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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12M
管理番号 1191983
審判番号 不服2003-275  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-06 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 平成 9年特許願第 32413号「電極、検出装置およびセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月 2日出願公開、特開平10-146183〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯及び本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成9年2月17日(優先日 平成8年9月19日、特願平8-248333号)を出願日とする出願であって、平成20年1月7日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおり記載されている。
「第1の核酸を固定化した第1の電極と、
第2の核酸を固定化するとともに、前記第1および前記第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置された第2の電極と、
前記第1および前記第2の電極に接続された電源と、
前記電源の動作によって生じた信号を測定する測定手段と、
を具備したことを特徴とする検出装置。」(以下、「本願発明」という。)
2.当審における拒絶の理由
これに対して、当審において平成20年4月16日付けで通知した拒絶の理由は、本願発明の詳細な説明には、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえず、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断
(1)当審における拒絶の理由の概要
当審の拒絶の理由の概要は、本願請求項1には「第2の核酸を固定化するとともに、前記第1および前記第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置された第2の電極と」と記載され、第1?第3の核酸の関係については、第3の核酸が第1及び第2の両方の核酸にハイブリッドできるものであることが記載されているだけであるので、本願発明に係る検出装置には、第3の核酸の端部のみが第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する装置と、第3の核酸全体が第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する装置、という2つの態様が包含されるものである。
しかしながら、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願発明の詳細な説明にはいずれの態様の検出装置についても、当業者が実施できるよう明確かつ十分に記載されているとはいえないというものである。
(2)本願明細書の記載
第1?第3の核酸の関係に対応する本願明細書の記載は段落【0041】であり、特に中頃から「第1および第2の電極の位置関係は、第3の核酸とハイブリッドを形成可能な位置に配置されていれば限定されないが、安定したハイブリッドの形成を促すために対向して配置することが望ましい。第1および第2の電極を対向して配置した場合、第1および第2の電極の間隔は第3の核酸の長さに依存して決定される。すなわち、第3の核酸は、第1および第2の核酸の双方と端部(5´端および3´端)の領域でハイブリッドを形成するので、第1、第2および第3の核酸の長さをA、BおよびCとすれば、第1および第2の電極の間隔Lは、C+2α≦L<A+B+C+2α(αは第1および第2の核酸に導入されたチオール基等による余剰の長さ)の範囲となるように設定される。しかしながら、第1および第2の核酸に第3の核酸が安定して結合するためには、第1および第2の核酸と第3の核酸とが5?30塩基程度に渡ってハイブリッドを形成する必要があり、また、第1および第2の核酸においてハイブリッドを形成する領域が30塩基を越えると非特異的なハイブリッドの形成を引き起こす可能性が高くなることから、第1および第2の電極の間隔LはL=A+B+C+2α-(10塩基?60塩基の長さ)の範囲で調整されることが望ましい。具体的には、第1および第2の電極の間隔Lは10nm?1mm、好ましくは、50nm?1μm 程度に設定される。また、第1および第2の核酸と第3の核酸とがハイブリッドを形成するように第1および第2の電極を配置するためには、例えば、第1および第2の電極をキャピラリーの内部にフォトリソグラフィーを用いて作り込むようにするとよい。このような構成によれば、第1および第2の電極を配置したキャピラリーの内部でハイブリダイゼーションを行うことができ、ハイブリダイゼーション後における第1および第2の電極の洗浄や、第1および第2の電極に接続された電源より電圧を印加して生じた信号の測定も容易に行うことができる。」と記載されている。
上記記載によれば、第3の核酸の端部のみが第1及び第2の核酸とハイブリダイズする態様の検出装置が好ましいものであるが、第3の核酸全体が第1及び第2の核酸とハイブリダイズする態様のものも、排除されているわけではないことがわかる。
(3)当審の判断
(3-1)第3の核酸の端部のみが第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する場合の本願発明の実施可能性
この場合の本願検出装置の原理は、1本鎖核酸を導電体とみなし、第3の核酸が第1および第2の核酸とハイブリッドを形成するとハイブリッドの形成部を通じて回路が構成され、ここで2つの電極間に電圧を印加するとこの回路を通じて電流が流れるというものであり、電流値等の電気的信号を検出して第3の核酸の存在を検出するものである。
しかしながら、「1本鎖核酸が導電体である」ことは、本願出願当時の技術常識であったとはいえず、仮に本願出願当時にそのような仮説があったとしても、本願の出願後1年以上経過した1998年以降に次第に解明された事実は、二重らせん構造を有する2本鎖核酸のみがそのπスタッキング構造を電子が通過し導電性を有するということである(必要があれば、BUNSEKI KAGAKU(2006)Vol.55,No.12,p.919-923《以下、「参考文献」という。》、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2005)Vol.102,p.11606、J.Am.Chem.Soc.(2005)Vol.127,p.10160、Science(2001)Vol.291,p.280、Nature(1999)Vol.398p.407、Nature(2000)Vol.403,p.635、J.Am.Chem.Soc.(1998)Vol.120,p.6165、J.Am.Chem.Soc.(2005)Vol.127,p.3280等参照)。
これに対して審判請求人は、平成20年6月23日付で提出した意見書に添付した本願優先日前に頒布された刊行物であるScience(1995)Vol.267,p.1270を示し、そこには、2本鎖のDNAは、πスタックによる良好な電気伝導性を示すが、1本鎖のDNAはπスタックを有しないことから、2本鎖の場合より電流が遅くなる旨記載され、1本鎖のDNAを溶液に浸漬することで電気伝導の速度を増大できること及びDNAの電気伝導性をセンサとして利用可能であることも示唆していることから、1本鎖のDNAが電気伝導性を有することは本願優先日前当業者の技術常識である旨主張している。
しかしながら、上記刊行物の該当箇所を逐次的に訳すと「π-スタッキングの伝導性が向上すると、たとえば血液中のDNA配列または水中の病原体を正確に検出するなど、最高の生物学的センサーとなり得ることがわかった。MeadeとKayyemの考えは次のとおりである。まず、電子ドナーおよび受容体複合体を含む特定のDNA鎖を一本構築し、基質に固定する。その後、電気回路に接続し、電子の通過速度を計測する。そのDNA鎖にはπ-スタッキングは存在しないため、電流は低速で流れると思われる。しかし、DNA相補鎖を含む血液などの溶液に基質を浸漬させると、その鎖に結合してらせん構造が構築され、伝導速度が急激に上がると考えられる。」と記載されており、1本鎖DNAには電流が低速で流れるであろうという仮説が記載されているにすぎず、このDNAに対し相補鎖が結合して二重らせんになると伝導速度が急激に上がり、相補鎖の存在を検出できるセンサになるのではないかという期待が記載されているにすぎないので、審判請求人の上記主張は採用できない。
そして、たとえ上記記載中の仮説を考慮したとしても、上記刊行物の「1本鎖DNAには電流が低速で流れるであろう」という記載からでは、検出装置として機能する程度に、1本鎖核酸中を検出できる程の電流が流れるかは依然として不明であり、さらにいえば、本願発明の検出装置が検出しようとする、1本鎖(第1の核酸)-2本鎖(第1と第3の核酸のハイブリダイズ部位)-1本鎖(第3の核酸)-2本鎖(第3と第2の核酸のハイブリダイズ部位)-1本鎖(第3の核酸)という、単なる1本鎖ではない第1?第3の核酸によって形成された切り貼りのようなDNA鎖であっても、電流が流れるのか、仮に流れたとしても検出可能な程度の電流の量であるかどうかについては不明のままである。
そうすると、1本鎖核酸が導電体であることを原理とする、第3の核酸の端部のみが第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する場合の本願発明については、その原理の理論的裏付けを欠くものであるから、当業者が実施できるよう明確かつ十分に本願明細書に記載されているとはいえない。
(なお、当審では、本願明細書の実施例14?18には、「DNAの濃度を定量できることが確認された」等の一般的な記載がなされているものの、実際にどの程度の濃度のDNAをどのように検出できたか等について具体的な記載がなされていないため、対応する実験の測定データの提出を求めたが、請求人からは提出しない旨の回答があった。)
(3-2)第3の核酸全体が第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する場合の本願発明の実施可能性
この場合には、第3の核酸全体が、互いに隣接した第1及び第2の核酸とハイブリッドを形成すると2本鎖DNAとなるので、理論的には電流が流れるかもしれないが、上記参考文献には、該文献が頒布された2006年までDNAの1本鎖から2本鎖への構造変化を電気的に検出した例がなかった理由として、「このような検出を可能にするには電極間ギャップを検出目的の分子サイズ(数?数十nm)に微細化しなければならない。しかしながら、現在のリソグラフィー技術は高額な装置や熟練を要するだけでなく、最高分解能を持つ電子ビームリソグラフィー(線幅約50nm)でも充分な精度は得られていない。」(第919頁左欄下から第6行?同頁右欄第1行)と記載され、本願出願後であっても電極間ギャップを検出目的の分子サイズ(数?数十nm)に微細化できなかった技術的困難性が存在し、これが克服されるためには、金ナノ粒子間のギャップをナノメートルサイズで制御した金ナノ粒子膜の開発が必要であったことが記載されている。
これに対して、審判請求人は平成20年6月23日付で提出した意見書中で、μm程度の電極間ギャップで核酸の検出が可能であり、一般的に良く用いられるプラスミド等の数kbp(キロベース)の長さのDNAでは、直鎖の長さが数μmであり、このような1μm程度(場合により、μm程度)以上の電極間ギャップを作製することは可能であった旨、主張している。
なるほど、本願請求項1には何を検出するための検出装置かが記載されていないので、検出する対象としての第3の核酸は、たとえば長さが数μmのDNA分子でも対象になるかもしれないが、一方、本願明細書に記載の本願発明の目的からみて、隣接する第1及び第2の核酸は、その標的としての第3の核酸の存在を特異的に検出する、どちらもいわゆる特異的プローブの役割を果たす必要がある
一般的に特異的プローブとして用いる核酸は、上記(2)の本願明細書にも「第1および第2の核酸と第3の核酸とが5?30塩基程度に渡ってハイブリッドを形成する必要があり、また、第1および第2の核酸においてハイブリッドを形成する領域が30塩基を越えると非特異的なハイブリッドの形成を引き起こす可能性が高くなる」と記載されているように、せいぜい数十塩基の長さであるから、本願発明の目的を達成するためには、2つの電極間ギャップは最長でも200塩基以下、距離にすると、1塩基約0.34nmとして、約0.068μm以下でなければ、本願発明の目的を達成することはできないといえるから、審判請求人の主張するように1μm程度の電極間ギャップを作製することは可能であったとしても、第3の核酸全体が第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する場合の本願発明の検出装置の電極間ギャップは、それよりずっと小さいものでなければならないところ、そのような電極間ギャップを作製することは、上記参考文献に記載されているとおり、本願出願当時当業者にとって極めて困難であったといえるから、審判請求人の上記主張は採用できない。
したがって、第3の核酸全体が第1及び第2の核酸とハイブリダイズすることにより生じた信号を検出する場合の本願発明の検出装置については、本願出願時の技術常識を参酌しても当業者といえども製造することが難しいものであるので、そのような本願発明について、当業者が実施できるよう明確かつ十分に本願明細書に記載されているとはいえない。

(4)小括
以上のように、本願発明に係る検出装置についてはいずれの態様のものであっても、当業者が実施できるよう明確かつ十分に本願発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-26 
結審通知日 2008-12-02 
審決日 2008-12-15 
出願番号 特願平9-32413
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C12M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子山中 隆幸  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鈴木 恵理子
光本 美奈子
発明の名称 電極、検出装置およびセンサ  
代理人 須山 佐一  

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