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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1192566
審判番号 不服2006-14670  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-07 
確定日 2009-02-13 
事件の表示 特願2002-181717「車載用多重通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月18日出願公開、特開2003-204340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成14年6月21日(国内優先権主張 平成13年10月31日)の出願であって、特許請求の範囲の請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年7月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項5に記載された以下のとおりのものと認める。

「複数の端末通信機器を相互接続するバス型ネットワークを構成するバス線路の終端に着脱可能に備えられる着脱プラグ形態とされた終端抵抗回路であって、
前記終端抵抗回路が、第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサと、前記第1及び第2の抵抗と前記コンデンサとを搭載したプリント配線基板とを有することを特徴とする着脱プラグ形態とされた終端抵抗回路。」


2.引用発明
(1)これに対して、原審の拒絶理由に引用された特開平1-175430号公報(以下、「引用例1」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「産業上の利用分野
本発明は通信伝送路を介して情報の伝送を行うバスシステムにおいて、端末機器を通信伝送路を介してバス型通信網を形成するためのバスコネクタに関するものである。」(1頁右下欄7行?11行)

ロ.「従来の技術
通信網に端末機器を接続するための従来の機器側コネクタ部の構成を第2図に示す。
コネクタ部は3つの電極からなる1対のプラグ(またはソケット)部6、7を有する。電極aと電極a’、電極bと電極b’、は電気的に接続されており電極cと電極c’はそれぞれグランドに接続されている。電極aと電極a’、電極bと電極b’はそれぞれバスドライバ/レシーバに接続され通信伝送路を介した情報の伝送を行う。このコネクタを用い、各端末機器を通信伝送路で相互接続した場合のシステム構成図を第3図に示す。3つの端末機器、端末A、端末B、端末Cは相互に通信回線12とコネクタA、コネクタB、コネクタCを介して相互に接続されている。」(1頁右下欄12行?2頁左上欄6行)

ハ.「このようなバス型通信伝送路では通信伝送路の両端に終端抵抗が必要なため通信伝送路の両端部、すなわちコネクタAとコネクタB部に終端抵抗器8が必要とされる。コネクタ部に通信伝送路と終端抵抗器が接続された構成を第4図に示す。ソケット(またはプラグ)部9、10はプラグ(またはソケット)部6、7にかん合し着脱自在とする構成になっており、終端抵抗器8では電極Aと電極B間に終端抵抗11が接続されている。通信伝送路12の両端にはそれぞれソケット(またはプラグ)部があり他の端末機器のコネクタ部と接続することができる。上記構成より各端末機器を通信伝送路12を介して相互接続した際に、通信伝送路上で電気的に必要とされる終端抵抗が通信伝送路上の両端に挿入されることになる。」(2頁左上欄6行?右上欄1行)

上記イ、ロおよび図3の記載によれば、3つの端末機器とこれらを相互に接続する通信伝送路(通信回線12)とは、バス型通信網を形成している。
ソケットとプラグが互いに嵌合することは当業者の技術常識であるから、上記ハにより、上記通信伝送路の両端部には、プラグ形態とされた終端抵抗器8が着脱自在に備えられており、また、図4の記載を併せて参照すると、該終端抵抗器8は、通信伝送路上の両端である電極Aと電極B間に終端抵抗11が接続された構成となっている。

したがって、上記引用例1の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「3つの端末機器を相互に接続するバス型通信網を形成する通信伝送路の両端部に着脱自在に備えられるプラグ形態とされた終端抵抗器であって、
前記終端抵抗器が、抵抗を有するプラグ形態とされた終端抵抗器。」

(2)また、同じく原審の拒絶理由に引用された国際公開第00/35149号(以下、「引用例2」という。)には図面とともに以下の事項ニが記載されている。

ニ.「Eine Moeglichkeit zur Daempfung derartiger Resonanzspannungen in einem Zweidraht-Bussystem ist ein Gleichtaktabschluss der beiden Enden des Bussystems (siehe Figur 1 Widerstand 12,13, Kondensator 14), bei dem die Enden der beiden Busleitungen ueber zwei seriell geschaltete Widerstaende von beispielsweise 60 Ω miteinander verbunden sind und der symmetrisch gegenueber den beiden Busleitungen angeordnete Verbindungspunkt der seriellen Widerstaende ueber einen Kondensator (eventuell mit einem weiteren Widerstand in Serie geschaltet) mit Masse verbunden ist. Dadurch werden hochfrequente Resonanzspannungen zur Masse abgeleitet, wobei gleichzeitig der 120 Ω-Abschluss der Enden der beiden Busleitungen beibehalten wird. Ein derartiger Gleichtaktabschluss ist jedoch nur an den beiden Enden der beiden Busleitungen moeglich. Ein Gleichtaktabschluss innerhalb der Busleitung oder an einem abgezweigten Ast dieser wuerde zu unerwuenschten Reflexionseffekten in der Busleitung fuehren.」(3頁1?20行)
(邦訳)
「2線式バスシステムにてその種の共振電圧を減衰するための手法は、バスシステムの両端の同相(Gleichtakt;in phase)終端部(図1中抵抗12,13、コンデンサ14参照)であり、ここでは、両バス線路の端部が2つの直列に接続された抵抗例えば60Ωの抵抗を介して相互に接続されており、両バス線路に対して対称的に配置された、直流抵抗の接続点がコンデンサ(場合によりさらなる抵抗に直列に接続されて)を介してアースに接続されている。それにより、高周波共振電圧が、アースへ導出され、その際同時に、両バス線路の端部の120Ω終端部が維持される。但し、その種の同相終端部は、両バス線路の端部においてのみ可能である。バス線路間にて、又はそれの1つの分岐されたブランチにおいて1つの同相終端部を生ぜしめると、バス線路中に不都合な反射効果を来すこととなる。」
(当審注:引用例2の公表公報である特表2002-532961号公報の記載中で、上記摘記事項ニに対応する部分は概ね適正な訳文といえるので、そのまま邦訳として採用した。)

上記ニには「両バス線路の端部が2つの直列に接続された抵抗例えば60Ωの抵抗を介して相互に接続されており、両バス線路に対して対称的に配置された、直流抵抗の接続点がコンデンサ(場合によりさらなる抵抗に直列に接続されて)を介してアースに接続されている。」旨の記載があり、Fig.1左端に記載された2つの抵抗12、抵抗13、およびコンデンサ14で構成される回路のうち、抵抗13は、上記「(場合によりさらなる抵抗に直列に接続されて)」旨記載されるように、場合により付加される構成であることが理解できる。
また、2線式バスシステムにおいて、両バス線路の端部を、抵抗を介して相互に接続する際に用いられる抵抗回路は、一般に、終端抵抗回路と呼ばれていることは、当業者の常識である。

したがって、上記引用例2の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「直列に接続された2つの抵抗と、これら2つの抵抗の接続点がコンデンサを介してアースに接続されている終端抵抗回路。」


3.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
引用発明1の「端末機器」は、通信網で使用されるものであるから端末通信機器であり、
同「通信網」はネットワークと差異はなく、
同「通信伝送路」は、バス型通信網で使用されているからバス線路であり、
同「両端部」は通信伝送路の終端であり
同「終端抵抗器」は当然に回路であるから、終端抵抗回路ということができ、
「着脱自在」である以上着脱可能であり、
「着脱自在に備えられるプラグ形態」である以上着脱プラグ形態であり、
「3つ」は複数である。

したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「複数の端末通信機器を相互接続するバス型ネットワークを構成するバス線路の終端に着脱可能に備えられる着脱プラグ形態とされた終端抵抗回路であって、
前記終端抵抗回路が、抵抗を有する着脱プラグ形態とされた終端抵抗回路。」

(相違点1)
本願発明の終端抵抗回路は、「第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサ」により構成されているのに対して、引用発明1では、抵抗により構成されているものの、その他の構成を有していない点。

(相違点2)
終端抵抗回路について、本願発明は、その回路要素を搭載した「プリント配線基板」と具体化されているのに対し、引用発明1では、具体化されていない点。


4.当審の判断
そこで、まず、上記相違点1について検討するに、
a.引用発明2の「2つの抵抗」は、個別的に見るとそれぞれ第1の抵抗、第2の抵抗であるから、「直列に接続された2つの抵抗」は、第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗である。
b.「2つの抵抗の接続点」は第1及び第2の抵抗間にあり、「アースに接続される」ことは接地されることである。
c.コンデンサが2つの端子を持つことは自明であって、「2つの抵抗の接続点がコンデンサを介してアースに接続されている」によれば、上記a、bの検討から明らかなように、第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサということができる。
したがって、引用発明2は、本願発明の構成に即していえば、
「第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサとを有する終端抵抗回路」である。
してみると、引用発明1に引用発明2の構成を採用して、終端抵抗回路の抵抗を「第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサとを有する終端抵抗回路」とすることは、両者がバス線路の終端に接続される終端抵抗に関する発明である以上、当業者であれば容易になし得たことである。
なお、引用発明2と同様の回路構成を有する終端抵抗回路は、例えば、特開2001-60854号公報(特に図10を参照。)、特開平11-205118号公報(特に図1を参照。)にも記載されているように、本願出願当時、既に周知であるから、周知技術による単なる設計変更ということもできる。

ついで、上記相違点2について検討するに、一般に、プリント配線基板に各回路要素を搭載して電子回路を構成することは、例示するまでもなく当業者の技術常識であるから、単なる技術常識の付加にすぎず、当業者であれば適宜なし得ることである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明1、引用発明2および技術常識から当業者が容易に予測できる範囲のものである。



なお、補正後に請求項1となった旧請求項4について、付言する。

補正後の請求項1に係る発明(以下、「請求項1発明」という。)は、以下の理由により特許を受けることができない。
なお、本件審判請求時の補正は、実質的に補正前の請求項1乃至3を削除したものであるから、請求項の削除に該当している。
請求項1発明と原審の拒絶理由に引用された特開平1-175430号公報(以下、「引用例1」という。)に記載された発明(以下、「引用例1発明」という。)とは、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「それぞれに各端末通信機器(引用例1、図3の端末A?C)が接続された複数のジョイントコネクタ(引用例1、図4の6,7)と、これらの端末通信機器及びジョイントコネクタを相互接続してバス型ネットワークを構成するバス線路(引用例1、図3の12)と、前記バス型ネットワークの終端抵抗回路(引用例1、図3,図4それぞれの8)とを備えた多重通信装置であって、前記終端抵抗回路が、前記ジョイントコネクタに嵌合可能な着脱プラグ形態(引用例1、図4の8,9)とされた多重通信装置。」

(相違点1)
請求項1発明のジョイントコネクタは、「ハブ形式」であるのに対し、引用例1発明では特定されていない点。

(相違点2)
請求項1発明の多重通信装置は、「車載用」であるのに対し、引用例1発明では特定されていない点。

(相違点3)
請求項1発明の終端抵抗回路は、「第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサ」により構成されているのに対して、引用例1発明では、抵抗により構成されているものの、その他の構成を有していない点。

(相違点4)
請求項1発明は「前記ジョイントコネクタから延長したバス線路の終端に接続されるラインコネクタが、前記端末通信機器を接続するコネクタ嵌合部と、着脱プラグ形態とされた前記終端抵抗回路を接続するコネクタ嵌合部とを装備して」いるのに対し、引用例1発明では、そのような構成を有していない点。

そこで、まず、上記相違点1について検討するに、例えば、本願の出願より20年以上前に公開された文献である実願昭51-156355号(実開昭53-73843号公報)のマイクロフィルム(昭和53年6月20日公開)(以下、「周知例」という。)(図2の分岐箱5)にも記載されているように、ハブ形式とした結線方式は周知であるところ、当該周知技術を引用例1発明の「ジョイントコネクタ」に適用する上での阻害要因は何ら見あたらないから、引用例1発明の「ジョイントコネクタ」を「ハブ形式のジョイントコネクタ」とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。

ついで、上記相違点2について検討するに、自動車の中でバス型ネットワークを構成する多重通信装置は、例を挙げるまでもなく本願出願当時、周知であるから、引用例1発明の多重通信装置においても「車載用」とすることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、車載用多重通信装置は、原審の拒絶理由に引用された国際公開第00/35149号(以下、「引用例2」という。)にも記載されているから、引用例2に記載の構成を引用例1発明に適用することにより当業者が容易に発明できたものであるということもできる。

ついで、上記相違点3について検討するに、上記2.引用発明の(2)、および、4.当審の判断、で既に説示したように、上記引用発明2は請求項1発明の構成に即していえば、「第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサとを有する終端抵抗回路」であるところ、引用例1発明に引用発明2の構成を採用して、終端抵抗回路の抵抗を「第1の抵抗と、この第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗と、これら第1及び第2の抵抗間に一端が接続されると共に他端が接地されるコンデンサとを有する終端抵抗回路」とすることは、両者がバス線路の終端に接続される終端抵抗に関する発明である以上、当業者であれば容易になし得たことである。

ついで、上記相違点4について検討するに、引用例1発明のバス線路の終端とされたジョイントコネクタについて、接続される端末が不必要な場合があれば該端末を削除して、着脱プラグ形態とされた前記終端抵抗回路を接続するコネクタ嵌合部とを装備したラインコネクタとなすことは、当業者が必要に応じて行う設計変更にすぎない。

そして、請求項1発明の作用効果も、引用例1発明、引用発明2および周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

したがって、請求項1発明は、上記引用例1、2に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用例1、2に記載された発明および技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-03 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2008-12-22 
出願番号 特願2002-181717(P2002-181717)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢頭 尚之  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 阿部 弘
竹井 文雄
発明の名称 車載用多重通信装置  
代理人 小栗 昌平  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  

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