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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1191666
審判番号 不服2007-29976  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-05 
確定日 2009-01-28 
事件の表示 特願2006-244113「ビデオの画像コーディング及びイントラコーディングのための暗黙の係数予測及び走査適合化を提供するビデオコーダー」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 1月25日出願公開、特開2007- 20214〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第一 経緯

1.手続
本願は、平成9年9月22日(パリ条約による優先権主張:平成8年9月20日、アメリカ合衆国)の出願(特願平9-257156号)の一部を新たな特許出願とした平成18年9月8日の出願であり、平成19年7月27日付けで拒絶査定された。
本件は、上記拒絶査定を不服とする平成19年11月5日の審判の請求である。

2.査定
原査定の理由は、概略、下記のとおりである。
記(査定の理由)
本願の請求項1から請求項9までに係る発明は、いずれも、下記刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:A.Ploysongsang and K.R.Rao,
「DCT/DPCM Processing of NTSC Composite Video Signal」,
IEEE Transactions on Communications,1982年3月,
Vol.30, No.3,p.541-549
刊行物2:特開昭63-197185号公報
刊行物3:A.N.Netravali and J.O.Limb,
「Picture Coding: A Review」,
Proceedings of the IEEE,1980年3月,
Vol.68, No.3,p.366-406
刊行物4:米国特許第2905756号明細書(査定で引用)

第二 本願発明

本願の請求項1から請求項9までに係る発明は、本願明細書及び図面(平成18年10月6日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1から請求項9までに記載したとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(本願発明ともいう)は下記のとおりのものである。
記(請求項1に係る発明)
画像データのブロックの信号を復号する方法であって、
複数の予測方向うち1方向に関連するパラメータを受信し、
画像データのブロックを、前記パラメータに関連する前記方向にしたがって隣接するブロックから予測された画像データを利用して復号する、
方法。

第三 当審の判断

1.引用刊行物の記載
(1)刊行物1
原査定において引用された上記刊行物1には、「DCT/DPCM Processing of NTSC Composite Video Signal」と題して、以下の記載がある。

(ア)「Abstract-This paper describes two different schemes of DCT/DPCM processing of digital NTSC composite video signal. The first scheme (line processing) is based on applying the discrete cosine transform (DCT) along each horizontal line and then implementing the diffeerential pulse code modulation (DPCM) in the vertical direction on the semitransformed image. The second scheme (block processing) involves DCT of (4x4) subblocks followed by adaptive DPCM to reduce intersubblock correlation. Based on the statistics of the prediction error, variable bit quantizers optimized for minimizing the mean-square quantization error are developed. These techniques lead to reduced bit rates for transmitting the color video at broadcast standards. Both original and processed color images in composite form are displayed for subjective evaluation. The effects of channel error on block processing are also investigated.」(541頁右欄、アブストラクト)
「アブストラクト-この文献は、デジタルNTSC複合映像信号のDCT/DPCM処理方法について2つの異なるスキームを記述する。第1のスキーム(ライン処理)は、各水平走査線に沿って離散余弦変換(DCT)を適用し、その後、半変換された画像の垂直方向に差分パルス符号変調(DPCM)を実行することを基本とする。第2のスキーム(ブロック処理)は、サブブロック(4×4)のDCTを含み、これに続き、適応DPCMがなされ、サブブロック間の相関が低減される。予測誤差の統計に基づいて、平均自乗量子化誤差が最小化されるよう最適化された可変ビット量子化器が開発された。これらのテクニックは標準放送でのカラー映像を伝送するビットレートを低減させる。複合形式のカラー画像の原画像と処理済み画像とが主観的評価のために表示される。ブロック処理におけるチャンネル誤差の効果もまた、検証される。」
(イ)「The object of this paper is to implement a hybrid scheme called DCT/DPCM on broadcast quality composite (color) video (on an intrafield basis) with a view to reduce the bandwidth requirements for transmitting the digitized TV signal with negligible impairments in the reconstructed images over a T3 carrier (44.7 Mbits/s) with allowances made for voice and data. Two techniques in the hybrid scheme have been simulated. The first scheme (line processing)consists of DCT in the horizontal direction followed by DPCM in the vertical direction. The second scheme (block processing) involves 1D-DCT [13] of a sequence resluting from a lexicographic arrangement of a (4X4) subblock and intersubblock decorrelation by adaptive DPCM.」(541頁右欄、項目「INTRODUCTION」の13行?25行)
「この文献の目的は、音声やデータにも役立つように許容されたT3搬送(44.7Mbits/s)上で、再構築した画像の欠陥が無視できる程度にデジタルTV信号を伝送するために必要とされる帯域を減少するとの観点から、放送品質の複合(カラー)映像信号(イントラフィールドのベース)に対するハイブリッド・スキーム(DCT/DPCMと呼ぶ)を実施に移すことにある。
ハイブリッド・スキームについて2つのテクニックをシミュレートした。第1のスキーム(ライン処理)は、水平方向のDCTとそれに続く垂直方向のDPCMからなる。第2のスキーム(ブロック処理)は、サブブロック(4×4)の辞書編集的配列とサブブロック間の適応PCMによるサブブロック間の相関低減の結果得られるシーケンスの1次元DCTを含む。」
(ウ)「Video data
In the NTSC composite analog video signal sent through the channel, there are synchronization pulses, color burst, equalizing pulses, blanking intervals, etc., in addition to the chrominance and luminance signals which contain the picture information [14]. Only the latter is processed for digital transmission as the rest can be regenerated at the seceiver. The composite signal is sampled at 3fsc=10.7MHz(fsc=color subcarrier frequency) and is digitized as 8 bit PCM. Each frame consists of two fields and each field has 256 lines. There are 512 samples/line which represent the visible portion of the image. The pictures chosen for simultion are 1) lady: head and shoulders; 2) newscaster with news slide in the backgound; 3) Fred and Wilma Flintstone; and 4) an interviewer with a crowd in the background.」(542頁左欄14行?28行)
「ビデオデータ
チャネルを通して送られるNTSCの複合アナログ映像信号には、画像情報を含む色信号、輝度信号に加えて、同期パルス、カラーバースト、等価パルス、ブランキング期間などが存在する。前者(注:色信号、輝度信号)だけがデジタル伝送のために処理され、残りは、受信側で再生成される。複合信号は3fsc=10.7MHz(fsc=色副搬送波周波数)でサンプリングされ、8ビットPCMでデジタル化される。各フレームは2つのフィールドからなり、各フィールドは256本の走査線を持つ。1走査線は512サンプルであり、映像の可視部分を表現する。シミュレーションのために選ばれた画像は、1)婦人:頭部と肩部、2)ニューススライドを背景とするニュースキャスタ、3)Fred とWilma Flintstone、4)群衆を背景とするインタビューア、である。」
(エ)「Block Processing
To overcome the disadvantages of line processing, block processing is developed. In this processing the digitized data are arranged in block formation with each block consisting of four horizontal lines and 12 pixels/line (Fig.3). This will give a roughly square shaped block. Each block is partitioned into three subblocks. Each subblock contains 16 samples (4X4) having the same subcarrier phase (Fig.4). The data in each subblock are then rearranged to be one-dimensional (1D) by lexicographic ordering. 1D-DCT of these three rearranged data sets in the block is performed. The first DCT coefficient (average intensity) of the subblock being processed is compared with those of the neghboring subblocks of the same subcarrier phase. These neighboring subblocks are the processed subblocks in the west, northwest, north, and northeast directions (Fig. 5). Among these four neighbors, the subblock whose first DCT coefficient is closest to that of the subblock under prediction is considered to have the maximum correlation. DPCM between these two subblocks in the DCT domain is then appllied. On the receiver side, reverse operations such as inverse DPCM and inverse DCT are applied for reconstructing the images.」(542頁右欄24行?544頁左欄8行)
「ブロック処理
ライン処理方法の欠点を克服するために、ブロック処理方法が開発された。この処理方法では、デジタルデータは、ブロック構成(4走査線と各走査線あたり12ピクセルからなる)に配列される。これは、おおよそ正方形のブロックである。各ブロックは3つのサブブロックに分けられる。各サブブロックは、副搬送波の位相が同一である16サンプル(4×4)からなる(図4)。各サブブロックのデータは、編集順序に従って、1次元(1D)に再配列される。ブロックのこれら3つの再配列されたデータ組の1D-DCTが実行される。処理中のサブブロックの第1DCT係数(平均強度)は、副搬送波の位相が同一であるサブブロックのうち隣接するサブブロックのこれら(注:第1DCT係数)と比較される。これら隣接するサブブロックは、西方向、北西方向、北方向および北東方向にある既に処理を終えたサブブロックである(図5)。これら4つの隣接するサブブロックのうちで、その第1DCT係数が処理中のサブブロックの第1DCT係数に最も近い係数を持つサブブロックが、予測において、最大の相関性を有していると見なされる。そこで、これら2つのサブブロックの間で、DCT空間で,DPCMが適用される。受信側では、画像の再構築のために、逆DPCMや逆DCTのような逆の操作が適用される。」
(オ)「Bit and Region Classification
Due To the nature of the block processing, transmission bits from the coder can be divided as 1)directional bits, 2)preword bits, and 3)word bits. Directional bits are those that indicate the direction(Fig.5)that has been chosen. Preword bits are those that indicate whether the prediction errors are inside the α region or not, whereas the word bits are the coded values of the quantized prediction errors.」(546頁右欄7行?14行)
「ビットと領域分類
ブロック処理方法の性質上、符号化器から伝送されるビットは、1)方向ビット、2)プリワードビット、3)ワードビットに分けられる。方向ビットは、選択された方向(図5)を示すビットである。プリワードビットは、予測誤差がα領域内にあるか否かを示すものであり、他方、ワードビットは、量子化された予測誤差のコード化値である。」

(2)刊行物3
同じく原査定において引用された上記刊行物3には、「Picture Coding:A Review」と題して、以下の記載がある。
(カ)「The set of predictors from which a predictor is selected are usually linear and are chosen such that each one of them will give small prediction error if the signal was correlated in a certain manner.」(382頁右欄18行?21行)
「選択される予測子の組は、通常線形であり、信号が特定の態様で相関しているとき、小さい予測誤差を与えるように選定される。」
(キ)「Examples of this type of approach are the predictors used by Graham[93],Zschunke[94],and Dunkhovich and O'Neal[95]. In Graham's predictor,either the previous line or the previous element is used for prediction,and the switching is done by the surrounding line and element differences as shown in Fig.28. Several extensions have been made of this basic philosophy.」(382頁右欄21行?28行)
「このタイプのアプローチの例は、Graham(グラハム)、Zschunke、並びにDunkhovich 及びO'Nealにより用いられている予測子である。グラハムの予測子では、以前の走査線か以前の要素が予測に使われ、そして、図28に示されるように、周辺の走査線と要素の差分によって切り換えられる。いくつかの拡張がこの基本的考えのもとでなされている。」
(ク)「The same calculation can be performed at the receiver and, therefore, the predictor switching information does not need to be transmitted.」(382頁右欄41行?43行)
「同じ計算が受信側で行われる。そのため、予測子を切り替える情報は伝送される必要はない。」
(ケ)図28には、「適応予測のためのグラハムルール」と題して、以前の走査線、現在の走査線、各走査線上の要素A、B、C、Xが示され、Xに対する予測子を、「|B-C|≦|A-C|」のときにAとし、それ以外のときにBとすることが記載されている。

2.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると以下の対応が認められる。

(a)複数の予測方向のうち1方向に関連するパラメータ
刊行物1では、処理中のサブブロックに隣接する複数の方向(4つ;西、北西、北および北東)にある既に処理を終えたサブブロックの中で、処理中のサブブロックに対して最大の相関性を有するサブブロックを特定する。その後、この最大の相関性を有するサブブロックと処理中のサブブロックとの間で「DPCM」が適用される(記載エ)。ここで、「DPCM」とは、「differential pulse code modulation DPCM)」(差分パルス符号変調DPCM)」(記載ア)のことであり、サブブロックの間の「差分(differential)」(記載ア)に基づくものである。
そして、この最大の相関性を有するサブブロックを示す情報(方向)が「方向ビット」として符号化器から伝送される(記載オ)。この「方向ビット」は、受信側で適用される「画像の再構築のために、逆DPCMや逆DCTのような逆の操作」(記載エ)において、最大の相関性を有するサブブロックを特定するために使用される。「方向ビット」により特定された最大の相関性を有するサブブロックは、逆DPCMにおける予測データとして「差分」と加算される。
刊行物1の「方向ビット」は本願発明の「複数の予測方向のうちの1方向に関連するパラメータ」に相当する。
(b)パラメータの受信
刊行物1の「方向ビット」は符号化器から伝送され受信側で「受信」される。
本願発明と刊行物1とは「複数の予測方向うち1方向に関連するパラメータを受信し、」とする点において一致する。
もっとも、複数の予測方向の数につき、本願発明はこれを「2方向」とするのに対して、刊行物1では「4方向」である。相違が認められる。
(c)予測された画像データを利用した復号
刊行物1では、受信側で適用される「画像の再構築のために、逆DPCMや逆DCTのような逆の操作」において、逆DPCMの際に、伝送された「方向ビット」により示される方向にあるサブブロック(最大の相関性を有するサブブロック)を予測データとして利用することは、前記のとおりである。
刊行物1に「サブブロック」を本願発明の「ブロック」に対応させると、刊行物1の「画像の再構築」は、本願発明にいう「画像データのブロックを、パラメータに関連する方向にしたがって隣接するブロックから予測された画像データを利用して復号する」に相当し、延いて、本願発明にいう「画像データのブロックの信号を復号する方法」にも相当する。

3.一致点・相違点
本願発明と刊行物1記載の発明との一致点および相違点は下記のとおりである。
記(一致点)
画像データのブロックの信号を復号する方法であって、
複数の予測方向うち1方向に関連するパラメータを受信し、
画像データのブロックを、パラメータに関連する方向にしたがって隣接するブロックから予測された画像データを利用して復号する、
方法。
記(相違点)
複数の予測方向の数が
本願発明では「2方向」であるのに対して、刊行物1では「4方向」である点。

4.相違点の判断
〈相違点について〉
(a)周知技術
画像の符号化の技術分野では、符号量を減らすために、予測符号化(predicting(predictitive)coding)が一般的であり、複数の予測子(predictor)の組の中から1つの予測子を選択する方法が採用されている(例えば、記載カが参照される)。
その方法の1つとして、「Graham's rule(method)」(グラハム法)が広く知られているところ(例えば、記載キ、ケや刊行物4が参照される)、グラハム法は、刊行物3によれば、注目画素Xの左側の画素Aの値と左上方の画素Cの値との差分絶対値(|A-C|)と、上方の画素Bの値と左上方の画素Cの値との差分絶対値(|B-C|)とを比較し、その大小関係によって、注目画素Xに対する予測子をその左側の画素Aとするか上方の画素Bとするかを決定する予測手法である。すなわち、複数の予測子(2つ)の中から1つの予測子を選択するものである。
以上によれば、2つの予測子の中から1つの予測子を選択する予測符号化は周知であることが認められる。
(b)小括
上記相違点に係る構成は、刊行物1において、その4つの方向につき、上記周知の事項を参照することにより、当業者が容易になし得ることであると認められる。
〈効果等について〉
本願発明の効果も、刊行物1の記載及び上記周知の事項から予測することができる程度のものにすぎない。

5.まとめ
以上、本願発明は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.予備的検討
(a)本願発明の「複数の予測方向うち1方向に関連するパラメータ」は本願の実施例においてはその「hor/vert信号」に相当するところ、本願明細書には「DC係数予測400は同様に、水平又は垂直のいずれの予測が使用されているかを識別するhor/vert信号420をも生成する。」(段落0034)とも記載されている。
この記載に従い、仮に、本願発明の「パラメータを受信し」が「(受信側で)パラメータを生成する」場合を含むとしても、本願発明は刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする結論に変わりはない。すなわち、
(b)画像の符号化の技術分野で、複数の予測子の組の中から1つの予測子を選択する予測符号化が周知の事項であることは前記のとおりであるところ、この予測符号化は、予測子の選択に係る情報(予測子を特定する情報)を伝送することなく復号側で生成する態様を含むことが認められる(記載ク)。
本願発明の「パラメータを受信し」が「パラメータを生成する」を含むとした場合における相違点の部分(受信、生成)については、刊行物1において、上記周知の事項における上記態様を採用することより、当業者が容易になし得ることであると認められるからである。

第四 むすび

以上、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項2から請求項9までに係る発明について特に検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2008-08-18 
結審通知日 2008-08-19 
審決日 2008-09-08 
出願番号 特願2006-244113(P2006-244113)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國分 直樹  
特許庁審判長 新宮 佳典
特許庁審判官 乾 雅浩
岩井 健二
発明の名称 ビデオの画像コーディング及びイントラコーディングのための暗黙の係数予測及び走査適合化を提供するビデオコーダー  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  

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