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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1191357
審判番号 不服2007-1144  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-12 
確定日 2009-01-14 
事件の表示 平成10年特許願第315801号「植物施設栽培における薫蒸方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月23日出願公開、特開2000-139238〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年11月6日の出願であって、平成18年10月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月13日付けで手続補正がなされたものである。その後、平成20年7月10日付けで審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成20年9月16日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成19年2月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年2月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?5のうち、請求項1は、次のとおりに補正された。
「光安定剤と紫外線吸収剤を含有し、300?370nmの範囲の紫外線透過率が5%以下のオレフィン系樹脂フィルムで栽培植物を被覆し、その内部を硫黄で薫蒸することを特徴とする植物施設栽培における薫蒸方法。」

上記補正は、補正前の請求項1の「紫外線透過率」が「10%以下」とあるのを「5%以下」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)刊行物及びその記載内容
刊行物:特開平8-224049号公報

本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物には、図面とともに、次のことが記載されている。

(ア)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、施設園芸ハウス・トンネル栽培において、土壌および/または植物を無機硫黄剤で殺菌・殺虫処理を行っても劣化を生じない被覆フィルム、その用途および植物の栽培方法に関する。」

(イ)
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】近年、消費者の安全性・自然派指向の流れを受け、農薬の低減が一層すすむ傾向にある中で、殺菌剤として歴史のきわめて古い無機硫黄剤、すなわち、石灰硫黄合剤、硫黄粉剤、水和硫黄剤、硫黄くん煙剤などが消費者の安全性・自然派指向の流れを受け多用される傾向がみられる。これら無機硫黄剤を用いた場合にも、有機系農薬を用いた場合と同様、農業用ポリオレフィン系樹脂被覆フィルムの耐候劣化が起こることが多く、上記特開昭63-175072号公報に記載の熱可塑性樹脂にヒンダードアミン系化合物とハイドロタルサイト類化合物を配合した農業用フィルムでも、無機硫黄剤を用いた場合、必ずしも充分な耐候性を保持できないことがわかった。とくに、果樹栽培は、多年性であり着果時期など栽培の重要時期にフィルムが劣化により破れたりすることは非常に大きな問題となる。本発明の目的は、地球環境に優しいポリオレフィン系樹脂を基材とした被覆フィルムからなる施設園芸ハウス・トンネルにおいて、無機硫黄剤を用いることによって、低有機農薬の施設園芸ハウス・トンネル栽培用ポリオレフィン系樹脂被覆フィルムを提供することにある。」

(ウ)
「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、農業用被覆フィルム、とりわけ、ポリオレフィン系樹脂を基材とした農業用被覆フィルムとそれを用いてなる低有機農薬の施設園芸方法について鋭意研究を重ねてきた結果、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロタルサイト類化合物、紫外線吸収剤を含む農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを被覆フィルムとしたハウス・トンネル内で無機硫黄剤により土壌および/または植物を処理する場合において、上述の耐候劣化の問題を解消した作物栽培が可能となることをみいだし本発明を完成するに至った。」

(エ)
「【0019】本発明に用いられる紫外線吸収剤の配合量は、耐候性向上の点でポリオレフィン系樹脂被覆フィルム中、0.01重量%以上が好ましい。フィルムの外観特にブルーミング現象を抑制する点で3重量%以下が好ましい。より好ましい配合量は、0.05?1重量%である。またこれらの紫外線吸収剤は単独で用いても2種類以上を併用してもかまわない。」

(オ)
「【0031】本発明の無機硫黄剤で土壌および/または植物を処理する方法とは、通常、上述した本発明のポリオレフィン系樹脂被覆フィルムを覆われた施設園芸ハウス・トンネル内において、少なくとも1度の無機硫黄剤の散布を意味し、散布時期は栽培する植物の栽培を開始する前後のいずれの時期でもよい。…」

(カ)
「【0041】(実施例7)実施例1のフィルムを被覆したハウスでいちご栽培試験(岐阜県:とよのか、東西棟APハウス、1993年10月?5月の間栽培し、電熱式硫黄くん蒸剤(商品名 新こなでん 東海物産製)によるくん蒸を行なった。…」

これらの記載事項(ア)?(カ)の記載によれば、上記刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ヒンダードアミン系化合物と紫外線吸収剤を含有する農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムで、栽培植物を被覆し、その内部を硫黄くん蒸剤でくん蒸する施設園芸ハウス・トンネル栽培におけるくん蒸方法。」(以下、「刊行物記載の発明」という。)

(3)対比
そこで、本願補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、その作用及び機能からみて、刊行物記載の発明の「ヒンダードアミン系化合物」は、本願補正発明の「光安定剤」に相当し、以下、「農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム」は「オレフィン系樹脂フィルム」に、「硫黄くん蒸剤」は「硫黄」に、「施設園芸ハウス・トンネル」は「植物施設」に、「くん蒸方法」は「薫蒸方法」にそれぞれ相当するから、
両者は、
「光安定剤と紫外線吸収剤を含有するオレフィン系樹脂フィルムで、栽培植物を被覆し、その内部を硫黄で薫蒸する植物施設栽培における薫蒸方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
オレフィン系樹脂フィルムの紫外線透過率について、本願補正発明が「300?370nmの範囲の紫外線透過率が5%以下」としたものであるのに対し、刊行物記載の発明では紫外線透過率が不明である点。

(4)判断
上記相違点を検討すると、目的は異なるものの農業用フィルムにおいて、300?370nmの範囲の紫外線透過率を5%以下としたものは、特開昭53-27539号公報(3頁左上欄3?20行、図面参照)及び特開昭53ー98242号公報(2頁右下欄18行?3頁左上欄8行、3頁左上欄18行?右上欄7行、第2図参照)等に記載されているように周知であり、刊行物記載の発明のオレフィン系樹脂フィルムとして、「300?370nmの範囲の紫外線透過率が5%以下のオレフィン系樹脂フィルム」を採用することは、当業者であれば容易になし得るものである。

なお、本願明細書段落【0054】の【表1】には、紫外線透過率を5%以下とするために、紫外線吸収剤の重量%を「0.8」及び「1.2」としたことが記載されているが、農業用フィルムにおいて、紫外線吸収剤の重量%をこれに近似した値としたものは、上記刊行物(上記記載事項(エ)参照)及び上記特開昭53-27539号公報(7頁左下欄3行?右下欄4行、9頁右上欄「表-1」の「A(本発明)」「紫外線吸収剤」「添加量(重量部)」の項参照)のほか、特開昭58-146216号公報(5頁上欄の「表1」の「紫外線吸収剤」「添加量A(重量部)」「フイルム番号3?6、13」参照)及び特開平9-117991号公報(8頁の「表-1-1」「UV剤(重量部)」「実施例5?7」参照)等に記載されているように周知であるから、紫外線吸収剤の重量%を「0.8」及び「1.2」とすることは、格別の構成ではない。

本願明細書の実施例には、300?370nmの範囲の紫外線透過率を5%以下としたことにより、耐久性が向上したことが示されているが、50μm厚さのフィルムを用いた実験についての結果にすぎず、フィルムの耐久性が、フィルムの厚さに拘わらず紫外線透過率のみで評価できることは示されていない。
そして、紫外線透過率は、フィルムの厚さと紫外線吸収剤の含有率とに関連するものであるから(上記特開昭58-146216号公報参照)、フィルムが厚ければ、紫外線吸収率の含有率が、本願明細書の実施例より低くても紫外線透過率を5%以下とすることができるが、このように紫外線吸収剤の含有率が低い場合にも耐久性が向上することは示されていないから、紫外線透過率を5%以下としたことに臨界的意義があるとは認められない。
そうすると、本願補正発明の作用効果も、刊行物記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

3.本願発明
平成19年2月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「光安定剤と紫外線吸収剤を含有し、300?370nmの範囲の紫外線透過率が10%以下のオレフィン系樹脂フィルムで栽培植物を被覆し、その内部を硫黄で薫蒸することを特徴とする植物施設栽培における薫蒸方法。」

4.刊行物及びその記載内容
刊行物及びその記載内容は、前記「2.(2)刊行物及びその記載内容」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の「紫外線透過率」の限定事項である「5%以下」を「10%以下」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに「紫外線透過率」を「10%以下」から「5%以下」に限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)判断」に記載したとおり、上記刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成20年9月16日付けの回答書において補正案を提示しているが、370nm以下の紫外線透過率をゼロ%に近似した値を取るものは、上記「2.(4)判断」の項で述べたように周知であり、「300nm及び370nm付近の紫外線透過率がゼロ%であり、300?370nmの中間に現れるピークの紫外線透過率が2%以下である吸光光度スペクトルを示す」とした点に格別の技術的意義を見いだすことはできないので、補正案による請求項1に係る発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ないから、審判請求人に補正案のとおりに補正する用意があるとしても、当審よりさらなる通知をすべき特別な事情を見出すことはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-06 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-25 
出願番号 特願平10-315801
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
P 1 8・ 575- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 山口 由木
草野 顕子
発明の名称 植物施設栽培における薫蒸方法  
代理人 丸山 英一  

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