• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A63B
審判 全部無効 2項進歩性  A63B
管理番号 1191960
審判番号 無効2006-80252  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-30 
確定日 2009-02-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3474793号発明「野球又はソフトボール用のFRP製バット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3474793号の請求項1?7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の主な経緯
平成11年 1月20日 本件特許に係る出願
(特願平11-11325号)
平成12年11月27日 本件特許に係る出願に係る審査請求
平成15年 5月 7日 拒絶理由通知
平成15年 7月 9日 意見書・明細書についての手続補正書
平成15年 7月11日 手続補足書(「接着ハンドブック」の写し)
平成15年 9月19日 本件特許登録(特許第3474793号)
平成18年11月30日 本件無効審判請求
(無効2006-80252)
平成19年 2月20日 答弁書
平成19年 4月 9日 上申書(請求人)
平成19年 7月 3日 口頭審理(双方ともに陳述要領書、上申書を提出)
平成19年 7月10日 上申書(被請求人)

2.本件特許発明
本件特許第3474793号に係る発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されたとおりの次のものと認める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスック等の繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バットにおいて、前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けたことを特徴とする野球又はソフトボール用のFRP製バット。
【請求項2】 前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が打球部に設けられたことを特徴とする請求項1記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。
【請求項3】 前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。
【請求項4】 前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。
【請求項5】 前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が離型効果を有する素材により構成されたことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。
【請求項6】 前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がフィルム状の材料を積層することにより形成されたことを特徴とする請求項5記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。
【請求項7】前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がシリコン樹脂系乃至はフッ素樹脂系の離型剤より形成されたことを特徴とする請求項5記載の野球又はソフトボール用のFRP製バット。

以下、請求項順に「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、
「特許第3474793号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効にする。
審判費用は被請求人の負担とする。」
との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証ないし第16号証を提出し、無効理由1ないし4を主張している。
なお、証拠の表示及び主張の概要の記載は、口頭審理(平成19年7月3日実施)の「第1回口頭審理調書」において訂正したとおりに記載する。

甲第1号証:米国特許第5415398号明細書
甲第2号証:実願平3-55846号(実開平5-175号)のCD-ROM
甲第3号証:特開平10-314353号公報
甲第4号証:特開平9-313650号公報
甲第5号証:特開平10-78171号公報
甲第6号証:特開平5-58395号公報
甲第7号証:特開平10-59476号公報
甲第8号証:特開平10-44321号公報
甲第9号証:特開平10-292899号公報
甲第10号証:特開平7-256772号公報
甲第11号証の1:国際公開00/01449号(特許協力条約に基づく国際特許出願PCT/US99/14817の国際公開、公開日 平成12年1月13日)
甲第11号証の2:特表2002-519163号公報(特許協力条約に基づく国際特許出願PCT/US99/14817についての国内公表公報)
甲第11号証の3:特許協力条約に基づく国際特許出願PCT/US99/14817の優先権主張の基礎とされた米国特許出願09/108,754に係る出願書類の写し
甲第12号証:材料ハンドブック、初版1刷発行、日刊工業新聞社、昭和63年3月25日発行、121-122頁
甲第13号証:化学大事典、第1版第1刷、株式会社東京化学同人、1989年10月20日発行、800頁、1110頁及び1983頁
甲第14号証の1:繊維強化プラスチック製バットの認定基準及び基準確認方法、財団法人製品安全協会(発行日は不明であって、平成16年11月19日以降に公知となったものと認定)
甲第14号証の2:SGニュース、財団法人製品安全協会、平成16年9月発行
甲第15号証:FRP成形加工技術、初版、工業調査会、1974年7月10日発行、89頁
甲第16号証:大百科事典4、初版、平凡社、1984年11月2日発行、265-266頁

3-1 無効理由1(新規性欠如)の概要
本件特許発明1?7は、以下のように甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
(1)本件特許発明1について
甲第1号証には、管状フレーム11と挿入部18とからなる二重構造のソフトボール用バット10であって、管状フレーム11と挿入部18との間隙26に潤滑剤を介在させたものが記載されている。
甲第1号証には、これら管状フレーム11と挿入部18との材料として、複合材料を用いることができることが記載されており、甲第1号証の出願日における技術常識(甲第2号証及び甲第3号証を参照)を参酌すれば、この複合材料に繊維強化プラスチックが含まれることは明らかであることから、甲第1号証には管状フレーム11と挿入部18とを共に繊維強化プラスチックにより形成した二重構造のソフトボール用バットが記載されているといえる。
また、甲第1号証には潤滑剤として潤滑油やテフロン、塑性変形可能な材料等が記載されており、潤滑剤は「ウィークバウンダリーレアー層」であるといえる。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)本件特許発明2について
甲第1号証の衝撃部12は、本件特許発明2における打球部に相当し、前記衝撃部12の内側に間隙26を設けて潤滑剤を充填していることから、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明である。
(3)本件特許発明3について
甲第1号証において、潤滑剤を充填する間隙26を1層だけ設ける点は、FIG.1?FIG.3に示されている。よって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明である。
(4)本件特許発明4について
甲第1号証の請求項18には「衝撃部内で固定される少なくとも1つの挿入部」と記載されていることから、衝撃部内に複数の挿入部18を設けることが記載されているといえる。間隙26には潤滑剤を介在させるという甲第1号証の開示によれば、複数の挿入部18の相互間の間隙26にも潤滑剤を介在させることになるので、結果として2層以上の潤滑剤の層が形成されることになる。よって、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明である。
(5)本件特許発明5について
甲第1号証において、潤滑剤としてテフロン(商標)が記載されており、このテフロン(商標)は離型効果を有する素材である。よって、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明である。
(6)本件特許発明6について
甲第1号証における潤滑剤には固体潤滑剤が含まれている。また、狭い隙間に固体潤滑剤を介在させるとすれば、この固体潤滑剤は、必然的に繊維強化プラスチック製の挿入部18の上に積層されたフィルム状となる。よって、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明である。
(7)本件特許発明7について
甲第1号証において、潤滑剤として記載されたテフロン(商標)は、フッ素樹脂であり、フッ素樹脂は代表的な離型剤の一つである。よって、本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明である。

3-2 無効理由2(進歩性欠如)の概要
本件特許発明1?7は、以下のように甲第1号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
(1)本件特許発明1?3について
繊維強化プラスチックをバットの素材として用いることは本件特許の出願前において周知であり(甲第2号証、甲第3号証、甲第14号証の1及び甲第14号証の2を参照)、本件特許発明1?3は、甲第1号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(2)本件特許発明4、5について
繊維強化プラスチックは、ソフトボール用バットに限らずさまざまな分野で活用され(甲第15号証、甲第16号証参照)、これら広範な分野においては、ウィークバウンダリーレアー層を2層以上設けた構造体が、本願特許発明の出願前から知られている(甲第6号証、甲第8号証を参照)。また、本願特許発明の明細書にはウィークバウンダリーレアー層を2層以上設けた場合の特別な作用効果について何ら記載されていない。よって、本件特許発明4におけるウィークバウンダリーレアー層を2層以上設けた点には、発明の進歩性を肯定する程の技術的困難性は認められない。
したがって、本件特許発明4、5は、甲第1号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(3)本件特許発明6について
本件特許発明の出願前から、繊維強化プラスチック製品の構成として、繊維強化プラスチック素材の層間にフィルム状の材料を介在させ、繊維強化プラスチック素材どうしの接着を阻害するものが多数存在しており(甲第4号証?甲第10号証参照)、そのような構造は、繊維強化プラスチック製品の製造における技術常識にすぎない。
したがって、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(4)本件特許発明7について
離型剤、特に耐熱性離型剤の素材として、シリコーン系及びフッ素系の材料が優れた離型効果を発揮することは、繊維強化プラスチックのみならず広くプラスチック成形技術の分野における技術常識である(甲第9号証、甲第10号証参照)。
したがって、本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

3-3 無効理由3(進歩性欠如)の概要
本件特許発明1?7は、以下のように甲第3号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
(1)本件特許発明1について
甲第3号証には、外管パイプ2の内径と内管パイプ3の外径との間に、間隙4を設けた二重構造のソフトボール用バット1が記載されている。また、外管パイプ2と内管パイプ3の素材には、繊維強化プラスチックが用いられることが記載されている。
甲第3号証には、外管パイプ2と内管パイプ3との間隙4に介在物を設けるとの記載はないものの、その製造過程において、甲第5号証?甲第7号証に記載されているFRP製の二重管ないし二重殻の製造方法のように、外管パイプ2と内管パイプ3との間に樹脂フィルムを介在させて、繊維強化プラスチックどうしの接着を阻害しない限り、0.2?0.3mm程度の隙間4を形成することはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(2)本件特許発明2について
甲第3号証のソフトボール用バット1では、外管パイプ2における打球部2Aの内側に内管パイプ3が設けられている。
したがって、本件特許発明2は、甲第3号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(3)本件特許発明3について
甲第3号証のソフトボール用バット1では、外管パイプ2と内管パイプ3との間に一層のみの隙間4を有する。
したがって、本件特許発明3は、甲第3号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(4)本件特許発明4について
甲第3号証には、ソフトボール用バット1に、隙間4を2層以上設けるとの記載はないが、本件特許発明の出願前から、繊維強化プラスチックの技術では、分野を問わず、繊維強化プラスチック素材の層間に合成樹脂フィルムからなる層を2層以上設けた構成のものが広く知られている(甲第6号証、甲第8号証参照)。
したがって、本件特許発明4は、甲第3号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(5)本件特許発明5?7について
甲第5号証?甲第7号証記載のFRP製の二重管ないし二重殻の製造方法によって、甲第3号証のソフトボール用バット1を製造する場合、隙間4を形成するため、接着阻害を目的とした樹脂フィルムが必然的に介在される。また、シリコーン系又はフッ素系等の離型フィルムが、繊維強化プラスチックに対して接着阻害性を発揮することは周知である(甲第9号証、甲第10号証参照)。
したがって、本件特許発明5?7は、甲第3号証に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

3-4 無効理由4(拡大された先願の地位)の概要
本件特許発明1?7は、本件特許出願日前に出願された米国特許出願第09/108,754(甲第11号証の3)の優先権主張を伴う外国語特許出願である甲第11号証の1に記載されたソフトボール用バットと同一であり、甲第11号証の1が国際公開されたことにより、これらの特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものと認められ、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
なお、特許法第29条の2に規定する他の特許出願が国際特許出願である場合における同法第29条の2の規定の適用については、平成14年改正前特許法第184条の13に定めがあり、国際出願日における国際出願の明細書、図面に記載された発明であることを条件とし、外国語でされた国際特許出願については、翻訳文を提出期間内に提出した国際特許出願であることも適用の条件であることが規定されている(甲第11号証の1に係る国際特許出願は、甲第11号証の2の公表特許公報に翻訳文提出日が記載されており、翻訳文に関する適用条件は満たしている。)。
また、優先権主張を伴う国際特許出願である場合の同法第29条の2の規定の適用については、パリ条約第4条(B)の規定により、第一国出願の明細書等と我が国への出願時の願書に最初に添付した明細書等とに共通して記載されている発明に関しては、第一国出願日に我が国へ出願があったものとして扱うとされている。
以上のことを踏まえて、当該無効理由4の証拠方法である、甲第11号証の1及び甲第11号証の3をみてみると、甲第11号証の1に係る、外国語でされた国際特許出願(PCT/US99/14817)の優先権主張の基礎とされている甲第11号証の3の米国特許出願第09/108,754の出願日(平成10年7月1日)は、本件特許発明の出願日(平成11年1月20日)より前であり、甲第11号証の3に係る国際特許出願の国際出願日(平成11年6月30日)及び国際公開日(平成12年1月13日)は、いずれも本件特許発明の出願日より後であるから、このような場合、上記した規定により、甲第11号証の3及び甲第11号証の1に共通して記載されている発明に関してのみ、甲第11号証の3の出願日に出願したものとして取扱い、特許法第29条の2の規定を適用できることになる。
したがって、本来ならば、本件特許発明1?7と対比する際には、甲第11号証の1と甲第11号証の3とに共通に記載された事項であることが必須の条件となるが、請求人は、審判請求書の無効理由4の項において、甲第11号証の2を援用しつつ、甲第11号証の1の記載事項と本件特許発明1?7との対比判断のみ行い、それが、甲第11号証の3に共通して記載されているかについての記載はされていない。
そこで、ここでは、請求人の主張に倣って、審判請求書に記載された主張のとおり記載することとする。
(1)本件特許発明1について
甲第11号証の1には、管状フレーム11と挿入部(管状部材)18とからなる二重構造のソフトボール用バット10が記載されており、挿入部18を複合材料である繊維強化プラスチックで形成することも記載されている。
管状フレーム11については、「アルミニウムで形成するのが好適である」と記載されていることから、アルミニウム以外の材料で形成することが可能であると記載されているに等しい。甲第11号証の1の出願時点において、繊維強化プラスチックは、一般的なバットの材料であり(甲第2号証、甲第3号証、甲第14号証の1、甲第14号証の2)、管状フレーム11も繊維強化プラスチックにより形成することは、甲第11号証の1に記載されているに等しい事項であるといえる。
また、甲第11号証の1には管状フレーム11と挿入部18との間隙26に潤滑剤を介在させることが記載されており、この潤滑剤が、ウィークバウンダリーレアー層に相当する。
したがって、本件特許発明1は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。
(2)本件特許発明2について
甲第11号証の1に記載された管状フレーム11の衝撃部12は、本件特許発明2の打球部に相当する。そして、この衝撃部12の内側に挿入部18を設けて潤滑剤を充填している。
したがって、本件特許発明2は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。
(3)本件特許発明3について
甲第11号証の1のソフトボール用バット10において、間隙部26と潤滑剤とは、図1?図3に示されるように1層だけ設けられている。
したがって、本件特許発明3は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。
(4)本件特許発明4について
甲第11号証の1には、挿入部18を複数備える旨の積極的な記載はない。
しかしながら、挿入部18が一つでなければならない旨の積極的な記載もない。
つまり、甲第11号証の1には、1層か2層以上かを問わず、外管と内管との間に潤滑剤を介在させた間隙層を備えることが記載されているといえ、2層以上設けることが実質的に記載されているに等しい。
したがって、本件特許発明4は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。
(5)本件特許発明5について
甲第11号証の1では、管状フレーム11と挿入部18との間隙部26に潤滑剤を介在させてあるが、この潤滑剤として一般的な「固体潤滑剤」は、特に、離型剤として多く用いられることが知られていることから、本件特許発明5の離型効果を有する素材に相当する。
したがって、本件特許発明5は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。
(6)本件特許発明6について
潤滑剤として一般的な「固体潤滑剤」は、極高温の条件下で使用されることが知られており、繊維強化プラスチック製の管状フレーム11と挿入部18とを高温に加熱して形成する場合に極高温で安定性の良好な「固体潤滑剤」を介在させることは最も合理的かつ自然である。
また、管状フレーム11と挿入部18との間隙26は約0.178mmであるので、この間隙26に介在される「固体潤滑剤」は必然的にフィルム状であるということができる。
したがって、本件特許発明6は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。
(7)本件特許発明7について
潤滑剤としての「固体潤滑剤」が、特に、離型剤として多く用いられるものであり、離型剤の有効成分としてシリコーン樹脂やフッ素樹脂が代表的であることは、甲第11号証の1の出願時において周知の事実であるから、甲第11号証の1には、潤滑剤の有効成分としてシリコーン樹脂系やフッ素樹脂系が含まれていることが記載されているに等しい。
したがって、本件特許発明7は、甲第11号証の1に記載された発明と同一である。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、
「本審判の請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。」
との審決を求め、請求人の主張する無効理由1?4は、いずれも理由がないと主張している。

4-1 無効理由1(新規性欠如)に対する反論の概要
(1)甲第1号証の発明は、アルミニウム製筒状バットフレーム部材の内側に、ギャップを介して筒状インサート部材を取付けた二重管構造のバットである。
これに対して、本件特許発明においては「バット本体」は一体的であり、外管(管状フレーム11)と内管(挿入部18)の二つの部材からなり、外管と内管との間にすき間を設けて、外管に内管を挿入する構成ではなく、基本的な構成において両者は異なっている。
また、甲第1号証において「複合材料」が使用される対象はインサート部材(挿入部18)であって、管状フレーム11に使用することは記載されていない。
そして、管状フレーム11と挿入部18の間にすき間を構成する場合、打球時にそれぞれが単独で変形するので、管状フレーム11は強い耐久性が要求されるため、商品化されているこのタイプのバットでは、外側の管状フレーム11は金属製である。
したがって、甲第1号証に「管状フレーム11と挿入部18との材料として、複合材料を用いることができることも記載されている。」とする請求人の主張は失当である。
さらに、本件特許発明では、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を含め「バット本体」は一体のものであって、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層の外側の層と内側の層との間に間隙はなく、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層が変形することにより、その外側の層と内側の層が相互に自由に運動するものではない。
したがって、甲第1号証の発明の管状フレーム11と挿入部18との間隙26にあり、間隙内で流動、変形するような「潤滑剤」は、本件特許発明の「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に該当しない。
したがって、本件特許発明1ないし7は甲第1号証の発明と同一ではない。
(2)請求人は、甲第1号証のクレーム18の「少なくとも1つの挿入部」との記載によって、本件特許発明4の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」という構成が甲第1号証に開示されていると主張するが、他の記載及び図面において挿入部18は全て一個であり、挿入部18は打球時に管状フレーム11の衝撃部と接触状態となることが必要であることから一つの挿入部18の内側に更に別の挿入部18を設ける構成は明確に排除されており、請求人の主張は理由がない。
したがって、本件特許発明4は甲第1号証の発明と同一ではない。
(3)請求人は、甲第1号証記載の潤滑剤には、固体潤滑剤が含まれ、この固体潤滑剤は、必然的に繊維強化プラスチック製の挿入部18の上に積層されるフィルム状となると主張しているが、この主張には根拠がなく、論理も不明である。
そもそもフィルムは、「固体潤滑剤」ではなく、フィルムを「固体潤滑剤」と当業者が言うことはない。
したがって、本件特許発明6は甲第1号証の発明と同一ではない。

4-2 無効理由2(進歩性の欠如)に対する反論
(1)仮に、本件特許発明に係る特許出願の出願前に、繊維強化プラスチックをバットの素材として用いることが周知であったとして、当該周知技術を甲第1号証のバットに組合わせたとしても、繊維強化プラスチック素材の外管と、外管内に潤滑剤が充填されたギャップを介して配置された繊維強化プラスチック素材のインサートからなる二重管構造のバットが構成されるにすぎない。
無効理由1に対する反論において述べたように、甲第1号証の潤滑剤は本件特許発明のウィークバウンダリーレアー(WBL)層に相当するものではない。
したがって、甲第1号証の発明と、甲第2号証または甲第3号証に示されている周知技術を組み合わせたとしても本件特許発明1を構成することができないのであるから、本件特許発明1ないし7は、甲第1号証の発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)無効理由1に対する反論で説明したように甲第1号証に複数の挿入部18を設けることは記載されていない。
また、請求人は、甲第6号証及び甲第8号証が、本件特許発明4の構成要件である複数の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を開示すると主張しているが、甲第6号証に記載の制振フィルム層は「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に相当するものではなく、甲第8号証の樹脂層2も「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」ではない。そして、それぞれが、野球用またはソフトボール用バットとは全く無関係で、分野の異なるものである。
さらに、請求人は、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層を2層以上とすることに関し、1層の場合と比べて顕著な作用効果を奏するものではないと述べているが、本件明細書段落【0008】に記載されているとおり、1層に比べて優れた反発性能を有するものである。
(3)本件特許発明6について、請求人がフィルム状の材料からなるウィークバウンダリーレアー(WBL)層の例示としている甲第4号証ないし甲第10号証は、いずれも「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を開示するものではなく、本件特許発明に対する請求人の主張は理由がない。

4-3 無効理由3(進歩性の欠如)に対する反論
(1)請求人は、甲第3号証の発明に関し、外管パイプ2と内管パイプ3を別途製造し、後者を前者に挿入することしか記載されていないのに、未硬化のプリプレグシートを巻き付けて硬化させて製造する方法の場合、外管パイプ2と内管パイプ3の間に隙間を形成するためには、甲第5号証?甲第7号証の樹脂フィルムを介在させなければならないとし、この場合の樹脂フィルムがウィークバウンダリーレアー(WBL)層に相当すると述べているが、これは誤った前提に基づく議論であって、無効理由3には理由がない。

4-4 無効理由4(拡大された先願の地位)に対する反論
(1)請求人は、甲第11号証の1における、管状フレーム11を「アルミニウムで形成するのが好適である」との記載から、「アルミニウム以外の材料で形成することも可能である」との意味も含まれており、一般的なバットの材料である繊維強化プラスチック素材で形成することが可能であることが記載されているに等しいとしているが、これは極めて乱暴な議論であり、認められるものではない。
少なくとも、甲第11号証の1には、管状フレーム11を繊維強化プラスチック素材で形成することは記載されておらず、甲第11号証の1の発明と本件特許発明1ないし7とは同一でないことは明らかである。

5.各甲号証の記載内容
ここでは、甲第1号証?甲第11号証の1の記載内容について摘記し、甲第12号証以降については、摘記して記載せず、必要に応じて摘記することとする。

5-1 甲第1号証:米国特許第5415398号明細書
なお、甲第1号証の記載内容の認定は、原則、請求人が提出した翻訳文により行うこととし、当事者間に争いのある部分に関しては、原文を併記することとする。また、摘記箇所の記載は、原文と翻訳文の両方について記載することとする。
また、下記において「グリース」との記載は、請求人の提出した翻訳文では「潤滑油」等と記載されているが、原文の「grease」をより適切に表現するために、「グリース」とした。それに伴い、一部表現を変更した。

(ア)「本発明は、ソフトボール用バットおよび野球用バットに関するものであり、また特にバットの衝撃応答性を向上させるバット内の構造部材の使用に関するものである。」(column 1, line 8-11/第4頁第5?6行)
(イ)「先行技術の欠点を踏まえ、本発明の目的の1つは、改良されたバットを提供することである。
また、本発明には、バットから打球に伝導するパワーを増大させるバットを提供するという目的もある。
さらに本発明には、挿入部を持つ管状バットについて、シンプルな構造を提供するという目的もある。」(column 2, line 1-8/第4頁第40行?第5頁5行)
(ウ)「本発明の好適な一実施例において、管状アルミニウム製バットフレームは、直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部を具備する。管状挿入部は、同挿入部の両端に位置する締まりばめにより、衝撃部内に懸架される。第1締まりばめは、挿入部の第1端部をバットフレームのテーパ部に強く押し付けることにより形成される。次に第2締まりばめは、挿入部の第2端部の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。懸架された挿入部の長さに沿って、衝撃部の内側から挿入部を分離する間隙が存在する。この間隙は、ボールを打ったときの挿入部と管状フレームとの間の相対運動を促進するため、グリースで満たされる。」(column 2, line 9-23/第5頁第6?13行)
(エ)「図1を参照すると、本発明の一実施態様におけるソフトボール用バット10は、比較的直径の大きい衝撃部12、中間テーパ部14および比較的小径の握り部16を具えた管状アルミニウムフレーム11を有する。
衝撃応答性を高め、バットから打球へのパワー伝導を向上させるため、管状挿入部18を管状フレームの衝撃部12内に懸架する。管状挿入部は中空管であり、その外径は、管状フレームの衝撃部12の内径よりわずかに小さい。管状挿入部18の第1端部20は、衝撃部12に挿入され、さらに、直径が減少するテーパ部14の内壁に接するように強く押し付けられ、これにより第一の締まりばめが形成される。管状挿入部18の第2端部22は、管状挿入部18が第1締まりばめで固定された時点で、衝撃部12の先端より内側に位置する。第2締まりばめは、挿入部の第2端部22の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。この曲げられた部分が、管状フレーム11のうち直径が減少するヘッド部24を形成する。」(column 2, line 39-61/第5頁第20?31行)
(オ)「挿入部18の外径が管状フレームの衝撃部12の内径よりわずかに小さいことから、懸架された挿入部18は、挿入部の第1端部20および第2端部22の両締まりばめのみにおいて管状フレームと接触する。挿入部18と、衝撃部12の内壁との間に狭い一定の間隙26が存在する。この間隙は、挿入部の周囲(図3を参照)と、挿入部の第1端部20と第2端部22との間で挿入部の長さに沿って均一に伸びている。
図2で最もよくわかるが、間隙26は、グリースのような潤滑剤で満たされている。グリースは、挿入部を管状フレーム11に挿入する前に挿入部18の表面をグリースで覆うことにより、間隙26内に取り入れられる。挿入部18が第1締まりばめと第2締まりばめとの間で固定されると、潤滑剤で満たされた間隙26は、第1締まりばめおよび第2締まりばめによって効果的に密閉される。」(column 2, line 62 - column 3, line 9/第5頁第32行?第6頁第3行)
(カ)「図示された実施例によるソフトボール用バットの作用は、打球へのパワー伝導を向上させるよう設計されている。特に、バット10は、大きな弾性たわみが生じ、これが短時間で大きなパワーをもって反発することにより、ボールとの衝撃に応答する。
管状フレーム11は、挿入部18が懸架され、同挿入部がその両端において管状フレームに取り付けられるため、板ばねと同様の特徴を持つ機械的構造が実現する。バット10が衝撃部12においてボールを打った時、衝撃部12の壁は、グリースで満たされた間隙26によって内側方向にたわみ、その下に位置する挿入部の壁に負荷をかけ、これを内側方向にたわませる。衝撃部12のたわみは、原則として弧状になると考えられる。よって挿入部18は、衝撃部12の弧状のたわみの受け台となるため、弧状にたわむ。
挿入部18の弧状部分が衝撃部12の弧状部分の受け台となるため、挿入部18の弧状部分の曲率半径は、衝撃部12の弧状部分より大きい。挿入部18はその両端部20、22において管状フレーム内で固定されていることから、曲率半径の大きい挿入部がたわむことにより、挿入部18は衝撃部12のたわみに沿って引っ張られ、曲げられる。このためボールを打った時点で、挿入部18は、相当の引張応力と曲げ応力を受ける。
挿入部18が衝撃部12内に板ばねのように取り付けられていることにより、ボールへのパワー伝導を増大させる作用を持つ反発が得られる。衝撃部12と挿入部18の両方の壁が反発して負荷ゼロの状態になった時点で、曲げ応力は消滅する。その下に位置する挿入部の壁の引張荷重も同時に消滅し、さらに「スナップ」が加わることで、反発の力と速度が増す。このため、挿入部18を管状フレーム内で板ばねのように懸架することによって付加されるスナップにより、打球へのパワー伝導が向上するとともに、バットの「強打」力も向上する。
グリースにより、衝撃部12と挿入部18との間で相対運動が可能になるため、挿入部は、衝撃部12のたわみを囲むように独立して伸長することができる。グリースが間隙内で密閉されていることにより、もうひとつの利点も生じる。すなわち、ボールとの衝撃の発生が早すぎて、グリースが相当に流れ出さないという点である。むしろグリースは、流体静力学的に、衝撃部の壁を支持し、これを挿入部から遠ざける働きをする。この場合、衝撃部と挿入部との間でしっかりしたグリースの層が維持され、よって衝撃部に対応した挿入部の運動が促進される。一方、衝撃が加わる間にグリースが移動した場合、衝撃の力は衝撃部12の拡大区域に分配される。この衝撃応力の分配により、塑性変形をもたらす高い応力集中が生じにくいことから、衝撃部の壁は薄いもので足りる。」(column 3, line 10-65/第6頁第4?32行)
(キ)「1平方インチ当たり80,000ポンドの降伏強度のアルミニウムを使用することにより、衝撃部12の長さが約13インチ、肉厚が0.058インチである場合に優れた衝撃応答性が得られる。長さが衝撃部12よりわずかに短く、肉厚が0.048インチの挿入部18が、衝撃部12に挿入される。挿入部の外径は、挿入部18の外面と衝撃部12の内面との間に約0.007インチの間隙が存在するように、選択される。」(column 4, line 9-17/第6頁第40行?第7頁4行)
(ク)「図示された実施例における締まりばめは、優れた機能をもたらすものであるとともに、設計と製造がシンプルである(特に溶接が一切必要がない)という利点がある。しかし、当然のことながら、溶接またはその他の留め具を利用することもできる。例えば、挿入部と管状フレーム11の締まりばめにおいて、さらに摩擦係数を上げるための装置を利用することができる。また、これらに代えて、挿入部の端部を管状フレームに接合させるため、接着剤または機械による留め具を利用することもできる。留め具は、間隙26内を潤滑剤で密閉するという目的においても利用することができる。板ばねのような懸架を維持する取付装置や留め具はすべて、本発明の範囲に含まれる。」(column 4, line 47-60/第7頁第20?27行)
(審決注:上記において、「挿入部の端部を管状フレームに接合させるため」の「接合させる」は、請求人の提出した翻訳文においては「係合させる」と記載されているが、原文の「 for joining 」をより適切に表現するために、上記のように変更した。)
(ケ)「フレームおよび挿入部の材料として本実施例ではアルミニウムを使用しているが、当然のことながら、他の多くの材料を用いても、本発明によって同様の優れた効果を得ることができる。例えば、コストはやや高くなるが、優れた結果をもたらす挿入材としてチタンを使用することができる。チタンは衝撃応答性が高いという特性を持つことから、チタンの挿入は良い効果をもたらす。さらに、挿入部が中空管であるため、チタンを利用する場合の切削加工および冷間加工の問題も最小限にとどめることができる。チタンの挿入により、優れた衝撃応答性を持つとともに、中実のチタン製バットと比べて大幅のコストの低いバットを実現することができる。
さらに、コストについてそれほど懸念する必要がなければ、チタン製のバットにチタンを挿入して、極めて優れた結果を実現することができる。当然のことながら、他の様々な金属、複合材料、プラスチックおよびその他の材料を用いても、本発明によって同様の優れた効果を得ることができる。
While the present embodiment utilizes aluminum for the frame and the insert, it should be understood that many other materials will perfrom equally well with the present invention. For instance, at a slightly higher cost, titanium could be used as insert material with excellent results. A titanum insert is advantageous owing to its excellent inpact response characteristics. It addition, because the insert is a hollow tube, the machining and cold working problems associated with titanium are minimized. The titanium insert provides a bat with an superb impact response, but at a cost vastly reduced from that of a solid titanium bat.
Furthermore, where cost is less a consideration, a titanium insert may be used within a titanium bat with outstanding results. It should be understood that various other materials, composite materials, plastics, and other materials may likewise perform equally as well with the present invention.」(column 4, line 61 - column 5, line 10/第7頁第28?39行)
(コ)「本発明のバットにおいては、多くの種類の潤滑剤を使用することができる。潤滑剤の粘性を変えれば、バットの感触および衝撃応答も変化する。好適な一実施例においては、衝撃が加わる間のグリースの油圧効果を強調するため、重い等級のグリースが使用されている。合成潤滑剤を、石油ベースのグリースやオイルと同様に使用することもできる。Teflon(商標)等の潤滑剤を用いても、同様の優れた結果が得られる。さらには、挿入部とフレームの独立した動きを可能にするため、それ自体が滑りやすくなっている挿入部およびバットフレームの材料も、同様の機能を果たすことができる。実際には、結果として挿入部とバットフレームの独立した動きを可能にするように構造が構成されていれば、潤滑剤はすべて省略することができる。」(column 5, line 11-24/第7頁第40行?第8頁7行)
(サ)「潤滑剤は塑性変形可能な材料であると考えられる。この材料の塑性変形は、バットフレームおよび挿入部の作用によって回復される。本発明の利点の一部は、潤滑剤であるか否かを問わず、間隙26において塑性変形可能なあらゆる材料を代用することによって得ることができるという点である。
It will be recognized that the lubricant is a plastically deformable material. Plastic deformation of this material is restored by action of the bat frame and the insert. Certain advantages of the present invention can be achieved by substituting any plastically deformable material in the gap 26, irrespective of whether it is a lubricant.」(column 5, line 25-31/第8頁第8?11行)
(シ)「【請求項1】円形断面を有する中空管状バットフレームと、
前記フレーム内に位置し、円形断面を有し、前記管状フレームと係合する第一端部および第二端部を有し、前記第1端部と前記第2端部との間で中心部に沿って円環形の少なくとも一部を形成する間隙によって前記管状フレームから分離される挿入部とから成り、前記フレームが、前記間隙のあらゆる位置で弾性たわみが可能であり、これにより前記挿入部の第1端部と第2端部との間で前記挿入部の一部に沿って前記挿入部を係合する機能を果たすことを特徴とするバット。
【請求項2】前記挿入部が前記フレーム内に懸架され、前記第1端部および第2端部において前記フレームに固定される請求項1のバット。
【請求項3】前記挿入部が固定され、ボールを打ったときに前記挿入部と前記管状フレームとの間の相対運動を増進するために前記間隙を潤滑剤で満たした請求項2のバット。
【請求項4】前記管状フレームが小径の握り部、中間テーパ部および直径の大きい衝撃部を有し、前記挿入部が前記フレームの衝撃部内に懸架される請求項3のバット。
【請求項5】前記挿入部が管状である請求項4のバット。
【請求項6】前記間隙の厚さが、前記衝撃部の壁の厚さおよび前記挿入部の壁の厚さより小さい請求項5のバット。
【請求項7】前記管状フレームがさらに前記衝撃部の先端において直径が減少したヘッド部を具備し、
前記挿入部の第1端部が、前記フレームの前記テーパ内部の第1締まりばめによって前記フレーム内で固定され、かつ前記挿入部の第2端部が、前記バットの前記ヘッド部内の第2締まりばめによってフレームと固定されることを特徴とする請求項6のバット。
【請求項8】前記の両締まりばめが前記間隙内の前記潤滑剤を密閉する請求項7のバット。
【請求項9】前記挿入部がアルミニウムで作られた請求項8のバット。
【請求項10】前記管状フレームがアルミニウムで作られた請求項8のバット。
【請求項11】前記挿入部がチタンで作られた請求項8のバット。
【請求項12】前記挿入部が複合材料で作られた請求項8のバット。
【請求項13】前記挿入部がスチールで作られた請求項8のバット。
【請求項14】前記潤滑剤がグリースである請求項10のバット。
【請求項15】小径の握り部と直径の大きい衝撃部とを具備する中空のバットにおいて、前記バットの前記衝撃部の内壁によって円環形の間隙を形成する内部構造上の挿入部と弾性たわみが可能であり、これにより前記円環形間隙の一部を閉じて前記挿入部を係合させる機能を果たす前記衝撃部とから成るバットの改善。
【請求項16】前記間隙が塑性変形可能な材料により満たされた請求項15のバット。
【請求項17】小径の握り部、中間テーパ部、直径の大きい衝撃部および直径が減少したヘッド部を具備する中空の管状フレームと、
前記フレームの衝撃部内に懸架される管状挿入部と、
前記テーパ部に収容され、第1締まりばめによって同テーパ部に固定される前記管状挿入部の第1端部と、
前記フレームの前記ヘッド部が収容し、第2締まりばめによって同ヘッド部に固定される前記管状挿入部の第2端部と、
前記挿入部を前記管状フレームから分離し、前記第1締まりばめから前記第2締まりばめまで伸長し、バットでボールを打ったときに前記管状フレームと前記挿入部との間の相対運動を増進するためにグリースで満たされた間隙とから成り、
前記挿入部および前記フレームがアルミニウムで作られることを特徴とするバット。
【請求項18】小径の握り部と直径の大きい衝撃部とを具備し、その内径および外径が円形である中空管状バットフレームと、
ほぼ円形の断面を有し、その外径が前記フレームの衝撃部の内部より小さく、前記衝撃部内で固定される少なくとも1つの挿入部と、内側方向への弾性たわみが可能であり、これにより前記挿入部と前記衝撃部との間に強固な締まりばめを形成する前記衝撃部とから成るバット。
18. A bat, comprising:
a hollow tubular bat frame having a small-diameter handle portion and a large-diameter impact portion having a circular cross-section with an inner and outer diameter;
at least one insert having a substantially circular cross-section with an other diameter less than the inner diameter of the frame impact portion, the insert being held within the impact portion; and the impact portion being inwardly elastically defectable such to establish a tight imterference fit between the insert and the impact portion.」(column 5, line 53 - column 8, line 6/第8頁第25行?第10頁第1行)

5-2 甲第2号証:実願平3-55846号(実開平5-175号)のCD-ROM
(ア)「FRPの強化繊維の繊維方向をバットの長手方向に対し任意の角度を有するように巻着積層形成されたFRP製バットにおいて、少なくとも打球部における強化繊維の繊維方向をバットの長手方向に対し0゜になるように巻着した層を、2層以上に分散して設けたことを特徴とするFRP製バット。」(【請求項1】)

5-3 甲第3号証:特開平10-314353号公報
(ア)「打球部に相当する外管パイプの内側に、補強用の内管パイプを装着した二重管式バットにおいて、前記外管パイプの打球部の肉厚が1.00mm以上1.60mm以下であることを特徴とするソフトボール用バット。」(【請求項1】)
(イ)「図3に示すように外管パイプ2の内部に内管パイプ3を挿入する場合には、挿入がスムーズに行えるように、内管パイプ3の外径を外管パイプ2の内径よりも小さい径とし、且つ内管パイプ3の下端部3bをスピニング加工によりあらかじめ絞り込んで予備成形することにより、該下端部3bが外管パイプのシャフト部2C内側のテーパー部2E形状に合致する部位で係止することにより、外管パイプ2の内径と内管パイプ3の外径との間に0.2?0.3mm程度の隙間4を設けることにより、挿入が容易となると共にバット成形後、これら隙間4の存在によりソフトボールを打球した際の衝撃応力が加わった時に外管パイプ2の撓みを増大させるため、反発特性がより向上するものである。」(【0025】)
(ウ)「本願発明に係るソフトボール用バット1の外管パイプ2や内管パイプ3に使用す素材としては、例えば繊維強化プラスチック製(FRP製)のバットの場合には、カーボンファイバーやグラスファィバーやアラミドファィバーその他の補強繊維等を使用することが出来るものである。」(【0030】)

5-4 甲第4号証:特開平9-313650号公報
(ア)「ガットが張られるフェースフレームと、該フェースフレームに連なるシャフトフレームと、該シャフトフレームに連なるグリップ部とを有するテニスラケットにおいて、
該フェースフレーム及びシャフトフレームよりなるフレームのうち少なくとも一方のフレームが、繊維強化熱硬化性合成樹脂製の本体部と、該本体部の内部に設けられた熱可塑性合成樹脂層とで構成されていることを特徴とするテニスラケット。」(【請求項1】)

5-5 甲第5号証:特開平10-78171号公報
(ア)「ガラス繊維強化プラスチック製の内管及び外管で構成し、内管と外管の間に空隙を形成する樹脂フィルムが介在していることを特徴とする二重管。」(【請求項1】)

5-6 甲第6号証:特開平5-58395号公報
(ア)「炭素繊維強化材から成る複合材料の複数の層と、この複合材料の複数の層の各層間に介装された制振フィルム層とを有し、これらの各層を積層一体化して成形したことを特徴とするスラストチューブ。」(【請求項1】)

5-7 甲第7号証:特開平10-59476号公報
(ア)「FRP製内殻とFRP製外殻とからなる二重殻構造の直胴部と、該直胴部の両端を密閉した鏡板とで形成され、前記直胴部は内殻と外殻との間に剥離層形成用のフィルム層が少なくとも二層設けられていることを特徴とするFRP製二重殻タンク。」(【請求項1】)

5-8 甲第8号証:特開平10-44321号公報
(ア)「少なくとも両外側に配された樹脂含浸繊維層と、樹脂層とが交互にサンドイッチ状に積層されており、ガラス繊維強化樹脂複合体の構成樹脂が密度0.2?0.8g/cm^(3) を有する発泡ポリウレタンからなり、かつ複合体の繊維含有率が全体平均で5?30重量%であることを特徴とする請求項1記載のガラス繊維強化樹脂複合体。」(【請求項2】)

5-9 甲第9号証:特開平10-292899号公報
(ア)「金属製ライナーの外周を繊維強化プラスチックで補強した複合容器であって、金属製ライナーと繊維強化プラスチック層との間の全面又はその主要部分に離型剤の塗布膜、離型用フィルム又はこれらの組合せからなる固着防止層を形成させたことを特徴とする天然ガス自動車燃料装置用複合容器。」(【請求項1】)
(イ)「前記離型用フィルムがフッ素樹脂熱収縮性フィルムからなる請求項1又は2記載の天然ガス自動車燃料装置用複合容器。」(【請求項3】)

5-10 甲第10号証:特開平7-256772号公報
(ア)「回転するマンドレルに帯状体を螺旋状に巻回し、その帯状体を離型フィルムによって覆った後に、その離型フィルム上に、熱硬化性樹脂層が補強繊維によって補強された繊維強化樹脂層を積層することにより繊維強化樹脂管を製造する方法であって、
製造される繊維強化樹脂管の内周面に直接接する離型フィルムの表面に、転写可能なマーキングを施すことを特徴とする繊維強化樹脂管の製造方法。」(【請求項2】)

5-11 甲第11号証の1:国際公開00/01449号
甲第11号証の1の記載については、甲第11号証の2(特表平2002-519163号公報)の記載を援用し、一部、原文を記載する。
(ア)「第1管状部材と、
この第1管状部材に対しほぼ同心の第2管状部材とを具え、
前記第2管状部材はほぼ円周方向に最高の強度を有すると共に、この第2管状部材は前記第1管状部材に隣接する第1端部と第2端部と、これ等第1端部、及び第2端部の間にあって、前記第1管状部材に対し自由に移動できる中心部とを有することを特徴とするバット。」(【請求項1】)
(イ)「前記第2管状部材の前記中心部が間隙によって、前記第1管状部材から分離している請求項1のバット。」(【請求項12】)
(ウ)「前記間隙に潤滑剤を含んでいる請求項12のバット。」(【請求項13】)
(エ)「円周層32?37は強度が高く、剛性があり、耐久性がある構造材料から成るのが好適である。好適な実施例では、円周層32?37は炭素繊維を有する。しかし、これ等の繊維はケブラーTM、又はガラス繊維のような他の形式の既知の繊維材料であってもよい。」(【0017】)
(オ)「本発明の図示の実施例のバット10を構成するに当たり、管状フレーム11をアルミニウムで形成するのが好適である。
In constructing the bat 10 of the illustrated embodiment of the present invention, the tubular frame 11 is preferably formed from aluminum.」(page 8, line 27-28/【0025】)

6.当審の判断
請求人は上記した4つの無効理由を主張しており、審理過程において、いずれの無効理由も撤回されておらず、変更されていないことから、以下では主張する無効理由ごとに検討する。

6-1 無効理由1(新規性欠如)について

6-1-1 甲第1号証に記載された発明
上記5-1(ア)には、本発明は、ソフトボール用バットおよび野球用バットに関するものであることが記載されている。
上記5-1(ウ)には、当該バットは、直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部からなる管状アルミニウム製バットフレームと、当該管状バットフレーム内においてその両端が締まりばめされることにより衝撃部内に懸架される管状挿入部とから構成されており、懸架された挿入部の長さに沿って、衝撃部の内側と挿入部との間に間隙が存在し、この間隙が潤滑剤で満たされていることが記載されている。
前記挿入部及び前記フレームはいずれも管状(すなわち中空)であり、上記5-1(キ)に具体的数値で示されているように、管状フレームと挿入部との間の間隙は約0.007インチ(約0.18mm)と極めて薄いものであることから、断面で見れば、管状フレームと挿入部は層をなすものであり、両者の間に存在する潤滑剤も層状のものと解される。
上記した「締まりばめ」について、上記5-1(ク)には、「締まりばめ」は挿入部の端部を管状フレームに接合させるための優れた手段ではあるが、その他に、溶接、接着剤、留め具などを利用することができると記載されている。
上記5-1(ケ)には「フレームおよび挿入部の材料として本実施例ではアルミニウムを使用しているが、当然のことながら、他の多くの材料を用いても、本発明によって同様の優れた効果を得ることができる。(While the present embodiment utilizes aluminum for the frame and the insert, it should be understood that many other materials will perfrom equally well with the present invention. )」と記載され、「例えば、コストはやや高くなるが、優れた結果をもたらす挿入材としてチタンを使用することができる。(For instance, at a slightly higher cost, titanium could be used as insert material with excellent results. )」と記載され、「さらに、コストについてそれほど懸念する必要がなければ、チタン製のバットにチタンを挿入して、極めて優れた結果を実現することができる。(Furthermore, where cost is less a consideration, a titanium insert may be used within a titanium bat with outstanding results.)」と記載され、その次に「当然のことながら、他の様々な金属、複合材料、プラスチックおよびその他の材料を用いても、本発明によって同様の優れた効果を得ることができる。(It should be understood that various other materials, composite materials, plastics, and other materials may likewise perform equally as well with the present invention.)」と記載されている。
上記の摘記箇所では、まず、フレーム及び挿入部に対してアルミニウム以外の他の多くの材料を用いても良いことを記載し、次に、他の多くの材料の例として、挿入部にチタンを使用することを例示し、さらに、フレーム及び挿入部にチタンを使用することを例示した上で、「他の様々な金属、複合材料、プラスチックおよびその他の材料」を用いてもよいことが記載されているのであるから、上記「他の様々な金属、複合材料、プラスチックおよびその他の材料」を用いる対象を挿入部のみではなく、フレーム及び挿入部であると解するのが自然である。
したがって、上記5-1(ケ)には、フレームと挿入部が同一の材料で形成されること、及び、アルミニウム以外の他の様々な材料を用いても同様の優れた効果が得られることが記載されていると解される。
また、上記他の様々な材料の中に含まれる「複合材料」とは「2種以上の素材を組み合せた材料。強度を高め軽量化を実現するなど、素材より優れた性質を持たせることができる。繊維強化プラスチック(FRP)の類。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」であり、甲第13号証「化学大事典」の1983頁「複合材料」の欄に記載されているように、広義の意味においては、鉄筋コンクリートなども「複合材料」であるといえるが、ソフトボール用バットおよび野球用バットの技術分野においてそのようなものをバットの材料として使用することは技術常識から想定し得ず、また、本件特許発明の出願時において、繊維強化プラスチックはバットの材料として広く用いられている(必要ならば、甲第2号証及び甲第3号証を参照)ことから、甲第1号証における「複合材料」が繊維強化プラスチックの類を示していることは自明であるといえる。
以上のことから、上記5-1(ケ)には、フレーム及び挿入部の材料として、繊維強化プラスチックを用いることが記載されていると解することができる。
また、上記5-1(オ)、(カ)、(コ)などに、潤滑剤の例として「グリース」が記載されており、上記5-1(コ)には、潤滑剤として「テフロン(商標)」が例示されている。
上記「グリース(grease)」は「潤滑剤の一種。液体潤滑剤に濃厚化剤を分散させた固体から半固体状の潤滑剤。たとえば金属セッケンで濃厚化した石油。[マグローヒル科学技術用語大辞典第3版]」を表す技術用語であり、固体状の材料を含むものであると解され、また、上記「テフロン(商標)」には、固体状のものが含まれることは、本件特許の出願時においては技術常識である。
さらに、上記5-1(シ)の「【請求項18】」には「少なくとも1つの挿入部(at least one insert)」との記載がなされている。
以上のことから、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部からなる繊維強化プラスチック製の管状フレームと、衝撃部の管状フレーム内においてその両端が接合される少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部とから構成されるソフトボール用又は野球用バットであって、挿入部の外面と管状フレームの衝撃部の内面との間の約0.007インチの間隙にグリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層を設けたソフトボール用又は野球用バット。」(以下、「甲第1号証記載の発明A」という。)

6-1-2 本件特許発明1について
本件特許発明1は、「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バット」であり、「前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」ものであることから、バット本体を構成する繊維強化プラスチック素材は少なくとも2つの層から構成され、それら繊維強化プラスチック素材の層間に挟まれてウィークバウンダリーレアー(WBL)層が存在しているものと解される。
一方、甲第1号証記載の発明Aは、「ソフトボール用又は野球用バット」であって、繊維強化プラスチック製の管状フレームと繊維強化プラスチック製の挿入部との間に固体状潤滑剤の層を設けたものであり、これら管状フレームと挿入部とが、上記した本件特許発明1の繊維強化プラスチック素材の2つの層に相当すると解され、甲第1号証記載の発明Aと本件特許発明1とは「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バット」である点で共通しており、繊維強化プラスチック素材の層間に他の部材の層を設けている点でも共通している。
なお、本件特許発明1における「ガラス繊維強化プラスチック」及び「カーボン繊維強化プラスチック」は、「繊維強化プラスチック」の例示にすぎず、また、これらはともに繊維強化プラスチックとして、ごくありふれたものであることから、相違点としては扱わない。
次に、本件特許発明1の「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」について検討する。
本件特許発明1の「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」は「接着阻害層である」とされているが、「接着阻害層」にしてみても、「繊維強化プラスチック素材の層間」にあって、何と何との接着を阻害するのかその記載だけでは必ずしも明確ではない。
そこで、本件特許明細書を参酌すると、
「その他、マンドレルにブレード(袋)状の強化繊維を被せて金型内に配置した後に、マトリックス樹脂となるエポキシ樹脂やポリエステル樹脂等を金型内に注入し硬化させるレジン・トランスファー・モールディング成形法(RTM成形法)においては、内層のブレードを被せた上に筒状のシリコンフィルムを1層被せ、さらに外層のブレードを被せることで、シリコンフィルムが離型性の効果を発揮するために接着阻害層であるWBL層が形成される。」(段落【0013】)
「本発明の接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層6に離型効果を有する素材として、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン、テトラフルオロカーボン等からなる離型性フイルム状素材6Aを積層したり、巻着したり、筒状のものを被覆することにより形成することが出来るものである。」(段落【0023】)
「その他実施例としては、接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層6をシリコン樹脂系やフッ素樹脂系の離型剤を塗布乃至スプレーすることにより形成することも可能である。」(段落【0024】)
と記載されている。
この記載からして、「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層6」は、「離型性の効果を発揮する」もの、「離型効果を有する素材」、「離型剤」からなるものであると解される。
ここで、「離型剤」とは「ワックスやシリコーンのような潤滑剤。鋳造品を鋳型から取り出すときに付着しないように、鋳型の表面に塗っておくもの。[マグローヒル科学技術用語大辞典第3版]」を意味する用語であるので、当該「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層6」は、それ自体が他の素材(例えば、繊維強化プラスチック)との接着力が弱く、剥がれやすいものと解され、本件特許発明1においては、そのような「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層6」を繊維強化プラスチック素材の層間に設けることにより、「繊維強化プラスチック素材」の層同士の接着を阻害しているものと解される。
一方、甲第1号証記載の発明Aは「挿入部の外面と管状フレームの衝撃部の内面との間の約0.007インチの間隙にグリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層を設けた」ものであり、上記「テフロン(商標)」(翻訳文においては「Teflon(商標)」と記載され、原文では「Teflon TM」と記載されている。)は、「イー アイ デュポン ドゥ ヌムール アンド カンパニー(いわゆる、デュポン社)」の登録商標であるとともに、本件特許出願時、フッ素樹脂一般の呼称として広く知られている。
そして、当該「テフロン(商標)」は、摩擦係数が非常に小さく、潤滑性能を有し、離型効果を奏する、すなわち接着を阻害するものであることは自明であることから、甲第1号証記載の発明Aの「テフロン(商標)のような固形状潤滑剤の層」は、本件特許発明1の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に相当すると解される。
つまり、甲第1号証記載の発明Aの「挿入部の外面と管状フレームの衝撃部の内面との間の約0.007インチの間隙にグリースやテフロン(商標)のような固形状潤滑剤の層を設けた」点は、本件特許発明1の「前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けた」点と一致する。
以上のことから、甲第1号証記載の発明Aと本件特許発明1とは、
「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスック等の繊維強化プラスチック素材で構成されている野球又はソフトボール用のFRP製バットにおいて、前記繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けたことを特徴とする野球又はソフトボール用のFRP製バット。」
である点で一致しており、相違するところはない。
よって、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-3 本件特許発明2について
本件特許発明2は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が打球部に設けられた」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1に係る発明特定事項については、「6-1-2 本件特許発明1について」で記載したとおり、甲第1号証記載の発明Aと相違する部分はない。
また、甲第1号証記載の発明Aにおいて、挿入部は、衝撃部の管状フレーム内においてその両端が接合されるものであり、この「衝撃部」が、本件特許発明2の「打球部」に相当する。
そして、衝撃部に設けられた挿入部と管状フレームとの間の間隙に潤滑剤の層が設けられているのだから、本件特許発明2と甲第1号証記載の発明Aとは「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が打球部に設けられた」点でも一致している。
したがって、本件特許発明2と甲第1号証記載の発明Aとでは相違するところはなく、本件特許発明2は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-4 本件特許発明3について
本件特許発明3は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1又は2の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられた」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1及び2に係る発明特定事項については、「6-1-2 本件特許発明1について」及び「6-1-3 本件特許発明2について」で記載したとおり、甲第1号証記載の発明Aと相違する部分はない。
また、甲第1号証記載の発明Aは「少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部」を具備するものであって、挿入部を1つだけ管状フレーム内に挿入したバットを含むものである。
さらに、甲第1号証記載の発明Aは、管状フレームと挿入部との間の間隙に潤滑剤の層を設けるものであり、この場合、「潤滑剤の層」は1層であるといえるので、本件特許発明3と甲第1号証記載の発明Aとは「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられた」点でも一致している。
したがって、本件特許発明3と甲第1号証記載の発明Aとでは相違するところはなく、本件特許発明3は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-5 本件特許発明4について
本件特許発明4は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1又は2の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1及び2に係る発明特定事項については、「6-1-2 本件特許発明1について」及び「6-1-3 本件特許発明2について」で記載したとおり、甲第1号証記載の発明Aと相違する部分はない。
甲第1号証記載の発明Aは「少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部」を具備するものであり、2以上の挿入部を設けたバットとすることを包含している。
挿入部を2以上設ける場合、2つ目以降の挿入部をどの部分にどのように設け、潤滑剤の層がどのように設けられるのかが、本件特許発明4と甲第1号証記載の発明Aとを対比判断する上で重要となるので、以下に検討する。
まず、挿入部の設け方について検討する。
甲第1号証には、「管状挿入部18の第1端部20は、衝撃部12に挿入され、さらに、直径が減少するテーパ部14の内壁に接するように強く押し付けられ、これにより第一の締まりばめが形成される。管状挿入部18の第2端部22は、管状挿入部18が第1締まりばめで固定された時点で、衝撃部12の先端より内側に位置する。第2締まりばめは、挿入部の第2端部22の上部に位置する衝撃部の先端部分を曲げることにより形成される。この曲げられた部分が、管状フレーム11のうち直径が減少するヘッド部24を形成する。」(上記5-1(エ)を参照)と記載されている。
この記載によれば、挿入部の一方の端部(第1端部20)は、衝撃部の一方に隣接したテーパ部に位置し、他方の端部(第2端部22)は衝撃部の他方に隣接したヘッド部に位置しており、挿入部は衝撃部の両端部で接合されていると解される。
また、甲第1号証には「挿入部18が衝撃部12内に板ばねのように取り付けられていることにより、ボールへのパワー伝導を増大させる作用を持つ反発が得られる。」(上記5-1(カ)を参照)ことが記載されている。
この記載は、挿入部が衝撃部の両端部で接合されていることを前提に、挿入部が打撃時に板ばねとしての作用効果を発揮するとしているものと解される。
さらに、管状フレームの「衝撃部」とは、バットにおいてボールを当てて打撃力を伝達する部分を表す用語であると解される。
以上、挿入部が1つの場合、5-1(エ)の上記記載のように挿入部は衝撃部の両端部で接合されること、及び、5-1(カ)の上記記載のように挿入部が衝撃部内に板ばねのように取り付けられていることにより作用効果を発揮するものであること、さらには、「衝撃部」がボールを打つ部分であって、実際の使用において衝撃部のどこにボールが当たるか分からないこと等を考慮すると、挿入部を2以上設ける場合、複数の挿入部のそれぞれが、その両端部を、管状フレームの衝撃部の両端に接合されるように、バットの中心軸に垂直な断面でみて、同心円を描くように層状に設けられるものと解するのが自然である(なぜならば、例えば、2以上の挿入部を設ける場合、衝撃部をバットの長手方向で複数に分割し、それぞれの部分において挿入部を両端で接合するように設けることも考えられるが、そのような場合、各分割部分の境界部は、挿入部の接合部となってしまい、上記5-1(カ)の作用効果を奏しない部分が衝撃部内に出来てしまうことになるので、そのような構造を採用するとは思えないからである。)。
次に、潤滑剤の層の設け方について検討する。
複数の挿入部を設けた場合の潤滑剤の充填の仕方については、甲第1号証には明示的には何ら記載されていないのだから、複数の挿入部の間には潤滑剤を充填しないことも想定される得る。
実際、甲第1号証には「挿入部とフレームの独立した動きを可能にするため、それ自体が滑りやすくなっている挿入部およびバットフレームの材料も、同様の機能を果たすことができる。実際には、結果として挿入部とバットフレームの独立した動きを可能にするように構造が構成されていれば、潤滑剤はすべて省略することができる。」(上記5-1(コ))と記載されており、挿入部が1つの場合においても潤滑剤の層を省略することの記載がある。
しかしながら、それは、上記のように挿入部と管状フレームとの材料自体の滑りやすさにより、独立した動きが可能な場合であって、逆に、挿入部と管状フレーム自体が滑りやすい材料でない場合は、潤滑剤の層を設ける必要があることを意味していると解される。
また、複数の挿入部を設ける構造を採用し、挿入部がそれ自体滑りやすい材料でない場合においても、挿入部を複数設ける目的が、仮に、挿入部の層厚を単に厚くすることであるとした場合は、潤滑剤を充填する必要はないが、そのような目的であれば、1つの挿入部の層厚を厚くすることで足りるのだから、わざわざ、別部材とした複数の挿入部を挿入する必要もなければ、上記したような複数の挿入部それぞれの両端部を、管状フレームの衝撃部の両端で接合する構造とする必要はないことになるので、甲第1号証記載の発明Aにおいて、このような目的で複数の挿入部を設けるとは解せない。
甲第1号証記載の発明Aにおいて、挿入部を設ける目的は、上記5-1(カ)などに記載されているように、衝撃部と挿入部との間で相対的な独立した運動をさせて打球へのパワー伝導を向上させることにあることを考慮すれば、複数の挿入部を設ける構造を採用した際にも、挿入部自体滑りやすい材料でないものであるならば、目的とする打球へのパワー伝導作用をさらに向上させるべく、複数の挿入部間に潤滑剤の層を設けて各挿入部が衝撃部との間で相対的な独立した運動をできるようにすることは当然に想定され得ることと解される。
したがって、甲第1号証記載の発明Aが、「少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部」を具備するものであり、2以上の挿入部を設けたバットとすることを包含している点、及び、甲第1号証記載の発明Aにおいて潤滑剤の層を設ける技術的意義等を考慮するならば、これら甲第1号証に記載された事項に触れた当業者は、その記載から複数の挿入部の間に潤滑剤の層を設けることを把握し得るものと認められる。
つまり、甲第1号証には、本願特許発明4の「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」点は明示的に記載されていないものの、甲第1号証の記載内容を考慮すれば、記載されているに等しい事項であると解される。
したがって、本件特許発明4と甲第1号証記載の発明Aとでは相違するところはなく、本件特許発明4は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-6 本件特許発明5について
本件特許発明5は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1、2、3又は4の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が離型効果を有する素材により構成された」点をその発明特定事項として含むものである。
甲第1号証記載の発明Aにおける「固体状潤滑剤」の具体例である「テフロン(商標)」が離型効果を有する素材であることは「6-1-2 本件特許発明1について」で記載したように自明である。
したがって、本件特許発明5と甲第1号証記載の発明Aとでは相違するところはなく、本件特許発明5は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-7 本件特許発明6について
本件特許発明6は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明5の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がフィルム状の材料を積層することにより形成された」点をその発明特定事項として含むものである。
上記した発明特定事項は「フィルム状の材料を積層する」の記載が、「フィルム状の材料」を他の部材(繊維強化プラスチック素材の層)の上に重ねることを意味するのか、または、「フィルム状の材料」が、複数枚の層から構成されていることを意味するのかが、その記載からは必ずしも明確でない。
そこで、本件特許明細書を参酌すると以下のような記載がある。
【0010】「次に、接着阻害層であるWBL層を形成する方法としては、バットの成形方法にもよるが、例えばシート状のプリプレグをマンドレルに巻きつけた後に、金型に設置し、その筒状プリプレグの内部から圧力を加えて所望のバット形状に成形する内圧成形方法においては、前FRP層を形成するプリプレグの半分程度を巻き付けた後に、耐熱性のあるポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、シリコン、テトラフルオロカーボン等から適宜選択した合成樹脂製のフィルム状素材を重ねて巻き付けたり乃至は、これらの素材からなる筒状のフィルムを被覆しても良い。」
【0014】「以上のように様々なFRP成形方法において、本発明を実施することが可能であるが、接着阻害層であるWBL層の形成方法としては、フィルム状の材料を2枚以上重ねてFRP層の層間に積層もしくは埋設する方法が、簡便であり、効果が確実で、且つコストの点でも好ましい。」
【0023】「本発明の接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層6に離型効果を有する素材として、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン、テトラフルオロカーボン等からなる離型性フイルム状素材6Aを積層したり、巻着したり、筒状のものを被覆することにより形成することが出来るものである。」
【0027】「なお、本発明においては、バット本体を構成するガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材の構成は、種々の組み合わせが可能であるが、本発明のFRP製バットにおける打球部の部位の積層事例を表2に示す。」
上記段落【0010】の記載から、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層の形成方法として、FRP層を形成するプリプレグ上にフィルム状素材を巻き付けるか、筒状のフィルムで被覆することにより形成する方法が把握できる。
また、上記段落【0014】には「フィルム状の材料を2枚以上重ねて」との記載はあるものの、「FRP層の層間に積層もしくは埋設する方法」と記載されており、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層の設け方としてフィルム状の材料の「積層」と「埋設」が同列に記載されているので、「積層」自体がフィルム状の材料が2枚以上であることを意味するものではないと解される。
さらに、上記段落【0023】においても、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層の設け方としてフィルム状素材の「積層」、「巻着」、「被覆」が同列に記載されており、「積層」が「フィルム状素材」自体が2層以上であることを意味しているというよりは、むしろ、他の部材(FRP層)上に層として積み重なっていることを意味していると解される。
そして、上記段落【0027】に記載の「積層事例」は表2から複数の「フィルム状の材料」の「積層」ではなく、繊維強化プラスチックとフィルム状の材料(表2では、「PPフィルム」と記載されている)の積層配置のことであると把握できる。
以上のことを考慮すると、本件特許発明6の上記「フィルム状の材料を積層する」との記載は、フィルム状の材料を「2枚以上」積層するとの記載ではないことから、フィルム状の材料自体が複数枚(2枚以上)であることを意味するのではなく、対象となる他の部材(この場合は、繊維強化プラスチック素材の層であると解される)上にフィルム状の材料が積み重ねられていることを意味しているものと解釈するのが妥当である。
したがって、本願請求項6の上記発明特定事項は、「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が、繊維強化プラスチック素材の層の上に、フィルム状の材料を積層する(積み重ねる)ことにより形成された」ことを意味するものと解釈して以下に検討する。
上記「フィルム」は「薄皮。薄膜。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」を表す用語であり、「フィルム状の材料」とは薄膜状を呈した材料であると解される。
また、「フィルム状」というだけでは必ずしも明らかではないものの、本件明細書の上記段落等に、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層を、フィルム状素材を巻着する、あるいは、巻き付ける等により形成することが記載されていることを考慮すると、本件特許発明6における、フィルム状の材料とは、固体状であって薄膜状を呈した材料を示している、あるいは、少なくとも含むものと解される。
甲第1号証記載の発明Aにおいてウィークバウンダリーレアー(BWL)層に相当するのは「グリースやテフロン(商標)のような固形状潤滑剤の層」であり、約0.007インチ(約0.18mm)の間隙に設けられるものであることから、間隙内において、「薄膜状」すなわち「フィルム状」であることは明らかである。
また、甲第1号証には「グリースは、挿入部を管状フレーム11に挿入する前に挿入部18の表面をグリースで覆うことにより、間隙26内に取り入れられる。」(5-1(オ))との記載もあり、上記のような極めて狭い間隙に挿入されることを考慮すれば、上記「固体状潤滑剤の層」は、挿入前においても「フィルム状」の材料として挿入部の表面を覆う、すなわち、挿入部の表面に積層されることにより形成されるものを含むものと解される。
したがって、本件特許発明6と甲第1号証記載の発明Aとでは相違するところはなく、本件特許発明6は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-8 本件特許発明7について
本件特許発明7は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明5の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がシリコン樹脂系乃至はフッ素樹脂系の離型剤より形成された」点をその発明特定事項として含むものである。
前記「6-1-2 本件特許発明1について」で記載したように、甲第1号証記載の発明Aの「テフロン(商標)」は、フッ素樹脂一般の呼称であり、また、「テフロン(商標)」が離型剤となることは自明であることから、本件特許発明7の上記の点は甲第1号証に記載された事項であるといえる。
したがって、本件特許発明7と甲第1号証記載の発明とでは相違するところはなく、本件特許発明7は甲第1号証に記載された発明である。

6-1-9 無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?7は、それぞれ甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しているから、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

6-2 無効理由2(進歩性欠如)について
請求人の主張する無効理由2は、無効理由1と同様に甲第1号証を主な証拠方法としており、上記「6-1-9 無効理由1についてのまとめ」で結論したように、本件特許発明1?7は、それぞれ甲第1号証に記載された発明であるのだから、本来ならば、無効理由2について検討するまでもない。
しかしながら、甲第1号証が、外国語で記載されたものであって、その翻訳文において、以下で述べる点において、当事者間に争いがある。
この点について、上記無効理由1では、被請求人の主張を採用せず、請求人の主張を採用して、本件特許発明1?7について無効とすべきとの判断を行っている。
したがって、被請求人の主張が採用できると仮定した場合には、無効理由1が成り立たなくなり、当該審決の結論に影響を与えることとなる。
そこで、以下に示す被請求人の主張が採用できると仮定した上で、請求人の主張する無効理由2(進歩性欠如)が成り立つかを判断することは、当該審決の結論にとって重要なことであることから、以下に検討する。

6-2-1 甲第1号証に記載された発明
「4-1 無効理由1(新規性欠如)に対する反論の概要(1)」で記載したように、被請求人は、甲第1号証において「複合材料」が使用されることが記載されているのは挿入部だけであって、管状フレームに「複合材料」を使用することは記載されていないと主張している。
そこで、この主張を受け入れ、甲第1号証には管状フレームを「複合材料」で形成することが記載されていないと仮定して、甲第1号証に記載された発明を認定する。
その場合、甲第1号証には次の事項が記載されているといえる。

「直径の大きい衝撃部、中間テーパ部および小径の握り部からなる管状フレームと、衝撃部の管状フレーム内においてその両端が接合される少なくとも1つの繊維強化プラスチック製の挿入部とから構成されるソフトボール用又は野球用バットであって、挿入部の外面と管状フレームの衝撃部の内面との間の約0.007インチの間隙にグリースやテフロン(商標)のような固体状潤滑剤の層を設けたソフトボール用又は野球用バット。」(以下、「甲第1号証記載の発明B」という。)

6-2-2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲第1号証記載の発明Bとの対比は、上記前提による変更点以外は「6-1-2 本件特許発明1について」で記載したとおりであるから、両者は、本件特許発明1が、バット本体の全部が繊維強化プラスチック素材で構成されているのに対して、甲第1号証記載の発明Bは、バット本体を構成する管状フレームについて、繊維強化プラスチック素材で構成されていることの特定がない点でのみ相違していると認められる。
そこで、上記相違点について以下に検討する。
甲第1号証には、管状フレームを繊維強化プラスチックで形成することは明記されていないものの、管状フレームの材料として他の多くの材料を用いてもよいことは記載されている(5-1(ケ)参照)。
また、甲第2号証には、複数層の繊維強化プラスチックの層でバット全体を形成したFRP製バットが開示されており(上記5-2(ア)参照)、甲第3号証には、打球部に相当する外管パイプの内側に、補強用の内管パイプを装着した二重管式バットにおいて外管パイプ及び内管パイプの素材として繊維強化プラスチックを使用したソフトボール用バットが記載されている(上記5-3(ウ)参照)。
本件特許発明の出願前において、野球又はソフトボール用のバットの素材として繊維強化プラスチックを使用することは周知・慣用であって、上記した各甲号証に記載されているように、複数層構造を採るバットにおいて、内外の層をともに繊維強化プラスチックの層として形成することも従来周知の技術であると解される。
なお、被請求人は「4-1 無効理由1(新規性欠如)に対する反論の概要(1)」で記載したように、管状フレーム11と挿入部18の間にすき間を構成する場合、打球時にそれぞれが単独で変形するため、管状フレーム11は強い耐久性が要求されるため、商品化されているこのタイプのバットでは、外側の管状フレームは金属製であるとの趣旨で反論しているが、上記甲第2号証や甲第3号証で例示されるように、「バット本体」の全体を繊維強化プラスチックで形成したバットが周知であること考えれば、管状フレームに繊維強化プラスチックを用いることが強度の点から困難であるとする理由は見当たらない。
したがって、これらの事項を勘案すれば、相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて、当業者が想到容易な事項であると認められる。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は答弁書、平成19年7月3日付け口頭審理陳述要領書及び平成19年7月10日付け上申書において、本件特許発明では、「『ウィークバウンダリーレアー(WBL)層』を含め『バット本体』は一体のものであって、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層の外側の層と内側の層との間に間隙はない。もちろん、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層が変形することにより、その外側の層と内側の層が相互に自由に運動するものでもない。」(答弁書第13頁第7?11行記載を引用)と主張し、よって、「管状フレーム11と挿入部18との間隙部26にあり、挿入部18が管状フレーム11の衝撃部12のたわみを囲むように独立して伸長するように、間隙部内で流動、変形する」(答弁書第12頁第28行?第13頁第1行記載を引用)ような甲第1号証の「潤滑剤」は本件特許発明の「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に該当しないとの趣旨の主張を再三にわたり行っているので、この点について付言する。
被請求人は「一体」をどのような意味として主張しているのか、上記各書類の主張内容からは、明確に把握できないが、一体とは「(1)一つのからだ。同一体。(2)一つになって分けられない関係にあること。同類。(3)一つの様式、体裁。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]」などを意味する用語であることから、上記主張内容を考慮すると、被請求人が主張する「一体」の意味は、「(バット本体を構成する部材が)一つになって分けられない関係にあること」であると解される。
しかしながら、本件特許発明1において「一体」であるとの記載による限定はなく、他の本件特許発明2?7においても同様である。
また、本件特許明細書を参酌しても、「一体」との文言は一切記載されていない。
そこで、本件特許明細書の記載を詳細に検討すると、本件特許明細書にはバットの成形方法として、例えば、シート状のプリプレグをマンドレルに巻きつけた上に、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層となるフィルム状素材を巻き付け、更にその上にプリプレグを巻きつけてから内圧成形することで、FRP層とFRP層の間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を形成する方法(段落【0010】、【0011】参照)などが記載されている。
これらの方法で形成されたバットは、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層の(長手方向)両端部より長手方向外側においては、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層が間に介在していないため、FRP層が一つになっていると考えられるので、このバット本体を構成するFRP層に限定して考えれば、バットの形成方法を考慮することによって、「一体」であると捉えることは一応、可能であるといえる。
ただし、このような限定においては、本件特許発明1と甲第1号証記載の発明Bとが相違しているとは認められない。
なぜならば、甲第1号証記載のバットは管状フレームと挿入部とを別部材として成形するものの、最終的なバットとしては、別部材であった挿入部の両端部が管状フレームの衝撃部において締まりばめ、溶接、接着剤、留め具等により接合されるため、管状フレームと挿入部とは「一体」、つまり、一つになって分けられない関係となっているからである。
しかも、被請求人の上記主張は、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を含め「バット本体」は一体のものであるというものであって、上記のように「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」を除いたFRP層が一体であることを主張しているものではない。
それでは、なぜ、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」も含めて「一体」といえるのかが問題となるが、その点に関し、被請求人は確たる証拠の提示や論理的な説明を何らしていない。
そもそも、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」は離型効果を有する素材からなるもの(本件特許発明5)であり、「接着阻害層」であることから、「ウィークバウンダリーレアー(WBL)層」とそれと接している繊維強化プラスチック層(FRP層)とは接着されておらず、すなわち一体となっていないと解することの方が理にかなっている。
さらに言えば、本件特許発明は、バットにおける反発性能と耐久性を両立させることを目的としており(段落【0005】)、繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けることにより「従来のFRP製バットと比べて、偏平剛性を小さくして、ボールの反発性能を高めるトランポリン効果をより大きくすると共に、耐久性に係る偏平強度の低下を防止することにより耐久性に優れた高性能のFRP製バットが提供出来るものである。」(段落【0006】)という効果を奏するものとされている。
ここでいう「偏平剛性」はバットのつぶれ難さを表すものであり、「トランポリン効果」は、変形の復元を利用してボールを飛ばす効果のことであって、肉厚が薄いほど効果が大きくなるものであり、「偏平強度」は、荷重に対する破壊し難さを表すものである。
上記効果や、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層が接着阻害層であって、離型効果を有するものであることを勘案すると、繊維強化プラスチック素材の層とウィークバウンダリーレアー(WBL)層とが「一体」であるとは解し得ない。
もし、ウィークバウンダリーレアー(WBL)層と繊維強化プラスチック素材からなるバット本体とが「一体」であるならば、当該ウィークバウンダリーレアー(WBL)層は、「接着阻害層である」点、あるいは「離型効果を有する素材」(本件特許発明5)である点等にかかわらず、周囲にある繊維強化プラスチック素材と一つになって運動することとなり、それでは、わざわざウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設ける技術的な意味がなく、上記のような作用効果を奏するものとも認められない。
したがって、上記した被請求人の主張は、本件特許明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮したとしても、その根拠が見出せず、技術的に理解できないものであって、本件特許明細書に基づかない主張であるといえ、採用することができないものである。

6-2-3 本件特許発明2について
本件特許発明2は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が打球部に設けられた」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1に係る発明特定事項については、「6-2-2 本件特許発明1について」で記載したとおりである。
上記「その他」の発明特定事項については、「6-1-3 本件特許発明2について」で記載したとおりである。
したがって、本件特許発明2は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6-2-4 本件特許発明3について
本件特許発明3は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1又は2の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に1層だけ設けられた」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1及び2に係る発明特定事項については、「6-2-2 本件特許発明1について」及び「6-2-3 本件特許発明2について」で記載したとおりである。
上記「その他」の発明特定事項については、「6-1-4 本件特許発明3について」で記載したとおりである。
したがって、本件特許発明3は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6-2-5 本件特許発明4について
本件特許発明4は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1又は2の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が繊維強化プラスチック素材の層間に2層以上設けられた」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1及び2に係る発明特定事項については、「6-2-2 本件特許発明1について」及び「6-2-3 本件特許発明2について」で記載したとおりである。
上記「その他」の発明特定事項については、「6-1-5 本件特許発明4について」で記載したとおりである。
したがって、本件特許発明4は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6-2-6 本件特許発明5について
本件特許発明5は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明1、2、3又は4の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層が離型効果を有する素材により構成された」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明1?4の発明特定事項については、「6-2-2 本件特許発明1について」ないし「6-2-5 本件特許発明4について」で記載したとおりである。
上記「その他」の発明特定事項については、「6-1-6 本件特許発明5について」で記載したとおりである。
したがって、本件特許発明5は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6-2-7 本件特許発明6について
本件特許発明6は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明5の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がフィルム状の材料を積層することにより形成された」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明5の発明特定事項については、「6-2-6 本件特許発明5について」で記載したとおりである。
上記「その他」の発明特定事項については、「6-1-7 本件特許発明6について」で記載したとおりである。
したがって、本件特許発明6は、甲第1号証記載の発明B及び周知用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、上記4-1(3)に記載したように、被請求人は、甲第1号証には、潤滑剤として、「フィルム状の材料」は記載されておらず、本件特許発明6の「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がフィルム状の材料を積層することにより形成された」点については、甲第1号証には記載されていないとの主旨で主張している。
しかしながら、本件特許の出願時において、プラスチックなど特定の素材と接着しないか接着力が極めて弱いことを利用して、特定の素材が他の部材と接着しないように間に介在させる離型剤を、シート状やテープ状のフィルムとして形成したものは、甲第7号証、甲第9号証及び甲第10号証などにて例示されるように、周知・慣用技術である。
また、甲第1号証記載の発明Bにおいて、「潤滑剤」は、挿入部と管状フレームの独立した動きを可能にするため(上記5-1(コ))、つまり、接着してしまわないように両者間に介在させるものであることから、上記の周知・慣用技術である、シート状またはテープ状の離型フィルムを採用することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。
よって、仮に、被請求人の上記主張を採用したとしても、本件特許発明6は、甲第1号証記載の発明B及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、結論に変わりはない。

6-2-8 本件特許発明7について
本件特許発明7は「2.本件特許発明」で認定したように、本件特許発明5の発明特定事項全てを発明特定事項としており、その他「前記接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層がシリコン樹脂系乃至はフッ素樹脂系の離型剤より形成された」点をその発明特定事項として含むものである。
本件特許発明5の発明特定事項については、「6-2-6 本件特許発明5について」で記載したとおりである。
上記「その他」の発明特定事項については、「6-1-8 本件特許発明7について」で記載したとおりである。
したがって、本件特許発明7は、甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6-2-9 無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?7は、それぞれ甲第1号証記載の発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

6-3 無効理由3(進歩性欠如)について

6-3-1 甲第3号証に記載された発明
上記5-3(ア)?(ウ)の記載を含む甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「打球部に相当する外管パイプの内側に、補強用の内管パイプを装着した二重管式ソフトボール用バットにおいて、外管パイプや内管パイプにカーボンファイバーやグラスファイバーなどの繊維強化プラスチックを使用するとともに、外管パイプの内径と内管パイプの外径との間に0.2?0.3mm程度の隙間を設けた二重管式ソフトボール用バット。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)

6-3-2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲第3号証記載の発明とは、
「バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材で構成されているソフトボール用のFRP製バット。」
である点で一致し、本件特許発明1が、繊維強化プラスチック素材の層間に接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層を設けたものであるのに対し、甲第3号証記載の発明がそのような層を設けたものでない点で相違している。
当該相違点について検討する。
甲第3号証にはその作用効果として、「二重管式のバットの反発性能が良好で飛距離が向上し、且つ強度的にも十分な耐久性を有する最適な肉厚の組み合わせのバットを供給することが出来るものである。」(段落【0032】)と記載されており、反発性能と耐久性という本件特許発明1と同様の作用効果が記載されている。
しかしながら、甲第3号証には、上記相違点に係る発明特定事項について記載も示唆もされていない。
甲第3号証において、外管パイプの内径と内管パイプの外径との間に隙間を設けることは記載されているものの、その隙間にフィルム等の他部材を介在させるようなことは記載も示唆もされていないのだから、甲第5号証?甲第7号証に記載されているFRP製の二重管ないし二重殻の製造方法のように、外管パイプと内管パイプとの間に樹脂フィルムを介在させるような技術を適用する必要性や動機付けを認めない。
次に、甲第3号証には、外管パイプと内管パイプを一体成形するとの記載(段落【0023】参照)があり、上記「隙間」に空気等の気体を積極的に封じ込めるようなことは記載されていない一方で、真空状態とするとの記載もない。上記「隙間」は、敢えて真空状態にしない限り、空気等の何らかの気体が存在することが考えられる。
そこで、この空気の「層」が、本件特許発明1の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」に相当するかについて、さらに検討する。
上記6-1-2に記載したように、本件特許発明1の「接着阻害層であるウィークバウンダリーレアー(WBL)層」は、「離型性の効果を発揮する」もの、「離型効果を有する素材」、「離型剤」からなるものであると解される。
したがって、たとえ、空気の「層」が存在していたとしても、それが「離型性の効果を発揮する」もの、「離型効果を有する素材」、「離型剤」であるとは一般的に解し得ないことから、上記相違点に係る発明特定事項に相当するものとは認められない。
さらに、甲第3号証の段落【0004】には、従来技術として、二重管の中間層にゴム質又は合成樹脂の板あるいはそれらのパイプを挿入接着した打球層が三重構造とした金属製のバットについて記載されている。
しかし、この中間層であるゴム質又は合成樹脂の板あるいはそれらのパイプは、外管パイプ又は内管パイプ、あるいはその両方と接着されるものであり、「離型性の効果を発揮する」もの、「離型効果を有する素材」、「離型剤」であるとの記載もないことから、この従来技術の記載においても、上記相違点に係る発明特定事項に相当するものが記載、示唆されているとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲第3号証記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとは認めない。

6-3-3 本件特許発明2?7について
上記「6-3-2 本件特許発明1について」で記載したように、本件特許発明1は、甲第3号証記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとは認められないことから、本件特許発明1の発明特定事項を全て備え、その他の発明特定事項をさらに備えている本件特許発明2?7は、甲第3号証記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとは認めない。

6-3-4 無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?7についての特許は、無効理由3により無効とすべきものとは認めない。

6-4 無効理由4(拡大された先願の地位)について

6-4-1 甲第11号証の1に記載された発明
上記5-11(ア)?(オ)の記載を含む甲第11号証の1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「第1管状部材と、この第1管状部材に対しほぼ同心の第2管状部材とを具え、第2管状部材は、第1管状部材の衝撃部に位置し、第2管状部材の両端は第1管状部材に締まりばめにより取り付けられ、その中心部は間隙によって第1管状部材から分離しており、前記間隙に潤滑剤を含んでおり、第2管状部材は複合材料のシートをマンドレルの周りに巻き付けることによって、形成するものである、ソフトボール用又は野球用のバット。」(以下、「甲第11号証の1記載の発明」という。)

6-4-2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲第11号証の1記載の発明とを比較すると、少なくとも、本件特許発明1は、バット本体がガラス繊維強化プラスチックやカーボン繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック素材で構成されているのに対して、甲第11号証の1記載の発明は、第1管状部材が繊維強化プラスチックで形成されたものとは特定されていない点で、両者は相違している。
この点について、検討する。
甲第11号証の1には上記5-11(オ)で記載したように、管状フレーム11(第1管状部材)をアルミニウムで形成するのが好適であることは記載されているが、他の材料で形成することができることやその具体的な材料について何ら記載されていない。
甲第11号証の1には管状部材18(第2管状部材)を複合部材で形成することが記載されており、本件特許の出願時において、バットを形成する材料として、繊維強化プラスチックが周知・慣用されていたものであることは認められるものの、上記「アルミニウムで形成するのが好適である」との記載から、第1管状部材を繊維強化プラスチックで形成することまでが甲第11号証の1に記載されていたとはいえない。
したがって、本件特許発明1と甲第11号証の1記載の発明とは、少なくとも上記の点において相違しており、同一であるとはいえない。

6-4-3 本件特許発明2?7について
上記「6-4-2 本件特許発明1について」で記載したように、本件特許発明1は、甲第11号証の1記載の発明と同一であるとはいえないことから、本件特許発明1の発明特定事項を全て備え、その他の発明特定事項をさらに備えている本件特許発明2?7は、甲第11号証の1記載の発明と同一であるとはいえない。

6-4-4 無効理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?7についての特許は、無効理由4により無効とすべきものとは認めない。

6-5 まとめ
上記で検討したとおり、本件特許発明1?7は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであって、それらの特許は、請求人が無効理由1として主張するように、無効とすべきものである。
また、仮に、甲第1号証の記載が、被請求人が主張するようなものであって、無効理由1が成り立たないと仮定したとしても、本件特許発明1?7は、甲第1号証記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求人が無効理由2として主張するように、無効とすべきものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1?7についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-30 
結審通知日 2007-09-04 
審決日 2007-09-28 
出願番号 特願平11-11325
審決分類 P 1 113・ 113- Z (A63B)
P 1 113・ 121- Z (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 英司  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 尾崎 俊彦
七字 ひろみ
登録日 2003-09-19 
登録番号 特許第3474793号(P3474793)
発明の名称 野球又はソフトボール用のFRP製バット  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 水沼 淳  
代理人 生川 芳徳  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 城山 康文  
代理人 津国 肇  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 琴浦 諒  
代理人 田巻 文孝  
代理人 中村 稔  
代理人 相良 由里子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ