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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65H
管理番号 1192182
審判番号 不服2007-26656  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-27 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 特願2002-157859号「シート体供給搬送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年1月8日出願公開、特開2004-1928号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年5月30日の出願であって、その請求項1ないし7に係る発明は、平成19年10月26日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によりそれぞれ特定されるとおりものと認められるところ、請求項1は次のとおりのものである。
「所定の取出位置に配置されるシート体を取り出すピックアップ手段と、 ピックアップ手段に近接および離反する方向に変位自在であるトレイ本体を有し、シート体を保持するトレイと、
トレイ本体を、ピックアップ手段に近接および離反する方向に変位駆動するトレイ駆動手段と、
トレイへのシート体の装填を待機する待機状態にあるときにトレイ本体が配置される待機位置であって、トレイに最大保持量のシート体が保持される場合の位置よりもピックアップ手段寄りとなる待機位置を、以前に実行した複数回の取出動作のときにトレイに装填されたシート体の量に基づいて決定する待機位置決定手段と、
トレイに保持されたシート体を供給する供給状態にあるとき、トレイに保持される最もピックアップ手段寄りのシート体が取出位置に配置されるようにトレイ本体を配置し、待機状態にあるとき、待機位置決定手段によって決定される待機位置にトレイ本体を配置するように、トレイ駆動手段を制御する制御手段とを含むことを特徴とするシート体供給搬送装置。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-119468号公報(以下、「引用文献」という。)の【特許請求の範囲】の欄、段落【0007】、【0008】、【0010】、【0012】及び【0013】には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【請求項1】 原稿を載置する原稿載置台と、該原稿載置台を上下方向に移動させる駆動手段と、前記原稿載置台上に積載された原稿を送り出す送り出し手段と、前記送り出し手段により送り出された原稿を最上部より1枚ずつ分離搬送する分離手段と、を有する原稿自動送り装置において、
前記原稿載置台の待機位置を上下可動範囲の任意な場所に設定したことを特徴とした原稿自動送り装置。
【請求項2】 前記原稿載置台の待機位置を上下可動範囲の中間に設定したことを特徴とする請求項1記載の原稿自動送り装置。
【請求項3】(略)
【請求項4】 前記原稿載置台に載置される原稿の厚さを検知する原稿厚さ検知手段を備え、該原稿厚さ検知手段の検知信号に基づいて前記駆動手段による原稿載置台の基準位置に対する上下動の制御を行なうことを特徴とする請求項1記載の原稿自動送り装置。」
(b)「【0007】
【作用】
上記手段によれば、原稿載置台の待機位置を上下可動範囲の任意な場所に設定したことにより、原稿の最大積載枚数を多くした場合においても、少数枚の原稿送りを行なう際に原稿載置台の上昇に費やす時間を短くし、かつ多数枚の原稿送りを行なう際は、原稿載置台が下降することにより対応できる。
【0008】これにより、従来原稿枚数によって大きく異なった原稿給紙処理速度を平均化することができ、例えば原稿載置台の待機位置を上下可動範囲の中間位置に設定することにより、原稿枚数によって異なるトータル給紙処理速度を最も平均化でき、更には上記原稿載置台の待機位置をユーザの平均原稿枚数位置に設定することにより、長期的にトータル給紙処理速度を最短化することができる。」
(c)「【0010】先ず、【図】を参照して原稿自動送り装置の概略構成について説明する。図1において、1は原稿を載置する上下可動な原稿載置台であり、原稿が積載されていない状態では上下可動範囲の任意な場所に待機している。上記原稿載置台1は図示しないリフター等の駆動手段により上下方向に移動させられる。2は上記原稿載置台1に積載された原稿を送り出す送り出し手段としてのピックアップローラであり、原稿が積載されていない状態では載置台面より上方に位置しており、最大積載厚さ以上の位置に保持されている。上記ピックアップローラ2はアーム3より保持されており、該アーム3に連結するソレノイド4により上下動するように構成されている。5は上記原稿載置台1に積載された原稿の厚さを検知するために設置した原稿厚さ検知センサーであり、上記ピックアップローラ2の位置を検知することにより原稿の厚さを検知する。」
(d)「【0012】次に原稿給紙動作について説明すると、原稿を原稿載置台1上に積載してコピーボタンを押すと、ソレノイド4をOFFしてピックアップローラ2は自重により原稿最上部まで落下する。この時図示しない制御部には、予め原稿給紙位置とピックアップローラ2の位置が同一となるセンサー位置aが記憶されており、ピックアップローラ2の落下後は、常にセンサー位置aに合わせるようにリフターにより原稿載置台1を昇降させる。上記原稿載置台1の昇降によりピックアップローラ2がセンサー位置aに到達すると、シャッター6を開放してピックアップローラ2が回転駆動することにより原稿は分離部7まで搬送され1枚ずつ分離搬送される。また前記原稿載置台1は、原稿のジャム処理時に該原稿載置台1が上下可動範囲の最下部まで自動的に移動するように、リフターの駆動は制御されている。」
【0013】次に原稿載置台1上の原稿積載枚数が異なる場合の原稿給紙動作について図2?図4を参照して説明する。図2は少数枚原稿が積載された場合の原稿自動送り装置を示すものである。コピーボタンが押されると、ソレノイド4がOFFされてピックアップローラ2は原稿最上部9まで落下する。このとき原稿厚さ検知センサ5のセンサー位置aは、a_(1) からa_(2) へ移動する。上記原稿厚さ検知センサ5はスライド抵抗で構成されており、a_(0) 位置での抵抗値a_(0) は電気的に記憶されており、抵抗値がa_(0) より低いa_(2 )の場合は、原稿載置台1を上昇させ抵抗値がa_(0) に達するとリフターの駆動を停止させる。次いで図示しないソレノイドがOFFされシャッター6が開放される。この状態を図3に示す。その後、ピックアップローラ2が回転駆動され、原稿は分離部7まで搬送されて原稿最上部9より1枚ずつ分離搬送される。」
(e)上記記載(d)及び【図3】を参酌すれば、原稿給紙を開始するとき、原稿載置台1は、ピックアップローラ2が原稿載置台1に積載された原稿の最上部9に落下し、最上部の原稿を取り出す位置に配置されることは明らかである。

以上の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「原稿給紙位置に配置される原稿を送り出すピックアップローラ2と、
上下方向に移動可能な原稿載置台1と、
原稿載置台1を、上下方向に移動するリフターと、
原稿が積載されていない状態にあるときに原稿載置台1が配置される待機位置であって、上下可動範囲の任意の場所に設定される原稿載置台1の待機位置を、ユーザの平均原稿枚数位置に設定し、
原稿載置台1に積載された原稿を給紙するとき、ピックアップローラ2が積載された原稿最上部9に落下して、最上部の原稿を取り出す位置に原稿載置台1を配置し、待機位置にあるとき、ユーザの平均原稿枚数に基いて設定した平均原稿枚数位置に原稿載置台1を配置するように、リフターの駆動が制御される原稿自動送り装置。」

3.対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。
引用発明の「原稿」、「ピックアップローラ2」、「原稿載置台1」、「リフター」及び「原稿自動送り装置」は、その文言の意義や、機能、構造等に照らし、本願発明の「シート体」、「ピックアップ手段」、「トレイ本体」、「トレイ駆動手段」及び「シート体供給搬送装置」にそれぞれ相当し、引用発明において、原稿載置台1が移動する上下方向は、原稿給紙位置において原稿最上部9の原稿に接する位置に配置されるピックアップローラ2に、近接及び離反する方向ということができる。
引用発明における「最上部の原稿を取り出す位置」は、本願発明における「取出位置」に相当し、原稿載置台1が、その最上部の原稿、すなわち、最もピックアップローラ2寄りの原稿を取り出す位置であり、引用発明における「待機位置」は、原稿載置台1に原稿が積載されていない状態であって、本願発明における「トレイへのシート体の装填を待機する待機状態にあるときにトレイ本体が配置される待機位置」ということができる。
そして、引用発明の待機位置である上下可動範囲の任意の場所は、最大保持量の原稿が積載保持される場合の位置よりもピックアップローラよりの位置であることは、引用文献の記載(b)、段落【0007】の「・・・少数枚の原稿送りを行なう際に原稿載置台の上昇に費やす時間を短くし、・・・」との記載等から明白であり、かつ、引用発明のリフターも、何らかの制御手段により制御され、原稿載置台1を上述の待機位置あるいは原稿給紙位置に配置することは明らかである。
してみれば、両者の一致点及び相違点は次のとおりとなる。
【一致点】
「所定の取出位置に配置されるシート体を取り出すピックアップ手段と、 ピックアップ手段に近接及び離反する方向に変位自在であるトレイ本体を有し、トレイ本体を、ピックアップ手段に近接及び離反する方向に変位駆動するトレイ駆動手段と、
トレイへのシート体の装填を待機する待機状態にあるときにトレイ本体が配置される待機位置であって、トレイに最大保持量のシート体が保持される場合の位置よりもピックアップ手段寄りとなる待機位置にトレイが配置され、トレイに保持されたシート体を供給する供給状態にあるとき、トレイに保持される最もピックアップ手段寄りのシート体が取出位置に配置されるようにトレイ本体を配置するように、トレイ駆動手段を制御する制御手段とを含むシート体供給搬送装置。」
【相違点1】
本願発明においては、「ピックアップ手段に近接および離反する方向に変位自在であるトレイ本体を有し、シート体を保持するトレイ」とあるように、トレイがトレイ本体を有するものとしているのに対し、引用発明においては、原稿を積載する原稿載置台1が上下方向に移動可能とされ、トレイとトレイ本体のような区別がなされていない点。
【相違点2】
本願発明においては、待機位置を、以前に実行した複数回の取出動作のときにトレイに装填されたシート体の量に基づいて決定する待機位置決定手段を含み、待機状態にあるとき、待機位置決定手段によって決定される待機位置にトレイ本体を配置するのに対し、引用発明においては、待機位置はユーザの平均原稿枚数位置に設定されるものであり、待機位置を具体的にどのように決定するのか明確でない点。

4.判断
そこで上記の相違点について検討する。
(1)相違点1について
本願明細書の発明の詳細な説明には、「トレイ10は、トレイ本体11と、上部筺体5に固定される固定トレイ部12を含んで構成される。」(段落番号【0029】の記載参照)と、トレイが移動可能なトレイ本体と固定部トレイ部からなると説明されている。
これに対し、本願の請求項1に「トレイ本体を、・・・変位駆動するトレイ駆動手段」、「トレイへのシート体の装填を待機する待機状態にあるときにトレイ本体が配置される待機位置」、あるいは「トレイに保持されたシート体を供給する供給状態にあるとき、トレイに保持される最もピックアップ手段寄りのシート体が取出位置に配置される」等と記載されていることからみて、本願発明の特徴点は、トレイ駆動手段が、移動可能なトレイ本体をどのように駆動し、位置制御を行うかにあるのであって、トレイが移動可能なトレイ本体を含んでいるか否かについて、格別の技術的意義があるものとは解されない。
そして、引用発明においても、「リフター」が原稿を載置保持する「原稿載置台1」を上下方向、すなわち「ピックアップローラ2」に近接及び離反する方向に移動させているのであるから、相違点1は実質的なものとはいえない。
また、本願発明の「トレイ」が、移動可能な「トレイ本体」とは別個に、発明の詳細な説明に記載されたような固定トレイ部をも含むものと解しても、固定トレイを設けることは、例を挙げるまでもなく本願出願前より広く採用されているものであり、本願発明を全体構成でみても、格別の技術的意義があるものとも解されないから、当業者が適宜採用し得る程度のことというほかはない。

(2)相違点2について
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明において「以前に実行した複数回の取出動作のときにトレイに装填されたシート体の量に基づいて決定する」ことの技術的意義に関連して、「また、制御部45は、待機位置決定手段としても機能して、以前に実行した取出動作のときにトレイ10に装填された原稿の量に基づいて、待機位置を決定するようにしてもよい。たとえば過去50?100回の取出動作の原稿の枚数の平均値に基づいて設定する。」(段落番号【0133】)と記載されている。
この記載からみて、本願発明においては、例えば、過去に実施した取出動作の原稿の枚数(シート体の量)の平均値に基づいて、待機位置が決定あるいは設定されるものと解することができる。
一方、引用発明において、待機位置が「ユーザの平均原稿枚数に基いて設定」されるということは、ユーザーの業務に応じて平均的になされる給紙原稿枚数に基づいて、待機位置が設定されるものと解するのが最も合理的であって、そうだとすれば、本願発明と同様に、以前に実行した複数回の取出動作のときにトレイに装填されたシート体の量に基づいて待機位置が設定されることも十分に予測し得ることである。
そして、引用発明において、上述のように待機位置を設定するに当たり、過去に給紙操作を実行した際の原稿枚数平均値をユーザ自身が算出するにしても、あるいはユーザの経験値を使用するにしても、待機位置を何らかの手段で決定していることは明白であり、相違点2は実質的なものとはいえない。
たしかに、本願発明においては、「トレイ駆動手段を制御する制御手段」が「以前に実行した複数回の取出動作のときにトレイに装填されたシート体の量に基づいて決定する待機位置決定手段」によって、以前実行された取出動作におけるシート体の量を所定数サンプリングし、所定の演算により待機位置を自動的に決定するものと解する余地はあるが、過去の原稿枚数の平均値等に基いて待機位置を決定する点で、引用発明と実質的な相違はなく、この点は、ユーザが行っている設定をコンピュータ等の制御装置により単に自動化したものにすぎず、当業者がごく自然に想到し得ることであり、かつ、本願出願前の技術水準に照らし、このような機能を制御装置により実現することに何ら困難性は見いだせない。

なお、請求人は、審尋に対する回答書において、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の「複数回の取出動作」を、本出願当初の明細書の段落番号【0133】に記載に基づいて「50?100回のそれぞれの取出動作」と補正する補正案を提示しているが、過去に実施した取出動作の原稿の枚数の平均値に基づいて待機位置を設定する際の平均値を算出するため、どの程度の回数をサンプリングするかは、装置の使用状況等に応じて当業者が適宜決定すべき事項であり、これを「50?100回」と特定したことにより臨界的な作用効果が奏されるものとも解されないから、この補正案を採用したとしても、本願発明の進歩性判断になんら影響を及ぼさない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-21 
結審通知日 2008-11-25 
審決日 2008-12-10 
出願番号 特願2002-157859(P2002-157859)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永安 真蓮井 雅之  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 村山 禎恒
熊倉 強
発明の名称 シート体供給搬送装置  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 杉山 毅至  

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