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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1191355
審判番号 不服2006-27516  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-07 
確定日 2009-01-14 
事件の表示 特願2000-380130「静電荷現像用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月22日出願公開、特開2001-324833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年12月14日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成11年12月15日、平成12年3月7日)の出願であって、平成17年9月6日付けで通知された拒絶の理由に対して、同年11月14日付けで手続補正書が提出されたが、平成18年10月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年12月21日付けで手続補正がなされたものであって、その後、平成20年8月12日付けで、当審の審尋に対する回答書が提出されたものである。

第2.平成18年12月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年12月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の概要
平成18年12月21日付けの手続補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりとする補正事項を含むものである。

「【請求項1】 少なくとも重合体一次粒子及び着色剤一次粒子を含有する粒子凝集体からなる静電荷像現像用トナーにおいて、トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で15?70重量%かつ、融点が30?130℃のワックスを含有し、当該重合体一次粒子が前記ワックスのエマルジョン存在下でシード重合によって得られることを特徴とする静電荷現像用トナー。」

2.補正の適否の判断
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「重合体一次粒子」を、「ワックスのエマルジョン存在下でシード重合によって得られる」ものに限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

3.引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな引用文献1(特開平9-190012号公報)、引用文献2(特開平11-143125号公報)、引用文献3(特開平11-327201号公報)及び、引用文献5(特開昭63-186253号公報)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線の大部分は当審で付した。)

〔引用文献1〕
(1a)「【請求項1】 重合体一次粒子を凝集、融着してなる着色粒子よりなる静電荷像現像用トナーにおいて、該一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で0.01重量%から50重量%である事を特徴とする静電荷像現像用トナー。」(特許請求の範囲)

(1b)「トナーの製造方法 本発明のトナーは、所望のトナー粒径以下の粒径の重合体一次粒子を複数個会合、融着させ生成するものである。上記重合体粒子は、公知の重合方法を用いて製造される。例えば乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、ソープフリー重合法、シード重合法、分子拡散法、二段階膨潤法等が用いられる。好ましくは、乳化重合法を用いサブミクロンの重合体粒子分散液を得、この分散粒子を複数個会合、融着させる方法である。」(段落番号【0019】(以下「段落番号」は省略する。))

(1c)「更にトナーとするには、上記重合体一次粒子分散液に凝集剤を添加し、更に水に無限溶解する有機溶媒を添加し、重合体一次粒子のガラス転移温度以上で加熱し、一次粒子間を融着することで製造できる。トナーとして必須の内添剤及び所望に応じて添加される内添剤には、着色剤、定着性改良剤、荷電制御剤等があるが、これらは重合体一次粒子分散液の重合時又は会合時に水分散液の状態で添加される。この場合、特に好ましくは重合時に添加される。これによって、内添剤は重合体粒子と均一に複合化され、トナーとした時の内添剤も同様にトナー粒子内に均一に存在し、安定したトナー特性を得る事ができる。」(【0020】)

(1d)「架橋モノマーの共重合比率
架橋モノマーは、モノマー自身の反応性、重合条件等により架橋度は変化するがテトラヒドロフラン(THF)の不溶分が0.01重量%?50重量%とする為には、共重合比率で0.01重量%?5重量%の範囲が好ましい。THF不溶分がこの範囲未満の場合、定着性に対しても画像の非光沢性に対してもあまり影響を与えない。又この範囲を越える場合、定着性が極端に悪くなる。
ここにおいてテトラヒドロフラン(THF)の不溶分の測定は、重合体を25℃のTHFに対して、1重量%の濃度になるように加え、24時間撹拌した後に、濾過を行い、残留する固形分の重量から算出される。
架橋モノマー
架橋モノマーとしては、ラジカル重合性を有するエチレン性多官能性モノマーが用いられる。一例としてジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート等が挙げられる。又反応性基をペンダントグループに有するモノマー、例えばグリシジルメタアクリレート、メチロールアクリルアミド、アクロレイン等も用いる事が可能である。好ましくはラジカル重合性エチレン性不飽和多官能性モノマーが好ましく、更にジビニルベンゼンが好ましい。」(【0022】?【0024】)

(1e)「本発明において、上述して得られた樹脂は、特に乳化重合法によって得られた場合は、微粒子状態で得られるので、凝集剤を使用して、更に水に無限溶解する溶媒を添加し、得られた樹脂のガラス転移点以上に加熱処理することにより、所望の粒径の粒子(トナー)とすることが出来る。
本発明のトナーを製造するに際して、使用される凝集剤としては特に限定されるものでは無いが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。具体的には、一価の金属として例えばナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の塩、二価の金属として例えばカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類の金属塩、マンガン、銅等の二価の金属の塩、鉄、アルミニウム等の三価の金属の塩等があげられ、具体的な塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、安価亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン等を挙げることができる。これらは組み合わせて使用してもよい。」(【0034】?【0035】)

(1f)「本発明のトナーには各種の着色剤、定着性改良剤の如き特性改良剤を使用出来る。使用できる着色剤としてはカーボンブラック、磁性体、染料、顔料等を任意に使用することができ、カーボンブラックとしてはチャネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック・ランプブラック等が使用される。磁性体としては鉄、ニッケル、コバルト等の強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、マグネタイト等の強磁性金属の化合物、強磁性金属を含まないが熱処理する事により強磁性を示す合金、例えばマンガン-銅-アルミニウム、マンガン-銅-錫等のホイスラー合金と呼ばれる種類の合金、二酸化クロム等を用いる事ができる。染料としてはC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95等を用いる事ができ、またこれらの混合物も用いる事ができる。顔料としてはC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同93、同94、同138、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60等を用いる事ができ、これらの混合物も用いる事ができる。これらの着色剤は数平均一次粒子径は、概ね10?200nm程度のものをトナーに分散して用いるのが好ましい。」(【0041】)

(1g)「着色剤の添加方法としては、本発明のトナーを乳化重合法で調製する場合、重合体自体を乳化重合法で調製し、ついで、凝集剤を添加することで凝集させる段階で添加する方法や、単量体を重合させる段階で着色剤を添加する方法等を使用することができる。なお、着色剤は重合体を調整する段階で添加する場合はラジカル重合性を阻害しない様に表面をカップリング剤等で処理して使用することが好ましい。」(【0042】)

(1h)「さらに、定着性改良剤としての低分子量ポリプロピレン(数平均分子量=1,500?9,000)や低分子量ポリエチレン等を添加してもよい。また、荷電制御剤としてアゾ系金属錯体、4級アンモニウム塩等を用いてもよい。これらの特性改良剤は、着色剤と同じ方法でトナーに添加されるのが通常である。」(【0043】)

(1i)「(着色粒子)
着色粒子製造例1
カーボンブラック(リーガル330R:キャボット社製)をアルミニウムカップリング剤(プレンアクトAL-M:味の素社製)で処理したものを10.67gをドデシル硫酸ナトリウム4.92gを120mlの純水に溶解した水溶液に添加し、各判しつつ超音波を照射しカーボンブラックの水分散液を調整した。又低分子量ポリプロピレン(数平均分子量=3200)を熱を加えながら水中に界面活性剤を用い乳化させた固形分濃度=20重量%の乳化分散液を調製した。上記カーボンブラックの分散液に低分子量ポリプロピレン乳化分散液43gを混合し、スチレンモノマー90.0g、ジビニルベンゼン(有効成分=55%)10.9g、n-ブチルアクリレート18.0g、メタクリル酸モノマー6.0g、tert-ドデシルメルカプタン3.3g、脱気済み純水850mlを添加した後、窒素気流下撹拌を行いつつ、70℃まで昇温した。次いで、過硫酸カリウム6.1gを溶解した純水200mlを加え70℃、6時間重合を行った後、室温まで冷却した。得られたカーボンブラック含有着色粒子分散液を『分散液1』とした。尚、この分散液の粒子径は、光散乱電気泳動粒径測定装置ELS-800(大塚電子工業(株))を用い測定し、テトラヒドロフラン不溶分は上記の重合から着色剤及び低分子量ポリプロピレンを除き重合したものを用い測定した。
加圧反応器にこの『分散液1』600mlに対し2.7mol/lの塩化カリウム水溶液を160ml,更にイソプロピルアルコール94ml,ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(エチレンオキサイド平均重合度は10である)5.4gを純水40mlに溶解した水溶液を添加した。
更に5kg/cm2の圧力をかけた後、内温を130℃まで昇温し6時間反応を行った後、室温まで冷却し、圧力を解除し反応液を濾過、水洗を行い乾燥し本発明の着色粒子を得た。このものを『着色粒子1』とした。
着色粒子製造例2
上記着色粒子製造例1において添加するモノマーの量をスチレンモノマー93.0g、ジビニルベンゼン(有効成分=55%)5.45g、n-ブチルアクリレート18.0g、メタクリル酸モノマー6.0gに代えた他は同ようにして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液2』とし、着色粒子を『着色粒子2』とした。
着色粒子製造例3上記着色粒子製造例1において添加するモノマーの量をスチレンモノマー94.8g、ジビニルベンゼン(有効成分=55%)2.18g、n-ブチルアクリレート18.0g、メタクリル酸モノマー6.0gに代えた他は同ようにして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液3』とし、着色粒子を『着色粒子3』とした。
着色粒子製造例4
上記着色粒子製造例1において添加するモノマーの量をスチレンモノマー91.08g、ジビニルベンゼン(有効成分=55%)0.22g、n-ブチルアクリレート18.0g、メタクリル酸モノマー6.0gに代えた他は同ようにして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液4』とし、着色粒子を『着色粒子4』とした。
着色粒子製造例5
上記着色粒子製造例1において添加するモノマーの量をスチレンモノマー95.98g、ジビニルベンゼン(有効成分=55%)0.02g、n-ブチルアクリレート18.0g、メタクリル酸モノマー6.0gに代えた他は同ようにして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液5』とし、着色粒子を『着色粒子5』とした。
着色粒子製造例6
上記着色粒子製造例3において表面処理されたカーボンブラックの代わりにC.I.Pigment Yellow 17を用いた他は同様にして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液6』とし、着色粒子を『着色粒子6』とした。
着色粒子製造例7
上記着色粒子製造例3において表面処理されたカーボンブラックの代わりにC.I.Pigment Red 122を用いた他は同様にして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液7』とし、着色粒子を『着色粒子7』とした。
着色粒子製造例8
上記着色粒子製造例3において表面処理されたカーボンブラックの代わりにC.I.Pigment Blue 15:3を用いた他は同様にして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた分散液を『分散液8』とし、着色粒子を『着色粒子8』とした。
比較用着色粒子製造例1
上記着色粒子製造例1において添加するモノマーの量をスチレンモノマー89.78g、ジビニルベンゼン(有効成分=55%)13.32g、n-ブチルアクリレート18.4g、メタクリル酸モノマー6.1gに代えた他は同ようにして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた着色粒子を『比較用着色粒子1』とした。
比較用着色粒子製造例2
上記着色粒子製造例1において添加するモノマーの量をスチレンモノマー98.1g、n-ブチルアクリレート18.4g、メタクリル酸モノマー6.1gに代えた他は同ようにして本発明の着色粒子を得た。ここで得られた着色粒子を『比較用着色粒子2』とした。」(【0076】?【0087】)

(1j)「得られた着色粒子、比較用着色粒子の分散液1?8、比較用分散液1?2の平均粒径とTHF不溶分を下記表1に示した。

」(【0088】?【0089】)

ここで、THF不溶分とは、上記(1i)の「尚、この分散液の粒子径は、光散乱電気泳動粒径測定装置ELS-800(大塚電子工業(株))を用い測定し、テトラヒドロフラン不溶分は上記の重合から着色剤及び低分子量ポリプロピレンを除き重合したものを用い測定した」というものによるものと認められる。

(1k)「(トナーの作製)着色粒子1?着色粒子8及び比較用着色粒子1?比較用着色粒子2に対し疎水性シリカ(一時粒子径=12nm)を1重量%添加しトナーを得た。これらを『トナー1』?『トナー8』及び『比較用トナー1』?『比較用トナー2』とした。」(【0092】)

(1m)「(現像剤の作製)更に上記トナーをスチレン-アクリル酸エステル樹脂で被覆した体積平均粒径が50μmのフェライトキャリアと混合し、上記『トナー1』?『トナー8』及び『比較用トナー1』?『比較用トナー2』に対応する『現像剤1』?『現像剤8』及び『比較用現像剤1』?『比較用現像剤2』とした。」(【0093】)

これら記載(特に上記(1i)?(1j))によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「着色剤(カーボンブラック、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Blue 15:3のいずれか)の分散液に、低分子量ポリプロピレンを界面活性剤を用いて乳化させた乳化分散液を混合し、これにスチレンモノマー、ジビニルベンゼン(架橋モノマー)等のモノマー混合物、水を添加し、さらに過硫酸カリウムを加えて重合させて、着色粒子(重合体一次粒子)分散液(分散液1?3,6?8)を作成し、この着色粒子(重合体一次粒子)分散液に、塩化カリウム(凝集剤)、イソプロピルアルコール(水に無限溶解する溶媒)等の水溶液を添加してから加熱することで、着色粒子(重合体一次粒子)を複数個会合、融着させて得られた、静電荷像現像用トナーであって、
着色粒子(重合体一次粒子)の架橋度が、上記の重合から着色剤及び低分子量ポリプロピレンを除き重合したものを用いて測定したテトラヒドロフラン不溶分で、47重量%(分散液1)、22重量%(分散液2)、13重量%(分散液3)、11?13重量%(分散液6?8)である、
静電荷像現像用トナー。」


〔引用文献2〕
(2a)「このような事情の下、近年、粒子の形状及び表面組成を制御したトナーを製造する手段として、例えば特開昭63-282752号公報や特開平6-250439号公報において、乳化重合凝集法によるトナーの製造方法が提案されている。これらの公報において提案されている方法は、乳化重合等により樹脂粒子分散液を調製し、水系媒体(溶媒)に着色剤を分散させた着色剤分散液を調製し、両者を混合し、トナー粒径に相当する凝集粒子を形成し、加熱して融合することによりトナーを製造する方法である。」(【0007】)

(2b)「また、フルカラー機に搭載されるトナーの場合、多量のトナーが十分に混色することが必要なため、色再現性の向上やOHP透明性が必須となる。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】 本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、・・・(中略)・・・4 紙上及びOHP上で高彩度のフルカラー画像を容易にかつ簡便に形成することのできる画像形成方法を提供することを目的とする。
・・・(略)・・・」(【0014】【0015】)

(2c)「-離型剤粒子(低軟化点物質)-
前記離型剤粒子における離型剤としては、ASTM D3418-8に準拠して測定された主体極大ピークが50?140℃にある物質が好適に挙げられる。前記主体極大ピークが50℃未満であると、定着時にオフセットを生じ易くなり、140℃を越えると、定着温度が高くなり、定着画像表面の平滑性が得られず光沢性を損なう。本発明においては、このような離型剤を「低軟化点物質」と称することがある。」(【0037】)

(2d)「(実施例1)
-樹脂粒子分散液(1)の調製-
スチレン・・・・・・・・・・・・・・ 370g
nブチルアクリレート・・・・・・・・ 30g
アクリル酸・・・・・・・・・・・・・ 6g
ドデカンチオール・・・・・・・・・・・ 24g
四臭化炭素・・・・・・・・・・・・・・ 4g
以上を混合し、溶解したものを、非イオン性界面活性剤(三洋化成(株)製:ノニポール400)6g及びアニオン界面活性剤(第一工業製薬社製:ネオゲンR)10gをイオン交換水550gに溶解したものに、フラスコ中で分散し、乳化し、10分間ゆっくりと混合しながら、これに過硫酸アンモニウム(東海電化社製)4gを溶解したイオン交換水50gを投入し、窒素置換を行った後、前記フラスコ内を攪拌しながら内容物が70℃になるまでオイルバスで加熱し、5時間そのまま乳化重合を継続した。その後、この反応液を室温まで冷却し、次いで80℃のオーブン上に放置して水分を除去することにより、平均粒径が155nm、ガラス転移点が59℃、重量平均分子量(Mw)が13,000である樹脂粒子を分散させてなる樹脂粒子分散液(1)を調製した。
-樹脂粒子分散液(2)の調製-
スチレン・・・・・・・・・・・・・・・280g
nブチルアクリレート・・・・・・・・・120g
アクリル酸・・・・・・・・・・・・・・ 8g
以上を混合し、溶解したものを、非イオン性界面活性剤(三洋化成(株)製:ノニポール400)6g及びアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社社製:ネオゲンR)12gをイオン交換水550gに溶解したものに、フラスコ中で分散し、乳化し、10分間ゆっくりと混合しながら、これに過硫酸カリウム(関東化学社製)3gを溶解したイオン交換水50gを投入し、窒素置換を行った後、前記フラスコ内を攪拌しながら内容物が70℃になるまでオイルバスで加熱し、5時間そのまま乳化重合を継続した。その後、この反応液を室温まで冷却し、次いで80℃のオーブン上に放置して水分を除去することにより、平均粒径が105nm、ガラス転移点が53℃、重量平均分子量(Mw)が550,000である樹脂粒子を分散させてなる樹脂粒子分散液(2)を調製した。
-着色剤分散液(1)の調製-
カーボンブラック・・・・・・・・・・ 50g(キャボット社製:モ ガールL)
非イオン性界面活性剤・・・・・・・・・ 5g(三洋化成(株)製: ノニポール400)
イオン交換水・・・・・・・・・・・・ 200g
以上を混合し、溶解し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタックス)を用いて10分間分散して着色剤(マゼンタ顔料)を分散させてなる着色剤分散液(1)を調製した。着色剤分散液(1)における着色剤の平均粒径は、250nmであった。
-離型剤分散液(1)の調製-
パラフィンワックス・・・・・・・・・ 50g(日本精蝋(株)製: HNP0190、融点85℃)
カチオン性界面活性剤・・・・・・・・・ 5g(花王(株)製:サニ ゾールB50)
イオン交換水・・・・・・・・・・・・ 200g
以上を混合し、溶解し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタックス)を用いて10分間分散して離型剤(パラフィンワックス)を分散させてなる離型剤分散液(1)を調製した。離型剤分散液(1)における離型剤の平均粒径は、550nmであった。
<凝集工程>
樹脂粒子分散液(1)・・・・・・・・120g
樹脂粒子分散液(2)・・・・・・・・ 80g
着色剤分散液(1)・・・・・・・・・ 30g
離型剤分散液(1)・・・・・・・・・ 40g
カチオン界面活性剤・・・・・・・・・1.5g(花王(株)製:サニゾ ールB50)
以上を丸型ステンレス製フラスコ中に収容させ、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した後、加熱用オイルバス中で48℃まで加熱した。得られた凝集粒子について、コールターカウンター(コールター社製、TA2型)を用いて測定すると、5.5μmであった。
<付着工程> -付着粒子の調製-
この凝集粒子分散液を48℃で30分間保持した後、この凝集粒子分散液中に、樹脂微粒子分散液としての樹脂粒子分散液(1)を緩やかに60g追加し、さらに加熱用オイルバスの温度を上げて50℃で1時間保持した。得られた付着粒子について、コールターカウンター(コールター社製、TA2型)を用いて測定すると、5.8μmであった。
<融合工程> ここにアニオン性界面活性剤(第一工業製薬社社製:ネオゲンR)3gを追加した後、攪拌を継続しながら97℃まで加熱し、3時間保持した。その後、冷却し、これをろ過し、イオン交換水で洗浄した後、真空乾燥機を用いて乾燥させることにより凝集粒子を得た。(略)」(【0130】?【0146】)

(2e)「【発明の効果】本発明によると、前記従来における様々な問題を解決することができる。また、本発明によると、帯電性、現像性、転写性、定着性、クリーニング性等の諸特性、特に帯電均一性、帯電安定性、画像定着性、画像耐久性、形状制御性、オイルレス定着性等に優れ、高画質と高信頼性とを満足する静電荷像現像用トナー及び該静電荷像現像用トナーを用いた静電荷像現像剤を提供することができる。また、本発明によると、着色剤や離型剤等の遊離を招くことなく、前記諸特性に優れた静電荷像現像用トナーを容易にかつ簡便に製造し得る静電荷像現像用トナーの製造方法を提供することができる。また、本発明によると、紙上及びOHP上で高彩度のフルカラー画像を容易にかつ簡便に形成することのできる画像形成方法を提供することができる。更に、本発明によると、クリーナーから回収されたトナーを再使用する、いわゆるトナーリサイクルシステムにおいても適性が高く、光透過性、着色性に優れた高画質を得ることができる画像形成方法を提供することができる。」(【0210】)

〔引用文献3〕
(3a)「【請求項1】 樹脂、着色剤及び離型剤を含有する静電荷像現像用トナーにおいて、前記離型剤をトナー表面に沿った離型剤層としてトナー中に配置してなることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】 樹脂微粒子の分散液と、着色剤の分散液とを混合し、前記樹脂微粒子及び前記着色剤を凝集させて凝集粒子を形成し、次いで、離型剤微粒子の分散液を追加して混合し、前記凝集粒子の表面に離型剤微粒子を付着させ、さらに、樹脂微粒子の分散液を追加して混合し、前記凝集粒子の離型剤層表面に樹脂微粒子を付着させた後、前記樹脂微粒子のガラス転移点以上の温度に加熱して融合・合一させ、トナー粒子を形成することを特徴とする請求項1記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。」

(3b)「【0050】前記離型剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類;加熱により軟化点を示すシリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス;ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等の高級脂肪酸と高級アルコールとのエステルワックス類;ステアリン酸ブチル、オレイン酸プロピル、モノステアリン酸グリセリド、ジステアリン酸グリセリド、ペンタエリスリトールテトラベヘネート等の高級脂肪酸と単価又は多価低級アルコールとのエステルワックス類;ジエチレングリコールモノステアレート、ジプロピレングリコールジステアレート、ジステアリン酸ジグリセリド、テトラステアリン酸トリグリセリド等の高級脂肪酸と多価アルコール多量体とからなるエステルワックス類;ソルビタンモノステアレート等のソルビタン高級脂肪酸エステルワックス類;コレステリルステアレート等のコレステロール高級脂肪酸エステルワックス類などを挙げることができる。また、これらの離型剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0051】前記離型剤の融点は、トナーの保存性を確保する観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が特に好ましい。また、トナー定着性を確保する観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下が特に好ましい。融点が30℃を下回ると、定着像表面へのワックスの染み出しが生じ易くなり、定着画像のべたつき感が生ずる。また、150℃を超えると、トナー中で離型剤が溶解し難くなるために、離型効果が小さくなる。」


〔引用文献5〕
(5a)「1.酸性極性基または塩基性極性基を有する重合体の一次粒子及び着色剤粒子並びに随意帯電制御剤を含有してなる二次粒子の会合粒子であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
2.・・・・・。
3.重合体エマルジヨンに着色剤並びに随意帯電制御剤を添加し、20?45℃で1?3時間撹拌下加熱し、次いで重合体のガラス転移点?ガラス転移点より20℃高い温度に1?3時間撹拌下加熱して生成した会合粒子を、随意濾過し、乾燥することを特徴とする、酸性極性基又は塩基性極性基を有する重合体の一次粒子及び着色剤粒子並びに随意帯電制御剤を含有してなる二次粒子の会合粒子である静電荷像現像用トナーの製法。」(特許請求の範囲)

(5b)「本発明で用いられる極性基を有する重合体のガラス転移点は-90?100°C、好ましくは、-30?80°C、最も好ましくは、-10?60°Cであり、またそのゲル化度は、アセトン還流下ソックスレー抽出時の不溶分で表わして0.0?99.9重量%、好ましくは1?30重量%である。
ガラス転移点が100°Cを越えて高過ぎては、低温定着性が悪くなる傾向があって好ましくなく、また-90°C未満と低すぎては、トナーの粉体流動性が低下する傾向があるので好ましくない。一方、ゲル化度が50重量%を超えて高すぎては低温定着性が悪くなる傾向があるので好ましくない。」(第4頁左上欄第2?13行)

(5c)「実施例1 酸性極性基含有重合樹脂の調整
スチレンモノマー(ST) 60部
アクリル酸ブチル(BA) 40部
アクリル酸(AA) 8部
以上のモノマー混合物を
水 100部
ノニオン乳化剤 1部
(エマルゲン950)
アニオン乳化剤 1.5部
(ネオゲンR)
過硫酸カリウム 0.57fls
の水溶液混合物に添加し、攪拌下70℃で8時間重合させて固形分50%の酸性極性基含有樹脂エマルジョンを得た。
トナーの調整(1)
酸性極性基含有樹脂エマルション 120部
マグネタイト 40部
ニグロシン染料 5部
(ボントロンN-04)
カーボンブラック 5部
(ダイヤブラック#100 )
水 380部
以上の混合物をスラッシャ-で分散攪拌しながら約30℃に2時間保持した。その後、さらに攪拌しながら70℃に加温して3時間保持した。この間顕微鏡で観察して、樹脂粒子とマグネタイト粒子とのコンプレックスが約10μに生長するのが確認された。冷却して、得られた液状分散物をブフナーロ過、水洗し、50℃真空乾燥10時間させた。
この得られたトナー100重量部に流動化剤としてシリカ(日本アエロジル社製アエロジルR972)を0.5重量部を添加混合し、試験用現像剤とした。
このトナーで用いた上記重合体のTgは45℃、ゲル化度は5%、軟化点は148°C、トナーの平均粒径は、12μであった。
上記現像剤を市販の複写機(キャノン製NP-270Z)に入れ複写を行ったところ、濃度の高い、かぶりの少ない複写画が得られた。結果を表-2に示した。」(第5頁右下欄第5行?第6頁右上欄第6行)

4.対比、判断
引用文献1記載の発明と本願補正発明とを対比する。

まず、引用文献1記載の発明は、モノマー混合物を、水に分散させて、過硫酸カリウム、すなわち、水溶性の開始剤を使用して重合させるものであるから、乳化重合であり、さらに、反応系に低分子量ポリプロピレン(すなわち、ワックス)及び着色剤粒子を分散させて、存在下で重合しているものであるから、親油性物質であるそれら低分子量ポリプロピレン(ワックス)あるいは着色剤粒子を核とするシード重合が生起していることも明らかである。そして、重合体一次粒子の凝集により、静電荷現像用トナーを製造するものであることも明らかである。
そうすると、製造の面からは、引用文献1記載の発明と本願補正発明とは、「少なくとも重合体一次粒子を含有する粒子凝集体からなる静電荷像現像用トナーであり、当該重合体一次粒子がワックスのエマルジョン存在下でシード重合によって得られたもの」である点では共通する。

また、引用文献1記載の発明の「着色粒子(重合体一次粒子)の架橋度が、上記の重合から着色剤及び低分子量ポリプロピレンを除き重合したものを用いて測定したテトラヒドロフラン不溶分で」とは、本願補正発明の「トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で」に相当することは明らかである。
ここで、本願補正発明の「トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で」について、請求人は、平成17年11月14日付けの意見書で、「トナーから分離して重合体一次粒子を測定するのではなくて、製造過程でラテックス一次粒子が手に入るので、それを直接測定することが可能である。即ち、重合体一次粒子は、製造工程上必ず独立して取り出すことができということです。」と説明しているところ、引用文献1記載の発明は、静電荷現像用トナーの製造方法は若干異なるものの、引用文献1記載の発明の「着色粒子(重合体一次粒子)の架橋度が、上記の重合から着色剤及び低分子量ポリプロピレンを除き重合したものを用いて測定したテトラヒドロフラン不溶分」とは、本願のものについて請求人が意見書で説明しているものと実質的に差異はないというべきである。また、請求人は、平成20年8月12日付けの回答書で、「なお、仮に引用文献1等の分散液1及び2に含まれる樹脂を、トナーのバインダー樹脂に相当するものとして考慮したとすれば、そこに開示された47.22%なる数字は、補正予定の本願請求項1発明に比するなら、重合体一次粒子のTHF不溶分というよりは、トナー中のTHF不溶分に相当するというべきである。」と主張しているが、引用文献1記載の発明のテトラヒドロフラン不溶分は上記のとおりであるから、この主張を採用することができない。
そうすると、引用文献1記載の発明の「着色粒子(重合体一次粒子)の架橋度が、上記の重合から着色剤及び低分子量ポリプロピレンを除き重合したものを用いて測定したテトラヒドロフラン不溶分で、47重量%(分散液1)、22重量%(分散液2)、13重量%(分散液3)、11?13重量%(分散液6?8)である」は、本願補正発明の「トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で15?70重量%」に含まれるか、あるいは、含まれないとしてもその数値範囲に近い値であるというべきである。そして、両者は「所定の数値範囲又は数値である」ことでは共通する。

こうしたことから、引用文献1記載の発明と本願補正発明との一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「少なくとも重合体一次粒子を含有する粒子凝集体からなる静電荷像現像用トナーにおいて、トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で所定の数値範囲又は数値であり、ワックスを含有し、当該重合体一次粒子が前記ワックスのエマルジョン存在下でシード重合によって得られる、静電荷現像用トナー。」

[相違点1]
静電荷像現像用トナーの粒子凝集体に関して、
本願補正発明では、少なくとも重合体一次粒子及び着色剤一次粒子を含有するものであるのに対して、
引用文献1記載の発明では、重合体一次粒子及び着色剤一次粒子を別個に製造しておいて凝集させるのではなく、着色剤一次粒子は、重合体一次粒子中にすでに含有されている点。

[相違点2]
重合体一次粒子の架橋度の指標である、テトラヒドロフラン不溶分に関して、
本願補正発明では、15?70重量%であるのに対し、
引用文献1記載の発明では、47重量%(分散液1)、22重量%(分散液2)、13重量%(分散液3)、11?13重量%(分散液6?8)である点。

[相違点3]
ワックスの融点に関して、
本願補正発明では、30?130℃であるのに対し、
引用文献1記載の発明では、低分子量ポリプロピレンの融点が明記されていない点。

相違点について検討する。

(相違点1について)
引用文献1には、着色剤の添加方法として、引用文献1記載の発明の添加方法だけでなく、重合体一次粒子を乳化重合法で調製し、ついで、凝集剤を添加することでこれを凝集させる段階で着色剤を添加する方法も、選択肢の一つとして明記されている(1g)。
しかも、一般に、重合体一次粒子の水分散液を形成しておいて、それに着色剤一次粒子の水分散液を混合し、それらを凝集させてトナー粒子を形成すること、すなわち、重合体一次粒子及び着色剤一次粒子を含有する粒子凝集体からなる静電荷像現像用トナーとすることも、周知である(例えば、引用文献5の(5a,5c)、引用文献2の(2a)、特開平11-116609号公報の【0003】、特開平11-231570号公報の【0007】を参照)。
してみれば、引用文献1記載の発明において、静電荷像現像用トナーの製造に当り、単量体類、ワックス及び着色剤の混合物を重合する方法に換えて、単量体類とワックスとの混合物を重合させて、重合体一次粒子を調製し、それに、着色剤一次粒子分散物を加えて凝集させる方法、すなわち、本願補正発明のごとく「重合体一次粒子及び着色剤一次粒子を含有する粒子凝集体」を経る製造方法を採用したものとすることは、当業者であれば、容易に想起しうることである。

(相違点2について)
上記のとおり、引用文献1記載の発明におけるテトラヒドロフラン不溶分は、47重量%(分散液1)、22重量%(分散液2)、13重量%(分散液3)、11?13重量%(分散液6?8)であり、それら数字は、本願補正発明の「トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で15?70重量%」に含まれるか、あるいは、含まれないとしてもその数値範囲に近い値であるということができる。
他方、本願補正発明の「トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で15?70重量%」の意義について検討すると、本願の明細書では、テトラヒドロフラン不溶分15?70重量%だけに着目した特別な説明はなく、また、実施例で示されているのは、テトラヒドロフラン不溶分30?40重量%(実施例1?7、比較例2?4)であり、本願補正発明の15?70重量%からはかなり狭い範囲に留まり、他には0重量%という比較例1があるのみである。そうすると、本願補正発明の15?70重量%については、作用効果が実際に確認されていない範囲が広くあり、15?70重量%の数値範囲の臨界的意義は不明確である(数値範囲の内外で効果に顕著な差異が認められない)と言わざるを得ない。
こうしたことから、引用文献1記載の発明において、トナーにしたときの重合体一次粒子の架橋度を、本願補正発明のごとく、テトラヒドロフラン不溶分で15?70重量%とすることは、当業者が状況に応じて適宜容易になし得ることである。
なお、請求人は、架橋剤の使用量に関して、上記回答書で、「引用文献1等のジビニルベンゼン(架橋剤)の量が数%であるのに比べ、本願発明では1%未満である」と述べて、違いを強調しているが、本願の【0018】には「本発明では、重合体一次粒子の架橋度をテトラヒドロフラン不溶分が15?70重量%となるように、架橋剤の使用量を制御する。架橋剤の使用量は、通常モノマー全体の0.005?5重量%が好ましく、0.01?3重量%が更に好ましく、0.05?1重量%が特に好ましい。」との記載があり、他方、引用文献1の(1d)には「架橋モノマーは、モノマー自身の反応性、重合条件等により架橋度は変化するがテトラヒドロフラン(THF)の不溶分が0.01重量%?50重量%とする為には、共重合比率で0.01重量%?5重量%の範囲が好ましい。」との記載があるから、両者に大きな違いはないというべきであろう。

(相違点3について)
引用文献1記載の発明では、低分子量ポリプロピレンの融点が明記されていないが、
引用文献3には、ワックスの融点として30?130℃程度のものが好ましいことが記載されている。
また、熱ローラー定着方式に使用される静電荷像現像用トナーにおいて定着性改善、あるいは、トナーの離型性ないしオフセット性の改善のためにトナーに添加されるワックスとして、30?130℃程度の融点を有するものを採用することは、定着条件やトナー粒子の耐ブロッキング性などを考慮すれば当然のことであり、「融点が30?130℃のワックス」は、通常使用される程度のものでもある。必要であれば、特開昭61-62056号公報の請求項1及び第3頁左上欄第1?5行、特開平5-289410号公報の請求項3、特開平11-327201号公報の【0051】、特開平5-61242号公報の請求項1、特開昭63-217357号公報の請求項7、特開平2-297564号公報、特開平3-41465号公報を参照。
しかも、実際に、本願の実施例で使用されているワックスの融点は、80℃程度や100?110℃程度のものであり、特別な融点ではない。
したがって、引用文献1記載の発明において、低分子量ポリプロピレンの融点を、本願補正発明のごとく、30?130℃のものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(作用効果について)
本願補正発明の構成に関する容易想到性は、上記の判断で足りているが、作用効果についても言及しておくと、
上記(相違点2について)で示したように、本願補正発明のテトラヒドロフラン不溶分15?70重量%については、作用効果が実際に確認されていない範囲が広くあり、OHP透明性が本願補正発明の数値範囲全体に渡る特有の効果であるということもできない。
また、重合体一次粒子、着色剤一次粒子、離型剤分散粒子を水中で凝集させてトナーとしたものでは、高彩度のフルカラーOHP画像で、OHP透明性が良好なものが得られることも、引用文献2や特開平10-301333号公報(【0098】)に示唆又は記載されており、
しかも、一般的に、OHP透明性には、着色剤、離型剤、荷電制御剤などが均一に分散されていることが重要であるといわれており(例えば、特開平7-146589号公報の【0045】?【0047】、特開平7-84410号公報の【0006】、特開平8-262801号の【0007】、特開平10-307419号公報の【0004】)、引用文献1のものにおいても、そのような分散性を持たせる調整を適宜行えば、OHP透明性の向上が図られるものと考えられるので、
本願補正発明のOHP透明性の効果は格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用文献1,3に記載された発明や周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願の請求項に係る発明
平成18年12月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成17年11月14日付の手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 少なくとも重合体一次粒子及び着色剤一次粒子を含有する粒子凝集体からなる静電荷像現像用トナーにおいて、トナーにしたときの該重合体一次粒子の架橋度が、テトラヒドロフラン不溶分で15?70重量%かつ、融点が30?130℃のワックスを含有することを特徴とする静電荷現像用トナー。」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな引用文献1(特開平9-190012号公報)及び引用文献3(特開平11-327201号公報)には、上記「第2. 3.」欄に摘示したとおりの事項が記載されている。

3.判断
本願発明1は、上記「第2. 1.」欄に示した本願補正発明における、「当該重合体一次粒子が前記ワックスのエマルジョン存在下でシード重合によって得られる」とする限定を含まないものである。

そうすると、本願発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2. 4.」欄に記載したとおり、引用文献1、3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明1も、同様の理由により、引用文献1、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用文献1,3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-11 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-380130(P2000-380130)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 赤木 啓二
伊藤 裕美
発明の名称 静電荷現像用トナー  
代理人 特許業務法人志成特許事務所  

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