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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1192002
審判番号 不服2005-20610  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-26 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 特願2002-253817「ノズルプレートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月19日出願公開、特開2003-231259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成14年8月30日(優先日:平成13年12月3日、出願番号:特願2001-369166号)の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年12月27日付けで手続補正がされたが、平成17年9月15日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年10月26日付けで審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がされたものである。

第2 平成17年10月26日付けの手続補正について
1.本件補正の内容
平成17年10月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)における特許請求の範囲についての補正は、補正前(平成16年12月27日付け手続補正書参照)に
「【請求項1】 ポンチ加工によって複数の下孔を素材プレートに列設する下孔形成工程と、該下孔形成工程によって上記素材プレートの裏面側に膨出した膨隆部を除去する膨隆部除去工程とを順に経ることで、前記下孔を板厚方向に貫通させて複数のノズル開口からなるノズル列を横並びに複数列設けるノズルプレートの製造方法であって、
上記下孔形成工程にて、複数のポンチを上記ノズル列の列間方向に配置し、同じノズル列に属する複数の下孔にあっては1個の同じポンチを使用して形成することを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項2】 複数のポンチを、ノズル列同士の間隔に対応させた間隔で連結部材に取り付けてポンチ組とし、
上記複数のポンチによる複数列のポンチ加工の終了後に、上記ポンチ組をノズル列の列間方向に移動させて次の複数列に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項3】 上記各ノズル列の形成間隔を等しく設定すると共に、上記各ポンチの取付間隔をノズル列の形成間隔の整数倍に設定し、
上記複数のポンチによる複数列のポンチ加工の終了後に、上記ポンチ組を上記ノズル列の形成間隔に対応する間隔だけ移動させて他のノズル列に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項4】 隣り合う一対のノズル列によってノズル列組を構成すると共に、各ノズル列組同士の配列間隔をノズル列組内におけるノズル列同士の形成間隔よりも大きく設定し、
上記複数のポンチによる複数列のポンチ加工の終了後に、上記ポンチ組をノズル列の列間方向に移動させて他のノズル列に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項5】 上記各ポンチの取付間隔をノズル列組内におけるノズル列の形成間隔に設定し、
ポンチ加工の終了後に上記ポンチ組をノズル列組の配列間隔に対応する距離だけ列間方向に移動させて他のノズル列組に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項4に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】 上記素材プレートとして複数のノズルプレートを作製可能な大形素材プレートを用い、
上記の下孔形成工程及び膨隆部除去工程を該大形素材プレートに対して行った後に、該大形素材プレートを複数のノズルプレートに分割する分割工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】 上記ポンチ組をノズル列の数に対応する個数のポンチで構成し、該ポンチ組を複数用意して複数のノズルプレートに対するポンチ加工を一斉に行なうことを特徴とする請求項6に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】 上記ポンチ組を各ノズルプレート毎に配置し、各ノズルプレートのポンチ加工を一斉に行なうことを特徴とする請求項7に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項9】 上記大形素材プレートの余剰領域に、余剰のノズル列に対応する下孔を捨て打ちすることを特徴とする請求項6から請求項8の何れかに記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項10】 液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドに用いられ、列設された複数のノズル開口によって構成されたノズル列を横並びに複数列備えたノズルプレートにおいて、
ノズル開口の形状を示すノズルプロファイルに関し、同じノズル列に属するノズル開口は同じ1個のポンチにより形成したノズルプロファイルであり、且つ、ノズル列内における公差を、ノズル列同士における公差よりも小さく設定したことを特徴とするノズルプレート。
【請求項11】 上記ノズルプロファイルは、液滴吐出側に位置する断面円形状のストレート部を含み、該ストレート部におけるノズル列内の公差をノズル列同士の公差よりも小さく設定したことを特徴とする請求項10に記載のノズルプレート。
【請求項12】 列設された複数のノズル開口によるノズル列を横並びに複数列有するノズルプレートと、上記ノズル開口と連通する圧力室が複数形成された流路基板と、上記圧力室内に充填された液体に圧力変動を発生させる圧力発生素子とを具備した液体噴射ヘッドであって、
ノズル開口の形状を示すノズルプロファイルに関し、同じノズル列に属するノズル開口は同じ1個のポンチにより形成したノズルプロファイルであり、且つ、ノズル列内における公差を、ノズル列同士における公差よりも小さく設定したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項13】 上記ノズルプロファイルは、液滴吐出側に位置する断面円形状のストレート部と、流路基板側に位置すると共に該流路基板側に拡開するテーパ部と、上記ストレート部とテーパ部を連続させる曲面部とで構成されていることを特徴とする請求項12に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】 上記ノズル列が吐出される液体の種類に応じた複数列設けられていることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の液体噴射ヘッド。」
とあったものを、
「【請求項1】 ポンチ加工によって複数の下孔を素材プレートに列設する下孔形成工程と、該下孔形成工程によって上記素材プレートの裏面側に膨出した膨隆部を除去する膨隆部除去工程とを順に経ることで、前記下孔を板厚方向に貫通させて複数のノズル開口からなるノズル列を横並びに複数列設けるノズルプレートの製造方法であって、
上記下孔形成工程にて、複数のポンチを上記ノズル列の列間方向に配置し、同じノズル列に属して同一色のインクを吐出するノズル開口となる複数の下孔にあっては1個の同じポンチを使用して形成することを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項2】 複数のポンチを、ノズル列同士の間隔に対応させた間隔で連結部材に取り付けてポンチ組とし、
上記複数のポンチによる複数列のポンチ加工の終了後に、上記ポンチ組をノズル列の列間方向に移動させて次の複数列に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項3】 上記各ノズル列の形成間隔を等しく設定すると共に、上記各ポンチの取付間隔をノズル列の形成間隔の整数倍に設定し、
上記複数のポンチによる複数列のポンチ加工の終了後に、上記ポンチ組を上記ノズル列の形成間隔に対応する間隔だけ移動させて他のノズル列に対するポンチ加工を行なうこと
を特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項4】 隣り合う一対のノズル列によってノズル列組を構成すると共に、各ノズル列組同士の配列間隔をノズル列組内におけるノズル列同士の形成間隔よりも大きく設定し、
上記複数のポンチによる複数列のポンチ加工の終了後に、上記ポンチ組をノズル列の列間方向に移動させて他のノズル列に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項5】 上記各ポンチの取付間隔をノズル列組内におけるノズル列の形成間隔に設定し、
ポンチ加工の終了後に上記ポンチ組をノズル列組の配列間隔に対応する距離だけ列間方向に移動させて他のノズル列組に対するポンチ加工を行なうことを特徴とする請求項4に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】 上記素材プレートとして複数のノズルプレートを作製可能な大形素材プレートを用い、
上記の下孔形成工程及び膨隆部除去工程を該大形素材プレートに対して行った後に、該大形素材プレートを複数のノズルプレートに分割する分割工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】 上記ポンチ組をノズル列の数に対応する個数のポンチで構成し、該ポンチ組を複数用意して複数のノズルプレートに対するポンチ加工を一斉に行なうことを特徴
とする請求項6に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】 上記ポンチ組を各ノズルプレート毎に配置し、各ノズルプレートのポンチ加工を一斉に行なうことを特徴とする請求項7に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項9】 上記大形素材プレートの余剰領域に、余剰のノズル列に対応する下孔を捨て打ちすることを特徴とする請求項6から請求項8の何れかに記載のノズルプレートの製造方法。」
と補正するものである。

本件補正には、特許請求の範囲の補正として以下の補正事項を含む。
補正事項(1)
補正前の請求項10?14を削除する補正。

補正事項(2)
補正前の請求項1の「同じノズル列に属する複数の下孔」を補正後の請求項1において「同じノズル列に属して同一色のインクを吐出するノズル開口となる複数の下孔」とする補正。

2.本件補正の目的
補正事項(1)は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

補正事項(2)は、同じノズル列に属する複数の下孔は、同一色のインクを吐出するものであることを限定している。
よって、補正事項(2)は、発明を特定するために必要な事項であるノズルプレートの構成を複数の下孔について限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また、本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

以上のとおり、本件補正は平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしており、同条第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認めることができる補正を含んでいるので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか( 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

3.独立特許要件について
(1)本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「ポンチ加工によって複数の下孔を素材プレートに列設する下孔形成工程と、該下孔形成工程によって上記素材プレートの裏面側に膨出した膨隆部を除去する膨隆部除去工程とを順に経ることで、前記下孔を板厚方向に貫通させて複数のノズル開口からなるノズル列を横並びに複数列設けるノズルプレートの製造方法であって、
上記下孔形成工程にて、複数のポンチを上記ノズル列の列間方向に配置し、同じノズル列に属して同一色のインクを吐出するノズル開口となる複数の下孔にあっては1個の同じポンチを使用して形成することを特徴とするノズルプレートの製造方法。」

(2)引用例記載内容の認定
(2-1)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平10-226070号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載が図示と共にある。

「【請求項6】 先端の円柱部と円錐部と両者を繋ぐ曲面部とを有するパンチと該パンチの円柱部の径より大きい径のダイ孔を有する金型とを使用して、テーパ孔部と有底の円柱孔部とよりなるノズルめくら孔と、上記ダイ孔内に押し出されたダボを成形するノズルめくら孔成形工程と、
上記ダボを除去してノズルめくら孔を貫通したノズル孔とするダボ除去工程と、
上記ノズル孔の開口の縁のバリを取るバリ取り工程とよりなる構成としたことを特徴とするノズル板の製造方法。
【請求項7】 該ノズルめくら孔成形工程は、板材にノズル板のノズル孔のピッチの2倍のピッチで該ノズル板のノズル孔の数の半分の数のノズルめくら孔を成形する1回目のノズルめくら孔成形工程と、該板材をノズル板のノズル孔のピッチ分ずらして行う2回目のノズルめくら孔成形工程とよりなる構成としたことを特徴とする請求項6記載のノズル板の製造方法。」

「【0018】〔3.ノズル板〕次に、ノズル板20について説明する。図4に示すように、ノズル板20には、2つの基準孔60、61と、例えば約200個と多数のノズル孔21とが形成してある。ノズル孔21は、圧電式インクジェットヘッド41の走査方向(Y1,Y2方向)にピッチp1で4列で、各列について54個のノズル孔21がピッチp2で用紙送り方向(X1方向)に整列している。ピッチp1は約3.7mmであり、ピッチp2は約0.3mmである。」

「【0043】
図12に示す上金型155の構造から分かるように、一回のプレス動作で、図4中、黒塗りの円で示すノズル孔21に対応する約100個のノズルめくら孔が同時に形成される。上下動駆動ユニット158の一回の動作が完了したのちに、図22(A),(B)に示すノズル孔成形用送り機構250によって、フープ材100がその長手方向にパンチ160のピッチp3の半分の距離送られ、その位置に位置決めされ、この状態で上下動駆動ユニット158が動作する。上下動駆動ユニット158の二回目の動作で、一回目の動作で形成されたノズルめくら孔の隣合うノズルめくら孔の間の位置に、図4中、白抜きの円で示すノズル孔21に対応する約100個のノズルめくら孔が同時に形成される。一回目の動作で形成されたダボは、ガイド孔162とずれているダイ孔163a(図11参照)内に収まり、二回目の動作で一回目の動作で形成されたノズルめくら孔が潰されることはない。」

【図1】からは、ノズル孔21がノズル板20の板厚方向に貫通していることが看取される。

【図4】には、上記【0043】にいう黒塗りの円で示すノズル孔21に対応するノズルめくら孔と白抜きの円で示すノズル孔21に対応するノズルめくら孔とが、用紙送り方向に交互に並ぶ様子が示されている。

【図12】からは、上金型155において、パンチ160が複数並んだ列が4列配置されることが看取される。

よって、引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「パンチ加工によって複数のノズルめくら孔とダボとを成形するノズルめくら孔成形工程と、該ノズルめくら孔成形工程によって押し出されたダボを除去するダボ除去工程とを順に経ることで、ノズル孔を板厚方向に貫通させて複数のノズル開口からなるノズル列を圧電式インクジェットヘッド41の走査方向に4列設けるノズル板の製造方法であって、
上記ノズルめくら孔成形工程にて、複数のパンチを上記ノズル列の列間方向に配置し、同じノズル列に属する複数のノズル孔にあっては、隣接する2個のノズル孔を1個の同じパンチを使用して形成するノズル板の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)
なお、上記「隣接する2個のノズル孔」とは、一回目のプレス動作で形成されるノズル孔(【図4】の黒塗りの円)と二回目のプレス動作で形成されるノズル孔(【図4】の白抜きの円)との隣接するもの同士の対のことである。

(2-2)引用技術
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2000-289211号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載が図示と共にある。

「【請求項1】 ノズルプレートを漏斗形状の細径部の先端が錐状に突出したポンチで突いて、ノズルプレート内部に孔形状を形成した後、インク吐出側のノズルプレート突出部を研磨して穴をあけ仕上げることを特徴とするインクジェットヘッド用ノズルの形成方法。
【請求項3】 ダイに載置したノズルプレートを押さえ部材の下降により固定し、1以上のポンチで突いた後、ポンチと次いで前記押さえ部材とを上昇させ、前記ダイに載置したノズルプレートを移動してノズル位置を設定することを順次繰り返して複数のノズルを形成することを特徴とするインクジェットヘッド用ノズルの形成方法。」

よって、引用例2には、次の技術事項が記載されていると認めることができる。
「ノズルプレートをポンチで突いてノズルプレート内部に孔形状を形成した後、インク吐出側のノズルプレート突出部を研磨して穴をあけ仕上げることを特徴とするインクジェットヘッド用ノズルの形成方法であって、
1以上のポンチとノズルプレートとを相対的に移動してノズル位置を設定することを順次繰り返して複数のノズルを形成することを特徴とするインクジェットヘッド用ノズルの形成方法。」(以下、「引用技術」という。)

(3)対比
引用発明の「パンチ」、「パンチ加工」、「ノズルめくら孔」、「ダボ」、「ノズル板」は、本願補正発明の「ポンチ」、「ポンチ加工」、「下孔」、「膨隆部」、「ノズルプレート」に相当する。

引用発明の孔を開ける前のノズル板を素材プレートということができる。

複数のノズル列が並列しているとき、ノズル列が延びる方向とノズル列が並列する方向のどちらを横と呼び、どちらを縦と呼ぶかは任意であり、引用発明の「圧電式インクジェットヘッド41の走査方向」を横と呼んで差し支えないから、引用発明でも「ノズル列を横並びに複数列設ける」といえる。

本願補正発明において、下孔形成工程で膨隆部が形成されるとはされていないが、下孔形成工程の直後に膨隆部を除去する膨隆部除去工程があるから下孔形成工程で膨隆部が形成される。
よって、引用発明の「パンチ加工によって複数のノズルめくら孔とダボとを成形するノズルめくら孔成形工程」は、本願補正発明の「ポンチ加工によって複数の下孔を素材プレートに列設する下孔形成工程」に相当する。
そして 、引用発明の「該ノズルめくら孔成形工程によって押し出されたダボを除去するダボ除去工程」は、本願補正発明の「該下孔形成工程によって上記素材プレートの裏面側に膨出した膨隆部を除去する膨隆部除去工程」に相当する。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「ポンチ加工によって複数の下孔を素材プレートに列設する下孔形成工程と、該下孔形成工程によって上記素材プレートの裏面側に膨出した膨隆部を除去する膨隆部除去工程とを順に経ることで、前記下孔を板厚方向に貫通させて複数のノズル開口からなるノズル列を横並びに複数列設けるノズルプレートの製造方法であって、
上記下孔形成工程にて、複数のポンチを上記ノズル列の列間方向に配置し、同じノズル
列に属してインクを吐出するノズル開口となる複数の下孔のうち複数を1個の同じポンチを使用して形成するノズルプレートの製造方法」

<相違点>
本願補正発明は、「同じノズル列に属して同一色のインクを吐出するノズル開口となる複数の下孔にあっては1個の同じポンチを使用して形成する」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。

(4)<相違点>についての判断
I.同じノズル列に属するノズル開口が同一色のインクを吐出する点について
ノズルプレートに横並びに複数列設けられた各ノズル列がそれぞれの色のインクの吐出を担い、同じノズル列では同じ色のインクが吐出される構成はインクジェットプリントの分野では周知技術である。例えば、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2000-203043号公報には、【符号の説明】に「1 Bkノズル列 2 Cノズル列 3 Mノズル列 4 Yノズル列」とあり、【図1】、【図4】には、各色用のノズル列1,2,3,4がノズルプレート10に横並びに設けられていることが示されている。
一方、引用例1の【図4】には、ノズル列が横並びに複数列設けられたノズルプレートと、ノズル列の延びる方向が用紙送り方向(副走査方向)であり、ノズル列が並ぶ方向がヘッド走査方向(主走査方向)であることが示されている。もし、主走査方向に並ぶ異なるノズル列で同じ色のインクを吐出しても同じ色のドットが重なるだけであるから、引用例1記載のノズルプレートを用いるヘッドで多色印字を行う場合には、同じノズル列からは同一色のインクを吐出し、異なるノズル列からは異なる色のインクを吐出することが、技術的に見て通常の用い方である。
よって、引用発明において、同じノズル列に属するノズル開口から同一色のインクを吐出することは、技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

II.同じノズル列の下孔は1個の同じポンチを使用して形成する点について
引用文献1の【0043】には「一回のプレス動作で、図4中、黒塗りの円で示すノズル孔21に対応する約100個のノズルめくら孔が同時に形成される。」、「二回目の動作で、一回目の動作で形成されたノズルめくら孔の隣合うノズルめくら孔の間の位置に、図4中、白抜きの円で示すノズル孔21に対応する約100個のノズルめくら孔が同時に形成される。」との記載がある。つまり、約100本のポンチで孔(【図4】の黒丸)を空け、次にその同じ約100本のポンチを孔間の間隔分ノズルの長さ方向にずらして孔(【図4】の白丸)を空けることで、2度の作業で多数の孔を空けられ、作業効率が高くなっている。

一方、多数の孔を空けるのに1本の同じポンチを使うことがありふれた方法であることは、1本の同じポンチを使い手作業で多数の孔を空ける場合を想定すれば明らかであって技術常識といえる。
また、引用技術では、多数の孔を空けるのに1本の同じポンチで行っている。そして、1本の同じポンチを使えば、前記多数の孔は当然同じ径の孔となる。

ところで、インクジェット用ノズルプレートのノズル列の孔径にばらつきをなくすべきことは周知の課題である。
例えば、本願の出願前に頒布された特開平11-147317号公報の【0008】には「また、プレス法では、ノズルの穴径が小さいほど、プレス用のピンが細くなり、ピン先端の寿命が短い。同時に多数個のノズル形成では、ピン間バラツキやノズル板の反り等により、製造が困難になる場合がある。」とあって、プレス法では、同時に多数個のノズル形成を行うと、ピン間バラツキが生じる旨記載されている。
また、本願の出願前に頒布された特開平5-330064号公報にはノズル板の成形方法の発明が記載され、その【0002】には【従来技術】に関連して、「各ノズルの特性が一様で、ばらつきの少ないことが要求される。・・・ノズル径のばらつきに応じて・・・画質低下を招く。」と記載されている。

よって、引用発明において、作業効率向上よりも、周知の課題であるノズル列の孔径のばらつきをなくすことを重視し、1本の同じポンチで同じノズル列のすべての孔を空けるようにすることは、技術常識もしくは引用技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

上記I.,II.のことから、引用発明において、本願補正発明の上記<相違点>に係る構成を備えることは、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2記載の引用技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、上記<相違点>に係る発明特定事項を採用したことによる効果も、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2の記載から、当業者が予測し得る程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。

4.本件補正についてのむすび
上記「3.独立特許要件について」に記載のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成17年10月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成16年12月27日付けで補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「ポンチ加工によって複数の下孔を素材プレートに列設する下孔形成工程と、該下孔形成工程によって上記素材プレートの裏面側に膨出した膨隆部を除去する膨隆部除去工程とを順に経ることで、前記下孔を板厚方向に貫通させて複数のノズル開口からなるノズル列を横並びに複数列設けるノズルプレートの製造方法であって、
上記下孔形成工程にて、複数のポンチを上記ノズル列の列間方向に配置し、同じノズル列に属する複数の下孔にあっては1個の同じポンチを使用して形成することを特徴とするノズルプレートの製造方法。」(以下、本願発明という。)

2.引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,引用例2、及びその記載事項は、上記「第2 平成17年10月26日付けの手続補正について (2)引用例記載内容の認定」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明の発明特定事項から、同じノズル列に属するノズル開口となる下孔は同一色のインクを吐出する旨の限定を省いたものに相当する。(上記「第2 平成17年10月26日付けの手続補正について 2.本件補正の内容」の「補正事項2」参照。)
すると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成17年10月26日付けの手続補正について 3.独立特許要件について」に記載したとおり、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本願発明の効果は、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2の記載から予測し得る範囲内のものである。

4. むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1の記載、周知技術、技術常識、並びに引用例2の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-28 
結審通知日 2008-12-02 
審決日 2008-12-15 
出願番号 特願2002-253817(P2002-253817)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 571- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大仲 雅人  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 菅藤 政明
菅野 芳男
発明の名称 ノズルプレートの製造方法  
代理人 津久井 照保  

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