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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1191665
審判番号 不服2007-28221  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-15 
確定日 2009-01-28 
事件の表示 特願2001-238414「鏡像異性体ヒドロキシル化キサンチン化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月27日出願公開、特開2002- 87961〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯、本願発明
本願は、平成5年3月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1992年3月4日、米国)を国際出願日とする出願である特願平5-516036号の一部を平成8年2月29日に新たな特許出願とした特願平8-43625号の一部を更に平成13年8月6日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1,2に係る発明は、平成18年6月6日付け及び平成19年11月14日付けの手続補正で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 患者の経口投与、非経口投与、ex vivo投与又は局所投与用に処方された、1-(R)-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン、および薬剤学的に受容される助剤とを含む薬剤組成物であって、自己免疫疾患糖尿病を治療及び予防するための薬剤組成物。」

II.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願優先権主張日前の刊行物である、INFECTION AND IMMUNITY,1988年,Vol.56,No.7,第1722?1729頁(以下、「引用例1」という。)、及び、特開平2-502542号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ図面とともに次の技術事項が記載されている(引用例1は英文であるため訳文を示す)。なお、下線は当審で加筆した。

引用例1
(1-i)「インターロイキン-1や腫瘍壊死因子などの炎症性サイトカインは単球およびマクロファージが微生物や内毒素などの微生物生産物に反応することによって産生される。サイトカインは好中球の付着、脱顆粒、スーパーオキシド産生を促進するが、好中球遊走は阻害する。我々はペントキシフィリンとその主要代謝物によるサイトカイン誘導好中球活性の調節を調査した。炎症性サイトカイン、精製ヒトインターロイキン-1または組み替えヒト腫瘍壊死因子を含むリポ多糖(LPS)刺激単核白血球培地は、ナイロン線維に対する好中球付着を増加し、好中球に対してN-formyl-L-methionyl-L-leucy1-L-phenyla1anine(FMLP)に反応してスーパーオキシド産生を増加させ、FMLPに刺激された好中球リゾチーム放出を増加し、FMLPに対する好中球の有向遊走を減らした。治療上達成できるレベルまたはそれに近いレベルのペントキシフィリンとその主要代謝産物はこれらを打ち消すことができた。ペントキシフィリンはFMLPに刺激された多形核白血球内における自由細胞内カルシウムの増加を阻害し、37℃でFMLPと好中球の結合を増加したが、4℃では増加しなかった。インターロイキン-1および腫瘍壊死因子が好中球に与える炎症作用をブロックすることによって、ペントキシフィリンは、敗血症性ショック、成人呼吸窮迫症候群、心肺バイパス肺損傷、心筋再かん流傷害などのような状況における好中球による組織損傷を緩和するだろう。」(第1722頁のアブストラクトの項参照)
(1-ii)「材料
ペントキシフィリン、代謝産物I[1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン]、代謝産物IV[1-(4-カルボキシブチル)-3,7-ジメチルキサンチン]および代謝産物V[1-(3-カルボキシプロピル)-3,7-ジメチルキサンチン]は、Hoechst-Rousse1 Pharmaceuticals,Inc.,Somerville,N.Jから調達した。」(第1722頁右欄4?8行参照)
(1-iii)「ペントキシフィリン、代謝産物I,IV,V(それぞれ100μg/ml)は、IL-1(150U/ml)が阻害したFMLPに対する有向遊走をそれぞれ2.39±0.11,2.25±0.06,2.26±0.10,2.17±0.10mmに回復した(n=3;P<0.005)。」(第1725頁左欄2?6行参照)

引用例2
(2-i)「(1) 式 ・・構造式略・・ (I)
(式中、R_(1)およびR_(2)は同種または異種であつて、炭素原子2?6個を有する直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、シクロヘキシル、直鎖もしくは分枝鎖アルコキシアルキル、および3-メチル-3-ヒドロキシブチル基、3-メチル-3-ヒドロキシペンチル基もしくは4-メチル-4-ヒドロキシペンチル基以外のヒドロキシアルキル基からなる群より選ばれ、Aは4個までの炭素原子を有する炭化水素基であつて、1個のメチル基で置換されていてもよい)で示される少なくとも1種の7-(オキソアルキル)-1,3-ジアルキルキサンチンのある量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物におけるインターロイキン-1活性、腫瘍壊死因子活性、および他の白血球誘導サイトカインの活性を阻害する方法であり、その投与量はインターロイキン-1(IL-1)活性、腫瘍壊死因子活性、または他の白血球誘導サイトカインの活性の阻害に有効な量とする方法。」(特許請求の範囲の請求項1参照)
(2-ii)「要約すると、本発明の方法に使用される式(I)の化合物は、多形核白血球のような食細胞に対する、インターロイキン-1および腫瘍壊死因子のような白血球誘導サイトカインの作用を調節することができる。これらの化合物は、走化性を実質的に助けることが可能である。さらに、これらの化合物は細胞の付着を遮断できる。これらの化合物は、刺激多形核白血球における呼吸バーストの調節によって明らかなように、食細胞による宿主組織の酸化的障害を低減することができる。最後に、これらの化合物は、刺激された食細胞における脱顆粒に対するサイトカインの作用を調節できる。これらの化合物に明らかにされたIL-1、TNFおよび他のサイトカインの阻害作用は、少なくとも以下の領域および状態における臨床的有効性を示唆するものである。
IL-1、TNFおよび他の白血球誘導サイトカインは、哺乳動物のきわめて広範囲の状態に関係しているので、本発明は同様に広い適用範囲を有する。IL-1、INFおよび他の白血球誘導サイトカインの阻害によって処置または緩和することが可能な状態には、敗血、敗血ショック、内毒素ショック、ダラム陰性菌敗血、毒性ショック症候群、成人呼吸窮迫、感染(すなわちインフルエンザ)による発熱および筋痛、感作または悪性腫瘍に二次的な衰弱、AIDSに二次的な衰弱、慢性関節リウマチ、痛風性関節炎、骨粗髭症、ケロイド形成、瘢痕組織形成、食欲低下、クローン病、潰瘍性大腸炎、中枢神経系の出血による発熱、糸球体腎炎、多発性硬化症、クロイツフエルド・ヤコブ症候群、透析による副作用、糖尿病、および乾癬がある。」(第5頁右下欄17行?第6頁左上欄20行参照)

III.対比、判断
引用例1には、上記摘示の記載からみて、特に、ペントキシフィリンの主要代謝産物である代謝産物Iが「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」(摘示(1-ii)参照)であることに鑑み、そして、ペントキシフィリンとその代謝産物I,IV,Vは、IL-1(インターロイキン-1)が阻害したFMLPに対する有向遊走を回復した旨(摘示(1-iii)参照)が記載されていて、ペントキシフィリンの主要代謝産物である前記「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」について、IL-1活性を阻害する作用があることが明らかである(なお、この点については、請求人は審判請求理由において是認している。)ことを考慮すると、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチンを含むIL-1活性を阻害する薬剤組成物。」

そこで、本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」は、本願発明の「1-(R)-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」の光学異性体としての(R)体を特定していないものであることを勘案すると、両発明は、
『1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチンを含む薬剤組成物。』で一致するが、次の点で相違する。
<相違点>
(A)本願発明では、「患者の経口投与、非経口投与、ex vivo投与又は局所投与用に処方された」及び「薬剤学的に受容される助剤とを含む」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定していない点
(B)薬剤組成物の用途につき、本願発明では、「自己免疫疾患糖尿病を治療または予防するため」と特定しているのに対し、引用例1発明では「IL-1活性を阻害する」としている点
(C)「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」に関し、本願発明では、R体(「1-(R)-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」)と特定しているのに対し、引用例1発明ではそのように特定していない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(A)の点について
薬剤の患者への投与の形態として、経口投与、非経口投与、ex vivo投与又は局所投与用に処方すること、及び、薬剤学的に受容される助剤とを含むことは、通常の使用形態であり当業者が適宜なし得ることである。

(B)の点について
本願発明の「自己免疫疾患糖尿病」については、「IL-1によって媒介される一群の病気」の一つである「インシュリン依存性真性糖尿病」(以下、「IDMM」という。)が該当し(段落【0029】)、該IDMMはランゲルハンス島のβ細胞の破壊による自己免疫疾患である(段落【0034】)との説明がある。
一方、IL-1の抑制により治療あるいは緩和できる症状として糖尿病があることは知られている[引用例2の摘示(2-i)(2-ii)参照;更に、例えば、特開平1-146819号公報(インターロイキン-1を阻害する組成物(請求項1,2)が、若年型糖尿病(I型糖尿病)などの自己免疫疾患の処置のために使用される(第6頁右上欄?左下欄))、特開昭63-258408号公報(IL-1は膵臓のインスリン生産ベータ細胞に対し細胞毒性があるため真性糖尿病の発現に原因的な因子である旨(第4頁左上欄16行?同頁右上欄1行),糖尿病のような症状でIL-1を媒介とする作用を抑制又は処置する旨(第4頁右下欄1?4行)),特開平2-235814号公報(インターロイキン-1は膵臓におけるインシュリン製造のβ細胞に対し細胞毒であり、糖尿病の原因因子である(第2頁左下欄))を参照)]。
してみれば、引用例1発明のIL-1活性を阻害する「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」を、IL-1の抑制により治療あるいは緩和できる症状である「自己免疫疾患糖尿病」の治療または予防のために用いることは、当業者であれば容易に想い到る程度のことであって、その作用の程度を確認することに格別の創意工夫が必要とは認められない。
ところで、本願明細書の記載を検討しても、IL-1によって媒介される一群の病気の一つとして「インシュリン依存性真性糖尿病」が例示され(段落【0029】)、あるいは、「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」を含む置換キサンチン化合物のIDDMの予防及び治療に対する有用性(可能性)について示唆されている(段落【0034】)に過ぎず、「自己免疫疾患糖尿病を治療または予防するため」の剤としての薬理作用については具体的な裏付けがなされていないから、本願発明の作用効果が、引用例1,2の記載の作用効果から予測できないほどの格別顕著なものであるとは認められない。

(C)の点について
次に、「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」に関し、引用例1には鏡像異性体について言及されておらず、「1-(R)-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」とは特定されていないけれども、「5-ヒドロキシヘキシル」の水酸基(-OH)が結合する炭素原子が、不斉炭素であることはその構造式から明白であるから、R体などの鏡像異性体の存在は明らかといえる。
ところで、ある化合物のラセミ体が薬理作用効果を示す場合、それを構成する光学異性体間で薬理作用が異なること、更に薬理作用効果が主として光学異性体の一方に起因している場合があること、他方に好ましくない作用を示す場合があることは周知である(例えば、社団法人日本化学会編「季刊 化学総説 No.6 光学異性体の分離」、1989年10月10日初版、学会出版センター発行、第2?3頁、第16?29頁、第212?225頁や、「ファルマシア」Vol.25,No.4(1989),第333?336頁、「月刊薬事」Vol.29,No.10(1987),第23?26頁など参照)から、ラセミ体であることが明らかである医薬有効成分について、より薬理作用の優れた方の光学異性体を医薬として採用することは、容易に想到し得ることといえる。
してみると、不斉炭素原子を本質的に1つ有し、一対の鏡像異性体が存在することが明らかである「1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン」について、RまたはS鏡像異性体のいずれか薬理作用の強い方を選択し、実質的に他の鏡像異性体を含まない分離されたその鏡像異性体を含有する「自己免疫疾患糖尿病を治療または予防する」ための治療剤とすることは、当業者が容易に為し得る程度のことというべきであり、その際に格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
なお、請求人は、審判請求書において、請求人が平成19年5月14日に意見書に文献(Biochemical and Biophysical Research Communication, 2006, Vol.344, p.1017-1022)を添付した趣旨につき、本願発明に係るR鏡像異性体が自己免疫疾患糖尿病に対し格別顕著な治療効果を発揮するものであるとの有用性を裏付ける証拠として示したものである旨の主張を行っているところ、当該文献は、本願出願後(優先権主張日から14年後)に公表されたものであって、上記対比検討において本願発明の作用効果の予測困難性について裏付けをなすものではないから、上記判断を左右し得るものではない。

よって、本願発明は、引用例2等の周知技術を勘案し引用例1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

IV.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-29 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2001-238414(P2001-238414)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希高原 慎太郎  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 星野 紹英
弘實 謙二
発明の名称 鏡像異性体ヒドロキシル化キサンチン化合物  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
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