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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1191483
審判番号 不服2006-7275  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-17 
確定日 2009-01-23 
事件の表示 特願2000-108275「インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月16日出願公開、特開2001-287371〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年4月10日の出願であって、拒絶理由通知を受けて平成17年7月29日付けで手続補正書が提出されたが、平成18年3月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月17日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月12日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

第2.平成18年5月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年5月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についての補正を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】 ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に一方面側に振動板を介して前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板と、該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記流路形成基板が、少なくとも前記保持基板との接合面の周縁部に複数の凹部を有すると共に前記保持基板が、前記流路形成基板との接合面に前記凹部と係合する係合部を有し、且つ前記複数の凹部には、前記係合部と嵌合する凹部と、一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状の凹部とが含まれることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】 請求項1において、前記係合部が、前記流路形成基板側に突出して設けられて前記凹部に嵌合する凸部であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】 請求項1において、前記係合部が、前記凹部に対向する領域に設けられる穴部と、該穴部と前記凹部とで画成される空間内に係合保持される略球形状の係止部材とで構成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】 請求項1?3の何れかにおいて、前記複数の凹部が、前記流路形成基板の中心に対して非点対称となるように配置されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】 請求項1?4の何れかにおいて、前記流路形成基板の前記保持基板とは反対側の面には、前記ノズル開口が穿設されたノズル基板が接合され、前記流路形成基板が前記ノズル基板との接合面側にも前記複数の凹部を有すると共に、前記ノズル基板が前記係合部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】 請求項1?5の何れかにおいて、前記圧力発生室が異方性エッチングにより形成され、前記振動板及び前記圧電素子を構成する各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】 請求項1?6の何れかのインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。」
から、

「 【請求項1】 ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に一方面側に振動板を介して前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板と、該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記流路形成基板が少なくとも前記保持基板との接合面の周縁部に複数の凹部を有すると共に前記保持基板が前記流路形成基板との接合面に各凹部とそれぞれ係合する複数の係合部を有し、且つ前記複数の凹部には、前記係合部と嵌合する凹部と、一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状を有し前記流路形成基板と前記保護基板とを接合固定する際の加熱による保護基板の変形を吸収する凹部とが含まれることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】 前記係合部が、前記流路形成基板側に突出して設けられて前記凹部に嵌合する凸部であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】 前記係合部が、前記凹部に対向する領域に設けられる穴部と、該穴部と前記凹部とで画成される空間内に係合保持される略球形状の係止部材とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】 前記複数の凹部が、前記流路形成基板の中心に対して非点対称となるように配置されていることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】 前記流路形成基板の前記保持基板とは反対側の面には、前記ノズル開口が穿設されたノズル基板が接合され、前記流路形成基板が前記ノズル基板との接合面側にも前記複数の凹部を有すると共に、前記ノズル基板が前記係合部を有することを特徴とする請求項1?4の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】 前記圧力発生室が異方性エッチングにより形成され、前記振動板及び前記圧電素子を構成する各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とする請求項1?5の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】 請求項1?6の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。」
と補正された。
なお、補正後の請求項1に記載される「保護基板」は、「保持基板」の誤記と認める。

2.補正の目的
したがって、本件補正には、特許請求の範囲の補正として以下の補正事項が含まれる。

・補正事項1
補正前の請求項1に記載される「一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状の凹部」を、「一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状を有し前記流路形成基板と前記保護基板とを接合固定する際の加熱による保護基板の変形を吸収する凹部」とする補正。

・補正事項2
補正前の請求項1に記載される「前記流路形成基板が、」及び「前記保持基板が、」を、それぞれ「前記流路形成基板が」及び「前記保持基板が」に変更する補正。

・補正事項3
補正前の請求項2,3に記載される「請求項1において、」を削除し、「請求項1に記載の」を追加する補正。
また、補正前の請求項4,5,6のそれぞれに記載される「請求項1?3の何れかにおいて、」、「請求項1?4の何れかにおいて、」、「請求項1?5の何れかにおいて、」を削除し、「請求項1?3の何れかに記載の」、「請求項1?4の何れかに記載の」、「請求項1?5の何れかに記載の」を追加する補正。

・補正事項4
補正前の請求項7に記載される「請求項1?6の何れかのインクジェット式記録ヘッド」を、「請求項1?6の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッド」に変更する補正。

上記補正事項1は、補正前の発明特定事項である「一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状の凹部」について、流路形成基板と保持基板とを接合固定する際の加熱による保持基板の変形を吸収するという機能を有する凹部であることを特定するものである。そして、補正前の「一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状の凹部」には、前記機能を有する場合と前記機能を有さない場合が存在するので、前記機能を有する場合であることを特定する点で限定したものである。
したがって、この補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項2?4により、補正前後の発明特定事項は実質的に変更されていないので、補正事項2?4の補正目的については特に問わないこととする。

そして、補正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下で検討する。

3.刊行物
(1)本件の出願前に頒布された特開平11-115186号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(ア)「【0025】図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150?300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180?280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0026】流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1?2μmの弾性膜50が形成されている。
【0027】一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、ノズル開口11、圧力発生室12が形成されている。」

(イ)「【0036】一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体膜70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電振動子(圧電素子)を構成している。」

(ウ)「【0054】かかる流路形成基板10は、形成した膜の収縮等により初期応力が残留しており、僅かではあるが、圧力発生室12の形成面を凸側にして反っている。本実施形態では、かかる流路形成基板10の膜形成面を保持部材110に接合する。
【0055】本実施形態の保持部材110は、最終的にインクジェット式記録ヘッド全体を保持するケースを兼ねており、流路形成基板10との接合面が、凸面111となり、また、上述した成膜により形成した圧電体能動部を逃がすための凹部112を有する。
【0056】ここで、凸面111は、当該凸面111に流路形成基板10を密着接合することにより、流路形成基板10の上述した反りがさらに助長されるような曲がりを有する。
【0057】また、保持部材110は、このように密着接合された流路形成基板10の反力を受けても変形しない程度の剛性を有している必要がある。しかしながら、必要な曲がりよりも曲がりが大きな凸面を有して接合後に流路形成基板10の反力により変形して結果的に適正な曲がりとなるものであってもよい。
【0058】また、凹部112は、圧電体能動部の駆動を許容できるものであればよく、所定の深さを有する溝であっても、貫通孔であってもよいが、本実施形態では、配線等の関係から貫通孔としている。
【0059】このように流路形成基板10を接合部材110の凸面111に接合すると、流路形成基板10の成膜部は、さらに圧縮方向の応力を受けることになり、初期応力をなくす又は緩和することができる。
【0060】ここで、凸面111の曲がりの程度であるが、このように初期応力を緩和できるものであれば特に限定されないが、例えば、圧力発生室12の列方向の寸法が10mm程度として、最大突出部の突出量が数μm?数十μm程度である。
【0061】なお、接合部材110の材質は特に限定されない。例えば、樹脂を射出成形などで一体成形してもよく、また、金属製として凸面をレーザ加工又は研磨加工等により形成したものであってもよい。
【0062】また、接合手段も特に限定されず、簡便には接着剤を用いて行うことができる。
【0063】このように接合部材110に接合した流路形成基板10は、さらに、封止板20、共通インク室形成基板30、及びインク室側板40と順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。なお、流路形成基板10と各部材との接合の順番は特に限定されず、例えば、接合部材110との接合を最後に行ってもよい。」

(エ)「【0076】さらに、上述した各実施形態では、振動板として下電極膜とは別に弾性膜を設けたが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。」

前記記載(イ)には、下電極膜60、圧電体膜70、上電極膜80が圧電素子を構成している旨記載されており、前記記載(エ)には、弾性膜50が振動板として機能することが記載されている。したがって、圧電素子が振動板を介して流路形成基板に設けられている。
また、前記記載(ウ)には、「保持部材110は、最終的にインクジェット式記録ヘッド全体を保持するケースを兼ねており」(段落【0055】を参照)と記載されており、保持部材110は、流路形成基板10を保持している。

したがって、前記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に一方面側に振動板を介して前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板と、該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を保持する保持部材とを具備するインクジェット式記録ヘッド。」(以下「刊行物1記載の発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-34920号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(オ)「【0023】絶縁性基板11には、液室支持部材であるフレーム部材13(図4では裏返した状態で示す。)及びスペーサ部材17との位置決めを行うために、図5に示すように貫通孔である2つの位置決め孔33,34を形成している。そして、液室支持部材であるフレーム部材13の基板11との接合面側には、基板11の位置決め孔33,34に嵌合可能なピン部材である位置決めピン35,36を設け、同様に、ヘッド支持部材であるスペーサ部材17の基板11との接合面側にも、基板11の位置決め孔33,34に嵌合可能なピン部材である位置決めピン37,38を設けている。なお、フレーム部材13の裏面側には前述したようにインク供給穴29を形成したジョイント部39を設けている。
【0024】ここで、基板11の一方の位置決め孔33は丸穴形状とし、フレーム部材13の位置決めピン35及びスペーサ部材17の位置決めピン37も断面円形状として、これらの位置決め孔33及び位置決めピン35,37は精度良く嵌合する径寸法で形成している。また、他方の位置決め孔34は長孔形状とし、位置決めピン36,38は断面円形状として、位置決め孔34の幅寸法は嵌め合わせる位置決めピン36,38の外形寸法に形成して、フレーム部材13,スペーサ部材17の回転方向の位置決めをするようにしている。また、この長孔である位置決め孔34の長さは、位置決めピン36,38との相対ピッチ誤差を吸収できる寸法に形成している。
【0025】なお、このように複数のピンと孔との組合わせとする代わりに、丸孔と円形ピン以外の形状、例えば長丸型ピンと長孔の組合わせ、角型ピンと角孔の組合わせなどを採用することもでき、このようにすれば、1個のピンと孔との組合わせとすることができる。ただし、このような形状は、部品精度に対して位置決め精度が十分得られないことがあるので、複数個設ける方が好ましい。」

前記記載(オ)には、位置決め方法として、一方の部材に2つの位置決めピンを設けると共に、他方の部材に2つの位置決め孔を設けることが記載されており、2つの位置決めピンの断面は円形状であり、2つの位置決め孔の一方を丸穴形状とし、他方を長孔形状とすることが記載されている。
そして、1つの位置決め孔(丸穴)と1つの位置決めピンは嵌合し、1つの位置決め孔(長孔)と1つの位置決めピンは、相対ピッチ誤差を吸収できるように設計されたものである。

・位置決め孔(長孔)の長さ方向について
位置決め孔(長孔)について、刊行物2の段落【0024】には、「位置決め孔34の幅寸法は嵌め合わせる位置決めピン36,38の外形寸法に形成して、フレーム部材13,スペーサ部材17の回転方向の位置決めをするようにしている。また、この長孔である位置決め孔34の長さは、位置決めピン36,38との相対ピッチ誤差を吸収できる寸法に形成している。」と記載され、位置決め孔(長孔)は回転方向の位置決めを行っていることが把握できる。
位置決め孔33と位置決めピン37とが嵌合するものであることから、この記載における「回転方向」の回転とは、それらを支点とした回転であると解することができるので、「回転方向の位置決め」とは、位置決め孔33と位置決めピン37とを支点として、スペーサ部材17と基板11とが回転しないような位置決めであると解することができる。
したがって、長孔形状の位置決め孔34の長さ方向は、位置決め孔33と位置決め孔34とを結ぶ線の方向であると解することができる。

したがって、前記記載(オ)及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。
「一方の部材に2つの位置決めピン(2つとも断面円形のピン)を設けると共に、他方の部材に2つの位置決め孔(一方は丸穴、他方は長孔)を設け、長孔形状の位置決め孔は、2つの位置決め孔(丸穴と長孔)とを結ぶ線方向に伸びた長孔であって、2つの位置決め孔と2つの位置決めピンを係合させることで、2つの部材の位置決めを行う点。」

4.本願補正発明と刊行物1記載の発明との対比
刊行物1記載の発明の「保持部材」は、本願補正発明の「保持基板」に相当しており、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、
「ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に一方面側に振動板を介して前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板と、該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を保持する保持基板とを具備するインクジェット式記録ヘッド。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願補正発明では、保持基板は、当該流路形成基板を「構造的に保持する」と特定されているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

<相違点2>
本願補正発明では、「前記流路形成基板が少なくとも前記保持基板との接合面の周縁部に複数の凹部を有すると共に前記保持基板が前記流路形成基板との接合面に各凹部とそれぞれ係合する複数の係合部を有し、且つ前記複数の凹部には、前記係合部と嵌合する凹部と、一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状を有し前記流路形成基板と前記保持基板とを接合固定する際の加熱による保持基板の変形を吸収する凹部とが含まれる」と特定されているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

5.判断
<相違点1について>
本願補正発明における「構造的に保持する」が、何を意味するかについて検討する。
発明の詳細な説明には、保持基板20と流路形成基板10との接合について、所定の位置で接着固定することが記載されている(段落【0046】、【0064】等の記載を参照)ことから、本願補正発明に記載される「当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板」とは、保持基板が流路形成基板を保持する構造であることを示しているものと解することができる。
他方、刊行物1記載の発明の「流路形成基板」と「保持部材」とは、保持部材が流路形成基板を保持する構造となっている。
してみれば、刊行物1記載の発明の「該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を保持する保持部材」と、本願補正発明の「該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板」とは実質的に相違するものでない。

<相違点2について>
刊行物1の前記記載(ウ)には、「保持部材」と「流路形成基板」との接合を、接着剤により接着することが記載されている。
そして、2つの部材を接着する場合に、それらの部材の相対的な位置決めを行った上で、接合することは技術常識である。
また、刊行物2には、前記したように、位置決め方法として、一方の部材に2つの位置決めピン(2つとも断面円形のピン)を設けると共に、他方の部材に2つの孔(一方は丸穴、他方は長孔)を設けることが記載されている。
してみれば、刊行物1記載の発明における「保持部材」と「流路形成基板」とを接着するに際して、刊行物2に記載されるような位置決め手段を採用することは当業者が容易に想到することである。

そこで、刊行物1記載の発明に、刊行物2に記載の位置決め方法を採用した場合について検討する。
刊行物1記載の発明の「保持部材」と「流路形成基板」のどちらにピン又は孔を設けるかは適宜であって、「流路形成基板」に孔を設け、「保持部材」にピンを設ける場合を容易に想定することができる。
そして、「流路形成基板」に設けられる孔と、「保持部材」に設けられるピンは、位置合わせを行うための部材であるから、それらの孔とピンは、「流路形成基板」と「保持部材」のそれぞれの接合面に形成され、孔とピンはお互いに係合するものとなる。
また、孔を接合面のどこに設けるかも適宜であって、貫通孔の存在しない「周縁部」とすることに困難性はない。
また、「流路形成基板」に設けられる2つの孔を「複数の凹部」といい、「保持部材」に設けられる2つのピンを「複数の係合部」ということができる。

さらに、刊行物1記載の発明に、刊行物2に記載の位置決め方法を採用した場合に、「流路形成基板」に設けられる2つの位置決め孔のうちの一方の長孔が、「前記流路形成基板と前記保持基板とを接合固定する際の加熱による保持基板の変形を吸収する」ものであるかについて以下に検討する。
刊行物1記載の発明の「流路形成基板」と「保持部材」との接着について、接着時に加熱を行うことは、刊行物1には明記されていないものの、刊行物1の段落【0008】に「接着時に熱がかかるので」と記載されているように、2つの部材を接着剤を介して接合し加熱することで接着を行うことは、周知の技術であって、「流路形成基板」と「保持部材」との接着においても該周知の技術を適用することに困難性はない。
そして、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の位置決め方法を採用した構成において、接着時の加熱による熱膨張で、「流路形成基板」と「保持部材」の伸縮は、位置決め孔(丸穴)と位置決めピンとの係合部を中心に生じることになるから、「流路形成基板」と「保持部材」の伸縮方向は、2つの位置決め孔を結んだ線に沿う方向となる。
一方、位置決め孔(長孔)の長さ方向は、前記「3.刊行物」の「(2)」の中で、「・位置決め孔(長孔)の長さ方向について」で検討したように、2つの位置決め孔を結んだ線に沿う方向である。
したがって、熱膨張による「流路形成基板」と「保持部材」の伸縮方向と、位置決め孔(長孔)の長さ方向とは一致することになる。
また、刊行物2の位置決め孔(長孔)は、製造時の精度誤差を吸収するために設けられているのであるから、所望長さよりも長くなる場合と短くなる場合との両方の精度誤差を吸収できるように、位置決めピンを位置決め孔の長さ方向中央に設定することは、当業者が容易に想到することであり、位置決めピンは、位置決め孔(長孔)の長さ方向に対しては両方向に対して自由度を有するものが容易に想定できる。
してみれば、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項を採用した構成において、位置決めピンは位置決め孔(長孔)に対して、加熱時の熱膨張で「流路形成基板」と「保持部材」とが伸縮する方向に自由度を有していることになるのだから、位置決め孔(長孔)は、「流路形成基板」と「保持部材」とを接着する際の加熱による変形を少なくとも吸収する機能を有するといえる。

ところで、本願補正発明でいう「変形を吸収する」とは、全く変形しないことを示しているのか定かではないが、全く変形しない(つまり完全に変形を吸収する)ためには、長孔の長さとしてどの程度必要かということを検討する必要がある。
しかしながら、本願補正発明は、流路形成基板と保持基板の材料や熱膨張係数、また、接着に際しての加熱温度や加熱時間について特定されていないし、長孔の長さとしてどの程度の長さとするかも特定されていない。また、発明の詳細な説明を参照しても、どの程度の長さが必要であるかは記載されておらず不明である。
そこで、技術常識を鑑みると、熱膨張量は部材の材料と温度変化量に依存するのであるから、変形を完全に吸収するための長孔の長さは、部材の材料と温度変化量に応じて設計すべきものであるといえるのであって、長孔の長さをどの程度にするかは、それらの条件に基づいて適宜設計する設計事項といえるものである。

以上のとおりであるから、刊行物1記載の発明の「流路形成基板」と「保持部材」とを位置決めする手段として、刊行物2に記載の位置決め手段を採用して、本願補正発明に係る相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項、周知の技術、技術常識から当業者が予測できる程度のものである。

したがって、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項、周知の技術、技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求の理由の「(c)本願発明と引用発明との対比」において、前記刊行物2(審判請求の理由中の引用文献3)について以下の主張をしている。
「詳細には、引用文献3には、位置決め孔(凹部)の一つを長孔とすることは記載されている。しかしながら、引用文献3に記載の構成は、3枚の基板を接合固定したものであり、位置決め孔は中央の基板に設けられた貫通孔であり、その両側からそれぞれ2つの位置決めピン(凸部)が嵌め込まれる。そして、長孔である位置決め孔は、段落[0024」に記載されているように、位置決め孔に嵌め込まれる2つの位置決めピンとの相対ピッチ誤差を吸収するものである(段落[0024]参照)。すなわち、引用文献3に記載の長孔である位置決め孔は、その両側から位置決めピンが嵌め込まれる場合にのみ有効な構成であり、「各凹部とそれぞれ係合する複数の係合部を有する」構成、すなわち、基板の一方面側のみに開口する凹部に凸部を嵌め込む構成において、「凹部が長溝形状である凹部を含むようにした」本願請求項1に係る発明の構成とは相違するものである。
さらに、本願発明に係る長溝形状の凹部は、流路形成基板と保護基板とを接合固定する際の加熱による保護基板の変形を吸収するものであり、この点については、引用文献3には記載も示唆もされていない。」
しかしながら、刊行物2の段落【0026】に、「また、フレーム部材13の位置決めピン35,36及びスペーサ部材17の位置決めピン37,38は、それぞれ基板11の同一の位置決め孔33,34に両側から挿入する構成とし、したがって嵌合時に相手側のピンに当らない長さに形成している。このように1個の位置決め孔を2つの部材で共用することで、基板11に設ける孔数を減らすことができる。もっとも、各ピン毎に位置決め孔を設ける構成を採用することもできる。」と記載されているように、基板に設ける1個の位置決め孔を2つのピンに兼用することで基板に設ける孔数を減らすことができると記載されているのであるから、1つの位置決め孔と1つのピンとが対応するようにすること(1つの孔を兼用しないものとすること)を示唆するものであると共に、段落【0026】の最後に、「もっとも、各ピン毎に位置決め孔を設ける構成を採用することもできる。」と記載されていることから、「引用文献3に記載の長孔である位置決め孔は、その両側から位置決めピンが嵌め込まれる場合にのみ有効な構成であり、・・・本願請求項1に係る発明の構成とは相違するものである。」との請求人の主張は採用できない。

6.補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成18年5月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年7月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に一方面側に振動板を介して前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板と、該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記流路形成基板が、少なくとも前記保持基板との接合面の周縁部に複数の凹部を有すると共に前記保持基板が、前記流路形成基板との接合面に前記凹部と係合する係合部を有し、且つ前記複数の凹部には、前記係合部と嵌合する凹部と、一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状の凹部とが含まれることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。」

2.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-286134号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。

(カ)「【0015】
【実施例】図1及び図2を参照し、本発明のインクジェットヘッドの一実施例の全体構成について説明する。流路基板1は、インクに対して強く、接着に適したポリサルフォン等の成形品であり、溝状のインク流路1bが刻設され、このインク流路と連通するノズル1aが厚み方向に貫通して穿設してある。図示のように、流路基板1の中央部前面に突出部1cを設け、ノズル1a…をエキシマレーザ加工などにより突出部1cを貫通して穿設する。流路基板1の背面に刻設されノズル1aと実質的に直交して連通するインク流路1bは、複数の加圧室1d…を有しており、、この各加圧室1dと、各ノズル1aおよび後述の各インク供給孔2aとをそれぞれ連通する連通路1e…とインク供給路1f…とから構成されている。
【0016】流路基板1の背後には、インク流路を封止する流路基板蓋である第1の基板2が積層され、両者がシート状接着剤3により接合してある。第1の基板2には、複数のインク供給孔2a…が厚み方向に貫通して穿設してあるもので、インク供給孔2aはエキシマレーザ加工などにより穿設され、上記インク供給路1fに開口している。シート状接着剤3は、例えばゴム系の基材にエポキシ樹脂などを含浸させたシート状のものを用いる。このシート状接着剤3には、予めインク供給孔2aに対応して孔3aが形成してある。
【0017】このように、流路基板1と第1の基板2とはシート状接着剤3により接合してあるので、ノズル1aの近傍のインク流路1eの断面形状を図3に拡大して示すと、インク流路1eの4つの壁面のうち、3つの壁面a,b,cは流路基板1の材料であるポリサルファンで構成されるが、他の1つの壁面dはシート状接着剤3の材料であるゴム系の基材で構成されることになるので、1つの壁面dが弾性率の異なる壁面となる。」

(キ)「【0020】そこで本発明のインクジェッヘッドの製造方法の一実施例について説明する。流路基板1と第1の基板2との間にシート状接着剤3を介在させ、圧力を加えて加熱して両者を接合する。シート状接着剤3は、ゴム系の基材にエポキシ系の接着剤を含浸させたもので、厚さ20?60μmのシート状のものを用いる。
【0021】(1)1例として、シート状接着剤3として厚さ40μmのものを用い、60℃で120時間保持するエージング処理を行った。これによってシート状接着剤3に含浸させた接着剤の流動を抑える。
【0022】(2)第1の基板2の接合面は、表面粗度5μm程度に形成してあり、この面に上記のエージングしたシート状接着剤3を、孔3aとインク供給孔2aとを位置合わせして配置し、15±1.5kg/cm^(2) の圧力を加えつつ150℃に加熱する。これによりシート状接着剤3は半硬化状態となって、第1の基板2に仮止めされることになる。
【0023】(3)この半硬化状態のシート状接着剤3に、流路基板1のインク流路を形成した側の面を位置合わせして対接し、15±1.5kg/cm^(2) の圧力を加えつつ150℃に加熱する。これによりシート状接着剤3は完全に硬化した状態となり、流路基板1と第1の基板2とが接合される。」(当審により、丸中に1?3とあるのを、括弧中に1?3と表記した。)

したがって、前記記載及び図面を含む引用文献1全体の記載から、引用文献1には、以下の発明が開示されていると認められる。
「加圧室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路基板1と、第1の基板2と、第2の基板4とを具備するインクジェットヘッド。」(以下「引用文献1記載の発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-34920号公報(前記の刊行物2であるが、以下では、「引用文献2」ということとする。)の記載事項は、前記「第2.平成18年5月12日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.刊行物」の「(2)」に記載したとおりである。

そして、前記「第2.平成18年5月12日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.刊行物」の「(2)」に記載したとおり、引用文献2には、以下の事項が開示されていると認められる。
「一方の部材に2つの位置決めピン(2つとも断面円形のピン)を設けると共に、他方の部材に2つの位置決め孔(一方は丸穴、他方は長孔)を設け、長孔形状の位置決め孔は、2つの位置決め孔(丸穴と長孔)とを結ぶ線方向に伸びた長孔であって、2つの位置決め孔と2つの位置決めピンを係合させることで、2つの部材の位置決めを行う点。」

3.本願発明と引用文献1記載の発明との対比
a.引用文献1記載の発明の「流路基板1」と「第1の基板2」とによって、ノズルに連通する加圧室が画成されている。そして、それらは接合されるものであるから、それらをまとめて本願発明に倣って「流路形成基板」ということができる。
また、引用文献1に記載の「ノズル」、「加圧室」は、本願発明の「ノズル開口」、「圧力発生室」に相当する。
したがって、引用文献1記載の発明の「加圧室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路基板1と、第1の基板2」は、本願発明の「ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に」、「前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板」に相当する。
b.引用文献1記載の発明の「インクジェットヘッド」は、本願発明の「インクジェット式記録ヘッド」に相当する。
c.引用文献1記載の発明の「第2の基板4」と、本願発明の「保持基板」は、どちらも流路形成基板と接合される部材である点で共通している。

よって、両者は、
「ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されると共に前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる流路形成基板と、該流路形成基板と接合される部材とを具備するインクジェット式記録ヘッド」
である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧電素子が設けられる点について、本願発明では、「一方面側に振動板を介して」とするのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような特定がされていない点。

<相違点2>
流路形成基板と接合される部材について、本願発明では、「該流路形成基板と接合されて当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板」と特定されているのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

<相違点3>
本願発明では、「前記流路形成基板が、少なくとも前記保持基板との接合面の周縁部に複数の凹部を有すると共に前記保持基板が、前記流路形成基板との接合面に前記凹部と係合する係合部を有し、且つ前記複数の凹部には、前記係合部と嵌合する凹部と、一方向の長さが前記係合部の幅よりも長い略長溝形状の凹部とが含まれる」と特定されているのに対して、引用文献1記載の発明では、そのような特定を有しない点。

4.判断
<相違点1について>
まず、本願発明の「一方面側に振動板を介して」の意味について確認する。
発明の詳細な説明の段落【0001】には、「本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し」と記載されていることから、本願発明の「一方面側に振動板を介して」が意味するところは、圧力発生室の一部を振動板で形成し圧力発生室を画成する1つの側面を振動板とすることであると解することができる。
他方、引用文献1には、流路基板1で加圧室を画成し、加圧室を画成する1つの側面の流路基板1の外側に振動板を形成するものが記載されている。
したがって、振動板が圧力発生室を画成する1つの面を形成しているか否かで相違しているといえるが、圧力発生室の一部を振動板で構成することは、例えば特開2000-6399号公報、特開2000-85122号公報等に見られるように周知の技術である。
そして、引用文献1記載の発明において、加圧室を形成し振動板が設けられる流路基板の面に、当該周知の技術を適用することは当業者が容易に想到することであって、本願発明の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2について>
本願発明における「当該流路形成基板を構造的に保持する保持基板」が、何を意味するかについては、「第2.平成18年5月12日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「5.判断」の「<相違点1について>」で検討したように、保持基板が流路形成基板を保持する構造であることを示しているものと解する。
他方、引用文献1記載の発明の「流路基板1」と「第1の基板2」がどのように保持されているかは明記されていないものの、インクジェットヘッドのノズル側は、フレキシブルケーブルによる電気的接続がされるものであるから、それらが「第2の基板4」で保持されるようにすることは当業者であれば容易に想到することである。
してみれば、本願発明の相違点2に係る構成とすることは、引用文献1記載の発明から当業者が容易に想到し得ることである。

<相違点3について>
引用文献1の前記記載(カ)の段落【0024】には、「第1の基板2」と「第2の基板4」とを接合するときに、段落【0023】に記載される工程で接合すればよい旨記載されており、段落【0023】には、加熱及び加圧することで接着することが記載されている。
そして、2つの部材を接着する場合に、それらの部材の相対的な位置決めを行った上で、接合することは技術常識である。

また、引用文献2には、前記したように、位置決め方法として、一方の部材に2つの位置決めピン(2つとも断面円形のピン)を設けると共に、他方の部材に2つの孔(一方は丸穴、他方は長孔)を設けることが記載されている。
そして、引用文献1記載の発明における「第1の基板2」と「第2の基板4」とを位置合わせする際に、引用文献2に記載されるような位置決め手段を採用することは当業者が容易に想到することである。

そこで、引用文献1記載の発明に、引用文献2に記載の位置決め方法を採用した場合について検討する。
引用文献1記載の発明の「第1の基板2」と「第2の基板4」のどちらにピン又は孔を設けるかは適宜であって、「第1の基板2」に孔を設け、「第2の基板4」にピンを設ける場合を容易に想定することができる。
そして、「第1の基板2」に設けられる孔と、「第2の基板4」に設けられるピンは、位置合わせを行うための部材であるから、それらの孔とピンは、「第1の基板2」と「第2の基板4」のそれぞれの接合面に形成され、孔とピンはお互いに係合するものとなる。
また、孔を接合面のどこに設けるかも適宜であって、「周縁部」とすることに困難性はない。
さらに、「第1の基板2」に設けられる2つの孔を「複数の凹部」といい、「第2の基板4」に設けられる2つのピンを「係合部」ということができる。
「第1の基板2」に設けられる2つの位置決め孔のうちの一方の孔は、丸穴であって、「第2の基板4」に設けられるピンに嵌合するものであり、他方の孔は、長孔であって、相対ピッチ誤差を吸収できるように設計されていることから、長孔の長さはピンの幅(断面円形のピンの直径)よりも長いことは明らかである。

以上のとおりであるから、引用文献1記載の発明の「第1の基板2」と「第2の基板4」とを位置決めする手段として、引用文献2に記載の位置決め手段を採用して、本願発明に係る相違点3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の事項、周知の技術及び技術常識から当業者が予測できる程度のものである。

したがって、本願発明は、その出願前に頒布された引用文献1記載の発明、引用文献2記載の事項、周知の技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された引用文献1記載の発明、引用文献2に記載の事項、周知の技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-21 
結審通知日 2008-11-26 
審決日 2008-12-10 
出願番号 特願2000-108275(P2000-108275)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁大仲 雅人  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 江成 克己
菅藤 政明
発明の名称 インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置  
代理人 村中 克年  
代理人 栗原 浩之  

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