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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1191701
審判番号 不服2006-6612  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-07 
確定日 2009-01-26 
事件の表示 平成 9年特許願第135831号「積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月17日出願公開、特開平10-305535〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成9年5月9日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成17年12月13日付け 拒絶理由通知
平成18年2月13日 意見書
平成18年2月28日付け 拒絶査定
平成18年4月7日 審判請求書
平成18年7月6日 手続補正書(方式)

第2 本願発明について
本願の請求項1?6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される下記のものである(以下、順に、「本願発明1」?「本願発明6」といい、併せて「本願発明」という。)。

「【請求項1】 ホウ素化合物を含有したエチレン含有量20?60モル%,ケン化度90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を塩化ビニル樹脂組成物層に積層した後、該塩化ビニル樹脂組成物層を加熱発泡させてなることを特徴とする積層体。
【請求項2】 170?260℃で加熱発泡させてなることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】 ホウ素化合物の含有量がエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物100重量部に対して、0.001?0.5重量部であることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】 エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物が溶液コーティング法、押出コーティング法、ドライラミネート法のいずれかの方法で積層されてなることを特徴とする請求項1?3いずれか記載の積層体。
【請求項5】 塩化ビニル樹脂組成物層が該塩化ビニル樹脂100重量部に対して、30?150重量部の充填剤を含有してなることを特徴とする請求項1?4いずれか記載の積層体。
【請求項6】 化粧材または壁紙に用いることを特徴とする請求項1?5いずれか記載の積層体。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。

1.特開平07-112502号公報(原査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)
2.特開平09-085921号公報(原査定における引用文献2。)
3.特開平07-233293号公報(原査定における引用文献3。以下、「刊行物2」という。)
4.特開平08-311276号公報(原査定における引用文献4。以下、「刊行物3」という。)


第4 各刊行物に記載された事項
1 刊行物1
本願の出願前である平成7年2月10日に頒布された刊行物である刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【実施例1】壁紙用の原紙(坪量75g/m^(2) の難燃紙)に
塗料として PVC(重合度900) 100重量部
DOP 55重量部
発泡剤(ADCA系) 4重量部
安定剤(Ba-Zn 複合系) 2重量部
充填剤(炭酸カルシウム) 20重量部
着色剤 適量
からなる配合のものを用いて、ロータリースクリーンにて織物無地柄を印刷塗布(付着量250g/m^(2) )した後、温度160°Cにて発泡を抑えて乾燥させてから、ウレタン系接着剤を10g/m^(2)塗布したエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム(商品名エバール15μ厚)を160°C、1.5Kg/cm^(2)圧にて表面に接着した。後、温度200°Cにて塗布した発泡塩化ビニル塗料を2分間加熱発泡して、表面全体がエバールフィルムにて完全に密着状態で覆われた発泡壁紙を得た。」(段落【0009】)

(1b)「以上実施例と比較例からも明らかな通り、従来の発泡壁紙の特徴を活かした儘欠点であった表面の傷つき易さなどの強度を改善し、且つ汚れがつきずらいだけでなく、万一汚した場合にも容易に拭き取りが可能な、優れた壁紙を提供するものである。」(段落【0014】)

2 刊行物2
本願の出願前である平成7年9月5日に頒布された刊行物である刊行物2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「エチレン含有量が20?60モル%で、ケン化度が90モル%以上、かつ融点(Tm)が下式(I)を満足するエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物、ホウ酸、及び水と炭素数1?4の低級アルコールの混合溶媒からなり、ホウ酸の配合量がエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物100重量部に対して0.05?50重量部であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物溶液。…」(請求項1)

(2b)「本発明は、エチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する。)溶液に関し、更に詳しくは、基材との接着性に優れたEVOH溶液及びそのコーティング積層体に関するものである。」(段落【0001】)

(2c)「本発明で用いるEVOHは、エチレン含有量が20?60モル%、好ましくは25?55モル%、更に好ましくは27?50モル%、酢酸ビニル成分のケン化度90モル%以上、好ましくは95モル%以上でなければならない。エチレン含有量が20モル%未満では高湿時のガスバリヤー性が低下し、一方60モル%を越えると充分なガスバリヤー性や印刷適性等の塗膜物性等が劣化する。又、ケン化度が90モル%未満ではガスバリヤー性や耐湿性が低下する。」(段落【0010】)

(2d)「本発明では、上記の如く得られたEVOHあるいはEVOH溶液と、ホウ酸と、水と炭素数1?4の低級アルコールとの混合溶媒とが混合され、該ホウ酸の配合量はEVOH100重量部に対して0.05?50重量部、好ましくは0.05?20重量部、更に好ましくは0.1?10重量部である。かかるホウ酸の配合量が0.05重量部未満では基材との接着力が不十分となり、一方50重量部を越えると溶液がゲル化し、塗工困難となり、本発明の効果が得られない。」(段落【0019】)

(2e)「本発明においてEVOHが塗布される基材としては特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン等の各種プラスチックの延伸あるいは未延伸フィルム、シート、中空容器あるいは紙、セロファン、セルロース、セルローズアセテート、天然ゴム、合成ゴム、金属等が挙げられる。かかる基材の膜厚は10?1000μ程度が適当である。」(段落【0023】)

(2f)「各種基材にEVOH溶液をコーティングした積層体は食品、飲料、薬品、医薬、電機部品、機械部品等の包装用あるいは容器用、又暖房用パイプ用、壁紙用等の各種用途として有用である。」(段落【0027】)

3 刊行物3
本願の出願前である平成8年11月26日に頒布された刊行物である刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「差動走査熱量計により測定される吸熱ピークを示す融解曲線において、全面積(全熱量)が45J/g以上で、かつ、150℃以上の面積(熱量)が55J/g以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物樹脂組成物。」(請求項1)

(3b)「更に、ホウ素化合物、銅化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有してなることを特徴とする請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物樹脂組成物。」(請求項2)

(3c)「請求項1?4いずれか記載のエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物樹脂組成物からなる層の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を積層してなることを特徴とする多層構造体。」(請求項5)

(3d)「用いるEVOHとしては、特に制限されないが、いずれもエチレン含有量が20?60モル%、好ましくは25?50モル%、更に好ましくは27?45モル%で、ケン化度96モル%以上であることが望ましい。エチレン含有量が20モル%未満では高湿時のガスバリヤー性、溶融成形性が低下し、60モル%を越えると充分なガスバリヤー性が得られない。又、ケン化度が96モル%未満ではガスバリヤー性や、熱安定性、耐湿性が低下する。」(段落【0010】)

(3e)「該EVOH樹脂組成物に、更にホウ素化合物、銅化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有させることで、更に延伸性が向上し、フィルム製膜時の厚み精度が向上しスジの発生がなく、延伸時の延伸ムラのないフィルムが得られるのである。」(段落【0015】)

(3f)「該多層構造体を製造するに当たっては、本発明で得られた樹脂組成物の層の片面又は両面に他の基材を積層するのであるが、積層方法としては、例えば該樹脂組成物のフィルム、シートに熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、逆に熱可塑性樹脂等の基材に該樹脂組成物を溶融押出する方法、該樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、更には本発明で得られた樹脂組成物のフィルム、シートと他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。」(段落【0020】)

(3g)「共押出の場合の相手側樹脂としては…ポリ塩化ビニリデン、…等が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物も共押出可能である。」(段落【0021】)

(3h)「本発明のEVOH樹脂組成物は、差動走査熱量計で測定される特定の融解曲線を示すものよりなるため、ガスバリヤー性、透明性は勿論のこと、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との積層に供した時に、破断、ピンホール、クラック、延伸ムラなどの生じない延伸性に優れたフィルム、シート等を得ることができる。」(段落【0028】)


第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘記(1a)には、実施例として、発泡壁紙の具体的な製造方法が記載されているところ、「壁紙用の原紙に、塗料としてPVC、DOP、発泡剤(ADCA系)、安定剤(Ba-Zn 複合系)、充填剤(炭酸カルシウム)、着色剤適量からなる配合のものを用いて印刷塗布した後、発泡を抑えて乾燥させてから、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルムを表面に接着した後、発泡塩化ビニル塗料を加熱発泡して得た、表面全体がエバールフィルムにて完全に密着状態で覆われた発泡壁紙」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。


2 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「PVC」は「ポリ塩化ビニル樹脂」であり、「塗料としてPVC、DOP、発泡剤(ADCA系)、安定剤(Ba-Zn 複合系)、充填剤(炭酸カルシウム)、着色剤適量からなる配合のもの」は、「ポリ塩化ビニル樹脂」にDOPや発泡剤等を配合した組成物になっているから、本願発明1の「塩化ビニル樹脂組成物」に相当する。
引用発明1の「発泡壁紙」は、「発泡塩化ビニル塗料を加熱発泡」させた層と、「エバールフィルム」すなわち「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム」からなる層の2つの層を有することから「積層体」であるといえる。
また、引用発明1においては、「PVC」組成物を「印刷塗布した後、発泡を抑えて乾燥させてから、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルムを表面に接着した後、発泡塩化ビニル塗料を加熱発泡して」いることから、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物フィルム」を「ポリ塩化ビニル樹脂」組成物層に積層した後、「ポリ塩化ビニル樹脂」組成物層を加熱発泡させているといえる。

したがって、本願発明1と引用発明1とを対比すると、
「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を塩化ビニル樹脂組成物層に積層した後、該塩化ビニル樹脂組成物層を加熱発泡させてなることを特徴とする積層体」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(i)「エチレン-酢酸ビニル共重合体」について、本願発明1では、「エチレン含有量20?60モル%,ケン化度90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物」を用いるのに対し、引用発明1では、「エチレン-酢酸ビニル共重合体」の「エチレン含有量」、「ケン化度」を特定していない点

(ii)「エチレン-酢酸ビニル共重合体」について、本願発明1では、「ホウ素化合物」を含有しているのに対し、引用発明1では、「ホウ素化合物」を含有していない点

イ 判断
(ア)相違点(i)について
刊行物2の上記摘記事項(2b)、(2c)、(2e)及び刊行物(3c)、(3d)、(3g)には、塩化ビニル樹脂の基材とEVOHとの積層体において、ガスバリヤー性の向上、良好な耐湿性、熱安定性、成形性を目的として、EVOHとして、エチレン含有量が20?60モル%、酢酸ビニル成分のケン化度90モル%以上とすることが記載されており、さらに、刊行物2の上記摘記事項(2f)には、基材とEVOHの積層体を壁紙として用いることが記載されている。
そして、壁紙等に用いる積層体の材料として、良好な耐湿性、熱安定性等を有することは一般的に要求される事項であるといえるから、引用発明1において、「エチレン-酢酸ビニル共重合体」として、「エチレン含有量20?60モル%,ケン化度90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物」のものを用いることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(イ)相違点(ii)について
刊行物2の上記摘記事項(2d)及び刊行物3の上記摘記事項(3e)には、EVOH組成物に、接着性や延伸性の向上を目的として、ホウ素化合物を含有させることが記載されており、また、刊行物2の上記摘記事項(2f)には、基材とEVOHの積層体を壁紙として用いることが記載されている。
そして、壁紙等に用いる積層体において、積層材料間の良好な接着性等は一般的に要求される事項であるといえるから、引用発明1において、「エチレン-酢酸ビニル共重合体」にホウ素化合物を含有させることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(ウ)本願発明1の効果について
本願発明1の効果は、本願明細書の段落【0035】の「本発明の積層体は、ホウ素化合物含有EVOHを塩化ビニル樹脂組成物層に積層した後、該塩化ビニル樹脂組成物層を加熱発泡させて得られるため、塩化ビニル樹脂組成物層の発泡性が良好で、かつかかる発泡した塩化ビニル樹脂組成物表面へのEVOH層の追従性にも優れ、耐防汚性(汚染除去性)や耐可塑剤移行性にも優れ…」の記載からみて、(a)発泡性、(b)塩化ビニル樹脂組成物表面へのEVOH層の追従性、(c)耐防汚性(汚染除去性)、(d)耐可塑剤移行性に優れることであると認められる。
まず、「(b)塩化ビニル樹脂組成物表面へのEVOH層の追従性」の効果について、本願明細書の段落【0022】には、「発泡追従性」について「得られた積層体の該EVOH表面にヨウ素を塗布してEVOHを呈色させて、EVOH層の連続性を目視観察して、以下のとおり評価した。 ○ --- 完全にEVOH層の連続性が確認された。…」旨記載されている。引用発明1の発泡壁紙は、「表面全体がエバールフィルムにて完全に密着状態で覆われた」ものであるから、「エバールフィルム」層が「発泡塩化ビニル塗料」層の表面に対して連続性を有しながら、追従していると認められる。さらに、本願明細書の段落【0022】の「EVOH層」が「連続性」を有するためには、EVOH層と塩化ビニル樹脂組成物層との接着性が良好で、EVOH層が塩化ビニル樹脂組成物層の発泡に伴って追従できる延伸性が必要であると認められるところ、刊行物2の上記摘記事項(2d)及び刊行物3の上記摘記事項(3e)には、EVOH組成物にホウ素化合物を含有させることにより接着性や延伸性が向上することが開示されているから、この効果は格別顕著なものであるとは認められれない。
「(c)耐防汚性(汚染除去性)」の効果について、本願明細書の段落【0024】には「積層体の該EVOH層表面に約70℃のホットコーヒーを直径2cm程度の大きさに塗布あるいは滴下し、40℃で24時間放置後に水を含ませたさらし木綿で拭き取った後の積層体の表面状態を目視により以下の通り評価した。…水性マジック(市販の洗剤(マジックリン)で拭き取った)についても同様に評価した。 ○ --- 完全に拭き取れて汚染の痕跡が認められない」旨記載されている。他方、引用発明1の効果である、刊行物1の【0013】の実施例1の性能評価の結果をみると、「耐汚染性(マジックインキ)」及び「耐汚染性(コーヒー)」の評価、すなわち、「耐汚染性(マジックインキ):表面を油性のマジックインキにて汚染して24時間経過後、ベンジンを染み込ませた布で拭き取った結果」及び「耐汚染性(コーヒー)表面にコーヒーをこぼし24時間経過後、湿布にて拭き取った結果」とも「◎異常なし」となっており、「完全に拭き取れて汚染の痕跡が認められない」状態になっていると認められるから、本願発明1の効果が引用発明1の効果に比べて格別なものであるとはいえない。
また、「(a)発泡性」の効果について、本願明細書の【0023】には、「得られた積層体の断面を光学顕微鏡にて、発泡状態を目視観察すると同時に表面状態も目視観察して、以下のとおり評価した。 ○ --- 発泡セルは均一に分布し、発泡セルの大きさも均一で、かつ表面にも均一な発泡状態が認められた。 △ --- 発泡セルの大きさには多少ばらつきは認められるものの、表面には均一な発泡状態が認められた」旨記載されており、本願明細書の段落【0034】の表1からみて、ホウ素化合物を含む実施例1とホウ素化合物を含まない比較例1との差は、ホウ素化合物を含まない比較例1では「発泡セルの大きさには多少ばらつきは認められる」程度の差であり比較例1においても表面には均一な発泡状態が認められた」のであるから、格別顕著な効果であるとは認められない。
さらに、「(d)耐可塑剤移行性」の効果について、本願明細書の段落【0003】の「ただ単に塩化ビニル樹脂組成物層に積層しただけでは、該塩化ビニル樹脂組成物層の発泡時に折角のEVOH層が破断等を起こして、可塑剤抑制性能に低下を来す恐れがあり…」の記載からみて、可塑剤抑制性能はEVOH層が破断等を起こすことにより低下するものと認められるところ、上記の「(b)塩化ビニル樹脂組成物表面へのEVOH層の追従性」の効果のところで検討したように、引用発明1の発泡壁紙も「エバールフィルム」層が「発泡塩化ビニル塗料」層の表面に対して連続性を有しながら追従しており、破断等は起きておらず可塑剤抑制性能の低下はないと認められる。さらに、刊行物2の上記摘記事項(2d)及び刊行物3の上記摘記事項(3e)からみて、EVOH組成物にホウ素化合物を含有させることにより接着性や延伸性が向上して、「(b)塩化ビニル樹脂組成物表面へのEVOH層の追従性」が向上することにより破断等が起こりにくくなると認められるから、「(d)耐可塑剤移行性」の効果も格別顕著なものであるとは認められれない。

(2)請求人の主張について
請求人は、平成18年4月7日付け審判請求書についての平成18年7月6日付け手続補正書において、「本願発明ではホウ素化合物を含有するEVOHを用いているのに対し、引用文献1(刊行物1)…記載の発明に用いられるEVOHもホウ素化合物を含有したものではなく、両者は明らかに構成要件の異なる発明である」こと、「本願発明の積層体が、EVOH層と塩化ビニル樹脂層とを積層し、その後、塩化ビニル樹脂層を発泡させてなる発泡積層体であるのに対し、引用文献3(刊行物2)および引用文献4(刊行物3)にはかかる記載はなく、本願発明の目的である塩化ビニル樹脂層の発泡性や、かかる発泡に対するEVOH層の追従性についての記載も示唆もされていない」旨主張している。
しかしながら、上記2(1)イ(イ)で検討したとおり、EVOH層と塩化ビニル樹脂層とを積層し、その後塩化ビニル樹脂層を発泡させてなる発泡積層体の発明である引用発明1において、「エチレン-酢酸ビニル共重合体」にホウ素化合物を含有させることは当業者が容易に想到し得たことといえるから、この主張を採用することはできない。
また、請求人は、同手続補正書において、「引用文献1(刊行物1)…に記載されたEVOH層と塩化ビニル樹脂層を積層した後、塩化ビニル樹脂層を発泡させて得られる発泡積層体に用いられるEVOHとして、引用文献3(刊行物2)および引用文献4(刊行物3)に記載の接着性と延伸性に優れたホウ酸含有EVOHを用いたとしても、積層後に塩化ビニル樹脂層側の状態が大きく変化する本願発明の発泡積層体において、その発泡を阻害せず、発泡前後の接着性が良好に保持されるか否かは、当業者にとっても予測不可能である」旨主張している。
しかしながら、上記2(1)イ(ウ)で検討したとおり、引用発明1の発泡壁紙も、「表面全体がエバールフィルムにて完全に密着状態で覆われた」ものであり「エバールフィルム」層が「発泡塩化ビニル塗料」層の表面に対して良好に追従し、接着していると認められる。さらに、刊行物2の上記摘記事項(2d)のEVOH組成物にホウ素化合物を含有させることにより接着性が向上することに加えて、刊行物3の上記摘記事項(3e)には延伸性も向上することも開示されているから、引用発明1の「エバールフィルム」に「ホウ素化合物」を含有させることにより、発泡前後の接着性が良好に保持されることは当業者が予測できる範囲内の効果であると認められる。


3 まとめ
したがって、本願発明1は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-25 
結審通知日 2008-11-27 
審決日 2008-12-10 
出願番号 特願平9-135831
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
杉江 渉
発明の名称 積層体  

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