重の大きな部分」に実質的に相当)のばね取付け部も開口とすることは本願出願前当業者に周知の事項(必要であれば、特開2002-81470号公報の図1、実願昭58-177344号(実開昭60-84836号)のマイクロフィルムの第1図等、実願昭57-43737号(実開昭58-146134号)のマイクロフィルムの第2図参照)にすぎないものである。
そして、上記周知事項(クラッチウェイトの先端側(回動側)にばね取付け開口を設けること)を刊行物1に記載された発明のクラッチシュー14の回動端側に形成したばね26を係止するための切欠きに代えて採用(基端の開口と同様の構造)することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のクラッチシュー14の回動端側のばね取付け部を「切欠き」に代えて「ばね取付け開口」とすることにより、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、適宜採用することができる程度の設計的事項にすぎないものであって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、請求人は、平成19年10月29日付けの手続補正書(方式)の【請求の理由】の[3]本願発明が特許されるべき理由の「(5)本願発明と引用文献記載のものとの対比」の項で、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに原査定時に周知例として例示した2文献との間で、それぞれ構成上の違いを縷々主張している。

しかしながら、刊行物1に記載された発明のクラッチシュー14に刊行物2に記載された発明の上記技術事項(クラッチウェイトの材質を焼結金属とする点、及び、焼結金属においては焼結密度を異にする部分毎に加圧値を変えることにより所望の焼結密度(比重)の部分とすることができる点)を採用することを阻害する格別の事情はないものであって、刊行物1に記載された発明のクラッチシュー14の材質として焼結金属を採用し、重錘14Aを鋳込む部分に相当する部分の焼結密度を高くする(比重を大きくする)ことが当業者であれば格別創意を要することでないことは上記《相違点1について》の項で検討したとおりであり、また、クラッチシュー14を支持する部材の構造として上記周知の事項を採用することを阻害する格別の事情はないものであって、上記周知の支持部材構造を採用することは当業者であれば格別創意を要することでないことも上記《相違点2について》の項で検討したとおりである。さらに、クラッチシュー14の回動端に形成するばね26の係合用の「切欠き」を「ばね取付け開口」とすることも当業者であれば格別創意を要しないことであることも上記《相違点3について》の項で検討したとおりである。
また、本願補正発明(本願発明)の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別創意を要するものではないことも上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。
さらに付言すると、平成20年7月22日(起案日)付けの審尋に対する平成20年9月29日付けの回答書で、請求人は補正の機会を付与することを要請しているが、審尋の趣旨は補正の機会を付与するものでなく、提示された補正案を検討しても上記審決の判断を覆すことはできない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年10月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年5月30日付け及び平成19年3月9日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
遠心力によりクラッチのウェイトが傾動して、駆動側と被駆動側とが接続されて動力の伝達が行われる遠心クラッチにおいて、前記クラッチウェイトは該ウェイトの一部が比重の異なる部材で形成されることによりその重心位置設定がなされ、前記クラッチウェイトの一部が比重の異なる部材で形成されることによるその重心位置設定は、該クラッチウェイトが比重の小さな焼結金属粉の焼成からなる形成部と比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部とから形成されて、前記比重の大きな焼結金属粉の焼成からなる形成部が該クラッチウェイトの前記傾動のための支点から離れた該クラッチウェイトの先端部側に設定され、遠心ウェイトを支持する部材は、中央のボスと径方向に延びて前記遠心ウェイトを支持する板状のプレート部材とからなり、該プレート部材はボスとの結合部において遠心ウェイトの中心に該結合部が近づくように弯曲して結合されることを特徴とする遠心クラッチ。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-23034号公報(上記刊行物1)及び実願昭61-154198号(実開昭63-59227号)のマイクロフィルム(上記「刊行物2」)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項から「遠心クラッチ」について「クラッチの周方向に亘り配設されたクラッチウェイトがその一端部を中心とし遠心力により」との限定を省き「遠心力によりクラッチのウェイトが」とし、また、「クラッチウェイトへの該クラッチウェイトを付勢するばねの取り付け構造」について「前記クラッチウェイトには、前記クラッチウェイトに働く遠心力に対抗して前記遠心クラッチの回転中心に向い該クラッチウェイトを付勢するばねの取付け開口が、前記比重の小さな焼結金属形成部と、前記比重の大きな焼結金属形成部とにそれぞれ設けられ、前記クラッチ周方向に亘り配設された隣合う一方向のクラッチウェイトの大比重側ばね取付け開口と、他方のクラッチウェイトの小比重側ばね取付け開口とに、前記ばねの両端がそれぞれ取り付けられた」との構成を省いたものに実質的に相当するものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-13 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2002-196782(P2002-196782)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 常盤 務
岩谷 一臣
発明の名称 遠心クラッチ  
代理人 小田 光春  
代理人 中村 訓  
代理人 江原 望  

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