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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1192080
審判番号 不服2006-23222  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-12 
確定日 2009-02-06 
事件の表示 平成 7年特許願第274800号「パチンコ機」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 4月 8日出願公開、特開平 9- 94335〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯等
本願は、平成7年9月28日の出願であって、平成17年8月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年9月27日付けで手続補正がされ、平成18年9月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し同年10月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月13日付けで手続補正がされたものである。

第2.平成18年11月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年11月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「遊技盤面に設けられている特別始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の特別識別情報のいずれかを、所定の特別表示確率の下で目視可能に停止表示するための特別表示装置を設け、
通常時にはパチンコ球を取り込まない入賞不能状態を形成し、前記特別表示装置に停止表示される特別識別情報が予め定められている特別権利発生情報であるとき、遊技者にとって有利な「特別権利」を発生させ、該「特別権利」の発生に基づいて前記入賞不能状態から、パチンコ球を取り込み易い入賞可能状態を形成する可変入賞球装置を設け、
前記「特別権利」の発生中に変動する、前記「特別権利」の通算行使回数である特別権利行使情報を前記特別表示装置に表示する特別表示手段を設け、
前記遊技盤面に予め設けられている普通始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の普通識別情報のいずれかを、所定の普通表示確率の下で目視可能に停止表示するための普通表示装置を設け、
前記普通表示装置に停止表示される普通識別情報が、予め定められている普通権利発生情報であるときに、前記「特別権利」よりも下位な「普通権利」を発生させる普通電動役物を設け、
さらに変動情報カウンタと、「特別権利」を発生させるか否かを決定する大役カウンタとを備えて、前記特別始動領域へのパチンコ球の通過に基づいて前記大役カウンタから「特別権利」を発生させるカウント値を取り込んだときに前記変動情報カウンタからカウント値を取り込んで変動条件が満足されるか否かを決定し、
前記「特別権利」の発生に応じ、予め定められている変動条件が満足される場合、その時点で発生している「特別権利」の消滅から少なくとも次回の「特別権利」が発生するまでの間、前記特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させる確率変動手段を設け、
前記変動情報カウンタから取り込まれたカウント値に応じて決定された、前記変動条件が満足されるか否かを表示するための変動情報を、前記「特別権利」の発生中に前記特別権利行使情報とともに前記特別表示装置に目視可能に漸次表示し、かつ前記変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示を前記「特別権利」の消滅間際にする情報表示手段を設けていることを特徴とするパチンコ機。」(以下、「本願補正発明」という。)と補正された。

上記補正は、補正前の「前記特別表示確率および普通表示確率の一方または両方の表示確率を」を「前記特別表示確率を」と限定するものであり、補正前の「目視可能に表示し」を「目視可能に漸次表示し」と限定するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用文献について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-190118号公報(公開日:平成6年7月12日)(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
・記載事項1
「表示状態が変化可能な可変表示装置を有し、該可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって、前記可変表示装置を制御する可変表示制御手段を含み、該可変表示制御手段は、複数種類の識別情報を可変表示させる識別情報可変表示制御手段と、所定のキャラクタを表示させるキャラクタ表示制御手段とを含むことを特徴とする、遊技機。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
・記載事項2
「図1は、遊技機の一例のパチンコ遊技機の遊技盤面を示した図である。遊技盤1の前面側の区画レール2で囲まれた部分が遊技領域3である。遊技者が図示しない打球操作ハンドルを操作することにより、パチンコ玉が1つずつ区画レール2を通って遊技領域3内に打込まれる。遊技領域3内には、数値および図柄等からなる複数種類の識別情報を可変表示可能とし、所定のキャラクタを表示可能として可変表示装置4が設けられている。その可変表示装置4の下方には始動入賞口9が配設されており、この始動入賞口9に入賞した始動入賞玉が始動入賞玉検出器10により検出される。この始動入賞玉検出器10の検出信号に基づいて、可変表示装置4の表示状態が変化開始される。可変表示装置4は、前記識別情報および前記キャラクタを表示する領域である可変表示部5を有している。この可変表示装置4に表示される識別情報およびキャラクタの一方または両方の表示結果が予め定められた表示結果になれば特定遊技状態が発生して可変入賞球装置11が開成して遊技者にとって有利な第1の状態とする大当り制御が開始される。なお、本発明でいうキャラクタとは、画像表示に登場する人物,動物あるいは宝箱等の物を表わす図柄をいう。」(段落【0008】)
・記載事項3
「可変入賞球装置11には、開閉自在な開閉板12が設けられており、通常時においてはソレノイド13が励磁されていないために開閉板12が閉成状態となっているが、特定遊技状態が発生したことに基づいてソレノイド13が励磁されて開閉板12が開成する。この開閉板12は、所定期間(たとえば30秒間)または所定個数(たとえば10個)のパチンコ玉の入賞のうちいずれか早い方の条件が成立したことにより閉成して遊技者にとって不利な第2の状態となる。この可変入賞球装置11内に入賞した入賞玉の合計個数が入賞個数表示器14により表示される。また、可変入賞球装置11内に形成された特定入賞領域(Vポケット)にパチンコ玉が入賞すれば繰返し継続条件が成立して、その回の可変入賞球装置11の第1の状態が終了するのを待って可変入賞球装置11を再度第1の状態にする繰返し継続制御が行なわれる。」(段落【0009】)
・記載事項4
「パチンコ玉の始動入賞時における当りはずれ決定用ランダムカウンタの値がたとえば「3」のときに大当りを発生させるように事前決定され、その決定に従って、可変表示装置4の変化停止時の表示結果が特定の表示態様となるように制御される。この当りはずれ決定用ランダムカウンタは0?239の範囲内で2msec毎に1ずつ加算されるものであるために、大当りとなる確率は1/240となる。」(段落【0017】)
・記載事項5
「このように、可変表示部5の表示画像がキャラクタ画面に切換わると、勇者キャラクタ5dとモンスターキャラクタ5eとの間で武器や魔法などを使って相手の生命力を減少させる戦闘のシーンが表示される。この戦闘においては、先に相手の生命力を無くした方のキャラクタが勝ちとなる。そして、この戦闘で勇者キャラクタ5dが勝った場合は、図4(c)に示されるように、モンスターキャラクタ5eが倒れた態様と、「モンスターは倒れた!」というメッセージとが表示されて、第3特別図柄5cが「7」となり、大当りが発生する。一方、勇者キャラクタ5dが負けた場合は、勇者キャラクタ5dが負けたことを示すキャラクタの状態とメッセージとが表示され、第3特別図柄5cには「7」以外の数値が表示される。また、両方のキャラクタ5d,5eの生命力が同時に無くなった場合には、第3特別図柄5cは、1/2の確率で「7」となる。」(段落【0022】)
・記載事項6
「大当り制御中に、所定の物語に従って、たとえば図6(a)に示されるような勇者キャラクタ5jなどの所定のキャラクタが山や洞窟等を冒険する。この冒険中には、図6(a)に示されるようなモンスターキャラクタ5k、川および岩などの様々な障害が出現する。勇者キャラクタ5jは、これらの障害を克服して冒険を続ける。たとえば、モンスターキャラクタ5kが現われた場合は、たとえば第1実施例に示されるような戦闘シーンと同様の戦闘シーンが繰り広げられる。」(段落【0036】)
・記載事項7
「そして、このような冒険の最中に、図6(b)に示されるように勇者キャラクタ5jは、所定の確率で宝箱5mを見付けることが可能となっている。この宝箱5mは、勇者キャラクタ5jがモンスターキャラクタ5kとの戦闘で勝った場合および勇者キャラクタ5jが冒険物語中の所定の場所に到着した場合に得られる。このようにして得られた宝箱5mの中には特別な遊技価値が付与されるラッキーリング5n(図6(b)参照)および特別な遊技価値の付与が中止される悪魔のリングなどの品物が入っており、その品物が以後の遊技状態に影響を与えるようになっている。」(段落【0037】)
・記載事項8
「ラッキーリング5nを得たことにより付与される前記特別な遊技価値とは以下のようなものである。」(段落【0038】)
・記載事項9
「(1) 大当り後に、特別図柄が揃う確率が高くなる。
(2) 図1に示されるようなパチンコ遊技機に、パチンコ玉が通過する通過口と、その通過口をパチンコ玉が通過したことに応答して普通図柄(たとえば複数種類の数値)の可変表示を行なう普通図柄可変表示部と、その普通図柄可変表示部が停止した場合の図柄が所定の態様となった場合に所定時間開放する電役である普通電役とを付加的に備えたパチンコ遊技機において、前記普通図柄が所定の表示態様となる確率を向上させる。」(段落【0039】)
・記載事項10
「このように、大当り制御中に、キャラクタ画面が現われて所定のゲームが行なわれ、そのゲームの結果がそれ以後の遊技状態に大きな影響を与えるので、遊技者は、大当り中も可変表示装置4の表示を見飽きることなく楽しく遊技を行なうことができる。」(段落【0042】)

以上の記載事項1?10を含む全記載及び図示によれば、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。
「遊技盤1の前面側に配設された始動入賞口9に入賞した始動入賞玉に基づいて、大当りとなる確率が1/240で、数値および図柄等からなる複数種類の識別情報を可変表示可能とした可変表示装置4を設け、
通常時において開閉板12は閉成状態となっており、可変表示装置4に表示される識別情報およびキャラクタの一方または両方の表示結果が予め定められた表示結果になり特定遊技状態が発生したことに基づいてソレノイド13が励磁されて開閉板12が開成する可変入賞球装置11を設け、
パチンコ玉が通過する通過口をパチンコ玉が通過したことに応答して普通図柄(たとえば複数種類の数値)の可変表示を行なう普通図柄可変表示部を設け、
その普通図柄可変表示部が停止した場合の図柄が所定の態様となった場合に所定時間開放する電役である普通電役を設け、
パチンコ玉の始動入賞時における当りはずれ決定用ランダムカウンタの値がたとえば「3」のときに大当りを発生させるように事前決定され、その決定に従って、可変表示装置4の変化停止時の表示結果が特定の表示態様となるように制御され、
大当り制御中の可変表示装置4の表示として、所定の物語に従って、勇者キャラクタ5jなどの所定のキャラクタが、出現したモンスターキャラクタ5k、川および岩などの様々な障害を克服して冒険を続け、勇者キャラクタ5jがモンスターキャラクタ5kとの戦闘で勝った場合および勇者キャラクタ5jが冒険物語中の所定の場所に到着した場合に得られる宝箱5mの中には特別な遊技価値が付与されるラッキーリング5nおよび特別な遊技価値の付与が中止される悪魔のリングなどの品物が入っていることが表示され、
ラッキーリング5nを得たことが表示されると、大当り後に、特別図柄が揃う確率が高くなるパチンコ遊技機」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、
引用発明の「遊技盤1の前面」は本願補正発明の「遊技盤面」に相当し、以下同様に、「始動入賞口9に入賞した始動入賞玉に基づいて」は「特別始動領域へのパチンコ球の通過に応じ」に、「識別情報」は「特別識別情報」に、「大当り」及び「特定遊技状態」は「特別権利」に、「可変表示装置4」は「特別表示装置」に、「予め定められた表示結果」及び「特定の表示態様」は「予め定められている特別権利発生情報」に、「可変入賞球装置11」は「可変入賞球装置」に、「パチンコ玉が通過する通過口」は「普通始動領域」に、「普通図柄(たとえば複数種類の数値)」は「複数種類の普通識別情報」に、「普通図柄可変表示部」は「普通表示装置」に、「普通電役」は「普通電動役物」に、「所定の態様」は「予め定められている普通権利発生情報」に、「パチンコ遊技機」は「パチンコ機」にそれぞれ相当する。
また、引用発明において「大当りの確率」と「特定の表示態様を停止させる確率」は表現上の差異はあるものの、実質的に同じものである。これは、本願当初明細書の段落0018に「「特別権利」が発生する確率、いいかえれば特別表示装置が特別権利発生情報を停止表示させる特別表示確率は、「300分の1」ないし「200分の1」程度であるのに対し、」と記載されていることからも裏付けられている。
そして、引用発明について、以下のことがいえる。
(1)「遊技盤1の前面側に配設された始動入賞口9に入賞した始動入賞玉に基づいて、大当りとなる確率が1/240で、数値および図柄等からなる複数種類の識別情報を可変表示可能とした可変表示装置4を設け」について
引用発明において、「数値および図柄等からなる複数種類の識別情報」が「予め定められている」ものであること、「識別情報」が「目視可能に停止表示される」ことは、当業者にとって自明なことである。そして、引用発明において、「大当りとなる確率が1/240」は、可変表示装置4が特定の表示態様を停止させる確率が「1/240」といいかえることができるから、本願補正発明の「所定の特別表示確率の下で」に相当するものである。
そうすると、引用発明は「遊技盤面に設けられている特別始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の特別識別情報のいずれかを、所定の特別表示確率の下で目視可能に停止表示するための特別表示装置を設け、」なる構成を実質的に具備するものである。
(2)「通常時において開閉板12は閉成状態となっており、可変表示装置4に表示される識別情報およびキャラクタの一方または両方の表示結果が予め定められた表示結果になり特定遊技状態が発生したことに基づいてソレノイド13が励磁されて開閉板12が開成する可変入賞球装置11を設け、」について
引用発明において、可変表示装置4の開閉板が閉成されている状態ではパチンコ球が取り込まれない入賞不能状態となっていること、特定遊技状態が発生して開閉板が開成された状態ではパチンコ球を取り込み易い入賞可能状態となっていることは、当業者にとって自明なことである。そして、「可変表示装置4に表示される識別情報およびキャラクタの一方または両方の表示結果が予め定められた表示結果」になった場合に「通常時」から「特定遊技状態」になるものであって、「特定遊技状態」は遊技者に有利なものである。
そうすると、引用発明は「通常時にはパチンコ球を取り込まない入賞不能状態を形成し、特別表示装置に停止表示される特別識別情報が予め定められている特別権利発生情報であるとき、遊技者にとって有利な「特別権利」を発生させ、該「特別権利」の発生に基づいて前記入賞不能状態から、パチンコ球を取り込み易い入賞可能状態を形成する可変入賞球装置を設け、」なる構成を実質的に具備するものである。
(3)「パチンコ玉が通過する通過口をパチンコ玉が通過したことに応答して普通図柄(たとえば複数種類の数値)の可変表示を行なう普通図柄可変表示部を設け、」について
引用発明における「通過口」が遊技盤面に予め設けられていること、普通図柄が予め定められたものであって、所定の普通表示確率の下で目視可能に停止表示されるものであることは、出願前に広く知られている確率変動機能を有するパチンコ機を考慮すると、当業者にとって自明なことである。
そうすると、引用発明は「遊技盤面に予め設けられている普通始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の普通識別情報のいずれかを、所定の普通表示確率の下で目視可能に停止表示するための普通表示装置を設け、」なる構成を実質的に具備するものである。
(4)「その普通図柄可変表示部が停止した場合の図柄が所定の態様となった場合に所定時間開放する電役である普通電役を設け、」について
「電役」が「所定時間開放する」ことは遊技者にとって有利なことであるから、このような状態は遊技者にとって「権利」ということができる。そして、当該権利は、可変入賞球装置11の開閉板12が開成されるのに比べ有利さが小さいものすなわち「下位」ということができ、本願補正発明の「普通権利」に相当する。
そうすると、引用発明は「普通表示装置に停止表示される普通識別情報が、予め定められている普通権利発生情報であるときに、「特別権利」よりも下位な「普通権利」を発生させる普通電動役物を設け、」なる構成を実質的に具備するものである。
(5)「パチンコ玉の始動入賞時における当りはずれ決定用ランダムカウンタの値がたとえば「3」のときに大当りを発生させるように事前決定され、その決定に従って、可変表示装置4の変化停止時の表示結果が特定の表示態様となるように制御され、」について
「当りはずれ決定用ランダムカウンタ」は、パチンコ玉の始動入賞時の値が「3」のときに大当りを発生させることを決定するものであるから、本願補正発明の「「特別権利」を発生させるか否かを決定する大役カウンタ」に相当するものである。
(6)「大当り制御中の可変表示装置4の表示として、所定の物語に従って、勇者キャラクタ5jなどの所定のキャラクタが、出現したモンスターキャラクタ5k、川および岩などの様々な障害を克服して冒険を続け、勇者キャラクタ5jがモンスターキャラクタ5kとの戦闘で勝った場合および勇者キャラクタ5jが冒険物語中の所定の場所に到着した場合に得られる宝箱5mの中には特別な遊技価値が付与されるラッキーリング5nおよび特別な遊技価値の付与が中止される悪魔のリングなどの品物が入っていることが表示され、」及び「ラッキーリング5nを得たことが表示されると、大当り後に、特別図柄が揃う確率が高くなる」について
「大当り後に、特別図柄が揃う確率が高くなる」は、「その時点で発生している大当りの消滅後、大当り確率を該確率値とは異なる値の大当り確率に変動させる」といいかえることができ、引用発明がそのための確率変動手段を有することは自明である。
また、上記確率の変動は「ラッキーリング5nを得たことが表示される」場合であるが、大当り制御中の表示において宝箱5mの中からラッキーリング5nが得られる場合と得られない場合(「悪魔のリング」の場合)があることから、上記確率の変動は何らかの条件によって決定されることは明らかである。そして、上記確率を変動させるか否かに際して、確率を変動させる否かの条件すなわち変動条件を満足するか否かを決定をしているという点で、引用発明と本願補正発明は一致している。
更に、「ラッキーリング5nを得たことが表示される」場合には、特別図柄が揃う確率が高くなることから、その時には変動条件が満足されているものである。
そうすると、引用発明は、「変動条件を満足するか否かを決定し、」及び「変動条件が満足される場合、その時点で発生している「特別権利」の消滅後特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させる確率変動手段を設け、」なる構成を実質的に具備するものである。
また、ラッキーリング5nが得られた場合確率が変動するものであるから、ラッキーリング5nが得られる旨の表示は「変動条件が満足された否かに係る決定を示す表示」ということができる。
更に、「勇者キャラクタ5jがモンスターキャラクタ5kとの戦闘で勝った場合」および「勇者キャラクタ5jが冒険物語中の所定の場所に到着した場合」の表示は、ラッキーリング5nが得られるか否かの決定の表示すなわち「変動条件が満足された否かに係る決定を示す表示」の前提となるものであるから、「変動条件が満足されるか否かを表示するための変動情報」ということができるとともに、当該表示は大当り制御中に可変表示装置4に目視可能に漸次行われることは明らかである。そして、引用発明は、これらを表示するための情報表示手段を当然有するものである。
そうすると、引用発明は、「変動条件が満足されるか否かを表示するための変動情報を「特別権利」の発生中に特別表示装置に目視可能に漸次表示し、かつ変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示をする情報表示手段を設けている」なる構成を実質的に具備するものである。
以上により、本願補正発明と引用発明は、
「遊技盤面に設けられている特別始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の特別識別情報のいずれかを、所定の特別表示確率の下で目視可能に停止表示するための特別表示装置を設け、
通常時にはパチンコ球を取り込まない入賞不能状態を形成し、特別表示装置に停止表示される特別識別情報が予め定められている特別権利発生情報であるとき、遊技者にとって有利な「特別権利」を発生させ、該「特別権利」の発生に基づいて前記入賞不能状態から、パチンコ球を取り込み易い入賞可能状態を形成する可変入賞球装置を設け、
遊技盤面に予め設けられている普通始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の普通識別情報のいずれかを、所定の普通表示確率の下で目視可能に停止表示するための普通表示装置を設け、
普通表示装置に停止表示される普通識別情報が、予め定められている普通権利発生情報であるときに、「特別権利」よりも下位な「普通権利」を発生させる普通電動役物を設け、
「特別権利」を発生させるか否かを決定する大役カウンタを設け、
変動条件を満足するか否かを決定し、
変動条件が満足される場合、その時点で発生している「特別権利」の消滅後特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させる確率変動手段を設け、
変動条件が満足されるか否かを表示するための変動情報を「特別権利」の発生中に特別表示装置に目視可能に漸次表示し、かつ変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示をする情報表示手段を設けているパチンコ機」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
本願補正発明は「特別権利」の発生中に変動する「特別権利」の通算行使回数である特別権利行使情報を特別表示装置に表示する特別表示手段を設けたものであるのに対し、引用発明はそのような構成を有するか不明である点。
・相違点2
本願補正発明は変動情報カウンタを備え、引用発明では変動カウンタを備えるか不明でである点、及び、変動条件が満足されるか否かの決定を、本願補正発明では、特別始動領域へのパチンコ球の通過に基づいて大役カウンタから「特別権利」を発生させるカウント値を取り込んだときに変動情報カウンタからカウント値を取り込んで行うのに対し、引用発明ではそのような構成を有するか不明である点。
・相違点3
確率変動手段が特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させるのが、本願補正発明では、「「特別権利」の発生に応じ、予め定められている変動条件が満足される場合、」であるのに対し、引用発明では「変動条件が満足される場合、」である点。
・相違点4
特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させるのが、本願補正発明では、「特別権利」の消滅から少なくとも次回の「特別権利」が発生するまでの間であるのに対し、引用発明ではそのような構成を有するか不明である点。
・相違点5
変動情報が表示する「変動条件が満足されるか否か」が、本願補正発明では「変動情報カウンタから取り込まれたカウント値に応じて決定された」ものであるのに対し、引用発明ではそのような構成を有するか不明である点。
・相違点6
変動情報を「特別権利」の発生中に特別表示装置に目視可能に漸次表示する際に、本願補正発明では特別権利行使情報とともに表示するのに対し、引用発明ではそのような構成を有するか不明である点。
・相違点7
変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示が、本願補正発明では「特別権利」の消滅間際にされるのに対し、引用発明ではそのような構成を有するか不明である点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
・相違点1、6について
相違点1、6は関連しているので、あわせて検討する。
パチンコ機において、大当りすると、所定時間(例30秒)又は所定個数(例10個)の入賞があるまで大入賞口は継続的に開放し、通常この開放は所定回数(例16回)行われるものであるが、入賞の個数は「カウント数」、開放数は「ラウンド数」又は「継続回数」と呼ばれることが多い。そして、この「ラウンド数」、「継続回数」を大当り中に大入賞口が開放される毎に更新して、他の画像とともに可変表示装置に表示することは、パチンコ機において慣用手段である。なお、これについては、特開平5-345067号公報(段落0101)にも記載されている。
そうすると、引用発明において当該慣用手段を採用し、この「ラウンド数」又は「継続回数」を特別表示装置に表示する特別表示手段を設けたものとし、この「ラウンド数」又は「継続回数」を「「特別権利」の通算行使回数である特別権利行使情報」と呼称して、相違点1に係る本願補正発明の「「特別権利」の発生中に変動する「特別権利」の通算行使回数である特別権利行使情報を前記特別表示装置に表示する特別表示手段を設け」なる構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
また、他の画像である「変動情報」を表示する際に「ラウンド数」又は「継続回数」を表示することに困難性はないので、引用発明において当該慣用手段を採用し、この「ラウンド数」又は「継続回数」を「特別権利行使情報」と呼称して、相違点6に係る本願補正発明の「変動情報を「特別権利」の発生中に特別権利行使情報とともに特別表示装置に目視可能に漸次表示する」なる構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
・相違点2、3、5について
相違点2、3、5は関連しているので、あわせて検討する。
確率変動機能を有するパチンコ機において、大当たりさせるか否かを決定するための「大当り判定カウンター」と確率変動をさせるか否かを決定するための「確変決定用カウンター」を設け、始動口へのパチンコ球が入賞した時に「大当り判定カウンター」からカウント値を取り込むと共に「確変決定用カウンター」からにカウント値を取り込み、各カウント値が所定の条件を満足する場合に確率変動をさせることは、従来周知である。
周知例である「パチンコ必勝ガイド1994、12・2号(平成6年12月2日、白夜書房)」の第36頁には「花満開の大当り・ハズレ決定、並びに大当りになる場合の確率変動状態に突入するか否かの決定は、いずれも同じカウント速度で数値を刻み続ける専用のカウンターを用いて事実上始動口入賞の瞬間に行われる。」と記載されており、「大当り&確率変動の判定システム」と題する図には、0?307の大当り判定用カウンターと0?44の確変決定用カウンターがそれぞれ円状に図示されており、「7←大当り」、「0?5までで確変」及び「2つの数値を同時に取れば確変大当りとなる!」との記載がある。
上記周知技術において、「大当り判定用カウンター」は大当たりさせるか否かを決定するものであるから本願補正発明の「大役カウンタ」に相当し、「確変決定用カウンター」は確率変動をさせるか否かを決定するものであるから本願補正発明の「変動情報カウンタ」に相当するものである。そして、「大当り判定用カウンター」と「確変決定用カウンター」のカウント値の取り込みは同時に行われるから、「大当り判定用カウンター」から大当りを発生させるカウント値を取り込んだときに「確変決定用カウンター」からカウント値を取り込んで確率変動の条件を満たすか否かの決定が行われているものである。
そうすると、引用発明に従来周知の技術手段を適用し、相違点2に係る本願補正発明の「変動情報カウンタを備え、特別始動領域へのパチンコ球の通過に基づいて大役カウンタから「特別権利」を発生させるカウント値を取り込んだときに変動情報カウンタからカウント値を取り込んで変動条件が満足するか否かを決定し」なる構成とすること、及び相違点5に係る本願補正発明の「変動情報カウンタから取り込まれたカウント値に応じて決定された、変動条件が満足されるか否かを表示するための変動情報」なる構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
上記周知技術において、確率が変動するのは大当りの発生する場合であり、またその変動条件は「確変決定用カウンター」から取り込んだカウント値が特定の数値の場合であってこれは予め定められているものであるから、上記周知技術において「表示確率の変動されるのが、大当りの発生に応じ、予め定められた変動条件が満足される場合」であるといいかえることができる。
そうすると、引用発明に従来周知の技術手段を適用し、相違点3に係る本願補正発明の「「特別権利」の発生に応じ、予め定められている変動条件が満足される場合、特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させる確率変動手段」なる構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
・相違点4について
確率変動機能付きのパチンコ機において、その時点で発生している大当りの終了から少なくとも次回の大当りが発生するまでの間、確率値を変動させることは、例を挙げるまでもなく従来周知である。
そうすると、引用発明に従来周知の技術手段を適用し、相違点4に係る本願補正発明の「「特別権利」の消滅から少なくとも次回の「特別権利」が発生するまでの間、特別表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させる」なる構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
・相違点7について
大当り確率が変動すれば賞品球の払い出しの多寡に影響するため、確率が変動するか否かの表示は遊技者にとって大きな関心事項であることは自明である。
一般に、関心が高いことを最後とすることはよく行われていることである。例えば、推理小説の犯人の特定は最後に行われることが普通であり、テレビ番組で何らかのランキングを発表する際には第1位を最後に行うことが普通である。このようにすることにより、対象者(読者、視聴者)の関心を最後まで維持しようとするものである。
そこで、引用発明について検討すると、変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示(ラッキーリング5nが得られたことの表示)は、大当り発生後であって大当り終了前であれば、どの時点で行っても技術的に問題はないことは自明であり、上記表示をどの時点で行うかは設計事項というべきものである。
そして、引用発明の大当り中に表示される冒険において、宝箱5mは勇者キャラクタ5jがモンスターキャラクタ5kとの戦闘で勝った場合および勇者キャラクタ5jが冒険物語中の所定の場所に到着した場合に得られるものであることから、変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示(ラッキーリング5nが得られたことの表示)は大当り期間の後期に行われると解するのが自然であること、また、関心が高いことを最後にすることがよくあることを考慮すると、引用発明において変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示を「特別権利」の消滅間際とし、相違点7に係る本願補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。

そして、本願補正発明の効果は、引用発明、上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、上記改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に違反するものであり、同法159条第1項で準用する同法53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年11月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年9月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「遊技盤面に設けられている特別始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の特別識別情報のいずれかを、所定の特別表示確率の下で目視可能に停止表示するための特別表示装置を設け、
通常時にはパチンコ球を取り込まない入賞不能状態を形成し、前記特別表示装置に停止表示される特別識別情報が予め定められている特別権利発生情報であるとき、遊技者にとって有利な「特別権利」を発生させ、該「特別権利」の発生に基づいて前記入賞不能状態から、パチンコ球を取り込み易い入賞可能状態を形成する可変入賞球装置を設け、
前記「特別権利」の発生中に変動する、前記「特別権利」の通算行使回数である特別権利行使情報を前記特別表示装置に表示する特別表示手段を設け、
前記遊技盤面に予め設けられている普通始動領域へのパチンコ球の通過に応じ、予め定められている複数種類の普通識別情報のいずれかを、所定の普通表示確率の下で目視可能に停止表示するための普通表示装置を設け、
前記普通表示装置に停止表示される普通識別情報が、予め定められている普通権利発生情報であるときに、前記「特別権利」よりも下位な「普通権利」を発生させる普通電動役物を設け、
さらに変動情報カウンタと、「特別権利」を発生させるか否かを決定する大役カウンタとを備えて、前記特別始動領域へのパチンコ球の通過に基づいて前記大役カウンタから「特別権利」を発生させるカウント値を取り込んだときに前記変動情報カウンタからカウント値を取り込んで変動条件が満足されるか否かを決定し、
前記「特別権利」の発生に応じ、予め定められている変動条件が満足される場合、その時点で発生している「特別権利」の消滅から少なくとも次回の「特別権利」が発生するまでの間、前記特別表示確率および普通表示確率の一方または両方の表示確率を該確率値とは異なる値の表示確率に変動させる確率変動手段を設け、
前記変動情報カウンタから取り込まれたカウント値に応じて決定された、前記変動条件が満足されるか否かを表示するための変動情報を、前記「特別権利」の発生中に前記特別権利行使情報とともに前記特別表示装置に目視可能に表示し、かつ前記変動条件が満足されたか否かに係る決定を示す表示を前記「特別権利」の消滅間際にする情報表示手段を設けていることを特徴とするパチンコ機。」

2.本願発明の進歩性の判断
(1)引用文献
拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記第2の2.に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明から、補正前の「前記特別表示確率および普通表示確率の一方または両方の表示確率を」を「前記特別表示確率を」とする限定、補正前の「目視可能に表示し」を「目視可能に漸次表示し」とする限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の4.に記載したとおり、引用発明、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用文献に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-21 
結審通知日 2008-11-26 
審決日 2008-12-10 
出願番号 特願平7-274800
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 伊藤 陽
特許庁審判官 河本 明彦
三原 裕三
発明の名称 パチンコ機  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 加藤 勉  
代理人 小野塚 薫  
代理人 村越 祐輔  
代理人 中村 壽夫  
代理人 萼 経夫  

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