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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1191328
審判番号 不服2007-35098  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2003- 30817「車載アンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日出願公開、特開2004-242153〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成15年2月7日の出願であって、平成19年2月23日付け拒絶理由通知に対して、同年4月25日付けで手続補正がされたが、同年11月15日付けで拒絶査定され、これに対し、同年12月27日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、平成20年1月22日付けで手続補正がされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年1月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を、

「複数の窓ガラスを有する車両の各前記複数の窓ガラスの表面上に設けられる各複数のアンテナを備える車載アンテナであって、
前記複数の窓ガラスのうち何れか一方の窓ガラスの同一の表面上に設けられた第1放射素子および該第1放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第1放射素子の外縁部の周囲を囲む第1接地導体を備える第1のアンテナと、
前記複数の窓ガラスのうち何れか他方の窓ガラスの同一の表面上に設けられた第2放射素子および該第2放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第2放射素子の外縁部の周囲を囲む第2接地導体を備える第2のアンテナとを備え、
前記第1放射素子は、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、前記帯状導体の内縁により囲われる全領域の窓ガラス表面が露出されてなる中抜き部を備え、
前記第1放射素子および前記第2放射素子の外縁は、それぞれ2対の対向する2辺を有する略4角形であり、
前記第1放射素子の2対の対向する2辺の各長さが、前記第2放射素子の2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されていることを特徴とする車載アンテナ。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「第1放射素子」及び「第2放射素子」に関し、「前記第1放射素子および前記第2放射素子の外縁は、それぞれ2対の対向する2辺を有する略4角形であり、前記第1放射素子の2対の対向する2辺の各長さが、前記第2放射素子の2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されている」と限定を付加して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりである。

(2)引用発明
A 原審の拒絶理由に引用された特開昭56-128030号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「本発明は車載用受信アンテナシステムに関するものである。」(1頁左下欄18?19行)

ロ.「第1図は本発明による受信アンテナシステムを備えたFM受信機の一実施例の回路ブロック図であり、1は本発明による受信アンテナシステム、2はフロントエンド、3は中間周波(IF)アンプ、4はFM検波器をそれぞれ示している。5はFM検波器4の検波出力中に含まれたイグニッションノイズなどのパルス性ノイズを除去するノイズ除去回路であり、その出力はMPXデコーダ6で左右チャンネル信号に分離される。
受信アンテナシステム1には例えば2つの受信アンテナ7及び8が備えられている。この受信アンテナ7及び8は、第2図に示す如く、自動車9の異なるウィンドーガラス、好ましくはフロントウィンドーガラス9aとリアウィンドーガラス9bにそれぞれ埋設若しくは貼着されている。フロントウィンドーガラス9aの側のアンテナ7は主に自動車9の進行方向向きの指向特性を有し、一方リアウィンドーガラス9b側のアンテナ8は主にその逆方向向きの指向特性を有するように設けられている。そして、これらアンテナ7及び8の受信信号は切換手段10によっていずれか1つが選択されアンプ11を介してフロントエンド2へ送出される。12はノイズ除去回路5を経たFM検波出力からマルチパス妨害によるノイズを検出するためのマルチパス検出回路である。」(1頁右下欄20行?2頁右上欄4行)

上記引用例1の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記摘記事項イ.、ロ.における「受信アンテナシステム1には例えば2つの受信アンテナ7及び8が備えられている。この受信アンテナ7及び8は、第2図に示す如く、自動車9の異なるウィンドーガラス、好ましくはフロントウィンドーガラス9aとリアウィンドーガラス9bにそれぞれ埋設若しくは貼着されている。フロントウィンドーガラス9aの側のアンテナ7は主に自動車9の進行方向向きの指向特性を有し、一方リアウィンドーガラス9b側のアンテナ8は主にその逆方向向きの指向特性を有するように設けられている。」との記載、第1図及び第2図によれば、車載用受信アンテナシステムは、フロントウィンドーガラス9a及びリアウィンドーガラス9bを有する車両の各前記フロントウィンドーガラス9a及びリアウィンドーガラス9bの表面上に設けられる各2つのアンテナ7,8を備えている。また、フロントウィンドーガラス9aの表面上に設けられたアンテナ7と、リアウィンドーガラス9bの表面上に設けられたアンテナ8とを備えている。

したがって、上記引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。

「フロントウィンドーガラス9a及びリアウィンドーガラス9bを有する車両の各前記フロントウィンドーガラス9a及びリアウィンドーガラス9bの表面上に設けられる各2つのアンテナ7,8を備える車載用受信アンテナシステムであって、
前記フロントウィンドーガラス9aの表面上に設けられたアンテナ7と、
前記リアウィンドーガラス9bの表面上に設けられたアンテナ8とを備え、
ている車載用受信アンテナシステム。」

B 原審の拒絶理由に引用された特開2002-252520号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ハ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、平面アンテナに関するものであり、特に、マイクロ波通信やミリ波通信に好適な高周波用平面アンテナに関するものである。より具体的には、車両と車両外部の送信機器および/または受信機器との間の、特にGHz帯の範囲の周波数における無線通信を目的とした平面アンテナ、例えば、車両の窓ガラスに形成されて用いられる平面アンテナに関するものである。」(1頁1欄、段落1)

ニ.「【0014】図1(a)および(b)には、本発明の平面アンテナの一実施形態である平面アンテナ10が示されている。図1(a)は、平面アンテナ10の平面図であり、図1(b)は図1(a)に示すA-A’線で切断した平面アンテナ10の断面図である。
【0015】平面アンテナ10は、図1(a)および(b)に示すように、誘電体基板であるガラス板12の少なくとも一方の面側に形成される平面アンテナであって、ガラス板12と、ガラス板12の面上に形成される、正方形状の本体部14aとこの本体部14aから突出したストリップ状の突出部14bとを有する島状導体14と、島状導体14と同一の面上に形成され、この島状導体14の全部を一定の距離離間して囲む導体16とを主に有して構成される。
【0016】突出部14bの端部には、給電部18が設けられ、図示されない表面実装型コネクタを介して、島状導体14と同一の面側で同軸ケーブルの中心導体と接続される。また、導体16は、アース接続された同軸ケーブルの外部導体と接続されて、常時アース接続されている。従って、平面アンテナ10においては、本体部14aは電波を放射する放射導体として、この放射導体を取り囲む導体16は接地導体として機能する。また、突出部14bは、接地導体である導体16とともに、ストリップ状の中心導体の両側に一定の距離を隔てて接地導体が形成される公知の伝送線路であるコブレナーウェーブガイド(CPW)を形成し、突出部14bはコブレナーウェーブガイドのストリップ状の中心導体として機能する。以降では、本体部14aを放射導体14aといい、突出部14bを伝送線中心導体14bといい、導体16を接地導体16という。
【0017】ここで、放射導体14aの幅Wおよび長さLa は、平面アンテナ10で送受信する電波の波長によって電波が共振するように設定される。平面アンテナ10の導体長さLa は、送受信を行う所望の周波数帯の中心周波数の波長をλM とした場合、アンテナの送受信効率を向上させるために、k・(λM /4)?k・λM(kはガラス板12における短縮率)の範囲にあることが好ましい。この範囲に導体長さLa を設定することで、この範囲外に設定する場合に比べて、数dBの利得が向上する。また、放射導体14aの幅Wは、送受信を行う所望の周波数帯の最高周波数の波長をλH とし、送受信を行う所望の周波数帯の最低周波数の波長をλL とするとき、k・(λH /4)?k・λL の範囲にあることが好ましい。」(3頁3?4欄、段落14?17)

上記引用例2の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記摘記事項ハ.における「車両の窓ガラスに形成されて用いられる平面アンテナに関するものである。」との記載によれば、平面アンテナは、車載アンテナに関するものである。
また、上記摘記事項ニ.の【0015】の記載、図1(a)及び図1(b)によれば、平面アンテナ10は、ガラス板12の同一の表面上に設けられた本体部14aおよび本体部14aの外縁部から外側に向かい離間した位置で本体部14aの外縁部の周囲を囲む導体16を備えている。
また、上記摘記事項ニ.の【0016】における「平面アンテナ10においては、本体部14aは電波を放射する放射導体として、この放射導体を取り囲む導体16は接地導体として機能する。」との記載によれば、本体部14aは、これを放射導体ということができ、導体16は、これを接地導体ということができる。
また、上記摘記事項ハ.における「車両の窓ガラスに形成されて用いられる平面アンテナに関するものである。」との記載によれば、ガラス板12は、窓ガラスである。

したがって、上記引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されている。

「車載アンテナにおいて、窓ガラスの同一の表面上に設けられた放射導体および該放射導体の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記放射導体の外縁部の周囲を囲む接地導体を備える平面アンテナ。」

C 原審の拒絶査定に引用された特開平4-337908号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ホ.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、移動体通信機器などとの一体化に好適な、小形の平面アンテナに関する。」(2頁1欄、段落1)

ヘ.「【0016】
【実施例】以下、図1?図10を参照しながら、この発明による平面アンテナの一実施例について説明する。
【0017】この発明の一実施例の構成を図1?図3に示す。図1において、10は平面アンテナであって、いずれも方形の接地導体11上に、ふっ素樹脂のような低損失の誘電体層12を介して、方形の放射素子13が同心に積層配設される。この放射素子13には、前述のような縮退分離のため、一方の対角線上に1対の切欠き13cが形成されると共に、同心に方形の開孔14が穿設されてリング状に形成され、この開孔14の1辺14sの中心の近傍に給電点15が設けられる。
【0018】この実施例では、図2に示すように、接地導体11の放射素子13とは反対側に、低損失の誘電体層21を介して、導体細条(給電線)22などが対向配設されて、マイクロストリップ形の給電系20が構成される。給電線22の終端22eと放射素子13の給電点15とは、スルーホール16によって接続され、同軸コネクタJを介して、図示を省略した信号源に接続される。また、図3に示すように、給電系20は、インピーダンス整合のために、給電線22の適宜の中間点Ptuに同調スタブ23が接続されただけの簡単な構成となっている。
【0019】上述の実施例の平面アンテナ10が、例えば3GHz帯で使用される場合、接地導体11,放射素子13,方形開孔14の寸法、誘電体層12の厚さ及び誘電率は、例えばそれぞれ次のように設定される。
D=80mm, Ar=23.8mm, Br=11.5mm
t12=1.6mm,εr=2.6
また、後述のように、この平面アンテナ10の無負荷Qと、切欠き13cの寸法は、例えばそれぞれ次のようになる。
Qo=77, Csd=1.7mm
【0020】また、給電系20の給電線22と同調スタブ23の導体幅、誘電体層21の厚さは、特性インピーダンスが50Ωとなるように、例えばそれぞれ次のように設定される。
w22=w23=2.2mm, t21=0.8mm
l23=13.2mm, lpe=18.0mm
【0021】次に、図4及び図5をも参照しながら、この発明の一実施例の動作について説明する。辺長がArの方形の放射素子の場合、その辺長と共振周波数fとの間には、主モード(TM10)において、次の数式1のような関係が成立する。
【0022】
【数1】
・・・(中略)・・・
【0023】この数式1において、cは光速、tは誘電体の厚み、εr は誘電体の比誘電率である。また、xは放射素子の形状に固有な値であって、一般にはマクスウェルの方程式から導かれる2次元波動方程式を解くことにより与えられ、方形の放射素子では次式のような値になる。
x=π
【0024】この実施例のように、方形の放射素子に同心に方形の開孔を穿設してリング状に形成した場合、前出の数式1中の固有値xを解析的に求めることは不可能であるが、本発明者らは、方形リング放射素子の固有値xの値が方形放射素子に比べて小さくなることを実験的に確かめている。
【0025】図4に示すように、辺長Arの方形放射素子13に辺長Brの方形の開孔14を穿設してリング状に形成した場合、開孔14の等価辺長Beqが放射素子13の等価辺長Aeqに近づく程、即ち、方形リングの内外周比Beq/Aeq(リング比)が1に近づく程、図5に示すように、固有値xの値が小さくなる。この等価辺長Aeq及びBeqは、フリンジ効果を考慮して理論的に想定される磁流ループに対応するもので、それぞれ次の数式2,数式3のように表される。
【0026】
【数2】
・・・(中略)・・・
【数3】
・・・(中略)・・・
【0027】ちなみに、上述の実施例と同質・同厚の誘電体層と、リング比が0の方形放射素子を有する従来の平面アンテナが、同様に3GHz帯で使用される場合、放射素子の辺長Arは、例えば次のようになる。
Ar=29.6mm
これは、上述の実施例の方形リング放射素子の辺長(前出)よりも約24%大きな数値であって、従来の平面アンテナでは、接地導体及び誘電体層の寸法もほぼ同率で大きくなっている。また、前出図15に示すような、従来の縮退分離形の平面アンテナ1の無負荷Qと、切欠き1cの寸法は、例えばそれぞれ次のようになる。
Qo=42, Csd=3.2mm」(3頁3欄?4頁5欄、段落16?27)

上記引用例3の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記摘記事項ヘ.の【0019】の記載及び図1によれば、放射素子13(以下、「放射素子A」という。)は、2対の対向する2辺を有する略4角形で、かつ辺長Arが23.8mmで、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、帯状導体の内縁により囲われる方形開孔14を備えている。
また、上記摘記事項ヘ.の【0027】の記載及び図15によれば、従来例の放射素子(以下、「放射素子B」という。)は、2対の対向する2辺を有する略4角形で、かつ辺長Arが29.6mmである。
また、上記摘記事項ヘ.の【0027】における「上述の実施例と同質・同厚の誘電体層と、リング比が0の方形放射素子を有する従来の平面アンテナが、同様に3GHz帯で使用される場合、放射素子の辺長Arは、例えば次のようになる。
Ar=29.6mm
これは、上述の実施例の方形リング放射素子の辺長(前出)よりも約24%大きな数値であって」との記載によれば、放射素子Aの2対の対向する2辺の各長さが、放射素子Bの2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されていることが読み取れる。

したがって、上記引用例3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が開示されている。

「放射素子Aは、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、前記帯状導体の内縁により囲われる方形開孔14を備え、
前記放射素子Aおよび放射素子Bの外縁は、それぞれ2対の対向する2辺を有する略4角形であり、
前記放射素子Aの2対の対向する2辺の各長さが、前記放射素子Bの2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されている平面アンテナ。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1の「フロントウィンドーガラス9a及びリアウィンドーガラス9b」、「フロントウィンドーガラス9a」、「リアウィンドーガラス9b」、「2つのアンテナ7,8」、「アンテナ7」及び「アンテナ8」は、補正後の発明の「複数の窓ガラス」、「複数の窓ガラスのうち何れか一方の窓ガラス」、「複数の窓ガラスのうち何れか他方の窓ガラス」、「複数のアンテナ」、「第1のアンテナ」及び「第2のアンテナ」に対応する構成であり、それぞれの間に実質的な差異はない。
b.引用発明1の「車載用受信アンテナシステム」は、車載アンテナの一種である。

したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)

「複数の窓ガラスを有する車両の各前記複数の窓ガラスの表面上に設けられる各複数のアンテナを備える車載アンテナであって、
前記複数の窓ガラスのうち何れか一方の窓ガラスの表面上に設けられた第1のアンテナと、
前記複数の窓ガラスのうち何れか他方の窓ガラスの表面上に設けられた第2のアンテナとを備え、
ている車載アンテナ。」

(相違点)

「第1のアンテナ」に関し、補正後の発明は、複数の窓ガラスのうち何れか一方の窓ガラスの「同一の表面上に設けられた第1放射素子および該第1放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第1放射素子の外縁部の周囲を囲む第1接地導体を備える」ものであるとともに、「前記第1放射素子は、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、前記帯状導体の内縁により囲われる全領域の窓ガラス表面が露出されてなる中抜き部を備え」るものであり、
また、「第2のアンテナ」に関し、補正後の発明は、複数の窓ガラスのうち何れか他方の窓ガラスの「同一の表面上に設けられた第2放射素子および該第2放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第2放射素子の外縁部の周囲を囲む第2接地導体を備える」ものであり、
また、「第1のアンテナ」及び「第2のアンテナ」の関係に関し、補正後の発明は、「前記第1放射素子および前記第2放射素子の外縁は、それぞれ2対の対向する2辺を有する略4角形であり、前記第1放射素子の2対の対向する2辺の各長さが、前記第2放射素子の2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されている」のに対し、
引用発明1は、その様な構成を備えていない点。

そこで、上記相違点について検討する。

引用発明2の「放射導体」は、補正後の発明の「放射素子」に相当し、引用発明2は、
「車載アンテナにおいて、窓ガラスの同一の表面上に設けられた放射素子および該放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記放射素子の外縁部の周囲を囲む接地導体を備える平面アンテナ。」
と表現することができる。
また、引用発明3の「放射素子A」、「方形開孔14」及び「放射素子B」は、補正後の発明の「第1放射素子」、「中抜き部」及び「第2放射素子」に相当し、引用発明3は、
「第1放射素子は、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、前記帯状導体の内縁により囲われる中抜き部を備え、
前記第1放射素子および第2放射素子の外縁は、それぞれ2対の対向する2辺を有する略4角形であり、
前記第1放射素子の2対の対向する2辺の各長さが、前記第2放射素子の2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されている平面アンテナ。」
と表現することができる。
そして、引用発明1に引用発明2を採用することに特段の阻害要因は見あたらないから、引用発明1の「アンテナ7」(第1のアンテナ)及び「アンテナ8」(第2のアンテナ)に引用発明2を適用し、複数の窓ガラスのうち何れか一方の窓ガラスの「同一の表面上に設けられた第1放射素子および該第1放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第1放射素子の外縁部の周囲を囲む第1接地導体を備える」ように構成すること、及び、複数の窓ガラスのうち何れか他方の窓ガラスの「同一の表面上に設けられた第2放射素子および該第2放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第2放射素子の外縁部の周囲を囲む第2接地導体を備える」ように構成することは当業者が容易に成し得ることであり、その際、車載用アンテナにおいて、複数の窓ガラスに異なる放射素子を設けることは、例えば、本件出願日より13年以上前に公開された実願昭62-199555号(実開平1-103904号)のマイクロフィルム(6頁2?5行)に開示されているように周知であるから、「第1放射素子」及び「第2放射素子」に引用発明3を付加し、「第1放射素子は、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、前記帯状導体の内縁により囲われる中抜き部を備え、前記第1放射素子および前記第2放射素子の外縁は、それぞれ2対の対向する2辺を有する略4角形であり、前記第1放射素子の2対の対向する2辺の各長さが、前記第2放射素子の2対の対向する2辺の各長さに比べ短く設定されている」構成とすることは当業者が適宜成し得ることである。これに伴って、補正後の発明のように、第1放射素子の「中抜き部」が、「全領域の窓ガラス表面が露出されてなる」ことは当然である。

さらに、補正後の発明の作用効果も、引用発明1、2、3及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明1、2、3及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年1月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年4月25日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「複数の窓ガラスを有する車両の各前記複数の窓ガラスの表面上に設け
られる各複数のアンテナを備える車載アンテナであって、
前記複数の窓ガラスのうち何れか一方の窓ガラスの同一の表面上に設けられた第1放射素子および該第1放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第1放射素子の外縁部の周囲を囲む第1接地導体を備える第1のアンテナと、
前記複数の窓ガラスのうち何れか他方の窓ガラスの同一の表面上に設けられた第2放射素子および該第2放射素子の外縁部から外側に向かい離間した位置で前記第2放射素子の外縁部の周囲を囲む第2接地導体を備える第2のアンテナとを備え、
少なくとも前記第1放射素子または前記第2放射素子の何れか一方は、帯状導体の両端部が互いに接続されてなる形状であり、前記帯状導体の内縁により囲われる全領域の窓ガラス表面が露出されてなる中抜き部を備えることを特徴とする車載アンテナ。」

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明1、2、3及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2、3及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-12 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-02 
出願番号 特願2003-30817(P2003-30817)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 麻生 哲朗  
特許庁審判長 竹井 文雄
特許庁審判官 萩原 義則
阿部 弘
発明の名称 車載アンテナ  
代理人 高橋 詔男  
代理人 佐伯 義文  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 佐伯 義文  
代理人 西 和哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  

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