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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1192058
審判番号 不服2006-26883  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-29 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 特願2001-321051「堆積膜形成装置および堆積膜形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月25日出願公開、特開2003-124131〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯

本願は、平成13年10月18日の出願であって、平成16年7月12日付で拒絶理由通知がなされ、平成16年9月13日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成18年10月16日付で拒絶査定がなされた。これに対し、平成18年11月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年12月26日付で手続補正書が提出されたものである。


II.平成18年12月26日付の手続補正について

<結論>
平成18年12月26日付の手続補正を却下する。

<理由>

1.補正後の本願発明

本件補正は、平成16年9月13日付手続補正書により補正された特許請求の範囲を、本件手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1?8のとおりにすることを含む補正であるところ、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりに補正された。

「【請求項1】
真空容器内に、高周波電力を供給する平板状の高周波電極と前記高周波電極に対向する接地電極を備え、前記高周波電極と前記接地電極の間に反応空間を構成し、該反応空間で高周波プラズマにより堆積膜を形成する堆積膜形成装置において、
前記高周波電極の前記反応空間に面する側とは反対の面を大気に接するように構成し、
前記高周波電極が、該高周波電極の前記大気に接するようにした面の周縁部分との対向面を形成する接地電位とされた導体部による前記真空容器の壁面に対し、
前記高周波電極と前記真空容器との直流電位的な絶縁を確保するための少なくとも絶縁体からなる部材を介してその間隔を15mm以上広げて、前記真空容器の内部側に配置されていることを特徴とする堆積膜形成装置。」

上記補正は、補正前の請求項1における「真空容器の壁面」について、「接地電位とされた導体部による」と、真空容器の壁面が接地電位とされた導体部であると限定するとともに、高周波電極と真空容器との「直流電位的な絶縁を確保するための少なくとも絶縁体からなる部材を介」することについて、「その間隔を15mm以上広げて」とさらに限定するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同様による改正前の特許法第17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

次に、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかについて以下に検討する。


2.引用例とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-100215号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「特許請求の範囲
1.真空槽の開口に取り付けられたフランジにメタライズされた一端を溶着した筒状の縦長絶縁体と、この筒状の縦長絶縁体のメタライズされた他端に溶着された真空槽内の高周波電極と、この高周波電極の側面を隙間をもって囲むように、上記真空槽の開口に取り付けられた真空槽内の網状のアースシールドと、上記高周波電極に高周波電力を印加する高周波電源と、上記高周波電極と真空槽内で対向する、真空槽と絶縁された基板電極と、この基板電極をコンデンサを介してアースに接地するアース回路と、上記基板電極に直流電圧を印加する直流電源とを備えたことを特徴とする高周波プラズマCVD装置。」(1頁左欄4?17行)

(b)「この発明においては、筒状の縦長絶縁体のメタライズされた両端の一方を真空槽の開口に取り付けられたフランジに溶着し、他方を真空槽内の高周波電極に溶着しているので、フランジと高周波電極との間隔が離れ、誘電率の影響が減少して、浮遊容量が小さくなる。」(2頁右下欄9?14行)

(c)「第1図はこの発明の実施例の高周波プラズマCVD装置を示しており、同図において、真空槽1の開口1aには金属シール2を介してフランジ3が取り付けられ、そのフランジ3には筒状の縦長絶縁体4のメタライズされた両端の一方4aが溶着されている。絶縁体4の両端の他方4bには高周波電極5が溶着され、その高周波電極5は真空槽1内に位置している。」(3頁左上欄11?18行)

(d)「高周波電極5と基板電極11との間に電界が形成され、その電界によってプラズマが発生するようになる。そして、プラズマ中の活性化された物質がその他の物質と反応して反応生成物を形成し、その反応生成物が基板電極11上の基板17に付着して、薄膜を形成するようになる。」(3頁左下欄14?20行)

(e)「このようにして浮遊容量を小さくすることができることにより、高周波電源より高周波電極に印加する高周波電力の周波数を100MHzにすることができるようになった。このため、プラズマ中の荷電粒子の基板への運動エネルギを揃えることが可能となった。」(4頁右下欄10?15行)

(f)「(2)真空槽と絶縁された基板電極をコンデンサを介してアースに接地するとともに、基板電極に直流電源からの直流電圧を印加しているので、プラズマ中の荷電粒子の基板への入射エネルギを制御することが可能になるとともに、基板上に形成される薄膜が損傷しなくなり、高品質の薄膜を形成することが可能になる。」(4頁右下欄16行?5頁左欄2行)

(g)第1図には、高周波電源8に接続された高周波電極5の基板電極11とは反対の面が大気に接していること、高周波電極5の周縁部分がフランジ3と対向しており、その間に筒状の縦長絶縁体4が設けられていること、高周波電極5及び基板電極11が平板状であること、真空槽1が接地されていることが示されている。


3.引用例記載の発明

上記摘記(c)によれば、フランジ3は金属シール2を介して真空槽1に取り付けられている。そして、フランジ3は、メタライズされた絶縁体4の端部4aが溶着されているのであるから、フランジ3自体も導電性を有するものといえる。そして、摘記(g)によれば、真空槽1は接地されていることが示されていることから、導電性を有する金属シール2を介して取り付けられたフランジ3も接地電位にあることがわかる。
また、筒状の縦長絶縁体4は、両端がメタライズされているのであり、全体がメタライズされているものではないから、絶縁体としての機能は維持されており、フランジ3と高周波電極5の間には、直流電位的な絶縁が確保されているものといえる。
さらに、摘記(d)から高周波電極5と基板電極11との間が反応空間であることがわかる。

以上の事項を考慮して、摘記(a)?(g)の記載事項を整理すると、引用例には、次の「薄膜形成装置」についての発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

「真空槽内に、高周波電力を供給する平板状の高周波電極と前記高周波電極に対向する基板電極を備え、前記高周波電極と前記基板電極の間に反応空間を構成し、該反応空間で高周波プラズマにより薄膜を形成する薄膜形成装置において、
前記高周波電極の前記反応空間に面する側とは反対の面を大気に接するように構成し、
前記高周波電極が、該高周波電極の前記大気に接するようにした面の周縁部分との対向面を形成する接地電位とされた導体部による前記真空槽のフランジに対し、
前記高周波電極と前記真空槽との直流電位的な絶縁を確保するための絶縁体からなる部材を介して、前記真空槽の内部側に配置されていることを特徴とする薄膜形成装置。」


4.対比・判断

引用例発明における「真空槽」、「薄膜」、「薄膜形成装置」は、本願補正発明における「真空容器」、「堆積膜」、「堆積膜形成装置」にそれぞれ相当する。
また、本願補正発明における「壁面」には、「堆積膜形成装置の真空容器1のフランジにベース枠5を取り付け、前記ベース枠5上に高周波電極3を第1の絶縁体6の枠を挟んで設置し、第2の絶縁体7のブロックで、高周波電極3を前記ベース枠5に固定する。」(段落【0015】)との記載や、「前記高周波電極3を第2の絶縁体7のブロックで固定することにより、前記高周波電極3下部の接地電位の前記フランジ、又は前記ベース枠5、又は金属部材との間で発生する浮遊容量を極力低減し、前記高周波電極3の浮遊容量を800pF以下まで低減させた。」(段落【0017】)との記載、及び図1には高周波電極3の下方にベース枠5が設置されていることが示されていることから、「フランジ」や「ベース枠5」が含まれるというべきであり、引用例発明における「フランジ」も、摘記(c)にあるように、真空槽に設置されるとともに、高周波電極に溶着された筒状の縦長絶縁体の他端に溶着されているものであるから、本願補正発明における「壁面」に相当する。

以上によれば、両者は、

「真空容器内に、高周波電力を供給する平板状の高周波電極と前記高周波電極に対向する基板電極を備え、前記高周波電極と前記基板電極の間に反応空間を構成し、該反応空間で高周波プラズマにより堆積膜を形成する堆積膜形成装置において、
前記高周波電極の前記反応空間に面する側とは反対の面を大気に接するように構成し、
前記高周波電極が、該高周波電極の前記大気に接するようにした面の周縁部分との対向面を形成する接地電位とされた導体部による前記真空容器の壁面に対し、
前記高周波電極と前記真空容器との直流電位的な絶縁を確保するための絶縁体からなる部材を介して、前記真空容器の内部側に配置されていることを特徴とする堆積膜形成装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明では、高周波電極に対向する電極が接地電極であるのに対し、引用例発明では基板電極である点。

<相違点2>
本願補正発明では、高周波電極と、高周波電極の大気に接するようにした面の周縁部分との対向面を形成する接地電位とされた真空容器の壁面との間隔を15mm以上に広げるものであるのに対し、引用例発明では間隔を具体的な数値で規定していない点。

以下、上記相違点について検討する。

<相違点1について>

摘記(f)にあるように、引用例発明の基板電極は、コンデンサを介して接地するとともに、基板電極に直流電源からの直流電圧を印加するものとなっているが、これはプラズマ中の荷電粒子の基板への入射エネルギを制御し、基板上に形成される薄膜の損傷を防ぐ為のものである。
そして、高周波プラズマによる堆積膜形成装置において、高周波電極と対向する電極を単に接地電位とすることは周知慣用技術であり、引用例発明のように基板電極の電圧制御する事によって荷電粒子の基板への入射エネルギを制御する必要がない場合に、そのような構成を省略して単なる接地電極とすることは、装置構成の際のコスト等を勘案して当業者であれば容易になしうることというべきである。

<相違点2について>

摘記(b)及び(e)によれば、筒状の縦長絶縁体によりフランジと高周波電極との間隔が離れ、浮遊容量が小さくなるものであって、浮遊容量が小さくすることができることにより、プラズマ中の荷電粒子の基板への運動エネルギを揃えることが可能となったことが記載されている。
そして、フランジと高周波電極との間隔をどの程度以上離すかは、当業者であれば実験により決定しうるものであって、格別な創意を要することではなく、引用例発明において間隔を15mm以上に広げるものと規定することは、当業者であれば容易になしうることというべきである。

そして、本願補正発明は、引用例の記載から予測できないような格別に顕著な効果を奏するとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、補正後の本願請求項2?8について検討するまでもなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明について

1.本願発明

平成18年12月26日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成16年9月13日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】真空容器内に、高周波電力を供給する平板状の高周波電極と前記高周波電極に対向する接地電極を備え、前記高周波電極と前記接地電極の間に反応空間を構成し、該反応空間で高周波プラズマにより堆積膜を形成する堆積膜形成装置において、
前記高周波電極の前記反応空間に面する側とは反対の面を大気に接するように構成し、前記高周波電極が、該高周波電極の前記大気に接するようにした面の周縁部分との対向面を形成する前記真空容器の壁面に対し、前記高周波電極と前記真空容器との直流電位的な絶縁を確保するための少なくとも絶縁体からなる部材を介して前記真空容器の内部側に配置されていることを特徴とする堆積膜形成装置。」


2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記「II.2.引用例とその記載事項」欄に記載したとおりである。


3.対比・判断

本願発明は、本願補正発明における「接地電位とされた導体部による前記真空容器の壁面」を「前記真空容器の壁面」とし、真空容器の壁面が接地電位とされた導体部であるとの限定を省くとともに、「高周波電極」と「真空容器の壁面」との間隔について「間隔を15mm以上広げて」との限定が省かれたものである。

そうすると、本願発明を特定するために必要と認める事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明は、上記「II.4.対比・判断」に記載したとおり、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明についても、同様の理由により、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-02 
結審通知日 2008-12-03 
審決日 2008-12-17 
出願番号 特願2001-321051(P2001-321051)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 諸岡 健一
岡 和久
発明の名称 堆積膜形成装置および堆積膜形成方法  
代理人 長尾 達也  

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