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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B01J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J |
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管理番号 | 1191886 |
審判番号 | 不服2006-15909 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-24 |
確定日 | 2009-02-04 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第 12751号「リーンバーンエンジンからの排気ガスを浄化するための触媒および浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年10月11日出願公開、特開平 6-285371〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成6年2月4日(優先日、平成5年2月4日)の出願であって、平成18年3月3日に手続補正書が提出され、同年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月21日に手続補正書が提出されたものである。 2.平成18年8月21日付けの手続補正についての補正却下の決定 2-1.補正却下の結論 平成18年8月21日付けの手続補正を却下する。 2-2.理由 平成18年8月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により特許請求の範囲の請求項1?5は、次のとおりの請求項1?6に補正された。 「【請求項1】 ガソリン燃料を用いた、少なくとも定速走行時に空気/燃料(A/F)比で15以上で使用されるリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスを、白金およびパラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属およびカリウム、ナトリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を含有する触媒活性成分および活性アルミナ、α-アルミナ、チタニア、ジルコニア、およびこれらの複合酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である耐火性無機酸化物よりなる混合物をモノリス担体に担持してなる触媒であって、該触媒1リットル当り該貴金属0.1?10g、該アルカリ金属の酸化物がアルカリ金属として1?30g、及び該耐火性無機酸化物10?400gであるものに接触させ、ついで該排気ガスを酸化触媒または三元触媒と接触させる、 ここで、該酸化触媒が、該酸化触媒1リットル当たり、白金および/またはパラジウムである貴金属を0.1?2g、耐火性無機酸化物を10?300g含有するものであり、該三元触媒が、該三元触媒1リットル当たり、白金およびロジウム;パラジウムおよびロジウム;白金、パラジウムおよびロジウム;パラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属を0.1?2g、セリアを10?150g、耐火性無機酸化物を10?300g含有するものであり、さらに、該モノリス担体に担持してなる触媒は、次のいずれかの方法で調製される: (1)上記した触媒活性成分および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥して完成触媒とする方法、 (2)上記貴金属源および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥して完成触媒とする方法、 (3)上記アルカリ金属酸化物源および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体を貴金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥して完成触媒とする方法、 (4)貴金属源の水溶液の耐火性無機酸化物を加え、混合した後、乾燥し、焼成し、貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥して完成触媒とする方法、 (5)アルカリ金属源の水溶液に耐火性無機酸化物を加え、混合した後、乾燥し、焼成し、アルカリ貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体を貴金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥して完成触媒とする方法がある、 ことを特徴とするリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスの浄化方法。 【請求項2】 ガソリン燃料を用いた、少なくとも定速走行時に空気/燃料(A/F)比で18以上で使用されるリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスを、白金およびパラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属およびカリウム、ナトリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を含有する触媒活性成分および活性アルミナ、α-アルミナ、チタニア、ジルコニア、およびこれらの複合酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である耐火性無機酸化物よりなる混合物をモノリス担体に担持してなる触媒であって、該触媒1リットル当り該貴金属0.1?10g、該アルカリ金属の酸化物がアルカリ金属として1?30g、及び該耐火性無機酸化物10?400gであるものに接触させ、ついで該排気ガスを酸化触媒または三元触媒と接触させる、 ここで、該酸化触媒が、該酸化触媒1リットル当たり、白金および/またはパラジウムである貴金属を0.1?2g、耐火性無機酸化物を10?300g含有するものであり、該三元触媒が、該三元触媒1リットル当たり、白金およびロジウム;パラジウムおよびロジウム;白金、パラジウムおよびロジウム;パラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属を0.1?2g、セリアを10?150g、耐火性無機酸化物を10?300g含有するものであり、さらに、該モノリス担体に担持してなる触媒は、次のいずれかの方法で調製される: (1)上記した触媒活性成分および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成して完成触媒とする方法、 (2)上記貴金属源および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法、 (3)上記アルカリ金属酸化物源および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体を貴金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法、 (4)貴金属源の水溶液の耐火性無機酸化物を加え、混合した後、乾燥し、焼成し、貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法、 (5)アルカリ金属源の水溶液に耐火性無機酸化物を加え、混合した後、乾燥し、焼成し、アルカリ貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体を貴金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法がある、 ことを特徴とするリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスの浄化方法。 【請求項3】 該モノリス担体は、セル密度(セル数/単位断面積)が150?600セル/平方インチである請求項1または2に記載の排気ガスの浄化方法。 【請求項4】 該酸化触媒が、該酸化触媒1リットル当り、白金および/またはパラジウムである貴金属を0.1?2g、耐火性無機酸化物を10?30g、希土類酸化物を0gを超え150g以下含有するものである請求項1または2に記載の排気ガスの浄化方法。 【請求項5】 該三元触媒が、該三元触媒1リットル当り、白金およびロジウム;パラジウムおよびロジウム;白金、パラジウムおよびロジウム;パラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属を0.1?2g、セリアを10?150g、耐火性無機酸化物を10?300g、さらにセリウム以外の希土類元素の酸化物を0gを超え50g以下含有するものである請求項1または2に記載の排気ガスの浄化方法。 【請求項6】 該リーンバーンエンジンの排気ガスが、リーンバーンエンジンがストイキオメトリーとリーンとを繰り返し変動する状態で排気される排気ガスである請求項1?5のいずれか一つに記載の排気ガスの浄化方法。」 本件補正は、請求項6を新たに追加する補正を含んでいる。 そこで、補正前の請求項1?5と補正後の請求項1?6との対応関係について検討すると、補正後の請求項1、2、4、5、6は、それぞれ補正前の請求項1?5を限定的に減縮しようとするものであるが、補正後の請求項3、すなわち、「該モノリス担体は、セル密度(セル数/単位断面積)が150?600セル/平方インチである請求項1または2に記載の排気ガス浄化方法」に対応する補正前の請求項は存在しない。 そこで、補正前の対応する請求項がない請求項3を新たに追加する補正について検討する。 特許法第17条の2第3項第2号は、特許請求の範囲の減縮を行う補正のうち、「請求項に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内において、その補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するもの」(同号括弧書き)についてのみ、これを認めることにしている。ここで、「補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するもの」であるかどうかは、特許請求の範囲に記載された当該請求項について、その補正の前後を比較して判断すべきものであり、補正前の請求項と補正後の請求項とが一対一対応になっていることを当然の前提としているものと解すべきである。 そうすると、補正前の請求項1?5に対して限定的減縮をして、それぞれ、補正後の1、2、4?6に補正し、新たに請求項3を追加する補正は、上記のように、補正後の請求項3に対応する補正前の請求項が存在しなかったことを鑑みれば、特許法第17条の2第3項第2号に規定される、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正とはいえない。 さらに、当該補正が、同項第1号、第3号及び第4号に規定する、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。 2-3.むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、補正後の特許請求の範囲の請求項4には、「酸化触媒」が「耐火性無機酸化物を10?30g」「含有する」との規定があるが、願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「当初明細書」という。)には、当該規定の記載が見当たらず、当該規定を追加する補正は新規事項の追加にあたるようにもみえる。しかしながら、当初明細書の段落【0037】には、「酸化触媒」の「担持量」について、「耐火性無機酸化物が10?300g/リットル」が好ましいと記載されており、また、「参考例1?9」(段落【0053】、【0054】、【0058】、【0059】、【0060】、【0061】、【0063】、【0064】、【0065】)の触媒は、いずれが三元触媒でいずれが酸化触媒であるかの明記はないものの、すべてにおいて、「耐火性無機酸化物」の含有量は「10?30g/リットル」という値を満たさず、具体的には、参考例1?4、6?9において100g/リットルであり、参考例5においては5g/リットルであることによれば、補正後の請求項4の「耐火性無機酸化物を10?30g」は、「耐火性無機酸化物を10?300g」の誤記であると認められる。 3.本願発明 平成18年8月21日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成18年3月3日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項2】 ガソリン燃料を用いた、少なくとも定速走行時に空気/燃料(A/F)比で15以上で使用されるリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスを、白金およびパラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属およびカリウム、ナトリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物を含有する触媒活性成分および活性アルミナ、αーアルミナ、チタニア、ジルコニア、およびこれらの複合酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である耐火性無機酸化物よりなる混合物をモノリス担体に担持してなる触媒に接触させ、ついで該排気ガスを酸化触媒または三元触媒と接触させる、 ここで、該モノリス担体に担持してなる触媒は、次のいずれかの方法で調製される: (1)上記した触媒活性成分および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成して完成触媒とする方法、 (2)上記貴金属源および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法、 (3)上記アルカリ金属酸化物源および耐火性無機酸化物を一括し、水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体を貴金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法、 (4)貴金属源の水溶液を耐火性無機酸化物に加え、混合した後、乾燥し、焼成し、貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法、 (5)アルカリ金属源の水溶液に耐火性無機酸化物を加え、混合した後、乾燥し、焼成し、アルカリ貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体を貴金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、さらに焼成して完成触媒とする方法がある、 ことを特徴とするリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスの浄化方法。」 なお、請求項2の(4)には、「貴金属源の水溶液の耐火性無機酸化物を加え、混合した後、乾燥し、焼成し、貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。」とあるが、「貴金属源の水溶液の耐火性無機酸化物」という記載は技術的な意味をなさないところ、当初明細書にも、「貴金属源の水溶液の耐火性無機酸化物」についての具体的な記載はなく、また、実施例1?10ではすべて「貴金属塩の水溶液」を「耐火性無機酸化物」に加えており、この他の方法で製造することは明細書の他の部分をみても記載されていないことからみて、当該「貴金属源の水溶液の耐火性無機酸化物を加え」は「貴金属源の水溶液を耐火性無機酸化物に加え」の誤記であると認められるので、上記のように認定した。 4.刊行物とその記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-367724号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。 (あ)「本発明は、窒素酸化物の除去方法に関する、詳しくは、自動車エンジン等の内燃機関、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ボイラー、工業用プラント等から排出される排ガス中の窒素酸化物を除去する方法に関するものである。」(段落【0001】) (い)「従来、自動車の排ガス中の窒素酸化物の除去については、三元触媒が用いられ、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)とともにNOxも除去されている。この方法は、燃料を完全燃焼させるに足りるだけの空気量を導入しなされている。しかし、この方法は、還元雰囲気下でNOxを分解する方法であるため、A/Fがリーン(A/F;空気/燃料が空気量が大である場合)である場合、排ガス中のHC、COの浄化には好適であるが、NOxの浄化には、過剰の酸素が原因となり、NOxを還元除去出来ないものである。」(段落【0003】) (う)「さらに、一般的な文献を例示すると、・・・これらの方法はいずれも排ガス中の酸素が大過剰である場合、窒素酸化物を除去するには十分でない。」(段落【0005】) (え)「従って、酸化雰囲気下で、低温から高温に到るまで効率よく、窒素酸化物を除去しうる方法の開発が望まれている。・・・本発明者らは鋭意研究の結果、上記課題を解決する方法として、以下の触媒、及び方法を見出し発明を完成した。」(段落【0007】?【0008】) (お)「酸化雰囲気状態にある排ガスを炭化水素存在下、ナトリウム及び/又カリウム、並びに白金及び耐火性無機酸化物を含有してなる触媒活性成分を一体構造体に被覆してなる触媒に通過させてなることを特徴とする窒素酸化物除去方法である。」(段落【0017】) (か)「BET表面積100m/g2を有する活性アルミナ100gに白金5gを有するジニトロジアミン白金の水溶液を加え、混合し、120℃で2時間乾燥、500℃で2時間焼成した。この得られた粉体をボールミルにより湿式粉砕して、水性スラリーを得、これに市販のコージェライト質ハニカム担体(日本碍子(製)、横断面が1インチ平方当たり、400個のガス流通セルを有し、直径33mmφ、長さ76m、体積65ml)を浸漬したのち、余剰のスラリーを圧縮空気により吹き飛ばした。次いで、120℃で2時間乾燥、500℃で2時間焼成し、白金担持アルミナ粉体を被覆したハニカム担体を得た。・・・さらに、得られたハニカム担体を4.3モル/l(リットル)の硝酸ナトリウム水溶液に浸漬したのち、過剰の溶液を圧縮空気により吹き払い、これを120℃で2時間乾燥し、500℃で焼成して、完成触媒(A)を得た。この触媒には、活性アルミナに対して白金が5重量%、ナトリウムが10重量%担持されていた。」(段落【0022】?【0023】 上記記載事項について検討する。記載事項(お)には、「酸化雰囲気状態にある排ガスを炭化水素存在下、ナトリウム及び/又はカリウム並びに白金及び耐火性無機酸化物を含有してなる触媒活性成分を一体構造体に被覆してなる触媒に通過させ」る「窒素酸化物除去方法」が記載されているといえる。 そこで、上記(お)の、「酸化雰囲気状態にある排ガス」とは、どのようなものかについて検討すると、(あ)より、刊行物1でいうところの「本発明」は、「自動車エンジン等の内燃機関、例えば、ガソリンエンジン」から排出される排ガス中の窒素酸化物を除去するものであり、(い)より、従来は、「自動車の排ガス中の窒素酸化物の除去」は、「A/Fがリーン(A/F;空気/燃料が空気量が大である場合)である場合、排ガス中のHC、COの浄化には好適であるが、NOxの浄化には、過剰の酸素が原因となり、NOxを還元除去出来ないものであ」り、また、(う)より、「排ガス中の酸素が大過剰である場合、窒素酸化物を除去するには十分でな」く、(え)より、「酸化雰囲気下で、低温から高温に至るまで効率よく、窒素酸化物を除去しうる方法の開発が望まれている」ところ、「本発明者らは鋭意研究の結果、上記課題を解決する方法として、以下の触媒、及び方法を見出し発明を完成した。」とあるのだから、(お)の「酸化雰囲気状態にある排ガス」には、「A/F比がリーンの場合がある自動車のガソリンエンジンからの、酸素が大過剰である場合がある排ガス」が包含されているといえる。 次に、上記(お)の「ナトリウム及び/又カリウム、並びに白金及び耐火性無機酸化物を含有してなる触媒活性成分を一体構造体に被覆してなる触媒」として、具体的には、(か)にみられるように、「ジニトロジアミン白金の水溶液」を「活性アルミナ」に加え、「混合」し、「乾燥」、「焼成」し、「白金担持アルミナ粉体」を得、これを「水性スラリー」とし、これに「コージェライト質ハニカム担体」を浸漬し、「余剰のスラリー」を「吹き飛ばし」、「乾燥」、「焼成」した後、これを「硝酸ナトリウム水溶液」に浸漬し、「乾燥」、「焼成」して得られた、白金、ナトリウム、活性アルミナを、コージェライト質ハニカム担体に担持した触媒が記載されている。ここで、当該触媒において、ナトリウムは、硝酸ナトリウム水溶液をコージェライト製ハニカム担体に浸漬した後、乾燥、焼成する、という担持方法からみて、酸化物として担持されているとみるのが普通である。 そこで、刊行物1の上記記載事項(あ)?(か)を本願発明の記載ぶりに則して整理すると、刊行物1には、 「A/F比がリーンの場合がある自動車のガソリンエンジンからの、酸素が大過剰である場合がある排ガスを、炭化水素の存在下、白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒に通過させる、ここで、コージェライト質ハニカム担体に担持した触媒は次の方法で調製される: ジニトロジアミン白金水溶液を活性アルミナに加え、混合し、乾燥し、焼成して、白金担持活性アルミナ粉体を得、これを水性スラリーとし、これにコージェライト質ハニカム担体を浸漬し、余剰のスラリーを吹き飛ばし、乾燥、焼成し、さらに該コージェライト質ハニカム担体を硝酸ナトリウム水溶液中に浸漬し、乾燥、焼成して完成触媒を得る、 A/F比がリーンの場合がある自動車のガソリンエンジンからの、酸素が大過剰である場合がある排ガスの浄化方法。」の発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されているといえる。 5.本願発明と刊行物1発明との対比 本願発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明において、「A/F比がリーンの場合がある」、「ガソリンエンジン」であって、排ガスが、「酸素が大過剰である場合がある」、「ガソリンエンジン」とは、技術常識からみて、「リーンバーンエンジン」であるとみるのが普通である。したがって、刊行物1発明の「A/F比がリーンの場合がある自動車のガソリンエンジンからの、酸素が大過剰である場合がある排ガス」は、本願発明の、「ガソリン燃料を用いた」、「リーンバーンエンジン搭載車からの排気ガス」であるといえる。 また、刊行物1発明の「コージェライト質ハニカム担体」は、本願発明の「モノリス担体」に相当する。 そして、刊行物1発明の「白金」は、本願発明の、「白金およびパラジウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の貴金属」のうちの「白金」である貴金属に相当し、刊行物1発明の「ナトリウムの酸化物」は、本願発明の、「カリウム、ナトリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属の酸化物」のうち、「ナトリウムの酸化物」に相当し、刊行物1発明の「活性アルミナ」は、本願発明の「活性アルミナ、αーアルミナ、チタニア、ジルコニア、およびこれらの複合酸化物よりなる群から選ばれた少なくとも1種である耐火性無機酸化物」のうち、「活性アルミナである耐火性無機酸化物」に相当する。また、刊行物1発明の、「白金、ナトリウムの酸化物」は、触媒に担持されており、何らかの触媒作用を発揮しているとみるのが普通であるから、「触媒活性成分」であるといえる。 また、刊行物1発明の、「ジニトロジアミン白金水溶液を活性アルミナに加え」ること、「白金担持活性アルミナ粉体」、「硝酸ナトリウム水溶液」は、それぞれ、本願発明の「貴金属源の水溶液を耐火性無機酸化物に加え」ること、「貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体」、「アルカリ金属源の水溶液」に包含される。さらに、刊行物1発明において、「水性スラリー」に「コージェライト質ハニカム担体」を浸漬し、「余剰のスラリーを吹き飛ば」すことにより、コージェライト質ハニカム担体は水性スラリーにより被覆されているといえる。そうすると、刊行物1発明の、「ジニトロジアミン白金水溶液を活性アルミナに加え、混合し、乾燥し、焼成して、白金担持活性アルミナ粉体を得、これを水性スラリーとし、これにコージェライト質ハニカム担体を浸漬し、余剰のスラリーを吹き飛ばし、乾燥、焼成し、さらに該コージェライト質ハニカム担体を硝酸ナトリウム水溶液中に浸漬し、乾燥、焼成」することは、本願発明の「次のいずれかの方法」として提示された(1)(4)のうちの(4)の、「貴金属源の水溶液を耐火性無機酸化物に加え、混合した後、乾燥し、焼成し、貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬したのち乾燥し、更に焼成」することに相当する。 してみると本願発明と刊行物1発明とは、 「ガソリン燃料を用いたリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスを、白金である貴金属と、ナトリウムの酸化物であるアルカリ金属の酸化物を含有する触媒活性成分と、活性アルミナである耐火性無機酸化物をモノリス担体に担持してなる触媒に接触させる、 ここで、該モノリス担体に担持してなる触媒は次の方法で調製される: 貴金属源の水溶液の水溶液を耐火性無機酸化物に加え、混合した後、乾燥し、焼成し、貴金属担持耐火性無機酸化物の粉体を得る。これを水性スラリーとし、該水性スラリーをモノリス担体に被覆し、ついで乾燥し、焼成し、さらに該担体をアルカリ金属源の水溶液に浸漬し、乾燥して、完成触媒とする方法 リーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスの浄化方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)本願発明においては、リーンバーンエンジン搭載車は「少なくとも定速走行時に空気/燃料(A/F)比で15以上で使用される」ものであるのに対して、刊行物1発明にはこの点の記載がない点。 (相違点2)本願発明においては、「触媒活性成分」と「耐火性無機酸化物」よりなる混合物をモノリス担体に担持しているのに対して、刊行物1発明においては「混合物」との明示がない点。 (相違点3)本願発明においては、リーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスをモノリス担体に担持してなる触媒に接触させた後、ついで該排気ガスを酸化触媒又は三元触媒と接触させるのに対して、刊行物1発明においてはこの点の記載がない点。 6.当審の判断 上記相違点について検討する。 (相違点1について) リーンバーンエンジン搭載車において、その定速走行時には、リーンバーンエンジンはリーン状態で使用されるのが一般的であり、このときの空燃比も15以上であるのが一般的である(必要ならば、「リーンバーンエンジンの空燃比を見る」、MotorFan, 1992, p.122-128のうちの特にp.124-125参照)。 そうすると、リーンバーンエンジンであれば、それが搭載された車の少なくとも定速走行時には空気/燃料比で15以上で使用されるのが普通といえるから、刊行物1発明においても、リーンバーンエンジンは、定速走行時には空気/燃料比で15以上で使用されるとみるのが自然である。 してみると、相違点1について、本願発明と刊行物1発明との間に実質的な差異はない。 (相違点2について) 刊行物1発明において、触媒活性成分の、白金、ナトリウムの酸化物と、活性アルミナは、白金担持活性アルミナ粉体を得、これを水性スラリーとし、該水性スラリーでコージェライト質ハニカム担体に被覆し、乾燥、焼成し、さらに該コージェライト質ハニカム担体を硝酸ナトリウム水溶液に浸漬し、乾燥、焼成するという方法で、ハニカム担体に担持される。この製造方法において、技術常識からみれば、白金と、活性アルミナと、硝酸ナトリウム水溶液を乾燥、焼成して得られるナトリウムの酸化物とが、互いに反応するものとはいえず、白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナは単に物理的に混合された状態で触媒上に担持せしめられているものとみるのが自然である。 そうすると、刊行物1発明においても、触媒活性成分と、担体とは混合物の状態で担持されているといえる。すなわち、「触媒活性成分」と「耐火性無機酸化物」よりなる混合物をモノリス担体に担持しているといえる。 (相違点3について) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平1-139145号公報(以下、「引用文献2」という。)には、排気浄化用触媒において、「NOxの浄化にはHCが必要なので、排気流入側に還元触媒を配置し、排気流出側に酸化触媒又は三元触媒を配置することによりリーン・バーンでも還元触媒によってNOxを除去することができ、又酸化触媒によってCO、HCを、あるいは三元触媒によってNOx、CO、HCを除去することができるので、排気中のNOx、CO及びHCを効率よく除去することができる」ことが記載されている(第2頁右下欄5?13行)。すなわち、引用文献2には、HCの存在下NOxを浄化する触媒の下流に酸化触媒、または、三元触媒を配置することにより、リーンバーンでも還元触媒によってNOxを除去することができ、又酸化触媒によってCO、HCを、あるいは三元触媒によってNOx、CO、HCを除去することができるので、排気中のNOx、CO及びHCを効率よく除去することができることが記載されているといえる。 一方、刊行物1発明は「白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒」とリーンバーンエンジン搭載車からの排気ガスとを接触させ、炭化水素の存在下、窒素酸化物を除去するものである。 ここで、一般に、リーンバーンエンジンからの排ガス処理に際して、HCの存在下NOxを除去する触媒だけでは排ガス中のHC、COは処理しきれないことは周知であり(例えば特開平4-341325号公報の段落【0014】、特開平4-31615号公報の第2頁右上欄第12?19行)、刊行物1発明においても、リーンバーンエンジンからの排ガス中、NOxのみでなくHC、COを除去することは当然、要請される事項であったと認められるから、この要請に対応するために、刊行物1発明において、引用文献2に記載のHCの存在下NOxを浄化する触媒の下流に酸化触媒、または、三元触媒を配置するという事項を採用して、炭化水素の存在下、窒素酸化物を除去する「白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒」の下流に酸化触媒、または三元触媒を設けて、「白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒」が処理しきれない、HC、COを除去するようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。 また、相違点3を具備したことによる本願発明の効果を検討しても、本願発明が刊行物1発明と引用文献2から予測できない格別な効果を奏するとは認められない。 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1発明と引用文献2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (請求人の主張について) 平成18年8月21日付けの手続補正書(方式)(以下、「審判請求書」という。)において、請求人は、「本願発明」が特許されるべき理由について主張している。ここで請求人のいう「本願発明」とは、上記2.で却下された、平成18年8月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項により特定される発明であり、上記主張は、上記3.で認定した「本願発明」ではない。 しかしながら、当該主張のうち、 (1)「引用文献1の比較例5に示されているように、銅イオン交換ゼオライトは、リーンバーン排ガス処理に効果のないことが示されている。したがって、当業者といえども、リーンバーンエンジンの排ガス処理に効果を示さない触媒をその他の触媒と組み合わせて用いることに無理がある。特に、引用文献1に記載の銅イオン交換ゼオライト(引用文献2の排ガス入口側触媒)は、リーンバーンエンジン排ガス処理には効果は少なく、この触媒に三元触媒を組み合わせたとしても、銅イオン交換ゼオライトに優れるPtとナトリウムなどの触媒に三元触媒を組み合わせたものを比較すると、著しく差異があると考えられる。」 (2)「触媒の配置が重要なことは、引用文献2の4頁、左下欄において、触媒の配置を換えたことからも当業者において重要なものと考えられる。」 という主張は、上記3.で認定した本願発明にも当てはまるといえなくもないので、本願発明についてもこの主張が失当であることを以下に付言する。なお、審判請求書の「引用文献1」とは、「刊行物1」である。 主張(1)について 確かに、刊行物1の比較例5には、銅イオン交換ゼオライトについての記載がある。しかしながら、上記「(相違点3について)」で検討したとおり、刊行物1発明の「白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒」の下流に酸化触媒、または、三元触媒を設けることは当業者が容易に想到し得たものと認められ、このことは、刊行物1の比較例5に銅イオン交換ゼオライトの記載があったからといって何ら覆されない。 主張(2)について 刊行物1発明において、引用文献2に記載された、HCの存在下NOxを浄化する触媒の下流に、酸化触媒、または三元触媒を配置する、という事項を採用し、「白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒」の下流に、酸化触媒、または三元触媒を設けることは当業者が容易に想到し得たことは、上記したとおりである。すなわち、刊行物1発明の「白金、ナトリウムの酸化物、活性アルミナをコージェライト質ハニカム担体に担持した触媒」の下流に、酸化触媒、または三元触媒を設けるという配置は、刊行物1発明と引用文献2に記載された事項とから当業者が容易に想到し得るものであり、「触媒の配置が重要であること」は、この判断になんら影響を及ぼさない。 7.むすび 以上のようであるから、本願発明は、刊行物1および引用文献2に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-05 |
結審通知日 | 2008-09-09 |
審決日 | 2008-09-22 |
出願番号 | 特願平6-12751 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B01J)
P 1 8・ 572- Z (B01J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡田 隆介、関 美祝、増山 淳子 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
繁田 えい子 小川 慶子 |
発明の名称 | リーンバーンエンジンからの排気ガスを浄化するための触媒および浄化方法 |
代理人 | 八田 幹雄 |
代理人 | 八田 幹雄 |